前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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役立たずになるまでは

 

「待っていただきたい。」

 

 

お、出てきた出てきた。

 

前方に広がる山々のホログラムを溶かしながら現れるのはワカンダが誇る軍隊、まぁ見るからに戦術がアップデートされてない気がするけどその技術力は明らかに私より上。前情報とこちらにとって致命的となる部分への対抗手段を用意することで圧倒的物量差があるにも関わらず互角。それに長年その実在を隠し続けてきたことを考えるとこの前時代的な布陣もブラフに思えてくるから困る。

 

 

(映画のアレ、確かに現代戦としてじゃなくて全く未知の存在と戦う場合ある意味正解なんだよなぁ。)

 

 

どんな戦術を使ってくるか、技術差はどうなのか。そのすべてがわからない場合指揮官が選ぶべきなのはあらゆる状況に対応できる陣形か、自分たちの力量を最大限に生かせる陣形の二択。驚異的な科学力を持つワカンダが対応力をそちらに任せ、後者を選ぶことはまぁ普通だ。

 

っと、現実逃避をやめてちゃんと対応することにしようか。

 

指揮官先頭ならぬ国家元首先頭を決めてくるのはティ・チャカ国王陛下。その後ろにはティ・チャラ王子殿下。二人ともヴィブラニウム製のパンサースーツを着て頭部だけを露出させてのご登場だ。あ~、うん。軍隊プラスでそのスーツ姿はね……、ちょっと困る。だってガチの戦闘態勢じゃんか。ウチの子たちこれだけ連れてきてなんだけどやめってもらってもいいでしょうか?

 

 

(うん、視界にキルモンガーはいない。ホログラムもイヴは検知できてない。目の前にいるのは本物。とりあえずは想定の最悪は外れたっぽい。)

 

 

「お初にお目にかかります国王陛下。自己紹介のほうは……、いりませんよね?」

 

「貴殿のことは存じ上げている。聡明なあなたのことだ、我々のこともおそらく我々以上に理解しているのだろう。それ故にこちらが望むこと、それも理解なされているはずだ。」

 

「もちろん。その黒豹の力の由来、王位の継承方法、どの時期にヴィブラニウムを大量に含んだ隕石が墜落したのか、今市場に回るヴィブラニウム総量が貴国の埋蔵量と比べると塵程度だということ。たぁ~くさんしってるよ? 全部詳しく教えてあげた方がいい?」

 

 

言葉を重ねながら、目線でそちらに放り投げたウルトロンの残骸を指さす。こちらとしてはそれの出どころなどについて詳しく説明してもらわないと戦う以外の道はない。そういうスタンスだ。それほどまでに彼らの存在はこの世界にとって重く、善悪が反転していた場合やその最終目標が違う場合この時点で全力をもって叩き潰す、もしくは削る必要が出てくる。

 

 

「なるほど、その知識をどうやって手に入れたのかについて聞きたいところだが……。貴殿の疑問に答えよう。まず貴殿が考えている技術の流出、残念ながらその件についてはこちらは把握していない。かといってこの実物を見せられてしまえばその件について言い逃れはできない。貴方方に多大な被害を被る可能性があったこと、世界に危機をもたらしてしまう可能性があったこと。その責任は我らにある。」

 

「……ふぅ~ん。」

 

「そしてこのクロウが持ち出した以外のヴィブラニウム、詳しく確認しないことにはわからないが確かにこれだけの量をそちらの市場で手に入れるのは難しい。そしてその市場の監視は我々も行っていた。これだけの量が彼によって強奪されたのは確かにありえない。すぐに盗掘について調査させていただく。」

 

うん、これは……。大丈夫そうかな? ちょっと後ろの兵士さんとかティ・チャラ王子からやばい目で見られてる気がするけど王様の方はガチで謝罪してるっぽいかな? まぁ口調とか服装とかがちょっと強めなのはまぁ相手が私たちみたいな反社だから仕方ないとして結構下に出てくれている。たぶん私の知る彼で間違いない。

 

 

「貴殿らの裏社会における功績、私は強くそれを評価している。そして貴殿らの文化。責任の取り方も。……この一件、今後世界がより平和に、安全に発展していけるように。どうか私の首一つで納めてはくれないだろうか。」

 

 

ワカンダ陣営から、揺れが生じる。まぁ自分たちのトップが、いくら人格的にも能力的にも優れててある程度成長している後継者がいるとしてもその首を差し出そうとしてたらまぁやばいよね。そしてここで私が断ったらもっとやばくなる。……あはは、やっぱすごいや。

 

あと私たちの母体確かにヤクザだけど指詰とかやってないからね? 失敗した責任は全部成果で返してね方式だし。あと失敗した前の子たちは大体死んじゃうから責任もクソもないうえに決定権とか全部私にある以上すべての責任が私にあるわけで……、うん。マジで体で支払ってたらこの世にいないよ私。もしかしてワカンダジョーク? まぁジョークでないにしろここまで言われたらね。

 

 

「OK、じゃぁ……。みんな~! 今日のお仕事終わり! 全軍退却~!」

 

 

ぱっと後ろを振り返り撤退の号令を上げる。それと同時に上空で隠れていたウチの新型ヘリキャリアも登場、帰還用の子船を吐き出し始める。人だけならそんなに時間かからないけどね、今日は戦車まで持ってきちゃったからいろいろ大変だ。あ、イヴ? 一部はアフリカに駐屯させておくからそのまま駐屯地へ帰してね。

 

 

「そこまで言われちゃったらもう、ね? ツグミちゃんお手上げって感じです。や~っぱ冷戦期を裏で戦い抜いて平和を維持してきてくれた先代さんは違うね。後輩ちゃんは見せつけられちゃいました!」

 

「……感謝する、ドロッセル。」

 

「いえいえ。……この度はこちらの不手際で貴国に多大なるご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした。この詫びは後日正式に書面にて送らせていただきます。」

 

 

こっちの都合で彼らに余計な負担を強いたのは事実だ。私にとって必要な手順であったとしても相手にとって不要なイベント。まぁごめんなさいはちゃんとしようね、ってこと。

 

 

「結構だとも、貴殿らが動いてくれたおかげで我らの熟すべき仕事も大いに減った、さらに長年探していた盗掘されたヴィブラニウムまで届けにきてくださった。むしろ我らが歓待の宴を開きたいぐらいだ。」

 

「あ、そう? ならお言葉に甘えて。まぁどっちみち交流は開きたかったからさ、今度使節団って形で人送るよ。あと宴とかはいいから技術提供かヴィブラニウム頂戴?」

 

「ふふ、そうか。歓待の準備をしておこう。」

 

 

うん、お話はこれで終わり。あとは簡単なやり取りを済ませて私もヘリキャリアの方に帰るとしますか!

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

「ツグミ、お疲れ様。」

 

「あ、ユキ。そっちもお疲れ~。」

 

 

ワカンダから大阪までの帰り、ヘリキャリアに存在する私の個室で休息をとっていると。艦長さんが訪ねて来てくれた。今日はずっとヘリキャリアで指揮を執っていてくれたからユキも疲れてるだろうにわざわざ顔出してくれるなんて……、う~ん大好き。

 

 

「はいはい。……まぁ実際に戦闘は起きなかったしね。負担も軽かったしそんなに疲れてないよ。まぁ私は疲れとかそういうのより一緒に戦えなかったのが不満かな?」

 

「前線に出せってこと? い、いやさ。指揮できる人間が限られてる現状そういうのはあんまり、ね?」

 

「……そういうことじゃなくてさ。ウチはツグミの元で戦ってる人たちばっかりなんだよ? あなたが倒れたら組織だって崩れるし悲しむ人だってたくさんいるんだから自分だけ矢面に立つようなことはやめて。この前のウルトロンのことだって組織の人たちに手伝ってもらったらもっと早くいろいろ終われたでしょう?」

 

「あ、あはは……。ごめん。」

 

 

いつもの雑談というより、心の中にしまっていたようなものが溢れ出ている。そんな風にユキは言葉を紡ぐ。まぁ実際みんなに話してたらウルトロンはもうちょっと早く簡単に片づけられてたんだよね。実際彼の情報がほぼ筒抜けだったみたいなもんだし。

 

 

「……はぁ。うん、ツグミが私たちに話せないことがあるのはわかってる、でもね? いろいろ共有してくれないと不安になるし、それであなたがつぶれちゃったら本当にどうしたらいいのかわからなくなっちゃうんだよ? あのウルトロンと戦ってた時だってさ、明らかに普通じゃなかった。みんなにはバレてなかったかもしれないけどさ、私にはわかっちゃうんだよ? ……そんなに私は頼りない?」

 

 

この星における特異点、私たちよりも高度なテクノロジーを有した軍隊。それと戦うためにいろいろ用意して勝率がギリギリ二割。そのことはもちろんみんなに共有している、実際死ぬ気できた奴もいただろう。私も考えていたもしかして、は目の前にいる彼女も同じだったようだ。

 

少しだけ、潤んだ目で見つめてくるユキ。……うん、もうちょっとだけ。もうちょっとだけまってほしい。せめて私が知る記憶が完全にいらないものになるまで。世界はちょっとずつ私の知るものから離れていっている。だから、もうちょっとだけ、あなたに拒絶される覚悟が終わるまで。

 

 

「ううん、頼りにしてる。」

 

 

こんな時、昔みたいにもうちょっと背丈があったらよかったのに。足りない背を伸ばして彼女を抱きしめる、この顔を、見せたくないから。使い物にならないかもしれない記憶に縋りつく、愚かな私の顔を見せたくない。この世界に潜む終わりを知りすぎている私の顔を、一番のあなたには見せたくない。

 

 

「……ごめん、ちょっと変になってた。」

 

 

私より大きい彼女、その分力もあなたのほうが強い。少しだけ目元をぬぐったユキは滑るように私から離れる、まぁそこまで力こめてなかったってのもあるけど。ううん、大丈夫。いつか必ず、ユキにちゃんと全部話すから。何度もこうしてしまうのは悪いと思ってるけど……、もうちょっとだけ。待ってくれる?

 

 

「うん、大丈夫。……よし! 切り替えた。じゃあちゃんとお仕事の話しよっか。」

 

 

私の癖、気分を変えたり気合を入れるときによくやる両頬を両手でたたく動き。いつの間にかユキもするようになったソレが部屋の中の空気を刷新する。仕事の話……、ワカンダのこと。

 

 

「戦争しに行ったはずが両方とも被害なしでトップがお話しておしまい、さらに交流まで結ぶことになったわけだけど……、実際どんな感じにするの?」

 

「う~ん、多分だけど裏での共闘がしやすくなるようにパイプだけ繋げておこう、って感じで落ち着くと思うよ。」

 

 

私たち、正確に言えば私からすればあっちの所有しているテクノロジーとヴィブラニウムが大量に欲しい。でも残念だけどこっちから差し出せるものが何もない。私があっちに教えても良くて、さらにワカンダが求めているもの。それを保有していないのが現状。ワカンダの国家体制が五つの部族の集合体で継承方法的に王に違う部族の長が付く可能性、プラスしてキルモンガーが現在のワカンダにいない可能性、今後内乱が起きて現王子が負ける可能性とかを考えると、私としても出すものを絞らないとまずい。

 

 

「確かに……、ブラックホールエンジンとかが最たるものだよね。」

 

「コレ一つで星滅ぼせる切り札だからね……、実際この存在知ってるのほんと身の回りの子たちだけだし。まぁあっちから運よく何かもらえるにしてもこっちがある程度の時間かけたら確立できるレベルだろうしねぇ……、まぁ時間かけなくていい分ありがたいっちゃありがたいけどさ。」

 

 

ま、そんなところでしょうかね。見た感じ今の国王陛下が実権握ってて操られているような感じでもなし、ティ・チャラ王子もちゃんといたし問題なし、って言って大丈夫だろう。

 

あ、それと実際ヴィブラニウムの流出とか技術の流出とかなんで起きたんだろうね。ワカンダかなりそこらへん厳しいのに。そんなことができそうな相手として思い浮かぶのが一つあるっちゃあるけど……、まぁまだ憶測の域を出ない。

 

 

「じゃ、使節団として送る人の選定をしちゃいましょうか。あと今回みんなを動かした分のお給料とか諸費の計算。……ユキ、始める前に謝ってもいい?」

 

「……またなんか使い込んだの? 今回の遠征万単位で動かしてるから勘弁してほしいんだけど。」

 

「ワカンダのエネルギーシールド対策で作った装置の開発費、あとその量産体制を整えるために用意した費用と原材料費。」

 

 

ユキにその詳細が書かれた冊子を手渡す、さっきイヴに用意してもらった奴だ。うん、ヘリキャリアよりはだいぶ安いよ。まぁ万単位のユニットの装備刷新だから安くはないけどさ……。

 

 

「ごめん、実家帰っていい?」

 

 

その後全力で引き留めた。

 

 

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