前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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本当にその道であってる?

 

よし、っと。バナー博士の方はこれで時間稼ぎするとして……。いや実際どうなんだ。私は次に何をするべき? ニューヨークの時みたいに今回は簡単じゃない。チタウリは実際何かしらの自然災害みたいなものだったけど今回の相手はウルトロン、意思ある敵だ。打つ手を間違えると進むべきルートから外れることになる。

 

「イヴ、光学迷彩起動。考える時間が欲しい。」

 

『……かしこまりました。トニー様とゲデヒトニスの戦闘状況をモニター致します。緊急時にはこちらの方で戦闘行動を開始してもよろしいでしょうか?』

 

「うん、それで。……いやもうイヴに代わってもらった方がいいか。ゲデはボディから抜け出せばまぁ何とかなるしトニーの方に注目しておいて。」

 

その言葉と同時にスーツの制御権が私からイヴへ、私が灯す水色の光から赤い光へと変化する。人目の付かない岩場に身を隠し、リアクターの火を落すことで高エネルギー検知からシャットダウン。最後に補助電源で光学迷彩を起動して一時的にこの戦場からロストする。

 

正直怪しい行動でしかないが……、まぁそこまで悪影響は出ないと思う。生体反応自体は消せないから残ってるし、そもそも私が怪しいというかグレーな存在なのは周知の事実。でもみんなとは交友深めてるし信頼も……、多分されてる。まぁ言ってしまえば少し怪しまれるよりも今この時点で考えを纏めることの方が大事って判断した。今更って感じかもしれないけど引き返せるタイミングはここだと思うから。

 

 

目的を再設定しよう。再定義でもいい。

 

私が求めるもの、それは出来るだけソコヴィアでの被害を抑えてウルトロンをこの世から消し去ること。これが一番大きい目標、もちろん映画で生き残ったメンバーは全員五体満足で帰って来てもらわないといけない。それがその次に進める必須条件。

 

そしてソコヴィアでの被害を減らすこと、こちらもとても大事。これができるかでソコヴィア協定が変わる。この協定はウルトロンの次に始まるシビルウォーのお話で登場する国連主導の条約だ。簡単に言うとソコヴィアが大変なことになりましたし、アベンジャーズ危険だから国連で管理しますね? って条約。これのせいでアベンジャーズは割れる。

 

……私の感情抜きにして考えれば、私が求めるタイムライン通り進める場合、この協定は必須になる。そして私が手を出すのも大体禁止。出来ることとすればワカンダと交友関係を先んじて結んで置くのと、ローディの体を守るってぐらい。ほんとそれだけ。

 

でもね、そうなるとさ……。私が抱えるファイアボールはどうなるのって話。

 

ファイアボールはヤクザ組織。裏の世界で動く私たちの、私たちだけの居場所。でも私が表でも活動するせいでグレーな存在。表でも活動するけど裏でも活動する。世界や国の法で考えるとまごうことなき犯罪集団だけど掲げる目標は平和の維持。ニンジャの排除。……ソコヴィア協定に思いっきり引っかかる。私が表に出ているせいで隠すことも難しい。

 

私がみんなを率いてることはアベンジャーズのみんなが知ってる、S.H.I.E.L.D.の元メンバーたちも知っている。もちろん電子上の記録はすべて改竄することが出来る。けどね? アナログ的記録や人の記憶は消せない。私がウルトロン対策として紙面でやり取りをするように指示してから彼のハラスメント攻撃が穏やかになった。これは私たち電子の世界で生きる者たちは物理だけで動く者たちに弱いってこと。……ファイアボールの隠蔽は不可能。

 

ハイツレギスタとしてもファイアボールとしても日本という国に対しての影響力はある。国内最大の企業にしてニンジャに対抗して勝利した実績のある犯罪組織だしね? 元々ニンジャと繋がっていい汁吸ってた政治家とか把握してるし、珍しくまともな政治家とのパイプもある。だから日本から国連に対して働きかけることも不可能ではない。どう考えても結果は変わらないという点を除けばね?

 

もし映画の通りソコヴィア協定が進めばどうなる? どう考えても犯罪組織であるウチは排除対象、それと繋がってるハイツレギスタも排除対象。もちろん私個人もヴィラン落ちだ。最悪新生アベンジャーズとしての最初の仕事が私の討伐かもしれない。……ありえない話じゃないのがねぇ?

 

そうなったら多分私もワカンダに逃げ込むことになるか、それとも日本の裏社会に潜伏することになるけど……、そうなると行動が完全に制限される。私にとってウルトロン以降の時間は金より重い。ワカンダの進んだ技術力に触れるのもいいけど……、そのために時間は使えない。私は故郷であるあの国を守りながら外に目を向けないといけない。

 

2009年から始まった私の、私たちの活動はたくさんの人に影響を与えて来た。それは今も変わらない。……私の両手に収まる人たち、私の組織で、会社で、生きている人がたくさんいる。いてしまっている。この場所に辿り着くためには必要だった、彼らがいなければ私はどこかで死んでいた。……そんなみんなを捨てることはできない。……出来るわけがない。

 

 

……話を戻そう。私は私たちみんなを守るためにソコヴィア協定の成立を阻止する。それが目標になる。タイムラインからは外れる、私の記憶も完全に使えなくなる、今後もっとひどいことが起きるかもしれない。……でも今、私が抱える人たちを見殺しにはできない。これが最善で、最良。たぶん、そのはず。未来の可能性を知る私なら何とか出来る。出来ないといけない。

 

 

今の私に世界を守る力はない、でも世界を好きなようにかき混ぜる力はある。企業から国へ、動かすものが変わるだけだ。みんなを守って世界も守る。手段は問わない。

 

 

ワンダの無力化、および拘束を失敗してハルクが暴走した現状。おそらくトニーのベロニカとゲデヒトニスを使ったとしてもそれを止め切ることはできない。ハルクは怒りの感情によって強化される存在。今の激怒した状態から現実に引き戻すにはそれ相応の力と犠牲が必要になる。

 

今ゲデヒトニスが戦っているような荒野では地形的に使える物が少なく単純な肉体性能での勝負になる。……これじゃベロニカとゲデヒトニスを合わせても勝てない。止めるには市街戦がベスト。使えるものが多いからね。

 

 

「イヴ、南アフリカにどれだけ人員割いてたっけ?」

 

『駐屯しているファイアボール構成員ですが小隊規模です。武装も最低限なため遅延戦闘すらおぼつかないかと。』

 

「……了解、彼らにはハイツレギスタ本社として避難誘導と医療支援を。それと政府の方にハッキングかけて避難警報だして。軍への指定も住民の避難重視、ハルクとの戦闘は避けるように。」

 

『かしこまりました。』

 

「それとウルトロンに邪魔されるかもだけどハルクについての報道の管理を準備しておいて。否定的な意見をある程度残して肯定的な意見を強く発信できるように。……最悪洗脳の部分だけ強調、出来るだけ彼に対するバッシングを抑えて。敵対している組織はヒドラで統一するのを忘れずに。」

 

『マキシモフ兄妹やウルトロンではなくヒドラですね。かしこまりました。』

 

「最後に、ユキに繋いで。」

 

 

電話がつながるまでの間に、戦況の確認を行う。トニーの方は少し苦戦しながらだけど順調に戦闘を進めている。空中にいるウルトロンが殲滅されるのも時間の問題だろう。あと肝心のヴィブラニウムだけど……、うん。よし、ちゃんと彼が持ち帰ってるね。ヴィジョンへの布石も大丈夫。ゲデヒトニスの方は……、あ~。うん。こっちも時間の問題かも。対サノスに向けての試作機だったけどやっぱりそこまでうまくいかないかぁ……。

 

 

『もしもし、つぐみ~? どうしたの?』

 

「あ、ユキ。ごめん、今大丈夫?」

 

 

そんなことを考えているうちに、ユキへの通信が繋がる。うん、秘匿回線一応構築しなおしたから傍受の心配もなさそうだね。にしてもユキの声に疲労が見えるな、またニンジャでもでたんかな? 私が海外に出てる時は日本全部ユキに任せちゃってるし。

 

 

『うん、さっき総理たちとのお話も終わって株価の方の問題も片付いたところ。この後ペッパーさんとの話があるけど大体……、2時間後だから大丈夫だよ?』

 

「あ、そう? そりゃよかった。……さらに追加の仕事頼んで悪いんだけどさ、色々お願いしてもいい?」

 

『いいけど……、何かまたあったの? アベンジャーズ関連?』

 

 

あ~、なるほど。そっちね。ウルトロンが株価操作して大変だった奴。いやはや、そういうのはユキにまかせっきりだったからなぁ……、今後は積極的に私もやる。いややらないといけないからさ、今は許してね。

 

 

「まぁそんな感じ、じゃあメモのご用意を。……最初に石井っちへの連絡、今進めているプランの決行が速まりそう、眼帯ちゃんにも連絡しておいて。」

 

「次に一回断った投資の話、フランスへのリアクターの輸出だけど無理やり進めることにして。あとあっちの大統領とも会談のセッティングも、私が直接行くから。」

 

「最後にだけど日本の国連脱退の話、アレガチでやるかもしれない。東南アジアの国家とかインド周辺国家も含めて第三の共同体作成を進めるつもりでいてほしい。……アフリカも混ぜようか。最後の最後まで粘るつもりではあるけど私たちの居場所がなくなるのなら……、本気でやるよ。」

 

 

この世界が何を望んでいるのかは解らない。……でもすべてを知っている私なら。もっと良い未来に進めるはず。そう、信じてやるしかない。

 

一時的な対立を作ったとしても、最後はみんなが笑えるような世界に。誰もが幸せであれるように。

 

 

『……了解。ま、ずっと傍にいるって言ったからね? ツグミの隣は私の特等席。だからちゃんと空けとくんだよ?』

 

「うん、ありがとう。」

 

 

そう言いながら通話を切る。

 

 

私はたくさんの人の命を見殺しにしてきた、知っていたけどその時に力がなかったり、それを変えることが怖くて動けなかった。……でも今は違う。上はまだまだいるし対処できないことも多い。だけど今なら、ファイアボールのみんなや……、ユキがいる。イヴだってゲデヒトニスだって。

 

皆を守るためにも、世界をより良い方向へ進めるためにも。今から動くべきだ。

 

すでに、ウルトロンを私は一度見逃した。ヴィジョンを生み出すために私はその逃走を許したんだ、私はソレが産まれることを知っているけど、その作り方は解らない。手伝うことはできるかもしれないし、完成品を見れば改良やもう一度作ることだってできる。でも0からは無理だ。

 

これによって韓国に決して少なくない被害が出る。ナノテクノロジーの技術を使って自身の新しい体を作ろうとチョ博士の研究所を襲撃するからだ。……でもヴィジョンというピースは世界に必須。ウルトロンが作ろうとした最強の体にジャーヴィスを入れることで完成する彼。彼は世界を守るために必要な存在、戦力的に見ても、タイムライン的に見ても、そして地球の最大戦力に近いワンダを戦いに引きずり出すためにも。

 

私はすべてを救えない、だからより多くの命を守るために動く。大丈夫、帰る場所がある今なら何でもできる、なんでもやって見せる。出来ない事なんかない。

 

 

 

 

……まぁそれはいい。とりあえず、今すべきことをしよう。

 

 

『マスター、トニー様の状況が少々よろしくないです。救援を行うのであれば今かと。』

 

「ありがとう、イヴ。じゃあすぐに行かないとね。……あなたは私に。何も聞かなくていいの?」

 

『私はマスターのことを信じていますので。』

 

 

 

「……そっか、なら期待に応えなきゃね?」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

場面は変わり、視点はゲデヒトニスの方へ。

 

 

 

 

『かしこまりました。試作対大型決戦兵器、ゲデヒトニスⅠ型。発進いたします。』

 

 

プランHに則り目標を再設定します。

 

我らが母であるお嬢様のルーティンに則り口頭での確認を実行。

 

 

『目標:現在暴走中のハルク、これの鎮圧または足止めの実行。それに付随して対大型生物用兵器の各種実戦検証も行います。』

 

 

普段自身の精神を収める小型のボディから輸送機TAURIへ。南アフリカの上空、戦闘が行われていた地点の後方に輸送済みの機体にだ。

 

既にハルクは付近の都市、ヨハネスブルグから1㎞のところまで移動している。この速度を対象が維持した場合到着は時間の問題。暴走状態のハルクが何を敵とするか、という疑問には情報不足のため答えを出すことはできない。人に危害を加えない可能性、ヨハネスブルグに何らかの敵が存在している可能性もわずかに存在する。しかしながら最悪は常に起こるものとして考える。そう教わった。

 

 

『目標を発見、こちらへ意識を向けさせます。』

 

 

TAURIはその制作目的から彼のような超人と戦うには少々武装が心もとない。8㎜の機関銃が二門。総弾数合わせて120。しかしながらその注意を向かせ、土煙によって一時的に視界を塞ぐのは容易い。それまでこちらを察知されないように行っていた光学迷彩を解除、背後からの奇襲を試みる。

 

地面を這う様に機関銃を掃射しそのまま対象へ攻撃を加える、予想通り視認できるようなダメージは与えられなかったが注意を引くことは出来た。振り返るハルク、明らかに怒りの感情を顔で表現している。あちらからすれば地面に舞い上がる土煙と上空に浮かぶこの輸送機が見えていることだろう。

 

 

『第一目標を達成。次に移ります。』

 

 

意識を輸送機から自身の新しい体へ。射出口を開けると同時に上空への退避を輸送機に命じる。武装は少ないが自身が扱うアタッチメント、そして替えのボディ。残機があと二つあの船に残っている。こちらをサポートできるが攻撃されない位置に動かしたという方が正しい。

 

地面に突き刺すように射出される自身、その動作に反動があったかのように上空へ退避する機体。着地の際にまき散らした土煙がさらに高く、広く。

 

一つの塊、サナギの状態から結合パーツを排出。四本すべての脚を地面に突き刺す。各関節状態良好。武装確認とサブカメラの起動開始。対象現在視界を確保するために行動中、猶予を確認。万全を期すためにシステムの確認も開始。

 

全ての脚を使い、それまで地面に接触していた胴体を宙に浮かす。上半身を回転させ対象の正面に向かい合えるように位置を調整。二本の腕部を開放、システムの確認完了。問題なし、また着地時に発生した衝撃による損害なし。腕部脚部共に正常に稼働中。

 

 

『メインカメラ、起動。』

 

 

胴体に格納されていたメインカメラ、それがゆっくりと元の形へ。

 

 

未だ舞い上がる土煙の中に、真っ赤な光が灯された。

 

 

『実験を開始いたします、お覚悟を。』

 

 

「GYAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

明確な殺意を乗せられた咆哮、そして突風。それまで周囲を覆っていた砂煙が何かに穿たれたように吹き飛ばされる。岩石の投擲と判断。自身の上空を通過、本機体に損傷な……、輸送機ロスト。

 

背後から轟音、輸送機の反応が消失したことを確認。すぐさま背面のサブカメラで確認すると先ほどハルクによって投擲されたであろう岩石が直撃、墜落している。これによりゲデヒトニスⅡ型及びⅢ型もロスト。本実験の約70%がデータ未回収で失敗したことを意味する。

 

 

(これは……、怒られるかもしれません。)

 

 

自身のメモスペースに『後方支援機はより高く、そして遠くに退避させること。そしてその距離から支援できるようにすること。』と記入し、勝ち誇ったような顔をする緑の巨人と対峙する。

 

 

『突貫します。』

 

 

鋼鉄製の黄色い腕と、緑の丸太のような腕が交差するまであと3秒。

 

 

そこから先は硬い金属のようなものがひしゃげる音と、化け物の咆哮が荒野に響き渡るのだった。

 

 

 







試作対大型決戦兵器 ゲデヒトニスⅠ型

型番:ハイツレギスタ社製試作大型戦闘機器 GT-1

瞳の色:クリムゾン・レッド

装甲材質:鋼鉄

動力:新型アークリアクター10基

武装:大口径頭部ユニビーム・リパルサー
   掌部リパルサー 二門
   7.7mm機銃 四門


大宙つぐみによって開発されたゲデヒトニス専用の大型戦闘用ボディ、その試作一号機が本機体である。終着点は対サノス戦において大型敵性体やサノスを破壊することだが、この試作機ではハルクと戦い抜くことが目的である。またブラックホールエンジンの開発や新型スーツの開発、現在のつぐみ・ゆき両者のスーツ整備などによって材料費が削られ、チタン特殊合金製から鋼鉄製に変更されたという悲しい過去を持つ。まぁと言ってもチタン特殊合金製でもハルクにはすぐさま破壊されるため鋼鉄製の方が安上がりだったという点もあるが。

頭部にあるメインカメラ、赤い瞳はユニビーム・リパルサーとしての機能も持っており、目からビームが出来る楽しい機能を保有している。すでに破壊されたため使用される機会はなかったが、搭乗席が一つあり、お嬢様が優雅なティータイムを楽しめるスペースが用意されている。お茶をこぼすとゲデヒトニスが拗ねるので注意が必要だ。

ディズニー短編アニメ『ファイアボール』一期の彼と瓜二つのボディをしており、後継機であるⅡ型、Ⅲ型もアニメの二期、三期と同じフォルムをしていた。しかしながらハルクに破壊されたし、アタッチメントとして音波攻撃装置やドリル、その他もろもろ含めて破壊された。

なお、操縦者であるゲデヒトニスだがハルクのパワーを0距離で見られることに若干喜んでおり、終始楽しそうにしていたことが記録として残っている。電子生命体である彼からすればボディを破壊されようともちょっとしたアトラクションにしかならなかった様子。イヴには滅茶苦茶心配された。
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