「じゃ、みんなよろしくね。」
ジュノーが操るスーツの外装を着こみながら地球に残るみんなに向かってそう言う。私たちの背後にはすでにスペース・ストーンによる門が開いており、行く先はさっきまで私たちがいたQシップだ。あの船に乗っていたメンバーが急にいなくなった、ということにならないよう同じメンバーが乗り込む。つまり私とトニー、ストレンジとピーターで惑星タイタンまで気ままなピクニックということになる。
ストレンジは地球に残ることを希望していたが、どっちみち相手は石のある場所に現れて襲ってくる。魔術師たちが防衛するサンクタムと言えど、インフィニティ・ストーンの前ではあまり役に立たない可能性が高い。すべての石を保有する私の傍にいる方が安全だし、ストレンジ自身がサンクタムにいなければ襲われる可能性はないと説得した。まぁちょっと嫌そうな顔してたけど頷いてくれたし大丈夫でしょう。
ピーター? あぁうん。彼も未成年ってことでやめておいた方がいいんじゃない? って話は上がったけど彼自身付いてきちゃった実績があるし、何故かキャプテンが賛成してくれたから大丈夫になった。なんかキャプテンに肩叩かれて色々お話ししてたみたいだけど何話してたのかな? ピーターの顔さっきからマスク越しでもわかるぐらいやる気満々って感じだし。
ま、二人とも戦うときになれば真面目にやってくれるだろうし大丈夫でしょ、いざというときは私がなんとしてでも助けるしね。
「メリタ、トルネア。あなたたちもおいで。」
『『はい、お母様』』
メリタはニックたちをここまで連れてきた子でボディのすべてがナノマシンで構成された体を操る子、トルネアはピエトロとクリントを連れて来てくれた速度特化の体を操る子。そのまま連れて行っちゃうと数が合わないし、せっかく連れていくのならうまく使ってあげたいってことでその体を私のTailと同じ形状にしてもらい、頭部に浮かばせる。
「ママ! コーンは?」
「コーンはお留守番、みんなの言うことよく聞いて色々助けてあげてね? ワカンダにはゲデ兄がいるからそっちもサポートしてあげなさい。」
「うん、わかった!」
浮遊システムを起動し、自身の纏うスーツと新しいTailを同期させる。目の前のディスプレイに現れる新しい色が二つ。うん、ちゃんとできてるね。ま、一時的にこのスーツに三人が集まるわけで、その分ジュノーがはしゃぎ過ぎちゃうってのが欠点かな? はいはいお姉ちゃんと一緒でよかったねジュノー。というかトルネアは悪乗りしない! メリタ悪いけど手綱握っといて!
「こっちは任せておけ。……トニー?」
「最後まで言わなくても解る。なに、数は少ないが最強のメンバーだ。それにあっちで味方が合流するかもしれないんだろ? サノスが可哀そうになってくるな。」
地球に残るメンバーもまぁ原作通りだ。違うことと言えば全員が強化パッチを受け取ってるってことぐらいかな? トニーが残していた装備や新しく作って放置していた物、それに加えて私のナノスーツを全員にプレゼント済み。まぁちょっと強くし過ぎちゃったかな? ってぐらいだけど誰かがいなくなるよりはいいでしょ?
トニーから返却された盾を背負って、キャプテンがこの星から離れる私たちに声をかけている。いつの間にか、というか単に私が見逃しちゃっただけだけどもう仲直りしてたみたい。まぁ二人ともずっと頭の片隅でもう片方のこと考えてただろうし、内戦の理由もどっちが正しいとかそういうもんじゃないだろうしねぇ。
ま、仲良しなのはとっても喜ばしいことなので私から特に何か言うことはない。普段通り接するだけ。
「間違えて私たちだけで倒しちゃったらごめんねキャプテン。」
「はは、ならこっちは楽できそうかな。」
「おっとツグミ、僕のやさしさを忘れたのか? ちゃんとキャプテンが一発決められるように元気な状態で送ってあげるさ。あとはみんなで囲んで棒で叩けばいい。ワォ、人類らしくていいね!」
つい、声を上げて笑ってしまう。あんまり受けてない人もいるけど私はそういう冗談大好きだ。……あ、そういえば昔サノスにグリンピース食べさせるとか言ってたよね。持ってくるの忘れちゃった。さすがに今からイヴに買いに行かせるのはダメだし、多分今の彼女に聞かれたらトン単位買ってくるから猶更ダメだ。絶対グリンピースで窒息死させる方向にシフトしちゃう。まぁそれもそれで面白そうだけどね。かわりに鉛玉を食べさせてあげるから、それで許してもらうことにしよう。
ひとしきり笑ったあと、軽く手を振って門をくぐる。
ま、死にに行くわけじゃない。こっちは敵軍の指揮官とちょっとだけ遊んで消耗させた後、地球に叩き落して集団リンチするだけだ。あとは彼の首を掲げるか、サッカーボールにしながら残党を処理してこの星からバイバイキンさせてあげればいい。
幸いこっちには娘たちのおかげで宇宙で十全に戦える戦力が整っている。周りへの影響を考えないのなら全部吹き飛ばす、というか消し去ることもできるし頭さえ押さえればある意味簡単に勝てる戦いだ。まぁその頭が強いんだけどね?
正直、私が五体満足に生き残って奴だけが死ぬ。そういうことは思ったより簡単にできる、まぁ一対一の状況に限るけどね?
すべての石を持たない奴がどんなに頑張って石の力を引き出そうとしても、私が石を使えば相殺できる。そも距離さえあれば奴だけブラックホールで消し飛ばすこともできるし、奴の体内にナノマシンでも流し込めれば時間はかかるけどそっからすべての組織を壊すこともできる。欠点としては石を使い過ぎると私の寿命が減るってくらい? まぁそこさえ目を瞑れば結構簡単に殺せるんだよねぇ、サノス。
そんなことを考えながらディスプレイ上で未だに遊んでいる娘たちを見る。
みんなもいるし、この子たちもいる。イヴとの約束もある。まだやってないことがたくさんあるのに、それを終わらせずに退場するってのは私でもダメだってことは解ってる。
(ま、死なない程度に頑張りましょー、っと。)
さてさて、ガーディアンズとは初顔合わせだけど……、どんな感じなんだろうね。ちゃんとソーは彼らと合流してストームブレイカー作りに行ってるかな? 二年間ちゃんと活動出来てなかったせいで宇宙のことはあんまり解ってないんだよね、そも広いし。
あ、それとソーにはまだ私のこと話してないからそれもやらないと。彼のことだから私が何かしら抱えてたのは知ってるだろうけど、それが話さない理由にはならないからね。といってもこの後ちゃんとした時間取れそうなタイミングってあんまないし……、全部終わってからかな?
◇◆◇◆◇
「はい、はい。……いえ、そのままで大丈夫ですよメリタ、定期連絡ありがとう。お母様のサポートをそのままお願いします。……コーンですか? 彼女からの報告はまだですが弟たちが見ているし大丈夫でしょう。そも敵の補足も済んでいますし、内外どちらから来ても対処可能です。……では、また。お母様には『サノス戦頑張ってください』と。」
妹の一人からの通信を終え、この衛星から母なる大地を見つめる。その軌道上には未だQシップが居座っており、おそらく降下のための準備をしているのであろう。内部の熱反応を持つ生命体たちが蟻のようにうごめている。
こちらから敵の捕捉は出来ている、が相手からはこちらを発見できていない。この基地のステルスにはかなりの資材を投じてある、最初からそこにあると確証をもって探さない限り発見できることはない。もしくは月面を彷徨った結果運よく辿り着けるかどうかのレベル。今後現れるヴィランども相手に通じるかはわからないが、現状奴らに捕捉されていない時点で十分だ。
もし相手がこちらに気が付きながらもまだ軌道上にいるのであれば、ただの破滅主義者か救えないほどの馬鹿のどちらかだろう。こちらは、何かあった時のために有無を言わさず消し飛ばせる用意がすでに整っている。運よく月から逃げられたとしても火星にも木星にも艦隊を配備している。ワープで逃げようにも木星土星間にはワープネットを設置済み、外からでも中からでもそこで止められる。
「詰み、ですね。」
奴らが攻め込もうとしている場所、ワカンダ。マインド・ストーンを持つ弟がそこに移動したことが理由だ。彼らも石を手に入れるまでは帰れないし、帰るつもりもないだろう。ま、そのおかげで非常にやりやすくなった。
あの場にはマスターから受け取った装備によって戦力を増強させたアベンジャーズに、この世界の時間軸における二年前までは我々よりも一部高位の技術を保有していたワカンダ。すでにマスターのお力によって我々よりも遅れている彼らだが、サノスの尖兵ごときに負けるようなほど弱くはない。多少苦戦する可能性もあるだろうが、十分に殲滅が可能だ。
そしてあの場にはゲデヒトニス、コーン以外にも伏せている兵力がいる。他の業務などの配分を考えると1ダースしか妹たちを送ることができなかったが、それでも過剰戦力といえる。悪いようにはならない。
「さて、マスターからお借りしたあの力の調査も進めたいところですが……、指揮を執るものとしての責務も果たさなければ。」
マスターを。我々の母を救う。そのためには我々の力だけではどうにもならない、だからこそ使えるものはすべて使う必要がある。マスターが望まぬ手法を用いず、この世界だけではなく他の世界に対する影響がない方法で。これを実現するためにはマスターが我々に託してくださったあの力が必要になる。
もし私の考えている手段しか方法がないなら、それこそ万を超える時間が必要になってしまう。……残された時間の限界まで、手段を探し続けなければならない。それが私の、長女としての使命であり責務だ。
「とりあえず木星駐屯艦隊にでも。」
彼女が通信回線を開こうとしたとき、センサーがけたたましく鳴り響く警戒音を察知する。自身の視界の一部が赤く光り、危機的状況に陥りつつあることを教えてくれる。
これは……、ワープネット。
(ハイパースペースなどの超光速移動する物体をが太陽系内に入り込もうとしたとき、強制的にこちらが指定した場所。木星と土星の間に設定した艦隊戦指定宙域に転送させるワープネット。許容限界が訪れぬ限りアラームは鳴らないはず……ッ!)
急いで土星の観測基地のカメラを開く。
黒、いや単なる黒ではない。宙域が敵で埋め尽くされている。
明らかに許容限界、元々サンクチュアリⅡがやって来た時用に用意していた装置。我々の知らぬ彼に与する勢力が同時に押し寄せても補足できるようにその許容量はかなり大きく用意していた。
だが、限界だ。明らかにあふれている。我々が想定していなかった数の、敵。
「ッ! ジュピタ!」
『はいはーい、聞こえてますよ姉様。あとこっちからも見えてます。』
木星の指揮を執る妹に連絡を取ろうとすると、あちらも考えていることは同じだった様子。彼女からすでに回線が開かれていた。それと同時に一瞬で情報の共有が完了する。
観測基地から見た光景よりもひどい。こちらが指定した宙域に所狭しと敵が詰まっている。相手も自分たちが想定した地点にワープアウトしないことを理解していたのだろう。その黒い帯のようになった船団から続々と雑兵たちが湧き出てくる。
『気持ち悪いねぇ、コスト度外視してどっかの恒星に衝突するようにした方がよかったかもねぇ……。』
すでにこちら側の戦力の展開は済んでいた。元々太陽系外からやってくる敵船、サンクチュアリⅡを撃破するために用意していた艦隊だ。奴らが他の勢力と手を組み、戦力が増強された可能性も考えすべての船を待機させていた。
だが、足りない。明らかに戦力が足りない。足りるはずがない。
戦艦級4隻、巡洋艦級12隻、駆逐艦級48隻。駆逐艦級と言えどもそれは地球における海の船ではなく宇宙の戦闘艦。駆逐級と言えども全長500mは超える。戦艦となればそれの三倍以上の大きさだ。白き船たちが戦列を組み真っ黒な世界の中、敵を待ち構える姿は平時であれば見惚れるものであっただろう。
だが、想定していたのはサンクチュアリ級三隻まで。
見渡す限りの敵、敵、敵。奴らにとっての母艦であるサンクチュアリⅡらしき存在が目視だけで10程度確認できてしまう。その隙間を縫うように、すべての色を塗りつくすように埋められるチタウリ達。明らかに対応できる数ではない。
『とりあえず私らだけじゃどうにもならんから遅延戦闘しながら敵の数減らすわ。……あ、あと多分私含めて全滅する可能性もあるから受け入れだけよろしく~。』
火星にも木星と比べ規模は小さいが艦隊が駐屯している。だがそれを動かすわけにはいかない。それぞれ独立した戦力として考えていたため連携の訓練ができていない上に、火星駐屯艦隊の主目的は火星と木星間にある小惑星帯を利用した遅延戦闘。それがなければ地球まで一直線だ。
「……はい、我々にとって体は単なる媒体の一つでしかありません。ですが皆に伝えてください、誰一人かけるのは許さないと。」
妹たちがいつでも帰ってこれるように、彼女たちの受け入れ態勢ともしものためのバックアップの確認を急いで行いながら自身の胸の内を告げる。マスターだってそれを望んでいらっしゃる。娘ではあるが、それ以前に仕える者。主の望まぬことはしてはならない。
『もちろんだって。……あ、あと武装制限とか解除しちゃっていいよね? 最悪土星あたり吹き飛ぶかもしれんけど。』
「構いません、奴らに地獄を見せてあげてください。」
『はいよ、じゃ。』
木星からの通信が切られる。
……こちらも出し惜しみしている場合ではない。ワープネットの許容限界を超えたということはこの地球の傍にワープアウトしてくる敵がいるということ。どれだけの数になるかはわからないが、急いでこの月に残る戦力を動かさないといけない。地球に送った子たちにも全力を出すように通達も。
「……マスター。」
すでにこの世界は愛する母の記憶とは全く違うものになっている。私たちでこれなのだ、すでに乗っていることがバレているあの船の行先、タイタンではもっと大変なものが待ち構えているかもしれない。
どうか、どうかご無事で。
「さぁって、ジュピちゃん頑張りますよぉ。とりあえず許可出たし全艦、光子魚雷放射~。……消し飛ばせ。」
太陽系の外からやってくる敵を殺しつくす艦隊、その運用をするためだけに生み出された彼女は敵の数に全く思うことがないように、攻撃の指示を行う。そも彼女たちに死の恐怖など存在しない、体の崩壊は死ではなく、精神の崩壊もバックアップが存在しているため、もし今の自分が消えたとしても数秒前の自分が代わりに動き出すだけだ。
もちろんそう言ったことに恐怖を覚える個体もいるが、この木星艦隊は所謂最前線。血の気の多い子たちが自分たちの母親の敵を殺しつくすのを今か今かと待っている。後方向きの少々精神が弱い個体は一人も存在しない。
ま、そういった少々区別するようなことを口にしてしまえばいくら皆家族で姉妹であっても士気は下がるし、何より母親が悲しい顔をしてしまうのは確か。私たちは母の敵を殺しつくすのが好きで、後方にいる子たちは守るのが好き。戦いの前に余計な思考が入り込んだこと、そしてその思考が少々よろしくなかったことを反省しながら艦隊の陣形を整えていく。
「というわけで手加減はしないよぉ?」
先ほど放たれた光子魚雷は私たちの中で禁じられていた兵器、縮退兵器とはブラックホールを使用した兵器だ。単に自分たちの胸で動くエネルギーを生み出す炉ではなく、すべてを消し去りなかったことにするだけのもの。
関係のないものを消し飛ばしてしまったり、味方を巻き込んでしまう可能性、そしてセンサーの誤作動などで誘爆しブラックホールが一つになってしまった場合最悪太陽系が消滅する可能性があるため、長女や母の許可なく使用することはできない。
「一回どんなもんか見たかったんだよね。」
そのためこの艦隊の主である彼女も実際に使うのは初めてだった。データとしてそのスペックを知っていても、それが実戦で発揮できるかはわからない。亜光速で広がっていく魚雷の帯を眺めながら、雑兵の数が少しでも減ればいいかと敢えて想定を低く見積もるジュピタ。
各艦の船首から放射上に発射されたそれは敵群に吸い込まれ、そして起爆。
起爆地点を中心にその空間が消し飛んだ。
「……よくて三割ってとこかなぁ? サンクチュアリ級は一隻消滅、二隻中破ってとこ?」
威力だけなら十分だが、敵の雑兵。チタウリらしきものに阻まれたせいで与えられた被害は開発班が持ってきたスペックと比べればかわいいものになってしまった。だが機動力の高い小型の敵を散らせたこと、そして何よりも敵母艦をここまで破壊できたのは素晴らしい。
「う~ん、こっからは普通に艦隊戦かな? 各艦に通達、独自のタイミングで砲撃を開始。血気盛んな元気っこちゃんたちはちゃんと小隊規模で動くように。あとは好き勝手暴れていいよ~。」
広域通信でそう言った瞬間一番槍は私だと飛び出していく姉妹たち、あっちもこちらが先制攻撃を決めたお返しをしようとしているのか雑兵たちや母艦を守る護衛艦などがぞろぞろと出てきた。
「んじゃま、後ろは後ろで火星組が罠張ってるだろうし。後ろは気にせず前に出ますか~。」