思考を研ぎ澄ませ、感情は力になるがこの身はすでに私だけのものじゃない。上が死ねば下が混乱し被害がさらに大きくなる。この行き場のない思いは決して悪い物じゃない、……最終的にこの世からすべて消し飛ばす。
「イヴ。」
『都市部全体が襲撃対象のようです! また本社ビルはユキ様が中心となって防衛中! 戦況全体が不利です! ……しかしながらマスター、ここは一度お引きください!』
「なぜ。」
すべてを洗い流したのか、雨がやみ雲だけが残る夜空に飛び上がり要塞化された都市へ向かう。ここからでも敵の襲撃が非常に大きなものであることがわかる。いたるところに立ち込める黒煙、混乱する無線、そして大量の逃げ遅れた一般人たちが助けを求める声。町全体が淀んでいる。
『武器弾薬が不足している上、長距離移動のため残りエネルギーが危険域です! 一度郊外の補給基地に撤退し体制を整えてか』
「その間に何人家族が死ぬ? 早く介入すべき地点のリスト。上げて。」
『ッ! ……かしこまりました、すぐに!』
敵の全様が全く把握できず、その目的も不明。そしてすでに各地に散らばる前哨基地から救援部隊の派遣を命じたといえ今すぐに動かせる戦力は私だけ。すべてを助けることはできない、ならばより多くを。
ディスプレイに表示されたマップ。今いる場所から一番近い防衛地点へと突撃する。
防衛用の二重扉を蹴破り内部へ。敵12、味方3。
姿勢を低く保ち射線を切る。一番近い敵の姿勢を崩し肉盾へ、敵の銃弾を手に持つゴミの心臓と脳で受け止め攻撃してきた方へ投げ飛ばす。脚部のブースターを起動し、天井。そしてそこからリパルサーの放射と脚部備え付けの刃で首を刈り取る。全員一時無力化、私の子供たち? 死体撃ちと状況報告。
「軽傷者2、重傷者6! 他地点との連絡が取れません! しかし拠点防衛自体は可能!」
発砲音と同時にまだ動ける彼の声が響く。防衛自体は可能、ね。……全体の戦況が悪い上に敵がどこに潜んでいるのかすらわからない。その上規模も不明だから指示が難しい。
「……医療品は?」
「クリア! 最低限です!」
「了解、拠点防衛を維持して。負傷者の治療も。ほかの場所の戦況によってここを一時的な避難所とするかもしれない。その指示は全体で送る、注視するように。」
「「「了解!」」」
息もつく暇もなく次の場所へ。
……どこも同じような状況だ。明らかに内部からの侵入によって味方がやられている。緊急時の避難経路や通路、排気用の人間のサイズでは入れないはずの場所から出現している形跡がある。敵の質自体はそこまで高くない。同数さえいれば制圧が可能なはずの戦力差。やはり一度この都市の防衛線で勝利してしまったからか、油断があったのだろう。明らかに昔と比べて奇襲に弱くなっている。……前線とは離れているがゆえに経験の薄い子をゆっくりと育てていく、そういう方針が仇となってしまった。
「クリア。……5つの区画の安全を取り戻した。マップに集結地点を設定したからけが人を運んでそこで防衛を初めて。指揮をとれるものがいない場合すぐさまイヴに報告。こちらから指示する。」
「了解です! トリアージ確認しろ! 一人でも多く助けるぞ!」
幾らリアクターを増やし、継続戦闘能力を伸ばしたこのスーツでも武装がほぼ0の状態になると使う主兵装はリアクターと脚部と腕部に内蔵された刃のみ。左腕の方は相手の攻撃を受け止めたときに歪んでしまい、もう使い物にならないので放棄した。……明らかに手が足りない。エネルギー残量も何とかやりくりしているが、難しいものがある。
『マスター! 放棄されたビークルがまだ動きそうです! 一度こちらで本社ビルへ!』
イヴが指定した地点に目を向けるとリアクター式のバイクが目に入る。……まだ動きそうだ。いくら本社ビルの守りが強固でユキがそれを指揮しているといえども通信がつながらないのは確か。イヴの方での通信が通っているので、おそらくこの基地内の通信インフラが何らかの方法で妨害されているのだろう。これ以上大事な人を失いたくはない。
「イヴ、救援部隊の状況報告。」
『5秒お待ちください!』
爆発物などの確認をし、安全を確かめると同時にエンジンに火を入れる。私がペダルを踏みこむのとイヴが全体の状況、各部隊への指示を終わらせたのがほぼ同時。
『現在兵庫上空までヘリキャリアが移動中、10分後に到着する予定! 奈良、京都、和歌山からの救援部隊ですが中型の輸送機が現在発進したとのこと! 制圧したブロックの怪我人および一般人の輸送から開始します!』
「どこに敵が潜んでいるかわからない、多分受け入れた避難民の中にも紛れ込んでいる可能性が高い。怪しい奴は私が全責任を持つから撃ち殺して。持ち物の調査も必ず。」
『通達します! また本社ビルの様子ですが地下フロアへの侵入が確認されたため全消去プログラムが稼働されたようです! 上階ですが未だ防衛戦が続いている模様!』
バイクに備え付けられている機関銃で邪魔者を撃ち殺し、死亡確認のためひき殺しながら前へ進む。
地下フロアは私たちの活動で表に出せないものが多く収められている。武器弾薬やその開発、スーツのアタッチメントや戦闘用ドローン。ブラックホールエンジンについての情報もそこにある。それを持っていかれるのは世界をより危険にさらすことなので、何かしらの危機が迫った時、内部の温度を溶鉱炉の温度まで上げてすべて溶かすというトラップを用意している。とりあえずそれは正常に稼働したようで何よりだ。
だがイヴから送られてくる情報を見る限り、ユキの方もかなり厳しい状況に置かれているようだ。距離が徐々に近づいているおかげか、彼女の識別反応をようやく察知できるようになった。それを見ると徐々にその高度が上がっていっているのがわかる。上へ上へ逃げるように防衛線を下げ続けている、明らかにまずい状況だ。
「本社ビルの屋上に救援部隊の輸送機を派遣、内部に残された社員の救出を。」
『ポイントを指定します!』
障害物や湧き出てくる蛆虫のせいでそこまで速度が出せない。しかしここでリアクターのエネルギーを使い空路を選ぶと到着時にはこのスーツがただの鉄くずになってしまう。時間をかければかけるほどリアクターにより電力は発電されていくが、その分ユキの身に危険が迫ってしまう。
本当に、本当に気がおかしくなりそうだ。
あいつらはこの基地の構造を知りすぎている、エネルギーの補給を受けるために予備のTailを呼ぼうにも各ブロックの機器が優先的に破壊されているため不可能。さらに多分私の両親を殺したのも作戦のうちだ、家の方向から直進すると考えて策が練られている。これまで解放された場所に保管されている私やユキが使える武装はすべて破壊済みだった。
……そして私が本社ビルに向かうことも奴らの計画の内だろう。ここまで進行ルートを狭めておきながら出てくる敵がただの嫌がらせでしかない。私たちの町を丸ごと落とせるのならもっと襲撃人数が多くてもいいのに少なすぎる。多分ビルの中に何かしらの罠があると考えていい。
だけど、そんなことが私の歩を止める理由にはならない。
それが罠だろうと知ったことか、私はこれ以上大事な人を失わない。失ってたまるものか。
重心を片方に寄せ、カーブを曲がりきる。ここから本社ビルは直線のみ。その先には案の定待ち受けていた多数のニンジャ。破壊した建物の破材などで簡易なバリケードを構築している。
かまわない、全速力だ。
「イヴ。」
ペダルを踏み切り、同時にエンジン部のリアクターをオーバーロードさせる。備え付けの機関銃を照準など無視して乱射、そして重心を後方にずらし前輪を宙へ。掌のリパルサーを起動し、自身は後方に。バイクはそのまま突き進ませる。
前輪が敵のバリケードに接触するかしないかの地点でリアクターの外殻が限界を迎え、臨界を超えた圧倒的な熱量が解き放たれる。私が腕を地面に突き刺し勢いを殺し、青白い光がすべてを消し飛ばす。これで邪魔者はいなくなった。
『38階! 北フロアにて戦闘中!』
少しだけ回復したエネルギーを脚部に回しそのまま空へ、この距離まで近づきようやくビル内部の詳細がわかるようになった。500近い職員を十数名の戦闘員とユキが何とか守っている。敵側の正確な数はわからないが百はくだらない。……ログを確認するが、ビルの内部構造を理解した動きをしている。内部に奴らが潜んでいたことが確定した。
いや、余計なことを考えるな。今は信じるしかない、確かに数は増えた。増えたからそういうものが入り込むのは仕方のないこと。すべてを防ぎきることは不可能だった、視界に入る家族が敵かもしれないと疑い始めれば組織自体が崩壊する。今はただ救援を。
目的の高度まで上がりそのまま窓ガラスを叩き割り内部へ侵入する。視界一面ニンジャ。しかしその奥にユキのスーツが見える。目が合う、あちらもこっちのことを視認した。
彼女が考えていることは私が考えていること、私が考えていることは彼女が考えていること。行動に移すタイミングは同じ。ただ彼女へ向かって一直線に進む。エネルギーは心もとないが大丈夫、腕部のレーザーを稼働させ煩わしい肉塊を細かく。
残り、三歩。
前へ転がり脚部のブレードを伸ばし前方の首を跳ね飛ばす。手をクロスさせその反動で回転、円を描きさらに殺す。彼女が動かすドローンの支援攻撃が飛び、さらに視界が開かれる。
残り、二歩。
掌のブースターを起動し天井へ。最後のエネルギーをすべて注ぎ込み、左手のレーザーで上から奥の敵を切り刻む。ユキの後方から奇襲を仕掛けようとするものを私が排除し、彼女はリパルサーで飛び上がった奴らを打ち落とす。
残り、一歩。
エネルギー切れを引き起こしディスプレイから光が消える。だがこの状態でも人力でスーツは動かせる。天井を全力で蹴り、うち漏らした唯一のその顔を殴りつける。
そして、ゼロ。
上から彼女を見下ろし、彼女が下から私を見上げる。彼女の手には私が望んでいた水色のTailが二つ。そのまま私の頭部めがけて投げつけられ、接触。ほんの少しだけ消えていた光がすぐに視界を覆っていく。
「さっすが! わかってる!」
「あんまり無茶しないで!」
やっぱりこのビルの中にいたおかげかユキの方が残量も多い。それにここに二人そろった時点でもう負けはありえない。怒られてもぜ~んぶ殺しつくしちゃえば関係ないもんね~!
「ここで全部処理するよ!」
「はぁ……、わかった! どこまでも付き合うよ!」
着地し、背中を合わせる。
……うん、本当に無事でよかった。