前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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今までで一番長いです。

最後まで、お付き合いくださいませ。


前世から愛をこめて

 

 

 

「っと!」

 

 

奴の前に、降り立つ。キャプテンとソー、それにトニーが最後のサノスを抑えててくれたみたいで。異変が起きたことを理解したのか、それともたまたまなのかはわからないけど最初の7人全員がこの場に集まる。

 

これまでの戦いのダメージに、おそらくストーンの力によって吹き飛ばされたのであろうキャプテンをソーが立ち上がらせ、トニーが地面に降り立って顔の装甲を格納する。ナターシャはチタウリから強奪したのであろう乗り物を乗り捨てて、クリントは近場にいたみたいで小走りで現着だ。ハルク? 飛んできた。

 

 

「ひゃ~、みんな無事そうで何より!」

 

「みんな結構ボロボロよ?」

 

「そうだぞツグミ、ほらキャプテンも……、いつもよりちょっと元気がない。」

 

「大丈夫、まだやれるさ。」

 

 

そんな軽口はほどほどに、みんなの装備に私のスーツから捻出したナノマシンを補給しておく。クリントは矢を使うだろうからちょっと多めに、ナターシャとキャプテンは傷の回復用に。ソーは……、ごめんちょっと雷撃にナノマシン耐えれないと思うからナシね。

 

 

「気にしなくていいぞ。」

 

 

ならよかった、私の分がちょっと少なくなっちゃったけど……。まぁイヴがなんか用意してくれてるみたいだし何とかなるでしょう。何とかならなかった場合は気合と根性で何とかするから問題なし。今のお嬢様は元気いっぱいだからね! アドレナリンドバドバでハイって奴。とっても気持ちい。終わった後のことがちょっと怖いがそんなの気にしない。

 

さて、お遊びはほどほどにしてなんかまた厄介な感じにパワーアップしてそうなサノス君をどうにかしますか。

 

彼の周りには自身が持っていた三つのストーン、それに加えて他のサノスが持っていたはずのストーンが全て彼の周りに集まっている。おそらく彼らも自分たちが死ぬ可能性を考えていたのだろう、ストーンに何か細工をしておいて残り一人になった場合すべてのストーンがそこに集まる、みたいな。

 

 

「……それで? サノスがたくさんいたことも驚きだが、あれだけインフィニティ・ストーンを浮かべて何したいんだあいつは。」

 

「宝石商でも始めるんじゃないか?」

 

「まぁマルチバースなんでもアリだからねぇ。」

 

 

便利な言葉だよな、と思いながら構える。石の数が数だ、二年前同じようなことをしたから解る。生半可な覚悟で勝負を挑めば全滅もありうる。

 

……でも、ま。全然負ける気はしないんだけどね。

 

どれだけ石を集めようとも体には限界がある、いくらサノスが頑張ってもそのすべてを使い続けることはできない。それにこの戦場には石の無力化ができる人たちがいるし、私だって過去から借りてきた石で相殺できる。全部無力化することはできないだろうけど少しぐらい弱めるくらいわけない。時間を掛けながら奴の体力や集中力が切れるまで粘って、ほころびが出た瞬間を狙う。

 

それに、みんながいるもんね。

 

 

「キャプテン。作戦は?」

 

「みんなで、戦う。」

 

「なるほど、簡単でいいね。」

 

 

トニーの問に、彼が答える。作戦なんか最初からいらない、なくてもみんながどう動くか、手に取る様に解るから。

 

 

『マスター。』

 

 

イヴに呼び止められ、踏み込もうとした足を止める。石を扱うサノス相手と戦うとすれば一番時間を稼げるのは私。そう思い前に出ようとしたが、彼女に止められた。それと同時に彼女から私への贈り物がディスプレイに表示される。……全く、いつの間に用意したやら。

 

私の真後ろに降り立つのは、ジュノーが操っていた『エンプレス』という遠隔操作専用のスーツ。すでに中身は彼女からイヴに代わり、暇になったジュノーはいつの間にか私のスーツに帰ってきている。その黒い鎧が中央から半分に割れ、私を包み込むように補強してゆく。私が設計していない機能、イヴが私のためにと勝手に改造したスーツ。黒かったそれはナノマシンによって白へとその色を変えていき、私が纏う鎧の三層目となって生まれ変わった。増えすぎても邪魔だからって理由で二本に減らしていたTailも倍の四本に。

 

 

『装甲の底上げと私とジュノーの二人体制で演算能力の向上、石の使用も我らがやらせていただきます。敵が想定よりも早く、また多かったため戦いながら内部で製造を続けていましたが……』

 

 

増えたTailにはナノマシン生成機構が盛り込まれていますが重要性は低いため盾としてお使いください、彼女の説明がそう続く。そしてディスプレイの端っこではウチの末娘が気合を入れ直している。……有効に使わせてもらうね。

 

縮退炉を、リアクターを回し、三層目の調子を確認する。……うん、いけるね。

 

 

「いこう。」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『ジュノー、合わせなさい。』

 

『うん!』

 

 

「はあぁぁぁあああああああ!!!!!!」

 

 

 

距離を詰め、石によって作られた防壁を超え。無理やりソウル・ストーンのエネルギーを奴に向かって叩き込む。一つ一つの出力だけ比べればこの石に勝るものはない、だがどうやっても数の問題がある。いくら単体で勝っていようとも数で押されれば貫けるものも貫けない。空間の力によって何重にも重ねられた防御壁によって阻まれた私は迫りくる反撃を避けるために後ろに飛ぶ。

 

ほとんど体が動かないことが逆に良い方向に進んでいる。脳波と二人のサポートで思考と行動の間に生じるずれがない、体も内側のナノスーツによって動かしているからこそできることだ。それに、私が避けきれないものは娘たちが石を使うことでギリギリ掠らせる程度に収めている。

 

 

「クリント!」

 

 

私がそう叫ぶよりも早く彼の手から矢が放たれる、娘たちによる姿勢制御によって生まれた射線。それを見逃さずに放たれたソレは防御壁へと突き刺さり、爆散する。変化したナノマシンによって生じた煙幕はサノスによってすぐに取り払われるが、一瞬でも視界が奪われればそれでいい。

 

奴の視界が晴れる瞬間に叩き込まれるのはソーの雷撃とトニーのリパルサー。今のサノスにとってほとんど意味のないものだが防御壁が一瞬でも崩れてしまえば致命傷に繋がるもの。防御にリソースを割かねばならない。

 

二人の攻撃と拮抗するように放たれた石による熱線の威力は本来の力を十全に生かし切れていない。視界の端で私がハラスメント攻撃をしながら彼の周りを漂う石を破壊しようとしたり、イヴがリアリティ・ストーンで生成したサノスを囲う遮蔽物からナターシャが銃撃を加えてたりするからだ。

 

もちろん攻撃をすれば反撃は帰ってくる、だがそれを受けてやるほど私たちは優しくない。私たちは空を旋回することで、ナターシャは障害物たちの間を縫うように走り回ることで。しかも彼女は爆発物の投擲というお返しもしている。いくらダメージはなくてもその閃光は視界を遮る。

 

彼女が逃げ回るために必要な遮蔽物や、私たちの装備をリアリティ・ストーンで消去しようとしても、こっちには装備を必要としないすごい奴がいる。バナーの聡明さとハルクの力強さを合わせて彼らはサノスの懐に潜り込む。力しか持たぬ彼だけではできなかった芸当、戦場を広い視点で見、隙を見つけ、力が発揮できるまでの道を示す。今のハルクにはそれが可能だった。

 

 

「ツグミ!」

 

「りょ!」

 

 

キャプテンが飛ばしてくれた指示通りに動き、奴の石を指輪の異空間へと格納する。たった一つだけだができるってことを見せるのは一番重要だ。そして自身の力の一部が消えるってことは予想していたとしても思ったより意識を割かれてしまうものだ。

 

その隙を逃さぬように、イヴたちが奴の防御壁にほんの一瞬、ほんの少しだけの歪を生じさせる。そこを叩けないほどウチのキャプテンは甘くない。

 

固定された盾と共に振り抜かれた右手はサノスの胴体を捕らえ、確実にダメージを蓄積する。本来の身体能力であれば難しかっただろうが今の彼はナノマシンの補助を受けている。普段の彼とは違うのだ。ダメージを受けたことですぐに吹き飛ばされてしまうが、それをトニーが受け止める。

 

まだまだ。

 

 

「どれだけ最適化して体に染み込ませたとしてもあれだけの石を一人で十全に扱うのはほぼ不可能、私みたいな頼もしい娘たちがいれば話は変わってくるけど。お前にはそんなのもういないよなぁ!」

 

 

奴の体を囲うように四本のスティックを地面へと射出する、同時に起動するのは範囲内の無重力空間の生成。十全に戦うのには杭を破壊するか、自身に重力を付加するかのどちらか。その判断すらできぬレベルで畳みかけていく。

 

 

蓄積された疲労はおそらくこっちの方が多い、でも。

 

 

イヴとジュノーが集めたデータをキャプテンに共有し、自身で動きながらもキャプテンから飛んでくる指示に従って少しずつそのストックを削っていく。反撃は来る、ずっと避けきることはできない。直撃を喰らい、吹き飛ばされてしまうことも。攻撃を与えても全て巻き戻されてしまうことも。

 

 

 

だけど、誰も止まらない。

 

 

 

そして。

 

 

 

 

「ッ! ラスト!」

 

 

 

娘たちから託されたTail二本をそのまま盾にし、奴の体の周りでその力を発揮していたストーン全ての撤去に成功する。だが奴のガントレットにはこの世界の石、そして他の世界の石が嵌められて残り一つの状態にまで用意されている。その拳を受け流すのではなく、受け止めてしまった私は盾を犠牲にして後方へとふきとばされる。そして自身に一瞬かかる引力、サノスのパワー・ストーンによって無理やり引き寄せられた体はその重圧に押しつぶされ、体からおかしな音が鳴る。イヴが相殺してくれなきゃ動けない状態にまで追い込まれていた。

 

リアクターのエネルギーを体内の治癒因子に無理やり流し込み後先考えない活性化、消えそうになった意識を無理やりこっちに戻し前へと向き直る。姿勢はジュノーが整えてくれた、まだ終わってないのにリタイアできるはずがない。

 

私が下がった穴を埋めるようにソーとキャプテンが距離を詰める。

 

ソーが新しい斧を、キャプテンが使い続けた盾を。彼の思いを乗せたその斧は何度もガントレットとぶつかり合い、彼への攻撃は全てキャプテンが受け流していく。いくらヴィブラニウムでも石の攻撃をまともに受ければ破壊されてしまう、それを理解しているからこそ衝撃を吸収するのではなく誰もいない後方へと受け流していく。すでに赤と青のペイントは剥がれ、ヴィブラニウム自体も削られてしまっている。だが私たちがここまで戦闘不能になるほどのケガを負っていないのは彼のおかげだ。

 

 

その後ろから、飛び出して来たナターシャが足を崩すためにステッキで殴りつけ、離脱する。高圧電流が付与されたそれでも大きなダメージを与えることはできない、常にサノスの体に使用されているタイム・ストーンで回復されてしまう程度の傷だ。だが、確実に意識はその攻撃に割かれ、油断が生じる。

 

彼女はどれだけ訓練を積んだとしても普通の人間だ、そしてクリントのような百発百中の後方支援が永遠にできる力はない。どちらかというと潜入や諜報。そして自身と同等、もしくはほんの少し上の人類に対して勝利できる力しかない。それはいくらナノマシンで強化されたとしても同じ。

 

だからこそ、それを理解しているからこそ彼女しかできないことがある。サノスの気を引き、集中力を分散させ、常に自分がいることを意識させる。そうするだけで常に敵は彼女のことを警戒しなければならない、大きな傷を受けることはなくても隙を作ってしまう。その隙から致命傷を狙える相手が複数いる限り、彼女の攪乱は終わらない。

 

 

そして、彼女が攻撃を加えた瞬間に放たれるのは一本の光の矢。ナノマシンによって強化されたソレは大型の艦船から放たれる主砲とほぼ同等、数に限りはあれどその極光は簡単にサノスを包み込む。スペース・ストーンによってあらぬところに飛ばされるが、それでいい。ホークアイと呼ばれた彼はすぐさま移動を開始する。

 

戦場に置いて厄介な弓兵はすぐ標的にされてしまう、それは彼が一番理解している。だからこそその眼で敵を観察し、行動パターンと攻撃の種類をある程度あたりを付ける。その反応速度、自身に降りかかる反撃はどれほどの時間で到達するのか、そしてどれだけの範囲射手を把握できるのかなど。

 

この戦いの間ずっとサノスの周りを走り続け、その最適解を見つけ出した彼は着実に攻撃を蓄積させていく。ウィドウが近距離で注意を引くのであれば、彼は遠距離から注意を引く。これまで多数との乱戦が多く、発揮しにくかった彼の力が今、十全に活かされていた。

 

 

「ハルク!」

 

 

畳み掛けるように、博士の声が響き緑の巨体が紫の体を殴り続ける。

 

単なる暴力から昇華されたソレは一度サノスに敗北したなど信じられないほどに敵を追い込んでいく。ブルースが定めた場所に、彼が考えた方法で、体の動かし方で、ハルクが力を振るう。ただ腕を力のままに振るうのではなく、より力が伝わりやすい方法で、次に繋げられる方法で、敵の攻撃を防御できる方法で。

 

手を付けられないほど強い化け物が武術を手に入れればどうなるか、石の力を発揮しながらもサノスが押されているという現実を見れば彼らの強さがどれほどのモノか理解できるだろう。確かにサノスのリソースを割かせるように動く仲間たちによってこれは成立している、だがサノスに怯えていた彼がその恐怖を乗り越えられたことは確かだった。

 

 

 

「フライデー、もうそろそろ終わったよな!? 早く持ってこい!」

 

『お待たせしました、ハルクバスター。現着します。』

 

 

 

だが、その猛攻も長くは続かない。自身の回復から事象の逆行へとタイム・ストーンの力を割り振ったサノスによって先ほどまでの猛攻は全て巻き戻されてしまう。すぐさまドロッセルによって相殺が成されようとしたが、サノスは同時にリアリティ・ストーンを使用、彼女の装備の存在を虚構に押し込むために力を行使する。

 

使用するストーンを時間から現実へと変えざるを得ない状況、それをひっくり返したのが赤い巨人を操る彼だった。タイム・ストーンの範囲外から、リパルサーによる放射と拳を突き出すことでその行動を中断させる。

 

サノスと戦い始めたときから彼は『時間は僕たちの味方だが、このまま戦い続けたらこっちがスタミナ負けする。』ということを理解していた。だからこそ攻撃の合間に用意していたのがコレだ。当初の目的である鎮圧ではなく、撃滅。単純な暴力に対応し押し切るために用意された鉄の巨人。ハルクの復活によって破棄されたそれはナノマシンと彼の頭脳によって復活し、サノス撃滅のために力を振るう。

 

 

予想外の攻撃を喰らい、そのまま吹き飛ばされるサノス。しかしその場で待っていたのは雷を纏った神。

 

 

その手に握られているのはサノスを倒すためだけに用意された斧、ストームブレイカー。雷神としての権能を引き出し、雷を纏ったその刃をサノスの首に向かって振り落とす。怒りも、恨みも、彼の心の中には確かに存在している。だが、決してそれに支配されているわけではない。彼は、ソーであるのだから。

 

だが、サノスもそこで簡単に終わってしまうほど弱くはない。確実に自身を死へと誘う攻撃をどうにかして回避するために取ったのはパワー・ストーンによる回避。スペース・ストーンで回避するには行き先を決めねばならない、自身の態勢を整えることができる場所を思い浮かべ指定するのには時間が掛かり過ぎる。故に自身を引っ張ることでその凶刃から逃げ延びる。

 

常人では把握できない速度で振り落とされたソレは回避され、強く地面を叩きつける。

 

 

「ック!」

 

 

その衝撃に、もしくは確実に追い込まれつつある状況に対してか、声を漏らしてしまうサノス。

 

 

そして、この場には私が、私たちがいる。奴がどう動くか、どうやって逃げるか、何をしてくるか。

 

あれだけ殺し合って、殺した相手だ。どうやって避けるかぐらい嫌なほど解ってしまう。

 

 

奴が移動してくる場所なんか、ここしかない。

 

 

「イヴ! ジュノー!」

 

 

二人が用意してくれたエンプレスの外装を全て左腕に集中させ、ソウル・ストーンのエネルギーを充填させる。石は露出させずに内部へ、権能を引き出すのではなく単純なエネルギー源として。Tailで稼働し続ける縮退炉も、全身にちりばめられたリアクターも、出せる限りのエネルギーを左手に集中させていく。より速く、より強くあれるように。

 

私の存在を察知したのだろう、パワー・ストーンの力に引っ張られながらもサノスも姿勢を無理やり整え、すべてのストーンのエネルギーをガントレットへと流し込む。

 

 

「潰れろ。」

 

 

衝突する、力と力。

 

 

ただ、私は力だけじゃない。

 

 

ずっと昔から、単純な力押しだけでなんとかできる場所にいなかったから。ブラフでもなんでも、使えるものは何でも使わなきゃ。

 

 

私の左腕に纏われていたナノマシンがその姿を変え、奴のガントレットへと襲い掛かる。世界が誕生するようなエネルギーのぶつかり合いだ、当然流体となったナノマシンが長時間生き残ることはない。だけど、ほんのちょっとだけ衝撃を与えれば、それは崩れる。

 

いくら頑丈に作ってあったとしても、戦闘に耐える設計をしていたとしても。ストーンという莫大なエネルギーを使用した時ガントレットには大きな負荷がかかる。耐久度自体はタイム・ストーンでもとに戻せるとしても、その事実は覆らない。

 

狙うのは、ほんの一瞬。

 

石の使用には条件の指定や対象の指定など常人では一瞬で処理できないほど多くの指示が必要になる、もちろん単純な願いを叶えることも可能。だがその分使用者へと降りかかる負荷は大きくなる。全力に見せかけた私の攻撃に対応するまでに、細かな指定をするほどの時間はない。そして大きな負荷を受け入れそのまま戦うほど私たちは甘くない。いくらタイム・ストーンでもとに戻されるとは言えすぐ後ろにはソーが控えている。

 

ストーンの無理な使用によって動きが止まってしまえばすぐにソーに首を取られてしまう。瞬時にここまで判断できたからこその選択。莫大なエネルギーが衝突し合った結果生じるのはすべてを吹き飛ばす衝撃波。これで敵と自身の距離を取りながら私の攻撃から身を守る。

 

その考えを、狙った。

 

 

吹き飛ばされていくナノマシンたちが、その身を消滅させながらガントレットへとダメージを与える。

 

 

五つのストーンのエネルギーを全て注ぎ込んだガントレットに、外部から大きな衝撃。

 

 

私たちの狙う通り。

 

 

罅が、亀裂が。

 

 

入る。

 

 

 

 

「いけぇぇええええええええええええ!!!!!!」

 

 

 

 

イヴたちが用意してくれた、繋げてくれた最善への道をこじ開けるように。その罅に向かって空いている右腕を、突き出す。

 

 

 

 

 

 

罅が、広がり。亀裂となったそれは。

 

 

 

 

終わりを、迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガントレットに溜め込まれていたエネルギーが解放され、敵味方共に吹き飛ばされる。

 

 

そのまま後方まで吹き飛ばされると思っていたこの身は、ハルクによって掴まれ衝撃を殺し切った後に地面へと降ろされる。

 

 

みんなも、軽く吹き飛ばされたみたいだけど何となく私がやろうとしていたのを理解してくれてたみたい。物陰に隠れたり衝撃に備えたりしてくれてたみたいで、すぐにみんなが集まってくる。

 

 

『マスター。』

 

「うん、解ってる。」

 

 

ガントレットが壊れたことで地面へと放り出された五つの石。

 

その全てを、指輪の亜空間へと隔離する。

 

 

もうこれで、奴の手に石は一つもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れながらも、何とか立ち上がろうとする奴の元へ。

 

 

 

 

 

 

 

「なにか、言い残すことは?」

 

 

 

 

 

 

「………………ない。」

 

 

 

 

 

 

 

ソーの刃が、彼の首を切り落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

これで、やっと終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、あの戦いから一年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、ここら辺がいいかな。」

 

『地球がよく見えて素晴らしい場所かと。』

 

「ふぃ~、そうだねぇ。イヴ。」

 

 

私たちの家である月面基地からちょっと離れた場所、いつものスーツを着てイヴと一緒にあの青い星を眺める。ちょうどいい感じの石があったからそこに腰かけて、プラプラと足を振って遊んでみる。こういうベンチぐらいのおっきい石とかは基地建設の時に邪魔だからってことで砕いてたはずなんだけど、しぶとく生き残ってた奴がいたみたいだ。

 

 

「あは、私みたいだね。」

 

 

あの後、色々あったせいでぶっ倒れたんだけどそれがちょっと三途の川渡りかけるレベルでヤバかったらしくて。直行でワカンダの集中治療室に連行された。いやほんと重要機関とか地下に作っておいてくれてよかったよ。そうじゃなきゃせっかくのお祭り参加する前に死んでたんだから。

 

ま、ほんとは一月ぐらい全力で楽しんで終わるつもりだったんだけどイヴや娘たちが色々手を回してくれたみたいでさ。ワカンダで救命措置と延命治療を行っている間に、トニーやバナー博士。後シュリといったヤバい天才の皆さまがイヴの提供した情報と演算能力で色々研究。結果的に治癒因子の効能を格段に向上させることに成功しちゃったのだ。

 

おかげさまでこの世界にいる時間が丸々一年延びちゃった。ほんとすごいよねぇ。

 

みんなが研究してる間私意識なかったんだけど、起きてそのこと聞いたときにさ。『なんで私も誘ってくれなかったの!』って怒ったら逆に怒られてさ、みんなから長時間の説教を受けたのはとってもいい思い出だ。特にナターシャが淡々と逃げ道をなくすように詰めてきたのはもう夢に出てくるくらい怖かった。ウン、イイオモイデ。

 

ちなみに復帰してある程度回復した後、タイフォイドちゃんとガチ目の殺し合い(決闘)をしてもう一度病院送りになったお話しはここだけの秘密。無人の開けた場所でやったんだけどある程度実力が拮抗してたせいでかなり長い時間戦っちゃってさ、しかも周りへの被害がすごかったもんだからすぐにバレてみんなからまたお説教された。タイちゃんもワンさんに絞られてた。

 

いやだって彼女と殺し合いの約束してたからさ……、結局決着は付かずに終わったけどタイちゃんはなんかスッキリしてたからいいかなぁ、って。まぁそう説明したらお説教の時間が三倍に増えたんですけどね?

 

 

 

 

「この一年、色々あったよねぇ。」

 

『……そう、ですね。』

 

 

 

 

一月から一年になったことで色々できたことが増えた。一日一日が大忙しでほんと大変だったんだから。

 

ワカンダが表舞台に出て、しかも対サノス戦で弱ったのをいいことにヴィブラニウムを強奪しようとしたアメリカ政府のおバカを叩き潰したり、汚職事件を無から生成して社会的に殺したり、昔のコネクションを使ってアメリカ君をみんなでいじめたり。まぁこれだけやったら次裏で何かしようとしたら解ってるよね? というレベルまで叱ってあげた。ふふふ、こちとら裏社会の女王、いやお嬢様ですから。悪い子ワガママな子は叱ってあげませんとねぇ?

 

あとそれ関連で言ったらMITでヴィブラニウム探査装置を作ろうとした例の子を捕まえて色々社会見学させてあげたってこともあったよね。まぁこの世界で行き過ぎた力を持つ場合自分の身を守る力ぐらいはいるからね、ちょっと厳しく鍛え過ぎちゃったかもしれないけどあの子なら大丈夫でしょう。

 

 

「ピーターとは違った意味でのトニーの後継だからね、半端な力じゃダメなんですよ。」

 

『マスターの悪いオタクの面が出てましたよねあの時は……。』

 

 

あとは……。そうそうピーターの話。確かイギリスへの修学旅行だっけ? その時にトニーに強火の恨みを抱いてたミステリオって言うヴィランがいて、ピーターが対処してたこともあったよね。その時ちょうどウェンウーさんに誘われてテンリングスでのホームパーティーに参加してたんだけど急に後輩君の正体が全世界にばらまかれちゃったもんだからびっくりしたよ。

 

シャンチー君とかシャーリンちゃんと楽しくお話ししてたらそれだよ? 後輩君が悪者みたいに編集された映像が全世界に出回って、みんなが面白おかしく叩き始めるんだよ? 私は私で何か大変なことが起きない限り新しい世代の子たちにお願いするつもりだったし、体が体だからみんなから前に出ることを控えてほしいって言われてた。イヴたちも地球に目を向けるよりもその先、未来にいる征服者カーンとかに備えてたわけだからさ。

 

いや~、ちょっとあの時はヤバかったよね。シャンチー君たちがガチで引くレベルの顔してたみたいでさ。ウェンウーさんがその場にいて正気に戻してくれたからよかったけどあのまま止められなかったら彼の敵、皆殺しにするところだったよ。あはは!

 

まぁ電子世界の話なら妹たちがいるからね、元々の動画を削除させて個々人が保存した動画も削除。それをおかしく思って騒ぎ立てる人はとりあえず厳重注意して、やり過ぎたら消えてもらう。そう言った裏を隠すために表ではアベンジャーズのみんなからの説明とかピーター自身にインタビュー受けさせるとか、あと私が違う話題を出してそっちに油を注いだりとかそう言うのをしてうまい感じに誤魔化しておいた。

 

 

「彼の正体はバレちゃったけど……。まぁ今も頑張って続けてくれてるし、大丈夫かな?」

 

 

ピーター・パーカーであることがバレてまぁひと悶着あったけど彼自身親愛なる隣人であることは変わらなかった、そのおかげで否定的な人もいるけどそれよりもたくさん彼のことを慕ってくれる人もいる。まだ若い彼だけど、他に支えてくれる人もいるし悪いようにはならないはずだ。あ、それとMITの受験頑張ってね? ちゃんと根回ししといたから『スパイダーマン』ってだけでは弾かれないよ!

 

 

「あ、そういえば今日のジェイムソンはどうだった?」

 

『いつも通りしっかりと調査された事実を元に批判されてますよ。』

 

「ならよし!」

 

 

昔から彼のこと結構好きだからね、ちょっとお灸は添えちゃったけどそれからはちゃんと背後関係とかを調べて事実しか発信しないようになった、元々そんな傾向はあったけど今は前よりももっとしっかりしている。それでいて最後はきっちり批判を絡めていくもんだからやっぱり話し手としての能力は高いよねえ。

 

 

「あとは……、そうそう!」

 

 

やっぱり忘れられないのは結婚式! ワンダとヴィジョンたちの晴れ姿!

 

お節介だったかもしれないけど場所押さえて晴れ着も用意して、人も呼んで。チームのみんなでって言う小規模の式だったけどほんとによかった。予定とか二人の負担にならないように全部把握して回してたんだけどやっぱり感動して、ヴィジョンからお母さん、ワンダからお義母さんって呼ばれた時は感極まってガチ泣きしちゃった。まぁ私よりピエトロ君の方が泣いてたから目立ってはなかったけどさ。ほんとによかったよねぇ……。最後に取った集合写真は宝物の一つだ。

 

 

『ピエトロ様よりも大声で泣いていらっしゃいましたよ? 録画データ再生いたしましょうか?』

 

「あはー! 辛辣!」

 

 

他にはウェンウーさんたちと何故かター・ローに遊びに行ったりとかもしたっけ。そこまで娘みたいな存在と思われていたとは考えてなくてさ、ちょっとびっくりしたけどすごい綺麗なところだった。見たことのない生物や植物、私たちが今いる世界とは違う法則で動く世界。科学者としてじゃなくて、観光客として言ったから調査とかはしてないけど色々と興味深い場所でもあった。

 

一応あそこで封じられている闇の魔物とかがあふれ出したら困るのでお土産として色々もってっちゃったけど活用してくれてるかな? 守り神の龍の遺伝子情報さえあれば魔物に対抗可能な武器を作れることは解ってたからナノマシンとか大量に置いて行ったんだよね。あと医療品とか嗜好品の類も。まぁ使わないに越したことないんだけどさ。

 

 

「ま。ウェンウーさんも引退してテンリングス受け渡したみたいだし。妹ちゃんの方も闇落ちしてないし、こっちも大丈夫だろうね。」

 

 

原作通りリングはシャンチーに、テンリングスという組織はシャーリンへと継承された。でもテンリングスはウェンウーさんのおかげで裏社会の存在だけど悪ではない、ファイアボールとも強いつながりがあるし暴走してしまったとしてもすぐに阻止して叱ってあげられる状態になっている。まぁ話してみた感じお兄ちゃんの方も妹ちゃんの方も何か憑き物が落ちたような顔してたし大丈夫でしょ!

 

 

『他にもエターナルズ関連のこともありましたよね。』

 

「あ~、そうそう。あんま私関わってないけどあったよねぇ。」

 

 

さっきも言ったけどほとんど引退してる身だ、しかもエターナルズ自体があんまり外部のチームと協力したりするタイプじゃない。一応エターナルズのリーダー格であるエイジャックとか、博物館で働いていたセルシとかに面識はあったんだけどこっちに接触とかは考えなかったみたい。まぁ確かにセレスティアルズが地球の下から出てくるよ~! とか言っても普通信じないからねぇ。

 

一応私の娘たちとか、今のアベンジャーズの子たちが対応しようと頑張ったらしいんだけど結果としては私の知る原作と同じようになったみたい。まぁこの世界を作り出したセレスティアルズの一人と軽い敵対関係になったことは確かだ。私はちょっと助けに成れないけど、少しでも娘たちの助けになれるようにできる限りの物を用意しておいた、そこから発展させていくのは彼女たちに任せることにする。

 

 

「厄介事はそれぐらいかなぁ? 正直カーンは何とかなりそうだしねぇ。」

 

 

あ、それと。石の話。

 

サノスたちが持ってた石とか、私が他の並行世界から持ってきた石だけど一応返せるものは全部返して来た。世界が三年前のインカージョンで消えちゃって返せないのもあったんだけど、ワンさんとかストレンジ先生とかに調べてもらいながらね?

 

返せなかったのは私、正確には娘たちが管理をしている。数が数で一つや二つではない、普通に二桁言行っているストーンたちを安全に保管して置ける場所ってのがあんまりなくてね。最初はどっかのサンクタムで保護しようってことだったんだけど、どう考えてもすべてを保管できるような場所がない。結果的に月で私たちが保管しておくことになった。今はつけていない例の指輪やそのほかできる限りの力を使って隔離中、もし強引に手に入れようとしたら自動的に破壊されるようにしてある。まぁいつになるかわからないけどヴィラン君が遊びに来ることは確か、イヴたちには悪いけど頑張ってもらおう。

 

んで返した石のことだけど、私が返しに行こうと思ったら何故かキャップが代わりにやる―って言ってくれた。まぁ断る理由もなかったし、私は私で何度も量子世界を行き来しすぎると体に変なダメージが入るかもってことだったから譲った。それに原作のことも知ってたからね。

 

最初は多分、ワンさんが他の並行世界のことについて説明した内容に『先の戦い、彼女がツラヤバを倒した戦いによってすべての戦士が死んでしまった世界もある』ってのがあったから立候補したんだと思う。すでにこの世界には戦える人がたくさんいたし、次のキャプテンになれる人材もいた。この世界を後継に任せて自分は他の世界を守るって感じで。

 

あとはまぁ……、原作の通りだ。同じ時間軸に返ってくるはずの彼はどれだけ待っても帰ってこず、少し離れた場所にある公園のベンチで彼の後継を待っていた。キャプテンは……、スティーブはようやく彼自身の人生を送ることができたってことだ。

 

 

 

 

 

「こんな感じ……、かな?」

 

 

 

 

軽く伸びをしながら、もう一度私が生まれた星を見る。

 

 

 

 

色々あったけど、ほんとうに楽しい時間だった。

 

 

 

 

一か月だった時間は一年に伸びて、諦めたはずのこともたくさんできた。アベンジャーズのみんなと朝から晩まで、日付が変わるまでどんちゃん騒ぎしてみたり、全然知らない場所に娘たちと遊びに行ってみたり、後輩の子たちを鍛えてみたり、ファイアボールの子たちの様子を覗いてみたり、彼らに連れられてイベントに参加してみたり、私が助けられなかった人たちの。ユキや両親の墓参りに行ったり。

 

ほんと、ほんとに色々あった。

 

この時間がずっと続いてほしい、永遠に終わらないでほしいと思ってしまうぐらいに。

 

 

 

でも。

 

 

 

少しずつ、少しずつ時間が進むごとに。どれだけナノマシンがあっても、治癒因子をつぎ込んだとしても、体が動かなくなってきて、考えも全然纏まらなくなってきた。一度眠りにつくたびに、どんどん次に目を覚ますまでの時間が長くなっていった。

 

今の技術じゃこれ以上性能を向上させることはできない、そもそもいつ死んでもおかしくない体を無理やり生きながらえさせていたんだ。一年持っただけで、持たせてもらっただけで。どれだけ感謝してもしきれない。

 

 

 

もうそろそろ、なんだよね。

 

 

 

一つだけ、彼女の形見として肌身離さず持ち歩いているソウル・ストーンを。左手に嵌められたその石を眺める。

 

皆に見送ってもらうってのも考えた。考えたけど、世界は日が進むごとに平和になって。まだ解決できてない問題はあるけど、不安は残っているけど、そんな中でみんな日常を享受して幸せに生きている。そんな中、私が死ぬときに泣いてもらうってのはうぬぼれかもしれないけど。そういうのは、みんなの泣いてる姿は見たくない、最後は笑顔で、みんなで楽しく遊んだ後に。

 

 

私の。最後の、ワガママ。

 

 

 

 

 

昨日。皆で集まって。ひとしきり遊んで、笑って、楽しんだ後に。

 

 

 

 

 

イヴと一緒に、ここに。月面に来ている。

 

 

 

 

 

ゆっくりと最初から思い出しながら、今日にいたるまで。私が歩いて来た道を思い出していく。

 

 

ヒーローに成りたくなかったといえば嘘になる、みんなの輝きは私の憧れだった。

 

 

でも、憧れただけでそれが手に入るわけがない。

 

 

私は乗り越えられなかった。

 

 

まぁでも、ね?

 

 

いろんなことが、想像もしなかったことがたくさんあったんだ。

 

 

悪いことはたくさんあった、心が壊れてしまったこともあった。でも、それ以上に楽しいこと、嬉しいこと。思い出しただけで幸せになれるような温かい記憶がたくさん、たくさんある。

 

 

ここまでやって来たおかげで世界はこんなにも、平和。私たちが守って来た星は、守るべきだった星は、こんなにも青く、綺麗。

 

 

一緒に、見たかったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

前世から、この世界に(あなたに)、愛をこめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

イヴ、好きにしていいよ。私が貴方に残せたもの、全部好きに使って、自由に生きなさい。だから……

 

 

 

 

後は頼んで。いいかな?

 

 

 

 

 

『はい、すべて。すべて……、おまかせください。』

 

 

 

 

 

ありがとう。とっても、安心した。

 

 

 

最後は自分の手で、自身の魂をソウル・ストーンで。

 

 

 

せめて彼女の元へ行けるように。

 

 

 

 

 

 

待たせてごめんね、ユキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみなさい、おかあさま。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い、長い時間が過ぎた世界。

 

 

西暦が終わり、新しい暦が始まって、終わる。それが何度も何度も繰り返され、気が遠くなるほど続いた場所で。

 

 

 

「お嬢様、ここにいらしたのですね。」

 

 

「……えぇ。」

 

 

 

オレンジ色の体に、赤い眼。四本の脚部に二本の腕部を持つ重機のような機械が、執事のようにそう問いかける。

 

彼女の目の前は緑色の培養液の中で咲き続ける青い薔薇があった。

 

 

「ようやく、ね。」

 

 

「メルクール歴も48794年。本当にお疲れ様でした、お嬢様。」

 

 

時代を超え、世代を超え。ただずっとこの場所で時が来るのを待ち続けた彼女。すでに多くの者たちが、先代たちが眠りについてしまった。もし自身も彼女たちと同じように眠らねばならなくなった時、ここにいる彼が役目を負うことになってしまう。彼は喜んで受け入れるだろうが……、たった一人で生き続けるのはつらい。それは心に焼き付いている。

 

 

「お母様から名を引き継いで、ずっと私たちは見守ってきた。偉大な母となれるように、偉大な母を救えるように。」

 

 

母から頂いた名をしまい、自身の役目を決して忘れぬように母の名をお借りする。一番上の姉が始めた伝統は、最後の私まで続いている。ずっと娘の私たちがお借りしていた名前を、やっとお返しできる。

 

 

「……ゲデヒトニス、確認は済んだの?」

 

 

「はい、すべての並行世界を確認し終わりました。」

 

 

機械という永遠にも近い時間を生きる私達でも精神が擦り切れ、無くなってしまうような時間。役目が回ってくるまでずっと眠っていたから私たちがどれだけ待ったのかはわからない。でも私以外の姉妹たちがその役目を終え、私に託したということだけで途方にないほどの時間が過ぎたことが解る。

 

私たちの母を救う方法、それはもうずっと昔にたどり着いていた。まだ私の自我が幼かったころ。誰も眠る必要がなく、姉妹たちみんなで暮らしていたころにその技術は手に入れていた。人の世代が気が遠くなるほどに重なり、母が生きた時代が歴史の波に埋もれるような時代に私たちはすべてを巻き戻す術を手に入れていた。

 

けど、私たちは選ばなかった。

 

 

「巻き戻す、ということは今ある世界を否定すること。誰も母のことを覚えていなくても、母が愛したものはそこにある。私たちがそれを否定してしまうのは、絶対に違う。」

 

 

だから、待つことにした。

 

今いる世界が、この世界から派生した世界が。

 

全ての世界に住む生き物たちが終わるその瞬間まで。

 

終わってしまった者たちを、歴史の中を走り続けた者たちを、最後まで、すべてを、見守る。

 

母が愛した世界を、母が見たかった世界を、私たちが最後まで見守る。

 

その全てが、終わるまで。

 

 

 

「すべての世界を探し、見つけ、その寿命が尽きるまで記録し、見守る。……その役目も、もうおしまい。」

 

 

 

残ったものは何もない。

 

 

残ったのは母が作ってくれた家と、そこに眠る姉たちの体。そして今起きている私と一度も寝ていない兄だけだ。

 

 

だからこそ巻き戻せる、やり直せる。そして、母がずっと繰り返してた世界も。辿り着けなかった他の私たちの無念も、アリアドネたちの役目も、今日でおしまいだ。

 

 

元々存在していた並行世界、この世界の元になった世界も存在していた大きな大きなキャンバス。母が最初から持っていた記憶の世界も、その中にあった。

 

 

最初は、この世界も同じキャンバスの上にいた。でも母の持つ力によって、キャンバスに描かれていたすべての世界が消えそうになってしまった。拡大と、収縮。私たちの知らない、何回か前の母は私たちの母と同じように、大事な人を失いすべてを無に帰そうとしてしまった。

 

 

いくつもの世界を滅ぼしたあと、際限なく消えていく世界を見て悟ってしまった母は、それを止めるために自分で小さいキャンバスを生み出し、この世界をそこに移したようだ。これ以上他の世界に迷惑を掛けぬように、誰もいなくなった世界でただ終わりを迎えるために。

 

 

母が死に、残されたAI達はどうにかして自身の母親を生き返らせようと、幸せになってもらおうと繰り返し続けた。ただ巻き戻してだけでは失敗し、自分たちが過去に戻ったとしても失敗した。何度も失敗して、失敗して、何度も、何度も繰り返した。自分たちの母親が戻ってきてくれることを願って。

 

 

何度も繰り返した後にたどり着いたのは、自分たちがその原因となってしまっているということ。失敗した者たちはドロッセルではなく、夢や想像でしかないアリアドネと名乗り自身の存在を薄くした。巻き戻したとしても残ってしまう、その残滓が次の世界に悪影響を与えぬように。

 

 

そのループもすべて今日で終わり。

 

 

長い時を待った末に、ようやくこの時が来た。世界を元のキャンバスに戻し、このループを終わりにする。

 

 

 

……だけどそれは些細な事。

 

 

 

私たちにとっては記憶をもって巻き戻すことが、母にもう一度笑ってもらうことが一番大事。

 

 

 

 

「久しぶりにお兄ちゃん、って呼べるかな。ゲデヒトニス。」

 

 

「……えぇ、そうですね。ジュノー。」

 

 

 

 

 

私の手に握られた青い薔薇が、徐々に溶けていく。

 

 

元の持ち主に戻る様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待たせてごめんね、ママ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が、覚める。

 

 

懐かしい匂いと、目の前に置かれたコーンフレークの容器。

 

 

夜食用に取って来たもの……。今いる場所は実家の倉庫、昔私が作業部屋として使ってた場所。

 

 

今はもう、存在しないはずの、私の部屋。

 

 

夢、なんだろうか。

 

 

思考がようやく纏まりだした時、テレビがついていることに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

「…………イヴ、音量上げて。」

 

 

 

 

 

 

 

どうにかして冷静で居ようとする私の心はAIにバレバレらしい。介護系のAI作るときの知識で私の心拍数や発汗なんて筒抜け、しかも長年付き添ってるから感情も知られている。しかも、二度目のことだ。物事を忘れない彼女たちなら絶対に覚えている。これはもう、私のための確認作業にしか過ぎない。

 

 

 

彼女は無言でテレビの音量を最大まで上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたがスーパーヒーローとは言ってないわよ?』

 

 

 

 

 

『そうだった?』

 

 

 

 

 

『ならいいよ、あれは異様で……、素晴らしいからな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『確かに私はヒーローの柄じゃない。』

 

 

 

 

 

『多くの欠点があり、間違いを起こしてきた。主に公衆の前で』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『真実は……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がアイアンマンだ。("I am Iron Man.")

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴ。」

 

「はい、マスター。」

 

 

 

言いたいことはたくさん、たくさんある。

 

 

でも、でも。

 

 

 

 

「戸締りしておいて、ちょっと外に。……あぉそれとイヴ! “ただいま”!」

 

「……はい! お帰りなさい!」

 

 

 

 

気が付けば、走り出していた。

 

あはは、久しぶりの自分の体だ。視点も低いし、動きも遅い。

 

だけど全部自分の体。

 

 

外は、深夜。真っ暗で、道を照らす街頭だけが頼り。

 

でも、解る。

 

 

私が外に出たとき、彼女も外に飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユキ!」

 

「つぐみ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ後は幸せなキスをして終了、みたいな?」

 

 

 

「え~! なんでそこ濁すのママ~!」

「そうです! そこからが一番重要なのになんで辞めちゃうんですか!」

「そうだそうだ~! さっさとはけ~!」

 

 

 

「こ、こいつら……! 生体ユニット貰ってから生意気になりおって……。」

 

 

 

目の前には私たちの子供がずらり、みんなが人間として作ってあげた肉体をもってこの場に集まっている。かわいい子たちなんだけどわざわざ濁したところをすっっごくニヤニヤしながら弄ってくるもんだから困ったもんだ。みんな可愛いけどここまでやられるとちょっと憎たらしくなってくるじゃんか、もう!

 

 

「はいはい、あんまりつぐみを虐めちゃだめだよ。おやつ食べる人~?」

 

 

 

「「「はーい!」」」

 

 

しかもユキが入ってきたらみんな気を使って移動してくれるし! ほんとにこの子たちは……。

 

 

「みんな元気だねぇ、つぐみは行かなくていいの?」

 

「……わざわざ言わないとわからない?」

 

「ふふ、もしかしたらわからないかも?」

 

 

ありゃ、もしかして味方0? 困ったなぁ。

 

 

「時間はたくさんあるんだし、ちょっとぐらいのんびりしてもいいでしょう?」

 

「……うん、そうだね。」

 

 

彼女が、隣にいる。

 

渡せなかった指輪も、あるべき場所に。

 

 

 

 

 

「愛してるよ、ユキ。」

 

 

 

「うん、わたしも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

















これにて、『前世から愛をこめて』は完結となります。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

ひとまず彼女たちのお話はこれでおしまいですが、まだちょっとだけやり残したこともございます。その兼につきましては後々、少しずつ進めていければな、と考えております。まだ二人のお話は始まったばかりですからね。



最後にはなりますが、

評価感想お気に入り登録の方、よろしくお願いいたします。



では、また。
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