飴みたいに甘い現実
「そういえばお母様方、式場はどうなされるのですか?」
「「ふぇ?」」
自宅で何もせずのんびりと過ごしていた時、急にイヴにそう問いかけられて変な声が出る。
あ、どうも。お嬢様ことつぐみちゃんでっす。
あの後、すべてが巻き戻った後に再会できた私とユキは昔通りキャンパスライフを謳歌していた。精神はすでに何歳かよくわからない(前世・前々世もあるため)がこの体はまだ未成年の19歳。正直ずっと家に籠って家族のみんなと時間を過ごすってのも考えたんだけどユキともう一度大学生活を送るのもいいかな、って思ってそこら辺は真面目にしている。
そんな日々の中で人間と同じような肉体、生体ユニットを使い楽しそうに喋っていたイヴが急にそんなことを言ってきた。
思わず顔を見合わせる私たち。
「……そういえばまだ籍入れてなかったじゃん、って顔してますね。」
「うん、ナチュラルに忘れてた。」
「あ、あはは……。」
まぁ、なんというか私たちの関係って色々特殊だからね。ずっと一緒にいたわけだからそれがもう普通というか……、なんかもう巻き直した世界で再開した瞬間からもう結婚したような感覚になってた。うん。だってずっと『この世の春が来たぁ!』って感じだよ? もう二度と会えないと思ってた人ともう一度同じ時間を過ごせるんだもん。
「いやまぁ我々娘としましてはお二人がこうやって同じ空間にいらっしゃるだけで十分すぎるほどなのですが……、やはりそう言ったイベント事はしっかりとしておいた方がいいかと……。」
うむ、確かに。結婚式というすっごく大事な節目をちゃんとしなかったせいでユキに愛想を尽かされるとかやだもん。これは早急に準備する必要が……、うん? そういえばあんまり気にしてなかった、というか普通に昔のまま過ごしてたから気にならなかったんだけどさ。記憶の引継ぎってどうなってるの? 私とユキ以外にいたりする感じ?
「私たちの手で引継ぎを行わせて頂いたのはお二人だけとなっています、ですのでいない感じですね。一応データの方は保管してありますのでやろうと思えば全人類に引継ぎとかも可能ですが……。」
「やらなくていいからね?」
「もちろんでございます。」
と、なると……。
「「両親への説明、どうしよっか。」」
うん、それに尽きる。
いや確かに記憶引き継いでもらえれば簡単に話は付くんだけどさ、やっぱりちょっとそう言うのは違うじゃない。イヴが言うには私たちが過ごした前の世界とこの世界は同じものらしいけどさ。同じ世界でもたどる道は違うわけで……。
「それに私たちは記憶があるけど周りから見ればただの仲がいい友達だからね、急に『この人と結婚します!』ってなったらびっくりしちゃうかも。」
「……そういえばマスターのお母様に『あの二人いつの間にそういう関係になったのかしらぁ?』っておっしゃっておられましたよ。」
「「…………こわ。」」
いや確かに体の距離とか心の距離とか近くなったよ? でもなんでもうバレてるの!
「……え、というかその体で聞いたの?」
「あ、はい。『マスターの娘のイヴです。』と。今後この体で活動することも多くなると思いまして、姉妹たちの代表としてご挨拶してきました。姉妹の名簿もお渡ししてありますので大丈夫ですよ。」
「仕事がはやぁい。……ちなみになんて言ってた?」
「お婆様からは『イヴちゃん? 大きくなったのねぇ』と。お爺様からは驚き過ぎたのか腰を抜かしてしまったためお言葉は頂いておりません。後日またお時間をとっていただこうかと考えております。」
「お。親父ィ……。」
いやまぁ確かに私の娘を名乗る子が急に現れたらびっくりもするか……。今のイヴ普通に成人女性ぐらいの体だもんね。そりゃ驚きもする。というかその場になんで私呼ばなかったのかとか、なんでウチのマミィはそれを普通に受け止めているのかとか疑問は尽きないんだけど。
「お声がけしようと思ったのですがお二人で楽しそうにご歓談していらっしゃったのでお邪魔するのも忍びないと思いまして……、ですので説明の方ですがユキ様のご両親になさった方がよろしいかと。」
「了解。じゃあ先に私の方から話を通しておくね、つぐみ。」
「うん、よろしくお願いいたします。」
よし、じゃあ『娘さんをください!』の練習をしておこう。
「あ、それとマスター。少々お耳を。」
「そろそろ、例の日でございます。準備の方は整っておりますのでいつでも。」
◇◆◇◆◇
「さて、じゃあ肩慣らしに付き合っていただきましょうか。今日も頼むよ、イヴ。」
『……はい! お任せください!』
家でタクシーを拾い、目的地の近くで降りる。あとはゆっくりと歩くのみ。
私が死んだあと娘たちが色々頑張ってくれたみたいで『巻き戻し』以外にも私が思いも付かなかった様々な場所へとたどり着いていたみたい。私の考えを尊重してくれて、長い時を待ってくれた彼女たちが私に手渡してくれたもの。ま、暇つぶしみたいな側面もあったみたいだけど……。やっぱり十全に使ってあげなくちゃ。
「ま、技術者としてどうしようもないほどの差が出来ちゃってることはちょっと歯がゆいけどね? それ以上にあなたたちがそんな場所まで辿りついていたってことは誇らしいかな。……でもお母さんもういらないかも、とは思っちゃう。」
『マスターは存在してくださるだけで我々にとって救いですから。』
「う~ん、重い! ま、全部まとめて背負って、愛してあげるよ! やっぱり娘はかわいいもんね!」
どこまで進んだとしても娘は娘、いつの間にか私の顔やユキの顔に似た体を自分たちで作って生活している憎たらしいほどかわいい娘たち。すでに巣立った彼女たちにしてあげられることは少ないけど、できる限りのことはしないとね。
「よぉ~し、じゃあ害虫駆除。しちゃいましょうか!」
目的地、私の最初の戦場だった武家屋敷の全域をこの次元から切り取る。
わざわざ見えるように膜を作り、地面事抉り取って空へと浮かべる。認識阻害を世界に付与しているおかげで大きな球体に包まれてこの屋敷が空に飛び立とうとも騒ぎになることはない。内部から異変を察知した害虫どもの声が聞こえるが何をしてもその膜を破ることはできないだろう。もうその空間はこの世界から隔離されている。
もちろん、無関係な人は弾いてある。ただの使用人だった人とか、タイフォイドとか。そこにあるのはニンジャと、ツラヤバだけ。正直存在しているだけで迷惑だからね、早めに処理しておくに限るんだよ。ほら、新居に引っ越したとき害虫対策するでしょう? それと同じさ。
概念までたどり着いた娘もいたみたいで、やろうと思えば考えるだけでこの世から存在を抹消することもできるらしい。同じ世界とは言え、まだ関係性のない人物だ。最初はその存在を消し飛ばすという痛みどころか何も感じない方法で消してやろうと考えていた。
だが。
「すでに私の存在、いやこの力の存在に気が付いている。利用しようとしている。……正直ちょっと安心したよ、この心に巣食う激情をどうやって処理しようかずっと悩んでたんだもの。」
私、いや娘たちにとってプライバシーという言葉はすでに過去のものだ。どこにいる誰がどんなことを考えているのか、この時代の人間なら自分から話さない限りバレない心の内は全て筒抜け。詳しい仕組みはよくわからないが脳波の動きと魂を観測できるようになると全部解るらしい。……ま、つまりどれだけ責め苦を与えても大丈夫ってわけだ。
軽く空を撫で、この世の法則を書き換える。私の体に何も纏っていないという状態から、完全武装に。
私を包み込むように現れるのは慣れ親しんだいつものディスプレイ、これですら古代の遺物。現代から見た石器のような存在というんだから娘たちの歩んだ時代というのはとてつもなく長いものだったということが嫌でも解る。基本的に何もなければ月にある基地で過ごしている娘たち、よく地球に降りてくるけど今度はちゃんと私がそっちに行ってあげなきゃね。
『展開完了、いつでもどうぞ。』
白き鎧に二つのTail、初期の意匠をそのままに所々金の装飾の入った新しいスーツ。
今後私がこの世界で何をするのかはまだ決めてない、でも行き過ぎた力は新たな火種となる。例えそのすべてを払いのける力があったとしても、いらぬ災いを好むような性格ではない。故に、このスーツを着ることは今後あまりないだろう。
「……収縮。」
正直、奴の顔なんか二度とみたくはない。その声も聞きたくない、ただ未来永劫苦しみ続けることが解れば少しこの気持ちも軽くなるだろうってだけ。よく復讐は何も生まないというが、生まないのではなく負の感情が少しだけ楽になるのが正しい。ま、今回の場合復讐ではなく単なる処理なわけだが。
一言『収縮』と言っただけで切り取った空間が縮んでいく、もちろん内部にいる奴やニンジャたちの意識はそのまま。少しずつ、少しずつ痛みを与えるために建物に押しつぶされながら小気味いい“何かが”はじけ飛ぶ音が聞こえてくる。もちろんその肉体が滅びようとも痛みは続く、その魂すら隔離しているため外に出ることはない。
全てが混ざり合い、つぶされ、同化していく。
自身の顔から感情が抜け落ちていることを自覚したころには、巨大な武家屋敷が収まっていた空間はビー玉ほどの空間まで縮小していた。圧縮しすぎたのか、何に染まったのかはわからないが真っ黒な球体。すでにロックを掛けているので今後何をしようともこの封が解かれることはないだろう。永遠に痛みを感じ続ける理想の牢獄だ。
魂の状態になって行動できることは把握してたからね、その状態でも自由に弄れるようになるのは基本だそうだ。
「おっと、イヴ。直しといて。」
『かしこまりました。』
スーツの力でその球体を亜空間に放り込みながら、イヴにそう命じる。その瞬間抉り取った空間が徐々に元の姿へと変化していき、さっきまであった武家屋敷が復活する。それと同時に、彼女一人を除いてこの屋敷で働いていた人たちの記憶を書き換えて置く。この屋敷で元々住んでいたのは私で、新しく建て替えるから掃除の最中であったという記憶を。
『完了しました、現実改変の方も終了しましたので正式にこの土地及び建物はマスターの所有物となりました。』
「ご苦労様。」
おっと、そうだ。忘れるところだった。
今何が起きたのか。その真相を理解しきれず、空間から弾かれたその瞬間から空を見上げるしかできなかった彼女。タイフォイドの前に立ち、しゃがみ込む。思考の混濁が見られるが、先ほどの現象を目の前の私が引き起こしたことは理解しているみたい。明らかに怯えの表情を浮かべている。
……彼女になら別にいいか。
本当はそう思うだけで処置は完了する、だがやはり珍しく怯えの感情をあらわにする彼女で遊んでも怒られは……、彼女には怒られるだろうが娘たちは喜んで写真を撮り始めるだろう。実際視界を共有している娘たちの何人かが口からよだれを垂らしてスクショしているという謎の報告が上がってきた。
「つぎはあなたの番。」
ゆっくりと動きながら、自身の人差し指を彼女の額へと近づけていく。顔に浮かぶ怯えの表情がより強くなり、後方へと逃げようとするが、動けない。彼女がようやく地面を確認するとそこにはいつの間にか自身の両手両足が木の根のようなもので拘束されている。どれだけ腕を引っ張ろうとも動かない。
近づいてくる私の指に声にならない悲鳴を上げ、何とか顔を背けようとするがもう遅い。すでに彼女の後ろには土の壁が生成されており、顔を背けることするできない。
目の前で磨り潰された“アレ”を見たのだ。自身もろくなことにはならないと理解してしまったのだろう。その恐怖から顔がねじれる、がもうどうにもならない。震えようにも、私の指は止まらない。
そして、指が。
触れる。
「というわけでユキ、ペット拾ってきた。」
「私はペットじゃねぇ!」
「……えぇ?」
思いっきり怖がらせながら記憶を戻した後。
若干下半身が濡れていたので武家屋敷のお風呂に放り込んで、無から生成した真っ赤なゴスロリ着せて、綺麗な首輪をしてあげればもうこんな時間。空間転移で帰ってみたらもうユキがウチに来ていたので新しいペットとしてご紹介した訳なんだけど……、不満?
「当た『わ! タイちゃんだ!』」
「タイちゃん!?」「タイフォイドだ!」「久しぶり!」
彼女が何かを言い終える前に家に来ていた娘たちが彼女を発見、まるで親しい親戚のおばさんが来た時のように数十人単位で娘たちが突撃していく。その衝撃と重さに耐え切れず思わず地面に倒れる彼女。ま、娘たちはみんな生体ユニットだし彼女はミュータントだからちょっと重いぐらいで済むでしょう。スーツとかだったら重量がアレで押しつぶされてたかもしれんけど。
「……うん、ならちゃんとペット専用のお部屋も作らなきゃね。それでタイフォイドちゃん、ご飯はキャットフードでもいい? それともチュール?」
「お、お前も乗るんじゃ、ねぇ! というか早くこいつらどかせろ!」
さすがユキ。ネタに乗るのが速い!
あ、ちなみにユキがいなくなっちゃった後のことは私の記憶を共有する形で教えてるから私がタイフォイドに助けてもらったとかそう言うのは全部彼女も知ってる。
「まぁ冗談はこれぐらいにして。よかったの? 勝手に記憶戻しちゃったけど。」
「大丈夫大丈夫。すぐ馴染んでるでしょ? ほらすっごく感謝している顔してる。」
なお彼女の顔はすでに娘たちに覆われており判別がつかない、何か言おうとしているみたいだが、うちの子たちの声でかき消されたり、口に手を突っ込んでじゃれてる子もいるのでちゃんとした言語になっていないのはご愛敬だ。
一応思考も読めるのでそれを確認するが、記憶を戻したことに対しては感謝されてるみたい。……まぁそれよりも漏らしちゃったこととか、今娘たちにじゃれつかれてるのをどうにかしてほしいみたいだけど。
「この子たちのちょうどいい遊び相手になるかな、って。ほっといたら金払いの良いヴィランに着いちゃうだろうし、記憶戻してお金出して子飼いにしておいた方がいいかな、って。そんな感じなんだけどユキは大丈夫?」
「なるほど……。うん、つぐみも助けてもらったみたいだしあの子たちもすごく懐いてるみたいだし大丈夫。」
「だ、大丈夫なのはいいが早くたすけ……、キュッ。」
「「…………あ。」」
〇つぐみ
数日後ユキのお家まで行ってご両親から婚約の許可を頂く、結婚自体は一応大学を卒業するまで待つということに。その間にお互いの印象が変わらなければそのまま結婚、変われば普通の友達に戻る、ということで許可していただいたのだがすでにそう言う時期は過ぎている。
現在は昔作ったオオサカの大都市をもう一度作ろうとしている最中、もちろんヤクザの方々もお金の力と物理的なパワーで雇い入れた。……お金? イヴが何とかしてくれた。
〇ユキ
両親の許可が出たのでちょっとは隠していたつもりだったつぐみとの距離が密着レベルで近くなった。護衛として付いているタイフォイドがブラックコーヒーを愛飲するようになったことからその関係性の深さは察することができるだろう。一応まだ大学生なので二人で通学することがあり、その時もずっと一緒なため『あの二人できてるのでは?』という噂が。実際できてる。
最近は前世二人で出来なかったことをゆっくりと消化中、一緒の時間を過ごしたり遊びに行ったり買い物したりと色々。前はイヴとゲデヒトニス、それと三賢者くらいしかいなかった子供たちも大勢に増えたので、最初は戸惑っていたが今は新しい子たちと親睦を深めるのも楽しんでいる様子。最近の悩みは式の時につぐみに男装してもらうかドレスを着てもらうかということ。とっても悩ましい。
〇子供たち
基本は妹や弟たちと一緒に月で生活中、母が建設中の都市が完成すればそちらに移り住む予定。イヴを長女として色々している。地上に降りて母親たちと遊ぶ子もいれば、タイフォイドと遊んでもらう子も。月に籠って毎日供給される推しの様子を見て悶え尊んでいる子もいたりする。
最近ジュノーとコーンがユキが作ったシュークリームの取り合いで喧嘩し、月が吹き飛んだが現実改編でもとに戻した。結構強めに長女に叱られ、ユキからは新しくシュークリームを作ってもらったみたい。おいしい。
〇タイフォイド
気が付いたら二人の護衛役兼ベビーシッターになっていた彼女。なおお嬢様もユキもすでに子供たちが蓄積した技術群による装備を受け取っているため護衛はいらない、なのでほぼ娘たちの遊び相手がお仕事。金払いは異様にいいし、遊びと称した模擬戦闘によって前世の自分を超える目途が付いたらしく、現状に不満はない。
ただ雇い主たちに毎日クソ甘いものを見せつけられたり、急に性別が変わったり背丈が変わったりと彼女が生きていた時代では理解不能なことが起きたり、たまに姉妹たちが雪崩になって襲い掛かってくる(遊びに来た)ことがあるためそこら辺はもうちょっと何とかしてほしい。……まぁ退屈はしないけどさ。
最後に、支援絵の紹介をさせて頂きます。
実は完結前に頂いていたのですが、ご無理をお願いして今日まで待っていただきました。この場を借りてお詫び、そしてお礼申し上げます。とっても素晴らしい作品ばかりですので、ぜひご覧ください。後日『イヴの秘密ファイル』の方にも追加させていただきます。ぜひひとつずつ感想を申し上げたいのですが、ちょっと早口でしゃべり過ぎて気持ち悪いオタクみたいになってしまうので控えさせていただきます、ご容赦ください。(一回書いてみて見直してみたらほんとに気持ち悪かったのは秘密)
【挿絵表示】
「あなたの瞳/青に惹かれて」
しらねぇよ様から頂きましたAIイラストになります。ユキがツグミに心惹かれた、青が大切な色になったその切っ掛けのようなシーンを描かれたものです。
【挿絵表示】
同じくしらねぇよ様から頂きましたAIイラストになります。108話冒頭にてタイフォイドに助けられたお嬢様のシーンになります。
【挿絵表示】
踏文 二三様から頂きました支援絵になります。第一話のイヴがツグミを起こす直前のイラストです。
【挿絵表示】
同じく踏文 二三様から頂きました支援絵になります。第三話のお嬢様がユキにアイアンマンの待ち受けを見せてもらっているシーンになります。
【挿絵表示】
同じく踏文 二三様から頂きました支援絵になります。第四話にてお嬢様が初めて空に上がったシーン、その地面に向かって直進してしまった時のイラストです。
【挿絵表示】
同じく踏文 二三様から頂きました支援絵になります。第八話のタイフォイドとお嬢様が謙遜し、戦闘に入っていくシーンになります。
「ほへー、かわいこちゃんがいっぱいでヤバいね! というかこれが全部既婚ってマ? 俺ちゃん超びっくり。」
白い空間に並べられていた絵画たちを前に、そんなことを言いながら口にポップコーンを頬張る赤タイツの男が一人。
「おい! 赤タイツじゃないぞ、俺ちゃんのイカシタスーツの良さがわからない? 真っ赤で? キュートで? とってもクレイジー! ほらこれを読んでる全国5000兆人の俺ちゃんファンもそう思うだろ? ……というか何この空間、あとがき? 真っ白で面白みがないね。」
そう言いながら懐から何かの機械を取り出す彼、そこには彼の顔が模られたボタンが一つ。
「いいでしょこの俺ちゃんスイッチ! さっきオオサカのショップで売ってた奴。お代? もちろん払った。」
(鉛玉だけど!)
「じゃあぽちー!」
彼がそのボタンを押すと、並んでいた絵画たちが流れていき、現れるのは彼の顔。
「そう! 俺ちゃん三本目の映画控えてるし? そもそもここじゃ一回も登場させてもらってないし? 天下のデッドプールちゃんがこの作品をハイジャックしようと思いまース!」
何処から取り出したのか、シルクハット片手に丁寧なお辞儀をしながらそう宣言する彼。
『はい、カット―!』
……うん、とりあえずこのセット破壊しますね。すいません警備員さん、この人摘まみだして? あと大道具さん元の白部屋に戻してください。
「え、カット? 俺ちゃんまだ宣伝の途中なのに!? これからウルヴァリンとのイチャイチャ珍道中の話しようと思ってたのに!?」
「話は署で聞こう。」
「ちょっと! もっと話させてよ警察のとっつあん!」
はい、というわけで。
誠意制作中。
「俺ちゃんも出るからねぇ~!!!」