前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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気合入れて!

 

 

火星と木星の間に存在する小惑星帯、その内部では激しい戦闘が行われていた。圧倒的な物量差と石の力によって押し込むサノス連合軍と、圧倒的な技術力と地形を生かした戦術で後退しながら敵を磨り潰す姉妹たち。初撃の光子魚雷で一隻を消滅、二隻を中破させた。その後の艦隊戦では中破の敵母艦を集中的に攻撃することで、結果的に敵母船の三隻を落とすことに成功している。そのほか多数の艦船をスクラップへと変えた彼女たちであったが未だ敵は健在。圧倒的な数の差はどうしようもなく、木星艦隊・火星艦隊ともにその役目を終えようとしていた。

 

 

『右舷大破! ダメージコントロール不可です!』

 

『炉心のセンサーがイカレました! そろそろ限界です!』

 

『11時の方向から敵ミサイル多数! 回避不可!』

 

『第一小隊を除き全部隊戦線から離脱! これ以上抑えきれません!』

 

 

たった一人の艦橋で、姉妹たちの声が響き続ける。

 

艦隊戦で出来るだけ数を減らすために前進して、戦場を引っ掻き回したがまぁそれも終わりが近づいているようだ。ある程度暴れた後は反転して小惑星帯に引き連れてくることはできたけど、火星組の戦力もほとんど残ってない。まぁ元々こっちの戦力がなくなるまで相手を磨り潰す方針だったから役目は果たせたんだけどねぇ。

 

 

「この船に愛着がないと言えば嘘になっちゃうからなぁ。」

 

 

この戦艦一つを製造するのにかかる時間はそんなに長くない。そして私が木星を任された期間もそんなに長くない。元々上から負けてもいい、いや負ける前提でどう敵を殺すかにシフトしている時点でこんなこと考えるのはあれなんだけどさ。

 

やっぱり負け戦ってのはうれしくないよね。

 

相手側は目に付く艦艇や基地を破壊しながら地球に向かっている。つまり木星や火星の地表に建設された製造工場などはまだ破壊されていない。宇宙ステーションとかは全滅しているけどね。もしこのまま敵が地球まで前進して、月の基地や地球が破壊されようとも、姉妹たちの安全や反攻作戦の目途はある。

 

戦闘で体が壊れた姉妹も、全員がその精神までは壊されていない。そのまま艦艇の中にある予備のボディに乗り移ってもう一度戦場に出る子もいれば、各地の基地に戻って艦艇や体の製造に励む者、月の基地に戻ってそっちで製造された体で戦う者。まぁ色々だ。つまり私のいるこの船がどうなろうと、私の体が壊れようと。戦況は急ごしらえだけど策通りに進み、私も月の基地にある新しい体でもう一度戦場に返る。

 

 

「……けどまぁ、最期は最期だし。ちょっと傷跡残してみましょうか!」

 

 

この船のメインコンピューター、電脳空間に留まりながら船を動かしてくれていた姉妹たちを退艦させすべての権限を自身に集める。元々船の構造的に私たちが一人で動かせるようになっている。負担にはならない。

 

砲身は……、大体焼き溶けてしまって使い物にならない。残弾も払底、周りは小惑星で覆われているせいで影も多い。どっちみちもう一度遠距離からの艦隊戦は出来そうにない。船自体の耐久力も限界が近いし、炉心も限界スレスレで使い過ぎたせいでダメになっている。まぁ暴発の可能性がないから壊れるまで使わせてもらうけどさ。

 

となると、仕える術は一つだけ。

 

 

「ま、たまには原始的な方法も選んでみましょうか。エンジン全開、目標敵母艦!」

 

 

単純な質量での攻撃、そして内部への突貫。

 

 

「突撃だァ!!!」

 

 

全速力で未だに無傷の敵母艦の一つに突貫する。敵の主力はあのクソでかいサンクチュアリⅡ。罠が抜かれてしまい地球にワープした3隻、これまでの戦いで落とした3隻。元々13隻やって来た敵は残り7隻だ。

 

この攻撃で、サノスを、船ごと殺す。

 

この戦いの中で何度も石を使われ、それにマスターからの情報共有のおかげで、もう理解している。あの敵母艦の一つ一つにサノスがいて、それが並行世界の存在ってことは。こっちが確実に殺せた、って判断できてるのは4人。マスターたちが殺した3人に、光子魚雷で消滅させた1人。後の私たちが少しでも楽ができるように、敵を殺して石を回収する。それが目的だ。

 

 

「あはー! まぁこっちがこんなにわかりやすい動きしたら対応してくるよねぇ!」

 

 

全速力で母艦に向かっていけばそりゃ対応もされる、さすがにこの戦艦の質量でぶつかればあの船もただ事では済まない。巡洋艦・駆逐艦レベルの艦船からの攻撃や、母艦にいるサノスがパワー・ストーンを使っているのか、紫の力によって加速する小惑星が飛んでくる。

 

 

「すでに船の加速は済んでる! 全エネルギーをバリアに!」

 

 

演算領域を全力で使い、敵の攻撃を予測し、定点でバリアを張ることですべてを受け流す。受けきるにはエネルギーが不足するかもしれない。角度を調節することで後方へと受け流す、できるだけ速度を殺さぬように、前へ。

 

全方位からの攻撃は速度によって、正面からの攻撃はバリアによって。進めば進むほどに同士討ちを恐れて他艦船からの攻撃は少なくなる。好都合。こっちはいくら異世界の相手だろうと船のどの位置に誰がいるかぐらい把握できる。何度も攻撃のために石を使うということは私たちに自分がいる位置を大声で叫んでいることに他ならない。敵の中枢に、突っ込む。

 

相手もそれが解っているのだろう、船の外装や小惑星そのものを石の力で網のように投げつけることで少しでも勢いを殺そうとしてくる。が、こっちだって馬鹿じゃない。この船自体の能力が足りなくても、他のところから持ってくればいい。すでにこの船の役目は一つだけ。何があっても全速力でぶつかりに行くということ。

 

 

「大事な私の船は私が守るんですよね、っと!」

 

 

艦橋から急いで外に離脱し、自身の体に備わっている能力で障害物を破壊していく。艦隊指揮用の演算特化の体ではあるが、戦闘が全くできないというわけではない。内臓の小型ミサイルで破片を消し飛ばし、リパルサーで小惑星を破壊する。

 

そして。

 

 

「突っ込め!」

 

 

自身の船の外壁に捕まり、そのままサンクチュアリへと突っ込む。

 

最低限の修理用としてしか積まれていないナノマシンすべてを攻撃用に書き換え、ナノブレードへと換装。すぐさま生成し形を固定させる。同時に右手を電磁石化、ある程度の衝撃では吹き飛ばされないようにする。

 

そしてそのまま、敵の首元へ。

 

 

 

 

鈍い、金属音。

 

 

 

 

「さすがに、やらせてはくれないよねぇ。」

 

「貴様が艦隊指揮官か、ようこそとでもいえばいいかな?」

 

 

5つの石が嵌められたガントレットによって、阻まれるブレード。

 

これはちょっと、厳しい戦いになりそうだ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

化け物の叫び声と、救援を求める声、爆発音に薬莢が地面へと転がる音。

 

戦いは未だ続いている、こちらの不利という状況で。

 

 

「はぁぁあああ!」

 

 

ブラックパンサーがそのスーツに蓄積された衝撃を開放させる。吹き飛んだ敵の合間を縫うようにキャプテンの盾が射出され、何度も跳ね返り、敵を無力化していく。それだけでは足りぬ攻撃力を補うように、彼女から渡されたナノスーツによって生成されたエネルギー銃によってさらに頭部を破壊する。

 

このワカンダを守る巨大な青い盾に空いた一筋の隙間、そこから溢れ出る敵を少しでも減らそうとその直前で大立ち回りをする彼らであったが如何せん数が多すぎる。超人血清と神秘のハーブ、どちらも通常の人類より強化された体を持つ二人であったが武装にも、スタミナにも限界が訪れようとしていた。

 

上空で、その全身に積まれた銃火器を用いて地上を支援するウォーマシンの攻撃も焼け石に水であり、ファルコンは絶え間なく流れ込んでくるチタウリの対処で手一杯。すでにすべての爆装を使い切った彼女の子供たちは外にでて、少しでもこちらに入り込む敵を減らそうと戦っている。

 

ヴィジョンはこのアウトライダーと呼ばれる敵が乗ってきたポットをいくつか破壊した後、大本である敵の母艦を破壊するために宇宙へと飛んで行った。そのおかげで降下してくる敵の量はほんの少しだけ少なくなったが、降下してくる敵が未だにいるあたり苦戦しているのだろう。

 

ホークアイも強化された弓矢で敵を蹂躙していたが、すでにその特殊な矢は品切れの様子。過去に使っていた矢と同じもので敵を貫いている。ブラックウィドウも敵の幹部、ブラックオーダーの一人との戦闘によってずっと拘束されている。その分被害を抑えられているといってもいいが、その分雑兵の数を減らせていない。このままだとすべてが飲み込まれてしまう。

 

 

「ッ!」

 

 

背後から放たれたチタウリの光弾を戻ってきた盾で受け止めるキャプテン、こちら側がドロッセルによって強化されたのであれば相手側はそれを上回るほどの物量で押し切ろうとしている。本来この場にいなかったはずのチタウリが現れ、アウトライダーと連携を始めている。四本腕の化け物が近距離を、遠距離からチタウリが攻撃する。簡単な戦術ではあるが、その単純さと数の多さによって押されてしまっている。

 

クイックシルバーが高速で走り回ることで戦場をかき乱し、スカーレットウィッチがオーラやマインドコントロールによってその連携に風穴を開けようと試みるが、如何せん数が多すぎる。

 

強化された緑のハルクバスターを操るバナーや、それをサポートするコーンによって状況の好転が図られるが、失敗。敵の集まっているところに飛び込み、その多くをなぎ倒したまでは良かったが一人の敵に足元を崩され転倒。まるで覆い尽くすように敵が群がってしまっている。コーンが救出に向かおうとしているが、空を飛ぶチタウリ達に妨害されて動くことができない。

 

敵の雪崩に飲み込まれようとも、諦めることはできない。ここで自分たちが諦めれば背後にある都市は飲み込まれ、破壊されてしまう。そしてその次の標的は人々だ。そしてこの場にストーンがないと判断されれば次はこの星すべてに奴らの牙が向くことになる。

 

キャプテンの視線の先には、過去ともに戦った戦友が、仲間たちが敵に飲まれて行ってしまうのが見えている。見えているが、助けに行くことができない。前へと進もうにも化け物によって止められ、後ろに進もうとしても止められる。

 

 

この倒しても倒しても敵やあふれ出すこの戦場で、誰かが。誰かが諦めの言葉を吐きそうになった時。

 

 

虹の橋が、降り注ぐ。

 

 

大地に突き刺さる様に現れたそれは、そこに集まっていた敵をすべて吹き飛ばし一つの空白地点を生み出す。そして、その空白をさらに広げるように、虹の中から一振りの斧が、放たれた。

 

 

青い雷を纏ったそれは倒れた仲間たちを救うように敵たちを薙ぎ払い、彼の手元に戻ってくる。

 

 

「ソー!」

 

「スティーブ、久しぶりだな。」

 

 

そして。

 

 

 

「お? ちょっと遅かったかな?」

 

 

 

青き門が、たどり着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツグミ!」

 

 

あ、どもども。みんな元気? ドロッセルお母様だよ? うんうん、タイタンからでも解ってたけどこっちに着いた瞬間娘たちからお帰りなさいのメッセージが一斉に届いてちょっとびっくりしちゃったお母様です。いやはや、愛されてるね。

 

まぁもっとびっくりしたのはこっちに返ってきた瞬間ソーに抱き着かれたことなんだけど。え、なに? なんか私の体確認するように触ってるけどなんかあったん? とりあえず後ろの方でちょっとヤバいワカンダ兵士さんがいるので、トルネアとメリタをリリース。戦場の安定化を図らせて、後ろについてきてるタイタン出生組を地球に帰還させながら顔の装甲を内部に。地肌を彼に見せるようにする。

 

 

「ど、どしたんソー?」

 

「生きてる、生きてるな!? あぁ、知らないうちにここまで大きくなって……!」

 

「お、おう?」

 

 

若干涙ぐみながら親愛のハグをしてくるソー、ちょっと戸惑いながらも抱き返し再開を喜ぶ。というかなんかお父さんみたいな話し方してたけど本当にどうしたの? アスガルドまで距離があるし、私も確認できるような状況じゃなかったし、イヴも見捨てる覚悟でやってたからそこまでちゃんと確認してなかったみたいだし……、なんか私が知らないとこであったの?

 

 

「地球への避難船の残骸の中に、君のスーツの破片や知らない船の残骸があったからてっきり死んでしまったのかと……、本当に良かった。」

 

「あ。スゥッー-、ウン、シンパイサセテゴメンネ?」

 

 

彼に言われてようやく原因を思い至る、ソーが間違えた私のスーツの破片って、あのイヴちゃんがサノス丸ごと消し飛ばしちゃえ作戦をごまかすために船にぶち込んだ破片だよね……。ぶっ壊れた姉妹の体リサイクルする前にこっちで使っちゃえ、って適当に放り込んだ奴だよね……。腕とか足とか割れた頭部とかそんなもん色々ぶちこんだ奴……。

 

それを見て、避難船助けるために私も死んじゃったって思ってたわけか……。

 

うん、めっちゃ申し訳ない。え、どうしよ。どうやってお詫びすればいい? 装備プレゼントしようにもソーの雷の出力が高すぎて多分ナノマシン長時間使用に耐えられないし……、終わったら土下座だな。うん。

 

 

「いや、大丈夫だ。……っと、急に抱き着いてすまないな。」

 

 

そういえば昔だったらソーに抱き着かれた瞬間魂がどっかに行ってしまうだろうなぁ、という現実逃避をしてたらソーがいつの間にか離れて戦闘態勢に入っている。後ろの方で微笑ましいものを見るような雰囲気を醸し出していたトニーとキャプテンも意識を切り替えてるし……。

 

うん、そうだね。私も頑張るよ。

 

敵は多数、空を見上げれば敵の母船がいくつも浮かんでいるし、下を見れば地面を埋め尽くすように化け物がいる。私の娘たちが抑えてくれていた増援もやって来ている。

 

けど仲間たちが、娘たちがいる。幸運なことにこんな最悪な戦いの中だけど、誰も死んでない。

 

 

血と硝煙の香り、慣れ親しんだ香りが染みついた空気を肺いっぱいに吸い込み、吐き出す。そして両手で両頬を叩く。私がいつもやっていた、昔ながらのルーティン。ほんとは私と同じ名前を持つ彼女の動きを真似したかったけどあんまり気合が入らないから変えた動き。色々ぶっ壊れていたが体に染みついていたみたい。

 

 

「さ、やろうか!」

 

 

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