前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

53 / 129
ごめんなさい。

 

「うふぇ、ぅふぇえふぇふぇ……!」

 

「あ~、もしかしてツッコミ待ち?」

 

 

いや、ね? だってさバナー博士さ! アイアン軍団が帰ってきて今ちょうどメンテナンスしてるわけですよ! アベンジャーズタワー内にあるラボに入れて、その日大規模な戦闘があって、すぐさま日本に帰らなくても大丈夫な状態でのみ見られるとっても希少度の高いメカニカルメンテナンス! 全部オートマ! しかも床がガラス張りだから上から見放題! 日本でもやろうとしたけど対ニンジャの場合スクラップ前提になっちゃうからコスト的にできなかった奴! 心の男の子が狂喜乱舞してますようへへへ! 一杯壊れてるぅ! 一杯修理ィ!

 

 

「トニー、いつも彼女はこんな感じなのかい? ……もう少し理性と言うかそういうものがあった気がするんだけど。」

 

「安心していいぞバナー、今日は特段おかしい。ほらツグミ、いつまで寝そべって床に顔張り付けてるんだい?」

 

「メンテ終わるまで!」

 

 

そう返したが、さすがに失礼と判別したユキからのお仕置き。腕時計からの高圧電流を遠隔で食らいしぶしぶ立ち上がる。……え、何トニー。よだれでべとべとだから床コレで拭いとけ? 

 

 

「それで? 彼の様子は?」

 

「生憎いつものバートンだよ。」

 

「そりゃ最悪。」

 

「喉が渇いたってさ。……さて、ひと遊びするぞジャーヴィス。」

 

 

渡された雑巾片手にガラスの床を磨く私を無視してトニーは杖の方へ向かう。まぁ久しぶりに全員集合して仲良く戦闘だったわけだし、ちょっとテンションがおかしくなっていたのは認める。NYの時に比べてニンジャの問題もだいぶ減ったし抱える不安の種が少ないってのもあるのかも。もしくはウルトロン関係を黙っていることで生じる罪悪感が私を苦しめているのか。

 

……今回も手の届く範囲内で被害を抑えるつもりではあるけど、まだ決めきれてないこともあるしなぁ。

 

 

「このおもちゃが手元にあるうちに徹底的に調べよう。構造分析と成分解析の結果は?」

 

『杖は地球外のものです、特定できない構成元素があります。』

 

「出来る部分もあるのか?」

 

 

その杖の中にあるのはインフィニティストーン。宇宙誕生以前に存在した6つの特異点が、大爆発によって残骸となり6つのエネルギーの結晶に変化した物の一つ、マインド・ストーン。杖や宝石は石をより使いやすく、また保護するためのおまけ。でも私たちからすればおまけだけでも十分以上に価値がある。

 

 

『外側の宝石が、中にあるものを保護しています。強力なパワーを持っているようです。』

 

「リアクターみたいな?」

 

『コンピューターに似ています。コードを発見しました。』

 

 

トニーとお父さん、ハワード氏が作ったリアクターはスペース・ストーンを守る四次元キューブを元に作成されている。だから仕組みはリアクターに似ているかもしれないよね。……リアクター、動力源と言えば私が最近成功した人工ブラックホールの生成。今はその安定性を高めることと動力源に使うための研究をしている。

 

成功すればリアクターをはるかに凌駕する動力が出来るし、武器転用も可能。起動するだけで周囲のすべてを吸い込み消し飛ばす最強の武器になるんだけど……、今の技術力じゃほんの数秒維持するか際限なくすべてを吸い込む自殺兵器しか作れない。ちな私の最後の切り札はその自殺兵器、サノス君があわてんぼうのサンタクロースかましてみんな殺されたとかした時、指パッチンする前に作動させてみんな消し飛ばすように設定している。全宇宙1/2よりはマシな方法でしょ?

 

まぁそれを使わないようにするのが最善なんだけどね……、そういえばブラックホールの中って何があるんだろ。一回調査用の機器放り込んだけど通信すぐ切れたしマジで無の世界とかなんかな? それか他世界線とか?

 

 

「ツグミ、バートンに飲み物を持って行くんだが、手伝ってくれないか。」

 

「あ、は~い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

タワー内にあるラボ区画、バナーの場所として割り振られたスペースには治療を受けているクリント、ホークアイをナターシャ、バナー、そして韓国から治療のため呼ばれたチョ博士が囲んでいた。

 

 

「ねぇ彼大丈夫? 彼を案じるふりしてチームが纏まってるの。」

 

「大丈夫よ、悪化する可能性はないわ。さっきまでそこで転がってた彼女のお墨付きよ?」

 

「……チームがさらに纏まりそうね。」

 

 

一瞬だけ顔がマジになるナターシャ、その実績や自身の装備の開発などに関わっているためその能力に疑問はないが初対面で膝から崩れ落ちたり涎垂らしながら発狂したりと色々と不安になることも多い彼女。戦友としては信用しているが、普段の行いのせいで安心していいのか全く分からない。

 

そんな顔をした彼女を不思議そうに見ながら機器の操作を進めるチョ博士。彼女が知るツグミは支援者で分野は違うが優秀な科学者という顔のみ。床に寝転がっているところを見て一瞬「え?」となったが、何日も徹夜で研究するとたまに床で寝落ちすることは研究者あるあるなのでそこまで衝撃を受けなかった。……科学者でヒーローと言う良い面だけ見ている感じなのでその夢が途切れないことを切に願う。

 

 

「模造細胞だから彼自身の細胞も気づかない。ナノ分子が機能しているおかげよ。」

 

「彼女は人工細胞を作っているんだ。」

 

「私の研究所なら早いのに。細胞再生クレードルなら20分で治る。」

 

 

バナーが簡単にチョ博士のことをナターシャに説明する、博士について詳しい説明を受けていなかったため「ツグミの関係者? ……大丈夫よね?」というイメージが先ほどの会話で定着しかかったが、バナーの知り合い報告を受けほっと一息。彼の知り合いであれば大丈夫だろう。

 

ナターシャが胸をなで下ろした時、ドリンクをお盆に乗せた二人が部屋に入ってくる。

 

 

「お? 死亡した? 時間記録する?」

 

「おいおい。俺は永遠に生きるぞ、プラスチックの体で。」

 

「うんうん! じゃあこれ特製原油ドリンクね。またの名を特性野菜ジュース。」

 

 

そう言いながらクリントの前に置かれるのはストロー付きの緑の液体、原色かと思うほど緑。過去トニーが旧型リアクターの毒素に苦しんでいた時に愛飲していた野菜ジュースをおいしく飲めるように日本風魔改造したものである。……味はいいのだが見た目がちょっとアレなのはご愛敬。なおもう少し色を大人しくしたものが『ハルクのイケイケ野菜ジュース』として現在好評発売中。

 

 

「あなたの細胞を使ってるから恋人が見ても気づかないわ。」

 

「恋人はいないよ。」

 

「それは医学じゃ直せない。」

 

 

一瞬『ナノテクで頑張れば人体錬成できるんじゃね? 脳の代わりにAIでも入れれば……。』と、どこかの錬金術師のように人間の材料を頭に浮かべながらジュースを配り始めるツグミ。笑顔でチョ博士に対して『久しぶり~。』と言っているが頭の中では、水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1.5kg、リン800g ……。

 

 

「これは最新技術よ二人とも、メタルスーツは時代遅れになるわ。」

 

「ふむ、それは望むところだね。」

 

「別にいいけどせめてアイアンって言ってくんない? メタルはちょっと……。」

 

 

その名前はあかんねんチョ・ヘレン博士……、『本当に申し訳ない。』んだけどそれだけはマジでやめてほしいのよ。メタルスーツとか着たら一生脱げない上にクソみたいな博士AIに何故か空気に触れ続けると赤から紫に変色する謎スーツだから許してほしいんじゃ……。

 

 

「それじゃあヘレン、土曜日のパーティーでまた会おう。」

 

「あなたと違ってパーティーに出てる暇ないの。……あの、それって……、ソーも来る?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

バナー博士はクリントの治療の後片付けを、私はチョ博士の見送りが終わった後。チョ博士に『ソーの事好きなの?(もう彼女いるけど)紹介してあげよっか?』とささやき慌てる彼女を鑑賞し満足したので、そろそろ私も日本に帰ろうかなぁ、って思ってた時。急にトニーから呼び出しを受けた。

 

 

「で? 何なんだい?」

 

 

博士が話した後に、コクコクと首を縦にふりトニーの説明を待つ。私はある程度予想はつくが知ってたらいけない事なので出来るだけ顔に疑問の意思を浮かべる。まぁここで急に『キャプテンに悪戯を仕掛けようと思う』とかだったら大賛成の上に全力でお手伝いするけど。

 

 

「実は、例の杖なんだが……、ストラッカーがどう使ってたか知りたがってただろ? で、中の石を分析してみた。」

 

 

博士に向かって話しながら近くにある机からデバイスを手に取るトニー、軽く振ればホログラムが起動し浮かび上がるのはオレンジの光を放つ球体のようなもの。

 

 

「君たちなら、解るんじゃないか。」

 

「ジャーヴィスかい?」

 

『正解です博士。』

 

 

近づき、観察する。トニーとは何かと付き合いがあるけどジャーヴィスをちゃんと見せてもらったことはなかった。イヴが勝手にジャーヴィスを競走相手にしてるけど、多分トニーも私のことを意識してて更なる性能の向上を図っていたのが理由だと思う。んで予定ではとんでもないハイスぺジャーヴィスが完成したらお披露目だったはず。彼はそういう性格だしね。

 

 

「最初はただの言語インターフェイスだった、今や軍団のボス。ビジネスでも最高だ、ペッパーを除けば。一時彼女に並ばれたが……、今はトップだ。」

 

「だって、イヴ。」

 

『方針が変わりましたので分野が違うというべきですが……、納得がいきませんね。』

 

 

トニーと同じように、私たちから見て右側にイブをホログラムで表示する。現れるのはジャーヴィスのような球体ではなくどちらかというとボールの中に脳を詰め込んだような形状。左脳と右脳、そしてそれを繋ぐ線一つ。私のスーツと同じ白いホログラムだ。

 

 

「私の場合、最初はちょっと高性能な電卓モドキ。自己学習を続けさせながら人間の脳と同様、それ以上を今は目指してる。ジャーヴィスよりは色々うまくないかもだけど嫉妬もしちゃうかわいい子でしょ?」

 

「……すごいな。これを一人で?」

 

「もちろん。」

 

『博士に感謝を。』

 

 

ジャーヴィスのことは専門外で解らないところも多いがイヴのことは解る、そう続ける博士。私から見れば総合点でジャーヴィスの勝ちなのであんまり喜べないけど褒められて嬉しそうな声を上げるイヴが見れたので良しとする。

 

 

「……んでさ、トニー。わざわざ並べさせるってことは何かあるんだよね。」

 

「ご名答。こいつが第三の乱入者だ。」

 

 

ロキの杖、セプターの解析データを読み込ませホログラムに。出す場所はジャーヴィスとイヴの間。青く、そして大きい。私たちのAIのように整えられた形はしていないが……、どこか神秘を感じる。薄い膜が内部を覆い、中央部は心臓のように脈動を表す。

 

 

「美しい。」

 

 

ただ、そう零すバナー。あんまり生物学の方は収めてないから解らないことが多いけど気持ちは解る。目の前にあるのは完成形、そしてその発展形だ。

 

 

「これが何の働きをしてるか……。」

 

「これは頭脳だ、ものを考えている。人間の脳とは違うが……。これを見ろ、ニューロンの活動のようだ。」

 

 

たぶんコイツはイヴと同じように感情を持とうと思えば持てる、だけどそれをしない。この青いホログラムは杖が作られた理由であるマインドストーンの保全と利用、そのすべてにキャパを割いてるのだろう。これはただの予想、だけど……、こうも自分がやりたかったことをポンと出されてその上考えていた理想すら届いてないと知ると……、思うところがないと言えば嘘になる。

 

 

「ストラッカーの残した物の中に高度なロボット工学のファイルがあった。……データは破壊されてたがどこをノックしてたのかはわかる。」

 

「……より高度な人工知能の研究。」

 

 

つい、口から零れ落ちてしまう。バナー博士のセリフだったが、私が口にしてしまった。

 

昔、このホログラムを見た時。今ほどの知識は持っていなかった、そして詳しく見ることもできなかった。……ウルトロンが暴走し私たちの手に負えない、アベンジャーズが負けてしまう可能性を考えてイヴの強化を進めて来た。

 

 

「これは使えるぞ、ウルトロンを作り出すカギだ。」

 

 

『脳』。この単語を追い求めてマインドストーンに頼らず単なるAIとしての性能のみでウルトロンを封殺できれば……、って昔は考えてた。知識に触れ、二人と出会った結果。天才二人で作り上げたソレに勝てるわけないと考え直し、途中で方針を変えて感情を持たせられるようにした。人と同じように、もしくは人と機械が共に過ごせるように。

 

 

「もしこの宝石の力を使いこなし、アイアン軍団に応用できれば。」

 

 

実際に目にすると思うこと、『止められない』。たぶんだけど二人がこれを参考にしてウルトロンを作ればイヴじゃ、私だけじゃ止められない。アベンジャーズがいる。ストーンの力で産まれるヴィジョンが必要になる。……でも、ヴィジョンが産まれる未来はまだ不確定で勝てる確証はない。

 

 

「もし、の話だな。」

 

「もし、の追求こそ科学だろ?」

 

 

もし、私がこの研究に参加すれば。失敗は起こらないかもしれない、完全で正常なウルトロンが出来るかもしれない。……でも、映画と同じように失敗すれば? 私だって二人に及ばないけどそこら辺の科学者よりは何倍も優秀な自負がある。性能は絶対に原作より上がってしまうだろう、正直どんなものが完成するか解らない。

 

 

「なぁ、ツグミ。君はどうだい?」

 

 

これは、駄目だ。

 

 

「ごめん、トニー。私は参加できない。」

 

 

二人に、向き直る。

 

 

「あの日、一緒に見た光景はずっと脳裏に張り付いてる。トニーが力を求めるのも解る、私だって手に入るのなら欲しい。世界を守るアーマー『ウルトロン』、とてもいい響きだと思う。」

 

「でも、それ以上に私はこの宝石。この存在自体が怖い、出来上がるものが想像できない。どんな子が産まれてくるのか解らない。イヴや、他の子が生まれる時は想像できたし夢を教えてあげることが出来た。……でもそれが想像できない。」

 

 

「本当にごめん、私には……無理だと思う。」

 

 

「このことは誰にも言わない、墓まで持って行く。侮辱されても、何を言われても構わない。けど私には踏み出せる勇気が持てないや。」

 

 

 

「……今日はもう帰るね。土曜日のパーティー、楽しみにしてるから。」

 

 

 

ただ、それだけを伝えラボから去る。トニーが何か言ってくれた気がするけど走って逃げるように出てきてしまったから解らない。

 

イヴとの開発競争のおかげでジャーヴィスも、トニーも映画とは違う。だからこそ成功するかもしれない、だからこそより失敗するかもしれない。

 

 

「……イヴ、帰るからスーツ起動しておいて。」

 

『かしこまりました。』

 

「それと……。」

 

『心得ております、すべて。お任せください。』

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。