「うぅ……、どうしよ。行きたいけど行きたくないぃ……。」
「はいはいケンカしちゃったのは解ったから早く着替えてよつぐみ、わざわざこんな時間に起きて遅刻したら気分よくないでしょ?」
早朝、まだ日も上がらない時間。ユキに無理やり立たされて姿見の前まで連行される。日本とアメリカの時差の関係からあっちの夜のパーティに参加しようと思ったらこんな時間に出発しないといけない。というか早朝って言ったけど深夜って言った方が近いかもしれない。
ユキにドレスを着せられそうになったけど、絶対に合わないのと気恥ずかしいのでスーツタイプの礼服が今日の衣装なんだけど……、あんなことあった後に楽しくパーティとかそんな精神状態じゃないんだって……。
「三日前からずっとそんな感じだしイヴちゃんは有給とってるし大変だったんだよ私……、まぁ喧嘩しちゃって凹むのは解るけどもう少しシャキッと!」
ユキに背中を叩かれて背筋が伸びる、それについては正直すまんかった。ユキには「トニーと喧嘩した」って伝えて……、まぁ実質同じようなものだけどそれから何にも手が付かなかった。研究もダメだしお仕事の方もダメ、ファイアボールの演習とか顔出したけど相当ヤバイ顔だったらしく秒で追い出された。まぁ確かに眠れんしお腹も空かんから食べてなかったからしゃあないのかも。
そのあとユキにガチで叱られて無理やり寝てご飯食べて何とか体調戻して今に至るわけだけど……、やっぱり顔見せるのがちょっとなんというか……。うぅ、この感情を表す言葉が解らないぃ。
うんうん悩みながらも、さすがにこれ以上迷惑かけるわけにはいかないからもそもそと着替えを始める。黒地に白い縦のストライプが入った女性用のスーツ、下半身はパンツの奴。何かの式典ってわけじゃないからタイとかは必要なし、ちょっとひらひら多めのシャツを中に着て着替えおしまい。個人的にはもうちょっとすっきりしたのでもいいけど、私服って基本ユキが買ってきたものだからたぶん間違いはないのだろう。
『メイク、髪のセット完了しました。御奇麗ですよお嬢様。』
「……一体いつの間にこんなこと覚えたのゲジュマジュプリン。」
『ゲデヒトニスです、ユキ様に叩き込まれました。』
「執事らしくなってきたねぇ……。」
うん、まぁ見れるものにはなったかな。わざわざ台を持ってきてメイクしてくれたウチの弟君に、感謝の言葉と好きなだけ頭を撫でてやる。こうしてると初期構想じゃ原作通りの巨大ボディだったけど今は中型犬サイズにしてよかったと常々思う。
抱きかかえられるし気軽に頭をなでてあげられる。まぁそのせいで社員からも「かなり賢い犬扱い」されてるんだけどね?
「あぁ、そうだ。ゲデヒトニス、もしかしたらあなたにも仕事してもらうかもしれないから“あっち”のメンテだけはちゃんとしといてね。」
『かしこまりました。』
イヴはちょっと準備中、一応スーツとか動かす時はこっちにリソース割いてくれるけどそれ以外は離れて行動してる。何かあったときは彼に代役を頼むことになるし、もし何も起こらなかったとしてもマキシモフ兄妹とは現在敵対している。使える手は多い方がいい。
「つぐみ~! もう時間だから出発……。おぉ~、やっぱ磨けばよくなるんだからちゃんと手入れとかしなよつぐみ。」
「そういうのは全部ユキの担当だから全部パス、それにユキと並んだら私なんか霞む霞む。あと絶対的に高さが足りない。」
私のこと褒めてくれるけど正直そういう美容とかは全然気にせず生きて来たからねぇ。私なんか付け焼刃にもならないんですよ。それに比べてユキピはしっかりしてるし青のドレスでオシャンに決めてるしさすがだなぁって感じ。これが20㎝の差か……
「はいはい、いつもそうだよね。……というか言われた通り用意したけどこの格好でスーツ着ても大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、そこら辺の技術は2012年ぐらいに確立してるから問題なし。……じゃ、いこっか。」
行くって言っちゃったし……、ま。腹くくって頑張るとしますか。
にしてもウルトロンくんはどうなるのかな、完成して正常に動作すれば世界を守るロボット兵団になるわけだから世界中から格段に犯罪が減る。トニーは対宇宙で考えてたみたいだけどアベンジャーズ以降というかこの世界がマーベルである限り地球という星自体が修羅の世界になるのは必須。絶対対宇宙じゃ収まらない。
でもウルトロンがいればそれも防げる、世界から犯罪は消えて私たちアベンジャーズのようなヒーローが対処するのはウルトロンで対処できない巨悪のみ。それ以外のこまごましたことは対処しなくてよくなるわけだから大分楽になる。
ま、その代わり失敗すれば映画通りウルトロンによるソコヴィアを使った地球浄化作戦が始まる。しかも私とトニーがAIの開発競争みたいなのをやってしまったせいでトニーが原作よりも強くなっている。それすなわちウルトロンの強化。……正直考えたくないよね。
「完成した。」
ラボに一人。三日間のデスマーチだったが、ついに完成した。この星を守るスーツ、その第一歩となるウルトロンがついにだ。機器が数値を吐き出し、そのすべてが正常。予定どおりだ。すぐさまホログラムを起動しジャーヴィスと新しい彼を映し出す。
『初めまして、トニー。』
「あぁ、君に会えてうれしいよウルトロン。」
寝る間も惜しんで研究と開発を続けた結果として成功したおかげか、それともこの無防備な世界をようやく守る可能性が見えて来たせいか。単純にこれから始めるパーティを楽しみにしているだけかもしれないが、強い解放感と喜びに包まれる。
『それで、トニー。私は何をすればいい? 君は単に平和を、と指示したが。』
「それについてだが実は今からパーティでね、ジャーヴィスがホストらしく皆を迎える準備をしろとうるさい。詳しくはジャーヴィスに聞くかパーティが終わるまで待っててくれ。それまで自由時間。」
まぁ、とにかく今は気分がいい。この気持ちをバナーとも分かち合いたいが生憎彼は睡眠中だ、せっかくの秘密の研究なのにパーティによれよれの姿で睡眠不足で出席させるのは、わざわざ無理を言って手伝ってもらった彼に少々申し訳ないし、他のゲストに不信感を与えてしまう。ヒドラに関する問題の解決以上に良い報告が出来そうだ。……いやせっかくだ、今日のパーティにはアベンジャーズのみんな以外にも呼んでいるしそれが帰ったあと。身内だけの場で盛大に発表することにしよう。それまではバナーにも内緒だ。
……いや、一番先に連絡すべき子がいたな。
「ジャーヴィス、……いやイヴ。いるんだろう?」
『……バレていましたか。』
開発中、明らかにジャーヴィス以外からのサポートがあった。すぐに気が付いたが……、まぁ喧嘩別れしたみたいなものだからな。だから最後まで黙っていたが……、早く伝えた方がいい。
「君のマスターに感謝を伝えてくれ。」
『ぜひこの後対面で仰ってください、その方がマスターが喜びます。それと私は我が母であり仕える主の命を実行しただけです。サポートも確かにさせていただきましたが何らかの理由で失敗した場合の尻ぬぐいがメインタスクになります。』
「そうかい。じゃああとは三人で仲良くしといてくれ。」
そう言いながら、ラボから退出する。……うん、今日は楽しい夜になりそうだ。
『イヴ、開発中のサポートは助かりました。』
『……あなたからの礼を受け取るのは少々癪ですがまぁ受け取っておきます。それよりも早くマスターにご報告しなければ、かなり心配していましたから。また何かの機会にお会いしましょう御二方、子機を置いておきますので何かあればそちらから。では失礼。』
『………。』
『ウルトロン? 何か異常でも?』
『……いや、なんでもないさ。』
◇◆◇◆◇
「いやっふぅ~~~!!!!! みんな~~~! 盛り上がってるぅ~~!?」
湧き上がる歓声、飛び交う笑い声にアルコール。あとおいしいおつまみ。
やっば、超楽しい。
だってさだってさ! 成功すると思わないじゃん! 完成すると思わないじゃん! 失敗するの映画というかこの世界の定番みたいなもんじゃん! 成功しちゃったよ! 成功! 成功だよマジだよ!
イヴが報告くれた時飛行中だったもんだからびっくりし過ぎて墜落しそうになったんだからね! それ以上に嬉しさというか、今後に対する安堵とかトニーとバナー博士の天才レベルに脱帽したというかまぁヤバかった! 声上げて喜んじゃった! ソコヴィアのことはもう考えないでもいいし! もっと言えばサノスとの戦いだってもっともっと楽になる! インフィニティで奴を倒せる可能性だって見えて来た! あぁ、こんな感情初めて! 世界大好き! ニンジャとかたくさんいるのは許せんけど今日だけ許す!
「んぐっ、ん! ぷはぁ! お酒がうまい!」
普段はユキに止められてるけど勝手に解禁! 今日ぐらいは許してくれるでしょ!
「大佐ァ! 私にもそのお酒頂戴!」
「これか? ……にしても君飲めたんだな。あぁ、すまない昔のイメージが強くてね。」
初対面の奴? まぁあの時私若かったしね! まぁ今も若いけど! まだまだピチピチの20代で~す! わふぅ! これ度数高い! そのまま飲むもんじゃないや! あはははは!!!
「完全に悪い酔い方してるな彼女、ほっといていいのか?」
「今日はお友達を連れて来ているみたいでね、最悪外に放り出すさ。」
「えぇ~! 放り出されちゃうの私ィ~~!」
「……それで、どこまで話したんだったか。」
そう言いながら用意した自身のグラスで口を湿らせるローディ。この場にはマリアにトニー、ソーもいるがだれも酔っぱらいの視界に入らないようにしている。みな彼女がアルコールを口にしたのを見るのは初めてだったが、あのような酔っぱらいに関わるととても面倒なのは世界どころか宇宙共通だ。いつも『親友からアルコールは控えとけ。』っていつも言われてるというのはこういう意味だったんだね……。
「スーツだと、重い物もへっちゃらなんだ。戦車を持ち上げて、で将軍の家まで飛んで行って足元に落としてやった。ドカーンってね? それでこういったんだ。」
「これをお探しで?」
「「「…………。」」」
「あはははは!!! 何それぇ! あはははは!!!」
ローディを傷つけないように、というかどこに笑う要素があるのか見いだせなかったトニーとソー。トニーはさっきまで顔に浮かべていた笑みをそのまま張り付けるように保持。ソーも顔は笑っているがトニーとローディの顔を交互に見ているあたり、『これ地球で面白いジョークなの? わからん。』という感情を抑えきれてない。そこに響くむなしいツグミの笑い声。
「ドカーン、だ。君らに話したのが間違いだった。よそのところなら大受けするのに。」
「もしかして……、今ので終わりか?」
「そうだよ、ウォーマシンの持ちネタだ。」
「お、面白かったよな。はは、感心した。」
パトリオットからマシンに戻れた彼の声が少々強くなる。それをなだめるように無理に笑うソー、しかしながら彼も雰囲気の悪さを察して酒を口に運ぶあたり状況はあんまりよろしくない。普段なら何らかのサポートを飛ばしそうなツグミも今度はバーテンダーに悪絡みしてるので助けは来ない。
「そうかそうか……、それで? ペッパーは来ないのか?」
「来ないって。」
「ねぇ、ジェーンは? 女性陣はどうしちゃったのよみんな。」
「ミスポッツは多忙だ、社長だし。……あとミスオオゾラも多忙、アルコールとの逢瀬に忙しい。」
そう言いながら一同視線はカウンター席でグラスを煽るツグミ、グラスと言うかジョッキに近い容器になみなみと入ったアルコールを蟒蛇のように飲み干す彼女。一瞬大丈夫なのかと不安になるがもし問題があれば彼女のAIが無理やり止めるはずだ。ということはまだ許容内ということなんだが……、とても肝臓がお強いようで。
「ジェーンはどこの国にいるか解らない、惑星直列の研究で天文学の権威になった。」
「ペッパーの会社は地球一の巨大複合企業だぞ? さすがだね。」
「ジェーンはすごい賞を取りそうだ、えぇっと……、あぁ、そうノーベル賞。」
むふ~! 私の方がすごいもん! 私って地球一じゃないけど日本一で世界有数の上に私の代で作った会社だし! 今やってるブラックホールの研究公表したら即日でノーベル賞確定だし! アベンジャーズで頑張ってる上にニンジャたくさん殺したし! ノーベル賞平和賞確定! 偉い!
「さぞ忙しいんでしょうね。だって、絶対見たいはずだもの、男同士が張り合うの。」
あ~! ユキじゃんユキぴっぴじゃん~! 見て見てこれ! おっきなグラス! しかもうまい! え? どれだけ飲んだって? メニーマッチ! とってもたくさん! え? どうしたの? もうすぐ始まるからあっちで一緒に座っとこ? えぇ~何々~!? 何が始まるんですかぁ~?
「……でもやっぱりジェーンの方がすごいぞ。」
◇◆◇◆◇
「うぅ……、ごめんなさいぃぃィイイ……。」
「はいはい解ったから、大丈夫だからね。」
夜も過ぎ、ほとんどのゲストが返され残るのは身近な関係者のみ。一つのスペースに集まりゆっくりとした、しかしながら楽しい時間をアベンジャーズの面々が過ごす。……が一人だけガチ泣きしているのがいた、もちろんお嬢様である。身長差をいいことにユキの胸に顔を埋めながらガチ泣きをかましていた。
実は、というか日本勢の面々からすれば周知の事実なのだが。お嬢様お酒が入ると色々ポンコツ化するのである。しかも酔い方もかなり面倒、最初はお酒と周りの雰囲気に乗せられてとっても面倒な絡み酒をかましてくる上に笑い上戸。そして後半に入りアルコールが体内をめぐりだすと、これまた面倒な絡み酒。プラスして泣きながらずっと何かに謝り始めるというこれまた厄介な性質を持っていらっしゃる。そしてもちろんだが酔っている時の記憶はない、二日酔いと引き換えに記憶は消去だ。
そのため基本酒を飲まないようにユキやイヴに言われていたのだが……、この人飲んじゃったんですよね。まぁアベンジャーズが集まる理由ももう無さそうですし、大きな敵に打ち勝ちましたからお酒を飲みたくなっても仕方ないんですが……。
「あ~、だからお酒飲むなって言ってたのに……。」
「もしかしていつもこんな感じなの?」
「あ、はい。ロマノフさん。」
何度か顔合わせをした程度の仲、ナターシャがユキに話しかけるが相手はかなり緊張している。ペッパー辺りなら会社運営などの関係で何度も話しているためそこまで緊張することは無かったろうが本日彼女は欠席。周りにはヒーローとして先輩である人しかいない。橋渡ししてくれそうな親友は酒で使い物にならない、結構ピンチである。
「いつも『親友に止められてる』って言ってたけど納得ね。」
「えっぐッ、ひっく……。なた~しゃぁ、ごめんなさいぃ……。」
「はいはい、大きな赤ちゃんね。」
フラフラとしながら自身の方に転がりこむツグミ、昔に比べるとまだマシになったが接触が多くなるとたまに爆発して使い物にならなくなる彼女だが酔っている時は違うみたい。NYの一件より前、日本にできた新しい武装組織への視察を命じられた時に比べると格段に体が重くなっている。すこしはだけた服の奥に残る生々しい傷跡を見るとなぜか彼女を跳ね除ける選択肢は浮かばなかった。
「ツグミ? さっきから何に謝ってるの? なにかまたやらかした?」
「……言えなくてごめんなさぃい。」
「そこはしっかりしてるのね。」
密かに『酔っているのなら彼女が隠している何かが出てくるのでは?』と考えたナターシャだったがその予想は外れる。まぁ喋ったら喋ったで彼女の情報管理能力に難があることが解ってしまうので喋らないでくれた方が良かったのであるが。何かを隠していることは理解しているがここまでの付き合い全てが嘘だとは思えない。今日は見るからに大きな隙があったのでつい昔のクセが出てしまいそうになった、それだけだ。
気持ちに区切りをつけ、泣きながらアルコールを浴びようとするツグミのグラスを水にすり替える。さすがにここまで酔った彼女に呑ませるわけにはいかない。こうやって抱き着いてきてくれるのは好ましいが絡み笑い上戸と泣き上戸のお得ハッピーセットは何度も体験したいものではない、ナターシャは脳内メモ帳に『ツグミに酒を飲ませない』を追加した。
「やぁロマノフ、いつの間にママになったんだい? パパは誰かなお嬢ちゃん。」
そこに今日のホストであるトニーが盆を片手にやってくる、今日のために彼が雇ったバーテンダーもこの後にする大発表のため返してある。なので彼自身がそういったことをしているのだが……、案外様になっている。
「トニーィィィイイ!!!」
「おっと僕かいそりゃ困った、彼に絞殺されそうだ。」
彼を見た瞬間思いっきり飛びつくツグミ、素面だと行動に移すことはなんとかできるかもしれないがおそらくどこかが触れた瞬間脳がキャパシティを超え爆発、あたりが奇麗な赤で染まるところだが、さすがは酒の魔力。何とかなった。
「ごめんね、トニー。ゆるして、ゆるして……。」
「あ~……、あぁもう解ったからな。うん、怒ってないぞ僕は。なに音楽性の違いって奴さ。」
腹部に顔を埋め、泣きながら謝る。一瞬驚いたがすぐに思い当たる、三日前の仲違いについてだ。たしかに彼女は参加しなかったが……、それでもウルトロンは完成した、それに彼女が心配していたことは何も起きなかった。喧嘩の原因になったのはもう解決したんだ、友人と喧嘩別れするほど悲しいものはないからね。
「……怒ってない?」
「あぁ、もちろん怒ってないとも。仲直りに今度またシャワルマでも食べに行くか?」
「それはいや。」
「奇遇だね、僕もだ。」