前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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『キミがスパイダー坊やだろ?』

『キミの動機は? 何故これをやっているか、……知っておく必要があるんだ。』



『もし。自分に何かできるのに、しなかったら。……それで悪いことが起きれば、自分のせいだと思う。』





『後輩くん、いいことを教えてあげよう。』


『いいこと、ですか?』


『あぁそうとも、心構えの話さ。……今後、多分君には目を覆いたくなるような悲劇が待っているだろう。』

『だってそうだろう? どんな物語でも力を持つ者のところに厄介事は転がり込んでくる。』

『最初はどうしたらいいかわからなくなるだろうけど……、ちゃんと前に進めれば。』


『きっと、ハッピーエンドが待っている。』


『あぁ、安心して。私はちゃんと見てるからさ、ちゃんと用意してあげる。』

『さっ、高校の課題まだ終わってないんでしょ? 少しぐらいは手伝ってあげるからさっさと終わらせちゃいな。』







救いの手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大いなる力には、大いなる責任が伴う。

 

 

ずっと、叔母さんの最期の言葉が耳に残っている。

 

 

 

 

僕は、間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリーンゴブリンの手が、放される。

 

空中での唯一の支えがなくなる、それは彼女が重力によって地面へと叩きつけられることを意味していた。そして、さらなる置き土産として爆弾を敢えて彼女の近くで起爆するように投げつける。確実に彼女の命が“ピーター・パーカー”から零れ落ちることを確信した彼は、邪悪な高笑いを残しながら町の闇の中へと消えていった。

 

手は、届かない。

 

彼の持つクモの糸は便利ではあるが、万能ではない。射出できる速度に、彼女の元まで到達するのにかかる時間。重力によって地面に吸い寄せられていく彼女の体に、止まったような時間の中でひとつずつ針を進める時限爆弾。叔母さんだけを引っ張るのには距離が離れすぎていた、糸は届くが落下の勢いを殺し切ることはできない。何より爆弾の存在。

 

彼の頭の中に、認めたくない事実が浮かび上がる。

 

感覚が、研ぎ澄まされていく。自分より離れた場所で、オクタヴィアス博士が戦っている。自身の知らない、黄色いパワードスーツを着た男と。どう考えても間に合わない。警察、ダメージコントロール局が到着しているみたいだけど間に合うはずがない。しかも、相手はこっちを犯人だと思っているみたいだ。銃器を片手にこちらに来ようとしている。

 

世界が、徐々にゆっくりになり、止まる。

 

叔母さんが落ちる速度も、僕が走る速度も、糸が伸びていく速度も、どうしようもないほどに遅く。

 

 

間に合わない。

 

 

彼の脳が、不可能であることを理解してしまった瞬間。

 

 

 

時は、動き出す。

 

 

 

 

 

……そこから先のことは、あまり思い出したくない。

 

 

 

 

 

 

 

「いぃ、の、よ。ピー……、ター。」

 

 

「あなたは、間違ってなんかない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「大いなる力には、大いなる責任が伴う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは、それを……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいないように思えてしまう夜の街、強い雨が全ての音を消し去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『デイリー・ビューグルから悲しいお知らせをしなければなりません。本日未明、マンション街でヴィランたちによる大規模な戦闘が行われ、一棟のマンションが倒壊しました。これにより、メイ・パーカー氏が……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヴ。

 

 

『時間停止、および集団幻覚の実行が完了しました。』

 

 

お疲れ様。

 

 

 

全てが止まった真っ白な世界で、たった一人夜空を浮かぶ。上から見たそれは想像以上にひどく、自分がやってしまったことの大きさをより、実感させてしまう。オットーと戦っていたショッカーは警察らしきものたちが来たことで逃走。博士自身も、何が起きてしまったのかを把握した後は、後ろ髪を引かれながらその場所を後にしている。

 

 

「本当に、傍観者ってのは辛いね。その上私はさらに色んなものを付け足しちゃってるんだもん。」

 

 

これが、すべてを変えてしまったことへの責め苦なのであれば甘んじて受けただろう。だが今回は単に自身の自己満足に近い。たしかに、彼女の死がなければ彼は成長すること、悲しみを乗り越えるということを知れないまま進んでしまったのだろう。そのせいで、どこかで、何か大きな失敗をしでかしてしまうかもしれない。……だが、その失敗は私がなかったことにしてあげられるものだ。

 

……彼にとって、彼女。メイ・パーカーの死は本当に必要だったのか。

 

それをずっと考えてしまう。

 

 

 

地面へと降り立ち、彼女への生存確認を行っているダメージコントロール局員の傍まで歩く。雨が降り始めたようで、空中に漂う水滴たちが私の体を通り抜けていく。この気分を少しは癒してくれると思ったが、イヴが気を利かせてくれたのだろう。空間を操ることですべてが通り抜けていく。

 

彼女の傍に、立つ。

 

ゆっくりと彼女の体を抱きかかえ、空へと飛び立つ。ことが終わるまで彼らはずっとそこに彼女がいるかのように思い続けるだろう。元々解体する予定だった組織だ、どうせ後で何か不都合があったとしても関係がない。

 

 

『肉体の修復及び、精神体の確保完了済みです。いつでもどうぞ。』

 

「戻してあげて。」

 

 

全身を叩きつけられたことで受けた傷が瞬時に回復され、その体から離れた魂が元ある場所へと戻っていく。私たちにとって、死とは覆せるものだ。すでにただの状態異常と同じものになってしまっている。……そして、その感覚が彼たちの持つ感覚と違うということも。

 

 

「単純な力では強くなったかもだけど、精神は弱くなっちゃったかなぁ。あはは、ストレンジ先生の言う通りじゃんか。」

 

「せめてもの詫びだよ、メイ・パーカー。ケガ以外にも色々直しておいた、長生きしてくださいね。」

 

『付近の総合病院の方の買収が完了しております、個室の方を抑えておりますのでそちらの方に。……お辛いのでしたら私が代わりましょうか。』

 

「……いや、自分でやるよ。この重み、忘れないようにしなきゃ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしようもないほどに重い空気がずっと流れている。

 

ピーターの親友である彼の家で集まっていたネッドと、ピーターのガールフレンドであるMJはこの家で彼の吉報をずっと待ち続けていた。彼が並行世界からやって来た人たちの治療に使うデバイスを制作するため、危険なヴィランたちと一緒に行動する必要がある。戦う力を持たない二人には彼に付いて行くことができなかった。

 

代わりに任されたのはドクター・ストレンジが所有していた魔法の箱。そこには失敗した魔術が保管されており、上の面にある突起を押し込めばその魔術が破壊されすべてがなかったことのように元通りになる。

 

ピーターが助けようとしたヴィランたちも、元の世界に戻る。だが、それは彼がしようとした行いをすべて否定すること。

 

彼の身に何かあればすぐに押す、と息巻いていたが……。

 

 

 

さらに落ち込もうとしていた空気に耐えられず、電源を落とされたTVは先ほどまでずっと同じことを報道していた。ピーター・パーカーの唯一の家族であるメイ・パーカーがなくなり、彼らが住んでいたはずのマンションは崩れ、彼の元で捕まっていたはずのヴィランたちは全て逃げ出してしまったことが解っている。

 

しかも、彼らの友であるピーター・パーカーは行方知れず。

 

 

「……やっぱり、押すべきよ。」

 

 

彼女が、箱を手に取る。

 

 

「駄目だよMJ、……押したって多分。」

 

 

何も変わらない。

 

箱が為せることは納められた魔術をなかったことにするだけ、決して死者がよみがえることでもなく、彼の安否を教えてくれることでもない。もし、まだ彼がヴィランたちを抑えようとしていたら? その箱のボタンを押してしまうことで何か取り返しのつかないことが起きてしまったら?

 

自分たちが原因でもし彼に何かあったら、自分たちはどうしたらいいのだろうか。

 

そんな暗い思いが、ずっと二人の心の中を覆い尽くしている。

 

 

 

「……とにかく、ピーターに会いたいよ。」

 

 

 

頭を抱え、どうしようもない状態、そんな時、ネッドが心が口からこぼれ出てしまったかのような言葉が、カギとなった。

 

スリング・リング、ドクターストレンジが空間と空間をつなげる移動魔術を使用するときに使う道具。ピーターがドクターを出し抜いたときに邪魔されないように奪ったそれはネッドが所有、その指に嵌められている。そして、何か話すときに、手元が動く癖。強い思いと、その動きが合わさったのだろうか。

 

その、指の先。魔術師たちが生み出していたような黄金の火花が生じる。

 

 

「……ネッド。」

 

「……あぁ。」

 

「…………もう一度やって。」

 

 

彼が、もう一度先ほどの言葉を繰り返す。さっきした動きを思い出しながら、もう一度。

 

するとさっきは小さな火花だけだったのが、今度は小さな穴が生成される。しかもその先は本来あるべきのない景色。違う場所、この家とは違う場所に繋がっている。

 

思わず、立ち上がる二人。何かにすがるような顔で、もう一度。今度は人が通れるぐらいの大きさを。

 

 

「よし……、とにかくピーターに会いたい!」

 

 

 

ゲートが、開かれる。

 

 

 

「わぁ……。」

 

 

 

目の前に起きたことに思わず声を上げてしまうネッド、その一部始終を見た彼の祖母が何かを伝える。

 

 

「お婆ちゃん、これ魔術だ。」

 

「……ねぇ、あれ。」

 

 

 

 

 

 

「ねぇキミ! もしかして毎日これと戦ってる感じなの!」

「違う違う! 俺ちゃんもこれ初めて! というかなんでこんなのたくさんいるんだよ! こんなの俺ちゃんきいてない~! おFU〇Kですわ!」

「それはボクも聞きたい、っと危ない!」

「わっふぅ! ……さすがアメイジングなクモちゃん。とりあえず煙幕張るから逃げちゃましょ! これ俺ちゃんたちには無理!」

「ちょっとそれは賛成かな……、どうやらボクを追ってるみたいだし行方をくらました方がよさそう。ねぇデッドプール! この世界には他のヒーローもいるんだよね!」

「もっちろん! バットなマンとか時代遅れのタイツマントマンはいないけど十分やべぇのが!」

「ならよし! 手を貸してもらおう!」

 

 

 

 

 

 

「ピーター!」

「ピーター! こっち!」

 

 

 

 

 

 

「アンドリュー! あっち! あっちでなんか呼ばれてる!」

「だからボクピーター! はいクモの巣プレゼントするからこっち来ないでね!」

「うんもう! 俺ちゃんせっかく弾補給したのにまたすっからかんだよ! あ、置いてかないでスパイディ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

赤いマスクに青いラインの入ったクモの装飾、なんかもう一人いるがあれは明らかにスパイダーマンだ。何かと戦っていたみたいだけどこっちのことに気が付いて走ってくる。

 

自分たちの彼が無事なこと、その事実が分かっただけで飛び上がりたくなるぐらいうれしい。なんか知らないヒーローも付いてきてるけど多分アベンジャーズの仲間か何かだろう、騒ぎを聞きつけて彼と一緒に戦ってくれている。この事実もひどく二人を安心させる。

 

こっち、こっちと手招きをする二人だったが……、スパイダーマンたちが近づいて来るほどにさっきまでニッコニコだった顔が徐々に曇っていく。

 

 

そうとは知らず、赤いコスチュームの二人が。ゲートを飛び越えた。

 

 

上がるおばあちゃんの悲鳴。

 

 

「ハ、ハァイ! いやいや、大丈夫。僕はいい奴だ!」

 

「……俺ちゃんどこもケガしてないよね、『ちょっと読者のみんな! 多分大丈夫だと思うんだけど腕とか足とかちぎれてないか見てくれない? 大丈夫?』」

 

 

まったく知らぬ二人を見て警戒をあらわにするネッドとMJ、しかもお婆ちゃんからは悲鳴と一緒にクッションの攻撃までついて来た。両手を上げ自分が味方であることを伝える“スパイダーマン”に、クッションが顔面に直撃するもう一人の赤いの。

 

 

「……っ、大丈夫。」

 

 

片手を上げて何もないことを表しながら、もう片方の手は自身の顔に。勢いよく剥がれたマスクの下は。

 

 

彼らの知らない“ピーター・パーカー(アメイジング・スパイダーマン)”がいた。

 

 

「あ、俺ちゃんマスクとったら年齢制限上がっちゃうからナシね。」

 

 

ネッドとMJの顔がより厳しくなる、言ってしまえば自分たちの知らないおじさんがスパイダーマンの服を着て現れたわけだ。しかも背中に日本刀を背負い戦闘服を着た男と一緒に。そういう反応になるのはしかたないことだし、そうなることを見越してこのピーターは自身のマスクを外した。もう片方の方は最悪トラウマになるので控えて頂きます。

 

 

「……あなたたち、だれ。」

 

「ピーター・パーカーだ。」

 

「ありえない。」

 

「スパイダーマンだよ、僕の世界ではね。」

 

 

どういうことなのか、何が起きているのかについて脳が処理を拒否しているというかどうしたらいいのかわからなくなり、固まってしまっているネッドの代わりに、MJが問いかけ、その答えを否定する。だが、『自身の世界で』という単語で、彼女たちの脳裏に“マルチバース”という存在が戻ってきた。

 

 

 

「だけど昨日、気づいたら。……何故かここにいた。」

 

「ヒモ理論も、マルチバースも、次元間移動も、……ほんとにあり?」

 

 

「えぇ、まぁ。」

 

「やっぱり……!」

 

 

部屋の中で自身の損傷を調べながら、ハローキティちゃんのカバンに入っている銃器を取り出し使い物にならないものをゲートの外に捨て始めるデッドプールをよそに、スパイダーマンと二人の会話が続けられる。明らかに銃とか剣とかヤバいものを持っている不審者だがとりあえず先に、こっちのピーター・パーカーについてどうにかしないといけない。

 

並行世界の存在を確信し、科学オタクの一人として喜んでいる“ピーター”をよそに二人は顔を見合わせる。

 

 

「きっと呪文のせいだよ。」

 

「呪文? 魔術の呪文?」

 

「ない、そんなのないよ。」

「ない!」

 

「魔術もあるわけ?」

 

 

「てか。」

「黙ってネッド。」

 

「いや、そんなものはないよ。」

「黙って。」

 

「てかまぁマジシャンは存在するけど」

「うっもう、口閉じて。黙って。」

 

「ストップ。」

 

 

暴走しかけたネッドを何とか黙らせ、自身の知らぬピーター・パーカーへと向き直る彼女。

 

 

「証拠を見せて。」

 

「証拠?」

 

「ピーターって証拠。」

 

「IDは持ってない。ほら……、スーパーヒーローは謎の存在って設定が崩れるだろ?」

 

 

そう話している途中で、MJは机に置いてあったパンを彼へと投げつける。そして謎の空手っぽい構え。

 

 

「……なんで投げたの。」

 

「ムズムズセンスを試した。」

 

 

ピーターのとても悲しそうな声が響き、それに返されたのは警戒し続けるMJの声。ちなみに床に転がり落ちたパンは、デッドプールの元へ転がり、それを手に取って彼がお婆ちゃんとの『これ食べていい?』の交渉に入り込む。

 

 

「パンには害がないから感じ……、あぁもう投げるのやめて。人間不信が強いタイプだね。……わかった、歩み寄ろう。」

 

 

もう一つのパンを手に取り、投げるモーションに入ったことで違う世界のピーターの方が折れた。軽く飛び上がることでその手が天井へと張り付き、ぶら下がる。が、まだMJの疑惑は晴れない。ネッドも復帰して魔術師的な構えを取っているあたり二人とも警戒しているのだろう。

 

 

「這い回って。」

 

「這い回れって? やだよ。」

 

「いいから、這って。証拠が足りない。」

 

「天井にくっついてるだろ?」

 

 

が、返答はNG。もう一度MJの手からパンが射出され。ピーターに当たる。可哀そうなことに床に転がったパンの数が増えてしまった。

 

そこに、ネッドのお婆ちゃんから助け船が入る。彼女がネッドに何か話しかけ、翻訳を頼んでいるみたい。

 

 

「あ~、お婆ちゃんがそこにあるクモの巣を払ってだって。せっかく上にいるし。あと下に落ちたパンは汚いからちゃんと洗ってから食べなさいって。」

 

 

「はぁ……、了解。」

 

「OH! ありがとおばあちゃん。」

 

 

そう答えたピーターが天井を這って、クモの巣を払う。すぐに作業を完了させた彼は天井から着地。手を叩きながら証明を完遂したことをアピールだ。ちなみにデップちゃんは水道を借りて汚れを落とした後にお口を隠してパンを頂いてます。『クモちゃんも食べる? いらない? ……あ、そうだクモちゃんも俺ちゃんのお口見ない方がいいよ、アボカドだから。』ちゃんと気遣いができるデッドプールくんはえらいですね。

 

 

「満足?」

 

「とりあえず。」

 

 

それをよそに事態を整理するために向き合うMJとネッド。

 

 

「きっと、間違ったゲートを開いて別人が来たんだ。」

 

「なら本物がくるまで開き続けないと。」

 

「ボクはニセ?」

 

「とは言わないけど……。」

 

「よし、じゃあもっかいやるよ。……ピーター・パーカーに会いたい!」

 

 

そう言いながらもう一度手が回される。

 

開かれるのは、彼らの右と。左。

 

二つの神秘の門が、縦に生み出される。

 

 

 

 

「っむ!」

 

 

「とぉお!」

 

 

 

 

 

落ちてくるのは、赤と、白。

 

 

 

「え、二人? 白?」

 

 

 

相対する、ふたり。

 

片手に金属の腕輪を付け、赤と青のスーツに身を纏った男。この世界の彼と比べると目元が聊か細く見えるスパイダーマン。

 

対してもう一人は白を基調とし、黒い差し色が入った女のスパイダーマン。スーツの上に黒い革製の上着を羽織っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『地獄からの使者! スパイダーマン!』

 

『鉄十字キラー! D‐スパイダー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姿勢を低く落とし、腕輪を付けた手を前へ。もう片方の手を後ろに高く上げる。向かい合った両者が、同時に、周りの眼を全く気にせずに名乗り合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスター退治の専門家! スパイダーマン!』

 

『キノコ狩りの女! D‐スパイダー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………許せるッ!」

 

「わぁ! ありがとうございます先代!」

 

 

 

謎の二回連続同時名乗りによって困惑エネルギーが暴発、永遠に感じられるほどの沈黙を破ったのは男性の方のスパイダーマンであった。なんだかよくわからないけど許してもらったみたいです。

 

 

「えっと……、どなた?」

 

 

なんというか固まってしまったMJとネッドの代わりにアメイジングなピーターがそう問いかける。彼のスパイダーセンスが反応していない以上敵ではないことは解る。でもさっきの名乗り、おそらく日本語だったのにその意味が脳内に直接響いてくるような感じ。なんか地獄とか言ってたし、確かめる以外の選択肢はなかった。

 

 

「あ、すいません先代に初めて会えたもので……。私はさっき言いましたけどD‐スパイダー、本名は大空つぐみで、クモの力をもった超人です。なんか能力の証明とかいります?」

 

「あぁ、うん。大丈夫。何となく解る。」

 

「それでこちらが……。」

 

「山城拓也だ、君と同じスパイダーマン。でいいのかな? 最近の私は違うが……、基本二人とも日本で活動している。」

 

 

 

「あ、俺ちゃんはデッドプールね。違う世界のNotスパイダーマン。。……あ、聞き忘れてたんだけどこの世界にグリーンランタンないよね?」

 

 

 

「それはさっき聞いた。」

 

 

二人のスパイダーマン。“スパイダーマン(東映版スパイダーマン)”と“D‐スパイダー(スパイダーな私)”が簡単な自己紹介を交わし、その後『そういえば俺ちゃん自己紹介してなかった!』とデッドプールもついでで名乗りを上げる。それを聞き、ようやくこちら側というか二人の名乗りに圧倒されていたネッドとMJが帰ってきた。まぁ現れて急にポーズしながら名乗りをされたら誰でもそうなるよね。

 

 

「えっと……、スパイダーマン?」

 

「そうだ。」「そうだよ~。」

 

「ピーター・パーカーでは、ない?」

 

「そうだな。」「そも女だし私。」

 

「…………なんで?」

 

「さぁ?」「なんででしょ?」

 

 

ピーター・パーカーを呼び出そうとしたら、やって来たのはスパイダーマンだけど違う人間。

 

 

「というかさっき大宙つぐみって言った!? あのハイツレギスタの!? もしかしてドロッセル!?」

 

「あ~、ごめん。それこの世界の私。こっちの私は糸出さないでしょ?」

 

 

ネッドの問に答えるように天井に糸を射出し、ぶら下がることで逆さまになる彼女。足でそれに捕まりながら両手を振って見せ、この世界のドロッセルではないことを示す。まぁ“超越者”な私であれば自己改造とかもできるので、糸を出した程度じゃ証明にはならないんだけど……。まぁ彼には納得してもらえたようだ。

 

 

「よ、よし。ネッド! もっかい!」

 

 

ということで仕切り直し。

 

 

「うん、わかった! ……ピーター・パーカーを見つけろ。ピーター・パーカーを探し出せ。いでよピーター・パーカー!」

 

 

気合を入れ直し、ネッドが力と思いを込めて両腕を突き出す。そして、強く念じながら自身の願いを言葉にする。リングを握った手で何度も円を作りながら。

 

 

そして門は、彼らの背後に開かれる。

 

 

「……今度はただの一般人。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも。あのー、お邪魔していいかな? いまこの……。あ。閉じちゃった。」

 

 

 

 

 

現れたのは、もう一人の、彼。

 

 

 

「ピーター?」

 

 

「あぁ、そうだよ。ピーター・パーカー。」

 

 

 

ピーター・パーカー(スパイダーマン)”、一般人の服装で現れた彼。人のよさそうなにこやかな笑みを浮かべ、ネッドのお婆ちゃんが振る手に、同じように振りかえす。

 

そして、自然と視線は“彼ら”の方へ。

 

 

「彼らは……、知り合い?」

 

 

向かい合い、視線が強く交わるのは“ピーター・パーカー(アメイジング・スパイダーマン)”と“ピーター・パーカー(スパイダーマン)”。同じ、スパイダーマンだからこそ。同じような境遇にあった彼らだからこそ。同じ名前を持つ者同士、通じ合うものがあるのかもしれない。……うん、だからデッドプールはその間に入ろうとしちゃだめだからね。ほらトビースパイダーがすごい顔してるよ。

 

 

「あ~~、彼は違うね、うん。」

 

「そんな! 俺ちゃんだよ俺ちゃん! トビー! 忘れちゃったの!」

 

 

そんなお調子者に伸びるのは私からの愛のクモ糸。彼の頭部に張り付けたソレを思いっきり引っ張りお腹に一発拳をぶち込んでおく。ほら静かになった。『お、お嬢様じゃないけどやっぱりツグミはみんな暴力的……』もう一発いる?『あ、ごめんなしゃい。』ならよし。

 

 

「変に聞こえるだろうけど……、ここに来てからキミらの友達をずっと探してたんだ。……なにか、感じるんだよ。僕の助けを求めている。」

 

「……僕らの、だ。」

 

「きっとそうだよ。」

 

「でも、居場所がわからない。」

 

「それに、彼の味方は……。世界中で私たちだけなの。」

 

 

 

「そうか、じゃあとにかくそうだな……。どこか、彼にとって大事な場所があるはずだ。こういう時に自然と足が向かう……。」

 

「一人になれる場所?」

 

「……僕にとっては、クライスラービルのてっぺんだ。」

 

「エンパイヤステート、もっと眺めがいい。」

 

「あぁ、いい眺めだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかった。えぇ、一つそういう場所に心当たりがある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








「ちなみにもう一度したらどうなるんですかね、先代。」

「たしかに。」

「あ、それ僕も気になるかな。呼ばれた時にあの金色のゲートすぐに消えちゃったし。……あ、できればでいいんだけど。」


彼らの望みに答える形で、もう一回ぐらいすればこの世界のピーターのところに通じるのではないかという思いを込めて。ネッドがもう一度ゲートを開く。


「おぉ、こんな感じなのか……。」


繋がる先は……。


青く、綺麗な空。そして地平線まで続く畑たち。……明らかに失敗である。


「ん? なんだこれは。」


そこに、腹の底に響くような低い声。

ゲートの反対側から……、紫の顔がこちらを覗く。


「おぉ! 何かと思えば地球のものか! すごいな、こんなものまであるのか。」

「……さ、サノス?」


“スパイダーな私”が、そう問う。紫の肌に地球人の倍ほどありそうな巨体。明らかに異星人。この世界の住民たちはサノスによる侵攻を受けておらず、他のスパイダーマンたちもそれは同じ。唯一この世界の私から布教を受けた彼女だけが答えに辿りついた。


「おぉ! 私のことを知っているのか! キミ、名前は?」

「お、大空つぐみです……。」

「つぐみ? ……あぁ! トニーから話は聞いているよ! あの縮退炉を作ったのだろう! いやはや、本当にあれには助かっているよ。おかげで多くの星々がエネルギー不足という問題に悩まされることがなくなった! もちろん私たちもだ!」


つぐみではあるがつぐみではない。一応この世界の前、“超越者な私”が戦ったサノスのことも知っているせいで無茶苦茶フレンドリーなサノスに困惑するD‐スパイダーであったが、持ち前の精神力で何とか握手だけは返す。『あ、この大きさ元々の馬力が全然違う。石なんか持ってたら生身じゃ勝てないわこれ。』と思ってしまったのは秘密。


「ちょっと待っていてくれ……、これ。これを貴殿に差し上げたいのだ。」


そういいながら手渡してくるのは紫のお芋さんがたくさん入った木の箱。


「我らが星、タイタンで取れた完全栄養食の原材料である芋だ。このまま食べても焼いても蒸しても揚げてもうまくてな、しかも今年の出来は最上! 是非味わってほしいのだよ!」

「あ、スゥ……、ありがとうございますね、ここにいる皆でいただきます。」

「ぜひそうしてくれ。そうだ、ちょうど彼も視察に来てくれているのだ。今呼んでくるから少し待っていてくれ、お~いトニー! こっちに来てくれ!」


そう言い残し、彼はあちらに戻っていく。それと同時に閉じられる門。



「…………もう。そ、それ。しない方がいいと思う。」



「「「「「賛成。」」」」」



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