番外編
Phase 3後、一巡目の世界でのPhase 4以降のお話になります。
彼女が去った後の歴史
「よーう、キャプテン。まだくたばってないよな?」
「口が悪いぞ、クリント。それにもう、キャプテンじゃない。スティーブでいい。」
ニューヨーク郊外にある一軒家、そこに住む老人の元に一人の男が訪れていた。十数年前であれば彼が一人で外出するには様々な手続きを経なければいけなかったが、すでにもう引退した身。彼女の残した姉妹たちの助力もあり、監視一つなくこの場に訪れていた。そしてそれは、先にこの場に来ていた彼も同じ。
「やぁクリント、久しぶり。」
「おぉー! 博士! ちょっと太ったか?」
「最近はずっとデスクワークだからね。……これでも改善したんだよ?」
そう言いながら腹をさわる博士と呼ばれた彼。『みんなに顔合わせるんだったらもっと絞りなさい』と妻に尻を叩かれながら走った事への愚痴を小声で零す。奥にあるキッチンでは彼の妻が何かの作業中、聞かれる距離ではないと判断したのだろうが……。クリントは軽く天井を見上げる。彼の妻とは一時期よく仕事でペアを組んだものだが、いくら現役を退いたかとは言え普通に射程圏内。痴話喧嘩に巻き込まれるのを避けるためか、その場をすぐに離れる。
「スティーブ、あいつらは?」
「ソーはキッチン、トニーはちょっと遅れるそうだ。」
老人が言うにはなんでも一番最初にこの家に到着し、『最近料理にハマってな、今日は任せておけ!』と言いながら食材片手にキッチンへと突入したらしい。それでその後に到着した彼女たち、博士の妻が大きなため息をつきながら『嫌な予感しかしないんだけど。……借りるわよ?』と言って加勢したそうだ。
そんなことを彼らが話していると、キッチンの方から何か雷が落ちるような音がする。リビングにいた男たちが一斉に驚き、博士が何事かとキッチンの方へと飛んでいく。部屋の電気が消えていないことからブレーカーが落ちるような威力ではなかったようだが、音の大きさ的にヤバいことになっているのは確かだろう。だがまぁ雷神を思いっきり叱る彼女の声が聞こえるし、大丈夫そうだ。
「これでも自炊は出来るんだけどね、ちょっとあの中には入れそうにない。」
「あ~、まぁ博士もいるしこの後優秀な電気屋も来る。大丈夫じゃないか?」
そう言いながらゆっくりと椅子に座る老人。その見た目からは想像できないほどにまっすぐな背をゆっくりと背もたれへ預ける。彼が過ごした年月がそうさせるのか、ただ座るだけでも絵になる光景だった。
「彼女が行ってから、もう一年になるな。年齢的にすぐに僕も後を追うのかと思っていたが……、まだお迎えは先みたいだ。」
「ま、早く行き過ぎても尻蹴られて叩き返されるだろうがな。あの子はそんな子だ。」
彼らが過去に結成したチーム、そこには一人の少女がいた。率先して可愛らしい問題を持ち込み、皆と笑い騒ぎながら解決していく。そんなイメージの子だった。自然と皆の隣にいて、だけど自分一人で多くのモノを抱え込んでしまう。余裕のない時代ではあったが、それでも何か他に道があったのではないかと今でも考えてしまう。
「……だな。最近はようやく落ち着いて来たんだ。僕らのようなロートルは年寄りらしく昔話に花を咲かせようじゃないか。土産話は多い方がいい。」
けれど、誰も下を向かない。向けるわけがない。彼女は死を望んだ、だが同時にまだ見届けたいという欲もあった。だからこそ何があっても自分たちは、彼女の仲間であり友であった自分たちは、前を向いて進み続けなければならない。そして、全て終わった後に自分たちが見てきたものを全て伝える。
現役を引いたとしても、未だこの世界に混沌は残り続けている。故に引退した身であっても彼らの出番が回ってくることもしばしば。けど、それでいい。体が動くまで戦い抜いて、生き抜いて、次代に繋げて。世界を堪能し終わった後にようやく顔を見せることが出来る。だってあの子は『志半ばで』とか一番嫌うタイプだろう?
下を向きたいとき、涙してしまうときもあるだろう。だけど最後には笑って話せるようにする。それが僕らの役目だ。
「今日みたいに酒でも片手に、ね? ……と言っても彼女は特に飲みすぎ注意だが。」
「違いない。」
彼らがそんな話をしていた時、ドアのベルが鳴らされる。
「ようやく来たか、っと爺さん、俺が出るよ。」
男に来客を任せた老人は彼を視界に入れながら、ふと暖炉の上を見つめる。
そこに置かれた写真の日付は2012年、自分たちの物語が始まり、チームが結成された一件の後に取られた写真。満面の笑みで映る彼女を中心に、皆がこちらを覗いているようなもの。過去を想う宝物だった。
〇2020年
大宙つぐみが死亡したことにより、一時的に裏社会の活性化が発生したがそのすべてが消滅する。またワカンダとヴィブラニウムを巡る政争に関しても同じように問題の再燃が起きるかと思われたが、アベンジャーズによるこれまでの所業が公開されることにより糾弾を受け防がれた。ワカンダは当初の予定通り国際社会に参加しながらも一歩引いた状態で臨むことになる。
また、2019年にアメリカによって行われた海洋ヴィブラニウム採取から始まったタロカン帝国の侵攻。アベンジャーズ・ワカンダ・ファイアボールの三者同盟によって阻止された後、海洋ヴィブラニウムの採取やタロカン帝国が存在する地域へ接近しないことを条件に不可侵条約を結んでいたが、つぐみの死亡を好機と見たネイモアが再び進行を開始する。
ワカンダ側も代替わりしたティ・チャラ王が病床に伏せていたこともあり痛手を受けるが、激怒したファイアボールによってタロカン帝国内部まで侵攻、そのまま破壊の限りを尽くそうとしたときにアベンジャーズに止められ事なきを得る。現在はネイモアが退位し、政治体制を共和制へと移行。三者同盟の監視下の元で地上との交流が徐々に行われている。
アメリカでは、史実同様に盾を託されたサムが苦悩していたが、初期アベンジャーズメンバーの大半やスティーブ本人からの説得などもありアメリカに寄贈することなく正式に二代目キャプテン・アメリカを名乗る様になる。そのため一時的にアメリカ政府との軋轢が起きたが、超人血清を用いた犯罪組織との一件以降政府からの指名も受け、正式なキャプテン・アメリカとなる。
この件。犯罪組織などの一件に関してはファイアボールの関与は行われていないが、アメリカ政府への圧力は常時行っており、その行動が大いに制限されている。アベンジャーズをもう一度国連下へと組み込むことも提案されていたが、提案者が汚職事件などを引き起こして更迭されたため白紙化された。
なお、この年にはクリントが家族たちとのクリスマス休暇を楽しんでいる際に彼に憧れるケイト・ビショップという少女と知り合う。ほぼ巻き込まれる形で彼女が引き起こした問題や、ニューヨークで潜んでいたマフィアとの戦いに身を投じることになる。この一件の終了後、クリントからの推薦(実際は保護要請)によりケイトが一時的にアベンジャーズに加入することになった。これにより生前ツグミが零していた、ヤング・アベンジャーズ計画の考案が開始される。
〇2022年
2019年から行われていたファイアボールによる大阪の復興が終了する。現地に残っていたハイツレギスタと、月を本拠地とする姉妹たちによってなされたが、一部区画を残しそのほとんどが地上に住む者たちのための場所となった。また、組織の拡大のため地上で活動する人間を主にしたグループを『ハイツレギスタ』、姉妹たちで構成された月で活動する彼女たちを『ファイアボール』として分けることになった。
ウエストビューにてヴィジョンとワンダの間に双子が誕生、トミーとビリーと名付けられる。どのようなプロセスをもって出産に至ったのかは非公開とされているが、ファイアボールが関与したこと、通常の人間と同じように時間をかけ出産されたことが分かっている。母子ともに健康。なおウエストビューにある彼らの自宅は月からの贈り物が多すぎて一度倒壊した。毎年双子にはとんでもない量のプレゼントが届くようになり、両親を悩ませることになる。
中国ではこれまで同様にテンリングスが活動していたが、ウェンウーが腕輪を息子に譲ることで引退。史実と同じように息子に腕輪を、娘に組織を譲り本人はター・ローで余生を過ごすことになる。史実通りの性格であれば受け入れられなかっただろうが、ツグミの介入やいち早い家族との和解。また寿命を迎えていた龍の封印に対し多大な貢献をしたことから迎えられるようになった。シャン・チーはその腕輪のこともありアベンジャーズに参加、組織を継いだシュー・シャーリンは地上のハイツレギスタや月のファイアボールと手を組みながら兄とは違う方面での成功を収めて行く。
アメリカではちょうどピーターたちのMITへの受験が行われ、無事合格。高校時代の友人たちと共に同じ大学に進むことになる。ミステリオの一件で彼の正体はすでにバレてしまっていたが、ツグミの介入やアベンジャーズメンバーにより無罪の証明が成功していたため、デイリービューグルに『スパイダーマン、MITへ!』という記事を書かれるだけに止まった。
〇2024年
珍しく大きめの事件がない年であったため、月にいるファイアボール、姉妹たちがとても不安になった年。何か起きていないかと血眼になって探すが、何も起きていない。けど不安だからやっぱ探しちゃうということを繰り返し、数名が電子生命体なのに疲れて寝込むというよくわからない事件が起きた。長女によるイヴによって『まぁそういう年もあるのでしょう』と鎮静化が図られ、今後の準備や今回のように倒れる者が出ないような監視体制や、ローテーションの導入などが為された。
〇2025年
年の始まりのころからドクター・ストレンジが謎の悪夢、並行世界の自身やそれにまつわる出来事などを夢で見るようになる。これを正史ではすでに死亡していたエンシェント・ワンに相談することで、より正確にマルチバースのことを理解するようになる。またダークホールドの力や、ヴィシャンティの書の実在についても知り、他並行世界からの攻撃に備え準備を進めることになる。
同年、この世界に存在する幸せな家庭を築くワンダを狙ったほか世界のワンダ。彼女を初めとしたマルチバースヴィランの襲撃を受ける。これはツラヤバが引き起こした連鎖インカージョンの折に戦士が死亡してしまった世界や、仲間たちに取り残されてしまった世界の者たち。またサノス連合によって滅ぼされたり、その影響を受けた多くのヴィランが同時に進行するというかなりの規模のものだった。
しかしながらドクター・ストレンジの相談を受けていたエンシェント・ワンや、彼女にこき使われていたタイフォイド。状況をいち早く察知したファイアボールなどに対応されそのほとんどの撃退に成功する。すべての家族を失ってしまったワンダと、この世界のワンダの戦い。またこの事件の中でこの世界に迷い込んでしまったアメリカ・チャベスとストレンジによるマルチバースヴィランとの戦いなどが起きたが、無事全員が生還する。
〇2026年
エンシェント・ワンのお使いで並行世界間の移動をしていたタイフォイドが消息を絶つが、その数分後に帰還する。
何でも閉じた世界群である、A(アリアドネ)群へと紛れ込んでしまったらしく、外宇宙の邪神との戦いに巻き込まれその眷属たちとの戦闘に参加していたのだという。また彼女が持たされたアリアドネたちからのデータ群はこの世界の姉妹たちが持たぬ知識を多く含んでおり、ファイアボール内で多くのブレイクスルーが起きることになった。
この一件によりエンシェント・ワンからお休みを貰い夏のビーチでも楽しむかと出発したタイフォイドだったが、何の因果か黒いコールタールの様なダークヒーローのいる世界に飛ばされてしまう。どうやらマルチバース間の移動を繰り返した際に彼女の存在自体が変異し、どこかの世界に引っ張られて飛ばされてしまう体質になってしまった様子。この年以降も年に十数度消息を絶つが必ず帰ってくるようになった。
〇2028年
ツグミの死後、その気を紛らわせるためかガーディアンズ・オブ・ギャラクシーと旅していたソーも2022年頃には第二のアスガルドであるニューアスガルド、地球に戻って来ていた。サノスの侵攻によって住む場所を無くしたアスガルドの者たちだったが、アベンジャーズを初めとした多くの者に支援され新たな生活を送っていた。ソーもその中で恋人のジェーンと共に楽しく暮らしていたのだが、そこに旧知の中であるシフの救難信号を受け、宇宙に飛び出すことになる。
地球人であり、また強化治癒因子などによって癌を抑え込めているとは言えど病人であるジェーンを置いていった彼であったが、それでも追いかけようとするジェーンにムジョルニアが反応し、マイティ・ソーへ。そこからは史実と同じような道筋をたどる。
この件に関してファイアボールはほとんど干渉しておらず、その理由として2019年に起きたセレスティアルズに反旗を翻したエターナルズの一件がある。セレスティアルズに対抗するため、装備の開発や研究の進行を行いながら彼らに察知されないように情報収集も行っていた。その中でソー以外の神との交流も何度か行っていたのだが、自分たちの母を半ば神のように崇める妹も存在する姉妹たちと、奉仕される種族として確立した神との相性は非常に悪く、ほぼ国交断絶のような形になっていた。
そのため、彼女たちの母の知識とこれまでの介入によって監視といざという時に直接介入すれば万全に終わると判断し、過剰な介入を行わなかった。やることとすればソーに近しい神や人に寛容な神をこっそり救うぐらい。ゴアやそれ以外の神との敵対や交流などは行わなかった。この時点の彼女たちではまだセレスティアルズと正面から戦って勝てるとは言い難く、外宇宙に向けて動くことで騒ぎが大きくなり、彼らの気を引き新たな戦いの火種になることを避けたのだ。
結果的にゴアはその命を代償にし、娘ラブを生き返らせることに成功。ソーとジェーンが彼女の親代わりになることになる。姉妹たちは事態の収束後にソーたちに謝りに行ったが許され、今後も関係は続いていく子となる。
なおソーが子持ちの親になったことで、ツグミが生前ふざけて作りアベンジャーズの基地サーバーに仕込んでいた『アベンジャーズ・ひよこクラブ』プログラムが作動。クリントとトニーにヴィジョン、それとソーがアベンジャーズ内に新規で作られた特殊チーム『ひよこパパさんズ』に配属されるという珍事が起きた。
そして。
〇2035年
『トニー様、モーガン様がご帰宅されました。ご友人も一緒です。』
「ん? もうそんな時間か、ありがとうフライデー。」
広げていた手を叩き、作業を中断する。ペッパーとモーガン、二人を見送ってから作業を始めたのだが気が付けばもうこんな時間だ。モーガンが帰って来たということは彼女の通う高校がすでに終わったということ。昼時なんか軽く超えてる。ま、彼女が不良少女だったら途中で抜け出して帰って来たのかもしれないが……、モーガンにはペッパーの血も流れている。そこは大丈夫だろう。
「ま、頭の方は僕に似たみたいだけどね。」
すでに彼女の能力は大学を首席で卒業できるレベルを軽く通り越している。ウチの研究室にいる奴らでも、相手になる奴を探す方が難しいレベルだ。確かに僕や"彼女"と比べれば大きな差があるだろうが……、あの子の年齢を考えればよくやっている。っと、さすがに年かな? 昼を入れずに作業してたせいかガス欠だ。油物も入らなくなってきたし……、時間ってのは怖いな。
「フライデー、適当に用意してくれ。」
『かしこまりました、夕食に影響のないものをご用意いたします。モーガン様とご友人の分も用意いたしましょうか?』
「いいアイデアだな、それでいこう。」
悲しいことにもう彼女の年齢を考えると一緒にオヤツ、という年ではないらしい。昔はいつでも『パパと一緒!』と言いながら寄って来てくれたものだが、最近はちょっと距離を感じる。受け答えにしっかりと家族への愛を感じるので反抗期とかではないのだろうが、やっぱり寂しいのは確かだ。天才でプレイボーイとして昔はブイブイ言わせたものだが、今じゃ子離れに苦労するお父さんとは。……昔の僕に聞かせても信じてもらえなさそうだ。
ま、そう考えれば顔を出すのは控えた方がいいのかもしれないが……、モーガンの学校での交友関係が気になってね。小学校は彼女と周りのレベル差が大きすぎて通学を断念し通信教育、中学では通うことはできたが話が合う子がおらずほぼ個人。その分MITの研究室だとか、ウチの研究室や僕の友人たちと、違う方面での交友関係を広げることが出来たが、如何せん同年代の友人というのがモーガンにはいない。
本来なら飛び級でそのまま大学に入り、ウチの研究室。スターク社のラボでのびのびと好きなことをやらせても良かったのだろうが……。
(君との約束、いや忠告があるからな。)
『確かにその制度は自分に合った環境を用意することが出来る、けれど人間はどうしても他人と比べてしまう生き物。だからこそいつでもそばにいてくれる人間ってのはとても大事。そういうのって案外飛び越して来た階段にあったりするものなんだよ。私も一段一段登ったおかげで彼女と出会えたしね。……孤独ってのは思ってるよりもつらいよ。本当に。』
彼女との、最後の一年間。モーガンが生まれて少ししたときに、彼女からそう忠告された。治癒因子の効きも少し悪くなり、元々白かった顔がさらに白くなっていたころ。体への負荷を出来るだけ抑えるために、常に車椅子に乗っていたころだったか。
「ふざけて坊主の被り物をして、スーツ姿で現れた時はどう対応したものかとみんなで悩んだものだけど……。一体どこまで見えていたんだい、ツグミ。」
彼女がいたころの記憶、そして彼女が去ってからの記憶。流石に一線は引いたけれど、世界の危機はそんな引退した僕らを放って置いてはくれなかった。彼女の残してくれたもののおかげで誰一人欠けずここまで来ることが出来たけど……。流石に異世界の人間のコスプレをあの時にされても対応できないだろうに。
そんなことを考えながら、階段を上る。地下にある僕のラボから、ほぼ自動化されフライデーが軽食を用意してくれているだろうキッチンに。モーガンは友達と一緒に自分の部屋に行ってしまったようだし、ちょっと手間だが運んで行ってやろうか。モーガンが連れてきた友人、僕にとってのローディ。ツグミにとってのユキ。そんな存在に成れる子ならいいのだけれど。
『お待ちしておりましたトニー様。チーズバーガー三人前をご用意しております。それとモーガン様たち用にサイドメニューの方もご用意いたしました。』
「ありがとう。……だが少し多くないか?」
『"若人の胃袋は際限なし"、とお聞きしました。ですので。』
「あぁ、彼女たちか。……そういえば僕も昔はそうだったね。それじゃぁ、ウエイタートニーの初仕事と行こうか。」
フライデー、僕のサポートAIだが昔に比べるとより人間らしくなっている。僕がそう望んだのもあるし、彼女が残した娘たちの影響もあるだろう。ウルトロンのこと、ジャービスのこと。色々あったからね。まぁ今彼はヴィジョンだけれども。何をどうしたのかは聞かない方がよいと思い聞いていないが、あっちもあっちで子供と平和な日々を送っているそうだ。アメリカ生まれとソコヴィア生まれだってのに何故か毎年年賀状を送って来てくれるからね。そこにある写真を見ればすぐにわかる。
(と、話がずれた。ナノマシンを使えばフローティングボード、みたいにできるだろうが流石にインパクトが強すぎるか?)
モーガンの名字を知れば彼女が誰であるか、誰の娘かはすぐに理解できるだろうが、もしかしたらその友達とやらに秘密にしてるかもしれない。だったらモーガンのためにも"サプライズ"ってのは丁寧にやらないと。勝手に浮いて動き回るお盆と、イケメンではなくなったがイケオジとやらになった僕じゃ衝撃が強すぎて気絶しちゃうだろうからね。それにメインディッシュにソースを掛け過ぎて台無しにするのも避けたい。何事も適度に、だ。
盆の上にある料理をこぼさないように注意しながら、階段を上る。二階の色々と強化した部屋が娘の根城だ。
彼女の趣味も僕と同じ、そうなると自然と部屋に置く家具ってものはかなり重い物になってしまう。それに合わせて騒音とかもね? ペッパーも僕もそのあたりは自由に好きなことを、って方針ではあるけどさすがに床が抜けてリビングに落ちてきたモーガンと『やぁ!』するのも、夜中に騒音で叩き起されるのも嫌だからね。ナノマシンやその他諸々で色々強化している。
「さて、ノックノッ~ク。」
『え、やば。パパ! どどどどうしよう。かくさ、隠さなきゃ!』
「……聞こえないな。ドアあたりの防音は最低限にしておいたはずだが? 追加したのか? フライデー、一応聞いとくがお着替え中とかではないよな?」
『…………潮時かもしれませんね。入って頂き大丈夫ですトニー様。』
何か含みのある言い方から、フライデーとモーガンの間に何かしらの秘密があったことを察するが……。まぁ誰にでも秘密はあるものだ。いい男、いい女になればなるほどそういうのは増えていくものだからね。……僕かい? 残念だが僕はその中でも非常に珍しい"例外"ってやつだ。清廉潔白な男だよ。
「モーガン、軽食を用意したんだがお友達とおやつでも……、っとぉ。」
僕がドアを開けた瞬間に、ドンガラガッシャン、と大きな音。シーツか何かで一生懸命に隠そうとした金属類が床に転がる。思わず天を見上げるモーガンに、どこか"彼女"に似たアジア系の少女がスーツを隠そうとしていたのか、シーツを持ったまま固まる。そして僕の目の前に転がってくる、見慣れた"ソレ"。
「おっとハロウィンの準備でもしてたのかい? それとも仮想パーティーか。いずれにせよいいセンスだ。」
作品の出来を褒めながら、持ってきた軽食を近くのテーブルに置く。そして転がってきたソレ、僕が長年被ってきたものに類似したマスクを手に取る。一瞬モーガンの手が伸びたのを視界に収めたが、直ぐに引いたようだ。顔色的にこれからお説教されるのだと覚悟しているような感じかな? ……にしても、よくできてるじゃないか。
危ないことをしていたから怒られると思ったのかい? 残念ながら僕も昔はそちら側でね。危ないことは大好きなタチだ。キミが生まれる前からペッパーと一緒にそのあたりをどうするか決めていたとも。ま、途中からツグミだけじゃなく他の奴らまで集まってあーだこーだ教育について言い始める始末。
『だからやっぱ英才教育しようよ! というわけで作ってきました【0歳児から始めるアークリアクターの作り方!】』
『あら、別にその子の好みがそっちに行くかどうかは解らないじゃない。それよりもダンスとかはどう? 運動もできるしセンスも磨ける。』
『おいおいツグミもナターシャも、まだ半年も先だぞ?』
『いや、こういうのは早めに準備する方がいいと聞いた。俺の父上も母上もそうだったらしい。』
『ほら雷神様もそう言ってる。』
『トニー、こういう時男親ってのは非力なものなんだ。ほらあそこで優しい顔をしているブルースを見てみろ。完全に諦めてる。』
『おいおいキャプテンまで。僕の子だぞ!』
『トニー?』
『おっとごめんペッパー。"僕たちの"子だ。いやほんとごめん、つい熱くなった。』
『おいおいお前ら、二児のパパが通るぜ。こういうのは両親が顔合わせて決めるもんだ。外野は軽くお勧めする程度でいいのさ。』
『クリント……、ありがとう。初めて見直したかもしれない。』
『そりゃどうも。ところでここにうちの子が昔使ってたオモチャの弓矢があるんだが……。』
『お前もか……。』
集まれば四六時中こんな話をしていた、おかげさまでモーガンが生まれる前に粗方決まっていたんだよ。今も残ってるが昔のおもちゃ箱に最初から入ってた奴色々あっただろう? ほとんどあいつらが勝手に持ってきた奴なんだよ。……ま、とにかくこの程度で怒るなんてことはしないさ。流石にウルトロンとか作っていたら話は別だろうけど。
「強化チタン合金に、簡易ナノマシンによる追加装甲システムと修復機能。後はお決まりの頭部ディプレイといったところかな? センスはいいね。」
「あ、あのねパパ……。」
「モーガン、別に怒ってるわけじゃない。ただ、少し聞かないといけないことが出来ただけだ。ほら。」
そう言いながら、彼女にマスクを返す。まぁ僕の仕事が仕事だ。それに憧れてしまうことも理解していたし、彼女の能力がその憧れを現実にしてしまうのも理解していた。前々から何か作っていることや、僕のサーバーへの閲覧ログからアレ。スーツを目指していることは何となく理解はしていたけれど……。目の前にするとこう、難しいな。前々から決めていたとしても言葉にするのは難しいものだ。
僕があの仕事を始めたのは成人した後だった。まぁそれまでが子供みたいな生活をずっと続けていたようなものだからあまり年齢は関係ないのだけれど、それでも自分と彼女を重ねていたせいか、モーガンもその始まりはもう少し後なのかと勝手に思っていた。だが、どうやら例の坊やと同じタイプらしい。っと、もう彼は坊やという年ではなかったな。結婚して子もいることだし。
「……モーガン、力っていうものは厄介な存在でね。確かにあればあるほど自分の守るべきものを守り抜ける可能性が上がる存在だが、簡単に目的と行動が入れ替わる。最初は守るための力が、より力を得るためのモノになることもしばしばだ。それに、自分の手に負えない力に手を伸ばして全て失ってしまうという可能性もある。」
「パパ……。」
「僕もそれで昔痛い目を見てね。あの時は友人たちのおかげで何とかなったが、自分の娘に同じ経験をして欲しいわけではない。……昔友人に教えてもらった言葉なんだけどね。『大いなる力には大いなる責任が伴う』、この言葉の本質ってのはどんな力に対しても必ず責任が付いてきて、大きければ大きいほどに背負わなきゃいけない物が増えるってことだ。」
モーガンは、僕たちの子だ。その生まれからして狙われる可能性が高いし、それに見合った自衛手段は渡してきた。使わないことに越したことはないけど、必要な時に何もないのが一番ダメだからね。……けれど、スーツを纏うってのは自衛を大きく超えてしまう。僕のころと比べてより世界に超人と呼べる人間は増えてきたが、それでも簡単に人を殺めてしまう力に変わりはない。
「そのことだけはよく考えておいて欲しい。……ま、責任ってのもは一人で背負うモノじゃないけどね? そこにいるお友達に片棒担いでもらうといいさ。」
「ぅげ、私? せっかく空気になってたのに……。」
「知ってるかもしれないがトニー・スタークだ。見るからに共犯者だったんだろう? 娘をよろしくね。」
微笑みながら手を差し出すと、すごい顔で握り返してくれる。それが演技か素なのかは今の生身の僕じゃ判別できないが、多分コレは素だろう。企みがバレて詰められる時の"彼女"にそっくりだ。にしても人間としての体をもって生活し始めたとは話には聞いたけど、本当に見分けがつかないな……。
「あぁそうだ、おやつを持ってきたんだよ。みんな大好きチーズバーガーさ、サイドのポテトやナゲットもあるが……。まぁ君たち花の高校生だし、これぐらい大丈夫だろう。あ、おかわりもあるが夕食のスペースぐらいは開けて置けよ? ママのお小言は勘弁だからね。」
「あ、うん。(ねぇジュノー、もしかしてパパと知り合いだったりする? 明らかに態度というか機嫌がむちゃいいんだけど。絶対ガチお説教コースかと思ってたんだけど……。)」
「イ、イタダキマス……。(あはは……、企業秘密ってことで。)」
さて、そうと決まれば色々準備しないとだな。と言ってもそのあたりはだいぶ前から用意してるんだけどね。
僕のラボのさらに地下にある、秘密の場所。引退した僕のための場所ではなく、次の世代の彼女のための部屋。ペッパーには悪いけど彼女にも秘密にしている場所だ。僕はどうせ同じ道を通るのなら早めに準備しておいた方がいいというタイプだけど、ペッパーはギリギリまで平穏な生活を送って欲しいと思う人だ。多分どちらも正しくて、欠点がある。
どっちを選ぶのかは、モーガンの自由だ。僕たち親は選択肢を増やしてやるだけ。そして間違った道を選んだときは引き返してあげるだけ。
「さて、じゃあちょっとついて来たまえ。見せたいモノがある。」
ま、選ぶのは自由と言っても僕が手塩を掛けて作ったモーガン用のスーツだ。彼女なら自分で自分のものを作るだろうというのは解ってはいるんだけど、一度くらいは着て見て欲しいものだね。
それにしても……、人生とは面白いものだ。いつの間にか僕の娘と君の娘が友達になっているし、彼女は彼女で新しい道を歩もうとしている。彼女が彼女で僕たちの成功や失敗、全ての経験を教訓に、糧にしながら進んでいく。まったく、土産話を持って行けるのはいつになるやら。ツグミには悪いが、もうちょっとだけ待ってもらうことにしよう。
(一日じゃ語り尽くせないほどに溜まってるからね、覚悟しておけよ。ツグミ。)
2035年、トニー・スタークの娘であるモーガン・スタークと、大宙つぐみの末娘である大宙ジュノーによるヒーローチームが結成される。一線は引いたとは言え未だに現役の"アイアンマン"や、ヴィブラニウム探知機の一件でツグミに捕捉されトニーにも認められた"アイアンハート"。そしてほぼ表には出てこないが、トニーが制作したスーツを所有しているペッパーの"アイアン・レスキュー"も一応現役だったため、名前は新しく考えられることになった。
紆余曲折あったが、"アイアンガール"と、"Ð-ガール"に落ち着くことになる。彼女たちの戦いはまだ始まったばかり……。
SKEBにてご依頼いただいた品になります。
今後の展開なのですが、主人公ちゃんのお話(映画一本分)を先にするかアベンジャーズの話を先にするかどっちがいいですか!
-
先に主人公ちゃんのお話!
-
早くアベンジしようぜ!