前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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“必要”と“義務”

 

 

 

 

「じゃ、ステルスミッション始めて行きますかね。」

 

 

夜、大体9時ぐらい。場所は府内にある大き目6階建てのビルの上空。ビル内にいるのは熱源反応的に大体100人弱ぐらい? ヤクザさんの本拠地らしいけどそこまで人いないのね。

 

私はぐっすり寝たし、リアクターの調子はまさに万全。サポートのイヴも余計なタスクをお願いしてないから十全に稼働してくれる。絶好の襲撃日和と言える。

 

 

『ビルに収まる人数の限界もありますし、本拠地の秘匿もあるのでしょう。』

 

 

「なるほどねぇ。」

 

 

方法としてはこうである。まずリパルサーの弱火で二階の窓ガラスを炙ります、銃撃戦意識してるのか強化ガラスのようですがサッシの部分はまぁ別ですね。熱で楽しくお話してあげれば、サッシ君も口が緩まって開くわけです。ま、それだけじゃ無理なんでなんやかんやの工程が+されますけど。

 

 

「お邪魔しまぁす……!」

 

 

モチロン光学迷彩は出力最大、音とかは現状どうしようもないけど人は見えないものには警戒が薄くなるからねぇ! 見えない私がアイアンマンの代わりをしましょうねぇ! 使う武装は音のことも考えてスパイダーウェブのみ。

 

建築会社にハッキング済みなのでこのビルの設計は手に入ってる、スーツの熱源探知機能を使えば人の配置も楽々識別丸裸。お邪魔した部屋には背中を見せるヤクザ君が一人。

 

勘が鋭いらしく異変に気が付いたみたいだけどもう遅い。

 

 

「あ、お兄ちゃん気がついちゃった? 仕方ないなぁ、うるさくする前にお口ふさいじゃうね?」

 

 

振り返る瞬間にパシュっとウェブを発射。真面目そうな893を一人無力化。邪魔なので口をふさいで壁に貼り付けとこう。

 

 

『二秒後、二人組が入室してきます。』

 

 

「りょ!」

 

 

入ってきたお二人さんも同じように拘束、簀巻きが二つできました。

 

 

「う”ぅ”ぅ”!!」

 

 

「唸っても無駄だよ? 声しか聞こえないもんねぇ? 静かにしてたら何もしないけど悪い子ちゃんにはバリバリしちゃうから。」

 

 

唸りだした一人をスーツに元々内蔵してたスタンガン機能で黙らせる、おかげで残りの二人が静かになりましたね。持ってる無線機で人呼ばれたら困りますし壊しとこうか。

 

あとはそのまま部屋から出まして一人ずつ丁寧に蜘蛛糸で拘束、熱源反応で一階に人が一番多くいることは分かっているのでエレベーターのドアと非常階段の下も封鎖。これで応援はこれません。

 

 

「これでヨシッと、ではではダンスしながら登っていくとしますかね!」

 

 

気分はヴェノムに侵食されたサム・ライミ版スパイダーマン。三作目のノリノリスパイディダンスを踊りながら上に昇っていきます。誰にも見られてないから恥ずかしいこともないし、ダンスしながらヤクザを無力化していくとか楽しくない? 音楽も流しちゃう? 腰のスナップを聞かせながら腕をぐるぐる回しましょベイベー!

 

 

『さすがにバレるのでおやめください、流すとしたら凱旋と共にいたしましょう。』

 

 

「だね! っと、ここが最後だね。たぶんここに親分がいるでしょ。イヴ、光学迷彩はオフしていいよ。蜘蛛糸で制圧するけど、一番の目的はお話だからね。」

 

 

『了解いたしました、光学迷彩オフ。熱源反応から内部には三人、一番奥に座っている人物が石井かと思われます。ターゲティング完了済み。』

 

 

ではでは! Notカタギのお友達にお会いするとしますか!

 

ドアをヤクザキックで蹴とばして物理的どこでもドア! こっちに気が付いた護衛さんが即座に銃を抜こうとするけどこちとらすでにロックオン済み。イヴちゃんが補助補助してくれるので何もできずに制圧完了。

 

 

「ハロハロ~! 君が石井君かな? 夜遅い時間に来ちゃったのは謝るけどお話しない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、なるほど? ごめんちょっと考えまとめるから待って。」

 

 

来客用のソファに座りながらお話を一時中断するために手を上げる私、お向かいにはボスヤクザこと石井さん。それと壁に張り付いて『これ早く剥がしてくれないかな……』って顔をしている蜘蛛糸まみれの護衛ヤクザさん二人が現代アートオブジェクトとしてそこにいます。

 

 

はい、どうも。

 

今の私はデップー的視点で見えないあなたに話しかけてます! もし私が存在しているこの世界が何らかの娯楽媒体であり、それを観測している存在に対して話しかける、ってことはあの不死身の赤タイツ君みたいにできないんですけどね、うん。正直現実逃避で狂いたくもなるんですよ。

 

これからヤクザとニンジャっていう特級の厄介ごとをどうにかしようと気を高めて、最悪その命をもらい受ける覚悟、その責任を私が死ぬまで担い続ける覚悟を決めてこの襲撃をかましたわけですよ。

 

モチロン精神はまともじゃなくて、スパイディみたいに軽口叩きながら正気を保ってたんですけど、なんでこんなに現実は非常なんですかね? どうして私の心を破壊する事実を突きつけてくるんですかね? なに? マインドクラッシュ流行ってんの? 決闘者か? 決闘者なのか? そしたらこっちはリアルファイトで解決してやるからな! 公式ルールだと相手が絶命した時こっちの勝利だからな! リパルサーで殴るぞオラァ!

 

 

「……もっかい確認するけど日本の裏社会の大半が“ヤミノテ”に掌握されてるのホンマに?」

 

 

「おう、マジだ。何とかまともなのもこの大阪ぐらい。ある程度の規模で反抗してるのが俺たちぐらいだし、負ければ各地の小さな勢力も静かになっちまうだろうな。つまり奴らの全国制覇も目前ってわけだ。」

 

 

このナイスガイ、というかナイスジジイ、もしくはおっさん。50代過ぎのヤクザのおっちゃんが言うにはこの日本はすでにヤミノテの手に落ちてるらしい。MCUの世界でそんなに日本の話が出てなかった理由ってもしかしてこれなんですかね……。

 

ヤミノテに支配されてるからS.H.I.E.L.D.もヒドラもそんなにちょっかいかけられないし、ヒーロー集団も他組織と戦いながらヤミノテ相手するのは大変だから放置。自分の生活圏内に入ってきたらやっつけるけど日本なんて極東にわざわざ時間かけられませぇん! ってこと? んなご無体な……。

 

 

「俺のオヤジ、この組を作る前に存在してた母体があったんだが……、そん時はオヤジを旗頭にして大阪は何とかニンジャと拮抗してたんだよ。だがオヤジが死んでから上田の奴がニンジャとつるみだして組は崩壊、残った奴をまとめて抵抗しているが……、まぁ時間の問題だろうな。」

 

 

そう苦しそうな顔をするボスヤクザ石井。なんでも大阪はヤクザの天下だったんだけど、彼の親父さんが死んでからは戦況が悪化、石井くんと対をなす幹部ヤクザだった上田が組織を裏切ってヤミノテに所属しちゃったもんだからもっと大変。

 

戦力の半分弱ぐらいが洗脳されてあっちの駒になったみたいだし、ヤミノテがヨーロッパ方面に人を割いてるおかげで大阪にいる人員は少ないけど最低で1000。ヤクザ3人で大体一人のニンジャというパワーバランスらしくほんとにじり貧らしい。

 

 

「それで、嬢ちゃんに頼みがあるんだ。今回の襲撃分チャラにして金も払う、上田の奴を排除か無力化、もしくは俺の前に連れてきてくれねぇか?」

 

 

そしてここに新たな情報追加。

 

正直もうお腹いっぱいだからやめてくれない? だめ? そっか……。

 

 

「あっちに潜らせてる奴からの情報だが何でもニンジャたちと上田がもめ始めたらしい。この混乱に乗じて奴を排除したいんだ。例の洗脳は上田が指揮権というか大本らしくてな、奴さえ無力化してしまえば洗脳はどうにかなる。」

 

「あとは元に戻った奴らと今ウチにいる奴らを集めれば1000人ぐらいのニンジャはどうにかなる。いや、して見せる。表の人間に頼むなんてあってはいけないことなんだが今のままじゃどうしようもねぇ。カタギの方々に迷惑を掛ける前に、どうか!」

 

 

 

勢いよく頭を下げる石井。

 

 

 

あ~、いや、ね? ヤミノテとかヤクザさんとかと戦うのはまぁいいんですよ。元々決めてたことですから。ヤクザさんたちが洗脳されてるから戦力的に殺さないようにするのも解るんですよね。

 

それで自分たちが対処に困るニンジャを簡単に倒しちゃう(あの時は強いヤクザかなって思ってた)私が目の間に現れたら助けを求めるのも解るのよ。

 

別にね、この人ヤクザさんではあるけど古き良きっていうか仁義とかスジとかそういうのをすごく大事にして部下から慕われるような人だってことは分かるんですよ。

 

 

でもね、それよりも問題があるんですよね。

 

 

『これヤクザが負けてこの地域ヤミノテに制圧されたら実質的に詰みじゃね? だって私ニンジャにちょっかいかけたから敵対済み、しかも一般人への被害とか全然気にしないらしいから普通にお家に襲撃される可能性があるじゃん。なにこれクソゲーか?』

 

 

つまりこのわたくしがやらねばならないことは!

 

〇上田とか言うやつをぶっ飛ばして友好的ヤクザを増やそう!

 

〇今大阪にいるニンジャ1000人を排除して平和にしよう!

 

〇お家の安全を確保するために恒久的にニンジャを排除し続けよう!

 

〇平和が欲しかったらヤミノテ潰したら?

 

である。

 

ふざけんなボケである。

 

 

まずこちとらニンジャ多くても100くらいかなぁ~、それぐらいならいけるかなぁ~、って思ってたわけよ。それがなんと10倍の1000、1000ですよ奥様! ニンジャが1000人集めて〇せって!?

 

うん、無理!

 

そして排除できたとしても日本の裏社会ほぼ全部支配されてるからおかわりが来るって!?

 

 

……あの、どっかに亡命できませんかね? それかシルバーサムライ率いるビックヒーロー6の救援は来ませんかね? ない? ほんとに? 各ヒーローの本名戸籍まで調べたけどなかった? そっか……。

 

 

なんというか実況者の体調を破壊するクソゲーをダース単位でRTAしろっていう難行よりもきつい気がするぞ! 私の前世がヤバかったせいですかね仏様? ちょいと苦行がデカすぎませんかね? それとも神は超えられる試練しか与えないとか言うつもりですか? ほんと私何したの???

 

 

 

 

はぁ………、うん。いい加減諦めよ。やらないとどうしようもないや。

 

 

私がやらないとこの国が完全に終わるんでしょ? 素晴らしきディストピアが完成してしまうんでしょ? ヤミノテの本拠地が万全になって全世界に暗殺者が飛び交うんでしょ? それを止めてくれそうな戦士もヒーローも私ぐらいしかいないんでしょ? こんな状況になるまでヤミノテが放置されてるってことは唯一頼れそうだったS.H.I.E.L.D.だって頼れないんでしょ? そもそもS.H.I.E.L.D.だってヒドラの巣窟だからヤミノテと結託している可能性だってあるんでしょ? しかも私が戦わないと持ってる技術がバレて最悪住んでる場所も親も友達も全部奴らに奪われるんでしょ? 私のせいでこの世界が崩壊に進む可能性だってあるんでしょ?

 

 

ならもう覚悟決めるしかないじゃん。

 

 

 

日向も歩こう、でも日陰も歩こう。

 

白でも黒でもない、灰色の精神。

 

 

 

ここに“必要”がある。科学者は“必要”という母のために“発明”をしなければならない。

 

私は、“必要”に殉じる。

 

 

 

 

 

 

 

「石井さんだっけ? ……いいよ。その話受けてあげる。」

 

 

「ほ、本当か!」

 

 

「でも条件追加。」

 

 

 

 

 

 

「君の組織、全部私に頂戴よ。」

 

 

 

 

 

 

 

「今まで私たち表側の人間に迷惑掛からないようにしてくれてたのは感謝するよ。おかげさまで私たちはニンジャに、裏に怯えることなく生きることができた。」

 

「ニンジャもヤクザも表に顔を出さないようにする方針は同じ、でも表に出る必要があったときの対応が違う。ニンジャは目的を達成するためなら手段を選ばない、その上その支配の大きさから大半のことをもみ消せる。でも任侠の皆さんは違うわけだ。」

 

「で、問題はこの“後”のこと。私としても表の安全は大事だし、ニンジャは個人的にどうにかしたい思いがあるから依頼は受けよう。でもね? そのニンジャを排除した後はどうするの?」

 

 

 

手が、人が、金が、兵が、力が、全部足りない。

 

相手の規模すらわからない、名前持ちのヴィランがどれだけいるかもわからない。

 

全部失うか、全部守るか。

 

私の手だけじゃ、力だけじゃ絶対に足りない。

 

じゃあ、あるところから持って来るしかない。

 

そして、目の前には人がいる。力を欲する人たちがいる。

 

 

 

「プランなんてないでしょ? 大阪にいる1000人を排除できたとしてもその後に相手は全力で攻めてくるはず。だってわざわざ本拠地である日本の中に敵を残しておくわけないじゃん。」

 

「あなた達の兵士三人であっちのニンジャ一人換算なんでしょ? そしてあっちの戦い方は数で押す人海戦術がメインなんでしょう? このままじゃ何もできずに負けちゃうよね? アナタたちが守ってた子も街も、人も、何もかも守れずに死んじゃうんでしょ?」

 

 

 

顔を伏せる石井さん、彼だって言われなくても解ってる。私はそこに付け込まないといけない。だって私がやらないと全部終わるから。この星を守るために必要なアベンジャーズ、ヤミノテは彼らのことを邪魔だと思ったら絶対にすぐ排除する。襲い掛かる。

 

そのせいで世界を守るために必要なメンバーが死んだら? 取り返しのつかないケガを負ったら? あるべき歴史がずれてどうにもならなくなる可能性は?

 

私は、知ってるから。

 

知ってしまった以上、この星を、世界を。

 

 

 

「私に、守らせてよ。」

 

 

“義務”が生じる。

 

 

「私には技術力がある、こんなスーツ作れるからね。だから私にお金と人、兵士を貸してよ。貸してくれた分それ以上のものを返してあげる。このスーツをそのままって言うのは無理だけどパワーバランスをひっくり返すことぐらいさせてあげる。」

 

 

私は生まれながらに“義務”がある。

 

 

「私が倒したいのはニンジャ、アナタたちが倒したいのもニンジャ。これって偶然? それとも必然? でも目的が一緒なのは確か。じゃあもうわかるでしょ?」

 

 

憧れた世界にいることに浮かれ過ぎた。

 

浮かれてもいい、遊んでもいい。

 

人には必要なことだから。

 

 

 

でも、最低限の“義務”を果たさないと。

 

 

 

 

 

 

「一緒に、奴らを倒そ?」

 

 

 

 

 

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