前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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Cameo(Phase 2-1)
進みすぎた私から


 

 

『マスター、ご朝食の方はいかがなさいますか?』

 

「あ~、軽いので。固形物がないの、そんな感じで。」

 

『ではそのように。近場でデリバリーできるところがあればいいのですが……。』

 

 

場所はニューヨーク外れのホテル、あの決戦のあと私はここで宿を取った。戦いの場となったところから離れているおかげでここは被害に遭わなかったみたいで通常営業してくれてる。ここ破壊されてたら野宿かトニーに土下座してスタークタワーのどっかのフロアを借りないといけなかったから助かったよ。

 

あ、ちなみにここファイアボールの保護下にあるホテルね? ニューヨーク決戦のためにこの街に拠点欲しかったからホテルのビルごと買い取ったわけです。表向きはそのまま営業してるけど地下にイヴ用のサーバールームやちょっとした機材を置いてる倉庫もある。日本から何人か出向してるし、ビル自体も色々改造済み。安心して泊まれるわけです。

 

 

「にしても昨日のシャワルマ色々ひどかった……、いやおいしいのはおいしんだけどみんな私が一番若いから食べれるだろって押し付けて……、うっぷ。」

 

『胃薬も注文いたしましょうか?』

 

「いや一晩寝たから大分マシ。今のは思い出して出そうになっただけ。」

 

 

引き渡しとかそういうの終わらせた後にみんなでシャワルマ食べに行った、そこまでは良かったんだけどみんな疲れのせいか頼んだのはいいけど口に運ぶのが億劫というか飲み物ぐらいしか無理って感じだった。しかも残すのは駄目だからってことで『成長期だろツグミ、たくさん食べないと大きくなれないぞ』とか言われたわけで。…………精神的な幸せと肉体的なダブル限界化してたと言えばわかりやすいですかね?

 

というわけで朝はホントに控えめでということで。さすがにゲロインの称号は勘弁したいからね。……さて、日本をあんまりおろそかにしてたら駄目だ、はよ帰らないと。ま、ロキをアスガルドへ返す会には参加する予定だから時間が全くないわけじゃないんだけどね? 終わったらすぐ帰って戦えるように修理修理~♪

 

今の時代のヒットチャートを口ずさみながら部屋から出る。ドアの付近で警護してくれてたヤクザ君二人に「今から下の倉庫で作業するね」と伝えて移動開始。二人とも警護のために後ろからついてくれるみたい。こういうの緊張するというか性に合わないから苦手なんだけど……、まぁ私親分だし仕方ないね!

 

 

『…………マスター、申し訳ありません。メッセージです。』

 

「? どしたのイヴ。あとなんで謝罪? メッセージぐらい別に……、セキュリティ突破されたの? 誰から?」

 

 

 

『はい、対応する暇すらなく突破されました。差出人は………、マスターの名を名乗っています。』

 

 

「内容は?」

 

 

『【お久しぶり過去の私。この街の、ストーンの担い手のところで待ってるよ。】と書かれています。ウイルスなどは検知できませんでした。』

 

 

「あっそ。……予定変更。行先はサンクタム。」

 

 

 

おいおい未来の私、なんで今の私に連絡を取るんだ? それに今の私は魔術師陣営とは全く接点ないぞ? しかもまだストレンジお医者してる時代ぞ? ワンさんの時代ぞ?

 

 

お供を引き連れて瓦礫だらけの街を歩く、私の苦難はまだまだ続くようだ。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「じゃ、二人はここまでで。瓦礫だらけだけどまぁ開けてるお店もあると思うしそこで時間つぶしといてもいいよ? 帰りは連絡するから。」

 

 

護衛のためのついてきてくれた二人にちょっと多めのお金を握らせて私は一人サンクタムのドアの前に。いやはや、ここに来るのはもう少し後。サノスとの戦いが始まるころにお邪魔するかと思ってたけどねぇ……。

 

そんなことを思いながらドアノッカーを叩く。

 

するとすぐにドアが開いた。

 

 

「……なるほど。ようこそいらっしゃいましたとでも言いましょうか? あなたが中で待っていますよ。」

 

「私が失礼をしたようで大変申し訳ございません。至高の魔術師にお会いできて光栄です、ワンさん。」

 

 

髪をそり落とした女性、エンシェントワンと呼ばれるその偉大な魔術師は私をサンクタムの中へ招き入れてくださった。

 

 

「あなたも私のことを知っているのですね。魔術師ではないようですし、彼女の言う前世の記憶というものですか?」

 

 

……おいおいおいおい! おい! 未来の私どこまで話してんの! え! ちょっと! 私が持ってる特大の爆弾この時点のワンさんに教えちゃったの!? は!? 何してんの私!?

 

 

「あぁ、安心してください。彼女と結んだ契約にここであったことは口外しないというモノがあります。あなたが不安に思うのでしたら私の記憶も、あなたの記憶も消してあげましょう。ほらこんな風に。」

 

 

そう言いながら魔法陣、エルドリッチ・ライトを展開して見せてくれるワンさん。うわぁ……、本物だぁ! すごい! え、これどうなってんの!

 

 

「……なるほど、実際に見たわけでなく知識のみ所有しているということですか。つぐみさん? あなたもここで見たことは時が来るまで誰にも話してはいけませんよ? それとも消してあげましょうか?」

 

「大丈夫です! 私口は堅いので!」

 

 

なんかワンさん『じゃあジム行く?』みたいなノリで記憶消す提案してくるけどなんかあったん? まぁそんなことを思考の隅に置いて、歩きながらエルドリッチ・ライトを見せてもらうこと数十秒。階段を上って少し行ったあたりでワンさんの足が止まる。

 

 

「ここにあなたの待ち人がいます、私は席を外しますのでどうぞごゆっくり。あぁ、それと部屋を貸すことに対する報酬は彼女からすでにもらっているので気にしなくて大丈夫ですよ。」

 

「あ! ご丁寧にありがとうございます!」

 

 

いいのですよ、と言葉を残しそのまま去っていくワンさん。いや~、なんというかさすが至高の魔術師というか人間出来てる感じがしますなぁ! あ、帰りにサイン貰って帰ろ。あと誰にも言わないので記憶消さないでね? お願いですから!

 

 

 

……さて、じゃあ挑むとしますか。

 

 

顔を手のひらで叩き気合を入れなおす。ドアノブに手をかけ、捻り、押し込む。

 

 

 

「やぁ私。ちょっとお邪魔させてもらってるよ?」

 

 

 

私より少し背が伸びた私、瓜二つの存在がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで? なんでこの時代に来たわけさ? タイムストーンでも貸してもらいに?」

 

「あ、やっぱり知ってはいるんだね。なるほどなるほど……。」

 

 

……ん? 『知ってはいる』?

 

 

「ふむふむ、その顔からしてマルチバースも把握してるってわけか。」

 

「……どこのEarth出身? あとここがどこかも教えてほしいんだけど。」

 

 

楽しそうに気味の悪い笑みをする私、あぁほんと自分自身がそういう顔してるの腹が立つんでやめてもらっていいですかね!

 

 

「ある程度進むべき方向が解っている上に世界は一つでないことも理解している。そして少しの会話で私が別宇宙の同位体であることを把握する。そして自身がいるEarthが何なのか、目の前にいる存在が安全かどうかを把握するために番号を聞く。非常にいいねぇ……。」

 

「ま、すでに成人越してる私が身長伸びるわけない、ってことで判断しても良かったんだけどね。……一抹の希望に掛けた。」

 

 

うんうん、わかるわかると首を大きく縦に振る私。あぁ、コイツも身長で苦労してたんだなぁってことが良く解る。日本人平均的に小さめな上にアメコミ世界の人たち大体ビッグだから困るよね……。コミックとかで書かれてる男性みんな肩幅ヤバいもん。

 

そんなことを考えながら護身用に持ってきた武器をいつでも起動できるように、目の前で楽しそうにしている彼女から見えないよう操作。たぶん、敵対した場合絶対勝てないけど世界に対して警告するぐらいはできる。完全に起動した瞬間に“然るべき”ところに連絡が行くから。

 

 

「おっと、どこの出身かの話だったよね。……ま、その話をする前に知識のすり合わせと行こうか。私に聴こう、君がいる世界に割り振られたた番号は何だと思う?」

 

「……Earth-616、もしくはEarth-199999。この番号にかなり近い数字が当てはまると思う。」

 

 

616はアメコミにおける正史、もしくはマーベル映画におけるMCUの世界線の事。

 

 

「うんうん、いい答えだ。では正解だが……、両方とも合っている。というのが正しい。」

 

「両方とも?」

 

「そうさ、そもユニバースに割り振られた番号は何を基準とするのか。まぁ一番初めに数え始めた世界だとか一番初めに産まれた世界を一とするかで色々あると思う。左から数えたり右から数えたりね?」

 

 

つまり、視点の話か。アルファベットで考えるとAから番号を振った場合数字の3が当てはめられるのはC、しかしZから考えると3になるのはXになる。

 

 

「ま、コミック的な世界から今いる世界を見ると199999で、こっちからこの世界を数えるとすれば616ってわけさ。ちなみに私は616といつも言ってるからそう呼ばせてもらうよ。」

 

「……了解、んで。お前の出身は? 838?」

 

「いやいや、違うとも。実はなんだが……、なんと私も616の出身なのだよ。後ろにA-1という記号が付くがね?」

 

 

 

Earth-616、同じ世界。そしてA-1。

 

 

 

「私は考えたことはないかい? そもそも616と617、そして615の世界があったとする。それがもし616で何かしらの異変が起き並行世界が産まれたとする。この時新しく世界が産まれたとすれば君はなんて名前を付けるかい? あいにく前も後ろも番号が埋まっているよ?」

 

 

「……616-a。」

 

 

「そうだよねぇ! とりあえずその派生元世界の番号を取り、そしてわかりやすいように番号・アルファべットあたりを振っておく! そしたらもし派生元がさらに別れた時に対応がしやすい! とっても便利ってわけさぁ!」

 

 

少し考えればわかることを幼子に教えるように高らかに宣言する私。

 

 

「さぁ! 改めて自己紹介しようか! 私の名前は大宙つぐみ! またの名を “アリアドネ” ! Earth-616から別れた世界、分岐してしまった世界! A-1からやってきたヒーローさ!」

 

 

「そして! 君も名乗ってもらおうか! 同じくEarth-616から産まれた世界! 私とは違う別れ方をした世界! D-1に生を受けた君の名を!」

 

 

 

 

 

 

「大宙つぐみ、アンタと同じ。ヒーロー名は……、 “ドロッセル” 。」

 

 

 

 

 

 

「なるほど! なるほど! 君はドロッセルというのだね! あぁ素晴らしい! いい名前だ! 私がこれまで会った私はみな“アリアドネ”だった! しかし君は違う存在なのだね! 素晴らしい! 世界はさらに派生した! やはり私たちは呪われている! あぁ! 世界とは! ユニバースとは! なんと素晴らしく、なんと惨いものなのか! あぁ! あぁ! 本当に素晴らしい!!!」

 

 

「心配するな私よ! なにッ! 君は君の物語を進めるといい! TVAも! ほかのマルチバースに手を出すヴィランも! 私がすべて対処してあげよう! すべて! そうすべてだ! 私が守る他のAを冠する世界と同じように! だがその代わりに! 君が私と同じ道を選ばないでくれ! あぁ、私とは違う可能性よ! 新しい道を! 世界のIFを私に見せてくれ!」

 

 

 

正気と狂気が入り混じった顔。本当に、本当に楽しそうな表情と共に笑い続けるその顔を私は忘れることができないだろう。

 

 

吸い込まれそうなほどに黒く、濁ったその瞳も。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ワン。見送りありがと~!」

 

「……私を顎で指図できるのはあなたぐらいですよ。」

 

 

この世界の彼女、ツグミを見送った後。至高の魔術師であるワンは違う世界の彼女が居座る部屋に戻ってきていた。

 

 

「ん~?」

 

「はぁ……、はいはい。助かっていますよツグミ。」

 

「ふふ、それでいいとも。」

 

 

姿勢を崩し、足を組む。ワンはそのことを咎めずに自身の分だけの茶を入れその肩書に恥じない所作を見せつける。ツグミはそれを楽しそうに眺めるだけだ。

 

 

「ワンから見て私はどうだった?」

 

「そうですね……、とりあえず目上の者に対する礼儀はあの子の方が上でしょう。あなたは礼儀というモノを知りませんからその点非常にいい。」

 

「にゃは! そりゃ敬意を払う相手みんな死んじゃったんだもん、そりゃ必要ない技能は自然と抜けていくでしょ普通。」

 

 

そう言いながら人差し指を軽く振る彼女、するとワンが用意していた茶器の隣に全く同じようなものが地面から生えるように現れる。

 

 

「……ナノマシンですか。相変わらず見事なものです。」

 

「行き過ぎた科学は魔法と何も変わらない、あなたのお弟子さんにも驚かれたよ?」

 

 

自身の分だけでなく彼女の分も入れ終わったワンは自身の分だけを手に取り席に座る。ツグミの分は別に運ばずとも彼女が求めれば文字通り空を飛んでやってくる。わざわざ労力を使う必要もない。

 

 

「弟子、ですか……。」

 

「心配しなくても世界は回るよ? 彼は事故に遭い君の元を訪れ魔術の勉学に励む。まぁ色々問題は起きるだろうけど最後はみんな大団円だ。大本の616から逸脱した行動を取らなきゃね?」

 

「いえ、その心配ではなく彼があなたの対応をしなければならないことが可哀そうで……。」

 

「おっと、いうねぇ!」

 

 

至高の魔術師という彼女を師事する者たちが見れば目を疑うであろう光景がそこにあった。彼女が楽しそうに冗談を言って笑い合う姿など珍しすぎてビックリしちゃう。

 

 

「……ま、私たちのせいで色々心配かけちゃったことは謝るよ。」

 

「いえ、私だけではどうにもならない事でした。……原因があなた方にあるとは言え後始末も、対策もしています。その性質が悪であれば全力を以って対峙していたでしょうが仮定の話。あなたのおかげでこれ以上この世界から派生することもありませんし、目を瞑りましょう。」

 

 

ワンが思い出すのは突如として現れた並行世界たちが爆発的にその数を増やし始めたあの2009年の出来事。絶え間なく増殖し世界間の距離が徐々に埋まっていってしまい連鎖的に全ての世界、Earth-616から派生した世界群の一つ、D群すべてがインカージョンを引き起こしそうになった事件だ。

 

それを解決したのが目の前にいる彼女、この世界の派生元でもある616から同じように派生した彼女のいうA群、そこの出身である科学者だ。

 

 

「……私たちはそこに存在するだけで並行世界を生み出してしまう。例えばそこにあるはずの濁点を言い忘れる。アボカドとアボガドとかね? ほらこれだけで世界が分岐しちゃった、間違わなかった世界と間違った世界。」

 

 

「……本当に、難儀な力と言いましょうか。」

 

 

「今は技術がこの時代よりもだいぶ進んだおかげで自身から派生する世界をなくすようにできたけどね。……それまでに私が増やしてしまって、インカ―ジョンで消えてしまった世界は数え切れない。スペースには限りがあるから。」

 

 

 

 

 

 

 

「……あまり暗い話をするのもいけませんね。何しろ私の時間は限られているのですから。今日の仕事はすでに終わらせていますし、また話をしていただけますか?」

 

「ふふ、ありがと。じゃあ今日は私が見た中でもかなり面白い世界に入ると思うEarth-51778の話でもしようか。」

 

 





A Ariadne

D _






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補足説明のコーナー!


うわぁ、世界沢山あるぅ! マルチバースたのちー! ということが分かれば大丈夫です。カメオで、おまけで、私がやりたかっただけですからあんまり本編にはかかわってきません。問題が出てくるのがフェーズ4ですので。


用語:インカ―ジョン

世界と世界がぶつかって対消滅することです。マーベル世界ではよくあります。トマトとトマトを投げてぶつかったらべちゃべちゃになった様子を思い浮かべていただいて、それを地球に変えていただければOKです。詳しく知りたい方は今すぐ映画館に行ってドクターストレンジ2を見るか私と一緒にアメコミを買いに行きましょう。


ドロッセルとアリアドネが持つ能力

ファイアボール原作から頂いたネタになります。私としては原作を見ていただきたいのですが、簡単にいうと『世界ってたくさんあるよね!』『朝食でパンかご飯を食べるかで迷った時実はどっちの選択肢を取ったかで世界が分かれてるんだよ!』『お嬢様は人よりその傾向がすごく強いよ!』で大丈夫です。……ごめんやっぱ見て?


Earth-51778

よくネタにされるが原作のストーリーはかなり暗いお話であることを結構な人が知らないネットのおもちゃにされてる男! スパイダーマッ!!!



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