「住職、これ今回の分ね。」
「はいはい承りました……、あら。今回は外国の方もいらっしゃるのね、多分仏教じゃないけどあげちゃっていいのかしら?」
「うん、まぁ私が勝手にしてることだし大丈夫じゃない?」
「ではこの方々の信じる神様の元に行けるように祈らせていただきます。」
大阪、私がいつも生活している改造された都市から離れた山奥にあるお寺。今日はそこに来ている。まぁいつも、って言ったら悲しくなっちゃうけど定期的にウチがかかわった人たちが死後少しでも安らかに過ごせるように、ってことで毎回ここでお願いをしている。ウチの構成員や間に合わなかった人、こっちの都合で処理しないとどうにもならなかった人。ソコヴィアみたいな被害にあった人たちもここで供養してもらってる。あと一応ニンジャも。死後も安らかにしてほしくないけど一応ね。
「相変わらずえらい嫌われてますね、そんなにひどい人たちなんですか? ……あ、言わなくていいですよ。何度も聞かされてますから。」
「じゃぁなんで聞くのさ住職……、あとあなたの門嫌いに比べたらまだましだからね? 玄関の門とかまた壊してたし、このお寺全部お金出してるの私なんだからもうちょっと大事にしてもらえる?」
ほほほ、と口元を隠しながら笑ってごまかされる。住職によって破壊された入口の門と山奥にある立地も相まって廃寺とよく勘違いされるここは石井っちがヤクザ時代からお世話になってるところらしく、私たちのように裏に染まった人たちのお願いも聞いてくれるありがたい場所だ。
死んだ人間はそれまでだけど残された人は頑張って区切りをつけなきゃいけないからさ。部下の子たちも戦友をなくした人はたまにここにきているらしい。たまぁにこのイカれた住職に話聞いてもらうとすっきりするんだってさ。
「じゃあ下世話な話になりますがお代の方はあの口座の方によろしくお願いいたします。今回も数が多いので準備できしだいすぐに始めていきますが……、ご覧になっていきます?」
「あ~、うん。そこまで時間もないからちょっとお墓の方見たら帰ろかなって。」
実際、そこまで時間の余裕はない。ワカンダの一件はある程度片付いて、とは言えソコヴィア協定阻止に向けていろいろやらないといけないことも多い。それにウルトロンの一件が皮切りだったのか、それともニューヨーク決戦以降の準備期間が終わったのかはわからないけど一般じゃ対処できない事件が増えてきた。ニンジャのような奴ね? アベンジャーズのみんなと連携とって色々やってるけどねぇ。
「そうでしたか、ではせっかく来ていただいたのにお仕事の話だけでは申し訳ない。今からお茶と菓子の方ご用意しますから座って待ってて下さいな。」
「いや忙しいんだっ……、行っちゃった。」
袈裟なんて動きにくいもの着ているのに気が付いたら奥に戻っていってしまった住職。止める間もなくだし、気配がすっと消えていったあたりお前ほんとに住職か? って思っちゃう。まぁ石井っちが若いころからずっとここでお寺の切り盛りしてたみたいだし、墓に収められている人たち大体裏の人ばっかりだからまぁ普通の尼さんじゃないんだろうけど……。
「はぁ。」
ちょっとだけ、ため息。一人残されたこの静かな部屋。お寺独特の神聖、と言ったらいいのだろうか。ただここにいるだけで少しずつ心が洗われていくような、疲れが床へ染み出していくような錯覚に陥る。ふと部屋の窓に目を向けると何かの水墨画のモチーフになっていそうな庭がそこに。あぁ、そういえばここに来るときはいつも誰かを亡くした時だし、あんまり周りを見る余裕がなかったっけ。
ファイアボール、私が率いるヤクザ組織。最初はいろいろ考えながら試行錯誤して回していた組織。気が付けばカバー会社兼資金調達手段としてハイツレギスタが生まれ、さらに組織の規模も拡大。ユキもそこに合流してより大きな存在、世界中の裏社会に手を伸ばせるぐらいには大きくなった。
ただの部下だった人たちはいつしか大事な家族に、最初からずっといる人は毎年少しずつ減っていってしまうけどそれでも家族は膨らみ続ける。この世界の闇は異様に深い、もう全身が裏に適応してしまった私は早くこの裏社会を制圧しないといけない。外からの脅威にいち早く対応するために。
「ま、表も表でやばいんだけどねぇ。」
「何事も表裏一体、コインの両面が表などただのパチモノですからね。」
横からの声に思わず飛び跳ねる、いつの間にか住職が菓子と茶を運んできておりちょうど耳元でささやいてきやがった。あ、あのですね。せめてノックとか声掛けとかそういうのしてくれませんかね?
「あら失礼、癖になってるんですよ。音殺して歩くの。」
「洒落になってないですからねあなたの場合……。」
「ま、それはいいとして何かお悩みですか? どうです? お茶が冷めるまでちょっと吐き出していくのは。確約はできませんけど何か教えを説いてあげれるかもしれませんよ?」
そういいながら私の対面、自身の席に着き菓子をつつき始める彼女。しかもコレよくある和菓子じゃなくてゴリゴリの洋菓子だし私一切れに対してあっち半ホールって……、あぁもう調子崩されるなほんと。
「……ちょっとみんなに秘密にしてることがあってさ。早いとこ吐き出しちゃった方が楽だしそっちの方がよさそうなんだけどね。でもそれをしたら全部台無しになってしまうかもしれないし、みんなから拒絶されてしまうかもしれない。なんでしてくれなかったの? って。」
私は、知っている。だからこそ知らなかった、は通用しない。記憶があるのならなぜ対処しなかった、対処できなかった。もっと早くに相談していれば何か変わったかもしれない、死ななくてよかった人がいたかもしれない。もっと大勢の人を救えたはず、ニューヨークだって、ソコヴィアだって。誰一人犠牲を出さずに何とかできたはずだ。
もし、それをしていればもっと国内の問題、ニンジャの対応ももっと多くの力を注げたかもしれない。一つの前線を維持するために死んでいった仲間たち、より多くを逃がすために自ら死を選んだあの子。何も知らずただ奴らの餌食になってしまった彼。みんな、みんな覚えてる。私が殺してしまったようなものだ。
天秤は、より重い方へ傾く。世界を守ることは大事な家族よりも重い。重くしないといけない。だれだって家族がいてこの星は一つしかない。誰の命も一つしかないなら私はより多くを救わないといけない。全宇宙の命を半分にしようとするサノス、そしてコミックでしか知らないこの世界に結びつけられた脅威たち。私は守らないといけない。
「なるほど、ねぇ……。秘密にするのがつらくなってきたから早く吐き出したいけど色々問題があるし、拒絶されるのが怖くて動けなくなってる感じ?」
「……うん、そういう感じかな。」
「ふ~ん。……見た感じなんか打ち明けるタイミングが決まってるっぽいね? じゃあそのタイミングで全部ぶっちゃければいいんじゃないの? あとはその時の自分が頑張ってくれる、ってことで。」
おいしそうにケーキを頬張りながらいっそ憎たらしいぐらいに淡々と返答を述べてくる住職。いやまぁそうなんだけどもうちょっと教えとかそういうの説いてくれるんじゃなかったんですか?
「ないよそんなの、仏様の教えはまぁ大事だけど実際今を生きる人間がどう感じてどう考えてどう行動するのかが一番大事。それにあなたに対してありがた~いお話しても興味無いでしょ?」
「それはまぁ……、そうかも。」
「それにあなたのお仲間、家族だっけ? 家族って思えるぐらいに大事にしてるのならいきなり拒絶ってこともないんじゃないの? それともあなたの家族はそれすら受け入れてくれない無情な人ばっか?」
「……違うと思う。」
「でしょう? ここに来た人たちとよくお話してるけどみんないい人ばかり、それにあなたのパートナーのユキちゃんだっけ? 彼女もひどい人じゃないでしょ? もし何か怒られたとしてもちゃんと事情を説明して、ちゃんと謝ればなんとかなるなる。もし無理だったからここに逃げ込んでくればいいしね。」
……そう、かな。
「そうそう、実際悪いように考えてることって実際その通りにならないしね。ほら今日はいろいろ厄介なことは忘れてケーキでもお食べ? ちゃ~んと掃除は済ませてるからここはとても安全だしね。……あ、まだ半ホール残ってるけどどれくらい食べる?」
そういいながら自身の分をすでに食べ終わった彼女。……じゃぁあと二切れ分は残しておいてください。
◇◆◇◆◇
「お疲れ様ですお嬢様、このまま空港までで宜しいでしょうか。」
「はぁ……、君もお疲れ。うん、空港までお願い。」
フランスの南部、ここの大統領さんといろいろ密談をした後の帰り。こっちの支部長をしてくれている子が回してくれた車で空港まで移動中。……うん、今日はちょっとお疲れです。やりたくもない外交の話をするのって正直無茶しんどい、でもやらなきゃいけないしさぁ……。もうちょっと表がまともだったら私も楽できるのに。なんで外の対応をしようと頑張ってるときに内側から問題が起きるんですか?
「備え付けの冷蔵庫の中にいろいろと用意しておきましたのでよろしければ。」
「あ、そう? 気が利くね。」
苦手なヒールを脱ぎ捨て冷蔵庫に手を伸ばし甘めの炭酸飲料を手に取る。そのまま飲み干したいところだけど一応組織の頂点にいる身、毒物の警戒もしなきゃいけない。グラスを手に取り数珠のブレスレットから一つ球体を手に取り中へ。そこにドリンクを流し込めばいろいろ検知してくれるってわけ。
……うん、甘さが脳に染み渡るわ。さっきまで張りつめていたものが一瞬で弛緩し、思わず胸元のボタンをはずす。はぁ~、息苦し。ま、私薄いしこれぐらいええやろ。
「それで、会談の方はどうでしたか?」
「あ~、一応丸く収まった感じ? でもこっちがいつ切られるか解んないから撤退とかの判断は任せる。」
今回の会談の内容だけどまぁソコヴィア協定関連の奴だね。簡単に言うとフランスが抱える問題いろいろ助けてあげるから協定が成立しそうになった時とか、私たちがやろうとしてることに対して口出しをしない。もしくは支援する約束を結んできた。
「かしこまりました、ではそのように。」
私がやろうとしていること、まぁソコヴィア協定を成立させないことなんだけどそれと同時に外の問題、宇宙からくる脅威に対しても準備を進めていかないといけない。この二つの問題に対処するためには現状の一企業という表の顔だけでは足りなくなってきている。かといって裏の方はヴィランが活発化している上にニンジャのハラスメント攻撃が続いている現状影響力を維持するためにこれ以上の拡大や新規作戦の実行は非常に難しい、ワカンダへの侵攻に使った部隊の再配備とかもあるしね。
となるとやることは表の強化、企業の次は国家っていうことだ。まぁ実際に選挙出て何かするってわけじゃあない。国連の性質上その決定には多数決が必要であり、その定義には常任理事国の拒否権が存在している。常任理事国が「これいや」って言ったら全部止まるやつだ。核とかの問題でよく使われてる拒否権ね。
ソコヴィア協定だけどアメリカが独断で先行しない限り、国連の指揮下にアベンジャーズを置くという性質上そういった会議が行われ多数決が取られる。私が狙っているのはその多数決をひっくり返しどこかの国に拒否権を発動してもらうってことだ。
そのためにまずアジア圏やアフリカ、南アフリカなどの発展途上国や何らかのエネルギー問題を抱える国家に対して全力の技術提供とアークリアクターの格安販売を行う。まぁ早い話電力というライフラインを人質に取るわけだ。その地域の市場を丸々吸収して余計な諍いをできるだけ最小限に、市民への評判も利益を捨てることでどんどん上げていく。
原子力発電よりも安価で危険性も少なく、なにより小型で発電量も上。そんなアークリアクターを吊り下げてあげて仕事も用意してあげる。そして何よりも私というアベンジャーズの一人が安全も担保してあげる。裏に根付かせていた戦力を表にひっくり返せば目に見える安全がそこに。
これを繰り返す。
まぁ私を中心にした新たな国家連合の成立を目指してる、って感じかな? ……我ながらマジで何やってるんだって話ではあるけどさ。これぐらいやんなきゃどうにもならない気がするのよね。
んで話は戻るけど今日のフランス相手の密談、原子力に頼り切っている電力事情をアークリアクターをほぼ無償で提供して整備方法なども全部教えるって条件でソコヴィア協定への批判。強硬された場合は拒否権の使用を行使して止めることへの同意を取り付けてきた。
「もうほんと、まぁ~じで私何やってるんだろうね。なんで政治してんの?」
『マスターがご自身で決めたことですから頑張ってください。』
「そうだけどさぁ!」
もしフランスがアークリアクターの利益だけもらって逃げた場合はまぁ裏からいろいろ手をまわして影響を与えた国家群、特に日本ね? それを中心ににして国連に代わる新たな共同体を創設。みんなで仲良く国連から脱退してやることやりましょうね? って風に想定している。……絶対やりたくないけど。
あと一応ソコヴィア協定が否決されて完全に廃棄されたことを確認したら私たちの仕事は終わり、最低限の面倒は見るけど手に入れた影響力とかは全部放棄してあとは自国での発展を促すようにシフトするつもり。まぁ悪いことしようとしたら全力で止めるけどさ。
「というか傍から見たら今やろうとしてること世界に混乱をまき散らすヴィランそのものなんだよなぁ……、大丈夫? アベンジャーズ案件じゃないこれ? ……いやそれはそれでおいしいか?」
ちょっと疲れすぎておかしなことを口走っている気がするがまぁ気にしない。この件についてはさすがに仕事量がやばいのでユキや石井っちを中心とした幹部連中や信頼できる子たち全員に事情を説明して動いてもらってる。みんなを守るために始めたことだけど、守るべきみんなを働かせてるのはちょっと。って思うけどまぁ仕事量がやばすぎるから仕方ない。
「あぁ~あ、もっと簡単に出来たらいいんだけどねぇ?」
『……! マスター、愚痴の最中に申し訳ありませんがティ・チャカ国王陛下よりメッセージを受信しました。』
「要約して読み上げて~。」
『かしこまりました。……まず先日お送りした日本酒へのお礼の言葉、そして先ほどマスターが愚痴っていた内容への理解を示す言葉と、ソコヴィア協定が平和を損なう存在なのであれば我々も否定の意思を示すとのこと。そしてもし我々がやり過ぎた場合は必ず止める、と記されています。……それと最後に今度お茶菓子を持ってきてくれるのはいつかなって……。いつの間に仲良くなってるんですかマスター。』
「いやこの前陛下の自室に忍び込んでお話したら案外弾んでさ……。」
そうなのよ、一応あの後正式な謝罪は書面にして送ったし対面でもちゃんとしたんだけどさ。個人的にはしてなかったし、キルモンガーのこともどこまで把握してるのかについても確認しておきたかったのよ。だからこっそり忍び込んでちょっとしたお話をしに行ったわけなんだけど……。まぁすごいね、あの人。
年の功がそうさせるのか人柄かそうさせるのかはわからないけどとってもお話が上手だし、人柄もできてる。いい親御さんだなぁって思う面も見え隠れしてたしガチの人格者だったわ。あれで裏の顔とかあったら人間不信になるレベル。まぁいろいろ話しちゃったよね、今やってる計画とかそんなの。さすがにやばいのまでは話してないけどさ。
あとキルモンガーの件についてだけど陛下自身は彼が今何をしているのかとか把握だけはしているみたい。大体映画での彼と同じ考えで動いているっぽい。いつか私のところに来るかもしれないからその時はお手柔らかに頼むとも言われた。うん、まぁそこらへんは任してもらって。
「う~ん、上世代との交流が増えてきたなぁ。国王陛下にマンダリンことウェンウーさんでしょ? あとあれからあってないけどワンさん。ビックネームばっかりじゃん。」
あぁ、そういえばそろそろアントマンの話も始まるのか。ピム粒子だけは何とか確保して量産体制を用意しておきたいからそこらへんも考えとかないと。
「ま、やること多いけど幸いまだ時間はある。確実にこなしていくとしますか。」