待ち望んだスカウト
『長官、フューリー長官聞こえますか?』
「四次元キューブが敵の手に渡った、死傷者数名。ヒル」
『大勢が下敷きになってます。生存者が何人いるか……。』
「全員に指令を出せ、救助活動中以外のものはケースの探索にあたれ。」
『……了解。』
「コールソン、基地へ戻れ。レベル7を発令する。現在我々は、戦争状態に入った。」
『……どうすれば。』
「ツグミ! ねぇツグミ! どこにいるの!」
日本、大阪。闇社会に潜む武装組織、ヤミノテの本拠地である日本で戦い続ける組織。S.H.I.E.L.D.副長官であるマリア・ヒルはそのセーフハウスの一つに訪れていた。闇に対抗するために闇となる、そんなこの国特有のヤクザ組織を吸収し、光と闇の中間に位置しながら勢力圏を近畿まで広げた“ファイアボール”。
世界の平和を守るためのS.H.I.E.L.D.、その副長官が単身で来るような場所ではないのだが……。
「ツグミ~!? 受付の黄色い蜘蛛みたいなロボから居るって聞いたわよ! どこにいるの!」
『マリア様。』
廊下の天井に備え付けられているスピーカー、そこから響くのは機械音声。人が話すように滑らかではあるけれどもその機械らしさを隠し切れない言葉が彼女に申し訳なさそうに話しかける。
「あぁ、イヴね。ツグミはどこにいるのかしら、緊急の話よ。」
『すぐに案内いたします。また現在少々厄介な実験をしておりまして、対応が遅れてしまったことを謝罪いたします。』
「……危険な実験かしら?」
『いえ、ただ演算がややこしいだけでございます。』
「そう、ならいいわ。……にしてもこのビル来るたびにややこしくなってない?」
『防犯のため定期的に部屋移動に改装に模様替えを行っていますからね、マスターも先日迷子になって遭難しかけておりました。設計者がその身をもって防犯性能を示した形になります。』
「……ほんとに大丈夫なの?」
マリアの持つデバイスに建物の必要最低限の見取り図と目的地、ツグミのラボまでのルートが表示される。少し早足になりながらもAIであるイヴとの会話内容を見るに、マリア・ヒルは何度かこの“ファイアボール本拠地”兼“株式会社ハイツレギスタ本社ビル”に来たことがあるようだ。
「っと、ここね。ツグミ、入るわよ!」
『はーい! どうぞ~!』
エレベーターを使い数分ほど歩く、辿り着いた場所はこの部屋の主がふざけて書いた『白砂糖用製錬施設』の名札が掲げられている。なぜ砂糖なのか、なぜ製錬施設なのかはたぶん本人すら理解していないがここがツグミのラボである。
声をかけ、部屋の主から許可が下りると重く閉まった扉がゆっくりと開けられる。明度の差か少し目をつむってしまうマリア。目を光に馴らしながらゆっくりと視界が開いていくと……
なぜか天井を歩くツグミがそこにいた。
「あ、マリアそこから二歩進むと反重力だから天井に向かって落ちるよ。」
「……何してるのあなた。」
「反重力システムの最終かっくに~ん! ほら無重力にもできるし楽しいよ! お家で体験とっても簡単宇宙旅行! ハイツレギスタが誇るオモシロニクス最新さ……、うん。わかったからそんな目で見ないでマリア、すぐに解除して下戻るから……。」
S.H.I.E.L.D.の副長官のマリアっちに『何してんだコイツ』って目で見られた大学四回生! 大宙つぐみことドロッセル! 大阪が根城の最近ようやく近畿地方からニンジャを排除しきったファイアボール総長にして、介護用補助機械から鉛筆削り器まで! なんでも作るよオモシロニクス! 株式会社ハイツレギスタ代表取締役とは私のことだぁ!
うんうん、脳内だけどいい感じに自己紹介で来たな。にしても2012年の四月末、決戦タイマーもそろそろアラームを鳴らしそうだったし“アレ”のお話かな?
「よっと! 着地いたしましたマリア・ヒル副長官! イヴ、実験データまとめといて。あとコーヒーかなんかも二人分!」
「お構いなく、よ。ツグミ。それよりも」
「NASAの研究施設、ジョイント・ダーク・エナジー……何だったけ? そこで爆発したんでしょ? あ、おでこケガしてるし良く効く軟膏でもいる?」
「……知ってたの?」
マリアのことが気になって後ろからこっそりついてきていた新入りの黄色いAIロボット君。まだAIとして若いせいかこどもみたいな動きをする彼が取って来てくれた軟膏を投げ渡し、マリアの疑問にタイピングの動作で答える私。
まぁ正確に言うとハッキングじゃなくて前世の記憶なんですけどね。まぁマリアっちの反応見る限り私の知る世界の進みと同じようで何より。バタフライエフェクトとか怖かったからね……。
「はぁ、あなたねぇ……。まぁ今はいいわ、知ってるとは思うけどアベンジャーズ計画が始まるわ。ホークアイが敵であるロキに洗脳されてしまったけどそのほかのメンバーは無事、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルク、ブラック・ウィドウ。そしてドロッセル。」
「あなたの力が必要よ。」
「うん! そういうの大好き! じゃあ早速準備するね!」
「あなたには四次元キューブ発見後に行われる敵勢力の無力化、それとバートンの洗脳の解除をお願いしたいの。」
「みつけてぶっ飛ばす、つまりいつも通りってわけだ。あと鷹さんのことは分かったけど私電流でしか治せないけどいいの?」
それに頷くマリア。……うん、何というかご愁傷さまですバートン。一回しかあったことないけどそん時は普通にイカしたおじさんというかできるお父さんというかそんな感じだったんだけどね。まぁ私の“処方”を信頼してるのか、ホークアイの頑丈さを評価してるのか、それとも『まぁアイツなら……』みたいな感じなのかよくわからないことです。個人的には二つ目を推しておきたい。
さて! じゃあ独白はこんなもんでッ!
『いかがいたしますか、マスター。』
「石井っちに通達。広げた戦線を一時放棄して後方の補給陣地まで下がって防衛。一番の戦力である私がアメリカ遠征に行く訳だから“いのちをだいじに”! 大阪以外は最悪捨ててもいいからね! ってことで! あとは各種製造は一応ストップ、一般社員の人たちは……、あ。祝日だから元々休みか。ならよし! 最後に私のMark2を準備! 追加武装も満杯の完全モードでお願い!」
『かしこまりましたマスター。3時間ほどお時間いただきます。』
「だってさ、マリア。」
「了解したわ、準備できたらヘリキャリアの方に来て頂戴。場所は……、あなたお得意のハッキングでも使えばわかるでしょ?」
「おっと? 副長官様がハッキングを奨励とは! ……いいの?」
「言ってもやめないでしょ? 私としては対策部の子達がストレスで可哀そうなことになってるから控えてほしいけれども。」
「無理無理! ライフワークですもの。私に抜かれるセキュリティ作る方が悪いんだ! ……あ、あとこの事件終わって時間できたらまた女子会しよ! ナターシャも呼んでさ!」
「ふふ、いいわね。もちろん費用はあなたが全部負担してくれるのよね?」
「えぇ~~! この前も私持ちだったじゃん!」
「あなたが一番高給取りなんだからいいでしょ?」
「ちぇ! は~い。」
◇◆◇◆◇
さて、じゃあ三時間の間に2009年から2012年までの変化、状況整理といたしますか。
ボイスメモを起動して音声として記録を残す。まぁ最悪ここで私が終わる可能性だってあるし、遺書代わりにね? 一応私が保有しているMCUの情報は私のサーバーの一番奥。一番セキュリティが硬いところにおいてあるから大丈夫。あとに残してしまった人達のために残せるものは残している、つまり今からやるのは過去を思い出して気持ちを整える作業ってわけだ。
じゃ、2009年のあの日から振り返るとしますか!
2009年の某日、私はスーパーヒーローの仲間入り。日本から世界の闇に潜むニンジャ集団“ザ・ハンド”もしくは“ヤミノテ”の最終攻撃目標だった大阪を守り抜いた私は、ともに戦ったヤクザさんたちと共にファイアボールを結成、毎夜毎夜ニンジャとヤクザの抗争に巻き込まれていくことになる。
最初の内はほぼ私頼り、S.H.I.E.L.D.から武器や資金援助を受け取っていたけど最初の武家屋敷の戦いでのダメージは抜けきっていなかったし、奈良・京都・兵庫・和歌山から派遣されてくるハラスメントニンジャや大阪の海から『コンニチワ!』してくるニンジャもいたからもう大変。生身のヤクザさんだけではどうにもならないから私が頑張る必要があったわけです。
ニンジャにばれてるヤクザ拠点は燃やされるわ、病院で無差別テロ始めるわ、組織に紛れ込んで情報を抜かれるわ。それに対処しようとしたら『正々堂々一騎打ちだぁ!』って殴りこんでくる『お前ほんとにニンジャか?』って奴もいた。
ニンジャと触れ合う連日連夜のパーリナィのおかげで所謂下っ端ニンジャは報告や変装時にしか喋らず、ある程度地位のある幹部ニンジャほど良く喋ることが分かった。あと喋るニンジャほど強い。私の肉体までは達しなかったけど普通に胸のアーマーが丸々抉られて地肌が外気に触れたこともあったし、ニンジャってホント怖いね。
「マジであんときは死ぬかと思ったよ……。」
『軍用のEMP爆弾からの驚異的身体能力とワザマエを生かした縮地による接近、そして装甲の隙間を縫った一太刀。もう二度と見たくありませんね。』
その時は石井っちたちヤクザチームのおかげで何とか隙を作り、リパルサーぶっ放して倒すことできたけどねぇ……。あ、そのニンジャさんは今大阪の海で楽しくお魚を見る仕事についてるよ! コンクリと一緒に!
んで、その後睡眠時間や精神をごりごり削りながら。ニックにイタ電したりマリアと友達になったり、ナターシャを紹介されて過呼吸になったりしながら時代はアイアンマン2の世界へ。
ニックに『早すぎる謙遜はいらぬ諍いを起こす』(訳:トニーちゃんに新元素バットアシウムのリアクターでパワーアップしてもらってS.H.I.E.L.D.のいい感じのポストについてもらってアベンジャーズ予約したいの! だから手出しはダメ!)と言われたのでスターク・エキスポだったり、お家でローディと喧嘩するパーティだったり、トニーがおやつ代わりにかったドーナツ店を買収して私が店員として居座るとかはできなかった。初めて血涙というモノを流した、行″き″た″か″っ″た″で″す″。
けど休憩時間フルタイムでニックにイタ電し続けたおかげかローディのMark2スーツの改造をやらせてもらえることになった! ハマー・インダストリーはポンコツなのでお前の技術力で何とかまとめろと言うお達しである。
そりゃもうガチでやらせていただきましたとも!
最初にあの名ギャグシーンである“別れた妻”の廃棄。……まぁファンとしてはあのシーンを消してしまうのはかなり惜しいんだけど私だって科学者で技術に命かけてる人間。爆発力は確かにあるけど信管に致命的な欠点があってどう頑張っても爆発しない欠陥品をトニーのMark2に装備させるのはイヤだったのだ。
なんでパフォーマンスとして思いっきり後ろに投げて爆発しないことをアピールしてやった。ハマーざまぁwww。 他にやったことは銃火器の強化改修、S.H.I.E.L.D.から回してもらってる銃と違うのもあったので試しにばらして遊んでみた。ローディ様からは『だ、大丈夫かな? ちゃんと仕事してる?』みたいな目で見られたが性能二割マシぐらいして組み立て直したから安心していただきたい! 銃だって工場での量産品だからね! 職人(素人)の手に掛かれば性能アップなんて容易いもんよ!
最後にあのトニー・スタークからも絶賛された、というかこれのおかげでわざわざ会いに来てくれた『バスター・ランチャー』! ウォーマシンの左肩に収納したエネルギー放射機構! リアクターの異次元的発電能力を生かしてエネルギーを物質化する直前まで圧縮! そこから一点に向けて放射する装置!
……まぁ圧縮率が低すぎて物質化なんて全然出来てないんですけどね。でもでも一応軍の防御施設一つぐらいだったら吹き飛ばせるし問題ナッシング。リアクター1つ使い捨てるパワーは伊達じゃないのだ。ちなみにさっき無重力で遊んでたのはこのバスター・ランチャーの強化のための実験。重力による圧縮をしようってわけ! ま、他にも色々理由はあるけどね!
アイアンマン2の時期についての出来事はそれぐらい、かな? トニーが私のラボに来てくれた日のことはその日のうちに戦闘中も含めて6時間ぐらい話し続けているからその日のデータのリンクを張っておく。今もあの時の光景は今ここで起きているかのように思い出せるけどそうするとまた6時間以上確実にかかるからね。かしこい私はやらないのだ。
ではでは、その後の話。
あの後、イヴの蓄積したデータもあったのですぐに完成したAIゲデヒトニスのためにちっちゃな一期ゲデヒトニスの体。大体50㎝ぐらいの体を用意してそこに突っ込んだ私。そんな私は自身の会社、ハイツレギスタの巨大化に努めていた。ぶっちゃけいうと資金集め。
S.H.I.E.L.D.から流してもらったお金はあるけど出所が出所、ある程度の経済規模が必要だったのでそれまで責任者わたし、経営者イヴ、ヤクザ社員しかいなかったところに営業さんとか人事さんとか私が最近しなくなった一般向けの商品開発をする研究者さんとかを呼び込んで会社を大きくしました。うん!
私のへそくりとイヴの良く解らないけど結果は出てる経営方針、あと石井っちが『ん? もしかしてこれ資金の洗濯できるんじゃね?』ということで急成長したハイツレギスタ。……ニンジャのせいかちょっとお金に関する法が緩いおかげって言うのは分かるけどなんでイヴ経営できんの? 私いらないじゃん。
『確かにいりませんね、では今日からCEOは私ということで。それと経営についてですが業績を伸ばし続ける企業を30000ほどリストアップしていいとこどりをしました。人を動かすということで失敗もありましたが面白い経験が出来たかと。』
「もうお前だけでいいんじゃないか……? お前もそう思うよね、ハムタロ!」
『お嬢様、私の名前はゲデヒトニスでございます。』
「あなたは口を挟まないで、ゼラチンプリン!」
『人(´・ω・`)人』
なんか最近イヴが良く解らん進化というかすでに人間になりかけてる気がするんですけどね……? 組織拡大のために石井っちの保有していた廃工場の土地の地下全部にイヴ用のスパコン設置したせいかな? 賢くなりすぎた? ……まぁ良く解らんがよし! 自分の作ったものに反乱されて殺されるのはある意味科学者の作法だからね☆
『そんな作法早く捨ててくださいマスター。それとご安心を、この身がどうなろうと私がマスターに歯向かうことはございません。せいぜいお小言程度でございます。』
【やさしく、つよく、おおきく、かしこく。愛を持って育ててくださった母に歯向かう子はいません。少なくとも私はそうです。】
「お小言にしては最近よく電流流される気がするんだけど……?」
『マスターの品格がなってないからですよ? ナターシャ様と初めてお会いした時は過呼吸になりながら涙腺が爆発して大洪水でしたし、バートン様がファイアボールの訓練を付けに来てくださったときは脚を小鹿のように震わせながら口からよだれを垂らしておりました。トニー様の時は奇声と共に膝から崩れ落ちるように気絶、すべて皆恍惚の表情を浮かべながらですよ? 正直引くかと。』
「うぐゥ!」
『さて、お小言はこれぐらいに致しましてそろそろお時間です。各種兵装及び第一から第九テールすべて正常作動。“お着替えパック”、“お仕置きパック”、“お出かけパック”ともに用意完了です。』
ラボの機構が動き、壁から浮き出る私だけのスーツ。DROSSELの時間がやってきた。
「OK! じゃ、楽しいピクニックとでも洒落込みましょうか! ゲデヒトニスはお留守番お願いね!」
『かしこまりましたお嬢様、御武運を。』