視界に旅客機がようやくはっきりと映る。スーツ内蔵のズーム機能が作動し操縦席を外部から確認するが……、人影なし。真っ赤な血がこべりついている、すでに機長はやられてるってわけね。犠牲者がそれほど出てなければいいのだけれど。
(実質これ私のせいだよね……、残されたご家族は不自由なく生活できるように支援するから化けて出てこないでね? 出てくるにしてもヒドラの方にしておいてください、ホントに。)
そんなことを考えながらまずは機内コンピューターのハッキングから始める。操縦席に人がいないのに機体が全速力で動いてるってことは無人運転。どんな手品を使ってるかは解らないが、ここに結果が存在している以上原因はどこかに必ず存在している。
外部からの電子的攻撃でどうにかなるのならそれが最適。同時に飛行機全体の調査も行おう。
『外部に損害なし、内部での犯行のようです。また機内操縦システムとのネットワークが遮断されたため操縦権を奪うのに失敗しました。現在、内部からの情報を得ることは可能ですが操作は不可能です。おそらく操縦席にて何かしらの操作が行われたかと。』
なるほどね、ハッキングなどの私対策はしっかりしてる。そして旅行客と偽りながら搭乗し、内部でテロを働いたってわけね? ……こういういやぁな感じの策は多分ヒドラ主催だろうね、ほんと考えれば考えるほどよく作られた作戦だ。虫唾が走る。
このジャンボジェットシュートが成功したとしても私を殺せる可能性は低い、なんてったって私は飛べるから逃げることは簡単。でもこういった規模が大きく世界中に発信される事件を解決できなければ私の国内における社会的地位は地に落ちる、もちろん海外からも非難轟々。旅客機にいた無辜の民を見殺しにして自分だけ生き残った、ってね?
そこにS.H.I.E.L.D.による、いや国連による表向きの“インサイト計画”を早めに発表。不安を煽りに煽って、対策案としてテロリストを須らく抹殺するとかいう耳触りのいいことだけを述べる。この世界でも2001年に例のテロは起きている、ゆえに同様の事件が起きたとなればその影響は莫大、アメリカでは特に計画に賛同してしまうだろう。
日本に対しても同様で与える影響は大きい、追加として『ツグミ・オオゾラはテロ組織と繋がっていた、だから見殺しにした!』とでも発表すればヒドラの一人勝ち。
情報が正しいか間違ってるか、それは問題じゃない。より大きいものがより速く言ったもん勝ちって奴。民意が傾き私は犯罪者へ、私が表社会に出ていなければこういったことは起こらなかっただろうけどニューヨーク決戦以後少し前に出過ぎた。
おかげさまで私が批判されれば追加でアベンジャーズも批判されるってわけだ。どの世界も声が大きい奴の意見が通りやすい、目立ちやすいからね。
私の思惑。宇宙からの侵略者やこれからやってくる脅威に対して私たちが対応する、だから協力してね? という関係性を早めに作っておきたかった。それが故の早めの行動が裏目に出ちゃったわけか……。
「イヴ、内部の状況は解る? 出来たらCAさんが生き残ってるか確認したい。」
とにかく対処だ。
高速で飛行してる旅客機に外部から穴をあけて突入した場合気流で大変なことになる。人が外に放りだされれば基本お陀仏。『アイアンマン3』で電流を使ってサル繋ぎゲーム救出作戦をやってたけど、アレは人数が少なかったからできたこと。この飛行機には400人以上いるから無理ゲー。ジャンボジェットも止めないといけないし。
だから対策が必要だ。
『スキャン完了、対象者は複数名生き残っているようです。また敵テロリスト。おそらくヒドラの現在位置も特定しました。3Dマップを作成しましたのでご確認を。』
ディスプレイにマップが表示される。航空会社から引っ張ってきた搭乗者データとさっきのスキャン結果を融合させたものによると……、生き残ってるCAさんは8人いて一階と二階にそれぞれ分かれて集まってる感じ。海外から帰ってくる便だったみたいで搭乗者は国籍いろいろ。テロリストの方は……、二階に7人一階に18人ってとこか。多いな。
ジャンボジェットという二階構造だからこその小隊規模での作戦、自分が生き残れるか怪しいのによく参加したもんだ。ま、出来たら生きてお国に返してあげるとしましょう! 抵抗したら殺すけど。
「繋いで?」
『了。』
イブに命じて内部にいるCAさんとの通信を開始する、機内の無線に無理やり入り込んでるわけだから音質も悪いだろうけどそこはご愛敬。伝えられればいいわけで。つながったのは……、二階の方か、ちょうどいい。
「こちらドロッセル、聞こえてても反応しなくていいよ。エイリアンが来た日、ニューヨークで戦ってた白いのって言ったらわかりやすいかな? 今から内部に突入するから機内にシートベルト着用のサインを出して。そこから10秒後に突入する。場所は君たちが集まってる場所から一番離れたドア、そこから侵入する。」
少ししてからマイクが叩かれる音、多分敵さんの目を盗んで返答してくれたんだと思う。よし、突入準備だ。目標は被害なしでテロリスト25人を全排除すること、衆人環視の前なので殺しは控えめで。リパルサーも威力絞って気絶程度に。まぁそれでも抵抗が激しかったらお外にポイだ。
『ランプ点灯を確認、カウント開始します。』
たしかこの機体って外から開けようと思えば開けられるのだろうけど……、いや高速飛行中に細かい作業は無理だな。レーザーで焼き切ろう、最低限のスペースだけ作る感じで。
「イヴ、突入と同時に数へらす、ロックオンしといて。」
『了解、カウント4、3、2、1。』
腕部に内蔵されたレーザー兵器、トニーのMark7と同じエネルギータイプの奴ね? それでギリギリ壁を貫通しない程度に切断して……。
『0。』
カウント0と共に蹴り破り、エントリー。同時に腕部リパルサーを放射し二人ノックダウン。
「ごめ~ん! 乗り遅れちゃった! ……それで、私の席はどこかな?」
見た目からしてニンジャじゃない。やっぱりヒドラ、うん。ヤバイ兵器も持ってないし制圧は楽に行けるはず。さぁ蹂躙開始だ。
CAさんの『頭を下げて!』という叫びとほぼ同時に熱烈な歓迎を受ける、鉛玉のプレゼントとか楽しいサービスじゃん。最近のフライトは多様化してるねぇ? こういったサプライズサービスがないともしかして生き残れないのか、世知辛い。
いつもなら頭部を狙うが今日は胸部、吹き飛ばさないように手加減してリパルサーを両手で放射。最初の突撃で残り5人、そして今ので残り3人。
「おいおい、敵わないからってこんな場所で爆発物を使うのは駄目じゃない。」
手榴弾らしきものを取り出そうとした奴を吹き飛ばし同時にドスを抜いて突撃を敢行してきた奴を上に殴り飛ばす、あ。この向こう見ずな感じニンジャか? まぁいいや。
本社ビルへの襲撃でもニンジャくんとヒドラ君が一緒に攻めてきてたしこっちでも一緒になってたわけなのかな? まぁニンジャとそれ以外を見分ける方法って服装しかないですし見間違えてもしゃーないか。……にしてもなんでザ・ハンドはあからさまにニンジャとわかる服装をいつも使わせてるんだ? まぁ変装とかしてる奴もいるしそれでいいのかもしれんけど。
「止まれ! 動くな!」
おっと、そういえばもう一人残ってたか。
まぁまぁ近くにいた子供の首根っこ掴んで人質とか……、品がないねぇ? 子供の頭と親御さんの顔へ交互にハンドガン向けながら『妙な動きしたら撃つ!』の構え。私が開けた穴のせいで風が凄くて足場も不安定なのによくやるもんだ。う~ん、君には罪状追加! 殺さないけど痛い目見るといい!
「駄目だよ子供を人質に取るのは。ほら両手を上げて降参してやるから放しましょうね。」
そうやって両手を上げてあげる。もちろん手のひらは相手に向けてるよ。はい、ダブルリパルサー。
「はい、これにておしまい。ごめんね坊や、怖い思いさせて。お姉さんはもう少しお仕事残ってるからいい子に座っておくんだぞ?」
吹き飛ばされた衝撃で首根っこを掴んでいた手が緩む、そのせいでちょっと高いところから落ちそうになったボク君をキャッチしてそのまま元の席へ。お姉ちゃんまだお仕事残ってるからファンサービスは後でね。
『二階、オールクリア。衝突まで時間がありません、巻きでいきましょうマスター。それとTail3のフラップ機能を使い一時的に穴をふさぐことを提案します。』
「OK! 頼んだ!」
Tail3、光学迷彩用の装備が入ったTailが切り離され先ほど切り取られた穴に直行。外部へ放出されようとした瞬間にフラップが展開。これで少しは風が収まるはずだ。
さて、少し時間が押してるみたいだしちょっと危ないがスタークインダストリーから輸入した特殊弾、『アイアンマン』で登場した複数ロックオンする奴で一気に倒してしまおう。痛みで気絶するかしないか程度の弾丸だけど……、まぁ一階にいる他の乗客の皆様に拘束手伝ってもらえば大丈夫か。
その後に操縦室へ移動すると致しましょう!
◇◆◇◆◇
『襲撃者を多数発見、これより排除します。』
場所は変わり、本社ビルへ。
逃げ遅れた人がいないか確認していたユキの窮地を救ったゲデヒトニス、彼は武装した敵、その装備からおそらくヒドラ構成員と対峙していた。
ゲデヒトニス……、あぁもう長いな。ゲデ君でいい? いいよね? うん、それでゲデ君の勝利条件は後ろにいるユキちゃんを守りながら敵を排除すること。相手の目的はゲデ君の後ろにいるユキちゃんを排除する、もしくはこの場から撤退するのどちらか。
(目標設定、完了。)
つぐみによって開発された思考回路とそのボディ、マスターから『そろそろボディ更新しないとね』と言われている、つまり型落ちのボディになるがその性能はピカ一。そんじょそこらの企業及び研究機関では作れない一品である。
自身の姉に当たるイヴに教わった48794の教え、その一つである『はじめてのせんとう』を自身の思考領域で開くゲデ君。ページをめくるごとにイブの音声が再生される優れものだが……、今回は緊急時のため再生しない。
【その1、まずはてきをよくみよう!】
ゲデ君にとってはどんな言語も現在確立している言語であれば解読可能、漢字も英語もすらすら読める。それをイヴも理解しているはずなのだが彼女から教わった教え、そのすべてがひらがなで表記されている。人間であれば何とも読みにくい限りであるがゲデ君はAI、何の障害もなく読み進め、行動を開始する。
(襲撃者は合計で6名、一般人の目がないため隠蔽は可能。そのため殺害も許可されている。さらに上階に上がろうとする敵が3名、またこちらを攻撃しようとする敵3名。)
ゲデ君は彼の思考領域で教えが書かれたテキストのページをめくる。自動的に音声が流れそうになるがもちろんカットだ。
【その2、まわりをよくみよう!】
書かれたとおりに辺りを確認する、現在地は37階の廊下。他の部屋に続くドアは閉まっているため細長い密室になる。またエレベーターは無理やりこじ開けられており、また乗車する箱は最上部にて停車しているため、そのスペースを使いロープなどの道具を使って登攀してきたと考えられる。
(エレベーターの権限は……、使用可能。)
本来はイヴによって管理されているが現在はスーツのサポートを行っている。そのため権限が放棄され部外者以外にはそのロックが解けないようになっていた。……が、ゲデヒトニスは身内である。
【そのさん、ぶちかませ!】
(なるほど、ではそのように。)
その3の教えを忠実に守るゲデ君はこれまでの一秒にも満たない思考を纏め、行動に移す。まず最初はエレベーターの電源を落とし、その箱を自由落下させる。
このエレベーターは地下まで合わせて50階分、高さにして250mほど。その高さから鉄の塊が自由落下してくるのだ。本来なら事故を防止するために速度を緩める機構などもついているのだがすでにゲデ君がオフにした。
あとは放っておくだけで人間三人分の肉団子が完成である。
(次。)
残るは眼前の敵三名、自身の後方にはマスターに『守ってあげてね?』と言明されたご友人であるユキ様、現在の彼女の服装に防弾性は期待できないためまず発砲させないこと、射線上に護衛対象者を入らせないことが肝心。
となると接近戦一択。
ここまで、ほんの一瞬。ゲデヒトニスが敵勢力の排除を宣言してから秒もかからず彼は攻撃を開始する。彼の体に仕込まれた武装は存在しない。だがその体の動かし方、注目の集め方、そして人間は鉄の塊に殴られると大体死ぬということは理解している。
自身の登場によって敵の注意は逸れた、後はそれを維持し続けるのみ。
四本の脚部にエネルギーを割り振り勢いよく天井へ飛びつく、この時右方面の脚のパワーを少し弱めることで、すべての脚を天井に、同時に着地させることができる。
相手側も訓練された身、すぐさまこちらに向かって発砲を開始するが既に計算済み。こちらのボディの虚弱部分は関節部とメインカメラのみ。それ以外は体で受けても問題はない。
そして、天井に着地した瞬間そのまま地面を蹴る。こうすることで軌道変更と、速度の上昇。目標は敵の一人、その頭部。攻撃方法は、かわらわり。
中型犬ほどの大きさの鉄の塊が全速力で、そして体重をかけてのかわらわり。いかに相手がヘルメットを装備していたとしても耐えられるものではないだろう。少々彼の脳みそが愉快なことになってしまったが……、ヘルメットがうまく機能して中身が出てしまうという事件は防がれた。
(残り二人。)
次、かわらわり後の着地からそのまま左足二本を使い足払いを敢行する。が、しかし二人同時を狙ったつもりだったが片方には後ろに飛び去ることで回避されてしまった。
が、失敗すれば次の策を考えればいい。運がいいことに後ろに飛んだ彼の後ろにはドアが開かれたエレベーター。そしてここは37階、彼らの後ろを守っていたはずの残り三人は上から落ちて来た箱に踏みつぶされている。
ゲデ君は足払いに使わなかった右足にエネルギーを回し勢いよくジャンプ、もちろん目標は後ろに飛んだヒドラ君、あとはさっき天井を蹴った要領でこの敵さんをエレベーターに叩き込めば紐なしバンジーの完成。楽しんでいただければ幸いですね?
最後の一人はすでに転倒中、パッと着地して近づいて。ぽかりと頭を殴れば状況終了なわけでございました。
(状況終了。)
「う、うわぁ……。すご。」
『お怪我はありませんかユキ様。』
なんかよく解らない敵に殺されそうになったら、つぐみのペットロボットだと思ってた存在に助けられました。しかもほんの数秒の内に敵がバタバタと倒されたし、奥のエレベーターの中にいた三人が籠に押しつぶされながら下に落ちて行ったし……、えぇ……。
「あぁ、うん。私は大丈夫、ゲデヒトニス君は? すっごく撃たれてたけど大丈夫なの?」
『私の本体はデータベース内にて保管されているため問題はありません、またボディの方も少々へこんだ程度です。御心配には及びません。』
「そ、そっか。……もしかして殺しちゃったの?」
『はい。』
殺したが何かあったのだろうか、そんな疑問を感じさせるしぐさをしながら、何でもないように答える彼。つぐみの作った子達には感情がある、この目の前にいるゲデヒトニス君はそれをしぐさで表すように設計されていると聞いた。
……たぶん、彼にとっては。いやつぐみにとっては命を奪うという行為は。
「ううん、大丈夫だよ。君が助けに来てくれなきゃ私死んじゃってたからね。……ありがとう。」
そう言いながら、震える手を抑えながら、彼の頭をなでる。嬉しそうに眼を細めるこの子の様子を見ているとさっきまでの光景が嘘みたいに思える。
支えてあげれてる、そう思ってたのは私の間違いだったみたい。
こんな状況を私は一度も見たことがない、隠されていた。いや私が見ないようにしてくれていたんだ。いらぬ恐怖を覚えないように。ただ安心を、安全を享受できるように。守られてたんだね。
この腕の震えは恐怖じゃない、自分の愚かさ、惨めさ、そして無力であること。支えてると思っていたのが守ってもらっていた、隣に立ちたいとずっと思っていたのに守られている現状に私は満足していた。許せるわけがない。
この震えは自身への怒りだ。
ずっと、小さいころからずっと助けてもらってた、守ってもらってた。
それじゃ、駄目なんだ。
いつの日か並び立ちたい。彼女と対等になりたい、これまでの感謝を返したい。
そこにいるだけでいい、優しい言葉を投げかけてもらって満足する私。そんなのはもう見たくない。
私も、私だって、戦える。戦って見せる。
今はまだ彼女に守られる存在でも、進まないといけない。停滞なんかイヤなんだ。
『あ、ユキ様。お褒め頂くのはありがたいのですが避難を。この階は旅客機の推定衝突圏内でございます。』
「…………ゲデヒトニス君、私のワガママ。聞いてくれる?」
「Mark2のある場所を教えて。」