お気を付けて行ってらっしゃいませ。
城内をウチの子達が引っ掻き回してくれてるおかげか、飛び上がり最上階に侵入しようとしても銃弾の一つも飛んでこない。元々の作り、この山城の本丸が建設されたのが戦いに空を考えなくてよかった時代なのか、最上階には簡単に侵入できる。ベランダみたいなところあるし。
ある程度近代化補修はされているが、シールド頼みだったのかリパルサーで簡単に引き剥がして内部侵入。金箔であしらわれた襖を蹴り飛ばすと部屋の中は畳に襖の日本的広場。家具らしいものがないフリースペース。
「わぁ。すごいねここ。タイムスリップしたみたい。」
「確かに江戸あたり、住居としての本丸みたいだよね。……この襖、絵が描いてあるしお値打ちものか?」
『芸術的価値は解りませんが金の総量だけである程度の金額にはなるかと、また生体反応ですが最上階で発見できたのは一つのみです。』
ブースターを切り畳に足を付ける私たち。お行儀を考えれば靴は脱ぐものなのだろうけどこちとら全身スーツですからね。お許しを。にしても反応は一つだけか、アニメや映画とかだったらラスボス君がいるんだろうけど……、マンダリンルートとかないよね? 役者さんだったっていうオチ。
「ま、とりあえずお話だけでもしますかね? 本物だったらいつも通り私刑で!」
「……その“し”が何かは聞かないからね。」
そんな軽口、私がふざけてユキが返す。そんなことを繰り返しながら目的地まで進む。生体反応がなくても謎の忍術でアンブッシュとかありうるし気を付けながら進むんだけど……、何もなし。
正直ちょっと拍子抜けを感じながらもあと襖一枚開ければ目的の、おひとり様のところというところまで辿り着いてしまった。この先は私たちが突入した反対側のベランダのようなところ、反対から入った方が良かったかな? ゲームならばここら辺にセーブポイントがありそうなものだけど、現実なのでそんなものはない。スーツの最終確認はこの最上階に侵入する前に終わらせている。
私は、一つ呼吸をし。襖を開け放った。
「やぁドロッセル、久しぶりだね……。4年ぶりぐらいかな?」
(……………、誰?)
おそらく、この時の私の頭の回転率はこの世界に生れ落ちてからたぶん14番目くらいのスピードだったと思う。……え? 思ったより順位低い? バカお前私がアベンジャーズメンバーの事以外について真剣に考えて頭回してあげてるんだぞ? 十分高いよ。
四年前、ということは大体私がドロッセルとして動き始めてファイアボールを結成した時のこと。わざわざラスボスっぽい人がバッチリスーツ着てさ。片手になみなみと赤ワインが注がれたグラス片手に問いかけてくるんだぜ? もう片方のお手手背中に回してさ! バックには奇麗なお月様!
折角悪役が頑張ってくれてるんだ! 私も全力で対応する必要がある! 思い出せツグミ! こいつ誰だ!
『う、上田! 上田じゃねぇか! お前死んだはずじゃ……!』
そろそろ何か喋らないと間が凄くマズくなりそう、って時に響くのは情報共有用にこっちの映像と音声を送っていた石井っちの声。気を利かせてくれたのかイヴがちゃんとスピーカーにしているおかげで相手さんにもお声が聞こえたご様子。素晴らしい悪役的笑みを浮かべております。
(……上田? 上田って……、誰だっけ?)
イヴに手伝ってもらいながら全力で過去の情報を漁る、何とか『ニンジャ側に寝返ったヤクザ!』というデータを発見するが私が重要性低いと勝手に判断しちゃって整理しちゃったデータじゃん……、あぁもう! サルベージするの面倒なんだからね! 私が思い出せないせいでユキもきょとん? としてるし!
完全に置いて行かれた二人をよそに、過去の戦友でもあった二人の話は進む。
「あぁ、その声は石井さんですか。いやはや、お元気そうで何より。新しい職場にも無事馴染めたようで……。」
『なんで、なんでお前が生きて……、いや何故そこにいるんだ!』
「何故? これは面白いことを仰る。私がザ・ハンドの頂点にいるから、ただそれだけの理由ですよ? ……あぁもしかして何かの幻術、もしくは化けているとお考えですか石井さん。相変わらず頭が固いですねぇ?」
え、えっと? 上田……! あ、上田っち! 石井っちが元々所属していた大阪ヤクザ組織の! 石井っちと双璧をなしていた幹部の! その組織が崩壊した後はニンジャにすり寄ってた! 実はニンジャに従ったふりをしていただけで内部から食い破ろうと考えてたけど私が出て来たからおじゃんになった!
あの上田っちか! 完全に思い出したぞ! ……あ、ユキ。これ資料ね。
「これが素の顔ですよ? 最初から、ずっと。」
石井っちの息をのむ声を聴きながら目の前の彼は面白そうに語る。まぁ、顔を変えるぐらい朝飯前なのですがね? といいながら手に持っていたグラスを傾け、飲み干す。
『じゃ、じゃあ……。組に入ったときも……、オヤジとの問答も……、あの戦いの時も……、あの日夢を語った時も……。』
「えぇ、もちろん私ですよ? まぁ中々に滑稽ではありましたね。戦うべき相手に自分から仲良くしてくださって……。そういえば貴方がオヤジと慕うあの老いぼれ、脳卒中による死亡。寿命という扱いでしたが……、まぁ? 語らずとも解りますよね?」
……あ~、ちょっとこれ以上石井っちと話させるのはヤバいかも。通信越しにだけどかなりダメージ受けてるっぽいし無理やり会話に入るか。おっとその前にイヴ、一時的に石井っちから指揮権を剥奪。彼の部下に投げてあげて。ちょっとだけ休憩のお時間ということで。
イヴにそう命じた後、醜悪な笑みを浮かべながらコロコロ笑うその顔をめがけて……、と行きたかったが物事には順序がある。どっちみちこいつはニンジャで敵の親玉、つまり過去に何をしていようが殺すのは確定。じゃけん死ぬ前にたくさん情報吐き出しましょうねぇ?
手を伸ばし、リパルサーを放射。カラになり、彼の手の上で転がされていたワイングラスが砕け散る。
「お話の途中悪いね? 二人で楽しそうに話すもんだからさ……、私も混ぜてよ?」
「おっと、これは失礼いたしました。淑女をお待たせするとは私もまだまだ。まぁ? 血まみれの貴女をそう呼ぶべきかなのかはいささか疑問が残りますが。」
「お口がうまいねぇ? さすが滅亡一歩手前組織のリーダーだ。上が駄目だと組織ごと腐る、いい言葉だと思わない?」
グラスだったものを投げ捨てこちらに歩を進める上田、佇まいからよくいる『学のある悪役』のニオイがプンプンしている。色々聞きたいことはあるけど……、まずはやっぱりヒドラとのこと。
「あぁそうだ。丁寧なご招待ありがと、わざわざパーティの場所送ってくれてさ? プレゼントの方もちょうど今必要だったものだし助かったよ。でもよかったの? 大事な仲間を売ったってさ?」
「それはそれは、お気に召したようで何より。その件ですが大丈夫ですとも、貴方もご存じでしょうがこの世界は利用し利用されの世界。なによりこの国に必要な組織は一つだけですとも。」
なるほどねぇ、テクノロジーの面から見て自分たちが劣ってた部分を補うために私にクソデカ感情を抱いてるヒドラ君をわざわざお呼びして色々提供させた。後は用済みだけど自分で始末するのは手間がかかるので私たちにやらせたってわけね?
「ドイツから来た道理を理解しないタコですから、つい気を抜くと笑ってしまいそうでしてね。耐えるのが大変でした。……お好きでしょう、タコ。」
「モチロン! ほぼ毎日締めてるもん、食べても食べても出てくるからね。最近飽きが出て来たよ。」
「おっと、それは大変ですね。ちょうど今日。生きの良い鶫が入りましてね……、どうです? 楽しく“焼き鳥”なんてものは?」
「なるほど、そりゃあいい! アハハハハハ……。」
「でしょう? フフフフフフ……。」
「でさぁ、一応私も鬼じゃないのよ。さすがにあのザ・ハンドの頭領さんが入る墓が無縁仏ってのアレじゃん? ちょっと死ぬ前に名前教えてよ。」
「おっと、てっきり貴女の事ですから知っているのかと……、私の名前はマツオ・ツラヤバですよ。それと宗派の方はどちらでしたかな? 最近こういうのを間違えると後々面倒になりますからねぇ……。」
楽しい歓談の時間はもう終わりだ。
私が反重力システムを起動し浮き上がるのと同時に、ツラヤバも黒い霧のようなものを発生させそこから日本刀を取り出す。それに少し驚きながらもちょっと遅れてユキも構える。目の前のおっさんと話してたせいで退屈だったのはごめんだけど気を抜いちゃだめだからね?
「おっと、そういえば貴女には頼もしいお仲間が増えたのでしたね。では私も。」
『ッ! 生体反応を多数確認! 囲まれました!』
ディスプレイ表示される赤点、イヴが声を上げると同時に襖が蹴り倒され当たり一面ニンジャだらけ、360度ニンジャだし後続もたくさん、数百のレベル。忍術かなんかで隠れてたか……、あ~あ! その意味わからん力研究出来てたらもっと楽になったのにな! 捕まえてもみんな舌噛み切るとか爆発四散してなんも喋らんし!
「……つぐみ。」
「どしたんユキ、ぽんぽん痛くなった?」
数が数なので背中合わせで相対する私たち。ユキがゆっくりとドローンたちを空に放ちながら私に通信を飛ばしてきた。それをあえて顔を後ろに向けて問いかける。マジでお腹痛いのなら帰ってもいいんだけど、さすがにこの数を一人で捌くのはさすがにしんどい通り越してマズいの領域に入るので出来たら残って欲しい。
「ふふ! もう何も入ってないからむしろお腹減ったかも。だからここにいるみんな私が食べちゃっても……、いいかな?」
「おっ、ユキがそんなこと言うなんて珍し。じゃあ代わりに私は一番おいしそうなやつもらっちゃおうかな? ……食べきれなかったらすぐ呼んで。」
「うん、……頑張ろうね。」
「おうともさ!」
少しでも楽になるように、と。ツラヤバへの牽制も含めて奴に向かって両腕からレーザー放射、何故か刀で防がれるがそれでいい。そのまま腕を横に広げ増えたニンジャの数を減らす。これと同時にブースターを点火しツラヤバへ突撃。
にしてもこのレーザーカッター一応ニューヨーク決戦後に改良したやつだからリヴァイアサンの装甲、チタウリのあの巨大な魚ロボね? それも理論上スパスパ切れるはずなんだけどなんで刀で防げるの? ヴィブラニウム製ですかい!?
◇◆◇◆◇
「とと、手荒い送迎ですね。」
突撃し、彼を担いで城外へ。決戦のフィールドは月明かりが眩しい屋根の上。う~ん、なんか時代劇風な感じなんだけど私テクノロジーで殴るしあっちもたぶん理解不能の忍術で殴ってくるんだろうなぁ……。
そんなことを考えながら私もツラヤバと同じ場所、瓦屋根の上に降り立つ。Tailから取り出すのは最初作ってからあんまり活躍機会が少ないスティック君。ボタン一つでジャキンと伸びる私が持つ近接武器の一つ。携帯性を考えた結果ただの頑丈な棒のままだけど一対一の場面なら使える。例の武家屋敷でのタイフォイドちゃんとの戦いの時みたいにね?
「ふむ、見覚えのある棒ですね……、少々遊びましょうか。」
スティックを展開し、構えた瞬間。声が急に近くなる。
「ッ!」
上、振り下ろし。
腹部のブースターを起動し背後に体をずらすが距離が足りない、イヴの判断で無理やりスティックで流そうとするが簡単に切断される。ッチ、これ私の装甲と同等の硬さだぞ! 接近戦ダメじゃん! バカ!
急いでスティックをツラヤバに向かって投げ捨て、新しいものに取り変えるが相手の方が早い。すぐに攻撃が飛んで来る。装甲が削れるの覚悟でイヴのサポート受けながら右手で受流す。損傷ギリギリ許容範囲内、二回目以降は内部兵器の誘爆の可能性アリ。
二本目を相手に向かって展開し、バネによる刺突を狙うが相手の手のひら。回避から攻撃に転じられ二本目も切断される。同時に回避のため一つ後退。
今度の攻撃は突き、踏み込みが深い。直線的だが今の速度でギリギリついていけてるぐらい、多分避けられない。あ~もう、これだから人外は! 普通のニンジャでさえ人外じみた身体能力なのに全体的にパワーアップしてお届けするんじゃねぇ!
全力でブースターを稼働し膝を曲げ後ろに倒れる。膝関節が悲鳴をあげるが気にしている場合じゃない。一瞬検知できない速度で奴が動き出し、刀の切っ先が私の脳天ギリギリを沿うように掠る。これ以上接近戦は無理、もう少し遅ければ両手掴んでそのまま胸のリパルサーで。ってことも出来たけどたぶんそれを狙うのは不可能。
距離と三次元的動きで何とかするしかない。
重心が傾いたこの姿勢から地面に手を付け支えを確保、そのまま相手の顎をめがけて足を蹴り上げる。突きで相手側も少しバランスを崩していたのか、それとも生身でリパルサーでの蹴り上げを受けるのをためらったのかは解らないが後ろに大きく回転しながら飛ぶことで回避される。
この隙に!
手のリパルサーと背部ブースターで空に逃げようとするが……、やはり相手の方が上手。さっきの回転時に投擲していたのか私に向かって苦無三本。……横に転がれば避けられるかもしれないけど相手の速度を考えたらどう頑張っても最高で近接戦継続、最低で転がって体勢崩れたところに攻撃で致命傷。受ける以外の選択肢はない。
Tailの反重力システムを無理やり起動し私を中心に外側への加重を試みるが勢いは殺し切れない。腹部の装甲を貫き、生じる痛み。だがその代わりに空へ逃げることが出来た。
「ッ! ォラァア!」
初めて装甲を破られた、そのことに焦りを感じながらも刺さった苦無を引き抜き、相手に投げ返す。適当に投げたものだから当たるはずもないが牽制にはなる。腰部の小型誘導ミサイルを追加で投入しさらに時間稼ぎ。
「止血!」
『バイタルチェック及び圧迫止血を行います、戦闘へのサポートが一時中断されますので御武運を。』
「マニューバ指示だけ出して! ランダム!」
『了。』
そこまで深くは刺さってないはずだけど最悪毒の可能性がある、そうだったらホントに腹をくくらないといけない、けど今はまず止血。そして現在フリーになったせいで楽しそうに苦無を投げ始めたあのツラヤバの相手をしないといけない。あ~もう! どっから取り出してるんだよその苦無! なに? 刀の時も黒い靄を出しながら取り出してたけど! 空間系の忍術ですかお前!
マニュアル! Tail1の小型ミサイル対象沈黙まで発射!
出血しながらブレイク、急速回転回避という全身にGを掛ける狂気運動をしながら武装を起動。私の頭部から伸びるTailの一つ、その表面がすべて開かれ発射口に。苦無を打ち落とすのではなく敵に回避行動を取らせるためだけに放つ。
結果は……、案の定全部ハズレ! しかも空中ジャンプとかいう意味わからんことしてるし! なんか風みたいなの出してミサイル同士ぶつけて相殺してるし! 変わり身の術みたいなので当たったと思ったら木にすり替わっていたり! 何それ! しかも避けながら苦無投げてくるし! あぁもう無茶苦茶だよ! 何? チタウリと戦ってた時よりも空中機動が激しいんですけど! Gがヤバいんですけど!
『バイタルチェック完了、身体に問題は見当たりません。毒の可能性もなし、ただ戦闘後然るべき処置は受けてください。それとマスター、操縦を代わります。攻撃に集中を。』
「助かる!」
マニュアルでやるとどうしても飛行が荒くなる、マルチタスクにも限界があるしミスも出てくる。だけどイヴなら大丈夫、頼んだ! ……にしても毒塗ってないとかツラヤバそれでええんか? もしかして『毒で殺すなんかもったいない!』っていうポリシーでも持ってる? そうなら大助かりなんだけど。
「ふむ、さすがにこれだけだと単調で面白くない。今日はこんなにも月が奇麗なのですからもっと空に彩を加えましょう。……まぁ私は少々こういったことは苦手なのですがね?」
苦無が止まったと思ったら今度は手になんかよくわからんエネルギー反応! よく見たら手になんか火の玉とかそういうの出てる! はぁ?
「ちょ! おま! ニンジャだったらなんかこう忍術的なことしろ! ほらカエル呼び出すとか!」
「? これも大ガマも呪術の一種、れっきとした我々が保有する技の一つです。つまりあなた方のいう忍術ですよ? では夜空に花を咲かせましょう!」
◇◆◇◆◇
『全ドローン展開完了しました。』
『ドロッセル様の攻撃により、敵総数500から462まで減少。』
『本丸攻略部隊2階を突破、ご参考までに。』
場所は戻り、城内へ。つぐみがツラヤバを城外へたたき出した時に減らせた数は38名、使用した武装はレーザーカッターという触れれば焼き切れる高威力のものだが、削れたのは一割にも満たない。これは飛距離の問題もあるが、まずニンジャ単体の身体能力の高さが原因として挙げられる。
常人を軽く超越した膂力と速度に裏打ちされた強さ、そして技量。数年間毎夜戦い続けたドロッセルであっても打つ手を間違えれば手痛いダメージを受ける相手、スーツの微かな隙間に確殺の攻撃を届かせるために攻撃者以外すべての命を投げ捨てる精神性まで持ち合わせている。
それが約500。解りやすい絶望とはこのようなものを言うのだな、とユキは頭の片隅で考えていた。
彼女の精神はこの数日間、驚異的な速度で成長している。
元々その素質はあった、幼少期から目に見えない脅威のために準備を進めようとしてきた親友がいる。自身もそうなりたいと願い、努力し、挫折し、新たな道を選ぼうとしていた。しかし土壌は確かに育っていた。後は戦うための力と、環境さえ整えばいい。
ただの一般人から戦う者へ、守られる者から支える者へ。
未だ完成には程遠いが、それでも今この場において必要なものはそろっている。
前を見据える心と、戦うための理由。
足りないのはあと一つだけ。
ほんの少しだけ残った甘え、それを捨てなければならない。
(私は、“ずっと”彼女のそばに。隣に立って、一緒に戦いたい!)
「まずはこれを! 乗り越える!」
自身の勝利条件は目の前にいる敵を殲滅することのみ。時間を掛ければ今階下で攻勢をかけているファイアボールの人たちが助けに来る、もしくはつぐみが早々にあの上田という人を倒して助けに来てくれるかもしれない。
でもそれは駄目、わざわざ一番厄介で強い相手をつぐみに任せてる。私はここにいる敵を出来るだけ早く排除して助けに行かないといけない。役に立たないかもしれないけどそれが私のやるべきこと。
「全ドローン攻撃開始! 離れないで!」
『了。』
展開させていたドローンの高度を少しあげ、自身を囲うように守らせる。それを察知したニンジャたちが攻撃を開始する。接近するものはとりあえず無視、銃弾及び苦無は装甲で受け止められる、避けるべきなのはあの光弾、ドロッセルの言うヒドラ製武器のみ。数は多いけど三賢者のおかげで避けきれないほどじゃない。
両腕に装備されているレーザーカッター、ドロッセルが先ほど使ったものと同じもの。それを起動し両手を広げて回転。赤い光線が円を描いた。
「飛んだ奴を狙って!」
『了、排除します。』
減らせた数はそんなに多くない、さっきのつぐみと同じ攻撃だったせいで上に飛んだり姿勢を下げて避けた敵が多い。でも数は減らせた、上半身と下半身を切断した敵は放っておいて逃げてまだこっちに近づこうとする敵、それを排除しないと。
上は三賢者さんたちが動かすドローンに任せた、手が空いたら手伝ってくれるだろうけど私がメインで倒さないといけないのは下、地上を這う様に避けてそのまま突撃してくるニンジャ。
接近戦、いやそもそも戦闘自体私に経験はない。何をどうすればいいのか解らないけど、どうやればリパルサーが撃てて、どう指示すればAIたちが動くのも解ってきた。
「メルキオールくん!、近接戦のサポートをお願い! 近づけすぎないで!」
『かしこまりました。』
リパルサーをメインにした敵を出来るだけ接近させない戦い方、それを行う。狙いやすい胴体を狙って、放つ。威力はほどほどに吹き飛ばすだけ。後方に飛ばすだけでその体の分だけ射線を考えなくてもいい。
(……少し押されてる、吹き飛ばした方へ。)
数が数だ、未だに刃物への恐怖心からか刀などを持って突撃を敢行するニンジャを完全に捌くことはできない。彼女が避けてしまう“高威力”の兵器が使えない今取れる選択肢は少ない。スーツの隙間めがけて刀などを差し込んでくる熟練者もいるため距離を取る、という選択は正しいが如何せんまだ“足りない”。
距離を取ろうとし、足を動かそうとした時。動かない。
感じた違和感は一瞬にして悪寒へ変わり、視線は足元へ。
其処には生体反応を示さない物言わぬはずの死体が、上半身だけの死体が。切断面からは臓器が飛び出し、動けるはずがないそれが両手で自身の右足を掴み、こちらに笑みを浮かべていた。
『高エネルギー反応ッ!』
閃光、爆発、そしてスーツ越しに解る振動。
吹き飛ばされ地面を転がる、痛みはあるが止まったら殺される。急いで立ち上がり、リパルサーで近づいてしまった相手を吹き飛ばし状況を確認しなおす。ディスプレイの表示を見ながらもその視線はさっきの爆発の地点。
畳が消し飛ばされ穴が空いている、そしてその近くには何かの機械部品が転がっていた。
『右足装甲にダメージ、同じ攻撃は耐えられません。またドローン一機ロスト。』
あの部品はドローンのもの、私に深刻なダメージがいかないように庇ってくれて……、そして壊れた。あの爆発は科学じゃ説明できるものじゃない、三賢者が。つぐみが蓄積してきたデータがそう言ってる。アレはここにいるすべてが出来ること。
血の気が引く。
私はこのスーツに守られている。……でもそれがなくなったら? 今はドローンがかばってくれたけど今度は庇えないかもしれない。あと7機しかいない、運よく庇えても8回の攻撃が来たら? 私は脚を失う、死ぬ。簡単に死ぬ。
覚悟なんか出来ていなかった。
足りてない、圧倒的に足りてない。
生き残るためには、隣に立つには。
血を浴び、過去の私が悲鳴を上げたとしても。
殺さないと、壊さないといけない。
自分を、書き換えろ。
つぐみは『確殺しないと危ない。』って言っていた、手負いの奴だって確実に殺していかないとダメなんだ。
最後のピースが、嵌る。
Tailに内蔵されている対人用のミサイル、そのすべてを起動し吐き出し続ける。数が、数がいる。攻撃の手数が。確実に殺せればそれでいい、でも私にはその感覚が解らない。つぐみは毎日戦い続けたから線引きも解るだろうけど私からすればすべてが未知。
分身して増えた敵、身代わりで逃げた敵、放電したり火の玉を飛ばしたり、苦無を投げたり銃器を使ったり、刀だったり鎖鎌だったり槍だったり。全部が全部未知の敵、多種多様で数もたくさん、誰をどこまでやれば確実に死んでくれるか解らない。
やっぱりツグミは正しかった。頭を吹き飛ばせばいい、胸を貫けばいい、バラバラにしてやれば絶対にもう動かない。忌避感なんか覚えてる場合じゃない、やらなきゃやられる。なら徹底的に殺さないと。
リパルサーの照準はしっかりとその頭部へ、ニンジャだって人間のはず。ならそこを吹き飛ばせば死ぬ。人間じゃなければ全部壊せばいい、ニンジャという生物ならば全部肉片に変えれば何もできない。
頭、消し飛ばす。胸、くり抜く。体、切断する。
彼女が求めるのは速度、ゆえに無駄を排除し、合理化し、機械化する。
ユミルテミルの着るYTスーツ、それはドロッセルのMark2を改良したもの。その利点はTail8本分のエネルギーと大量に搭載された武器弾薬。元々どれだけの数が来るか解らないチタウリ対策として開発されたスーツだ。たかが500程度、チタウリよりは強いかもしれないが、たかがニンジャごときにやられるわけがない。
唯一の懸念として装着者の精神問題があったが……、それはもう過去の話。
遠距離はドローンが打ち抜き、中距離はユミルテミルによって死を迎える。運よく近づけたとしてもそれはただ死が近づいたのみ。リパルサーで吹き飛ばされ、レーザーで焼き切られ、ミサイルで吹き飛ばす。ユミルテミルだけではなくドローンだって攻撃を行う。
殲滅にはそう、時間はかからなかった。
金の襖にイグサの畳、金の輝きに包まれていた部屋が赤に。人体は肉塊に、肉塊は肉片に変貌した。もう、何も動くはずがない。自身に危害を加えるものは何もない、動くわけがない。大丈夫、大丈夫。
『状況終了、お疲れ様でした。』
「…………。」
『脳波に異常あり、休息しますか?』
「……、ううん。大丈夫、やれる。」
◇◆◇◆◇
「ァグ!」
「おや、そろそろですかね?」
進行方向を予測され爆発に巻き込まれる、蓄積されていたダメージが既に限界だったせいでリパルサーの機能が一時停止。そのまま落下し屋根の上を転がる。腕を突き立てたおかげで落下は免れたが衝撃で胸の装甲にヒビが入る。胸部の予備リアクターはすでに機能を停止してる、さすがにこれ以上装甲を失うと飛行もままならないから耐えてほしいんだけど……、無理かもね。
「おやおや、そんな顔なさらずとも。ほらこんなにも月が奇麗なのですから共に楽しみましょう。」
「ッ、クソが。」
損耗率は4割、Tailは4本の内2本が落とされた。顔の装甲は半分近く剥がされて地肌が見えているし、腹部の装甲はもうない。あの後苦無やその他の攻撃を受けて破損、そのまま火で焼かれた。止血をした上からさらに焼かれたわけなので失血による死は考えなくてもいいがノルアドレナリンが切れたらどうなるか……、絶対痛い。
そして私に対してツラヤバはほぼ無傷。せいぜい彼のおシャンなスーツに煤が付いたくらい。完全に力量差が出てしまっている。
『マスター。』
「まだ生きてる、まだリアクターは動く。」
『……かしこまりました。』
奴の言う呪術とやら。汎用性が非常に高く所謂魔術師、ドクターストレンジやスカーレットウィッチたちが扱う魔法のような万能性と強さを兼ね備えている。所謂ゲームとかの属性系魔法がお得意の用でそれを組み合わせての攻撃、瓦が熔ける熱量。昔戦ったタイフォイドよりも高火力の火球に、スーツの凍結対策が突破される冷気、台風並みの強風。おかげさまでスーツはボロボロだし自分の肌さえ晒しちゃってる。顔や腹部だけじゃなくて左肩のあたりもさっき刺さったから血が出てるしねぇ……。
身体能力も非常に高くもしかしたら強化人間よりもヤバいかもしれない、まぁザ・ハンドの親玉としては正しい強さなのかもしれないけど化け物過ぎるだろ加減しろ! あ~もう! 元々ザ・ハンドとかアベンジャーズ案件なのは原作知ってる身からすれば理解してたよ! でもさぁ!
しかもコイツサディストなのか痛めつけて喜んでるしさぁ! おかげさまで殺されずにじわじわ痛めつけられるし! あとほんともう、さっきから言ってる月が奇麗とかうるさいんだよ! お前もう夏目漱石読むな! 太宰読め太宰! 人外だから大人しく私に殺されろよ!
「さて、そろそろ終幕といたしましょうか。」
「はは……、じゃあそこでジッとしておいてくんない?」
いつも通りの軽口を叩きながら付き刺した腕を屋根から引き抜く。武器弾薬系は全部苦無やら手裏剣やらを打ち落としたり時間稼ぎのために使ってしまった。攻撃に使えそうなのはどうしてもタメの時間があるバスター・ランチャーと反重力システム。両手にあるリパルサーぐらい。
さぁて、どう対処しますかねぇ?
『マスター! ご報告です!』
……ほん? おぉ、マジ!? やるぅ! んじゃちょっと手伝ってもらいましょ。
顔を隠すものがないのでイヴに正確な指示は送れない。だけどイヴならば理解してるはず。私が何をしようとしているのか、何を求めているのか。口で言わんでもわかるでしょイヴ、解ってなかったら化けて出てやるからな。
「ねぇ! ツラヤバさぁ! 聞きたいことあったんだけど!」
「ふむ、時間稼ぎですか。いいでしょう、少し疲れてきましたしね。」
よし、乗った! 話題話題……、あ。アレにしよ!
「お前日本人だよな! なんでそんな頓珍漢な名字してんの! マツオ=ツラヤバって何! 何がツラヤバなんですか!」
「…………いまそれ聞きます?」
うん、私もそう思う。普通ヒドラ君との詳しい関係だとかさ、私たちのことどこまで知ってるかとかさ。そういうこと聞くよね。でも残念、私は普通じゃないのでね? ほらロキに世界の異物扱いされたし!
「いややっぱ名前って大事じゃん? アンタの場合名字だからどうしようもないかもしれんけどさ、私だってさ、ヒーロー名決める時むちゃ悩んだしさ。私のパピィマミィも“つぐみ”って名前決めた時悩んだと思うのよ。……あ、別につぐみだからお名前ドロッセルにしたわけじゃないんだけどさ。実際ツラヤバ本名なん? もしかして自分で付けたヴィラン名とか?」
「……実名ですよ。まぁ確かに親を怨むと言いますか、名字を恨むというか先祖……、色々と大丈夫なのかと心配になったことはあります。しかしながら、海外受けはいいですからね。カッコイイ名字に聞こえるらしくまぁそれならばいいかと言ったところでしょうか。」
「ほへ~、色々アンタも大変なんですねぇ……。あ、足元注意ね?」
その瞬間、変な名前成人男性さんの足場。ちょうど立っていた屋根が吹き飛ぶ、う~ん! イヴもユキも大好き! ちゃんとやってくれてありがとナス!
使った武装はおそらくバスター・ランチャー、高火力でタメが長いけど今回は最適。ガチの疑問だった彼のお名前問題も答えが見つかったし、気が抜けていたせいか若干ダメージ受けて後ろにツラヤバ飛び去ったし。万々歳! ……というか私ここ最近ユキに助けられてばっかりだな、頑張らねば。
そんなことを考えていると立ち込める土煙から青い光が浮き出てくる、ユキだ。
「ッ! つぐみ! 大丈夫ッ!」
「お~、ユキ血みどろじゃん。らしくなったねぇ?」
「あ、うん。ありがと……、って違う! え、これ! どうしたら!」
まぁ見た目はヤバいもんねぇ? 左肩血だらけだし顔の装甲割れてるし腹は焦げてるし。まぁ今動けてるしだいじょうぶだろ。……まぁ焼けた腹に苦無刺さったし入院は確定かな?
「慌てな~い慌てなぁ~い! ほら動けてるし元気元気! さ、悪いけどもうちょっとだけ手伝ってもらうよ。」
「……終わったらすぐ病院連れてくからね!」
うんうん、同じこと考えてる。ユキと会話しながらイヴの報告を聞く。攻城部隊はすでに最上階手前まで来ている。地下は制圧して目ぼしいものは接収済み……、うん、もうこの城自体に用はない。いける。
Tailの一つ、反重力システムが入ったそれを隠すように切り離す。後はまた時間稼ぎをするだけなんだけど……、まぁ会話はもうしてくれないだろうね。殴り合いしかねぇや。
「ふぅ、時間稼ぎにしては上出来でしたが仕留めることはできませんでしたねユミルテミル。ただ部下たちを殺し尽くしたこと褒めて差し上げましょう。私はアレで君は死ぬと思ってましたから。」
ふざけたことを抜かしながらツラヤバさんが土煙の中から出てくる。う~ん……目立った損傷なし! まぁ直撃しなかったからなんだろうけど衣服がちょびっと汚れるレベルって何? もしかして十英傑だったりする? あの走りできそうだし。
「ふふ~ん! ウチの相棒舐めるんじゃないよ! ってことだ! ユキ、武装はどんな感じ。残ってる?」
「ドローンは一つやられちゃったけどまだ何とかなると思う。」
「よし! じゃあ第二ラウンド! 行っくよォ~!」
その声と同時に飛び上がるブースターを点火して飛び上がる、いつもに比べてひどく速度は落ちるがこれでいい。ユキが救援しに来てくれたおかげで取れる手数も増えた。後は地上部隊がどれだけ時間が必要かなんだけど……。
『お嬢、聞こえてるか。』
「お! 石井っち! 復活したん? お帰り!」
『待たせてすまねぇ、自分のことは自分で区切りをつける。それと報告だが攻城班はあと5分待ってくれとのことだ。』
「5分か……、了解。頑張ってみる、退避終わったらすぐ連絡頼んだ!」
そう叫びツラヤバに向かってリパルサーを放射する、ユキは残りのミサイルを発射。イヴを通してユミルテミルの残弾数が音声で伝えられるけどあっちはあっちで品切れが近い。最悪ドローン全部盾にするか特攻させて時間稼ぐしかないな。
「さて、どんなものを見せてくれるのか。楽しみですねぇ?」
「そんなに楽しみなら動くな!」
「おっと、それでは面白くないでしょう?」
私は面白いんだよ! お前の都合なんか知らない! 貴方の事なんか考えてあげません!
「ユキ! 接近厳禁! ブラフ多め隙狙い! でないと当たらない!」
「わかった!」
放たれたものを回避、もしくは呪術で相殺していくツラヤバ。普通ミサイルとかって撃たれたらよけたり対応したりはできない速度なんだけどね、普通に刀で切り落とされたりする。だからそれ材質何なんだよ! もしかして斬鉄剣?
しかも普通に回避しながらこっちに弾幕張ってる辺り……、マジでアイツ何なの? 普通のニンジャの苦無とか装甲貫通しないのにデフォで装甲貫通通り越して肉体ごと貫く威力とかなんなの? もう今私反重力できないし! ッチ! こっち確実に狙ってきた! そりゃ確かに手負いから殺すのは基本だけどさぁ!
「おてて!」
ブースターの出力が足りなくてこのままだとよけきれない、なのでユキの方に手を伸ばす。
彼女は私の手を取りそのまま引っ張る、回転からの無理やりな回避だ。顔に当たる風が痛いが背に腹は代えられない、ついでに回転しながらリパルサーも撃っておいたし喰らってくだち!
「ツグミ! ドローン使って!」
ユキも同じように攻撃をするが空中に飛ぶことで回避される。うん。まぁ当たらないよね、と思いながらさらに回避。相手さんの隙が出来たので送られてきたのは、ユキのドローン。コレ使っていいってこと? おっしゃじゃあイヴちゃんコイツの指揮権譲渡してもらって? 盾に使うぞ!
ドローンを盾に使い、時間を何とか稼ぐ。しかしながらそれでも足りない、ユキの保有していたすべてを消費した後は彼女のTail、ドローンの補給整備を行うそれを盾にして生き残る。Tailはリアクターが収めてある大事な命綱だけど命そのものには代えられない。そして――
『終了報告来ました!』
「よっしゃ!」
準備は整った、後は実行に移すだけ。
「ユキ! やるよ!」
こっから先は失敗厳禁の一発勝負、成功しなかったら少なくとも私はエネルギー切れでお陀仏。そうなるとこの攻城戦は負けで撤退戦なわけだから被害も増える。やり残したことはたくさんある、なんとしてでも、ね!
後先考えない攻撃、私はリパルサー全力照射でユキは文字通りの全弾発射。狙うはツラヤバの足元。
「おっと、勝負を決めにきましたか?」
アイツは飛び上がって回避する。奴は二段ジャンプとか跳躍力とかは桁違いだけど空は飛べない。地面、足の設置面が必要。そこを狙う。
私たちが戦っている場所は本丸の城、その屋根の上。城という支えに守られている足場だ。
……そしてその足場はすでに私たち、ファイアボールによって占拠済み。5分という準備期間、ウチのよく訓練された兵士たち。後は? わかるよね?
「やって!!!」
『爆破します。』
爆音、そして轟音。攻城部隊にお願いしたのはこの城を支える柱たちの爆破。ツラヤバに必須の足場をすべてなくすこと。私だけじゃできなかったこと、人手がいるから出来ることがある。
そして、私の仕込みが生きる。
ユキが私を助けに来てくれた時に切り離したTail、反重力システム。アレをツラヤバの足元に移動させ。落下を反転させる。人は重力には逆らえない、それはニンジャも同じ。浮き上がり、空中に固定されるツラヤバ。急な出来事に対応できていない彼から攻撃は飛んでこない。
明確な、隙。そしてもうお前は避けられない。このスーツに必要なエネルギー、リアクターが崩壊するまでその全てをつぎ込む。
「イヴ!」
「カスパールくん!」
『『バスター・ランチャー、放射します。』』
「「いけぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」」
世界は、光に包まれた。
◇◆◇◆◇
『生体反応ロスとぉ……。』
「ちょ! イヴ!」
なんかこの感じ見たことあるぞ! 最後のバスター・ランチャーでエネルギー切れた! 重力! 重力が! 落ちる! この高さでスーツの破損状況から落ちたらちぬ! ちんじゃう! ようやく勝ったっぽいのにそんなちにかたやだ!
「ユキ助けてぇ!」
「つ、つぐみぃ!」
自然落下、五分間の足止めのせいでスーツはほぼ残骸となっている。ぽろぽろと部品を落しながら地面に近づいていくが……、その接触すれすれでユキに助けてもらう。
「こ、こわぁ……。」
「ひやひやするからもうやめてよねつぐみ……。」
そう言いながら頭部の装甲を脱ぎ後ろに回すユキ。姫様抱っこでこう抱えられて顔を覗き込まれるとなんか変な塔が建ちそうでこまるわね。あ~、にしてもユキに何のケガもなくてよかった。せいぜいちょっとした凹みに装甲が落ちたくらい。目立ったケガはなくて~ヨシ!
「いやヨシじゃないからね! 全身ボロボロだし装甲なんか全然残ってないじゃん! は、早く病院連れて行かなくちゃ……!」
「うにゃ、それは後で……。ユキ、連れてってくれる? 反応が消えた場所わかるでしょ?」
「え、でも……。」
言葉は使わず目で訴える。私はそんなにすぐ死なないし、私の安否よりもアイツが生きてるのかどうかの方が大事。なんか生体反応消えてても動いてるニンジャとかざらにいたしツラヤバの事だから隠れてる可能性もありうる。大ダメージ受けて死にかけてくれてたらとどめさせるんだけどね。どっちみちその確認は必要。
「……わかった。でも何かあったらすぐに逃げるからね。」
明らかに私だけを逃がして殿をしそうな目でそう紡ぐユキ。まぁそん時はそん時で、私も自爆ぐらいはできるっしょ。
ユキに抱えてもらいながら移動を開始する、その間に彼女からTailを一本譲受け私のスーツと同調を開始。私のは全部だめになってるからね、予備も死んでるので借りたわけです。こういう時のためにちゃんと互換性付けてる私やるぅ!
少し空を飛び、辿り着いた先は城近くの竹林。ユキに降ろしてもらって自分の脚で歩く。戦いが終わり少しだけ安心してしまったのか全身が痛いがまぁ何とかなるだろう。
「はは、無様なかっこ。」
目は動き、腕も少し動いている。だが下半身、いや胸から先がほぼない。心臓のある胸の中心付近も一部削られておりなんでこいつがまだ息をしているのか理解ができない状況。ほんとニンジャってのは化け物で困る。
「ゴフッ、……やられ、ましたねぇ。」
「私、私たちの勝ち。後は消化試合だけ……、何か最後に言い残すことは?」
ユキからもらったTail、そのリアクターからエネルギーをくみ上げ右手のリパルサーに集中させる。左腕は動かしにくいが右だけならまだ何とか。
「そうですね……、ふふ。“また”会いましょう。」
「もう二度と会わないよ、バーカ。」
私は、そいつの頭を。吹き飛ばした。
「……さて! 後は帰るだけだけど……、とりあえず私は入院ですか?」
「肩貸すよ、東京だしちゃんとした病院見つけないとね。」
「終わったけどまだ残党いそうだしねぇ……、最悪どっかの病院丸ごと買い取ろうかな?」
死体をそのまま放置し私たちは帰り始める。ユキに肩を貸してもらって目指すはみんなの元へ。
「ま、とりあえず……、ザ・ハンド壊滅宣言。出しちゃおっかな?」
これにてDROSSEL[]Purged FREESIA編は終了となります。投稿期間が少々空いてしまい申し訳ありませんでした。今後は何本かその後の話と他映画のカメオを挟んだ後、ウルトロン編へ突入していく予定です。
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それで、体調の方はどうです?
「私に聞かなくとも解るだろ。」
たしかに解りますがやはりコミュニケーションというモノは大事でしょう? ほら同じ体を使う仲ではありませんか?
「ッチ、クソが。」
あぁ、それと。新しい花を買ってきたのですよ、やはり病室にはこういった彩ががないといけませんからね。ちゃんと色も風水に乗っ取って決めています。
「私が花や菓子で喜ぶ女に見えるか?」
これは手厳しい。
脳内で騒ぐ奴の声を無視しながら顔に化粧を入れていく。奴のせいで“私”が増えた、しかも無断で入ってきた奴もいるせいで体に生々しいヒビが入ったまま。何をしても消えないこれを白く塗り潰す。
目の下を塗ろうとした時、視界に奴がいつの間にか飾っていた花が目に入る。忌々しい。
「燃えろ。」
右手が勢いよく振られ、熱が意思を持ち始める。その小指には指輪が一つ。
あぁ、もったいない。せっかく買ってきたのですがねぇ……、まぁいいでしょう。今の私は非常に機嫌が良いのです。何せこれほどまでにマルチバースが増えたのですから、体一つにこれだけの贈り物をしてくれるとはなんと素晴らしき“思い人”か。お礼はしっかりとして差し上げなくては。
「おい、解ってるだろうな。」
えぇ、もちろん解っていますよタイフォイド。……いえ、ブラッディー・マリー?
“彼女は君の獲物”ですとも。
其処には、フリージアの花。希望を冠する花の残骸が残されていた。
ーThe Hand Will Returnー