「……っと、まぁこんなところか。じゃあ復習としてさっきまで話した内容。俺に説明しなおしてくれ。」
ハイツレギスタの本社ビル。今回の襲撃で被害の出なかったフロア、そしてイヴや警備部門の人たちが安全を確認してくれた会議室の一つで私は授業を受けていた。
講師はウチの警備部門のトップにして、つぐみが総長をしているらしいファイアボールという組織のNo.2である石井さんだ。つぐみもだけど明らかにカタギじゃないなぁ、って思ってたら本当にカタギじゃなかった人です。
それで内容はつぐみの組織であるファイアボールと、敵対しているニンジャ組織ザ・ハンドについて。私が戦いに手を出したため知るべき情報を急いで詰め込むためにつぐみがお願いしてくれたわけだけど……、うん。やっぱり量が多い。
「えっと……、まず『ファイアボール』について。大宙つぐみことドロッセルを頂点としたヤクザ主体の組織でハイツレギスタを隠れ蓑とするヤクザ集団。構成員は約8000ほどで大半が戦闘要員、一部開発や後方要因がいるけどみんなが一定以上の武力を保有する国内最大の非合法武装組織。」
つぐみ、というかイヴがほぼ管理を行っていて、敵対する組織は全体像がいまだ見えないニンジャ組織である『ザ・ハンド』、いくら倒しても全く人員が減った兆しが見えないため、ニンジャは霞から産まれているのかと錯覚するほど。
現在日本における勢力図としては中部、近畿、中国においてはほぼファイアボールの支配下。東北及び北海道はややこちら優勢。関東・四国・九州においてはニンジャ優勢みたい。
……正直裏の世界でこんなにもドンパチやってるとは思わなくてすごく驚いている。私たちの住むこの国の安全はすべて幻想にすぎず、つぐみや石井さんが色々苦労しながら事が表に出ないよう隠蔽しているおかげで平穏が保たれてる。みんなが苦労している間に私はぼんやりしながら日常を送ってたわけだ。
踏み込もうと思えば出来たはずなのに……、過去の自分が本当に嫌になる。これから頑張って取り返さなきゃ。
「よしそこまでは大丈夫だ。ならザ・ハンド、その組織の起りは?」
「えっと……。」
たしか……、もともと彼らは400年前の戦国時代で活躍していた忍者たち。それが江戸幕府が出来たことで忍者自体の仕事が減少及び変化した。そして幕府に歯向かう藩がその者たちを悪用しないとは言い切れないため幕府によってすべての忍者が整理され組織化された。
それが『手』と呼ばれる集団、将軍の御威光を日本各地に届かせるために自分たちが将軍の手の代わりになる。それが『ザ・ハンド』の始まり。
そこから時代は流れ明治に。江戸の時代が終わりを告げ、将軍の手は必要がなくなる。社会の形も変容したことで存在意義を失いかけた忍者たちはその高い身体能力と隠密能力を駆使するために裏の社会に溶け込むことになった。常人よりも明らかに強い忍者たちはどんどん勢力を拡大し、商いを始めていく。
第二次世界大戦が終わったころには社会の動乱に付け込んで日本のみならず世界へも進出。忍者ではなくニンジャに変化した彼らは唯一抵抗していた大阪を除き日本のすべてを支配下に置く。それと同時に世界中でビジネスを開始した。
「あとは大阪も敵の支配下に置かれそうになった時、ツグミが来て形勢逆転。あとは彼女の遊撃性を生かしながら各地を襲撃。ニンジャの支配下に置かれていたヤクザとかを吸収して今に至る……、合ってる?」
「おう、大丈夫だ。さすがお嬢が見込んだだけある、呑み込みが早くて教えるのに苦労しねぇや。」
「え、えへへ……。そうかなぁ?」
あんまりそういうところを褒められても、身近にもっとすごいというか異次元レベルの親友がいるからそこまで喜べないなぁ……、と思いながら愛想笑いを返す。つぐみは一を聞いて十を知るじゃすまないからなぁ……、『私なんか全然。』とかよく言ってるけどそれは比較対象がノーベル賞を片手間で取れる天才たちに囲まれてるからだと思うよ。ほらトニーさんとかバナー博士とかそういうの。
そんなことを考えているとバタン、と扉が蹴り開けられる音がする。その方に振り向くと私の親友が扉を蹴り開けていた。……なにか失敗したみたいで膝を痛そうにさすってるけど。あと後ろに心配そうに主人を見上げるゲデヒトニス君。
「ッ~~~~!!! あぁもう! スーツの時の癖でやっちゃったじゃん! 痛い!」
『変にカッコつけようとするからです。……あぁゲデヒトニス。おバカなマスターにその優しさとばんそうこうは必要ありません。大事にしまっておきなさい。』
「あ~、大丈夫つぐみ?」
すこし大げさに痛がりながらこちらに寄り、隣に座ろうとする彼女をいたわりながらそう問いかける。天才ゆえの定めなのかは解らないけどたまに彼女はこういうことをする。まぁそれはいいのだけれども何かあったのだろうか? 会見から帰ってきたときにはスーツの修理や改造をするって言ってたけどもう終わったのかな?
「うん、大丈夫大丈夫。……あ、そうそう。ユキのスーツ設計終わったら見せに来たんだけど……。」
そう言いながら壇上に立っていて教師役の石井さんに視線を送る彼女。石井さんはすぐに頷いてその場を離れ、私たちから見て向かい側の椅子に座る。どうやら彼もどんなのか気になるみたいだ。
「ほい、じゃあスクリーンお借りしまして、っと。」
彼女が手を一振りすると会議室の電気が消され、スクリーンにスライドが投影され始める。この部屋はホログラムの装置がなかったみたいでちょっと昔風の説明会だが、語られる内容は最先端だ。
「じゃ、まず全体像から。」
映し出されるのは水色のスーツ。濃い青がアクセントになっているスーツ、おそらくさっきの事件で私が勝手に着たMark2を改造したものだと思う。Tailは8つ付いていて……、肩幅が大きくなってる。というか肩パットなのかな? バブル時に流行った奴みたいに主張はしていないけど装甲が追加されている。
あ、違う。膝や肘、あとアキレス腱や腕にも装甲が追加されてる。これ全部サポーターみたいなものだ。
「そゆこと、ユキは実際にまだ戦闘したことないでしょ? 運用方針としてはある程度慣れてくるまで後方拠点防衛だけだけど、いつ攻め込まれるか解らないからね。今後も考えて追加しました。」
まぁAIのサポートもあるから全く戦えない訳ではないんだけどね~。今全体で見れば余裕あるし後進の育成が出来る状態だからじっくり経験を積んでいってくださいな、っとそう続けるつぐみ。……私としてはスーツがあれば、すぐに戦えるつもりだったけど確かにすぐ死んでしまったら意味がない。私は“ずっと”彼女を支えたいしトップである彼女が育ててくれるというならそれに従うのみ。
「あと武装としたら元々ついていたバスター・ランチャーを新型に換装、ガトリング砲と私用頭部ユニットを入れてたTailは撤去してドローン格納用のものに変えといた。コンセプトとしては私と同じ強力な個でありながら面での制圧が可能になるように、って感じかな?」
スライドは次に移り、ドローンが格納されるらしいTailが映し出される。Tail一つに付きアークリアクターが一つ使われたドローンが2基。このTailが四つあるから合計でドローンは8つ。
しかもこのドローン最近おもちゃとして売られるようになった簡単な作りの奴じゃなくて軍事用の奴だ……、作りが凄くゴツいし武装も過激だ。あ、対ニンジャ用って書いてる。……つまり小型ミサイルとかマグナム弾みたいな口径の弾丸を連射できないとニンジャって倒せないってこと? ほんとに人間なの???
「ちなみにこのドローン、スターク社からライセンス買ったものを軽量化・小型化したやつだから性能はお墨付き。操縦も基本ユキ専用AIがしてくれるから安心安全ってわけ!」
「……あ、そうだ。さっきもちょっと言ってたけど私のスーツにもAIさんがついてくれるんだよね? ゲデヒトニス君がサポートしてくれるの?」
そう言いながら後ろで立っていたゲデヒトニス君をこちらに呼び、膝に乗せる。結構重いけど耐えられないほどじゃないし、彼の人懐っこい犬みたいな性格は結構癒される。
「それなんだけどビビデバビデ君はできたらしたくないんだって、その体が結構気に入ってるみたいだし戦うこと自体があんまり、って感じみたい。まぁイヴの教育の成果かな?」
話の邪魔をしないように、だけど自身の意思を伝えるために膝に乗せられた彼は私の方に向き直り頭を下げた。うん、気にしなくていいよゲデ君。あとつぐみ、いい加減名前間違えるのやめてあげたら? 普通に言えるでしょあなた。
「? つぐみちゃんわかんない? ……ま、ということで私のAIシリーズ三人目が必要となったわけで。イヴの戦闘データとかそこらを複製して新しい人格を用意してるところだから待ってね? ちょうど今改造中のMark2が出来上がる頃には成立してるだろうから……、明日の朝までお待ちくださいませ~。」
と、言うことらしい。私の相棒はまだ生まれてもない様子。……まぁ焦っても仕方がないしスーツの完成も明日の朝。それぐらいだったら誰でも待てる、大人しく石井っちに教えられたこと。さっき復習していた基礎知識だけじゃなくて戦闘で使う武器の扱いとか陣形とか部隊運用とかそういうのをもう一度おさらいしておくとしよう。
「あと、最後に。」
つぐみが纏う雰囲気が変わり、彼女の前まで手招きされる。私もそれに当てられ、緩んでいた気を引き締め直した。目線は向かいの彼女に、その手にはポケットから取り出された……、ドッグタグ。
「ユキのもう一つの名前、……ホントはスーツと一緒に渡した方が良かったんだろうけどね。早めに渡させてもらうよ。」
手渡される二つの金属片、戦場で自身を証明してくれる証。
「……ユミルテミル、それがあなたの名前。」
「ユミルテミル……。」
聴いたことのない名前、つぐみの性格から考えてドイツ系の発音じゃないってことは多分神話から持って来た名前だと思う。それが何を表していて、そして何の思いを込めて贈ってくれたのかは解らないけど……、うん。気に入った。受け渡されたタグを手の中で転がしていると、私と言う存在にぴったりとハマったような感覚で満ちていく、いい名前なんだろうね。それになんか響きが可愛いから好き。
「勝手に決めちゃったけど大丈夫だった?」
「ふふ……、正直に言えば一緒に考えてほしかったけど……。気に入ったよ、ありがとう。」
「あはは、そりゃ安心。……おっと ニムニム 言うの忘れてた。」
何故か ニムニム 言い出したつぐみを放っておいてさっきまで座っていた席にもどる。するとゲデ君がどこから取り出したのかチェーンを用意してくれていた。これでタグを通して首に掛けとけってことかな。なんかミリタリー的だし結構好きよ、こういうの。
「ニムニミ、ナムナム、ニミニミ、ナフナフナムナム???」
『マスター! マスター! そろそろその謎言語から帰ってきてください! あとなぜそれほど意味不明なのに私のフォルダ内に一種の言語として登録されているんですか! ねぇ、マスター!!!』
「……ナムナム。」
『だからナムナムって何!』
……あはは、イヴちゃんもだいぶ人間っぽくなったし。私のパートナーもそうなるのかなぁ?
『マスター、こちらを。』
「ん? どしたんイヴ。私そろそろ眠ろうかなって思ってたんだけど。ユキが一緒に戦ってくれるって言ってくれたおかげで今日はよく眠れそうなのだぞ?」
『それは素晴らしいことなのですが、ヒドラ。……いえ正確にはヒドラと同様の装備に身を包んだザ・ハンド構成員が所有していた持ち物にUSBを発見しました。』
なるほど、いくらヒドラだってバカじゃあない。いやアホかもしれんけど、一応あいつらだって裏の社会を戦い抜いてきた組織でS.H.I.E.L.D.に多数のスパイを送り込んでる組織だ。わざわざ死ぬかもしれない末端の戦闘員がそんな大事なデータを持っているはずはない。つまりニンジャからのリークってこと。
「……内容は?」
『現在国内で活動している全ヒドラ職員のデータおよび現在捜索中でしたザ・ハンドの本拠地の位置情報、また正確な内部構造データです。』
「…………はぁ。明らかに罠じゃんか!」
『ですがスタークインダストリーとの業務提携及びS.H.I.E.L.D.との対外星人装備開発で日本にやってきたヒドラ構成員のすべてがリストアップされています、またそれ以外にも我々が見落としていた人物すら書かれています。』
「イヴ、裏は取れてるの?」
『構成員のパスポートなどに於いて偽装を確認済み、また本拠地のデータも衛星写真に写らない空白地帯です、越権行為になるため人員を派遣しての確認は出来ていませんが信憑性は高いかと。』
感想・評価・お気に入り登録。
是非よろしくお願いします。