『エンジン制御パネルを見てくれ、どの部分がオーバーロードしてるか確認だ。』
「わかった!」
攻撃を受けた第三エンジンまで辿り着くと、爆発のせいで本来見えるはずのない大空が見えている。スティーブはトニーに任された制御パネルを確認するため辺りを見渡し、お目当ての部分を発見した。
解りやすいように『制御パネル』と書いてくれてなかったら全くわからなかっただろうな。そう思いながら破壊された鉄骨を器用に使い目的地まで、その驚異的な身体能力を十全に使い目的のパネルを引き出し外気に触れさせる。
『どんな感じだ?』
「……電気で動いてるって感じだ。」
『ま、その通りだ。……まいったな、どうするか。』
遠隔で操作するにも一見して解るようにきれいに壊されてる、オンラインで簡単に操作ってわけにはいかないだろう。このプロペラ式の構造からもう一度こいつを動かすには内部から回転させるのと外部で機器の操作をする二人が必要だったんだが……、人選をミスったな。
『あ~、テステス。テストテストマイクてすと、霧島は意外と火力厨。トニー? 聞こえてる?』
ここで通信、たまに何を言ってるのか解らなくなるイタズラガールからのラブコールだ。
「聞こえてるぞ、それでキリシマって?」
『あ~、こっちの話。今第三エンジン向かってるって危なッ!』
通信越しで聞こえる銃火器の発砲音、言葉は英語から日本語へ。
『角から出て! くんなし! ……ふぃい。』
「大丈夫か?」
『ごめんごめん、今イヴちゃん日本でトラブルあったみたいでさ、そっちにかかりきりでスーツ動かせなくて……。ま、銃撃戦は叩き込まれたし行けるっしょ。それで話し戻すけど今そっち向かってる途中、パネルの操作私がやろっか?』
「いや、大丈夫だ。なに僕に掛かれば時代遅れの彼にも完璧な教えを説けるさ。」
『聞こえてるぞスターク。』
『おっけー! じゃあ侵入者くん捕まえるのメインで向かうね!』
ここで通信が切れる。彼女がさっき送ってくれた侵入者の映像を見るに相手は洗脳されたS.H.I.E.L.D.戦闘員のはずなんだが……。僕が思っていたよりも彼女のスペックは高いのかもしれない。全部終わったらハッピーとトレーニングでもするか。
「さて、じゃあ僕たちも仕事をするとしよう。キャプテン、今から言うところを確認してくれ。」
『了解だ。』
「お、お腹痛ぁ……。」
まぁ訓練された戦闘員に鉢合わせた場合、普通勝てるわけなくて何とか装備の差で押し切った私。……さっき撃たれたお腹むっちゃ痛いけど貫通してないよね? アーマーで止まってるよね? うぅ、こうなるなら大人しく引き籠ってたらよかった……。
『信頼を維持するためとはいえマスターは技術者ですよ? いくら趣味で最近空手やらカポエイラなど始めてもまるっきりの素人です。引き返しては?』
「もう飛び出しちゃったし、じっとしてたらしてたで狙われそうだし動くしかないの。」
『まぁそれもそうですが。あとマスター意図的に空手とカポエイラを間違えるのを控えては? ゲデヒトニスが間違って覚えていましたし。』
「マンゴスチンが? そりゃ大変だ。」
ウチのニュービー四本足のお手伝いロボのことを思い出しながら洗脳S.H.I.E.L.D.が視界に入ったため物陰に隠れる。まだあの子はイヴみたいに経験豊富なわけじゃないし、情報の収集もイヴが謎の母性発揮してホワイトリスト、ヤフーキッズみたいな許可されたサイトしか見られないようになってるから知らないことも多い。前世で見た彼のようになるのはまだ先だね。
……よし、弾切れだな。
壁を背中に非殺傷弾を撃って応戦してたらあちらさんが先に弾切れのようだ。銃を持ち換えてスパイダーガンへ、敵くんの視線をずらすようにあちらの側の壁に向かって射出。同時に物陰から飛び出る。
「ケイシャーダ、っと!」
銃を相手に向かって投げ捨て動揺を誘う、そこから空手(カポエイラ)の基本的なステップであるジンガ、腰を落としそこから体をばねにして顎への蹴り。ケイシャーダという技。靴もいつも履いてるラフなスニーカーじゃなくて鉄板入りの戦闘用安全靴。そんなので顎蹴られたらとっても痛いよね。
ふらついた敵さんから武器を蹴り飛ばし、投げ捨てたスパイダーガンを手に取り彼を無力化する。洗脳されたS.H.I.E.L.D.戦闘員は哀れ、壁に貼り付けられてしまったのだ! というわけで戦闘終了、ばったり鉢合わせて急な戦闘とかじゃない限りこんなもんよ! ……クッソ疲れたけど。
『見事な足さばき、でございますね。』
「技あり一本ナイス空手!」
『だからカポエイラでございます。』
そう言えばコイツS.H.I.E.L.D.の武装してるけどロキが集めたやつだからヒドラの可能性もあるのか? なんて思いながら息を整える、スーツなしでケガが命に繋がるガチの戦闘のせいか、緊張でスタミナの減りがほんとに早い。ある程度動けるようになったけど所詮私はインドア派、スーツのアシストがないとすぐ息が上がる。時間とかあったら走り込みとかでスタミナつけたい気持ちはあるけどね。
「ニンジャくんが多すぎて研究や開発、あと会社のお仕事とかの時間差っ引いたら何も残らんのよね……、マジで時間足りない。」
『時間はありますよ? あるにはあるのにマスターが面倒くさがって避けるのが問題です。日本に帰りましたら石井様に頼みプログラムを組んでいただきましょう。』
「うへぇ、石井っち厳しいんだよなぁ……。」
今こっちでは朝なのであっちは昼過ぎかな? 石井っちが何してるかわからんけどあのおじさんのことを思い浮かべる。指揮官とか指導者としてはかなりいい人材だったみたいでヤクザ組織でもあるファイアボールの兵士育成を色々頑張ってるおっさん、ちゃんと結果も出してる人。普段は気のいいおっちゃんだけど訓練の時とか鬼軍曹なんだよなぁ……。
「ふぃ、息整えおわり! ……撃たれたお腹まだ痛いし最悪あばら折れてるかも。打撲は絶対してるだろなぁ。」
さて、じゃあ息も何とか整いましたし第三エンジンに再び足を進めるようにいたしますか。……ちょうどいまコールソンが頑張ってるところかな? 彼はある意味表世界から退場になっちゃうけど後で時間見つけてキャップからもらった彼用のサイン渡しに行こ。ドイツ行った時にもらったやつまだ渡してなかったし。
◇◆◇◆◇
ソーがハルクとの戦闘を終え、正確にはハルクの攻撃対象がこれ以上ヘリキャリアを破壊させまいと行動した護衛の戦闘機に向けられたため終了した戦闘の後。ソーは艦内に侵入してきた賊の目的は弟のロキの奪還だと推測、相棒のムジョルニア片手に彼の独房へ走っていた。
(ツグミとやらに渡された通信機によるとバートンはロマノフが相手するらしい、スタークやロジャース、ツグミは第三エンジン。……独房には誰も対応できる奴がいない。急がねば。)
彼の推測は当たり、独房に繋がるドアを開けた瞬間。そこには悠々と牢屋から出るロキの姿が。
「ッ! 待て!」
彼を止めるために全力でのタックルを敢行するが……、それは弟の策通り。牢獄から逃げ出そうとしていた弟は幻覚であり、勢いをつけて飛び込んでしまったため自身が牢屋に入れられてしまった。しかもここはあのニックの話通りだとするとかなりの強度がある。
ソーがしてやられたと思いながら弟の姿を探すと画面越しに見たニックの位置に彼はいた。
「何度引っかかれば気が済むんだ。」
策がうまくいった側なのにどこか呆れたような顔をするロキ。たしかに彼の言う通り複数回引っかかってはいるが。ソーはただこの場から脱出するために最適な策、力技での壁の破壊を選択する。
鈍い音。
ムジョルニアとアスガルドの民の中でも高い身体能力を持つソーの腕力でも壁にはひびが入っただけ。しかもこの部屋は衝撃に反応して外部に排出する機能が付いている。攻撃の際に発した部屋の振れから考えてこの壁を破壊するよりも先に捨てられてしまう。
「は! ……我らは不死身だといわれているが、試してみるか?」
ロキが基盤を操作し兄を排除しようとしたその時、誰かの意識が飛び、倒れる音。視線を向ければロキを救出するためにやってきた敵兵士は倒れ、物々しい武器を手にするコールソン捜査官がそこにいた。
「どいてもらおうか。」
彼が持つ兵器、その名前はデストロイヤーキャノン。アスガルドのデストロイヤー、そのテクノロジーから生み出された強力な大型銃火器。正史であればアスガルドの技術だけであったがこの世界においては我らがツグミお嬢様が涎を垂らしながら設計開発に関わったため幾分か強化されている。
「これいいだろ? お前にいいようにやられてから改造した。」
その見た目からアスガルドの技術を元に作られたのを把握したのかゆっくりと彼を警戒しながらその場を離れるロキ。コールソンはしっかりと対象を見定めながら油断せずに、兵器を起動させる。オレンジの光が灯った。
「威力は未知数、ウチの変態たちの努力の結晶だ。見てみたい」
ドスッ
彼の胸から切っ先が生える。目の前にいたはずのロキの姿は掻き消えてる。呼吸、存在感、背後に、ロキ。
「よせぇぇぇええええええ!!!」
セプターが引き抜かれ、壁に倒れ込む。急激に体から力が抜けていく感覚、目の前を通る忌々しいほどに光る青いセプターの輝き。まだ、まだだ。
口に憎たらしい笑みを浮かべながら兄に向かって杖の切っ先を見せつけてやるロキ、この鋭利な刃で君の友を一人減らしてったぞ、と誇るように。
そして彼は最初の目的であった操作盤の前へ立ち、スイッチを押した。
大空へ開かれた排口からソーの入った棺桶が捨てられる。ロキの目には兄のこちらを見つめる顔が焼き付いていた。
「……お前は負ける。」
声の先を振り返れば先ほど胸を刺した死にかけの雑兵
「私が?」
「そういう運命だ。」
「ふぅん、……ヒーローはバラバラだ。この空飛ぶ砦もじきに墜落する。何故私が負ける?」
心底不思議そうに見せかけ、ゆっくりと彼の元へ足を進める。とどめを刺す前の少しの時間ぐらい、コイツと会話を楽しむというのも一興だろう。
「お前には信念がない。」
「私のどこにッ!!!」
ロキが声を上げようとしたその時、コールソンが持っていた兵器は火を噴いた。
壁ごと対象を吹き飛ばし、さらに奥へ突き進む。
「……なかなか、いいね。」
「……すいません、逃げられました。」
ヘリキャリアのエンジンが何とか復旧し、職員たちがダメージコントロールのため艦内を走り回る。ニックは通信が途切れたコールソンの元、ロキが収容されていた牢のあった部屋まで辿りつくことが出来たが……、彼はすでに虫の息だった。
「眠るんじゃない、しっかり私を見ろ。」
「もう、引退します。」
「……それは許さん。」
コールソンの弱弱しい声が彼の鼓膜を震わせる。
「いいえ、ボス。……彼らを纏めるには、これぐらいのことがなければ……」
『コールソンがやられた。……死亡を、確認。』
◇◆◇◆◇
「コールソンの上着にこれがあった、……サインをもらい忘れたようだな。」
ヘリキャリアの艦橋、そこにはトニーとスティーブ、そしてニックがいた。ニックの手には少し黄ばみながらも大事にされていただろうカード。その血にまみれたカードがあった。
一番大事にしていたであろうキャプテンアメリカのカードには血がこびりつき、コールソンの傷の深さを感じさせた。
「八方塞がりだ、通信は不能、キューブも行方不明。」
「バナーも、ソーも。……大事な仲間も失った。」
「私のせいかもしれん。」
ニックが初めて口にする責任の言葉、艦橋に重い雰囲気が伸し掛かる。
「……とまぁこんな感じで大事なカードを汚されちゃったわけだけど同志コールソンはどう思う?」
「初めて長官に向かってどす黒い殺意というモノを覚えましたね。」
ハァイ! トニーとスティーブには悪いけどわたくしツグミちゃん! 第三エンジンでスティーブをいじめる敵兵士をやっつけてエンジン復活させた後に『やったね!』してる時にコールソン死亡のアナウンスを聞いたドロッセルお嬢様だお!
今日は死んだことになってるコールソンニキのお見舞いに来ました! もちろん全体に対して彼は死んだことになってるのでかなりセキュリティレベルが高い病室ですねココ。
「というか寝てなくて大丈夫なの?」
「いえ、寝た方がいいんでしょうが職業柄近くに人がいると妙に目が覚めてしまいましてね。」
「……帰った方がいい?」
「いえいえ、ちょっとぐらいなら大丈夫ですとも。」
ま、な~んで私がコールソン死んでないってわかったのかというと普通に原作知識。マーベルのドラマシリーズでエージェント・オブ・シールドって奴がありましてね? そこで実はコールソン死んでなかった! って言うネタがあるんですよ。
コールソンには『医療システム的にログ残るし、ここみたいなセキュリティガチガチの緊急治療室にわざわざ一人だけ運ばれた形跡があるってことは……まぁそういうことでしょ』という風に説明済み。
「んで? どうする? ケガ治ったら一発顔にパンチ入れちゃう?」
「ははは、それもいいですがあのカードは当時量産されてましてね。さらに状態のいいカードを用意してもらって君にでもサインしてもらって来てもらおうかと。」
「あはは! そりゃあいい!」
カラ元気、かもしれないけどここまで口が回るならまぁ大丈夫だろ。ロキ逃がしちゃったし、カードは汚されるしとエージェントとオタクの両方からダメージを受けた上に身体的ダメージだから気落ちしてるかな? と思って見に来たけどこれなら大丈夫そうだ。コールソンはコールソンで私たちの裏側から世界を守ってね? 私の知ってるドラマシリーズ途中で正史から分岐したけど。
「じゃ! 私はそろそろ帰るね! バートンの洗脳解くために電流流さなきゃ!」
「……お手柔らかにしてあげてくださいね。彼はあなたほど耐性があるわけではありませんから。」
「もちのロンよ! ……あ、そういえばこれ! お土産兼お見舞いの品。」
懐から出すのはコールソン宛に書いてもらったキャップのサイン。カードに書いてもらえなかった代わりに私がドイツ行きのクインジェットで頼んで色紙に書いてもらったやつだ。ちな彼の個人ファイルにキャップがサインする様子の動画も送っといた。喜べ?
「……最大限の感謝を、同志ツグミ。」
「どういたしまして、同志コールソン。」
今後、彼と会う機会があるかどうかわからないけど、いい思い出になったようなら何よりです。
……さ! じゃあ私は対チタウリのニューヨーク決戦頑張りますか!
☆おまけシリーズ
【What If? 秘密なきドロッセル】
※以下のお話は所謂IF、我らがお嬢様が前世の記憶もろとも原作知識を持っていなかった場合のお話になります。読まなくても本編には関係ないです。あとおまけシリーズはいったんこれでおしまいです。おまけの時代は終わったのだポッター……。
※なお。本編のお嬢様が同じ場面に鉢合わせた場合止めたいけどこの口論も尊みがあってしゅき、これ録画しておいてシビルウォーの時に流して止めたろ、と思いながら録画&限界化します。
(以後説明などをさせていただきますが別に読んでいただかなくても楽しめると自負しておりますので面倒な方はお手数ですが飛ばしていただけると。)
変更点といたしましては
〇ドロッセルお嬢様の性格の変化
彼女の芯でありアドバンテージでもある前世の記憶がないため大幅な性格変更があります、元は一応同じですが口調も変わりましたし、根っこも違います。
アイアンマンのスーツを見て衝撃を受けたのは確かですが彼女の精神を固めるものとして共に戦うヤクザさんたちの教えが強く出ています。つまり『裏のことは裏で完結する、表に迷惑を掛けるニンジャを排除し表へのけじめをつける、自分たちはやむを得ない理由がない限り表に出ないし迷惑も掛けない。』という教えに基づいて行動しています。
まぁ言ってしまえばS.H.I.E.L.D.を評価しながらも嫌いです。国連組織ってところがもうダメです。特にニックとかとっても嫌いな人になってます、まぁその行動とかは評価してるけど思想がマジで相容れないって感じです。
なお技術力においては少しだけ本編の方が進んでいます。
〇本編ほどトニーや他メンバーに対して強い感情がない
トニーやバナー博士に対しては自身の先達、素晴らしい科学者という意識はありますがそのヒーロー性などや今後の活躍を全く知らないので、言うなれば他人です。この時空でもトニーとの接触イベントはありましたが本編のようになりませんでした。
わかりやすく言うと本編でのお嬢様からメンバーへの好感度が基本100スタートでトニーが限界突破して3000ぐらいあるのに対して、IFでは均一して10(中立より好意)スタートです。交友のあるトニーでも30かそこらです。
〇S.H.I.E.L.D.に対して良い感情がない
本編では“記憶”があるためニックなどの一部S.H.I.E.L.D.メンバーに対して信頼がありましたがIFではむしろ非常に怪しんでいます。急に日本にちょっかい出してきた眼帯野郎ですし何やら怪しいこともしているらしいと警戒気味。そもそも組織ファイアボールや日本の仁義ある闇社会の鉄則である『裏のことは裏で済ます、表社会には絶対に迷惑を掛けないし、必要以上の接触はしない。』という思想にS.H.I.E.L.D.が当てはまらない。ニックは正義はあれども使えるものは大体使いますからね。
以上の事から本編のように快く技術提供などはしてないです。つまり本編における相互の好感度が80くらいだったのがIFでは-20ぐらいな仲です。ヒエヒエですね。
では、トニーのハッキングがバレたところから……
◇◆◇◆◇
「何をしているんだスターク。」
ヘリキャリアのラボにてこの船の主でありS.H.I.E.L.D.の長官でもあるニック・フューリーの声が響く。その声にはどこか非難が込められており、顔にも少々怒りが浮き上がっているようだ。
彼を迎えるのは飄々としながら机に腰掛けるトニー、あまり自身は関わりたくないと思いながらも問いただそうという意思が見えるバナー博士。そして少し離れたところにいるツグミ。
この世界からすれば別の世界、観測している我々からすれば正史。もしくは正史の亜流とでも言おうか、ともかく我々の知る彼女と比べれば少々背が伸びており、彼女が親しき友たちといるときによくする笑みは消えてなくなっている。その顔を除けば代わりに『見たくない奴の顔が現れた』という表情を浮かべている。
「あぁ、アンタにもその質問をしたかったんだ。」
「四次元キューブの捜索はどうなっている。」
「もちろんやってますよ。今ガンマ線のサーチをしているところで誤差300mまで絞り込めます。」
「そうそうだから慌てない騒がない……。」
長官の疑問に昔軍の高官相手に仕事をしていたバナーが答える、文字にすれば丁寧かもしれないが口調にどこか敵意か反抗の意思が見える。またこの作業を共にしていたツグミは腕を組んだままでむっすり、態度でニックがいることを不快だと伝えているようだ。
「ワォ! 試作モデルって何!?」
どこかバカにするような、道化じみた動きをしながら声を上げるトニー。そしてその声に少し遅れてその後ろから物音、視線を向ければ青いコスチュームに身を包んだキャプテンがそこにいた。……八本指の髑髏シンボルの武器片手に。
「それはキューブの力を利用した兵器だ、これがその実物。……悪いね、僕が先に見つけた。」
「我々はあらゆる面からデータを取っていただけだ、必ずしも……」
ごまかしと言うべきか説明と言うべきか、そのヒドラのマークのせいで非常に怪しさのましたニックが言い訳を述べようとするもツグミに遮られる。
「それ、どう見てもかなり最近の武器よね。イヴ?」
『センサーでの簡易診断の結果ほんの数ヵ月前に制作されたもののようです、入念な手入れの後もあります。動力源は未知のエネルギーの模様。』
「……だってさ。少しは評価してあげてたんだけどもしかして敵対組織のヒドラまで裏で操ってたってわけ? 虫唾が走る、あの時そっちの申し出を蹴っといて正解だったね。」
ツグミが思い出すのは2008年の出来事、自身の初陣でもあり共に戦う仲間を得たあの大阪での出来事、その戦いもそろそろ終わりに近づいてきたときに急に救援を送ってきてその後同盟に似た提携を持ってきた眼帯の彼。タイミングが良すぎることやそも何故今来たのか、そしてほぼニンジャによって情報が海外に出ないようになっている日本の裏を何故こいつらが把握いてるのか。
疑念に疑念が産まれその話を蹴り、不可侵だけど結んだあの日の事。その後細々とした交流から自分たちの仁義には合わないもののその正義は確かにあると思い始めていた時にこの案件である。自分がほだされていたことを後悔し始めるレベルだ。
彼女だけではない。
ヒドラ、その単語を出てから話が進むにつれスティーブの表情がだんだんと険しいものへ変化する、真実は逆であるのだがツグミからはそう見えてしまう。スティーブからしてもわざわざこんな状態のいいヒドラの武器が倉庫に残っていた事実を前にすれば考えに同意してしまうのも無理はない話かもしれない。
「それにだ、見ろよコレ。」
「……世界は変わってない、むしろ悪化したのかもな。」
そして今度は自分の番だとディスプレイ見せるトニー、その画面には四次元キューブをミサイルに格納しどこかへ飛ばす計画。四次元キューブの保有するエネルギーから考えるに核どころではすまない。明らかにデータを取っていたと言い訳ができる状況ではなくなった。
そこに、ソーを連れたナターシャがラボへやってくる。彼女からすれば先ほどロキから聞き出した情報、『何らかの方法でハルクを暴れさせる』を手にこの船の中で唯一取り押さえられそうなソーとやってきたわけなのだが……、どうやら雰囲気は最悪の用だ。
「ナターシャ、君は知ってたのか?」
博士から問いかけられるもこれは無視。彼女はさらなる最悪を回避するために要件だけをできるだけ刺激しないように話す。
「ねぇ博士、早くここのラボから移動した方がいいんじゃない?」
「あぁ! 確かにそうだね、インドにいたらこうはならなかった。」
「ロキに利用されるわよ?」
「君たちはしないとでも?」
「私に誘われたから来たわけじゃないでしょ?」
「君がぴりぴりしたってここから出ていく訳でもあるまい。」
普段の冷静な彼女であればもう少し違った言葉や態度を選んだかもしれないが、生憎相手はこの星でおそらく最強の生物ハルク。IFではない例の彼女がからすれば苦笑いしながら顔を横に振る評価であるが現時点の彼らからすれば理性がなくなんでも壊せてどんな兵器もあまり効かない最強の生物だ。生身であるナターシャが恐怖を覚えるのも仕方のない話なのかもしれない。
「聞かせてくれ! なぜS.H.I.E.L.D.は四次元キューブを使って大量破壊兵器を作ろうとしている。」
「……彼のせいだ。」
その力に悩みながらも平穏な日々を愛する彼の問いにS.H.I.E.L.D.の長官は短くそう答える。ナターシャに連れられてやってきたアスガルドの次代の王、ソーに指を向けながら。
「……俺?」
「去年違う星からお客が来た、そいつが招いた戦いで町一つが破壊された。宇宙にいるのは我々だけではない……、そして思い知らされた。我々が無力であることを。」
過去に起きた事件と、彼だけが知る一昔の出来事。おそらくこの世界のこの時間において宇宙の危険さを一番理解しているのかニック・フューリーただ一人だろう。しかしいかに言葉を重ねようとも人は自分の目で見たことのないものを信じることは非常に困難だ。
「だが、我々アスガルドは地球との友好を願っている!」
「宇宙には君たちだけではないだろう。……脅威も、君たちだけではない。宇宙にはコントロールできない危険な奴らが山ほどいる。」
彼がもし聖人のような偽りのない人物で自他共に認める清廉潔白さがあったのなればこの言葉だけで信じてもらうことは出来たのかもしれない。しかしニックは違う。話を大きくすることで煙に巻こうとしているようにしか見えない。
「キューブもコントロールできない。」
「キューブを研究したことでロキやその仲間たちを呼び寄せたんだ。お前たちは地球が高い次元での戦闘手段を得たと知らしめたんだぞ!」
スティーブが使おうとしている兵器自体不安定なことであることを指摘し、ソーがそもそも話が違うと声を上げる。しかしそれに反論するのはツグミだった。
「だからロキが攻めて来たって? 雷神様はおキレイが過ぎますね、強さなんか関係なしに狩るときは狩られる。……私は別に兵器を開発していたことを咎めたいわけじゃない。何故隠した? 何故筋を通さない?」
「君は大量破壊兵器を容認するのかい!?」
「力は必要ですよキャプテン、なければ惨めに殺されるだけです。」
「それにそうさせたのは君たちアスガルドだ、武器が必要だった。」
さらに答えを続けようとするニックにトニーが口を挟む。
「核と同じだな、それを抑止力にしようって言うのか。」
「あら、それに準じる武器を作っていたあなたがよく言いますね?」
「そういう君もだぞツグミ、僕は君のことを評価していたつもりだったが勘違いだったようだ。」
「ふふ、意見が一致しましたね。私ももう少し賢い方かと思ってました。」
“知識”があればイエスマンと化していた彼女だったがここでは違う。修羅の世界という言葉が正しい日本の裏世界で殺し殺されを続け、未来の記憶や憧れの人物という縋るものがなかった彼女は非常に擦り切れそして合理的だった。
「もしスタークが今も兵器を作っていたら……。」
「おいおいなんでそこで僕の話になる。」
「いつも自分の話だろ。」
「地球人はもっと知的だと思っていたがどうやら違うようだな。」
「何だと? 何なら君の星を吹っ飛ばしてやろうか?」
「守ってもらう者になんだその口は!?」
「なんで男って子供なの、S.H.I.E.L.D.は常に脅威を監視してる。」
「あらら、そのS.H.I.E.L.D.が怪しいという話ですよナターシャ、お子様には難しいお話でしたか?」
「あなたみたいなちんちくりんには一番言われたくない言葉ね! そもあなただって裏でコソコソしてる人間で非難されるべき人間でしょう!」
「キャプテンアメリカは監視役ってわけ?」
「あなたには関係ない話だ、口を挟まないでもらいたい。」
「聞きましたバナー博士、またS.H.I.E.L.D.お得意の秘密体質。少しは腹を割って話すということを覚えたらいかがです?」
ロキの杖、セプターが怪しく光り始めているのを誰も気が付かないまま口論は激化する。場に7人もいればその話はまとまらず個人と個人、複数と複数へ飛び火する。それが“彼”の思う壷だというのに……。
武器弾薬の輸送機と偽ったクインジェットがその牙を喉元に近づけようと狙いを定めても一度切られたものは二度と戻らない、互いの気持ちをそのままぶつける意味亡き時間はさらに進む。
「コントロールと言いつつ戦争がしたいんだろ。」
「それが狙いだよ。僕らがチームだって? とんでもない、薬品を無理やり混ぜたようなもんさ。……ある意味、時限爆弾だよ。」
「あなたは……、引っ込んでいてくれ。」
ソーの言葉にバナー博士が自身の意見を述べる。彼の答えが気にくわなかったのか長官が声を上げる。その後ろには政敵が貶められる様子を楽しそうに見るような顔をしているツグミがいる。もうすでに収取は付きそうにない。
「あらあら、招待した方に口を挟むなとは。本当に滑稽。」
「そうそう、発散させてやれよ。」
一度懐に入れたのならば情報の解禁をするのは当たり前と信じるツグミに合わせトニーも反論を述べる、それに合わせて伸ばした手をキャプテンの肩に伸ばそうとするが弾かれてしまった。
「なんでか解ってるだろ、黙っている。」
「……いいのかそんな口きいて。」
「あぁ、鎧を着た無敵の男。……脱いだら何が残る。」
「天才金持ちプレイボーイ、あと博愛主義者だな。」
「君の十倍価値のある人間を知っている。映像を見たが君が本気で戦うのは自分のためだけだ、自分を犠牲にできる人間じゃない。君は仲間のために鉄条網に身を投げられるか!」
「僕なら鉄条網を切る。」
「ふ、そうやって逃げる……。君のような奴がヒーローの振りをするのはやめた方がいい。」
「ヒーロー? 君みたいな? ……君は実験室の中で生まれたんだ。その能力も何もかも他人が作ったものだろ?」
「……スーツを着ろ、勝負しようじゃないか。」
「はははは! ちっぽけなな連中だな……、くだらない。」
トニーとスティーブの口論が激化し殴り合いの喧嘩が勃発しそうとした時、場違いの笑い声が聞こえる。しかしそのソーの笑い声が彼らに少しの冷静さを取り戻させた。
「大したチームだよ。」
「ロマノフ、バナー博士をお連れしろ、彼を……」
「どこに連れて行くんだい? 僕の部屋はロキに貸してる。」
「いや、あの檻は万が一」
「僕を殺すためだろ、自分でも試した。」
「……落ち込んだ時、銃を口に咥え引き金を引いたがもう一人のボクが弾を吐き出したんだ。それで諦めて人助けに生きがいを見つけたんだ。うまくいってた。……なのにこんな茶番劇に引っ張り出されて、みんなを危険に晒して! 聞きたいか! 僕がいつもどうやって平静を保っているのかを……」
彼がそう口にしたとき、その場にいる人間はほぼ一斉に行動を起こす。ニックやナターシャが気が付かれないように銃に手を伸ばし、ツグミは手首に常備している空気中で液体から糸に変わる溶液を発射させる機構“アリアドネ”を起動させ、それ以外の者は身構えた。
「バナー博士、その杖を置いて。」
スティーブが落ち着かせるように声をかける。バナー博士が何を言われたのか解らないという顔をしながらも自身の手に目を向けるといつの間にか自身の意思と反して青く光る石がはめ込まれたロキの杖、セプターが握らされていた。
そこに。アラーム音、どうやら四次元キューブの反応を機器が探り当てたようだ。
「……ヒットした。」
「悪いね、僕のかくし芸大会はまた今度だ。」
杖を置き、機械の元へ向かう博士。そのディスプレイにはニューヨークにキューブがあることを示していた……。
Earth-199999の派生世界A-11を発見、直ちに処理を。また派生元であるA-1から時間跳躍の反応を検知、新たに発見した世界群をD群と仮定します。