前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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夢と、夢の語り手と

 

 

 

夢、それはマルチバースの囁き。

 

 

不確定で不安定、両者ともにその性質を持っているからか。それとも同じ名前を持つ同位体の宿命なのか。“ドロッセル”という名前を名乗り始めてからよく夢を見るようになった。

 

最初の間は楽しいものばかり、友と日々を過ごし何も気にせず笑い合う夢。遠く離れたアメリカの地に生れ落ちニューヨークを飛び回る夢。過去のドイツに産まれ自由を求めて新大陸に向かう夢。辛いものもあったがすべて目が覚める頃には夢の中の私は笑っていた。

 

 

だが、あの日からは違う。

 

彼女の言うAと、私がいるD。それが出会ってしまってから夢見は最悪。チタウリに勝てなかった夢、核ですべてが焼き払われる夢、サノスが最初から攻めてくる夢、ウルトロンが完全体になる夢。そんなものはまだ可愛らしい。

 

もっとヤバいのもある。たぶん他の私が遭遇してしまい、逃げることも敵わずただ恐怖の感情と絶望の感情を表すしかなかったユニバースも見た。いや見てしまった。

 

 

夢を夢だと理解しながら、まるで映画を見るように他のユニバースを見せられる。『マーベル』はヒーローコミックが原作だ、敵がいなければヒーローは輝かない。苦難がなければ輝けない。たとえどんなに戦おうとも勝てないような敵に対しても、どんな犠牲を払っても、輝くために戦わされる。

 

 

(見る分にはいいが、実際その立場にはなりたくないってやつだよね。)

 

 

今日もまた、世界が滅びる。

 

このドロッセルは前に進みすぎた、世界が少しでも良い方向に進むよう身を削った。チタウリがニューヨークの空を飛ぶ前に対処した、ウルトロンは完成し兵士となった。内戦は起こらなかった、起こらないように国連を管理した。太陽が昇る国からは闇は消えてなくなり、ワカンダを表社会に呼び込むことで星自体の文明を無理やり推し進めた。

 

それが駄目だったのだろう。豊かになり過ぎたこの星は寿命を迎えてしまう。

 

この夢を見ている私が最後に見れたMCUの映画『エターナルズ』にて天災の一つとして描かれる“ティアマット”。あらたなセレスティアルズは地球の核から誕生し、星を内部から破壊することで産まれる。

 

彼らからすれば次なる銀河を創造する新たな同朋の出現、新たな命のための致し方のない犠牲というモノだ。犠牲の側からすればたまったものではないが。

 

 

完璧に安全にし過ぎた、サノスだって簡単に跳ね返せた私は『エターナルズ』関連の知識を保有していなかったがために敗北した。人類はゆりかごの中で人口を増やし過ぎたがゆえにティアマットが産まれた。この世界のエターナルズは何の因果かこの星からはすでに離れており私は何も対処できずに星と共に死を受け入れるしかなかった。

 

 

 

……管理する社会。脅威も、安全も。すべて管理する。

 

 

 

表向きは正義を謳い、裏では脅威となる存在も育成する。

 

安全は成長を止め人口の増加を促す、危険は成長を促すが精神が擦り減る。

 

何事も適度に。

 

 

 

適正な脅威によって基準値から溢れた人を整理する。人口を一定に保ち続けることでティアマットの出現、星の寿命が尽きるのを先延ばしできる。そして脅威は人間の危機感を高めそれに対処するため技術を発展させる。

 

悪はより巨大な悪に集まるがゆえに掃除も容易い、正義の心は危機を用意しておけば自然と生まれる。産まれなければ一から用意すればいい。

 

 

 

 

“完全”な管理社会。

 

私が目指す先はそれなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれぇ?」

 

 

目が覚める。場所は多分本社ビルの中にある私の自室、そこのベッドに私は寝かされていた。アレ? 昨日というか今日の夜は東京でニンジャ襲撃してそれから……

 

 

『おはようございますマスター、到着時にもお休みになっていましたため私の独断で寝室の方まで運ばせていただきました。』

 

 

ほんとだ、着てたはずのMark3も脱がされてるし。いくら自動化して脱ぎやすくなったと言っても結構ガチャガチャするはずなんだけど……、それでも寝てたのか。あ、サキイカ君水ありがと。ん? ゲデヒトニスだって? 誰それ。

 

 

「そっか、ありがとイヴ。ちなみにどれぐらい寝てた?」

 

『現在午前10時、約5時間ほどお休みになっておりました。バスタブに湯を張っておりますので湯あみの後ご出社ください。』

 

「うわ~、10時か。社長出勤じゃん。」

 

『マスターは社長ですから問題ないかと。』

 

 

プチプチプリン君が運んできてくれた水を口に含み、飲み込む。寝汗かいちゃってるみたいだし昨日はスーツ越しだけど血みどろの近くに居た。一般の社員くんとも会うかもしれんし風呂には入っておいた方がいいか。にしてもさっきまで何の夢見てたんだ? いつも夢とか結構しっかり目に覚えているはずなんだけど……。ま、気にしても仕方ない、久しぶりに良く寝れたし気分は爽快。さっぱりしてお仕事と行きましょう!

 

 

「はい、コップ。ヌポポノヌポ君ちゃんと洗っておいてね?」

 

『ですからお嬢様、私はゲデヒト「あなたは口を挟まないで?」……申し訳ありません。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実家から都会へ。といっても車で30分もかからない距離に引っ越してきた私。今日も今日とてあの大きなビルに出勤です。

 

家は近所で小学校から大学まで一緒、彼女はよく『腐れ縁』って言う私たちの関係は傍から見たら親友って言ってもいいと思う。昔からいつも一緒にいたし、そう見えるのは仕方ないことかなって。

 

でも、ホントは違う。私はずっとつぐみの後ろを歩いてるだけ、親友にはふさわしくない。最初に彼女がイヴを作るために町中を駆け回ってジャンク品を集めてた時も、私は後ろから何も解らず付いて行くだけだった。小学生になった時彼女が今でも使われている介護関係のサポートスーツを作った時も私はそばにいたけど何もできなかった。

 

少しずつ年を重ねるごとにちょっとでも彼女の助けになれたら、と思っていろいろ勉強とか頑張り始めた時。やればやる程彼女が規格外で、背中すら見えない場所にいることが解っていく。私が1進むたびに彼女は10以上進む。すでに差は頭が痛くなるほど離れてる。……私は隣に立つことを諦めた。それが大体高校の時、ちょっと距離を置いてしまった時もあったけど関係性は“親友”のままだった。

 

 

 

それから時間が過ぎ、大学に入ったころ。世界が変わり始めた。

 

 

 

アメリカでとても大きな兵器会社の社長が誘拐されたと思ったらなんだかすごいスーツを着て悪い人達をやっつける映像が世界中に流れた。アイアンマンという彼が産まれた瞬間だった。

 

すごく、ビックリはしたけど『あんなの現実じゃない』とはならなかった。つぐみが同じようなものを作っていたし。だからそれに触発されて彼女もスーツを作り上げたことに対しての驚きはほとんどなかった。『あぁ、やっぱり。』という感じで。

 

 

「でも日本がニンジャだらけって言うのは予想できないよね……。」

 

 

私が彼女の関係者で誘拐されて人質になるかもしれないってことで少しだけ教えてもらったけどこの国は少し前までニンジャだらけで裏の社会では毎日人が死ぬ。それが日常の世界だったらしい。私たちがのほほんとしている時にそんなことが起きていたなんてすごく驚いた。

 

もっと驚いたのはいつの間にかツグミがコミックのヒーローみたいに毎晩毎晩そのニンジャと戦っていて、その仲間の人たちのリーダーになっていたこと。あとその仲間の人たちがもとヤクザだったり……。うん、事実は小説より奇なりって言うけどホントそうだよね。

 

それからどんどん睡眠時間を削っていつ寝てるのか解らない彼女の負担が少しでも減るように色々やってきた。大学の講義関連のことも手伝ったし、少しでも疲れが取れればいいなって思ってちょっとしたものを作って持って行ったり。彼女が望んでいるゆっくりとした時間が崩れないように楽しく話したり。

 

そんなことをしているうちに……、大学卒業。

 

普通に就活をしようと思っていた私。とある日の雑談にそんなことを話していたら急につぐみが奥へ引っ込んでタブレットを持ってきた。そこには私のためだけに作られた契約書、イヴが数秒で作ってくれたみたい。

 

 

「あ、あの。つぐみ? これなに?」

 

「ん? 契約書だけど? ほらユキ用の。ちょうど私の秘書空いてるし?」

 

 

お給料のとこに『言い値』と書かれたそれを見て動けなくなる私。それを見て笑う彼女、何かしらの形で彼女の助けになりたいと感じていた私。小学生のころから大学まで、そして就職すらもお世話になってしまうことに申し訳なさを感じながらそれを受け入れた。

 

そして、今。

 

イヴの人間がやると過労死しかない超速の業務処理につぐみの進みすぎて外に出せない技術のおかげか、彼女たちの会社。ハイツレギスタは日本有数の企業になった。私はそこで社長秘書という肩書で日々を生きている、お仕事としては基本的につぐみの代わり。

 

ヒーローとしての活動にアベンジャーズというヒーローチームの好感度を上げるための広報活動、研究者・技術者としての仕事で忙しい彼女の代わりに、イヴという人工知能では出来ない仕事の穴埋めを私は担当している。あとつぐみの部屋の掃除とか。

 

 

「おはようございます、守衛さん。」

 

 

顔が強面でどう見てもカタギじゃない(実際カタギじゃないらしい)人が敬礼してくれるのを横目にビルの中に入る。ファイアボールっていうツグミの組織の戦闘員の人がやってるみたいで大体体がごつごつしてて怖い人ばっかり。悪い人でないんだけど……。やっぱ怖い。

 

エレベーターに乗り、つぐみのデスクのある階へ向かう。この間にスマホのアプリを起動してイヴと連携。これでアプリを落さない限りずっと彼女がサポートしてくれる。

 

 

「おはようイヴ、つぐみは?」

 

『おはようございますユキ様、現在マスターはお休み中です。』

 

「あ! そうなの! ……うなされてたりしない?」

 

 

毎日顔を合わしているからわかるけど彼女の睡眠状態はあんまりよくない。誰かと会う時はその隈を隠すために厚化粧しないといけないレベル。かといって作業効率とかはあんまり落ちてないのが彼女のすごいというか怖いところ。

 

 

『少々寝苦しそうにされていますが、眠りは深い状態です。』

 

「そっか……、最近全然寝れてなかったみたいだし寝かせてあげないとね! イヴちゃん、今日も頑張ろうね!」

 

 

彼女が自分自身の仕事を全うできるようにそれ以外のことは私が頑張る。みんなの安全を守ってくれてる彼女だから、そして彼女が私のことを親友と言ってくれることを誇りに思いながら、その称号に見合うだけ彼女を支えてあげないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んでさ、ユキ。今さどんな感じなの?」

 

 

ちょっと風呂の中で考えてたら思ったより捗っちゃって長風呂になった私、そのせいですでに12時回って昼飯食べることになっちゃったドロッセルお嬢様ことつぐみちゃんですわよ! 今日は紅ショウガ丼にしてやろうかと思ったがユキに全力で止められて本社ビル近くのテラス席のあるオシャレなカフェで食べることになった。

 

 

「……それよりも“アレ”、いいの?」

 

 

ユキが指をさすのはちょっと離れたところでファンサービス中のMark3。ほらファイアボール三期のユーモラスに出て来たお嬢様と同じやつね。大きさもちっさく私サイズだしTailも4本。かなり凝って作ったファンサービスのモーションのおかげで今もキラッキラのパフォーマンスを繰り広げてます。

 

 

「あぁ、写真とか撮られてるの? 大丈夫大丈夫。」

 

 

アベンジャーズで表に出せるのは私とトニーとキャップだけ。ハルクはまだ怒りを制御できてないし、ソーはアスガルド人だからいない時の方が多い。ナターシャとバートンはエージェントだからあんまり顔を出すのはよくない。つまり後々『アイツら危険じゃね?』とか言われることを見越してファンの獲得に励むって寸法です。

 

……まぁいつの間に来てたのかヒドラの構成員君が写真撮ってるけどね。君の顔割れてるの気が付いてないんだろうなぁ……。おっと、イヴちゃんそいつの対応は後でいいから一緒に写真撮って欲しそうな幼子の相手してあげてね?

 

 

「ならいいけど……、それで広報の件だよね。先日上げた『アベンジャーズ特集! 7人みんなの情報大公開!』だけど、概ね好意的な意見で占めてたよ。再生数もうなぎ上りだし英語版も出したのが良かったのかも。」

 

「そりゃいいね! ……ここのメシそこまでおいしくないな。ドリンクと雰囲気で楽しむ店ね。」

 

 

アイアンマン! 空飛べてビーム出す! キャプテンアメリカ! お尻! ハルク! パワー! みたいな(ホントはもっと詳しいよ? 出せる情報だけだけど)動画だったけどそれならまぁいいでしょう。たぶんアンチみたいなのは沸いたんだろうけど言わないってことは気にならないレベルってことだろうね。

 

 

「あはは、お願いだからそれ店員さんに言わないでね? ……あれ、どうしたの?」

 

 

目でユキを制する。護衛でついてきてたウチの子達、オシャレなカフェには似合わない黒スーツ姿でガタイのいいグループ2組合計5人が急にあわてて立ち上がった。訓練されてるし護衛の経験もある彼らがそんな動きをするってことは何か起きたってこと。入口付近はイヴが固めてるし、店の外にも覆面護衛ヤクザが一定数いる。つまり侵入はむずい、……ということはまた、なりふり構わず爆破テロ仕掛けてくるニンジャか!?

 

足音、後ろッ!

 

 

「すまん、お嬢さん。食事中のところサイン貰っても?」

 

 

腕時計に仕込まれたスタンガン、それを起動しながら勢いよく後ろを振り向くとそこには……、白髪にサングラス。立派な白い口髭がチャーミングな“見慣れた”お爺ちゃんがサイン用紙とペンを片手にそこにいた。

 

 

「…………ワッ!!! も、もちろんです! 喜んでやらせていただきます!」

 

 

やっべ、驚き過ぎてまぁ~た意識が飛びそうだったじゃん、え? なにお爺ちゃん今日は何の役です? 警察官? 富豪? それともお孫さんに優しいお爺ちゃん?

 

 

「あそこにいる孫にせがまれてな、出来たら名前も書いとくれ。スペルはこうだ。」

 

「はいはいなるほど……、よし! 最高傑作のサインですよ! 一番力入れて書いた!」

 

 

そう言いながらペンと用紙を返す。ご満足頂けたようで握手を求められた後はニコニコ笑顔で帰ってしまわれた。お孫さんの方は……、あ。いたいた。日本観光のついでにわざわざこっちに来てくれたみたいだね。お母さんの背に隠れてこっちを覗いている幼女に手を振り振り。イヴに彼女とちょっと遊ぶように命じとこ。

 

 

「うへへ、握手の時『応援しとるよ。』って言われちゃった……、この手洗うか洗わないかトニーの時レベルに迷うぜ、うぇへへへへへ。」

 

「? もしかして知り合いの人だったの? すごい人?」

 

 

 

「ううん、知り合いじゃないけどさ。……とぉ~ってもすごい人。」

 

 

 

 








ありがたいことにウーメン梅田様よりドロッセル2のタイトルロゴの方を作っていただきました! とってもうれしい! 皆様もぜひご覧くださいませ!



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