前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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怒りの矛先

 

 

 

 

「ジュノー、イヴと交代。そのままイヴが使ってたスーツで暴れなさい、ただしこの船には近づかないこと。」

 

 

彼女には悪いが、有無を言わせずサポートAIを切り替える。ジュノーだって馬鹿じゃない、何故自分が離されたのか、石を持ったスーツを近づけないように指示されたのか、それぐらい理解してくれるはずだ。

 

石は力になるが扱うのにはリスクがある。その上相手に奪われるリスクもある以上相手の手の届かない場所にある方がいい。

 

 

『……状況把握。お任せください、マスター。』

 

 

聞きなれた彼女の声が鼓膜を震わせる。少しだけ、精神が落ち着いてきた。いや整理されてきたといった方がいいか。

 

さっきまでジュノーと一緒にいたときは何かを教える、戦い方を見せるような意識が強かった。少し感情に振り回されるというみっともないところを見せてしまったが、そんなことを言い出したらイヴが蓄積した私のデータは全部そんなもんだ。彼女が持っているすべてが他の娘たちにも共有されていることを考えると今更のこと。

 

彼女が隣にいるだけで、精神が研ぎ澄まされ、最適化していく。どんな戦場でも彼女が隣にいた、今は心が切り替わっていくことがありがたい。心は熱く頭は冷静に、だ。

 

 

「……全く、大層な目標を掲げるよね。お前たちも。」

 

「なんの罪もない無関係な世界を数え切れないほど滅ぼした、それは事実だろう?」

 

「あぁ、事実だよ。」

 

 

奴、ツラヤバがそれを仕向けたとはいえ私が多くの世界をインカージョンで吹き飛ばしたことは事実。その中に目の前にいるサノスの世界が含まれていたとしてもおかしくはない。事実、数えたくないほどの世界を私は吹き飛ばしてしまっている。

 

私が両親を失ってからこの世界を起点とする並行世界は収縮をはじめ、ユキを失ったことでその速度は加速した。私の一番大事な人が死なない世界を望んだせいで、その数は加速度的に増えてしまった、元々収縮によってそれぞれの距離が縮まっていたところに新たな世界が生まれたわけだ。破壊された世界は元々あったそれの比じゃない。

 

そして自身の精神を壊し、イヴにユキの役をさせてしまうあの時まで。世界の収縮は続いていた。その過程において、衝突し、無に帰した世界はどれだけあるのだろうか。正直考えたくもなかった、そのせいで後回しにしていたと言われれば頷くしかない。

 

精神が壊れ、停滞を選んだことで世界の収縮は止まった。そして力を手放しその管理を娘たちに託した今、私の感情の起伏によって世界がどうなるかということはない。

 

 

(……私のせいか。)

 

 

私がもし、あの場で絶望しなければ。もし、私が彼女を失わなければ。もし、奴の企みに気が付けて居たら。もし、奴が何かする前に殺せていれば。すでに私には世界を生み出してしまう力はない、どれだけIFを考えようともこの限られた並行世界のスペースを圧迫させてしまうことはないだろう。

 

もうどうしようもないことを考えてしまう。

 

正直、サノスが集合してしまった時点でもうどうしようもない。なんの石も持たない奴であれば9人程度集まっている程度どうにでもなる。でも、彼らの手にはそれぞれの世界で集めた石がそろっている。幸い、誰も最後のピースは持っていない。いきなりすべてがなくなるようなことはない、だけど私が抑えられる石は限られている。

 

石の力ってのは強大だ、二年前に多重使用したときに嫌なほど理解させられている。

 

 

「だが、貴様が今ある世界を救ったことも事実だ。故に問おう。貴様の持つ力と、最後のソウル・ストーン。それを渡すのであれば我らはこの星から手を引こう。我々が手を下すのではなく、石の力によって公平に半分にする。貴様にとっても悪い提案ではないはずだ。すべてを失うのと、半分は残るのと、どちらがいいかは明白だろう?」

 

「……本当に。簡単な問題だよね。」

 

 

だけど、残念ながらもう決めてある。この世界にエンドゲームはやってこない。やらせるわけがない。

 

私にはあんまり時間は残っていないが、この世界に生きる人たちは今後もっと生きるだろう。他の世界を滅ぼしたのは確かだ、だがそれが。今いるこの世界の人が死ぬ理由にはならない。

 

ここですべてを止めるってことは、すでに決めている。

 

 

「では、答えを聞こう。」

 

「寝言は寝て言え。」

 

 

答えはもちろんNO。

 

そもそもお前らにご高説を垂れる権利も私に意見できる権利もねぇんだよ! あと勝手にその名前を使った代償、いつも通り命で払ってもらうからな! 私の前に出てきたことを後悔させてやる!

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「イヴ!」

 

『お任せください!』

 

 

相手の扱う石の力、9つのうち1つしか打ち消せないのであれば使い道を変えた方がいい。この世界に引き起こす現象の消去から、この身を保護し強化するためだけに石の力を使う。その分スーツの性能も私の基礎的な能力も増えるが、体にかかる負担も大きくなる。二重のスーツで自身の身に降りかかる悪影響の大部分をカットできているが、やっぱりちょっとキツイ。

 

けどまぁそうでもしないと多重リアリティでスーツだけ消す、とか。多重マインドで精神の乗っ取りとかもあり得るわけだからやるしかない。ここで耐えて少しでも奴らの数を減らせれば、その分後の私が楽になる。無理のしどころだ。

 

石の力をスーツに纏わせながら、ナノマシンによって外装を強化する。

 

 

「別世界の私を知ってるなら理解してると思うけどさぁ……! 推しが死んだ理由になったヴィランの言うこと聞くわけねぇだろうが! グリーンピース食って破裂しろゴラァ!」

 

 

サブリパルサーをまき散らし、部屋全体を砲撃する。カラーリングを変える余裕がないので緑色ではないが、口に入ればどんな頑強なタイタン人でも破裂する。つまりグリーンピースだ。ヨシ! 無差別に砲撃しているように見せかけているがちゃんと各所急所、特に頭部に当たる様に振りまいている。まぁそんな簡単に殺せるわけでもないだろうし! かく乱しながらチマチマ削って確実に殺せるタイミング狙っていくぞ!

 

 

『お任せを!』

 

 

ほんとなら敵の増援が来る前に仕留めたいけど9人同時を相手にするのはさすがに無理、時間かかるけど一人ひとり丁寧にやるべきだ! 無差別砲撃もジュノーならちょっと不安が残るけど、歴戦でずっと私を見てきたイヴなら大丈夫! 攻撃しながら私の動きを予測して道を作ってくれる! 

 

サノスというパワーファイター相手に接近戦を挑むのは少々非合理的だが、ちょっと今は目の前の奴、さっきまで話してたこの世界のサノスを殴りたくてしょうがないから殴ることにする! というか私の遠距離攻撃の中心であるビーム系が打ち消される可能性が高いから、もう近接で確実にダメージ与えた方が合理的かもしれねぇよなぁ! オラ! 顔面にパンチ!

 

 

「そもそもさぁ! 勝手にアベンジャーズの名前使ってる時点でお前のこと許す訳ねぇよなァ!」

 

「ふ、それもそうか。」

 

 

サノス一人程度なら押し切れる自信はあるけど全員が同じような思考で完成度の高い連携をしてくるであろうサノス9人はさすがに無理! ほらもうリアリティでリパルサーの攻撃無効化して攻撃してくる奴おるし!

 

 

「ッ! 邪魔ァ!」

 

 

前面にナノマシンでブースターを生成し、噴射させることで目の前にいるサノスへの妨害と回避を同時に行う。だがそれも読まれている、相手は人数がいる上に強力で、戦慣れしている。こっちの行動を読みながらこっちのスペースを縮めてくるぐらいわけないってことか!

 

すぐ後ろまで距離を詰めてきているサノスに対して、脚部に噴射機構を増加させ頭を地面に。手を地面へとあて捻ることで回転の力を込めて奴に蹴りを放つ。

 

遠心力とナノリアクターによる加速、そしてパワー・ストーンによる増強も合わせた結構な威力の蹴り技だったが、簡単に、片手で受け止められ、掴まれる私の足。

 

単純な力の差だけじゃない、一点に集中させたはずの力が分散させられた。体の重心をずらすことで接触する位置の変化、インパクトの無効化、散らばった力をそのまま受け流す技術。そしてそれを支える身体能力。

 

 

『離脱します!』

 

 

そのまま足を握りつぶされるのを回避するために、外装を敢えて暴発させることで難を逃れる。装甲ごとの連結をナノマシンで溶かし、同時に内装のナノスーツの強度を上げる。破裂した装甲は奴の体に突き刺さるが、効果は薄い。だがほんの少しでも隙ができたことは確か。そのまま姿勢を低く持ったまま後方へ。奴らが作ろうとした包囲網からの脱却をめざす。

 

 

『外部装甲の再構成完了、現在姉妹の救援を……、直上!』

 

 

外装の再構成を一旦中止、地面についている両手にナノマシンを集中させ爆発物を生成させる。完了と同時に転がる様に横へと退避。その場には別世界の彼が愛用しているのだろう大剣が振り落とされていた。あっぶね、もうちょっとでスーツごとカチ割られるとこだった。

 

 

(ちょっと無理にでも削った方がいいか!)

 

 

奴が刃を振り落としたことで瞬時に接地した爆弾が起爆、生成する時間が足りなかったためそこまで大きな爆発ではなかったが視界と聴覚を奪い、怯ませるのには成功できたと考える。回避のために転がった地面を逆再生するようにブースターを加速。足先にナノブレードを生成させ、先ほどと同じように回転を乗せて怯んだ奴へと攻撃を仕掛ける。

 

 

「させん。」

 

 

が。叩き落される。

 

サポートのために待機、もしくは機をうかがっていたのだろうサノスからの攻撃。重い鉄の塊が私の背を強打し、そのまま吹き飛ばす。外装が割れ、内装のナノスーツまで衝撃がやってくる。

 

おそらく背後からパワーストーンによる投擲。いやらしいことに直前までリアリティで存在を隠していたせいで察知ができなかった。その上確実に一人減らすために攻撃に回転を乗せてしまった、そのせいで回避や受け身を取るのに失敗。……焦り過ぎた。

 

 

「ッ! イヴ!」

 

 

吹き飛ばされた先にもサノスがいる。やっぱり9人は多い。このまま地上戦になってくると蹂躙される未来しか見えないので、少しでもこっちが有利な空中戦へと無理やり移動させた方がいい。

 

さっきまでかく乱のために使っていたサブリパルサー、その打ち落とされた物も含めて与えていた命令を変更。その形を保持させていたナノマシンはすぐさま自身の体を変形させ反重力生成装置に、そのまま天井に張り付きこの部屋から重力を失わせる。

 

 

『この船の重力生成装置を発見しました! ハッキング開始します! 完了まで180秒!』

 

 

この部屋から重力を奪い取ったとしても、重力は力の一種。パワー・ストーンを使えばもとに戻すことができる。またもとに戻さなくても自身だけを対象として重力を生み出したり、重力の方向性を変化させることで空を飛ぶことも可能だ。だけど無意味なわけじゃない、ちょっとでも石の力を削げればいい。

 

 

「了! 次、攻撃!」

 

 

さっき設置した反重力装置はふんわりと浮くような生易しいもんじゃない。元々下方向へと引っ張ていた重力をそのままに、人体への配慮なんか知らないというレベルで上へと引っ張るもの。来ると解っていれば、もしくは私のスーツのように元々重力対策をしていれば話は別だが、普通は上に向かって高速で落下する。

 

その隙を逃さぬように、奴らの足裏が地面から少し離れた瞬間。両手にバスターキャノンを生成する。度重なる改良と、改良型縮退炉のおかげでエネルギー問題も威力の問題も改善した。参考にさせてもらった前世の映像と同じように山一つ程度軽く吹き飛ばせる砲門を二門、放射する。

 

標的は二つ、おそらく重力対策をしていなかったサノス。青い光が部屋中を包み込み、轟音と共にすべてを消し飛ばすように放たれる。

 

 

「……ッチ、削り切れないか。」

 

 

光が晴れるとともに飛んでくる攻撃を空中で避け、わざわざパワー・ストーンで空中戦を挑んできたサノスをさばきながらさっきの攻撃の成果を確認する。

 

片方がガントレット含めた片腕全損、もう片方は全体にダメージを与えられているが目立った損傷ナシ。削れたのは削れたが思った以上に効果が薄い。

 

石を用いない最高火力でこれだ。……正直、嫌になってくるレベルの力量差だよね。

 

 

 

(どこまでやれるかわからないけど……、やるしかない。)

 

 

 

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