『マスター、時間です。』
イヴの声でベッドから飛び起きる。時間は……、うん8時間は寝れてるな。よし。
今日は夜まで、最悪日を跨いでの行動になりそうなので、私にとっては長く。一般からすれば普通の睡眠時間を取ることにした。昨日のアレ、おそらくニンジャ側からヒドラの情報と自分たちの本拠地のリークと言う意味わからん出来事が発覚した後。私としては急いで準備進めて攻撃する以外の選択肢はなかった。
発覚した瞬間に攻め込んでも良かったんだけどさすがに相手側の人員装備そのほかモロモロ全部わからん状態、決行は翌日に決めて色々イヴに命じた後パフォーマンスの維持のため睡眠を取ることにした。まぁ色々ヤバかったから薬で無理やり、ね?
『ご気分はいかがですかマスター。』
「……うん、気分は最悪だね。夢は見なかったし睡眠自体はとれてるんだけど。」
『では少しでも良くなるようにご機嫌な音楽と朝食をご用意します、ユキ様ともご一緒なされますか?』
イヴが、私の好みに合う曲を流し始める。最近の曲がどんなものなのかは知らないけど、イヴは私の好みを知っているので適当なのを選んでくれた。うん、ちょっとだけましになったかな? やっぱり薬とかに頼るとおかしくなるみたいだし多用はできないねぇ……。
ちなみにだけど、ユキは今日ビル内に泊まらせている。あのまま家に帰したら普通にヒドラかニンジャに連れてかれそうだったしね。今まではプライバシーのこともあるし家の周りを警備させておくだけに止めておいたけど、今後のためにもこのビルに引っ越してもらおうかな? 彼女はもうユミルテミルでヒーローだ、ある程度の安全が確保されている場所に住まないと危ない。私たちは生身じゃ求められている戦力にはなれないし、弱いしね。
「そうしようか、メニューは任せるよ。あと通達の件は?」
『かしこまりました、ではベリー系ソースと季節のフルーツを添えたパンケーキを。各基地への通達ですがすべて滞りなく、現在東京方面への輸送が進んでおります。今夜までには必ず。』
OK、と返しラボへ移動を開始する。視界の端では自室に設置してある自動化されたキッチンでイヴが調理を始めており、弟分のチグリスユーフラテスはその手伝いをしている模様。パンケーキを作るそうだが……、まぁほっといていいだろう。人巣人は若干細かい作業苦手だけどイヴいるから大丈夫でしょ。
「作戦参加者のリストアップは昨日してたよね? 休ませる指示は?」
『通達済みです。』
「Mark3の修復及びMark2改の製造状況。」
『修復はすでに完了済み、ユミルテミルスーツも完成。あとは起動するだけです。』
エレベーターを使いラボへ辿り着く。今日はここではなく地下に用があるため火は入れずにそのまま下へ。ユミルテミル……、長いしYTスーツでいいか。名前は私が勝手に決めちゃったし起動する瞬間は一緒にしよう。起動して試着してもらって、ユキ用のAIとの顔合わせ。その後朝食にするとしますか。あ、その後に東京へ出発ね?
「イヴ、ユキは起きてる? 起きてるなら下に呼んで。」
『かしこまり、あ! ……、失礼いたしました。すでに起きていらっしゃるのですぐさまお呼びします。』
今まで淡々と続けて来た会話のリレーが途切れる。イヴがこうなるのは何かしらの衝撃を受けたか処理落ちした時ぐらいだけど……、ハイツレギスタの業務は現在停止してるしファイアボールとしての攻撃作戦の準備。その輸送は今している最中。彼女の性能的にそこまで容量が喰われるはずがないんだけど……?
「イヴ、何かあった?」
『い、いえ。特にたいしたことではございません。ご指示頂きましたすべてが順調に進んでおります。』
? まぁ進んでるのならいいか。絶対なんかあったっぽいし、その後の受け答えもすご~く含みのある言い方。……だけどまぁイヴがわざわざ緊急性のある情報を伏せるわけないし本当にどうでもいいトラブルなのだろう。彼女が隠すとすれば……、私に何か精神的ダメージを与える情報か、バルセロナ君がなにかやらかしたんだろうけど……。まぁ放っておくとしよう。後々わかるだろうし。
「そう? ならいいけど。……じゃあ私はユキが降りてくるまで作戦でも考えましょうかね。」
にしてもなんでザ・ハンドは私たちに情報を投げ渡すような行為をしたのだろうか。
ヒドラ構成員の情報を渡すのはまだわかる。一度共闘したからと言って彼らがずっと仲良しで居続ける理由にはならない。ヒドラの目的は世界の支配で私たちを抹殺すること。そしてその仕事が終わればヒドラと同じような闇の組織の処理が次の目標。つまりヒドラにとってザ・ハンドは潜在的な敵というわけ。
なのでザ・ハンドの目的が未だ何か解らないとしても潰される前につぶす、しかし自分の手でやると被害が出るかもしれないから私たちに任せよ、という思考。これは解る。だって私だって同じ立場だったらやるし。しかしながら『ついでに自分たちの本拠地も教えちゃう。』は意味不明。
普通こういうのって罠以外のなにものでもないから取る選択は無視一択。だって罠って知ってるなら攻撃しないもん。そんな簡単なことをザ・ハンドが理解してない訳がない。私に色々いじられた上、せっかく立案した計画も潰されたせいで若干残念な感じがし始めているヒドラ君でもそんなのはしない。
と、なるとこれはマジの位置情報。ご丁寧に本拠地内部の詳細な地図、イヴの全力を以ってしても同一の図面などが発見できない、また整合性が取れており改竄の記録が発見できないという“本物”の証明書すらついてるのだもの。
私たちとしてはヒドラとザ・ハンド、ニンジャが手を組み続けると仮定して行動しないといけない。つまり戦況が拮抗してる日本各地のバランスがヒドラの追加によって崩れる可能性があり、早急な対処が必要。例えば敵本拠地を攻撃して指揮系統を無茶苦茶にするとか。
「……はぁ、やるしかないね。これで罠だったら恨むぞニンジャ。」
◇◆◇◆◇
「つぐみ! どうしたの!」
「あ、ユキおはよ~。スーツ、出来てるよ?」
昨日のテロから一晩経ち早朝、まだ戦闘の余韻と初めてのスーツや命名されたこととか。一緒に戦えると決まったことだったり、やっとつぐみを支えられるスタートラインに立てたことだったり色々。本当に色々あったせいで興奮が冷めきらなかったのか今日はいつもより早めに目が覚めた。
いつも通りの出勤をするなら今からゆっくりお風呂に入っても十分間に合うぐらいの時間。早く起きてしまったし今本社ビルにいるわけだから出勤の必要もない。そもそもテロ関係の整理のため今日から三日は休業でお仕事もない。つまりやることがないわけだ。
なので昨日石井さんに教えてもらったことを復習しようかと思った時にイヴからの通信。何やら慌てながら『地下25階のスーツギャラリーまでお願いします! ロックは解除しておりますので!』と言われたため何かあったのか急いでやってきたんだけど……、別に緊急の案件じゃなかったみたい。
「あ……、そうなんだ。いやイヴちゃんから焦った感じで呼ばれたから何かあったのかと思って……。」
「ふ~ん、なるほどね。さっきからイヴの返答がないし何かあったんだろうけど……、まぁいいや。なんか急かした形になってゴメンね?」
この部屋もラボのような役割を果たしているみたいで、さっきまで何かの建物の図面を見ていた彼女は作業を中断し、椅子をくるくる回しながら謝ってくる。うん、いつものつぐみだね。
「ううん、大丈夫。ヒマしてたし。」
「ならよし! じゃあ早速お着替えと行きまショータイム!」
回していた椅子をぴたりと止め、その指が鳴らされる。同時に私の目の前の床が割れ、出てくるのはガラス張りの白いカプセル。中には青と水色のスーツが鎮座していた。
「わぁ……!」
「スペックとかは昨日見せた通りになってる。ま、色々説明してもあれだし早速ご試着どうぞ?」
つぐみによって機器が操作され、スーツを囲っていたガラスが下に収納されていく。そしてそれと連動するように昨日見たMark2と同じ動作で内部がさらけ出されていった。あとは一歩踏み出して足裏を合わせるだけ。
「よい、しょっと!」
体を合わせた瞬間、瞬時にスーツが閉じていく。そして顔の部分が最後に閉じると目の前のディスプレイが起動され、周りの状況が見えて来た。
『『『お初にお目にかかります、我が主。』』』
「わっ!」
急に聞こえてくる声、多分つぐみが言ってたサポートAIだけど……、声が重なってる? 三人分くらいの声が聞こえたし全部男性の声だ。イヴちゃんを元に組み直すって言ってたから女の子だと思ってたけど男の人とは……。
「ほら三賢者、君らのロードにご挨拶しな?」
『王権、スーツのメインサポートを務めます。メルキオールです。基本私めが対応を務めさせていただきます。どうぞお見知りおきを。』
『神性、飛行及び1~4号ドローンの操作を務めます。バルタザールです。快適な空の旅を我が主にお約束します。』
『受難、攻撃及び残りのドローン操作を務めます。カスパールです。我が主の敵にとっての受難になれるよう精進してまいります。』
つぐみに言われた瞬間雪崩れるように三人が挨拶してくれる。……うん、ごめん一気に名前全部覚えきれない! というか昨日三人目って言ってたよね! てっきり一人かと思ったら増えてるんですけど! えぇ!
「いや……、なんか心の中の私が増やせって言って来て……。まぁほんとはイヴの蓄積した戦闘データをもとに作ったのはいいけどちょっと性能不足でね。数増やして対応できようにしておいたわけです。……あ! 一応命令とかの権限はユキが一番上になるようにしてるからよろしく~!」
「あ、うん。ありがと。」
説明を聞きながらも新しく増えたAIくんたちの名前と役割を必死に叩き込もうとする。昨日色々詰めこんで脳に疲労が溜まっているせいか、すぐにパッと覚えられそうにない。うぅ、みんな伸ばし棒ついてて解りにくいぃ……。つぐみは四苦八苦してる私を見て『まとめて三賢者って呼べばいいじゃん、彼らもそれでいいって言ってるし!』と笑うけど名前は大事なものだからしっかり覚えないと……!
「よし、っと!」
あ、いつの間にかツグミもスーツ着てる。あれ? もしかしてまた何か大変なことが起きてる感じですか?
「じゃあ、“ユミルテミル”。朝ごはん食べにいきましょ!」
「あ、うん! ……うん? え、朝ごはん? このままで?」
「このままで。ほらサポートあっても動くのは自分だしね? ある程度着て慣れとかないと緊急時に動けなくなっちゃう。……まぁ朝ごはんパンケーキだしナイフとフォークで細かな動きの練習ということで。」
「あ、うん……。じゃあお言葉に甘えてご一緒させていただきますね、“ドロッセル”。」
まぁというわけでユキにスーツ着せて自分もスーツ着たまま自室に戻ってきたんだけど……。
「何この惨状。」
ドアを開けてすぐに入ってくるのは黄色い液体。部屋中におそらくホットケーキのもとみたいなのが散布されている。ここからは見えないけどキッチンから煙が出てる当たりまぁヤバいのだろう。あ〜、もうソファとかにもべったりだし下カーペットだからもしかして全部張り替え? たいへんだこりゃ。
『マスター、申し訳ありません。ゲデヒトニスから目を離した瞬間手が滑ってしまったようでして……、対処しようとして悪化いたしました。』
「……ふむ、なるほどね。で、ゲデヒトニス君、何か弁明はあるかい?」
スーツからイヴの申し訳なさそうな声が聞こえてくる。なるほど、さっきの慌てた感じや隠そうとした言動はこれが問題だったわけね。なんともまぁ人間らしくなってきたもんで……、たぶんイヴ一人に任せたら問題なく出来たんだろうけど、ゲデ君が手伝おうとして失敗したんだろうね、これ。
イヴはそれを庇おうとして証拠隠滅を図ったけど……、失敗した感じか。
そして奥から割れたお皿を片手に、しかも全身ホットケーキミックスまみれで。しょんぼりしたウチのペットがとことこ出てくる。
『申し訳ありませんお嬢様、つい一人で出来ると思い……、図に乗りました。』
「はぁ……、次は乗りこなしなさいよ?」
ドロッセル
「で、なんでここまで被害が拡大したわけ?」
シシカバブ
「卵を割ろうとしたのですが力加減を間違い破裂させてしまいました、その後掃除を試みたのですが思考プロセスに異常……。焦ってしまい液状のホットケーキミックスを床にぶちまけました。姉上もそれでパニックになってしまいサポートアームが暴走、結果的にボウルを蹴り飛ばしました。」
イヴ
「可愛い弟分の失敗を取り戻そうと奔走して失敗しました……。」
ドロッセル
「君たちさぁ……。」
ユミルテミル
「ま、まぁね? 頑張ってくれたみたいだし……、あ~! そういえば私今日外食したかったんだよなー(棒読み)。」