「え、私が前出るの? いや別にそれはいいんだけどこういうのってキャップがやるんじゃ……?」
「今回の相手は機械だからな、それに僕は経験がある。」
「あ~、隠密とかそういうのね。まぁ確かにウルトロン相手じゃ光学迷彩聞かなそうだしちゃんとしたスキル持ってるキャップの方がいいか。……了解、とりあえず煽りに煽って集中力消し飛ばすね!」
「……ほどほどにな?」
南アフリカの沖の廃船場、解体業者すらも寄り付かない廃れた場所に活気がこもる場所がある。廃棄された貨物船、その中に裏の住民の住処があった。古くさび付き外から見れば目ぼしいものなど何も残っていなさそうな船であるが、少し中を覗けば多くの従業員が明らかに違法な兵器を作っている。
チャーチル、ユリシーズ・クロウという裏の武器商人の拠点の一つだ。
そんな自慢の城にある自分だけのデスク。ガラス張りの壁の内から従業員の作業を監視しつつ、彼は電話先の相手に向かって声を張り上げていた。
「ふざけんなよ、こっちは短距離熱探知ミサイル6基を送ったのにガラクタパーツを積んだ船をよこしやがって、しっかり払ってもらうぜ。じゃないと次に送るミサイルは直にブチこんでやる。」
感情を爆発させるわけではない、しかしながら舐められればこの世界で生き残ることはできない。最近はただでさえ厄介な組織が増えてきている。客として相手にできれば万々歳だったのだが……、生憎どちらも彼のような武器商人はお呼びじゃない。片方は明らかに技術レベルが上で自前の工場持ち、もう片方は武器要らずの化け物集団だ。商売のやり難さに苛立ちを感じながらも、今は目の前の仕事。次はないと脅しながら手早く話を終わらせ回線を切る。
「さて、じゃあ続きを……。」
商談を一つ片づけ、電話がかかる前にしていた作業に戻ろうかと思った瞬間。船内の照明が落ちる。……見た目は悪いがこの船は色々改造済み、ただ電気が落ちただけならば補助電源に移るはず。だが視界は暗いまま、自身のデスクまで響く授業員の声も落ち着きがない。
職業柄こういった荒事の予感を感じるのはよくある、つまり対処法も体が覚えている。すでにこの部屋に忍び込んでいるかもしれないということを思考の隅に起きながら机の上に放り投げた拳銃にゆっくりと手を伸ばした。
肌で感じる気配、そこに誰かが息をひそめている。狙うのは唯一の出入り口である目の前の開け放たれた扉。慣れた手つきで銃を構え、常人であれば反応できないであろう速度で引き金を引く。
発砲音。
引き金は完全に引かれた、撃鉄も落ちている。しかしながら感じたのは風。暗闇に向かって伸ばしていたはずの腕は強い力によって地面に向けられ、持っていたはずの拳銃は奪われた。机に金属音、視線を移せば放たれたはずの弾丸が薬莢ごとそこに置かれていた。
視界が闇に慣れていく。子供が二人。
「……あぁ、強化人間か。ストラッカーの秘蔵っ子だな。」
口に笑みを浮かべ再会を喜ぶような声を上げるクロウ。狭い部屋の中で隅を取れるように移動し、敵意がないように腰を椅子に降ろす。伸ばす手は来客用に用意していた飴が乗せられた皿だ。
「飴食うか? うん? ……ストラッカーは残念だった、アイツは世界の流れが良く解っていたのになぁ? これからの商売は人間よりロボットだって。」
その話を聞き明らかに感情が顔に出る二人、強化人間として調整された二人であるがまだ若い上に根幹はただの人間だ。一瞬にして部屋の雰囲気を自身のものへと変えた武器商人と比べれば明らかに経験不足。
「知らなかったのか? ……お前たち初めてか? 人を脅すのは。悪かったな、怖がってなくて。」
「……誰にでも、怖いものはあるはず。」
ワンダがそう反論するが……、目の前の武器商人には意味がない。ただ力で押しつぶすのであれば答えは違ったのだろうがそれだと意味がない。
「イカが怖いね、深海にいるディスコみたいな明かりを付ける奴。」
手振りを付けながら目の前の子供を揶揄うようにイカの説明を始めるクロウ。目の前にいるのが我らのドロッセルお嬢様であれば「へ~、よく知ってるね。じゃあせっかくだしゲソ焼きにしてあげる。達磨一人入りま~す!」などと言いながら真顔で一つの命を闇に葬るのであろうが……、まぁ今回はそうならないだろう。おそらくだが。
「……もし俺の頭の中を弄るのならでっかいイカの幻を見せろ。商売の話をしに来たんじゃないならなぁ。……親分は誰だ?」
ゆっくりと立ち上がりながら語気を高めていく今日の被害者。
「俺はトップの人間としか……、取引をしないんだよ。」
その瞬間、吹き飛ばされる武器商人。何らかの方法で室内の話を聞いていたウルトロンによって攻撃を受けたのだ。授業員を見張るために壁材をガラスにしていたのがあだになった。
「トップの人間などいない、……さぁ楽しい商売の話でもしようか。」
トップの人間、その言葉に怒りを感じながらも言ってしまえば初めてのお買い物(恫喝アリ)。倒れ伏したクロウの胸に自身の脚を置き、力関係を明白にしながらウルトロンの顔は不気味に笑っていた。
◇◆◇◆◇
「この岩の上に私の教会を建てよう、ヴィブラニウムで。」
いくつものロックが外され彼らの前に現れるのは青白く光る黒い結晶、この星において一番硬くその他多くの特異な性質を持つ鉱石。多くの権力者たちが喉から手が出るほど欲しいヴィブラニウムがそこにあった。もちろんつぐみももらえるのなら全部欲しい。
「そいつはな、手に入れるまでにえらい苦労をしたんだぞ。何十憶って価値だ。」
「……フ。もう支払いは済んでいるぞ? もちろんお前のダミー会社にな。」
そう、何十億という価値は正規の方法で入手した場合の時のみ。電子生命体であり銀行口座の数字を弄るくらいわけがないウルトロンにとってはこの星にある物すべてに価値が付いていないのと同じ。紙幣で支払う場合は少々手間を取ったであろうが今の時代はキャッシュレス。株価の不正操作を片手間にこなす彼からすれば造作もないことだ。
「金融とはおかしなものだ……、人もその欲を解放せずに金に頼っていれば良いものを。ん? そのままだと崩壊していたか? まぁどちらを選ぼうとも結果は同じか。」
慌てて口座を確認するクロウとその護衛として付いてきた部下。手元の携帯端末には取引が完了した知らせ、振り込まれた金額が休む間もなく流れ始める。通知音代わりのバイブレーションが収まることを知らない。
「味方も敵もリッチにする。その後どちらが本当の味方になるかを見極める。そして敵は跡形もなくなるほどに排除する、世界を築き導くのは勝者だ。」
「……スタークか?」
武器商人、クロウの声が辺りに響く。明らかにウルトロンの纏う空気が変わった。
「…………なに?」
「トニー・スタークが昔似たようなことを言ってた。いやだが後半はどこで聞いたんだったか……、お前。奴の製品か?」
「何だと! 私は違う!」
その一言が彼にとっての禁句だったのだろう、思わずその左腕を掴み武器商人を吊り上げてしまうウルトロン。それを見、弾かれたように動き始め銃に手を伸ばす護衛だったがワンダによってそれが止められる。
「私は違う、この私がスタークの操り人形に見えるのか! それともあの愚か者の従者にでも!? よく見ろ、アイアンマンに似ているか! ドロッセルとどこが似ていると言うんだ!」
感情のまま、怒りのままにその腕を振り落としてしまうピノキオ。機械生命体が勢いよく腕を振り下ろすのだ、柔らかい人間の腕など簡単に断ち切ってしまう。肉の塊が床に落ちる音、赤い液体の滴り。ウルトロンの脳内に嫌になるほど見てしまった血の映像がフラッシュバックし高ぶっていた感情が収まる。
「わ、悪かった。すまん、あぁすまない。大した事……、いや本当にすまない。何かしらの埋め合わせは必ずしよう。しかし納得がいかないな、私をあの者たちと……、一緒にするな!」
消火したはずの怒りが再燃し、また感情のままにクロウを蹴り飛ばすウルトロン。まだ生まれてから一月も経っていないのだ、感情のコントロールを学ぶ時間も、学ぶ必要性も彼には理解することができない。作られた命である彼には感情のような不要物は必要ないと考えられ、生み出された。もし作成者が違えばそのやり方も次第に覚えていくのであろうが……、まぁ終わったことを考えても仕方ない。
「スタークだと!? その名前を聞くとイライラする! あぁ! ツグミ! 貴様もだ!」
「悲しいな、息子よ。パパのハートは割れそうだ。」
「……うぅ。ママ泣いちゃう、ヒステリックに泣きながら首絞めちゃうかも。『お前なんか産まなきゃよかったッ!!!』」
金属と金属がぶつかる音、着地音が二つ。ウルトロンが振り返るとそこにはトニー&ソー、+私。連絡が来てから文字通り飛んできて何とか時間に間に合った。ちなこのメンツは所謂火力組で構成されている。本来ならキャップがここに入るはずだったんだけど『僕は隠密も出来るからな、そっちは任せた』って言われちゃったんで仕方ないね。
にしてもねぇ、やってるじゃんか。クロウちゃんの腕切り落としちゃってまぁ……、まさに苦労ちゃんってか? あはは! クソ面白くない。切り落とすなら首にしておけばいいものを、なんで中途半端に生かすんですかねぇ? というか人類浄化宣言してるくせにマキシモフ兄妹を呼び込んでる辺り自分では手が足りないって踏んでるのかね? 使い捨ての駒なのか。
「……何か家族でのトラブルがあったのか? 話なら聞くが。」
「あ、いや違うからねソー。さっきのアニ……、劇のセリフ。」
それにしては妙に気持ちが入っていたというか……、と小声で話しかけてくるソー。いやウチそんなヤバめの家庭じゃないからね? ちょっと心配性の父上におおらか過ぎる母上がいるだけだから。幸せですよ私は。まぁそもウルトロンのママじゃないし現状産まれて来てほしくなかったのは事実だけどさ。
「はいはい、お涙ちょうだいだね。ここは懐かしい、スタークさん。昔を思い出す? あぁそれと横の方は毎日見てるのかな?」
そこにピエトロ、あの足が速い方が声を掛けてくる。こちらも感情たっぷり恨みたっぷりだね。……というか私もしかしてオムレツのくだりスキップしちゃった? 口挟んだせいで? うそぉん、やらかし? あれ好きだったから見たかったのに……、まぁいいや今度本人に言ってもらお。
「僕は武器商人じゃない。」
「私も違うよ、あと毎日は見てない。というか顔合わせ初めてなのに当たり強くない? 今ならビンタだけで見逃してあげるからさっさと妹連れて逃げたら?」
「……よく言うわ。」
う~ん、いやほんと当たり強いねこの兄妹。そんなに私の事嫌い? ストラッカーに何か吹き込まれたのか、そもそも武器とか兵器作ってる人間に対して当たり強いのか解らんけど……、とりあえず今後後輩になると思うから黒歴史にならないようにしたまえよ?
「ふぅん、ドロッセル。自分は正義の味方のような顔をして実際はテロリストどもの元締め、一体何人殺したんだ? お前は一体何を考えて行動している? あぁもう沢山だ、考えたくもない。二度と口を開かないでくれ、反吐が出そうだ!」
「ニンジャは人間じゃないよ? お解り? あぁ、いやゴメン君みたいな産業廃棄物には解らないか。どうせヴィブラニウムを狙ったのも『硬い金属だから!』『キラキラしてる!』とかの理由だろどうせ? パパの足元にもママの足元にも辿りつけないねぇ? 哀れな哀れなピノキオさん?」
「ふざけるなよ破綻者がァ!」
トラクタービームによる引っ張り、Tailの反重力機構で相殺。戦闘開始だ。私が指先からのリパルサーをTailで受け止めている間にトニーによる突貫、戦場を空中に移す。私もそっちに混ざりたいところだけど……、下からセントリー。ウルトロンの劣化個体がうじゃうじゃ出て来た。これに+して厄介な兄妹でしょ? う~ん、大変。
とりあえずリパルサーで胸部破壊、原作より明らかに数が増えている彼らをソーに任せて二人の方に向き直る。
「イヴ、エレクトロ。」
とりあえずのピエトロ対策、ニンジャ対策用に用意してた全身放電状態。白い体に青い電流がほとばしる、さながらソーモードって感じ? まぁ恐れ多いから言わないけど。
と、不利を悟ったのか私の視界からピエトロが掻き消える。標的をソーにしたのか後ろから鈍い音。残念ソーは神様なので体当たりなんかそこまで効かないのだ! あ、そうだ。足元からニンジャみたいにセントリー上がって来てるしキャプテンたちに救援たのも。
「じゃ、ちょっとあそぼっか。ワンダちゃん。」
君マインドコントロールできる上にストーンと同じ構成のエネルギー波出せるんだよねぇ? まぁエネルギー波の方は別にニンジャがいるから驚きもしないけどそのマインドコントロールは駄目なんだよね。はっきりとはわからないけどたぶん人の記憶のぞき見できるみたいだしさぁ。……私の頭の中に色々ヤバいもの眠ってるからちょっとだけ気絶してくれない?
そんなことを思いながら両手のリパルサーを彼女に向ける。相手も戦闘準備は万端みたいで手にエネルギーを集中させる。先手必勝、手のリパルサーはブラフで私の周りで浮かんでいるTailからビーンバッグ弾を発射させる。
しかし……、弾かれた。聞こえたのは金属音、視界が鉄人でふさがる。
「……いやちょっと多くない?」
ウルトロン・プライム。先ほどまで私たちと話していたウルトロンの上級機体が三体、視界を遮るように私の前に降り立った。
バナー博士
「そう言えばツグミ、開発に携わっていなかったのになぜママと自称したんだい?」
ママ(偽)
「まぁ確かに実際は『近所のおばさんポジ』だけどあのシーンじゃやっぱ“ママ”でしょ。実際教育元はスターク社と私のハイツレギスタサーバーからみたいだし……、まぁ育ての母?」