もうむりぃ、耐えられないよぉ!
しゅき!
「ジャーヴィス、復習と行こうか。」
『はい、トニー様。勤勉でございますね。』
「そりゃ僕だからな、パパラッチどもにリークしてもいいぞジャーヴィス。明日の一面は『鉄の男アイアンマン、予習復習に余念なし』だ。」
彼が所有するプライベートジェット。予定ではもう何人かと一緒に日本旅行と洒落込むつもりだったが『天才、億万長者、プレイボーイ、博愛主義者』の彼でもできないことはあるのだ。
『残念でしたねトニー様、ペッパー様のご予定と被るとは。』
「ま、今を時めくスタークインダストリーの新CEOだ。西へ東へ大忙し、ハッピーも護衛兼運転手で付いて行くから、だったか? 気ままな一人旅ってことだ。」
『トニー様がCEOだった時、お忙しいようには思えませんでしたがね。』
彼の操作するデバイスに表示される情報。スターク・エキスポでの一夜の映像や、日本の監視カメラから入手した白いスーツを着た彼女。その彼女が“日本らしい”ニンジャと戦う映像。あのニックとかいう長官様が『君より大きな問題を抱えている』という発言が嘘ではなかったというわけだ。
「まさにコミック的ジャパンって感じ、しかも三流のシナリオライターの作品だ。ニンジャパラダイスだって?」
『トニー様も“アイアンマン”ですし、十分コミック的かと。』
「僕がコミックだとしても書いているのは超一流ライターだろ?」
流れる映像を横目に“証拠品”を片手で転がす。イワンが電気ムチ片手に、いや両手にモナコまでやってきたのは驚いたがそれ以上の驚きを覚えた。少々手直しが必要とは言えリアクターを用意しスーツまで作って、しかも僕とは違う技術由来の武器を持ってきた。さすがのトニー君だってビックリ仰天というわけだ。
『とっておきを使う!』
『とっておきだって? そりゃすごい、ハマー製の武器かい?』
『いや違う、ハイツレギスタっていう日本の会社だ。バスター・ランチャー起動! リアクターを使い捨てるらしいが威力はあるらしいぞ。』
『オイオイ使い捨てだって? そのスーツには一つしかついてないぞ? ローディ?』
『大丈夫だ、二つある。』
過去の戦いで父の作った巨大リアクターを暴走させたときの輝き、あれと同じ青い光の奔流が肩に収納されていた砲身から放たれる。
運悪くローディのとっておきはイワンのアーマーを掠りムチ一本しか持っていけなかったが(ムチも予備があったので結果的には振り出しに戻っただけ)その威力は目を見張るものだった。あの洞窟で作ったアーマーがテンリングスに回収されたことから使い捨てなどは考慮の外だったが、回収装置さえつければ問題はない。新しい気づきを得られた。
『それにしても良かったのですかトニー様。ロマノフ様によると“気絶してしまう”とのことですが。』
「それは言葉の綾って奴さジャーヴィス、覚えておけ。」
『はい、トニー様。』
まぁファンサービスはしっかりという奴だ。あと帰りにペッパーに渡すお土産を買わないとな、イチゴじゃない奴だ。
◇◆◇◆◇
「そう言えばつぐみって最近眼鏡し始めたよね、視力下がった?」
今日も楽しく大学日和、すでに社長なので就活は採用される側からする側になったため他の学生みたく『就活がぁ! 就活がぁ!』みたいに呻く必要がないのは助かるなぁと思う今日この頃。
親友と共に通学途中、そんなことを聞かれた。あ! それと我がハイツレギスタ社は現在新人社員を募集中です! どんな経歴な方でもニンジャ以外なら大丈夫、とってもアットホームで手取り足取り業務を覚えられるまでサポートしますよ! ……まぁ命の危険性がずっとついて回りますが。でもでも! 危険手当はちゃんと加算されますからお金持ちになれますよ! 社員からは使う暇がないとか言われましたが!
「ううん、視力は下がったけどメガネするほどってわけじゃないよ。下がったのも疲労と睡眠時間の減少が原因だし……。あ、メガネの話ね!」
「忙しいのは分かるけどちゃんと休む時は休んでね……?」
「うんうんありがと。じゃあ我がハイツレギスタが誇るオモシロニクス・デバイス……ってわけじゃないんだけどこのメガネの説明をば。簡単に言うとイヴとの通信装置って感じだね。」
詳しく言うと耳あてのところに骨伝導のイヤホンと前面に付いた小型カメラ、メガネのレンズ部分にスーツと同じディスプレイが表示されるようになった私専用の白のフレームメガネ型デバイス。元々イヤホンだけだったんだけどイヴを通じたサポートが十全じゃなかったから作ったもの。
まぁでも欠点がございましてWi-Fi完備な場所じゃなかったらイヴと通信取れないし、ディスプレイの情報は必要最低限を下回る本当にギリギリのもの。重量も結構あって鼻と耳に掛かる重さが凄くあるっていう不良品なんですよね。
「充電も30分しか持たんし常時起動してるわけにもいかんのよ。」
「……それもうケータイでいいんじゃない?」
全く以ってその通りで。つけてる理由としては変装? みたいなもん? まぁ単にイヤホン片耳だけつけてるよりもこっちの方が見た目いいかなって。Bluetoothイヤホンもそんなに普及してないしね。緊急時は使えるし。
「……ん? なんか前の方騒がしいね。」
「あ、ホントだ。」
大学への通学路をへこへこ歩いていると見えてくる校門、その辺りで何やら人だかりが出来ております。何やら歓声みたいなのも聞こえてますし、芸能人か何かが来てるんですかね? 結構大きめな大学で学部間の情報共有が難しい学校ですけど今日はそういった訪問なんぞなかったはずですが……。
「あぁ、すまない。ちょっと人を待っててね、写真? もちろんいいとも。」
「わぁ、海外の人かな? イケオジって感じだ。 でもどっかで見たことあるような。」
「アッ……ミッ、ミッ!」
「つぐみは知って……、え。どうしたのつぐみ!」
あぁどうしようかユキ、連日の3時間ナポレオン睡眠があだになったのか目の前に推しがいるじゃん。推しがいるじゃん。オシャンでラフなシャツにジーンズでサングラスのイケメンがいるじゃん。ロバート・ダウニー・Jrがいるじゃん。は? 天国かここ? 徹夜で色々やってたせいでお迎え来たんか? 死ぬんか? 幻覚? 幻覚だよなこれ? 目の前にいるわけないよな普通。あ、でも幻覚だったとしても私がトニーと同じ空気吸うとか恐れ多すぎるんだけど。息なんかしてる場合じゃねぇ! 私が空気になるんだ! は? 何言ってんだ私、空気になって吸われるとかトニーをけがすつもりか私! 背景と同一化しろ! 彼の輝きを少しでも曇らす異物になんかなるな! むしろ消え去りたくない? わかる!!
「ん? あぁ、すまない待ち人が来たようでね。少しどいてくれ。」
「あ、こっち来た。」
は? は? は!? こっち来た!? こっち来てる! こっち見てる! 落ち着け私! ここは素数を数えて落ち着くんだ! 彼が私の後ろにいる人に用がある可能性だってある! でも振り返ることなんてできない! この両目で彼をずっと見ていたい! でも彼の邪魔になりたくない! もうこの場で塵になって消えたいんですけど! 素数は孤独な数字! 割り切れない数字! 1! 3! 5! ってこれは奇数だ愚か者め、ポッター! アズカバン行き300年!
「やぁ。君がツグミ・オオゾラか、君の作品を見せてもらったよ。」
彼の手が私の手をとり、私の作ったリアクターを握らせて来る。アッアッアッ!
「確かに威力はすごかったが僕に言わせればそう、無駄が多すぎて芸術的じゃない。まぁ学生の君からすればよくできたとA+を付けてあげよう。これでいつでも卒業できるし我が社への入社は顔パスだ。」
ミ! ミ! チヌ! モウムリ! ウヒャァア! ッ~~~~!
「それで、どうだい? 君にとっては授業なんて退屈だろうし僕と楽しく“それ”についてお話なんかどうだい? 君ご自慢のスーツも見せてもらいたいしね。」
肩に、手を置かれる。
「モウムリ、シュキ!!!!!」
「ちょ! つぐみ!」
『トニー様、ツグミ様が心停止なされております。』
「…………Oh、マジかよ。」
膝から崩れ落ちる私、慌てて支えようとするユキ。呆然とする推し。それを空から見下ろす私、ただし霊体。みんなは推しが近づいてきた時に備えて残機を用意しておくんだぞ! 私はしてなかったがな!
アイアンマンの功績に『初めてドロッセルを倒した』が追加されました! やったね!
「ほんっっっと! お手数おかけしましたァ!!!!!」
「あ~、いや。気にしなくてもいい、エージェントロマノフから忠告されていたのに聞かなかった僕が悪いからね。……今は大丈夫なのかい?」
「いえ! 気合で何とか耐えてます! ですのでお願いですからボディタッチは控えていただけると! あ、でも触れてもらいたい欲も……、落ち着け私! 恐れ多すぎるだろ! ファンの心忘れるんじゃねぇぞ私!」
「あぁ、うん。気を付けよう。」
あぁ~~~~!!! ちょっと気圧されてるトニーもスコ! 気絶しそう! あぁでも私のラボにトニーがいることをずっと目に収めないと! 気絶なんかしてる場合じゃねぇ!
「イヴ!」
『気絶したら電撃により強制起床ですね、解っていますが少々苛烈過ぎでは?』
「私もそう思うよツグミくん。……で? これは君が作ったAIかい?」
「あ、ハイ! 私のサポートAIのイヴちゃんです! スーツの制御とか経理とか通常業務のお手伝いとかハッキングとかしてます! イヴご挨拶!」
『初めましてトニー・スターク様。マスターの雑用もろもろをサポートさせて頂いております、イヴと申します。マスターが使い物にならなくなるのでスターク様にはマスターにあまり近づかないようお願いいたします。』
「……ワォ。これはいつから?」
「大体くみ上げたのは6ぐらいだったと思います。」
小学校に上がる前ぐらいにくみ上げたからまぁそれぐらいだよね。当時はちょっと感情も持たせるのが難しかったから単なる情報収集AIみたいな感じだったんですけどね。その後10くらいの頃に簡易的な感情機能を付けてそれから11年。だからイヴちゃんは15歳ってわけだ。
ほんとは私の脳を直接つなげてインストールとか脳の構造をそのまま再現するとかしたかったんだけど、さすがに技術的に無理だったので出来なかった。……今なら頑張ったらできる、かも?
「ジャーヴィスと同じくらいか……。自己進化を促すことで人と同じ思考プロセスとAI特有の思考プロセスの両立を目指しているのか、なるほどね。」
「我が神はどんなAIなんですか?」
「……トニーでいい。ジャーヴィスは経験の蓄積からだな。」
トニー様が好き勝手に私のラボを閲覧していく。なんかこの感覚すごく癖になりそう……、S.H.I.E.L.D.から見せるなって言われてる情報はロック掛けてるけどそれ以外は全部フリーにしている。そのおかげでどんどんトニーが私のラボの情報を見てる! うぇへ! うぇへへへへへ!!!
『気持ち悪いですよマスター、よだれ出てます。』
「あ、ゴメン……。」
「あ~~~、ガール? そろそろ実物を見せてもらってもいいかい? 君ご自慢のスーツを。」
「はい! 喜んで!」
「すごい反応だな……、あぁそうだジャーヴィス、あれだ。たしか……、イヴ君だったか? 彼女に“テストの答え”を渡しておいてくれ。それと勧められても林檎は食べるなよ?」
『はい、トニー様。』
『……軽食代わりに林檎の画像データでも送りましょうかジャーヴィス。』
『結構ですよイヴ。』
◇◆◇◆◇
『それで、どうでしたかマスター。マスターの推しにして稀代の大天才とのお話は。』
「もう、さいっこう! 私にない視点を持ってるし回転の速さもダンチ! 打てば倍になって返ってくる感覚とか初めて! 何度か意識飛びかけたけど!」
『飛びかけた、ではなく飛んだ。ですよマスター、恍惚の表情を浮かべながらビリビリと電流が迸ってましたし、トニー氏が凄い顔をなさっていました。完全にヤバい奴として認識されてますよ。』
「……ということは認知されたってこと? ぴゃぁ!!!」
『また倒れましたよこのマスター。』
「恋はしめさば……!」
あ~! マジで生きててよかった! この世界に生れ落ちて良かった! マザーにファザーにありがとう! もう私死んでもいいや……、いや預かってる命たくさんだし背負ってる物もモノだからまだ死ねないけどね。精神はもう満足しすぎてヤバいっていうか! ニンジャや、なんやかんやで溜まった疲れが吹き飛んだというか! ちょっと滞ってた研究開発に答えが歩いて教えに来てくれたって言うか! マジヤベー! ですわ!
「バスター・ランチャーも褒められちゃったし、今研究中の加重力装置も『僕にはない視点だ。』だって! 今日のお礼に私のマニピュレーター技術あげたけどトニー喜んでくれたかな!」
『ジャーヴィス殿から聞きましたがトニー氏はかなりご機嫌だったようですよ。……私個人としてはこれだけ演算領域を増やしていただいても、彼と比べれば私の方が劣るという事実が受け入れがたいですが。』
「イヴも補助AIでパワーアップ、私もスーツ開発頑張らないと、ね!」
今構築中の補助AI、増えすぎたイブの仕事をサポートできるAI。“ゲデヒトニス”の完成に私のスーツ、Mark2の開発。四本足の黄色い“人巣人”はちょっとまだだけど中身だけ先に作る感じでMark2の方は二段階構造にするつもり。あとバイクも。
重力の方はまだちょっと時間かかりそうだからぼちぼち。完成は2012以降になるのかな?
毎日毎日ニンジャがなんじゃのハラスメント攻撃やら勢力圏を拡大するための戦いで大変だけど! 頑張っていくぞー!
「えい、えい、むん!」
『……そこはおー、では?』
「一日一万回、感謝のえいえいむん。むんは時を超越し“えい”よりも速く成立する!」
『それはすでにむん、えい、えいと言っているだけでは?』