「ピエトロさ、そういえばこの二年間何してたの? 例の内戦にも参加してないって聞いたし。」
「……旅をしていた。言っちゃあれだが二人を見てると俺はお邪魔虫だしな。それにソコヴィアのこともあった。」
「ソコヴィア?」
「あぁ、あの後あんた色々復興のために手を回してくれてただろ? 俺もなんかしなくちゃって思って監視されながらだけど色々手伝っててさ。」
……あぁ、そういえばウチも色々復興支援とかで人送ったりしてたっけ。街の真ん中に大穴が開いてしまったわけだしせっかくだからそこに地下避難シェルターとか作ろうとしてたはず。あと近くの森を切り開いて簡易住居とか食糧支援とかも人送ってやってもらってたはず。でも……
「ちょっとずつ町がもとに戻っていくような気がしてさ、俺速いからそれで感謝もしてもらって。すごい居心地がよかったのも覚えてる。だけど……。」
私の手が伸びていて、元々ウルトロンやヒドラがいなくても不安定だった地域だ。何かもめ事が起きないようにウチの子たち、戦闘ができる子を治安維持のために送っていた。……そのせいで、標的になってしまったのだろう。
この世界は私のせいでニンジャたちの被害を色濃く残してしまった。
「あんたの部下の人も、ウルトロンの時助けられた奴も、何人も死なせちゃってさ……。正直協定とかそういう難しいことを考えられる気分じゃなかった。」
「生き残った人からさ、救えなかったのに礼を言われてさ。『助けてくれてありがとう』って言われて。もうどうしたらいいか分からなかったんだ。俺がもっと強ければ救えてたはずなのに。って。」
「そっか……。」
生き残った彼は、私の知らない物語を、悲劇を体験してしまった。……私のせい、なのだろう。だが同時にその経験がさらに彼という存在をより大きくするのだろうな、という考えも浮かんでしまう。実際に、彼の纏う雰囲気は乗り越えることはできずとも自分の中で何とか区切りをつけ、前へと歩き出すことができる者特有のそれだ。私とは違う。
彼の悲劇と、その過程に死んだ、市民と私の部下だった子たち。彼らがこの世にいないことよりも彼の成長の方が自身の心の中で重きが置かれている。……自分が本当に嫌になる。
「……それで、あんたに謝らないとって思って。この二年間探してたんだ。」
世界を渡り歩きながら、色々な人と交流していたという彼。ソコヴィアという帰る場所はあったが、自身の至らなさを思い出してしまうため帰れず。妹のところに帰ろうとも内戦のせいで彼女も行方知れず。私の部下を殺してしまったということを謝るために歩き始め、その行く先々で疎まれ、感謝され、色々なことがあった。
「ありがとう……、私に言える資格なんかないけどさ、彼らは許してくれると思うよ。」
一人ひとり、その遺体を丁寧に埋葬してあげることは私にできなかった。そこに何も眠ってないのかもしれないけど、今度一緒に謝りに行こうと約束をする。彼はあの時助けられなかったことへの区切りを、私はあなたたちのことを忘れてしまっていた贖罪を。
思えば、私が娘たちを作ったのは無意識のうちに失った彼らのことを埋めようとしていたからかもしれない。
何かのために切り捨てる覚悟、切り捨てられる覚悟は昔からしていた。私が切り捨てることも、私が切り捨てられることも。でも、最後まで付き合ってくれて、死んでしまった私の子たち。彼らには家族も、友もいた。それを私のせいで全部なくしてしまった。そのことはちゃんと最後まで、忘れないようにしないと。
(……落ち着いたら謝りにいかないと。)
そういえば、彼。石井っちと呼んでいた彼とはまだ連絡を取っていない。いや取ろうとしたことは確かなのだが繋がらなかった。二年前、ユキを失った後に私が殺してしまった人たちのリストを見ていた時、彼の名はなかったはず。生きてはいるはずなんだけど……。
(まぁ、生き残った彼らにもう一度戦えということは私にはできない。彼らが望んでくれるのならまだしも私から関わることはしない。……顔なんか見たくもないだろうし、ね。)
「っと、挨拶遅れてごめんねヴィジョン。それにワンダも。」
ピエトロからユキのことに対するかなり丁寧なお悔やみを貰ったあと、私はこっちの夫婦に話しかけていた。彼も彼で妹とその思い人と話したいことはあったみたいだけど、私に譲ってくれたみたい。今は久しぶりにクリントと親交を深めているようだ。
彼には悪い話だけど、そういえば彼の命を間接的に私たちが救っていたことを彼との話で思い出した。彼自身あの時何か悪い予感を感じてたみたいで、ユキがドローンで色々してた時にちょっと助けてもらったりとか、そういうのがあったみたい。それで自分が生き残れたこと、あと妹の恋人であるヴィジョンの母親だからってことでちゃんとした挨拶をしてくれたみたいだ。
最初に会ったときは少し軽いイメージを感じてたけどこの数年で変化があったみたいですごくちゃんとしてた。……彼がここにいるということは、私が知る世界とこの世界が全く違うものであることの証みたいなものだ。彼の思いに感謝しながらも、勝手に後の世界のことを心の中で頼んでしまった。
……っと、今はヴィジョンたちと話してたんだった。
「いえ、大丈夫です。」
「ちょっと怪我しちゃってるけど……、元気そうでよかった。ワンダ、貴方もね。私の子……、というには少し弱いかもしれないけどこの子はちゃんとあなたのことを愛してくれてた?」
「……はい。」
ちょっとヴィジョンが何か言いそうになったけど、その口を塞いで彼女からの返答を聞く。不安には思ってなかったが彼との生活は幸せだったみたい。それならお母さん安心だね。あぁそれとヴィジョン、別にあなたは私のことを好きに呼んでいいよ。確かに開発者の一人ではあるけど、私が勝手に思ってるだけだから。そういうとこは自分で決めなさい。
「……ツグミ、まずは感謝を。彼のおかげで私たちは危機を脱することができました。」
「あぁ。ゲデちゃん? うんうん。彼にも伝えとくよ。」
ふふ、まだちょっと恥ずかしいのかな? でも別にそう呼ぶこと自体が嫌というよりも戸惑ってるって感じの方が近そうだ。嫌われてないようようで何より。
ゲデヒトニスね、ゲデヒトニス。よく間違えるから気を付けないと。まぁ間違えるのは私がふざけ過ぎて逆に間違えた方の名前で定着しかけたからだが。にしても男の子は彼と目の前にいるヴィジョンだけか、私が娘ばっかり作っちゃうもんだからある意味彼も肩身が狭いかもしれない。ヴィジョンと会えていい気分転換になったんじゃないかな。まぁもしかすると性別とかそういうのは全く気にしてないかもしれないけどね。
「いつもは私の膝に乗るくらいのサイズで生活してるんだけど、戦闘時は重量があった方がいいからあのサイズの体に変えてるのよ。実際に見たことなかっただろうしびっくりしたでしょう? ……あ、そうだ。忘れるところだった。はい、コレ。」
「……これは?」
忘れる前に大事なものを手渡しておく。コーンに持たせておいた彼専用のナノマシンだ。真っ白な球体、ボールの形を取っているマシンの集合体だ。彼が製造されたのはウルトロンの時なのでこの世界の時間で考えると3年弱程度なのだが、私は時間旅行してきた身なのでその分だけ進んでいる。無気力になっていた時期もあったが、彼のマインド・ストーンとの結合を取り外し可能にするぐらい難しいことじゃない。
「前に言ってたでしょ? マインド・ストーンを取り外せるようにしておいた方がいいって。ちょっと体に傷もできてるし、それを治すついでにね。……あ、ちょっとピリッとするかもだけど多分それだけ。んじゃ早速。」
こういうのは勢いでやった方がいい。まぁ彼のことだからもう少し説明すれば自分からやってくれたかもしれないけどお嬢様ちょっと面倒くさがりなので。ごめんちゃい。彼に手渡したそれをその体に押し込むようにして、ボールと彼の体を接着させる。ボールが彼の体に飲み込まれるように入っていき、内部で外殻が解け内部のナノマシンが彼の体を修復、改造していく。
「……ッ。」
思った通りちょっと痛みがあったみたいだけど徐々に彼の体から傷が消えていく。そして彼が身に纏うスーツにもう一本の金のライン。それまでの簡素な装飾から少し華美な物へと変化したのは、より彼が上位の存在へと至った印。……うん、大丈夫そうだね。
「これは……。」
「ストーンを外す、そう念じてみて。」
彼がそう軽く念じると、額に収まっていたはずの石が彼から離れ、宙に浮く。
ヴィジョンとの繋がりは維持されながらも、ストーンがなくても彼は彼として生きていくことができる。彼を彼として自立させることで、それまでヴィジョンを構成するために使っていた石の力に余剰が生まる。ナノマシンもさっきのボールの中に納まっていたナノマシンが彼の内部にあるすべてを新型へと書き換えた。うん、大分これで強くなったはず。
「何かあった時のため、それだけじゃもったいないでしょう? これまで面倒見てあげられなかったお詫びの代わり。うまく使いなさいね。」
「……はい、ありがとうございます。」
よし! いいお返事。あ、そうそうワンダちゃんさ。確かまだ結婚式とかやってない……、やってないよね! ちょっと姑っぽくなっちゃってごめんなんだけどドレスとかのデザインもう考えててさ! もし気に入りそうだったら着てもらっても……。
「あ、あの……、お、お母さん?」
「! うん、なぁにヴィジョン。」
「そのことですが……、もう少しだけ、待ってもらってもいいですか。まだちゃんと私の気持ちを……。」
……あ、そういえばそうでした。私だけ突っ走っちゃった感じだねコレ。
「あ、ごめんごめん! じゃあお邪魔虫は違うとこ行ってるから! ごゆっくり~!」
ママ大失敗。やらかした人はさっさと消えるに限る。いやはやそうだったね、映画や今の彼らのことを知ってるからこそ先走っちゃったけどこういう大事なことはちゃんと過程を踏まなきゃ。
この基地の間取りは把握してるし、ちょっと二人を個室にぶち込んで『あとはお若い二人で』状態にしておく。ごゆっくり~って言いながら押し込んだせいでちょっと強引だったかもしれんけどいいでしょ。
「母は強し、とでも言うのかしら。いや強いというよりも強引ね。」
「あ、やっぱり? というかナターシャ見てたんだ。」
「そりゃ大部屋であんなことされたらいやでも見るわよ。それにほら彼の顔。」
そう言いながらピエトロの方を指さすナターシャ。うわ、なんというかすごい顔してる。純粋に祝福したい気持ちとお父さんみたいな娘(妹)はやらんぞ! 的な感情が入り混じってる……。面白いから写真とっとこ。
「それにしてもたくさん増えたのね、あなたの子供。」
「まーね、大体千いかないくらい? 体だけなら万ぐらい用意してるけど中身はね。」
「……すごいわね。」
そんなことを言いながら今度はローディにちょっかいをかけ始めたコーンを二人で眺める。彼女のお仕事はバナー博士をここまで連れてくることのみ、あとエイリアンの焼却処分なんかも頼んだけど彼を送ってからは暇。特に頼むことはなかったので自由時間にしておいたのだが……、その間バナーとローディに遊んでもらってたみたいだ。
ややこしい話が終わったのをいいことに彼に買ってもらったらしいゲーム機の充電が切れたことに対してお怒りの意を表明してらっしゃる。まぁウチじゃエネルギー切れなんか起きないからね……、大体リアクターか縮退炉だし。
「みんなあんな感じなの? すごく昔のあなたを見てるみたいだけど。」
「あ~、あそこまで私酷かったけ? 違う方面でならごめんなさいとしか言いようがないけど。あと性格だけどみんな違うよ、ほら。」
そう言いながら部屋の隅っこで控えてる二人の方を指さす。左にいる子が急に指をさされたことでびっくりしてそれまで崩していた姿勢を正す。右の子はずっとびしっとした姿勢のまま待機中。ニックとかを連れてくることをお願いした子たちだね。左の子は速度特化の体をチューンアップするのが好きな子、右の子はしっかり者であんまり使用者のいない全身ナノマシンで構成された体を使ってる子。ちょっとした動作でわかるけど、結構みんな性格違うのよね。
「退屈しなさそうね。」
「でしょ~。……あ、そういえばキャップとトニーは? トイレ?」
彼女たちを指さしたときに気になったのだが、いつの間にかお部屋から二人が消えてる。
「……仲直りじゃない? それとワカンダへの連絡。」
「あ~、なるほど。でもワカンダの方はこっちでも動いてるし大丈夫じゃないかな?」
実際ゲデをワカンダへの交渉というか連絡要員として送ってる。問題がない限り特に連絡しなくても大丈夫、って言ってあるし何も連絡がないってことは無事協力を取り付けることができたってことかな。ちゃんと手土産持たせて良かったよ。
「ん? あれ? もう行くの、ニック。」
「あぁ、聞くべきことも話すべきことも話した。それにこっちは君らみたいに素早く動けないからな。」
そう言いながらもう荷物をまとめ終えて外に出ようとする彼、マリアの方を見ると準備を終わらせてるあたり二人は早めに動き出すのだろう。部屋の中にいた皆に断わってから、見送りのために玄関の方に歩いていく彼らについていく。
ちょっと話したいことがないといえば嘘になるけど、いつまでもこの眼帯さんが談笑してるのはちょっと想像できない。こうやって早めに動いて忘れたころに成果と共に帰ってくるのがこの人だ。戦力のアテがあるって言ってたしちょっとだけ楽しみに待っておくことにする。
「そっか。じゃあ頑張ってね。マリアも、久しぶりに話せてよかった。」
「えぇ、でもこれで終わりじゃないでしょ? 終わったらまたみんなで話しましょう。」
うん。そうだね。昔やってた女子会みたいなのも私がいなくなったり、内戦が起きてからは開催するような暇なんかなかったみたいで。この戦いが終わった後、無理やりにでも休みを捥ぎ取って参加してやると意気込む彼女。まぁその捥ぎ取る上司であるニックが苦笑してるからどうなるかはわからないけど。……ま、そうなったらちょっと強引にはなるけど彼女だけ拉致して女子会開催してもいいかもね。
そんな思いを共有しながら、二人は車の中へ乗り込んでいく。ここに来るまでは娘の一人が付いていたけど彼女は彼女で違う仕事がある。護衛として付かせることはできない。余計なリソースを割くことは、この後何があるかわからない状況ではこの世界はあまりいいことではない。いつでも物騒だから少し心配だけど……、余計かな?
あぁ、それと。彼に言い忘れたことがあった。開けられた車の窓から、話しかける。
「……ニック。“彼女”への連絡。タイミングは任せるけど遅れないようにね。」
「なるほど、君の知る私は出来なかったわけだ。……気を付けるとしよう。」
「で、結局戦力ってのが何かは教えてくれないわけ?」
「ふ、どうだろうな。」
私の問いに最後まで答えずに、彼は車を発進させた。ま、彼らしいっちゃらしいね。
『お母様、ご不安でしたなら尾行いたしますか?』
「いらないよ。さ、中に戻ろ。」
気が付けば後ろにうちの子が控えててくれたみたい。私に情報をちゃんと渡さなかったことでニックへの不信感を強めてるみたいだけど、あの人はいつもあんな感じだ。逆にペラペラ情報を吐き出したら偽物かと疑うし、その情報をブラフとして考えちゃうからまぁあれでいい。
さて、これからのことをちゃんと考えないと。控えてくれてた子から差し出された球体を手の中で転がしながら屋内へと戻る。
白い球体を上に投げ、手の中に収める。それを繰り返す。さっきヴィジョンに使ったものと同じようなボール、少しだけ意匠の違うそれで少々遊びながら足を進める。思考を整理するときは何か他のことしながらやる方が効率がいい。娘が手渡してくれたこれはちょうどいい塩梅、いい玩具だ。ま、これの本当の使い道は玩具みたいなかわいいもんじゃ……、いやある意味玩具か。
あの後他の服を用意してもらおうかと思ったけど、トニーが貸してくれるということなのでナノスーツの上から彼の上着をずっと羽織っている。空に放り投げた球体を、そのまま手に収めず。敢えて肩へとぶつける。
瞬間溶け始め、彼の上着と一体化していく私のボール。見た目は変わらないが重量が少しだけ重くなる。まぁ彼ならすぐ気が付くだろうが別に隠す必要もない。ま、新しい玩具兼アップグレードパッチだ。この日のために昔から温めていたアイデアを今の技術レベルに合うように刷新して、組み直したもの。他のみんなの分も作って用意してあるけど、トニーの分はちょっと特別製だ。
他のみんなが今着ている装備の上にナノマシンによって構成されたスーツで補強されるのに対して、トニー用の奴は元々彼の使っていたナノスーツと私の今持ってる技術を融合させ彼の好きなように変化できるようなものにした。まぁ簡単に言うと彼のスーツの拡張性を無理やり引き上げたって感じかな? あとついでにナノマシンの総量も増やしといたので結構な能力向上が見込めるんじゃないかな?
『……お母様、ジュノーから通信が。』
「ん? なにかあった?」
『いえ。『一人で暇だし、そっちにコーンちゃんいるから遊びに行っていい?』と寄越してきました。……こちらで叱っておきましょうか?』
「あはは! いいよいいよ、じゃあジュノーも呼んであげないとね。年が近いからコーンとも仲良しだったから喜ぶでしょ。」
「腹が減っただろう。」
場所は変わってサンクチュアリⅡ、サノスの所有する船の一つ。クイル率いるガーディアンズたちはノーウェアへと向かいサノスが狙っていたリアリティ・ストーンを先に手に入れようと考えていた。……しかしながらそれはサノスも理解していた。現実の石を保有していたコレクターの住む星、ノーウェアで待ち伏せをしていたサノスによって敗北した彼ら。
そしてサノスの娘であった彼女は捕らえられ、この船の中にいた。
娘であり、過去は彼の理想のため動いていたガモーラ。サノスもサノスなりに彼女のことを娘として愛していたのだろう、彼女が今いる場所は牢獄ではなく玉座の間。この部屋の主である自身の義理の父から食事を与えられていた。
「……ッ!」
スープのようなものが入っていたカップを手渡された彼女は、逡巡の後それを玉座に向かって投げ捨てる。お前からの施しなど受けないという強い意志をこめて。
「……この椅子、嫌いだった。」
「そう言ってたな。……だが、お前がいつかこの椅子に座ることを願っている。」
「この部屋も嫌いだった、この部屋も! この人生も!」
「何度も聞いた。毎日……、二十年近くな。」
彼女との記憶を懐かしむように、もしくは父として娘を諭すように。家族の間でしか見せない顔を、ガモーラへと向けるサノス。
「……あんたに攫われた時は子供だった。」
「救ったんだ。」
ガモーラはサノスの実の娘ではない。彼が自身の理想に基づいて侵略し、半分にした星の一つ。そこで拾われた。父にとってはこの先同じ種族で食料や資源をめぐり、殺し合いながらゆっくりとした滅亡という選択肢しか残っていない星を救った。半分にすることでよりその星が長く生きられるようにした。それだけだ。
そして目の前で自身の顔を見ながら首を振る彼女を、そんな滅びるしかない星から救ってやったのだと。
「違う、私たちは故郷で幸せだった。」
「毎日腹を空かせ、ごみを荒らす生活でもか? お前の星は崩壊寸前だった、私がそれを止めてやったのだ。……あの後どうなったかお前は知っているか? 見たことがあるか?」
ものを知らぬ娘に、親として、父として。
「あの星で生まれた子供たちの腹は常に満たされ、明るく晴れた空しか知らない。地獄から楽園へと変わったのだ。」
「あんたが人口の半分を殺したから!」
「その犠牲で多くの民が、そしてこれから生まれる者たちが救われたのだ。必要となるものが半分になることで、生き残った者たちが幸せな生活を享受する。簡単な計算じゃないか。」
「……正気じゃない。」
その星で生産できる資源で養える人口を超えた星、それを半分にすることで誰も飢えず、誰も不幸にならない世界となる。資源が広く行き渡ることで残された者すべてが幸せを享受する。
「資源は限られている、星の数も限られている。際限なく人口が増えてしまえばいずれこの世界は自分たちの手によって死を迎えてしまうだろう。修正が必要なのだ。」
「あんたに何が解るのよ!!!」
「いや、私だけが。
彼女の傍までゆっくりと歩き、その肩をつかむ。
「かつては、お前も私と同じ志を持っていただろう。たとえ今は違うとしても、きっともう一度理解できるはずだ。」
父として、彼女へと笑いかける。
「今はただ、私の友を紹介しよう。彼らのおかげで、ソウル・ストーンの居場所もすぐに見つけることができた。……まぁすでに取られてしまっていたがな。」
その手が、この部屋の入口へと向けられる。彼の口から放たれた言葉、自身しか知らないはずの石の在り処がすでにバレていること。そしてその石が誰かの手に渡っていること。彼女の頭の中に様々な感情と考えが飛び交う、自身が今取れる最適は何か。それを探ろうとする。
だが、できない。できるわけがない。
終焉の足音が、聞こえてしまっているのだから。
「最高の理解者であり、友であり、兄弟であり、そして私だ。」
十を優に超え、その手に多くの石を嵌めたサノスたちが、そこにいた。