前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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サルビア


 

ただ、何をするでもなく。椅子に座り体のすべてを背もたれに投げ出す。

 

……さっきまで何をしていたのだろうか。少し前の自分の行動すらあやふやだ。しかし誰も私に話かけてこないあたり、ここでただ時間が過ぎるのを眺めても大丈夫なのだろう。

 

手持ち無沙汰になりテレビをつけるように、窓のブラインドを解除する。

 

現れるのは暗く、広く、包み込むような静寂な世界。その中央には私たちが愛すべき青き大地がそこにある。

 

 

「『空は非常に暗かった。一方、地球は青みがかっていた。ここに神は見当たらない。』だったか。」

 

 

人類で初めて宇宙に行き、帰ってきた男の言葉だ。自由に宙に上がれない地上の人々のことを思うと、こんなきれいな星を望めばすぐに見られる私は非常に恵まれているのだろう。そう、思うことにしておく。

 

いつ用意したのかは欠片も記憶はないが、机の上に水色の飲料が置いてある。確かにこの景色を見ながら喉を潤すのには最適だろう。過去の私も今の私と同じように、この愛すべき星を眺めながらグラスを傾けたのか。答えを知ることは簡単だ、しかしすでに過程は必要がない。

 

 

「今、何が起きているのだろうね。」

 

 

調べようと思えばすぐに答えが出るはずだ。しかし今はその気力すらわかない。

 

すべてが、上手くいった。そう判断するのが良いのだろう。ソコヴィア協定は破棄され、アベンジャーズは内戦を起こさず存続している。誰一人としてメンバーが欠けず、大きなケガもなく彼らの生活を送っている。ワカンダも継承問題による内乱など起きず、陛下も亡くならずに今を生きている。彼らが開国し世界を牽引するようになったこの星はより発展するだろう。

 

私が手を出した国家たちもこの手から離れ一人で強く生き残ろうともがいている。急な成長は取り残されてしまう人を生み出してしまうが、あの星に残る子たちがそれを支えてくれるだろう。道を踏み外したときに叱ってやれる子たちもいる。だから大丈夫だ。

 

二人目の息子は最近大切な相手と家庭を持つようになったらしい。式にはいくことができなかったが、電報とプレゼントだけは送っておいた。家族のことはやはりしっかりと覚えている。……喜んでくれるといいな。

 

 

そして……、私も前に進んでいる。

 

 

いつの間にか私の左手、その薬指に嵌る紺色の指輪。

 

それを稼働させ亜空間から石を取り出す。

 

 

青い光を灯し、空間を操るスペース・ストーン

 

橙の光を灯し、精神を操るマインド・ストーン

 

赤い光を灯し、現実を操るリアリティ・ストーン

 

紫の光を灯し、力を操るパワー・ストーン

 

緑の光を灯し、時間を操るタイム・ストーン

 

黄色の光を灯し、魂を操るソウル・ストーン

 

 

ピム粒子を使用した量子世界を経由する並行世界への渡航、それを繰り返した結果。別世界に存在するはずの石がすべてここにそろっている。このすべてを稼働することで、サノスが全宇宙から生命を半減させたように、この世界を如何様にも変えられる。そんな魔法のような力がこの手に。

 

前に、奴がやっていたように指輪から力を取り出し左手に纏わせ。指の根本と、手の甲に窪みを作り石を嵌めていく。多分、記憶にない私も同じことを繰り返したのだろう。体が覚えているのかその動作はあっけなく終わり、用意が整ってしまう。

 

 

「あとは、願いを込めて。指を鳴らすだけ。」

 

 

中指と親指を合わせ……、

 

 

「……うん、もう少しだけ。」

 

 

何もなかったように、石を収納し指輪によって顕現させていたものを元に戻す。多分私がこの石に願いを込めればこの世界からあらゆる脅威が消える。原作から乖離したこの世界とは言え、生まれる脅威や悪意。その派生の多くはこの目で見てきた。そのすべてが好転するように、願いとして石を起動させれば世界はもう何にも怯える必要はない。……この世界に限って、だけど。

 

一人では決められない、そういうわけではない。

 

ただ、この選択が本当に正しいのか。そして……。

 

 

「あ、マ……、ごめん待ってた? つぐみ。」

 

「ううん、待ってないよ。」

 

 

残された子たちはどうなるのか。

 

 

「ごめんね、ちょっとまだ体の動かし方が……、やっぱ重力が1/6だっけ? こんなに変わるものなんだね。」

 

 

ぱたぱたと、少しふらつきながらユキがこっちに寄って来る。月面に建設されたこの場所、敷地内は重力の操作を行っているから地球と変わらない生活ができる。けれど外に出れば何の変哲もないレゴリスだらけの空間、外で何かした後に戻ってくれば確かにそうなってもおかしくない。

 

 

「また地球見てたんだ、そろそろスパイダーマンだっけ? それが始まるから戻るんだっけ。」

 

「ううん、ここにいるよ。手を出すにしても遠隔でやると思う。」

 

「そう……、そっか。」

 

 

彼女が隣に座り、一緒にこの遠く離れた場所から星を見る。すべてがうまく行っているとはいえ成長のための敵は残してある。これから生まれる子たちのためのヴィランや今いる子たちの成長につながるものはそのままに。……適度な平和と適度な脅威。

 

昔見た夢の光景に近い現状、あとは最後の仕上げとこの星に眠る神を殺すこと。

 

それを終わらせば……、とりあえずの仕事は終わりなはずだ。

 

 

「……膝、使う?」

 

 

彼女の提案に何も返さず、ただ体を傾ける。

 

うん、ちょっと疲れたや。

 

 

「おやすみなさい、いい夢を。」

 

 

その日、最後に見た彼女の左手は、何もない綺麗な手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『マスター、メールを着信いたしました。お母様からのようです。』

 

 

ニューヨークのアベンジャーズ基地からの帰り。手土産としてピム粒子やら色々Tailに詰め込んで現在太平洋上空。もう少しすれば日本の大地が見えてくるかな、って時にイヴから報告が入ってくる。

 

 

「母上から? なんだろ、読み上げていいよ。」

 

『かしこまりました。『そろそろでしょう? お洋服とかご飯の予約とかしておいたから取りに来なさいね~。』とのことです。』

 

「……イヴ連絡した?」

 

 

疑問を抑えきれないような声で『いえ全く』という返答が帰ってくる。つまり私のママこと母上様は私がユキに大事な報告することを前々から理解し、事前に準備していた上に。そのタイミングを完全に把握してこのメール送ってきたってこと? ……え、何? そういう能力でも持ってんの?

 

 

『母の勘、という奴でしょうか。』

 

「無茶苦茶ありがたいのはありがたいし、そこら辺の気が利かない私の至らなさも知られてるあたり恥ずかしいんだけど、それよりも疑問の方が大きいんですけど……。」

 

『それと追記でお父様がすでに号泣しながら祝杯を始めたと書かれています。』

 

「気が早いって……」

 

 

まぁなんで解ったか聞いたとしてもいつも通りにこやかな笑みを浮かべてごまかされるだろうから聞かないけどさ……、ほんと頭が上がらい。普通、まぁいろんな意味で多様化し始めてるこの社会において同性愛者とかさ、よくわからんスーパーパワー持ってる奴らと比べれば珍しくない方だけどそれを受け入れてくれるのがねぇ……。色々ありがたいよね。まぁ私の認識的に性の区別とかもうないような感じだから、好きになった人がユキだった。というだけだけどさ。

 

 

『ではご自宅の方へ進路を変更いたします。』

 

 

太平洋を越え、数日ぶりの日本の地へたどり着く。すでに日は沈み未だこの国を支えるために働く人たちの明かりが闇を払う。少し遠くを眺めると私たちの町が一段と明るく輝いているのがわかる。

 

本拠地にして私が生まれ育った場所、すべてが始まった都市でもある。

 

いい思い出も悪い思い出もたくさん、でもまぁ今じゃ笑い話にできるぐらいだからちょうどいいのかもしれない。本来そちらに向かうはずのルートを変更し、私たちの都市から少しだけ離れた住宅街へ。

 

 

「っと!」

 

 

いつもならガレージの方にスーツを置きに行くのだが、今日はちょっと寄るだけだ。ちょっとした準備と門出の挨拶だけをしたらそのままユキのいる本社ビルの方に向かう予定。

 

 

「……ん? 電気ついてな……、っ! イヴ!」

 

 

普段ならついているはずの玄関の電気、付け忘れたのかと思いながらドアノブに手を伸ばせばそこにあるはずのない弾痕。ドアのカギの部分が破壊されている。

 

外に待たせていたスーツを戻し完全な装着を待たずに扉を蹴破る。

 

そのまま、奥へ。

 

リビングの扉を開ける。祈るように、すがるように、間に合ってくれと。

 

 

「……ぁ。」

 

 

赤い。見慣れてしまった、色。

 

父が、倒れている。いくつもの弾痕と、刀による傷。死を確認するために、地面に突き刺すように胸に向かって日本刀が付き刺されている。目に、力はない。鼓動も、息も、ない。ただ、温かさだけがそこに命があったことを教えてくれる。

 

何かを守るように、逃がすように。ただ時間を稼ぐために立ち向かい、死んだ。

 

この踏み荒らされた部屋に残されてしまった品がそれを物語っている。

 

 

「……っぐ…、ちゃ…?」

 

「……っ、ママ!」

 

 

奥から、声。

 

せめて、せめて。

 

 

「…や…と、よんで、くれた……ね。」

 

 

奥に、進む。母がいた。

倒れこみ、胸に突き刺さった刀。

顔は何かに焼かれたように爛れ、元の顔とはかけ離れたものに。

急いで駆け寄るが、もう、遅い。遅すぎた。

 

なんで、なんで!

 

 

「もう……っかい、よ……くれる。」

 

「ママ、ママっ! 大丈夫! 大丈夫だから! 今すぐに助け」

 

 

指が、口にあたる。

 

 

「わたし…たちは。しあわ、…だっ…から、あなたも、ね。」

 

 

手が、落ちる。

その手を握っても、ただ力なく重力に引かれるのみ。

 

 

 

 

 

 

 

『マスター! 本社に敵多数! 防衛網突破された様子! ニンジャです!』

 

「……わかった。」

 

 

 

 

いつの間にか、夜の空は曇り、雨が降り始めている。

 

 

 

 

 

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「ゆるさない。」

 

 

 

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