「はい! というわけで現状把握していきますよ!」
「おー!」
『かしこまりましたマスター。』
自宅、というか本社ビルなんだけど。そこの地下にある私専用ラボにて戦略会議を始める私たち。ソファから見える全面にホログラムディスプレイを表示させ関連情報と各部隊の充足状況をチェックする。あとサイドテーブルの上にイヴのマトリクスホログラムとボディに入り直したゲデヒトニスを用意。最後にユキの膝に座って準備完了!
「……いやさすがに暑いからやめよ?」
「だめか?」
「だめです。……まぁそれにしてもみんな無事で何よりだね。あっちでジャーヴィスさんだっけ? あのホログラムがバラバラになってるのを見せられた時は心臓止まるかと思ったもん。」
私そういう詳しいこと解らないしツグミの顔がマジで思いつめてるヤツだったから怖かったんだよ、とジト目をしながら怒るユキを無視してその膝から降りる。若干のさみしさがまだあったのでそのまま頭を彼女の膝に降ろして寝転んだけど何も言われない、せいぜい『こ~んな顔してたんだからね!』と表情筋をいじられるくらい。
「いやあの時点ではマジで何も解らなかったから仕方ないじゃん……、私だって心配してたんだよ?」
『その節は大変失礼しました。』
「というか声どうしたイヴ、さっきの感情たっぷりどこ行った?」
『仕事中ですので。』
ん? どしたゲデヒトニスわざわざ腹に伸し掛かってきて。案外お前さんのボディ重いんだぞ? うんうん何々~? 敵が攻めてきたときちゃんと一人で避難できたし、言われていたボディのメンテナンスもちゃんと出来た? ふ~~ん? 褒めてほしいんかワレ? うれうれ! 可愛いやつめ!
「んで、実際どうやって逃げ延びたんイヴ? あと前と比べて明らかに感情量が多くなってるし強化されてるし……、自己進化プログラムにでも目覚めたん?」
『では最初からご説明させていただきます……。』
なんでも私からウルトロンが暴走する可能性を聞いていたイヴは私にウルトロン完成の報を届ける際に自分の分身、家庭用電話の子機みたいなのを置いておいたみたい。まぁそれは私が用意してあげた機能だしスーツとかもおんなじ感じでやってるからそこはいいんだけど……。
その後子機からの反応の消失とメインフレームへの不正アクセスを感知、性能的には上だったけどウルトロンの経験不足が裏目に出たのか侵攻速度は遅め。見られた情報もあるけど、発見後速やかにウルトロンを排除、戸締りした後に命綱用意して逆侵攻に乗り出したらしい。
まぁその後の電子生命体同士の戦いは単純なスペック差で負けたらしいけど、命綱使って本社に置いてあるバックアップにその直前までのデータを共有出来ていたらしい。命綱は本体が消滅した瞬間に自然消滅するように設定、少しだけ空いていた穴もすぐさま閉じられて外界からシャットダウン、ウルトロンどころか正式な権限持ってる私ですら入れませんって感じだったらしい。……う~~ん、もしかしてイヴ私より有能じゃね? ほぼ完璧じゃん。
「……というか私の事侮辱されたせいで怒りの感情が発生、そして大爆発。脳の神経と同じように急速に進化して、より人間に近づいたってこと? いやはやそんなに愛されていたなんてママ嬉しすぎて涙出ますよ。」
「は、恥ずかしいのでやめてください……。」
「あ、素が出た。」
ユキの言う通りイヴの声に感情が戻ってくる。いやはや、教えてないのに羞恥の感情を理解して言語化するって……、ホントに見違えるほどの進化しちゃったな。男の子は三日間目を離すととんでもなく成長してるとか言うけど、イヴにもそれが当てはまるようで……。
よし、小さい時からずっと画面越しの電子の世界に彼女がいたせいか、どうしてもイヴの体を作ることに違和感があったんだけど。ここまで進化しちゃったのなら近いうちに体、作ってあげないとね。人間態の奴。
「んじゃま、今後も楽しく生き延びるためにさっさと物騒なこと考えてるウルトロン君を破壊しますかァ! 憧れの人の息子くんだけど人類浄化しようとしてるし仕方ないね。」
『心得ております、ウルトロン対策のため少々原始的な手段を使わねばならないのは業腹ですが。』
「……ちゃんとネット遮断してるよね?」
『もちろんです、稼働させたのは社内でのみ通信可能な有線だけです。その他にも動かしているものもありますがアナログ的手段のみ。外界から侵入は物理的に不可能、まさに電子の孤島です。ご安心を。』
いつもならこんな長話をせずに『アレは?』で通じるんだけど今日はユキがいるので口頭確認多め。物騒なこと言ったり、実際に行動に移すヴィランはニンジャでユキも慣れてる。けど今回はイヴが死にかけたということもあり心配かけちゃった。なので安心させるためにこういうやり取りをしている。
顔はうまく取り繕ってるけど一緒にいる時間が長いと雰囲気で解っちゃうんだよね~、まぁ私もすぐそういうの看破されるから親友ってそういうものなのかもしれないけど。
「あ、ちなみにだけどウルトロン君はどこまで盗み見した?」
『マスターを含む所属研究員の方々のデータと本年度の予算関係、各種提携関係にある管理情報……。まぁマスターが直近まで研究なされていたブラックホール関連のデータと【記憶】以外はすべて見られました。』
「……つまりニンジャくんの解剖映像も? 実質全部じゃん。」
あ、やだ。ユキそんな目で見ないで! 解剖って単語出た瞬間思いっ切り引かないで! だってさだってさ! あの謎エネルギーとかニンポーとか特殊な臓器か脳みそになんか秘密があるかもって普通考えるじゃん! そういうのって開かないと解らないじゃん!
「オッケーゲデヒトニス、つぐみに最適なお仕置き方法教えて?」
『バイタルチェックの結果、お嬢様の血中アルコール濃度が非常に高いです。一定期間の禁酒はいかがでしょうか?』
「さっすがゲデ君。というわけでつぐみのお部屋にあるお酒全部没収ね?」
「えぇ~~~! しょんなぁ……。」
うぅ、私のお酒……。
まぁそれは置いておいて、ブラックホール関連の技術と【記憶】は無事か。たぶんイヴたちが無事だったニュース、その次にいいニュースだね。正味ウルトロンごときにブラックホールの実用化は無理だろうから流出してもまだ良かったんだけど、自暴自棄になって地球ごと消し飛ばす可能性もあったから安心安心。『記憶』の方は言わずもがな。
……え? なんでウルトロンがブラックホールの実用化が無理って判断したかだって? そりゃ私ですら行き詰まってる内容をたかが平和維持プログラムとして作成された戦闘AIのウルトロンが出来るわけないじゃん。それが理由ね。トニーやバナー博士レベルの天才に負けるのは別にいいけどぽっと出の映画一作品分のヴィランごときに負けるんだったらヒーロー続けられないですから。
「さぁって、じゃあ石井っちに……。あと眼帯つるピカお髭ふさふさ無期限バカンスおじさんにも連絡入れとくか。イヴ~!」
『お任せを。』
ユキの膝を枕にさっきまで寝ていたソファから降り、立ち上がる。少し歩いて目指す場所は周りの機器と比べると格段に時代遅れな箱、2000年代初頭のコンピュータだ。外界から遮断され、ワープロとしての機能すら怪しいパソコン。ここに私の【記憶】が眠っている。これを読むには私自身が開くか、私が死んだ後に親しい人がこのラボに入るかのどちらかだけ。イヴも見れない秘密のデータ。
もちろんここにはウルトロンが引き起こす事件、そのすべてが記録されている。彼に対して切り札となるヴィジョンの情報も。もし知られていればそれに合わせた不確定な未来に対応していかないといけなかった。これを見られなかったのは本当にありがたい。
「……あぁ、そうだ。心臓を抜き取られ握り潰される感覚、それだけじゃ足りない。地獄ってものをちゃんと教えてあげないとねぇ?」
◇◆◇◆◇
と、まぁ意気込んだのはいいんだけど……。
「はい、クリアクリア! おかわりありますかぁ~?」
『状況終了です! お疲れ様でした! それとお嬢様、本部からお電話が来ております、用件だけ聞いておきましょうか?』
「あ~、んじゃお願い。あとすぐ大阪の方戻るから撤収と引き続き警備よろ。」
ニンジャがねぇ……、うん。いるんですよ。
映画でウルトロンはアベンジャーズから逃げ出したのち、自身の新しい体を作りながらマキシモフ兄妹の引き入れや悪人の消去、各種研究機関からデータの奪取を行っていた。それだけなら可愛いいものなんだけど、この世界におけるウルトロン君はなんと人類浄化主義者。マジで何するか解らないということでファイアボールの新しいタスクに『ウルトロンの警戒及び国内外の研究機関の警備』が追加された。まぁアジア圏内だけだけどね?
そんな感じでウルトロンに気付かれないようアナログ的手法を用いて警備固めてたんですけどねぇ……。全世界にウルトロンの発表してないせいかニンジャくんが『あ! なんか人集まってる! なんかよさげなもんあるんとちゃう? 襲ったろ!』な行動し始めちゃったんですよね……。
あのさぁ……、子供じゃないんだからさぁ……。何というか頭潰したおかげで組織的行動しなくなったのはいいけど、もうちょっとこう……、ないんですかね? あと日本の総大将潰したせいで世界各地に設置されていた支部が『あ! ツラヤバ死んだやん! いい機会やしこの国で勢力圏広げて日本に逆侵攻してやろ!』ってのも増えたしさぁ!
「よいしょっと、はい着陸。アムステルダムもお疲れ~。」
『ですのでゲデヒトニスです。』
イヴの代わりにサポート中のゲデヒトニスに礼をいい、中国のファイアボールの支部に現着。スーツ脱ぎながら部下の子達に簡単な指示を飛ばして、日本に帰る準備を進めさせる。ちなみにイヴとユキは日本でお留守番中というかお仕事中。何を思ったのかハイツレギスタとスタークインダストリーの株価操作をウルトロンがやっちゃったみたいで株価が大混乱、日経とかダウとかが一万切った感じ。
そのせいで日本とアメリカのお偉いさんとペッパーとユキでお話、イヴはウルトロンが引っ掻き回したのを直そうと苦戦中ってわけです。
「月曜の朝から阿鼻叫喚だったもんね……、ユキとか信じられないくらい青くなってたしトニーからメールで聞いたけどペッパーも発狂しかけたらしいし……、どうにか持ち直してくれるといいけど。」
『不正が発覚したため取引は一時中断されていますが……、この事件のおかげで各地のウルトロン襲撃が隠れているのはなんとも……。』
「すでに量産されてるみたいだし、さすがに全世界は守れないからねぇ……。ま、割り切るしかないか。」
映画では殺されなかった研究者たちも、ついでで殺されている。騒ぎを大きくすると面倒になることを理解しているのか虐殺とまではいかないけどかなりの人たちがやられてしまった。アメリカの方にいるみんなも調査する班と手の届く範囲で守る班で分かれてるみたいだけどね……、やっぱり世界は広すぎる。
どうにかして手を伸ばすか、もしくは人を増やさないと。そう考えているとトニーからのメールを受信する。秘密回線+暗号付きの重要なやつだ。
「何々……、あぁ。なるほど。ヴィブラニウムの件ね、南アフリカにて現地集合、ウルトロンが襲った施設にある特殊金属の情報からそこを狙う可能性が高い、ね。」
なるなる、原作では飛ばされていたせいでこのイベントが来る時間が解らなかったけど思ったより速かった。武装とエネルギーは……、ブースター追加したら何とか持つか。帰りは迎えに来てもらえば戦闘自体は何とかなりそうだね。
「ゲデヒトニス! 予定変更でスーツに予備のTail追加! あと今ある弾薬全部補給! イヴに連絡して戦闘時のみこっちに来てもらうようにして!」
『かしこまりました、5分ほどお待ちください。』
「それと、君にも出てもらうかもしれないから衛星を南アフリカ上空に移動!」
『……! 最善を尽くします。』
ゲデ君も頑張ってるけどまだまだイヴには劣るからね。スペック的には……、ジャーヴィスやイヴよりは下だけどこの時点のフライデーよりはかなり上って感じかな? まぁなんにせよ頑張れ。
このままこの支部の司令部に移動しようとしていた足を発着場の方に戻す。恨みを返すタイミングはもう少し後になりそうだけど、やるからには全力で。そんな感じで気合を入れなおしていると後ろから足音、振り返ると確かこの支部を任せている子だ。
「お嬢様! お急ぎのところ申し訳ありません! テン・リングスのウェンウー殿が今後の取り決めについて会談を行いたいと! どう返答いたしますか!」
「あ~~、どうしよ。……とりあえず一か月後あたりに面と向かって話すって言っといて。場所や詳しい日時は君に任せるけど私たち外からお邪魔してる身だからあっちの顔立ててね?」
シャン・チーのパパ上かぁ、本物テンリングスのボス。……もしかしてウチの子があっちのシマに迷惑かけたとか? それともウルトロンがそっちにも行ったのか? まぁどっちにしても今はちょっと無理。
「それと基本うちらは日本から世界に迷惑かけてるニンジャの排除しか考えてないってことを押し出すのと、表に迷惑かけてなければ不干渉、こっちが迷惑かけたのならちゃんと謝るの三つ。ちゃんとそれはあっちに伝えといてね? 勘違いして攻め込まれたら困るから。」
「わかりました、早速そう伝えてきます!」
これから物語が加速します。よろしくお願いしますね。