報告が、飛んでくる。
私がサノスたちを抑えていることでようやく状況がこっちに傾いて来た、いや傾いているは私の希望が入り過ぎてるか。改善してきたって言うべきだよね。
この母艦の周りを飛んでいた他の艦船たちはあらかた落とせたらしい。イヴと代わったジュノーや宇宙に上がって戦っているヴィジョン、それに娘たちが頑張ってくれたみたいで母艦を一つ落とすことができたって報告が飛んできた。今から二隻目の破壊に向かうってことも。
もう少し私がここで時間を稼げれば、この地球付近にワープアウトした三艦隊のうちその二つを破壊できるってことだ。頑張れば頑張るほど地球で戦っている皆が、そして後からくる増援の対処が楽になる。
地球の方は何とか硬直状態、ってとこらしい。ポップちゃんたちが上げてくれた報告、娘たちの残弾や、ワカンダ兵の人たちのスタミナがもうなくなっちゃって大変らしいけど、後を任せた娘たちやソー。アベンジャーズのみんなが何とか押し返しているみたい。敵の数と、原作よりも増えた並行世界のブラックオーダーたちに苦戦しながらだけど、降下する追加の増援をこっちで阻止できてるから何とか硬直状態。何かあれば押し返せる、ってことも。
敵の増援、木星や火星の子たちが抑えててくれた奴らも、少しその侵攻速度を遅くしているみたい。一度体を破壊されたジュピタが残った子たちや体を変えた子たちを引き連れてさらに遅延戦闘を頑張ってくれている、それまで攻撃を防いでいたサノスがこっちにいる分、削りやすくなっているみたい。
「……ッ。」
ほんと、ほんとにもう少しだけ頑張れば状況がひっくり返る。そこまで来ている。私か、私が頑張れば、全部ひっくり返る。ジュノーたちが船を落とせれば手が空く、他の場所の状況を好転させられる。本当に、もう少し。もう少しなのに。
足が、動いてくれない。
ナノマシンが度重なる攻撃によって役目を終え、装甲にひびが入り、割れる。
この部屋に広がるのは、私を助けに来てくれた子たちの残骸。その、体だったものたち。
その一つに急いで手を伸ばし、分解し、自身の体を修復する。
「ゥグ……、はは。きついね。」
何とか奴の攻撃を喰らう前に生成することはできたが、攻撃と共にその役目を終え、砕け散る。衝撃を殺し切ることができずに、そのまま壁に叩きつけられてしまった。
口の中を切ってしまったようで、さっきからずっと血の味がしている。視界もぼやけているし、音も聞こえなくなってきた。治癒因子が作用していない。なんだか死が少しずつ近づいているようで、嫌になってくる。
視界の先では、娘たちがサノスの足止めをずっとしている。壊されて、作り直して、壊されて。何度も何度も破壊されても、新しい体をもってまた立ち向かっていく。掴みかかり、数で押そうとして。私が傷つけた奴から何とか殺そうと、何とか私の負担を減らそうと。
だけど、敵わない。
ちゃんとしたダメージを与えられたのは最初の砲撃以外に数回だけ、腕や足を破壊できたサノスはいるけど、一つも数は減っていない。私には劣るけど科学技術を進めたサノスもいたのだろう、石の力ですぐに義手や義足が生成されパワーバランスは一向に傾かなかった。
殴り、蹴られ、叩きつけられ。ちょっとずつ、ちょっとずつ私の命綱が消えていく。いくら石の力で自身を強化できたとしても複数の石を同時に使われると出力で負ける、負ければダメージの分だけナノマシンが減り、徐々に私の命を長らえさせるのに必要な分がなくなっていく。私の体に宿る治癒因子はナノマシンが生み出すエネルギーによって活性化する、つまりそれがなくなれば私は終わりだ。
石の力は強大だけど、その分反動も大きい。攻撃を受けてナノマシンが減れば、反動を抑えるのに必要な数も減る。イヴからもらった補給分はとうに消え、攻撃を受けて地面を転がる隙に、破壊されたスーツの破片に手を伸ばし、何とかそれを再利用した。でもそれで保てるわけがない。
少しでも時間を稼ぐために、少しでも私の助けになるために、ひっきりなしに娘たちが私を助けに来てくれる。ナノマシンを届けようと来てくれる。……でも、無理だった。いくら石に対抗できるように体を作っていたとしても限界がある。複数の石によって、次々と破壊されていく子供たち。私に命綱を届けようとしてくれた子は、リアリティ・ストーンによって体を消されてしまった。
彼女たちには体は部品の集合体に過ぎない、どれだけ破壊されようともバックアップがある限り、ネットワークが繋がっている限り存在の消滅にはつながらない。通信が確立された太陽系では彼女たちがいくら体を失っても死ぬようなことはない。だけど、目の前で娘たちの体が消えていくのをずっと見せられるのは、私のためにすべてを投げ打って時間を稼ごうとする娘たちを見るのは。
私は、こんなことをするために彼女たちを作ったわけじゃない。
『……マスター!』
昔はこんな状況でもあきらめずに前に進めたんだけど……。
体が動かなくなってしまったせいか、娘たちが消えていくのを見続けたせいか。それとも隣にいてくれると信じていた人が私のせいでいなくなってしまったせいか、もう次のことなど考えていないせいか。
戦いに集中しないといけないのに、余計な考えがずっと浮かんでは、消えていく。あはは、随分と弱くなってしまったものだ。
壁に叩きつけられてから、何故かもう立ち上がれるような気力が残っていない。……正直、ここで死んでしまうっていう選択肢も私には残されている。この世界に元々私が必要になる場面なんかないし、この身に宿っていた不釣り合いな力も取り除き娘たちに託した。私がここで殺されたとしても並行世界に与える影響は0に等しい、彼女たちなら私よりもっとうまく、扱えるはずだから。
この戦いの後にやること、やりたかったこと。この世界にやり残したことがないわけじゃない。……だけど、それが立ち上がる気力に繋がらない。無理をすれば、まだ立ち上がれる。無理をすれば、まだ戦る。
でも、それで私が得るものと、失うもの。
……絶望的な状況で、立ち上がり前に進む人たちのことを、過去。私たち傍観者はヒーローと呼んだ。それに憧れた私は、この世界のことを理解した時、それになろうとした。幸い、力と技術はあった。ここまでやれてしまった。助けられてしまった。一つのサーガの終わりまで、たどり着いてしまった。
『マスター! マスターしっかりしてください!』
ようやく、言語にできるような気がする。私はずっと死に場所を探していたんだって。
みんな、少しぐらいは悲しんでくれるだろう。そう甘い推測ができるぐらいにはみんなと仲良くしてきたと思う。傲慢な考えだったとしても、誰かの死は起爆剤になってくれるはずだ。私の死に、少しでも意味があればそれでいい。
……いや、どうせ死ぬなら全部もっていくべきか。
閉じてあった空間から、最後の石を取り出す。彼女が、運んできてくれたもの。
魂の力がこの世にあらわれ、その波動は一帯を揺らす。同時に、サノスたちもこの存在に気が付く。奴らが欲しがっていた最後のピースがここに。今にも死にそうな、壁に背を預けながら座り込み、腕を上げるのもやっとな私の手の中に。
何人かが、娘たちの攻撃を搔い潜り、この石へ手を伸ばそうとする。
だが、届かない。
ソウル・ストーンは魂を司る、この世界にいるすべての生物が持つ魂を。それは別の世界の存在である彼らも同じ。故に、彼らの魂が、私に近づくことを拒絶する。破壊することは可能。だがそれをすれば私の体は、持たない。だから、拒絶だけ。せっかく使うのだからすべてを連れて消えてしまおう。
私に近づくことを拒絶された魂の持ち主たちが、吹き飛ばされる。
ナノマシンはすでに残っていない。奴のことを思い出すから使いたくはなかったが、終われば思い返すこともない。ツラヤバが使っていたテンリングスの一つ、ナイトブリンガーからエネルギーを取り出し左手へと纏わせていく。単純な負のエネルギーによって生み出されたそれに、ひとつずつ。丁寧に石を嵌めていく。
私たちが最初に出会った石、スペース・ストーン
ロキが地球へと持ち込んだ、マインド・ストーン
過去のアスガルドの地で手に入れた、リアリティ・ストーン
ガーディアンズたちが手を組むきっかけとなった、パワー・ストーン
サンクタムの魔術師たちが守り抜いて来た、タイム・ストーン
そして、ユキが私に残してくれた。ソウル・ストーン
全て、嵌めてしまえば、全て、揃えてしまえば。それは宇宙と同一の存在となる。これまで私がしてきた相殺も、意味を成さない。
誰にも邪魔されずに、一つの物語が終わり。新しいお話が始まる。
あとは、指を、鳴らすだけ。
まぁ、一人の人間の終わりなんてこんなものだ。
親指を、中指の下にいれ、指を。
『『お母様!』』
意識が、視界が、聴覚が、戻ってくる。
黒い負のエネルギーを固めたはずの私の左手には、いつの間にか白い装甲が戻ってきている。そして、何よりも。
あの人の……、違う。あの子の、黒い背中。
『死なせない! 死なせるもんか! お姉ちゃん速く!』
『解っています!』
ジュノーが運んできたナノマシンが、私の体をゆっくりとだが覆っていく。いつの間に、彼女が。
指輪の力によって願いをかなえようとしていた左腕はすでにナノマシンによって全て覆われ、石との連結も外されてしまっている。イヴが、真っ先に石を使わせぬようにしたのだろう。胸部にリアクターが生成され、自身の身に宿る治癒因子が徐々に活性化していく。この世界にいる時間が、少し伸びたみたい。
私に被害が行かないように、目の前でジュノーが戦っている。サノスたちの攻撃を、私が預けた石を使って。これまでの彼女なら不可能な動き、私の動きと、イヴの動き。それを合わせて、自分の物にしている。
『いつか! お別れの時が来るってことは解ってる! でもそれは今じゃないの!』
『そうです! マスターの命は決して奴らの物とつり合いが取れるものじゃありません! それに! 自分たちの母親が死のうとしているとき! 止めない娘なんかいません!』
ナノスーツが修復され、徐々に白い外装が私を覆っていく。
……あぁ、そうだよね。約束してたよね。
私たちの時間を稼ぐために戦っていた娘、その最後の一人の体が地に落ち、すべてのサノスの視線がジュノーの動かすスーツへと集中する。私が作り、イヴが動かし、ジュノーへと渡された。その過程がどうであろうとも、姉たちが蓄積したものを学習し、私の後ろをついて来た彼女は、目の前で私を守ろうとしている。
全てのサノスが、彼女に向かって。
石の力を、その拳を。
「『ソウル・ストーン』」
その攻撃全てを、拒絶する。
「ッ……、ふぅ。悪いね、イヴ。ジュノー。ちょっとネガティブになり過ぎてたみたい。」
ここまでやられて、立ち上がらないのは母親じゃない。ヒーローじゃなくても、せめて母としては。
ストーンの反動、全身が歪むような痛みを我慢して、その痛みが伝わらないように顔を作る。前を向く。
「助けに来てくれてありがと、ジュノー。イヴも私を止めてくれてありがとね。……さぁ、こうなったら全員倒して凱旋でもしようか!」
「うん!」
消耗しすぎたせいで石はもう使えそうにない、スーツ自体もナノマシンで0から作った急ごしらえだ。でも、やれることはある。すべての石を空間に収め、指輪の力をもう一度引き出す。奴が溜め込んだ負のエネルギー、使いたくないなんか言っている場合じゃない。
白い装甲の上に、紺のエネルギーをまとめ硬質化させる。両腕に纏うのは世界が壊れたときに生じた負のエネルギー、私が原因で滅んでしまった世界の怨念。私が憎いのは解ってる、でも。この世界を守る為に使わせてもらうよ。贖罪は、全部終わった後に。
近づくものを全て傷つけるような腕甲へと変化したそれを振るい、サノスたちへと対峙する。
「まだ私一人に対して復讐しに来たのなら喜んでこの命ぐらい渡してやったさ。でもね、この世界だけじゃなく他の世界もお前たちは半分にするつもりなんだろ? ……ならさ、全力をもって止めるしかないよねぇ!」
動かない足を無理やり動かし、指輪に残されていた負のエネルギーを噴射剤としてサノスたちへと襲いかかる。同時に床に散らばってしまった娘たちの体の破片を回収しながら、この状態だってどこまで続けられるかわからない。やれることは全部やる。やらなきゃいけない。
声を出せ、無理をしろ、私。
「あぁぁぁああああああ!!!!!」
爪を形成し、そのまま奴へと向かって突き刺し、吹き飛ばす。確殺とはいかない、でもダメージを積み上げることは無意味じゃない。子供が、見ている。子供が、戦っている。私が、母親が、守らないと。すべてを。
「いくら声を出そうとも現実は変わらない、お前なら理解しているはずだ。」
「気の入れよう、だってのッ!」
振り落とされた刃をクロスさせた両腕で受け止め、無理矢理叩き割る。さっきからうるさい怨念どもを叩き潰し、その鬱憤を晴らすように全力で振りかぶり、落とす。負の感情が、エネルギーが、私を彼らと同じ場所まで引きずり込もうとささやいてくる。でも、悪いけど顔も見たことのないような奴のためにかまってやる暇はない。
私は所詮鉄の鎧がなければ戦えない人間だ。その鎧で叶わなかったのなら、どんな手でも使えるなら使うしかない。
『ッ、マスター!』
「退かない! 絶対に退かない! あの時私が下がったせいで! 使い物にならなくなったせいでユキが死んだ! 私はまだ戦える! 殺してやる! お前ら全員地獄に叩き落してやる!」
『……最後まで、お供します!』
子供を置いて、逃げられるかっての!
指輪から更にエネルギーを引き出し、他者への攻撃の意思を持たせて放射する。弾速は遅い、だが見るだけでも神経を逆なでするような負の感情に触れたいと思う奴なんかいない。必然的に、戦闘に使えるスペースが減る。そのまま突っ切ってもいいがその場合はこっちで迎撃させてもらう。
サノスの一人が、自身の武器を大盾へと変化させ、そのまま突っ切ってくる。そして背後からは重量武器を振り回すのが二人。
『右!』
イヴの声に従い、後方の右側のサノスが振り落とす武器に裏拳。そして体重移動を持ちながらその切っ先に手をかけ宙に。純粋な身体能力じゃない、スーツと指輪の力で無理やり体を空へと浮かばせる。
大きな円を描くように足を回転させ、そのまま両足をサノスの顔に。負のエネルギーを活性化させ足裏に牙を生成し、全力で踏みつける。肉の、感触。視界の外ではそのまま私に向かって刃を振り抜こうとしている敵と、背後から迫ろうとしてくる敵。後ろの盾持ちが近づき過ぎている、このまま今踏みつけている奴を足台にして回避するのは難しい。
「起爆。」
故に、爆破。足裏にナノマシンを集中させ、瞬時に爆薬を生成。そして負のエネルギーによって生み出された牙の部分と合わせ、内部から爆発させる。同時に自身にかかるGを増加させ地面へと、転がる様に回避しその場から離脱する。
『残骸からナノマシンを補充、残り72%。現在補給班及び救援部隊を動かしていますがたどり着けるかはわかりません、使い過ぎないでください、マスター。』
「わかってる、ッ!」
姿勢を立て直したところに飛んできたパワー・ストーンによる攻撃を避けながらそう答える。壊れた体の破片を無理やりナノマシンで分解してもう一度作り直す、私のスーツと娘たちの体が同じ素材で出来ているからこその荒業。回復はできるけどその補充率はやっぱり低い。
……けど、さっきので一人殺せた。ようやく一人だ。
頭部が完全に破壊されたサノス。反動のダメージは無視できないけど、数が減るだけで大分楽になる。私の体が持つギリギリのラインで、もう二度と復活できないようにソウル・ストーンを……。
「させん!」
「ッ!」
指輪を介して石を取り出そうとしたところに、拳が叩き込まれる。両腕をクロスさせ脱力し、そのまま吹き飛ばされる。……私へのダメージは抑えれれたけど……。
複数のサノスが同時にタイム・ストーンを使用し、先ほど私が爆破したサノスの体の時間を巻き戻す。私が殺したサノスのストーンを渡したジュノーも他の奴らと戦っていて手出しができない。弾け飛んだはずの奴の肉片が巻き戻っていき、私の牙が突き刺さる前まで戻される。……振り出しに戻されてしまったわけだ。
「間に合ってよかった、我が友よ。」
「感謝するぞ。」
……数が、足りない。もっと力のある者がいれば、石を使えないほどにかき回せる仲間が、数がいればまだ何とかなる。十全な装備がそろっていた最初の方ならそれもできたけど、今はもう無理。ジュノーが扱う体も連戦続きでそろそろ補給が必要になってくる。だけどここでサノスたちを押さえておかないと他の戦線が崩壊する。
奴らが欲する石の持ち主であり、未だあの力を持っていると思われている私がここに残るのがベスト。
『マスター!』
イヴの声、何……、ッ!
自身の真横に、スペース・ストーンによって生成されたゲート。まずい、時間を巻き戻すことでサノスが復活したことに気を取られ過ぎて察知できなかった。これだから戦闘中は視野狭窄になるから嫌なんだよ!
ここまでゲートを確立されてしまえば同じ石同士での相殺は難しい、そもこの至近距離で開かれたら相殺する時間も、防御を固める時間もない。おそらくジュノーが抑えててくれた奴らの一人、私が吹き飛ばされたことで集中が鈍り、フリーになったサノスの一人。目の前の敵を見ながら全体をつぶさに確認していたのだろう、私の気が戦場から離れた瞬間を狙ってきた。
青い空間から伸びる奴の腕。全力で振り抜かれた拳はパワー・ストーンの力を内包しており、触れたものをそのまま吹き飛ばす。
完全に虚を突かれた私は、その勢いを殺すことも、受け止めることもできなかった。
『ママ!』
イヴが操作するナノマシンによる防御も、指輪による防御も間に合わずそのまま吹き飛ばされる私。ジュノーの悲鳴に近い声が聞こえる。
降りかかるのはパワー・ストーンによって生じた斥力。殴られた衝撃で吹き飛ばされ、その速度を後押しするかのように、加速していく。壁にぶつかってもその勢いは止まらず、嫌な音を醸し出しながら凹み、突き破ってしまう。力は障害物じゃ止まらない、無理矢理止めようとすれば私の体が押し付けられて破裂してしまう。
指輪からエネルギーを取り出し全身を保護、そしてイヴが外装に回していたナノマシンを全て私の体の保護に回し始める。この船の配管や装甲を突き破りながらさらに加速していく私の体、イヴのおかげで少し降りかかる衝撃はマシになったけど早く復帰しないといけない。
エネルギーの放出から空間への連結へと指輪の使用を変え、パワー・ストーンを取り出し斥力を解除しようとする。瞬時に紫の光が石から発せられるが……、すぐに掻き消えてしまった。
相殺された。
ジュノーのメインカメラに映る映像を見れば視界の端にいるサノスが石の力を行使している、止められない。奴らの前にジュノーだけが残されてしまった。ダメだ、早く、早く向かわないと。
軋む体を無視して自身にかかる力を相殺するようにブースターを生成するが……、意味がない。さっき私が相殺したことが奴らの間で共有されてしまったのであろう、私を弾け出す速度が、力がより大きくなる。
『マスター! 救援部隊を突入させてパワー・ストーンを切らせます! それまで体の保護に努めてくだ……ッ! 補給班支給こっちに!』
イヴによって相殺しようとしたナノマシンが全て体の保護のため移動を始める、それと同時に最後の外壁を突き破った私は宇宙へと放りだされた。
私が進む方向には、青い大地が。地球が。
この体と残ったナノマシンの残量。指輪の最大出力。
更に加速する私の体と、地球までの距離。大気の壁。
燃え尽きる、か。
レーダーの端っこで、ナノマシンをもって全力でこちらに向かおうとしている子供たち。どう考えても間に合わない。イヴがほんの数秒前に出してしまった結論と同じ答えにたどり着いたころには。
視界の端に、赤い線が走っていた。
両手足を捨てて胴体と頭部だけ残す、不可。途中で燃え尽きる。
……子供たちがサノスを止めてくれることに賭けて。
全身を守る様に指輪からエネルギーを放出し、円錐状の壁を作る。負の感情が、別世界の怨念たちが徐々に重力によって吸い込まれていき、空気の壁によって燃え尽きていく。すぐに限界を迎えてしまった壁を新しく張り替えるようにナノマシンによって最後の抵抗が始まる。
必死なイヴの声が、子供たちの声が。
赤熱し、徐々に剥がれていくナノマシンたち。
一つ、一つと消えていき。
最期
「おい、勝手に死んでんじゃねぇぞ。ドロッセルッ!」