「今だ!」
王の号令が、響く。
ワカンダの精鋭たちを率いながらその先頭を走るティ・チャラ王、彼の声に合わせてそれまで閉じられていたエネルギーシールドの一角が開かれる。この都市全体を守る大きなドーム状のうち一つのセクション、その隙間は非常に小さいものであった。しかし、そこから倒れるように溢れ出てくる敵の数は膨大。我先に、と前に進もうとするアウトライダーたち。
全力で走りながらも、ワカンダの兵。そして空を駆ける者たちから支援砲撃が飛ぶ。莫大なエネルギーで消し飛ばされるもの、爆発物によって贓物をまき散らすもの、脳を破壊され物言わぬ骸になり果てるもの。しかし、改造され戦うことしか知らぬ化け物たちに仲間の死など何の意味もない。
恐怖も抱かず、先ほどまで動いていた仲間を踏み台とし、前へ。
「キャプテン!」
「あぁ!」
そんな進み続ける敵に向かい、さらに速度を上げる二人。他の者の速度を超えブラックパンサーとキャプテンアメリカが前へと飛び出す。平原を流れる穏やかな川を飛び越え、そのまま星条旗を背負う彼が、自身の象徴とも呼べる盾を投擲する。
戦闘が、始まった。
◇◆◇◆◇
「大丈夫、弓のおっさん?」
「うるさい、だから俺は弓兵で後ろでチマチマこうやって叩くのが仕事なんだよ!」
そう言いながら弓の弦を引くホークアイ、アベンジャーズ基地に保管されていた彼の装備はドロッセルのナノマシンによって強化されている。身に纏う装備が多少重くなったことと引き換えに、彼が手に入れたのはそれまで持ち運ぶことができなかった大量の矢。彼が弓を引いた瞬間にナノマシンによって生成された矢は、彼の意思とその状況に適した矢じりを生み出す。
彼の周りを高速で走り抜けたクイックシルバーが知覚できない速度で放たれたそれは、空を飛ぶチタウリの雑兵を二・三貫いた後に、開かれたバリアの隙間から無理やり入り込もうとしていたリヴァイアサン。ニューヨーク侵攻時にやって来た巨大なチタウリの脳天に突き刺さる。
瞬間、破裂。
頭部を失い生命活動を終えた巨体は地面へと落下し、大量のアウトライダーたちを踏みつぶす。
「……全然チマチマじゃないじゃん。」
驚き、口から考えが漏れ出てしまっているピエトロだったが、彼の装備も格段に強化されている。彼の能力は高速で動くこと、その速度で苦戦を強いられているワカンダ兵のサポートや、敵の死角からの奇襲を行う彼だがどうしても体力と攻撃力に限界がある。それを少しでも助けられるようにと、全身を保護するナノスーツは動きをサポートし、口まで伸びたそれは高速移動中では摂取が難しい酸素を送り込む。
極めつけに腕部に生成された牙のような刃物、動きながら少し刃を当ててやれば何でも切れる優れモノだ。
「年だからってことで隠居したつもりだったんだけど、な!」
弦を引き、放つ。仲間の死体を利用し空から奇襲を仕掛けようとしたアウトライダーと、空を虫のように舞い始めたチタウリを同時に仕留める。同時に射手を仕留めようとその四本の腕を振り下ろそうとしてくる化け物、その顎を蹴り上げる。
軽く宙に浮かんだソレに向かいもう一度弓を向け、斉射。
これまでの彼の装備ではありえないほどの破壊力を持ったそれは、化け物の胴体に大きな穴を作り出し、同時に背後にいた敵を殺しつくす。
「……全く、確かに俺は攻撃力が足りないって言ったぞ? だがこれははやり過ぎだろツグミ。」
かなり前に冗談の一つとして言っていたことを真に受けて作ったのか、そんなことを考えながら未だ慣れぬ弓を振り回しながら敵の数を確実に減らしていく彼。地上最強の射手と謡われた彼の腕は年を重ねるごとに研ぎ澄まされ、その空間把握能力は驚異の一言。遠く離れた敵の頭部に向かって矢を放ち、その射線上にいた敵をまとめて破壊する。
だが、彼も数の暴力には叶わないはず。
振り返ってみれば慣れぬ連携を取ったのであろう化け物たちが、空中と地上の両方から数の暴力によってホークアイを踏みつぶそうとする。数にして、8。
彼は、動かない。
「遅いぞ。」
瞬間、銀の閃光が彼の前を走り抜ける。Z字を書くように残ったその光の筋は敵の体を切り裂き、ただの肉塊と機械片と成す。
「……もしかして俺に言った?」
「その通り、打ち漏らしだ。」
わざわざクリントの前に立ち止まり、そう聞き返す彼だったが、それと同時につがえられていた矢が放たれる。ピエトロの頬のギリギリを通り抜けていった矢は雪崩のように押し寄せようとした敵の後方で、こちらを狙い打とうとしていたチタウリを消し飛ばした。
「……はいはい、俺の負けね。」
「よくやってる。さ、まだまだお代わりが来るぞ。」
手を挙げて降参の意を示す彼の肩に手を置き、一旦の波を切り抜けたことを称えるクリント。親が、子の成果を褒めるように。
思っていたような反応と違ったためか、少し驚いたような顔をしてしまうピエトロだったがすぐにその顔に笑みが浮かぶ。
「りょーかい!」
先ほどよりも機嫌がよさそうな声、ホークアイの手に残っていた熱と、耳に残る音はすぐに風となる。この障害物のない平原において、自身のような弓兵は戦いにくいということは理解している。だが、敵がいて。仲間がいる以上、無理でも押し通すしかない。幸いニューヨークの時と比べれば天と地ほどの装備の差がある。あの時よりも年を取ったが、まだマシだろう。
『クリント! 手空いてるなら支援お願い!』
「はいよ! 弓兵さんは忙しいな、っと!」
近くにいたワカンダ兵と協力し、アウトライダーを排除した後。彼の持つヴィブラニウムで補強された盾を足場に一時空へ、すぐに救援を求められたナターシャの位置を把握し、矢を放つ。
そして、直撃。
「……ほぅ? いい射手がいるようだ。」
「そういうあんたは一体何人いるのかしらね!」
頭部に刺さるかと思われたその矢は彼女によって握りつぶされた。すぐに矢じりに爆発物があると判断し、空へと投げ捨てられる。それと同時に爆発する矢、その爆風で空を飛ぶチタウリの一体が姿勢を崩し墜落するが彼女は気を止めない。
「さぁな、我らも初めて顔を合したものがいるのでわからん。だが今は貴様との逢瀬を楽しむとしよう。」
「あっそ!」
この世界の彼女ではない彼女、別世界でブラックオーダーの一角を務めるプロキシマ・ミッドナイトは青く光る槍とラウンドシールドを振るう。対してナターシャはナノマシンによって生み出された二本の棒状の兵器、帯電するバトンによって応戦する。
喉を貫こうとする刃をバトンで逸らし、片方の手で槍を持つ手をつぶそうとする。しかしシールドによって弾かれ、後方へ。ナノスーツによってこちらへのダメージは皆無だが、距離を取られてしまった。実力はほぼ互角、拮抗している。
「ナターシャ!」
背後から、ワンダの声。両手に赤い光を纏わせ、こちらも普段の装備の上からナノアーマーで保護されたものを着用している。アウトライダーと呼ばれる化け物たちの中から現れた、ヴィジョンを襲撃してきたエイリアン。ツグミの話によれば残る人数は二人だけだったはずだけど……。
目の前にいる奴は私たちの知るやつと違う出で立ちをしている。そして何よりも二人どころじゃない。ツグミやトニーが倒したと言っていたようなエイリアンに姿形が似た奴が複数いる。
考えたくはないけれど、私たちの敵は彼女が考えていたよりも大きな存在なのかもしれない。
「ワンダ、あいつらは?」
「ゲデヒトニスっていうロボが受け持ってくれた。」
「そう、なら早く終わらせるわよ。」
このブラックオーダーと呼ばれてるらしい敵の将に当たるやつらは一人一人がかなり強い、今は何とか装備の質で抑えきれてるけど他の兵士には荷が重いし、このままこちらが疲労してしまったり、他が抑えている奴らと連携でもし始めたら対処できなくなる。できるだけ早く倒さないといけない。
「二対一か、他の私はどうか知らんが、このような逆境こそ戦士の誉。来い!」
それに答えるように、弾かれたように動き出すナターシャ。そしてその後ろから彼女を追い抜かすように射出されるワンダのエネルギー弾。敵を打ち倒すのではなく防御させるために放たれたそれは、敵の顔へ。彼女の思惑通りに敵は盾で防御し、一瞬だがナターシャから視線が外れる。
(そこ!)
死角からの一撃、ツグミが強化したバトンだ。おそらく当てれば確実に無力化できる。自身の知らぬ武術を扱う敵だが、人型である限り取れる手段と動きは限られてくる。そして予測もできる。そして相手が術を学んでいるからこそ取れる方法も。
敢えて強く放電させ、盾で隠れた死角からの一撃を胴体へ。そしてそれが避けられた時のために同じく視覚外に杖を、置く。相手が対応できなければ放電で確死、対応できたとしてもダメージは与えられる。
「上手いな。」
だが、効かない。ナノスーツによって強化されているはずの膂力で押し負け、盾と槍によって両方のバトンを無理やり折られる。そして無手となった状態に、突き。
姿勢をずらすことで回避、そのまま槍に手をかけ両足を盾へ。全力で踏み込むがまるで石の壁を蹴ったような感触。全く動じてない。
「……時間がかかりそうね。」
ナノマシンでもう一度バトンを生成しながら、ブラックウィドウは目の前の敵をどう抑えるか思案していた。
◇◆◇◆◇
「おいおい、多すぎるだろこれは!」
「しゃべってないで引き金を引け、サム! ほらヴィジョンを見習え。」
「さすがにあれは真似出来ないぞ大佐!」
ローディが両肩と両腕に装着された重装備で薙ぎ払い、サムがその空いた穴をさばいていく。小回りの利かないウォーマシンの隙間を速度では劣るファルコンが埋めることで空の情勢は地上よりも優勢だった。彼らが手の届かないところも地上にいるホークアイが強化され過ぎた弓で処理してくれるため、数の多さとその分帰ってくる反撃の多さに苦労することはあれどもそこまで危機的状況ではない。
まぁそれも。
「照射します。」
マインド・ストーンのエネルギーをすべて攻撃に転用することで敵を殲滅し、相手の攻撃は全て通り抜けることで無敵状態となっているヴィジョンがいるからだが。
「ふゥ~! 味方がここまで強いと楽でいいね!」
「サム、二時の方向から増援が来ます。」
「了解、俺も仕事しなくちゃな!」
敵の数は留まるところを知らない、地を這うアウトライダーの降下ポッドはシールドの外に定期的に投下されている。そして大気圏を突破してやってくるチタウリの量も時間が進むごとに確実に増加している。
確かにこの体はツグミによって強化された。ナノマシンを一新されたおかげで前回苦戦したブラックオーダーと呼ばれる者たちとの戦いも有利に進められるだろう。そして自身の意識や体を成立させるエネルギーにマインド・ストーンを使う必要性がなくなったため、単純な出力が向上している。
「大本を絶つ必要がありますね。」
地上に向かって急降下し、地を這うように高速で飛行。ワカンダ兵を襲おうとしていた敵を粉砕しながら彼は情報をまとめる。このワカンダを守るシールドの外に存在している敵降下ポッド、そしてこの星の外に存在する敵の母船。これをどうにかしなければこの戦いは終わらない。
自身は疲れというものを知らぬ体であるが、この場で戦う者の大半が人間。時間が経つごとに徐々に不利になっていく。行動を移すのならば早い方がいい。そう考え、シールド内部の空を二人に頼もうとしたとき、彼に通信が届く。
『こちら、P-1。外に行くのか兄さん。』
「……あに?」
自身に投げかけられた言葉に困惑し、思わず通信を送ってきた方に視線を向けてしまう。その先には自身と同じように空中戦を繰り広げながら地上の支援を行うツグミの子供たち。それでようやく思い至る、ゲデヒトニスが長男とするならば自身はおそらく次男、彼女の娘たちの製造時期を考えればそのすべてが妹になってしまうということに。
『戦中なのでな、識別番号ですまない。それで、外か?』
その問いかけで、ようやく意識がこちら側に戻ってくる。まぁ意識がどこかに行っている間も自動で敵の数を減らしていたので特に問題はないのだが。
「え、えぇ。これから外に出て敵の大本を叩きます。」
『了解、数が数だ。こっちも手伝う。なぁに、こちとら破壊と爆発は十八番なのでね。……編隊長から各機に、これよりシールド外部での爆撃を開始する。識別番号の前半は私に続け。』
『『『了!』』』
ヴィジョンがマントを靡かせるのと同時に、空を踊っていた姉妹たちの半数、6人が脚部を変化させ彼に追従する。
『……ん? いやコーンは留守番だ。そのまま兄とバナー博士の警護につけ。行きたいのは解るがお前の姉でも残っている者はいるぞ? ……あぁ、その調子だ。』
「あの子からですか?」
『あぁ、見苦しいところを見せて悪いな兄さん。まだ訓練期間を終わらせていない末っ子ではあるが仕事はしっかりこなすはずだ。そこは安心してくれ。』
隣を飛ぶ彼女からそう返答され、同時に彼女たちのスペックが送られてくる。……なるほど、あのコーンと同じシリーズ。
『さっきも言ったが私たちは爆破に……、っと失礼。地中に反応アリだ。こっちを片付けてから追う。先行してくれ。』
アウトライダーたちの降下ポッドに向けて攻撃を開始したヴィジョンと別れ、姉妹たちはもう一度体を変形させる。彼女たちにも備わる二つのTailが形を変え、羽のように大きく開かれる。そしてその中央には何かを生成するための円がぽっかりと空いていた。
『ロックオン後は各自自由に放て。』
地中奥深くから地上に上がろうとする物体、サノスたちが扱う対軍兵器が地中を揺らす。地表に出るために行う掘削装置と、その大きなディスクを使うことで敵軍を肉片と化す機構。もしここに彼女たちがいなければ原作と同じように猛威を振るったであろう。彼らにとって歩兵、アウトライダーやチタウリは消耗品。いくら消えようとも補充可能。故に味方ごと敵をひき殺す。
だが、それも地表に出なければ意味がない。
開かれた円の中心にナノマシンが生成され、瞬時に出来上がるのは彼女たちの大好きな爆弾。地下深くに存在する基地を破壊するために作られた神の槍はすでに狙いを定めていた。
『投下。』
反重力システムを活用したそれは本来の自由落下速度を大いに超え、地中に突き刺さる。そして同時に爆破。6機の姉妹から放たれた12本の対地中爆弾は正確に目標を捕らえ、ワカンダの大地に大きな土の柱を生成する。
『対象全て沈黙、これより敵降下ポットの破壊に移る。……あぁもちろん、爆薬の使用制限はなしだ。好きにやろう。』
姉妹たちの歓声と、少し遅れて火薬が弾ける音。彼女たちの時間は始まったばかり。