前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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そういえばもうあれはやらないのかい? 『キミは、選ばれたってやつ。』

「やめてくれ、あれは……そう。例外、もしも。という奴だ。そう何度もするものではないよ。」

そっか……、同じ傍観者としては私たちも参考にしたいくらいなんだけど。

「ふっ、すでにもう君たちならば参考する必要も、チームを集める必要もないだろうに。」

そう? マルチバースは無限の可能性があるんじゃなかった? 前みたいに何が起こるかわからないよ~? それに、こういう小さい言葉遊びは案外馬鹿にできないんだよね、一人でいるとき結構時間つぶしになる。

「ちがいない……。ん? もうこんな時間か、名残惜しいが別れの時だ。君の母上にもよろしく言っておいてくれ。」

りょーかい。今度は他の家族も連れてくるよ。

「いや、ここまでいつも来てもらっているのだ。次は私がお邪魔させていただくよ。……それに、これでもパーティには目がなくてね。母親公認ならなおさらだ。友達は連れて行っても?」

もちろん、監視なら片手間で出来るしね。知り合い全員どーぞ?

「それは楽しみだ。……ついでに言っておくが私を出してよかったのか? 収集が付かなくなるぞ? 明らかに風呂敷の広げ過ぎだ。」

……た、たぶんママが何とかしてくれるはず!

「なるほど、それは良かった。







……だそうだぞ、つぐみ。」






「え、困るんだけど……。」

 

 

視点は変わり、日本からアメリカへ。ニューヨークのサンクタムにある地下の空間に多くの人物が集まっていた。……いや、正確には捕らえられていた、と言った方がいいか。

 

魔術によって生成された簡易な牢獄に収められるのはグリーンゴブリン、ドクター・オクトパス、サンドマンといった『スパイダーマン』の世界から連れてこられたヴィランたち、そして『アメイジング・スパイダーマン』からはリザード、エレクトロが収監されていた。

 

 

「……つまり、どういうこと。」

 

 

彼らを捕まえたのはこの世界のスパイダーマンことピーター・パーカー。彼の正体が全世界に公開されたことで引き起こった事件の解決をドクター・ストレンジという魔術師に頼んだのは良かったが、かの魔術師が選んだのは忘却の魔法。説明不足や行き違い、また精神的に追い込まれていたピーターが焦ってしまったこともあり、その魔術は暴発してしまったのだ。

 

結果、引き起こされた非常はすべてのマルチバースから『ピーター・パーカーはスパイダーマンである』ということを知る者たちが際限なく運び込まれることになってしまう。

 

1人の超越者によってこの世界のヒーローでは対応できない巨悪、またこちら側に来てしまうだけで世界の法則が揺らいでしまうような存在は弾き返されたが、それ以外の存在はこの世界にやって来てしまっている。この場所で収監されているヴィランたちがそうだ。

 

 

「この装置を使い、彼らを元の世界に送り返す。」

 

「で、でも! 元の世界に帰っちゃったら!」

 

「あぁ、元の世界で死ぬ運命にあった者はそのまま死んでしまうだろう。」

 

「じゃあダメ! 駄目だよ!」

 

 

この場にいるヴィランがいた世界に置いて複数人が死ぬ運命にあった、世界は同じでも違う時間軸からやって来た彼らは先ほど記憶の埋め合わせを行ってしまった。ジグソーパズルを揃えるように、過去に死んだ者は未来を生きる者から自身の結末を知る。その存在が死ぬ直前、という不安定な状態だからこそいち早くマルチバースの狭間に迷い込んだ彼ら。

 

ドクター・ストレンジは暴発した魔術を無理やり押し込んだ球体を立方体の神器に収めながら彼らに事実を告げる。

 

マルチバースとは無限の可能性を含んでいる、だからこそ何が起こるかわからない。違う世界の存在がこちら側に来てしまうということは本来交わることのなかった世界と世界が関係をもってしまうということ。

 

 

「ピーター、君なら解るだろう。この星の自転を無理矢理止めるようなものだ。ほんの数秒だけでも破滅的なエネルギーを生み出してしまう。今はまだ押さえつけることができているが、長引けばどうなるかわからない。それに……。」

 

 

魔術師の視線は捕らえられたヴィランたちへと移る、自身の運命に嘆く者、どうにかして逃げ出そうとする者、最後の時を受け入れようとしている者。反応はさまざまであるが、彼らが彼らの世界で悪だったことは変わりない、今はまだ自身の力、そしてピーターの力で無力化することができたものの、次に現れる者がどうであるかはわからない。

 

本当にどうしようもない敵であれば“彼女”が介入してくる。しかしながらその基準は彼女にしかわからず、もしかすると多くの犠牲を払ったとしても彼女が介入してこない可能性もある。

 

 

「解ってくれ、ピーター。」

 

 

目の前の彼からすれば彼女は単なる一人のヒーローであり先輩であるだろう、しかしながら師からその詳細を聞いている私は違う。その根本は人ではあるが、その力の大きさから半ば神のような視線で物事を見るようになった彼女。戦い、抗う者の輝きを愛するがゆえに、すべての障害を排除することはない。そしてその輝きは、失うものが大きいほどに美しく、大きく、すべてを魅了するものになってしまう。

 

 

「彼らは自身の世界で死ぬ運命にある、それを覆すことはできない。」

 

 

彼女が彼の思考を覗いていれば『いや私そこまで酷くはないんだけど……。』と否定しそうなものだが、力を持つ者はどうしてもそれ相応の視点を、考え方を有してしまう。いくら彼女が元々人としての思考を有していたとしても、愛ある者としての思考を持っていたとしても、それが変化しないとは限らない。

 

 

(私は、自身が正しいと思ったことをする。それが私なりの、責任の取り方だ。)

 

 

手を前に組み、魔術を組み立てていく。それと同時に彼の目の前で浮き上がる立方体はその機構を稼働させ、内部にある抑え込まれた魔術を巻き戻そうと脈動を始める。

 

が、それを遮ろうとするものがいた。

 

ストレンジの魔術を止めるために箱へと糸を発射させ、引っ張ることで持ち主は彼へ。無理矢理魔術を中断させる。そして足止めのために魔術師の腕にクモ糸を射出。

 

 

「ごめんドクター! ネッド、МJ!」

 

「わかった!」

 

「行かせないよ!」

 

 

手に取った箱を片手に外へと駆け出すピーター、そして彼の友人でありヴィラン確保に動いていた二人がストレンジを足止めするために道を塞ぐ。この結末を予想していた彼は、すぐさま次の手に移る。彼は彼で、世界の平穏を守る為に戦っているのだ。彼が目の前にいる隣人を助けようとすることは否定しない、むしろその寄り添う形は自身にはできなかったことだ。尊敬に値する。しかしながら、魔術師はより大きなものを守り抜く必要がある。

 

 

(……これも。試練と言うつもりか、ツグミ。)

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「いやまぁそうなんだけど、この筋書きって原作寄りだから違うっていうか……。というかストレンジ先生私への信頼全然ないな!」

 

 

下でトンチキ騒ぎ、ストレンジ先生とスパイディの追いかけっこからのミラーディメンションを見て発狂している別世界の私たちの声を聴きながらそんなことを考える。

 

いやまぁ確かに考え方とか色々変わりましたし、彼に過去の記憶渡してもそういう考え方しそうだし、正直娘たちもユキもイエスマンに近いからそういった否定的な意見を持ってくれるのはすごく助かるし、ありがたいんだけど……。

 

 

「知り合いとしての付き合いはいいけど仕事では信頼しないって感じのスタンスだなぁ……、というかうちの子はなんでウォッチャーを勝手に誘ってるのかな? いや別にいいけどさぁ……。」

 

 

この後の筋書きはまぁピタ男とスト先生が箱の取り合いをして、最終的にクモちゃんが勝利。ストレンジ先生をミラーディメンションに放置して退出って感じ。その後彼らは正気を取り戻しているオズボーンやそのほかを連れてハッピーの家に直行。そこで彼らの運命を覆すために能力の正常化や消失を目指していくことになる。

 

 

「イヴ、ストレンジ先生を例の時間まで宙釣りにするのはかわいそうだし、ちょっとだけ手を入れた方がいいかな?」

 

「やめておいた方がいいかと、おそらく我らが顔を合わせるだけで彼にとってストレスになりそうです。」

 

「そっかぁ……、じゃあ後のことヨロシク。ちょっと出かけるよ。」

 

「はい、行ってらっしゃいませ。」

 

 

 

 

 

魔術師のゲートと同じ要領で空間に円を描く、なんか下の方でまた邪神が暴れ出した気がするけどまぁ大丈夫だろう。そろそろ彼女の親御さんが迎えにくるはずだし。

 

 

 

 

 

繋がる先は南国風味のリゾート地、陽気な海の雰囲気が味わえる場所だ、この地域はどの世界でもいい観光地でね。お手頃の値段でコテージを借りたりもできるからアメリカの行楽シーズンは人でいっぱいになる。まぁ今はちょっと時期がずれてるから穴場のシーズンだね。

 

現実改変で急に現れた私の存在をちょっとだけぼかし、さっきからその場にいたように見せかける。服装も……、ちょっと変えておこうか。冬場だけどこの辺りは温暖な気候だ、ちらほら見える観光客もアロハとか来てるしそれに合わせるとしよう。

 

南国スタイルのトロピカルなワンピに上から軽い上着を羽織っておく、後はサンダルに鍔の大きい麦わらあたりにしておこうか。身長は……、嘗められると嫌だし長身バージョンで行こう。

 

軽く歩いてたどり着く場所はコテージの横に併設されているバーだ。ここに目的の人物がいる。せっかく遊びに来たんだ、何もせずに帰るのは違うし、面識がなくてもお祭りには参加した方がいいでしょ。

 

 

「よし、じゃあ最初から行かせてくれ。つまり、この世界にはスーパーヒーローがたくさんいて。」

 

「……ッ! オイ! ヤバいぞエディ!」

 

 

おっと、気が付かれちゃった? じゃあ逃げられる前ににゅ~て~ん。

 

 

「ハァイ。」

 

「あ、いらっしゃいませー。」

 

 

 

「エディ! おい! 今すぐ逃げるぞ! ヤバい匂いがヤバ過ぎて頭がどうにかなりそうだ!」

 

「ちょっと待てよ相棒、今整理してるんだから。」

 

 

逃げようとするヴェノム君に、こんがらがった思考を整理するので忙しいエディ君。う~ん、いいコンビ。あ、逃げようとしても無理だからね。もうこの建物自体に防壁張って簡易な鳥かごにしてるから。……まぁ簡易、って言うのは私たちの基準なわけだけど。

 

流れるように移動しながら彼の隣に座る。

 

 

「待たせてごめんね~。あ、店員さん。この人のお代わりと私にノンアルでおススメを。お代忘れそうだし先に払っとくよ、残りは取っておいて。」

 

「……え? 俺?」

 

「あなた以外にいる?」

 

 

バーテンダー君に口止めと後でする記憶処理のお詫び領として100ドル札の札束を投げつける。こういうセレブリティな動きしてみたかったんだよね。まぁトニーが見たら『成金か? 本当のセレブってのはこの一帯ごと買い取るんだ』って言いそうだけど。ま、今の彼そんなこと言わないけどね? ……たぶん!

 

 

「やぁヴェノム、それともシンビオート? 君も元気してた?」

 

「エディ! こいつとんでもなくヤバい! 逃げ……。」

 

「はい、チョコ。」

 

「おまえ、いいやつ。」

 

 

前の世界で長い時を待つ間に菓子作りを趣味にした娘が作ってくれたチョコレートを箱ごと投げつける。それを取り込んだ瞬間一瞬にして大人しくなるヴェノム君。いいこだね~、ほらお姉さんがお代わりあげるからちょっと大人しくしてくれるかなぁ?

 

 

「あの……、すみません。俺に何の用ですか?」

 

「ん~? ここのバーテンダーから聞かなかったの? ヒーローがたくさんいるって。」

 

 

自己紹介代わりに頭部だけスーツを装着し、外して見せる。あぁ、ドリンクありがと。ここで起きたことは秘密ね? ほらエディ、この彼から聞いたでしょ。いろんなスーパーパワーを持った人がいるって。その中に白い鉄の鎧を来た女、っていたかな? それが私。

 

 

「すごいぞエディ! こいつSFだ! あとお代わりくれ!」

 

「はいどーぞ。」

 

 

 

「ヤミーッ!」

 

 

 

 

チョコ成分が過剰になったのか、それとも美味すぎたのかはわからないが感情をエディの体から出ていた黒い肉体を破裂させることで表現する彼。当たりに黒い肉片、コールタールが散らばる。

 

 

「おいエディ! こんな上物逃したら永遠に食えんぞ! お前も食べろ!」

 

「お、おう……。うわほんとだ、なんだこれ。……いやちょっと待てヴェノムが人に譲った?」

 

「それ私の娘が作ったの、すごいでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「熱プラズマ反応炉のアークリアクター。そして縮退炉。オットー、この世界は私たちの世界よりも大分進んでいるな。」

 

「……ふんッ!」

 

 

正気を取り戻した彼、ノーマン・オズボーンが昔のようにドクター・オクトパスに話しかける。が、今かの彼は精神を人工アームに飲まれている。その上スタークがピーターに渡したナノテクノロジーによって彼ご自慢のアームは制御を奪われている。過去の行いも相まり、拘束されているとなればオクタヴィアスの機嫌が悪くても仕方ないだろう。

 

 

「……ピーター、そこの資料を取ってくれるか?」

 

「あ、はい。わかりました。」

 

 

ドクターストレンジから魔術の箱を奪取した彼らは、箱を親友たちに預けハッピーの自宅で皆の力を正常化する、もしくは無力化させるデバイスの制作に取り組んでいた。この場にいる多くが自身の手に入れた力によって人生を狂わされた者ばかり、大いなる力には大いなる責任、そして壮絶な運命が待ち構えてしまうが、力さえなければまだ何とかなるかもしれない。

 

ピーターは彼らを助けたい、という思いの中でほんの少しそのようなことを無意識化で考えながら研究に当たっていた。

 

まず、彼らが手を付けたのはドクター・オクトパスことオットー・オクタヴィアス博士の復活である。彼は元々歴史に名を遺すほどの優秀な科学者であったのだが、核融合実験の失敗により人工アームが人体と固定。さらに制御チップの破損により精神が人工アームのAIに汚染されてしまったヴィランである。

 

そのため、正気を保っているグリーン・ゴブリンことノーマン・オズボーンと協力することでまずはオクタヴィアス博士の精神を取り戻す、そしてその次に他の皆の能力の解除やノーマンに巣食うもう一つの人格の治療を行っていく方針となった。

 

現在はトニー・スタークが所有していたファブリケータ―で外付けの制御AIを作成し、その完成を待つ間他の者の治療薬・治療装置の設計を行っている。

 

 

「それにしても、このファブリケータ―。これだけで時代が一つ進みそうな品だな。それがキッチンの裏の物置にあるとは……。」

 

「ハッピー、あぁこの家の持ち主の人なんですけどトニー・スタークって人の……、あ~、秘書みたいな仕事をしてるんです。確か不用品だから預けられたってことを叔母さんが言ってました。まぁ今無断で使っちゃってんるんですけど。」

 

「これが不用品か……、確か君のスーツも彼が作ったんだったか。」

 

 

異世界のヴィランたちを救うために家にあるスーパーマシンを使わせて! とはさすがのピーターも言えないこと。それに自身の正体がバレてからは居候させてもらっている身だ、叔母さんは喜んで賛成・手助けしてくれたけどハッピーは絶対に反対する。今はおとなしくしてくれているけど危険なことには変わりないからだ。終わった後絶対キツめに怒られるだろうなぁ、と待ち構えている嫌な未来のイベントを憂鬱に思いながらピーターは作業を進めていく。

 

対して、言葉を紡ぎながらこの装置たちの生みの親を思い浮かべるノーマン。彼自身大企業の社長であり、天才と呼ばれるにふさわしい科学者の一人。確かにここに並べらた品々を調べ、解体し、理論を知れば同じようなものを作ることは可能だろう。しかしながら独力でそこまでたどり着くにはどれだけの時間が必要なのか、また社会全体の知識という蓄積がどれだけ必要だったのか。

 

科学者の一人としては非常に心躍るような体験をしている、しかしながら別世界の住人として、一人の起業家としてこれを見たときどれだけ社会に影響を与えてしまうのだろうか。軍からの圧力に負け、自身を怪物にしてしまった経験からかずっとそのようなことを考えてしまう。

 

 

「その上、縮退炉に宇宙進出か。……もし、帰れたとすればそういった道を歩んでみるのも面白いかもしれないな。」

 

「……うん、すごくいいと思う!」

 

 

自身の増強剤の解毒薬や、他の者たちの特効薬を試算していくときに発見したハイツレギスタという企業。この世界のピーターと強いかかわりを持つスターク社とは違うテクノロジーを保有している。そこの公開されているデータベースを覗いてみれば、湯水のように溢れ出てくる情報の津波。今自分たちが行おうとしている特効薬の制作に繋がりそうな基礎研究や、薬品の実験データ。そして彼らの宇宙産業の根幹を成している縮退炉の精密なデータ。

 

まるで作れるものなら作ってみろと言わんばかりのデータたち、これが無料で公開されているとはなんだか恐ろしくなってしまうほどだ。……実際、気になって少し調べてみたのだがこのネットワークに入り込んだ瞬間からこちらのことを監視するようなプログラムが組まれていた。専門外なので確証はないが、わかりやすい釣り餌の役割も果たしているのだろう。

 

一応、ピーターにそのことを伝えておいたのだが。

 

 

「あ、やっぱりそうなんですね……。今ちょっと先輩には連絡が付かないんですけど、今度また会ったときに理由を説明しておくから大丈夫だと思います。一応ここの会社の社長の人とも知り合いだから……。」

 

 

ということを言われた。……こうして見ると単なる好青年にしか見えないのだが案外すごいのかもしれないな。

 

 

そんな考えをまとめていたノーマンの耳にアラーム音が聞こえてくる。

 

 

「できた! カレン!」

 

『アーム操作を行います。』

 

 

その音は、ファブリケーターが作業工程を全て終わらせたことを示している。生成された部品たちを急いで組み立て正常に動作するかのチェック、そのすべてを終わらせたピーターはすぐにそれを手にとり、ナノマシンの制御を行っていたAI、カレンに指示を飛ばす。

 

 

「博士が触手を動かしているんじゃなくて、触手が博士を動かしている。だからこれを使えば……!」

 

「やめろ! なんだその機械は! 私を殺す気か!」

 

 

暴れるオクトパスをナノマシンによって制御されたアームたちが押さえつけ、後ろに回ったピーターが新しい装置を付けたそうとする。場所は脊髄に直結する首の根本、壊れた制御チップがあった場所を包み込むように装置がはめ込まれる。

 

 

「ッ!」

 

 

装置が起動された瞬間、かくんっと彼の首が前に倒れる。意識が無理やり落とされたかのように見えるそれ。

 

さっきまで声を上げていた彼が急にそのようなことになれば、必然皆の心に不安が浮かんでくる。心配そうに見つめるピーターとメイ叔母さん。真剣な眼を向けるノーマンに思わず「死んだのか」と声が出そうになってしまったエレクトロとサンドマン。

 

しかし。

 

 

 

 

「……こんな静かな感覚は、久しぶりだ。」

 

 

 

「オットー。」

 

「あぁ、ノーマン。大丈夫だ。」

 

 

 

成功したと判断したAI、カレンが彼へと人工アームの制御権を渡す。真っ赤に光っていたはずのランプは正常な青色を取り戻し、ゆっくりと彼の動きをサポートしていく。

 

彼の意図に合わせて動くソレは長き時を経て、ようやく本来の役目を果たそうとする。

 

 

「感謝するよ、ピーター。心から。」

 

「ッ、はい!」

 

 

差し出された手はすぐに握られ返す。オットーがもとに戻ったことを自分のことのように喜ぶ彼。そんな彼の顔を優しい眼差しで眺めながら、彼の脳裏に浮かぶのは自身の世界のピーター。彼には、酷く迷惑をかけてしまった。この身に機会が回ってくるかはわからない。だが……。

 

自身がしてしまったことへの償いをするためにも、今はこの場にいる者たちの回復に専念するべきだ。何より、ノーマンの症状はいつもう一つの人格が出てしまうかわからない。手伝わなければ。

 

 

「このナノマシンは、返しておかねばな。」

 

 

アームを操り、彼の体へと密着させる。そしてすべてのナノマシンを元あった場所へ。時間があれば礼として、また一人の科学者としてその改良などにも手を付けたいが、後だ。

 

 

「さぁ、手伝わせてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着信音。

 

 

 

 

 

 

「誰のだ?」

 

「叔母さんのじゃない?」

 

 

「あら、ほんとね。……ちょっと待って、ハッピーから。いい感じに誤魔化しておくから頑張りなさい。ハァイ、ハ……。」

 

 

 

『今どこにいる!?』

 

 

 

「い、今? あなたの家にいるけど……」

 

 

 

『すぐに避難してくれ! そこは危険だ!』

 

 

 

 






〇ヴェノム

お嬢様こわい、こいつどっかの世界で邪神ヌルごと全シンビオートを破壊した気がする。どうあがいても勝てない。けどチョコはうまい、こいついいやつ。

〇お嬢様印のおいしいチョコ

過去の世界で傍観者をしていた彼女の娘たちは暇な時間を過ごすために外部との交流をしたり、趣味を持ったりしていた。その中の一人が菓子作りに目覚め、極限まで磨き抜かれた結果完成したのがコレである。『本気の作品はママたちにしか食べてほしくない』とのことでヴェノムに渡されたのは幾分かグレードの落ちるものだが、食べただけで彼がスプラッシュしちゃうほどおいしい。彼によると「新鮮な人間の脳みそより何倍もうまい。エディ! 何とかしてコレを手に入れるぞ!」とのこと。

〇ゲートに反応した奴

数分後お母様が現着し、引きずられながら帰って行った。








そういえばスパイディって魅力的なヴィラン君がいますけどノーウェイホームでは出ていない子が結構いますよね。


ライノ君とか

ショッカー君とか

鉄十字団とか




……おっとぉ?




















◇おまけ◇



以下、おまけです。本編とは全く関係がないので読まなくても大丈夫です。



さぁお前もゴッサムに行くんだよ!



『前世から愛をこめて DCゴッサム』



























この街には救いはない。

ゴッサムで生きるのに覚えておくべき唯一の言葉だ。







この世界で命を得た時、私は何の力もないただの赤子だった。暗く、暗く、何が潜んでいるのかわからない暗闇、父の顔は知らず母の顔はいつも歪んでいる。赤ん坊のせいか本能を理性で抑えられず、母を授乳のために起こしてしまう。ただ、申し訳なさを覚えた。

前世の私は何か悪いことをしたのだろうか、はっきりとしない記憶を思い返すことが唯一の救いとなる世界、ゴッサム。ただ悪意がそこにある世界。夜が最も長い都市。それが当たり前になってしまった場所。私は、そんなどうしようもない場所で、存在しないはずの女の腹から、存在しない赤子として生まれた。戸籍を持たず人間として自身を証明できない母から、彼女と同じように私が生れ落ちてしまった。



この街では珍しくない。



母の精神状態がまともでなく、金もない。届け出すら出せない赤子。まぁそのことについて母に恨みはない。心を壊しながらも一人の母親として、彼女ができる範囲で私を人間として育てようとしてくれたこと。絶対に忘れない。歪みながらも、壊れながらも、そこに愛はあった。彼女にとっての母、私の祖母。母はずっと彼女のようにはならない、この子を私にはしない。


そう言いながら、私を育ててくれた。


ある程度成長した後、私は少しでも母に楽をしてもらおうと彼女の身分を使い仕事を探した。母は体を売る仕事を生業にしている女性だったが、仕事をしているということはまだ人間として数えられていた。……少し考えればもっとやりようがあった。身近な大人だったからその身分を使ってしまった。偽名なんか意味がなかった。


あの底溜に、やさしさの欠片なんてない。誰かが上に行こうとすれば、囲んで叩き潰し、全て奪い去る。そして集まった者たちが醜く奪いあう。あの時の私は、目の前の幸せをつかもうと、周りを見ていなかった。


せめて私を人間にしようと届け出のために必要な、わずかなだけど私たちにとっては途方もない金額を稼ぐために。身分さえ確立できれば子供でも働けた、母だってもう少しまともな仕事にありつけたはずだ。食べ物だって、もっとまともなものを口にできたはずだ。

掠れていても、義務教育として身に着けた知識は残っていた。一定の教養が必要な仕事を母の身分を使って受けることができた。

受けれてしまった、稼げてしまった、動いてしまった。

出来るだけ、出来るだけまともな仕事を探し、見つけたのは簡単な計算と文字さえかければできる仕事。母は文字を書けなかった、教育を受けることができなかったから。でも、私ならできた。

まだ呂律が回らない年でもタイピングはできる、筆は握れる。壊れたワープロを拾い、震える手で修復し、文字を書く。数を合わせる、書類を作っていく。それが何を表しているのかを考えないようにしながら進めていく。仕事はまだ普通でも、書かれている内容はまともじゃなかった。薬、武器、人。買う方も売る方も来るってるものばかり。……でも、前に進むにはお金が必要だった。思い通りに動かない体を何とか使って、少しでも前に。



初めて手に入れたお金を手に入れた。。



スラムよりもさらに奥、掃き溜めで生きる私たちにとっては一生見ることができない額、初めて見たかもしれない母の喜びの顔。

今後のことを考えれば溜めるべきだった、最後までずっと隠すべきだった。……いや、あんなクソみたいな場所だ。どうせ結末は同じだった。あの時はただ、母の笑顔が見たくて、私より早く死んでほしくなくて。少しでも栄養を取って欲しかった。

料理を知らない母に色々教えながら彼女のためだけに作った栄養のある夕飯。初めてまともな味を感じられる食べ物。




最初で最後のあたたかな、家族の楽しい夕食。




結局、一口も食べることはできなかった。

ただの売春婦が余計なことをした、笑っていた、買い物をしていた、料理をしていた。それは、金を持つ者しかできないこと。私たちじゃ死んでもできないこと。ありえないからこそ、目立ってしまった。

この世界に居場所のない者たちが集まるここで、一番弱い立場にいた私たちがまとまった金を手に入れた。それが、とにかく気にくわなかったのだろう。金を奪うため、食事を奪うため、私たちは襲われた。


何人もの大人が私たちに襲い掛かり、母は私を逃がすためにその身を投げ出した。


……その後のことはよく覚えていない。私のことを追いかけてきた大人たちを巻いて、身を隠しながら家。私たちのボロ小屋に帰ってきた。待っていたのは荒らされて何も残っていない部屋と、冷たく動かなくなった母。







私は孤児になった。







すぐには泣けなかった、

家の中には金になりそうなものはあまりなかったのだろう、私が帰るのを見張っていた奴がいた。とにかくその場から逃げることが優先だった。この幼い体では一度殴られ、蹴られるだけで致命傷。ただ死にたくない、冷たくなってしまった母のようには成りたくない。ただ、それだけが私の足を突き動かした。

私が金をもって逃げ出したと考えた大人たちを巻くために隠れたゴミ捨て場。この小さな体にはここが一番よかった、隙間に隠れ震えながら奴らが諦めるのを待つ。冬の全ての熱を奪い取るような雨が降ろうとも、私に許されているのは震えながら時間が経つのも待つことだけ。

あの場所から見えた世界は、とても暗く、静かで、寒かった。

あの日のことは絶対に忘れられない。忘れてはいけない。








雨は、上がらない。







この命は母のものだ。母のためにも私は生き残らなければならない。逃がしてくれた母のためにも。……そう、詭弁のようなごまかしが気力になる。母の死を見たときに感じたどうしようもない恐怖を覆い隠すのにこれ以上ない理由だった。

もし、ただ死を恐怖するだけの存在になり下がったら、自分もあのクソみたいな大人と同じになってしまうようで。母のため、母の愛のため。奴らと自分は違うんだ、もっと高尚な存在で、もっと人間らしいんだ。


壊れないようにするためには、これしかなかった。


今思えば、どうしようもなく愚かで、そんな考え方があのクズたちと同じ。もしあの時の自分が目の前に現れたのならその首を絞め、殺したいほどに醜い考え方。


ただ、生き残るために。私は掃き溜めから抜け出した。誰かに見つかったら殺される、社会の最下層にいる私は誰かの癇癪で死んでしまう、鬱憤を晴らすために振るわれたその足が当たってしまえばすぐに終わってしまう。隠れて、隠れて、隠れて。

歩は遅く、ずっと何かから逃げ続けた体は悲鳴を上げていた。理性はこれからやろうとすることを反対し、諦めるべきだと訴る。どうせこの世界に救いはない、誰も助けてくれない、希望なんか存在しない。

もし、存在したとしてもそれは。私がやろうとしていることは、どれほど醜いことなのか。

考えれば、考えるほどに死にたくなってくる。だけどそれ以上にあの時見た母の死体のように成りたくなかった。

自分があいつらみたいな醜い存在になることと、死への強い恐怖。



私は、彼らみたいに乗り越えることはできなかった。



戸を、叩く。


たどり着いたのは、






「たすけて、ください。」






ウェイン・タワー。








世界は、物語はまだ始まってすらいなかった。醜い存在となった私には、もうどうでもよかったがこの都市の影となるブルースはまだ乳飲み子で、この後死ぬはずのトーマス・ウェイン、マーサ・ウェインはまだ生きていた。

幼子がボロボロになりながら家の前にいる、心優しき二人に保護された私はこの世に生れ落ちて初めて、そしてもう感じることができないと諦めていた暖かさを知った。それと同時に彼らを利用している自身の醜さに死にたくなった。



本来ならその後孤児院に送られるはずだった私はその道を回避するために持てる限りの、まだ記憶に残っているものすべてを吐き出した。まだ新世紀に入ったばかりのこの時代、その先を生きある程度の教育を受けた私は“その生まれと境遇に見合わない知識を持つ特異なこども”として彼らの目に映った。

なにかの刺客かと警戒されながらも、あのドロップ中毒の温床となる孤児院だけには行きたくなかった。私が受けたこの恩を返すためにもここにいさせてほしい、知識はある、役に立たなければ雑用でも何でもやる。お願いだからここにいさせてほしい。そう、頼み込んだ。

それが、マーサ様の琴線に触れたのだろう。アルフレッドさんに止められながらも私はこの屋敷で働くことになった。ドリーさんの下に付く見習いメイドという地位を頂いて。


と、言っても役職は本当にもらっただけの物。任される仕事も子供ができる手伝いや乳飲み子であるお坊ちゃまの面倒を見たりと簡単なもの、それ以外の時間は屋敷内を好きに歩き回ってもいいと言われた。私が読みたいと思った本は読ませてもらったし、やりたいと思ったことはやらせてくれた。学校にも通わせてくれた。本当に娘のように扱っていただいた。





本当に、本当に自分が嫌になる。
















「これが、私の半生。……面白くなくてすまない。」


「たしかに、面白くはないね。私にそんな趣味はないわ。」



寂れて、廃棄された公園。本来なら都市開発の影響で更地になるはずだったそこは人っ子一人いない。錆と、落書き。風化した遊具たちは今にも壊れそうで。とても子供が遊んでいた場所のようには思えない。

そんな場所に、同じ顔が二人。


「それで、なぜここまでやって来た。」


この町で、寒く暗い世界では誰も明るい気分なんかなれない。全身を黒で覆うような服に身を包んだ私は、もう一人の私の返答を待ちながら、手の中に納まる小さな光を転がす。機械の、どうしようもなく冷たい光だ。

隣にいる私は明らかにこの世界の、この町の出身じゃない。この町に生きる奴はもっと沈んでいて、覇気がない。冷たく沈んだ目か、狂ってもうどうにもならない目。熱を持つ奴なんかここにはいない、外からどれだけ元気な奴がやってこようとも一日あればそんな奴消える。カモにされて物理的に消えるか、地獄を見てすべての熱が消えるか。……だけど、この横にいる私はずっと熱を持ち続けている。輝いてしまっている。正直、目に入れたくないぐらいに、眩しい。

自分の可能性を見せつけられているようで。

早く、消えてほしい。


「辛辣だなぁ、別にいいけどさ。……同じ存在が死んだ顔してたら話ぐらい聞きにいかない? この世界じゃなくて昔の世界ならさ。」

「…………そういえば、そうだったな。」


こっちの顔を覗き込みながら、彼女はそう告げる。ちょうど夜の闇を照らす街頭がこいつの顔を照らし、そこに“私”がいることを伝えてくる。暖かな場所でしか生まれない笑顔、芯があって熱のある瞳、ちゃんと手入れされてぼさぼさじゃない髪。全部私とは違う。世界が変われば、生まれが変われば、育ちが変われば、人はここまで違う人間になるのかと。なら私は何だったのかと。……こいつだって私と同じような存在だ、そっちの世界でも苦労は絶えないだろう。そんなことはずっと理解してるのに。あぁ、この奥底から湧き上がる黒い感情は何だろうか。言葉にしたくない。


「……手伝いはいるかい、私。こっちには用意がある。このクソみたいな町を根本から変えてしまうこともできる。」

「いらない、闇は、底は必ずどこかに生まれる。ゴッサムがまともになろうが次のゴッサムが生まれるまでだ。……それに、もう私はここ以外じゃ生きられない。」

「……そ、っか。」


空を見上げれば、シグナルが掲げられている。

私に助けを求められているわけじゃない。だが、あの人たちから託されたのだ。クソみたいな私を育ててくれた恩は一生かかっても返し切れないほど重い。

例え仕える者に拒否されようとも、やることは変わらない。



掃除を、しようか。




「いってらっしゃい。もう出会うことはないだろうけど、貴方の幸せを祈らせてもらうよ。」




「……あぁ。」




手に持っていた青く冷たい光を胸に当て、黒い鎧を身に纏う。




夜は、終わらない。







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