前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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マリーゴールド

 

 

 

『状況終了です、お疲れ様でした。』

 

 

イヴの声でさっきまで張りつめていた気が弛緩する。あたり一面血だらけのとても愉快なフロアになってしまったが、安全は確保できた。それにここまで破壊されてしまったし、地下のフロアも消去が完了したみたいだから掃除とか考えるより立て直した方が早い。

 

 

「お疲れ、ユキ。」

 

「うん、つぐみも。」

 

 

差し出された右手をつかみ、彼女が持つデータとこちらのデータのやり取りを行う。それに追加で妨害されていた他者との通信状況の回復も試みる。救援部隊の状況だけど……、今のところは問題なさそう。ヘリキャリアももうすぐ到着するし、指定した集結ポイントの安全も確保されたままだ。

 

 

「おばさんとおじさんが……。」

 

 

このビルの中で籠城戦を強いられていた彼女、攻勢が始まった時点から通信妨害を食らっていたようでほかの地点も襲撃されていたことは窓から見える外の景色で把握していたようだが、ここまでひどいとは思いもよらなかったみたい。……うん、まだ苦しい状況は続いているしまだ助けられていない家族もたくさんいる。せめてこのビル付近のブロックは確保しないと。

 

 

「ユキ、今から救出に向かうからここの防衛を続けて。」

 

「……ううん。つぐみ今武装全然残ってないでしょ。イヴちゃんのおかげで通信状況が治った今なら遠隔でのドローン操作ができる。防衛は三賢者に任せてついていくよ。」

 

「了解、行くよ!」

 

 

あえて、話題を避けてくれる彼女。まだ私には時間が足りない。今は目の前のことを片付けることが一種の逃避になる。耳障りのいい多くの言葉はいらない、ただあなたが隣にいてくれるだけで私はまだ戦える。

 

 

「ビル内への避難指示、空路での脱出を前提に内部の人たちを上に逃がして。あれだけ高度が高ければそうそう上ってこれる奴もいないはず。内部から上がってくる奴は誘導する子たちとドローンで処理。外側は私たちがするから発見次第報告!」

 

『かしこまりました! 屋上にポイントを設置! 輸送機を向かわせます!』

 

 

一つの防衛拠点へ向かいユキといっしょに制圧を進めていく。一人だけならばとれなかった手段も選択できるようになった今少し無理な策も選べる。冗長性があるだけでかなり精神的負担も減ったし、何よりも誰かと一緒に戦えるのがありがたい。

 

 

「クリア! このブロックは……、あ! 大丈夫ですか!」

 

 

ビル付近の近く、その一つの開放を終える。やはりここへの突入時に敵が簡易な陣地形成を行っていたことを考えると全滅している可能性もあった。……当たってほしくない予想だったが。おそらくここの惨状を見るに、ビルを囲むブロックすべてが制圧されているのだろう。

 

もしここでビル付近の開放ではなく救難信号を出している離れた拠点へ向かったとする。移動に時間がかかることを考えればそこの子供たちを救える可能性は低く、信号の性質上そこを守る子たちが全滅したとしても反応は残る。その上敵の罠が張られていることも考えられるので、……あまりこういう言い方はしたくないがうまみはほとんどない。

 

代わりにこのビル付近の安全を固めれば少なくとも本社ビルの中に残る一般職員の子たちやそれを守る防衛部隊の子たちの命は保証できる。どちらを取ればより多くを助けることができるかと考えれば後者を選ぶべきだ。私が最初に開放した付近で一つの集結地点を作れている、生き残った子たちは皆そこへ向かえたと考えるしかない。

 

……一番嫌な考えになってしまうが、組織の頂点として感情を切り離して考えれば、全体の戦力や企業としての力を考えるとこの都市を守る戦力は一番価値が低くなる。練度の高い子たちは前線に回しているし、企業の力になる従業員や研究職を失うことはあまりにも痛い。この都市を守る子たちの大半が練度が低い、後方だからこその配属になっている。

 

 

「……これ以上考えるな、つぐ、ッ!」

 

 

ユキはドローンの操作を行いながら戦っている。イヴが救援部隊や他地域の指揮を行っている現状ここの指揮は私が取らなくてはならない。いらぬことまで考えてしまう思考をリセットしようと頭を振るったとき、視界に高エネルギー反応。ユキがまだ息があると判断した子からだ。

 

考えるよりも体が動く方が早かった。

 

彼女が手を触れようとした瞬間、そいつの頭を消し飛ばす。が、少し遅かった。閃光と爆音、ディスプレイにノイズが走り視界が一瞬ぶれる。……無事だ。私が腕を動かしたことがユキにも察知できたのだろう。何とかその足を踏みとどめることができたおかげで爆発の影響を受けなかったようだ。

 

おそらく負傷したニンジャが化けていたのだろう。頭を吹き飛ばしても起爆の命令を取り消すことができなかったその胴体は消えてなくなり、根本がなくなった四本の棒が散らばる。

 

 

「ユキ!」

 

「損害なし! 大丈夫!」

 

『体制を立て直した集結地点の者たちが制圧された場所への攻勢を開始しました、情報共有を行い事故の発生を防止します。お二人もお気を付けください。』

 

 

イヴもかなり余裕がなくなってきている、本社ビル地下にあったメインコンピューターを情報漏洩防止のため破壊したのが裏目に出ている。演算領域が不足しているようだ。イヴに頼り切るような策は使えない、使うにしても彼女の負担を取り除く必要がある。

 

先ほどの情報共有でユキの持つ医療品がほとんど使い切ってしまったことは把握している。私の手持ちが全くないことを考えると自分で動くことのできない重傷者を助けることはできない。その上敵が成りすましている可能性が非常に高い。

 

 

「ユキ! 負傷者は無視する!」

 

「……わかった!」

 

 

まだ、私の天秤は『正常』に動いている。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

あれから、数分後。エネルギーの問題はユキが渡してくれたTailと時間経過によりある程度解決したが武装の問題はそのまま。しかしながら彼女のおかげでいつもの調子を少しでも取り戻せたのか、付近の安全は確保できた。

 

これ以上ビルの外縁部まで足を延ばすと力を持たない子たちを守るのが難しくなる、ビルの外壁をそのまま上り侵入しようとしていた奴らを何度か打ち落としたあたり、この場で敵の侵入を防ぐのがよさそうだ。

 

 

『マスター! 集結地点に味方増援が到着! 救助に入ります!』

 

 

ようやく、待ち望んだ助けが来た。

 

この場所からでも救助船が着陸しようとしているのが見える。……うん、とりあえずあの地点とここの生存者を確保したらこの拠点は放棄。どこかの拠点に避難して敵の情報を探りその目的を把握する必要がある。これだけの規模の攻勢、ただ単に私たちの本拠地を破壊しに来ただけとは考えられない。

 

それに私とユキをこの地点から動けないこと、何か作為的なものを感じる。

 

 

「イヴ、救援部隊から移動中に敵を発見したとかの報告は来てる?」

 

『接敵なしのこと、集結地点への攻勢は絶え間なく行われていたようですが救援が到着した時点で不利を悟ったか撤退したとのこと。』

 

「そう……。」

 

 

確かに救援部隊は救護用の人員を多く運んできているが、それを守るための戦力も一緒に連れてきている。だがたかが人数が増えただけで奴らが引くか? 相手の目的、本拠地の破壊や私たちの命以外に何がある? 他拠点への襲撃?

 

 

『救援部隊を出した地域への攻撃は確認されていません。……、報告! ヘリキャリア本社ビル上空に到着しました! 降下開始します!』

 

「……はは、遅かったね。」

 

 

雨雲を切り払いながら降りてくる巨大な島。海上、空中、場所を問わず目的地まで移動し戦力を届ける母船、ヘリキャリアが降りてくる。搭載できる戦力はそのサイズに恥じず、ビルの中にいる避難民などすぐに格納してくれるだろう。ソコヴィアでの実績もある、正直あの時よりも安心感というか『やっと来てくれた』という思いが強い。

 

それに防空用に備えてた火器も私たちの手によって元のヘリキャリアと比べ物にならないレベルに仕上がっている。もともとの設計目標が航空空母だったから仕方ない話ではあるが、今のヘリキャリアはやろうと思えば都市一つぐらい焼き払えるぐらいの力がある。私たちが使う主兵装のリパルサー、その大口径版はもちろん。リパルサーの高威力化によってスーツへの搭載を見送ったバスターランチャーの艦砲版もある。原作のように山を吹き飛ばすのは無理だがクレーターを作るくらいなら可能だ。

 

大きな船はやはり象徴になる。回復した無線から子供たちの歓喜の声が聞こえてくる。この船が来たらもう大丈夫だ、助かる、生き残れる。どれだけ訓練を積んだとしても死の恐怖が和らぐことはない。だからこそ張りつめていたものから解放された時の叫びは大きくなる。

 

あぁ、本当に。原作とかだとよく落とされて……。

 

 

「ッ!」

 

 

その象徴が落ちればどうなるか、あんのクソ野郎が! 誰かは知らんがタダでは殺さんからな!

 

 

「イヴ! エンジン切り替え及び艦内をスキャン! ユキ上がるよ!」

 

 

声を上げ、船の高度まで飛翔するためスラスターを稼働させる。本拠地に敵が乗り込んでいるのならヘリキャリア自体に敵が乗り込んでいてもおかしくない。これまで実践投入したブラックホールエンジンは二基、本社ビルの地下にある一つと、上空に浮かぶヘリキャリアにあるもう一つ。本社ビルの方は停止させ機器自体を破壊したため問題はないがヘリキャリアの方はビルのように完全に破壊する方法がない。

 

イブに命じて遠隔でアークリアクターのエンジンへ切り替えさせる。それでも内部に敵がいて、基盤を弄ればそれを無効化することはできる。筋書きとしてはブラックホールエンジンを暴走させ最低でも近畿一帯を消し飛ばすって感じか? こっちはこっちで船が落ちれば避難が遅れる上に戦意の維持ができなくなって組織が完全に崩壊する可能性が高い。

 

早く! 早く上がれ!

 

 

「なるほど、確かにその手もありましたが……、少々品がありませんね?」

 

 

ヘリキャリア、そのさらに上空から響く声。……あぁ、聞いたことがある。忘れるはずがない。

 

 

一瞬にして、この空を覆っていた雨雲が解けるように消えていく。私たちを押しつぶすように覆っていた雲の先にあるはずの夜空。しかし夜であるのに明るい、明るいのになぜか暗い。

 

明らかに光源がそこにあるはずなのに、私たちの脳がそれは黒であると認識させるような光。

 

真っ黒な太陽が、そこにあった。

 

 

「よう、久しぶりだなドロッセル。これはほんの、挨拶代わりだ、よッ!」

 

 

その太陽が落ちる。

 

ヘリキャリアの中央に着弾し、その熱量と質量によって甲板が割れ、その罅は内部まで貫通し割れる。黒球はまだ終わらない、ヘリキャリアを両断するだけではなく、蝕むように太陽がヘリキャリアを包んでいく。まるで何かに蝕まれるように、食い尽くされるようにその闇は広がっていく。

 

その光景に、正確には闇自体にどうしようもないほどの忌避感を覚えた私は前に進もうとしたユキの手を無理やり掴み、距離を離す。理性でもなく、記憶でもない、なぜか心がアレを拒否している。

 

私が手を引いてしまったからか、それとも初めからそうあるべきだったのか。黒炎はすべてを包み込み、その大きさは徐々に小さくなっていく。まるで何かがあの大きな船を削る取っていくように、金属が削れる音なのか、あの中にいた子供たちの悲鳴なのか。終わらない悲鳴に私の悲鳴が重なる。私じゃない、でも私が叫んでいる。

 

自分じゃない誰かがの感情、苦痛、後悔、懺悔。それを受け流せずただ耐えるしかできない私は、そのすべてが炎に飲まれ跡形もなく消えるまで何もすることができなかった。

 

 

(上を見ろ!)

 

 

擦り切れていく私の声、いや違う。流れ込んでくる感情の私じゃない。離れた場所から話しかけてくるような声にに促され、空を見上げてしまう。

 

さっきまであったはずの夜空は消えてなくなり、あるはずのないもの。町が上にある。……ただの町じゃない。大阪だ、私たちの町が、要塞都市化する前の私たちの町が上に存在している。そしてその空に浮かぶ白い人型。……私がいる。

 

 

「あなたはよく知っているでしょう、ドロッセル。……インカージョンですよ。ぶつかったら両方の世界が崩壊する、実にわかりやすく面白い仕掛けでしょう?」

 

 

未だ遠く上空にいるはずのタイフォイドの声、私が初めて戦ったネームドヴィランの声が耳元で囁くように聞こえてくる。そしてこのしゃべり方、理解の及ばない黒い炎。……殺したはずの男。

 

空に浮かぶ赤髪の女性、その左腕から発せられる黒い炎。その火の中で一段と強い輝きを放つ紺色の指輪。

 

 

「倒したはずの相手が手を組み、もしくは一つとなって再戦を挑む。そしてその過程で大事な両親が殺される。まさにあなた好みの『アメコミ』的展開ではありませんか?」

 

「七年前にお前に負けて以来、ずっと貴様の顔が頭から消えねぇんだよ。さぁ、殺し合おうぜドロッセル!」

 

 

 





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