「ただいまー、っと!」
『はい、お帰りなさいませ。』
昨日ヤクザのお兄さん方を気絶させたその翌日、正確にはあの時すでに日付が変わっていたのでその日の午後。私は大学の講義を受けてから帰ってきた。夜遅くまで起きていた上に朝一限からの講義だったせいで寝坊しかけたがまぁ何とかなったからよしとしよう。
初フライトで初戦闘ってことで気が立って眠れねぇ! みたいなことも覚悟してたんだけど案外私は大丈夫なタチらしく普通に日常生活を送れた。今後スパイディみたいな生活に移っていくことが確定してるので、肉体面は勿論精神面での問題も懸念していたんだけど……、まぁ大丈夫そうなのかな?
「まだピッチピチの女子大生だからってのもあるだろうしね。若さって大事!」
『今どきの若い方はピッチピチという死語は使わないかと。』
「……マ?」
『マ、でございます。それよりも今朝に頂いたタスクの方が完了いたしました、ご報告を。』
『本日3時過ぎに起こしました抗争で制圧しました方々の検索ですが、銃器で武装していた方々の顔を監視カメラの映像などで検索した所、府内に存在している指定暴力団の組合員であることが判明しました。しかしながら刀・鎖鎌で武装した方々の顔は大阪全域の監視カメラを漁りましたが発見できませんでした。現在近畿を中心に国内の監視カメラなどの情報を捜索中ですが目ぼしいものは見つかっていません。』
「あ~、もしかしてヤバイ奴らに手を出しちゃった感じ?」
『そのようです。』
さっきまで親友のユキと楽しく大学生やってた時の浮かれ気分はすでに吹き飛んだ。こっから先は一人の科学者兼新人ヒーローとしてやらねばならない。
大学生の私が管理しているAIのイヴだが、その性能はS.H.I.E.L.D.のセキュリティを突破できるぐらいだ。その性能はこの星でもかなりの上位にあるはず、そのイヴちゃんが短時間だけど見つけられないってことは……
「イヴよりも上の性能持ちがいるか、そもそもカメラとかに写らないように生活してる、訓練されている可能性が高いってわけか……。いやでもイヴより上ってのは考えにくいし……。」
『ラボにあるコンピューター類を破壊されれば何もできなくなりますが、国内で私よりも上位の存在がいるとは考えにくいかと。せいぜいマスターが良くおっしゃっているジャーヴィスとやらが私と張り合えるでしょうが、彼や彼のマスターであるトニー氏が犯罪組織の隠蔽など手を貸さないでしょう。』
私がトニーの事褒めまくってた時にジャーヴィスのことも色々喋ってた時にこぼれ出た『あぁいうの好きなんだよねぇ。イヴちゃんよりも性能高いかもしれない、というか絶対上。』という発言で嫉妬みたいなのをしているイヴは置いといて、まぁその通りである。たぶんこのユニバースはMCUかそれに似たものだと思うし、その主人公みたいなトニーがヴィランみたいなことするわけ……、いやアメコミ版の他ユニバースで悪役やってるんだよなぁ……。
「と、なるとまぁこの推定ヤクザさんたちが頑張って自分たちの情報を外に出さないようにしているわけなんだけど……。あぁ~~~~、こりゃ早速見つけちゃったのかなぁ……。」
顔を見せないようにしている、もしくは何らかの方法で顔を偽装している。
この国でそういうことできそう&ヤクザの恰好してるので何らかのつながりアリっていうヴィラン組織っていったらまぁ前々から言ってる『ザ・ハンド』以外ありえませんよね、っていう。
「ニンジャに手を出しちゃったよ私……、イヴ! ウチの家に変なの近づいてない!?」
『付近の監視カメラ及び自宅・ラボ内部に設置済みの監視システムには何も反応はありませんでした、しかしながらそれを避けて活動している可能性もあります。』
「だよなぁ……。」
ザ・ハンド、又の名はヤミノテ。この組織の怖いところは二つ。
ニンジャという鍛えられた兵士たちを大量に保有しておりマーベル世界にしては珍しく人海戦術を取ってくること、そしてもう一つは幹部級ヴィラン、雑兵以外のヴィランの選択肢が多すぎるってこと。
虫みたいにいっぱいいるニンジャたちのスペックは鍛えられた一般人、軍隊レベル。つまり超人兵士ではないので兵装で何とかなりそうなのだが問題は能力持ちの幹部である。
ザ・ハンドっていうヴィラン組織の歴史は長くてMCUの原作でも色々なヴィランを従えてアベンジャーズやX-MENなどのヒーローチームと戦い続けた組織。それすなわち強くてしぶとい、それに様々なネームドヴィランを受け入れやすい下地があるということ。
「見開きページ一杯に増殖するニンジャ対策として広範囲殲滅兵器に手を出すのは確定として対策すべきヴィランって誰だ? そも2009年のこの時期に活動してるヴィランなんて知らないよ! お前ほんとに日本人か?っていうマツオ・ツラヤバか!? エレクトラか!? そもそもこの時期ってキングピンはヴィランになってたっけ!? デアデビルって登場してたっけ!?」
これ口から出てしまった以外にも色々いる、とっても豊富なヴィラン達。しかもMCU版はアメコミと別の方向性を取る場合が多々あるからもしかしたら原作で所属してなかったヴィランが出てくるかもよ! 楽しいね! しぬね! 爆発しちゃうね!!!
「と、とりあえずイヴ! S.H.I.E.L.D.に仕掛けている追加の“置き土産”のタスクは一時中断! やってる暇ない! 私の方は広域殲滅用の何かを用意するからセキュリティの強化と家に変なのが寄り付いたらすぐに教えて! あとさっき言ってたわかった方の暴力団ってどこの奴!?」
『最近結成された指定暴力団・石井組だそうです。運営に使用しているPCなどをハッキングしましたが電子部門での対策がお粗末ですね。大阪府内で活動するヤクザ集団で構成員は2500ちょっと、現在上田組というところと抗争中のようですね。上田組の方は……、見当たりませんね。』
と、なると石井組って奴らが比較的普通のヤクザ集団。対して上田組がおそらくザ・ハンドの下部組織的ヤクザかな。イヴが持ってこれる情報はネットに繋がってる物だけだから、紙媒体で管理したり電話とか無線を使わなければ見つけることはできない。電子関係のセキュリティがまだ完璧じゃないから古き方法を使う、ニンジャらしいと言えばそんな気もする。
「とりあえずある程度武装が完了したらその石井組ってのに殴り込みする、んで服属させるなり制圧するなりして情報を抜き取ってからザ・ハンド戦。」
まだ確固とした実力がない私が強大な組織に立ち向かうにはどうやっても情報が必須。
「イヴ、短期目標を変更。とりあえずこの大阪からザ・ハンドを追い出す、もしくは私に手を出したらどうなるかをわからせる。」
『目標を変更いたします。』
「とりあえず急いで用意出来たのはこんなもんか……。」
さっき殲滅とか色々怖い単語を使ってはいたが、マジで人殺しの道具を作るつもりはない。やるにしてもまぁ“ウデノホネガオレタ”、とか“アシクビヲクジキマシター”程度の『痛いけど命は奪わない、でも今後まともな生活送れるかは保証しません。だって命取りに来たでしょ? それぐらい許せよなァ!』というある意味チキンスタイルで行く。
前々、というか例の私はアイアンマンだ事件の後にスーツ作成のために色々武器素材にもなりそうなものを買い込んどいて正解だった。今自分が置かれている状況の危険度がどれくらいかはわからないけど早いに越したことはない。ニンジャが私の家を発見するのが先か、私があっちにカチコミしに行くのが先かの勝負である。
今回用意出来たのはグレネード弾も含めた特殊弾薬系統と携帯型近接武器、あとちょっとしたシューター。グレネード系は色々種類用意出来たけど材料の問題で数が少ないから貴重品。
まぁ一つずつ確認のために挙げていこうか。
最初に右腕の発射機構(肘より前、手のひら側)に装填したビーンバッグ弾、散弾銃に詰め込む暴徒鎮圧用の弾丸ね。鉛玉を布で巻いて貫通しないようにした弾丸、これを一般的に出回ってる散弾銃よりも弾速速めの180m/sで発射する機構です。
もちろん対人の実験してないからもしかしたら貫通したり体内に弾丸が残っちゃうかもしれないけど相手はニンジャだからね、多分大丈夫でしょう。大体胸辺りに撃って無力化が望ましいけど男性の幹部級ヴィランが出たら下半身の大事なところに向かって撃とうと思います、慈悲はない。
左腕の発射機構は二種類、ゴム弾を発射する機構と催涙ガスを発射するものの二つ。さっきのビーンバッグ弾もそうだけどアーマー内蔵型だから弾数は控えめ。ガスの方は大体一分ぐらいスプレー感覚で使えるけどゴム弾の方はスペースがなくなっちゃったのでそのままでは使用不可。ツインテールの内部にゴム弾用の弾帯を入れてるからそれと繋げないと使えない……まぁ不良品。
右腕が対ニンジャ・ヴィランとしたら左腕は比較的一般人向け、リパルサーで攻撃するときはエネルギーの問題で光学迷彩を切らないといけないんだけど、両腕の発射機構は切らなくても使える。一応ヤクザ向けてことで搭載しました。
あとは愛すべきトニーもスーツに搭載していた肩のミサイル発射機構ね。ここにグレネード弾を搭載してます。種類は二つでスタングレネードとエレクトリックグレネード、スタンの方はみんな知ってる閃光タイプでエレクトリックの方は電撃を辺り一帯に与えるグレネード。
スタンの方は一般人にも使えると思うんだけど……
「イヴさ、このエレクトリックグレネードちょっとやり過ぎた?」
『人体実験はしていないため確定ではないですが、人に向かって撃てば楽しいステーキ会場に早変わりするでしょう。ニンジャなる方々の人体強度が高いことを望むしかないかと。』
今更作り直すことできないし、もうこれはこれで。まぁニンジャって特殊な訓練受けてるだろうし死なないでしょ! ダイジョブダイジョブ!
あと、最後に両手にみんな大好き“スパイダーウェブ”。
……はい、なんかごめんなさい。作っちゃいました。
イヤだってね、無茶苦茶この蜘蛛糸液便利なんですよ! ほんの少しの液体を外気に触れないよう小指くらいのカプセルに入れるだけで軽く数百メートルは糸出せるんですよ! しかも蜘蛛の名に恥じない強度で! いや、私本当の製作者じゃないけどこれを一から完成させたピーター・パーカーってガチの天才やわ……、まだこの世界のピーター君は子供だろうけどマジで尊敬しちゃう。
それに+して前世からのLOVEもあわせたら……、いや! 私はトニー一筋! 浮気ダメ!
ま、話を戻しますとスパイダーマンたちはタイツタイプのコスチュームだったから蜘蛛糸液を入れるカプセルの持ち運びに一定の制限があったはず。だって防御が薄いからたまたま敵の攻撃がカプセルにあたって空気に触れちゃったら蜘蛛糸大爆発で大惨事だからね、そんなに数持てないのよ。
でも私はスーツという硬い鎧があるから大丈夫。スペース限界まで詰め込めるんですよね。両腕合計して大体……十数キロぐらいは余裕なんじゃないですかね? 外気の温度とか湿度にちょっと影響受けるみたいなんで長さは前後するけどマジ優秀。
スーツの構造としてはリパルサーをオフにしている時に手首を腕と垂直にすることで発射される、もしくは私の脳波かイヴの操作で発射させるって感じになってます。つまりリパルサーと蜘蛛糸は一緒に出せない訳ですね。
「ま、蜘蛛糸だし最悪引火しちゃうもんね。」
『伸ばした蜘蛛糸にリパルサーで引火してスーツも火だるま。……一応緊急用に消火剤を用意しますか?』
「そうしとこっか。スーツの内部スペースに空きがないから……、ツインテールのとこに消火器から拝借した薬剤少しだけ入れとこ。」
あと最後に近接武器として棒をご用意。ヤクザさんたちのメインウエポンが刀なのと、対ニンジャ戦である程度距離を取れるように長めの棒をご用意しました。近づかれないことが大前提だけどどうしようもない時があるしね。
普段はツインテールの下の方に内部収納しといて、必要な時にぱっと10㎝くらいの棒を取り出します。後はボタン一つでビヨンと伸びてチタン合金製の2.5m棒の完成ってわけです。
特にそれ以外の機能はつけてないんですが、今後先端に電流流れたりするようにしようかと思ってます。今回は弾薬の方に時間使っちゃったから後回し! ただの棒の完成!
「名前は……、カッコつけて“スティック”とでもしとくか。まぁ棒には変わりないんだけどね! っと、結構いい時間になっちゃった。」
用意出来た武装はこれで全部、ビーンバッグ弾スーツ内蔵20発右テールに補充60発、ゴム弾は弾帯で200発を左テールに格納、グレネードミサイルは各種6発ずつで予備はなし、スパイダーウェブはスーツ内蔵済み、あと近接用のスティック3本ずつを両方のテールに収納。
ちょっと弾薬系が少ない気がするけど材料をそんなに用意出来てなかったのでどうしようもなし、万能の蜘蛛糸くんに頼ることにします、はい。
「基本の戦闘はリパルサーだよりなんだけど、ちょいちょい混ぜていく感じでがんばろ。ニンジャがどれだけ出てくるかわからないけど百超えたらどう考えてもエネルギー切れするしね、そこはグレネードとかで一網打尽したり蜘蛛糸でぱくっといければ……、机上の空論になりませんように!」
そんなことを言いながら、ひと段落したのでちょいと休憩。ラボにある椅子にもたれながら時計を見てみればすでに朝の9時。昨日大学から帰ってきてからずっと作業してたけど、道理で外が明るいわけだ。作りかけの物もあったけど思ったより時間かけすぎちゃったなぁ。
『マスター、ここはお休みになってはどうでしょう。睡眠不足で作業しても成果は上がりませんし、戦闘などもってのほかです。何か異変があればお呼びいたしますので夜までごゆっくりと。』
「んで日が沈めば判明している片方のヤクザ集団にお邪魔して情報入手、そのままVSザ・ハンド戦ってわけね。りょ~、じゃあ寝てくる~。」
というわけで決行は夜! 明日というか今日の夜は長いことになりそうですね!
◇◆◇◆◇
「困るなぁタイフォイドさん、あんまり勝手な行動をされると。」
「あぁん?」
古典的な武家屋敷、その部屋の主が海外の出のせいか。それとも元々の持ち主がそのような趣味だったのかはわからないがアメリカナイズされたその部屋には畳が敷かれ、金屏風が並び、実用には向かなそうな鎧が所狭しと飾られている。
この部屋の主らしき女性は畳の上にソファを置き、その上に寝転がっている。くつろいでいるように見えながらその顔は不機嫌というほかない。
赤いニンジャを従えた赤髪の女と黒服たちを後ろに連れる男が対峙する。
「何ふざけたこと言ってんだテメェ。ウチに下る代わりにこっちは力を貸してやる、そういう契約だっただろうが。」
「えぇ、そうですとも。“ヤミノテ”の傘下に入る代わりにウチの対抗勢力である石井をつぶす、それが契約です。しかしながら勝手にこちらのシマを荒らすのはスジが通ってないと思いますがねぇ。」
「……何が言いたい。」
「確かに“白いアイアンマン”でしたか? それを探すのはありがたいことです、ご自慢のニンジャを使って大阪すべてを見通す。えぇ、大変すばらしいことかと。……しかしですね、片っ端から隠れてそうな場所を襲撃するのはやめてもらいたいという話です。」
「いいんですよ? 前までのようにあなた方と対立してシノギを削るって言うのも。今は亡きオヤジの意思に反した身ではありますが、石井もそういえば協力するでしょう。となれば一昔前に元通りというわけです。」
「ッチ! クソが。」
上から命じられたのはオオサカで目障りなヤクザどもの勢力を崩し、この街を支配下におくこと。そのためには目の前にいるウエダとか言うやつを消すのは早い話なんだが、それだと今度はイシイが邪魔になる。だからどっちかに加担して片方をつぶした後にもう片方をつぶせばいい。
(そういう説明をされて、金払いもいいからこの話を受けたのに面白くねぇ。ああいう力を持ってる相手は早いとこ本拠地見つけてこっちから仕掛けねぇと不利になるってのにコイツはみみっちぃな。 燃やすか……? いやそうなるとこいつが仕掛けてる洗脳が解けてヤクザどもが解放。イシイの戦力が増えて振り出しに戻るのか。)
持ち得る記憶から、表に発見されて周りに被害が出たとしても先に仕掛けた方がいいと判断するタイフォイド。二ホンという国の裏がほぼ“ヤミノテ”によって支配されているため表に出てもすぐにもみ消せるがゆえの考え方だったが、そうすると協力関係が崩れる。
協力が崩れてヤクザが元の集まりを結成してしまえばこのオオサカでのヤミノテ優位が崩れてしまうし、そうなるとヤミノテに従属しているヤクザどもがオオサカを旗印にして反乱する可能性もある。
組織自体がヨーロッパ方面に力を入れて人員も割いている今、本拠地である二ホンを荒らすのはあまりよろしくない。払われるカネも少なくなる。そうなるとタイフォイドとしてもヤミノテとしてもおいしくない。
(はぁぁぁぁぁあああ、なんで私がこんなややこしい話考えないといけないんだ。昔みたいに自由なフリーに戻るか? いやかといって金払いはいいしやめるのもなぁ……。)
「はぁ、はいはい。わかりました~! こっちから手を出すのはやめま~す! ……これで満足か?」
「えぇ、もちろんですとも。ちなみにその襲撃予定の場所、お聞きしても?」
タイフォイドと呼ばれる女性が顎でニンジャに指示をすると、控えていた一人がウエダの前に現れ紙束を渡す。彼についてきていたヤクザの一人が主を遮るように前に出、受け取りウエダに渡す。
「なるほどなるほど……、おぉ! これは早めに止めて正解でした。何しろ大阪は商人と職人の街ですからね、お金を生み出してくれる工場をつぶされてはたまりませんから。」
「そーかい。んで? お優しいウエダサマはどうやって見つけるんで?」
「何、簡単な話です。お友達を沢山つれてお願いしに行くだけですよ。従ってくれればそれでよし、そうでなければ気長に従いたくなるようにオネガイするだけです。」
「はぁ、そりゃあすばらしいことでございますね。」
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頂いた分だけ次話の投稿が早くなります。つまりガソリンください。