前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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アセビ

 

頭が、回らない。

 

落ち着け、落ち着けツグミ。私は、ドロッセルだ。戦わないといけない、脅威を排除しないといけない、世界をより平和に保たなければならない、家族を守り抜かなければならない。落ち着け、周りをよく見ろ、ヒントを、記憶を探れ。最適解を考えろ。

 

目の前にいる敵、私が初めて戦ったヴィランであるタイフォイド・マリー。発火能力もちのミュータント。そしておそらく同じ体の中にいるのがニンジャ組織の親玉で殺したはずのマツオ・ツラヤバ。タイフォイドの方は死体を発見していなかったし、当時は彼女を探す余裕なんてなかった。多重人格者でもある彼女がケガを癒し、私を殺しに来ない理由なんて温和な人格が復活し残虐な人格が抑えられている以外ないと思ってた。見つからないのは一般人として生きているからだと、もしくは死んでしまったからだと。……違った。より悪い方に動いている。

 

奴の左手に収まる紺色の指輪、鈍い光を保ちながら彼女の発火能力をより強力にしている。しかもこの肌を刺すような感覚、明らかに私の声だとわかる不信感。空に浮かぶもう一つの地球を見れば嫌でもわかる。あの力の触媒になっているのは私だ。その指輪自体はツラヤバ本人が付けていたものと同じ。

 

 

「ふむ、お二人とも色々考えておられるようですが……、良いので? このまま放っておくとインカージョンが起こってしまいますよ? 私としてはそれでいいのですが。」

 

 

……インカージョン。世界と世界、並行世界同士が衝突することで引き起る玉突き事故のようなもの。車程度ならかわいいものだが、この現象は世界と世界。衝突した瞬間に両方の世界に亀裂が入り、対消滅する。助かる方法はただ一つ、どちらかの世界を破壊することのみ。それ以外の方法は存在しない、起きてしまった以上どんな存在であっても、誰であっても止めることはできない。それがインカージョンだ。

 

この瞬間、こちらの私とあちらの私。詳細はわからないが同じ存在である私たちは敵対したことになる。どちらかの世界を助けるためにはもう片方の世界を破壊しなければならない。しかし両者ともに背後にある世界は自分の命よりも重い。この星だけじゃない、その世界に含まれるすべての星が崩壊する。

 

そんな状況なのに自分の世界を見ず知らずの他人と愛着もない異世界に譲れるわけがない。この私が絶対に譲れないと考えているのだ、あっちの私だってそうに違いない。

 

……いやまだ可能性があるかもしれない。インカージョンは魔術的な問題だ。まだ生存しているエンシェント・ワン、至高の魔術師をこの場に呼び出しあちらの世界の同位体と協力してもらえばまだ希望が見えるかもしれない。少なくとも時間稼ぎぐらいはできるはずだ。あのツラヤバが術者を殺しただけで効力が失われる方法を使うはずがない、でも奴を無力化して力の根源だと予想できる指輪を奪えば……

 

 

「全く面白いですね、やはり違う世界といえどもドロッセルはドロッセル。たどり着く答えは同じですか。……いいことを教えて差し上げましょう。この場に至高の魔術師はこれませんよ。」

 

 

動きが、止まる。もう否定できない。完全に思考が読まれている。この私も、あちらの私も。

 

 

「インカージョンは魔術師にとって明らかな緊急事態、かのエンシェント・ワンなら私がこの世界をこの場所に持ってきた時点で気が付くでしょう? この場に来ていないことが答えですよ。……あぁご安心を、彼女二人を相手取るのは少々骨が折れるのでね。簡単な結界を施させてもらいました。」

 

 

事実、なのだろう。

 

状況は振り出しに戻る。二つの世界を滅ぼそうとするツラヤバ、この私に復讐をもくろむタイフォイド。都市が焼かれ装備の状態も最悪に近いがユキと一緒に戦える私、目的はヴィラン二人の排除と空に浮かぶ異世界の破壊。そして異世界の私、目的は同じくヴィラン二人の排除とこの世界の破壊。

 

三つ巴の状況。

 

 

「……ツグミ。」

 

 

隣にいるユキが、指示を求めてくる。彼女にはまだ記憶を共有していない、何もなければ今頃すべてを彼女に話していただろうがすでにIFと化した。ユキには何か非常にまずい状況であること、そして私がもう一人いること、空にもう一つの世界があることしかわかっていない。……だが、私を頼ってくれている。それに私は答えないといけない、彼女を、世界を守らないといけない。

 

高度を上げ、異世界の私の傍まで移動する。私なら誘いに乗るはず。

 

 

「もう一人の私! 状況は把握しているよね。」

 

「最悪ってことはね。」

 

「何をするにしてもまずは目の前にいる奴らを殺す、私たちの問題はそのあとで。」

 

「……OK、乗った。恨みっこなしだよ。」

 

 

彼女の考えはおそらく、『こちらの方が戦える人数が多い現状数的不利は否めない。眼前のヴィランとの戦闘の間にこの私とユキが負傷し、自分だけが軽傷で奴らを殺せればこの不利を覆せるかもしれない。同じ私である以上考えかたは同じなはず、おそらく狙いはバレているが同じ存在同士で殺し合い両方とも死亡した場合両方の世界が崩壊する。少しでも世界を救う可能性が高い方を選ぶ。』というものだ。

 

この考えはほとんどこの私と同じである。

 

……1つの方法を除いて。

 

 

詳しい技術差はわからない、だが隣にいる私のスーツがグレードの低い前の世代のスーツ。そして彼女が守る町は私たちの町のように要塞化されていない。……おそらくだが私たちの世界よりも前の時代の世界になる。

 

スーツの変更時期、要塞都市の建設開始時期を考える。私にあって彼女にない技術。……ブラックホールエンジン。この場で組める簡易なものでは暴走は必須。しかしながら今回はそれが狙い、暴走し際限なく広がり続ける暴威をあちらの世界に放り投げることですべてを無に帰す。

 

これで私たちの世界が助かるかはわからない、でもマルチバースやインカージョンについての魔術的知識がない以上それに掛けるしかない。

 

 

(別世界の私、そしてあなたの守る世界のすべて。恨みたきゃ恨めばいい、お前たちにはその権利がある。だが私はお前らよりも私の世界の方が大事なんだ。……消えてくれ。)

 

 

イヴ、ユキへの通信開いて。暗号化して送る。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ユミル! 支援メイン!」

 

 

私の名前を呼びながら赤髪の女性に向かって距離を詰めるつぐみ、そしてもう一人の彼女。方針を固めるまで要した時間は数秒、でも私にとっては多分人生で一番長い数秒だった。

 

私たちの世界のつぐみから送られたのは今この世界に起きている危機と、この夜空に急に現れたもう一つの大阪。まるで過去を移す鏡をのぞき込んでいるように昔と同じ町が空に浮かんでいる。

 

つぐみは私たちの知らないことをよく知っている、いつも一緒にいるはずなのにどこから仕入れてきたのかわからない知識をたくさん。知りすぎていてまるで未来を知っているのかと思うぐらいに。今回もそれと一緒、彼女は答えを知っていた。

 

この現象はインカージョンと呼ばれるもので、並行世界同士がぶつかる現象のことらしい。これが起こり世界同士がぶつかると両方とも消滅。助かるには片方の世界を破壊しつくさないといけないらしい。……まぁわかりやすい世界の危機だよね。

 

 

『了解、足場として使っても大丈夫だから。』

 

 

変声機を使い、声を変えながらドローンたちを展開する。私の仕事は二つ、いつも通りつぐみの手伝いをすること。そして私たちの世界を消そうとするものを消し飛ばすこと。……簡易ブラックホールエンジン、起動した瞬間に暴走する爆弾の生成だ。

 

つぐみは最後の一押しは自分がやると言ってきたが断った。一つの世界をすべて吹き飛ばした、そんなことまで彼女が背負う必要はない。ただでさえ一人でいろんなことを抱え込んでしまうんだ、もうつぐみが限界でつぶれそうになっているのはわかる。そんな時に世界なんて重いものを背負わせるほど私は馬鹿じゃない。

 

一番大事なのはつぐみで、その次につぐみが大事にしてるもの。急に現れた並行世界なんて私からすれば全く知らない世界だ、そっちに私がいるのかどうかはわからないけどわかるよね? つぐみが嫌な気持ちになるぐらいだったらそんな世界いらないの。もう覚悟はとっくの昔に決めている、彼女がこの血にまみれた手を取ってくれるのなら……、いくらでも汚してやる。

 

 

『行動予測開始、定点照射開始。』

 

 

二人のつぐみと赤髪の女性、ツラヤバとの戦闘はこちらが不利で進行していく。敵の扱う黒い炎の火力はすさまじく、盾代わりにつぐみが使用したドローンの外殻が焼け落ち跡形もなく消えてしまった。ドローンの材質は私たちのスーツよりグレードが低いとは言え、私たちが食らったとしても致命傷は避けられないだろう。

 

しかしながらこちらの攻撃方法、リパルサーや別世界のつぐみが使用したミサイルなども炎で焼き切られ意味をなさない。相手もかなりの強者であるため死角や隙をついた攻撃もすぐ反応されて無力化される。……多分いま体を動かしているのは私のつぐみに因縁があるらしいタイフォイド。攻撃は大体そっちに集中している。となると、つぐみの逃げ道を作りつつ、回避のアシスト。ドローンの多重攻撃で牽制し敵の行動を阻害してからの、回避できない至近距離からの攻撃が必要になる。

 

 

『ドロッセル、ルート指定。支援砲撃いくよ。』

 

「りょ!」

 

 

違う彼女に遊撃を任せ、私はヘイトを一身に受けているツグミのサポートに回る。戦略的にもこれが一番いいし、おそらくこの後殺すであろうもう一人のつぐみと共闘できるほど私は出来ていない。三賢者とイヴは私が持っているTailのエネルギーの大半と反重力システムを使いブラックホールの生成で忙しい、つぐみがタイフォイドとの戦いで大変な以上彼女のルート選択とその場を整えること。全部私がやらないといけない。

 

 

(残ってるドローンは60ちょっと、数は少ないけど失敗は許されない、集中。)

 

 

脳を酷使すること、つぐみにドローンをもらうまでは気が付かなかったけど私は脳の限界に挑戦すればするほどその機能が上がっているように感じる。最初は両手で数え切れるぐらいしか動かせなかったドローンもいつしか二桁を超え、もう少しで三桁ぐらいは動かせるかな? ってところまで成長できた。ちょっとずつ無理をするたびに自分の中の壁を超える感覚がする。この成長のおかげで私はここまでこれた。

 

弾幕を張り、リパルサーを放射させ、危険な距離まで近づかれたらドローンを突撃させ時間を稼ぐ。徐々に数は減っていくがその代わりに作業の進行度は進んでいく。主目標のブラックホール生成はうまく行っているけど敵の力の根源らしい指輪の奪取は敵の火力が強すぎてうまく行っていない。正直あの黒いものを見ているととても気分が悪いというか、心の奥底から不快感が湧き出てくるので早く消し飛ばしてしまいたい。

 

最悪指輪が取れなくても残ったドローンをすべて敵にくっつけてそのまま吸い込ませればいい。つぐみの害になるものをすべて消す、うん。そしたらみんな幸せに明日を迎えられる。多くの組織に人が亡くなってしまったけど彼女がいれば何とかなる。つぐみが前に進もうとするならそれを支え隣を歩く、立ち止まりすべてを止めるなら私も一緒にやめる。

 

 

『ユキ様、そろそろです。』

 

 

イヴちゃんからの報告に目線で了解を伝える。即席で無理やり作ったこのブラックホールは完成とともに暴走するらしい。私たちの世界を破壊しようとしている異世界を壊すためには完全にこれが出来上がる前に発射する必要がある。それも私のじゃないつぐみが邪魔できないタイミングで。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『マスター!』

 

 

イヴから報告、とそれに気を取られたのか若干回避が遅れてTailが持ってかれる。

 

黒炎に巻き込まれたTailはその手に触れられた部分が消し飛び、残った火がそのすべてを焼却していく。もし彼女に触れようとするならば黒炎に守られていない箇所か、常時外殻を作り直していくナノマシンが必要。一応持っていないわけではないが、使いどころは今ではない。

 

7年前に比べると私自身格段に強くなっている。最初のスーツと比べると小型化したことにより被弾面積の減少や機動性や小回りの改善、技術的にも水鉄砲から対戦車ライフル並みの進化を遂げている。スーツの中身である肉体も昔みたいな弱弱しいものじゃない。

 

だけど想像以上に苦戦させられている。タイフォイド自体の身体能力はもちろん炎の扱い方、単純な火力の増加。見え隠れするニンジャの体術を自分流に磨き上げているらしくまるで別人のようだ。私への復讐心、リベンジのため動いているようだが非常に冷静に戦いを進めているらしく言葉に感情は乗れども動きにブレがない。

 

 

「一本もらいぃ! オラオラどうしたよドロッセルゥ! 逃げてばっかりじゃつまらねぇよなぁ!」

 

 

彼女が挑発してくるが無視する。昔は『次会うときは友達だといいね』と言ったのは確かだが厄介なものを捨ててからにしてほしい。その指輪明らかに面倒な品だしツラヤバは早く消えてなくなってほしい。っと。

 

 

「チぃ! 邪魔だァ!」

 

 

ユキのドローンの攻撃と異世界の私の攻撃がタイフォイドを襲うが効果がない、あの炎の火力が強すぎてすべて消し飛ばされてしまう。……だが、もう逃げ回る必要はない。

 

時間だ。

 

 

「ユキ、お願い。」

 

 

黒い塊が、空に打ち上げられる。

 

 

 

おそらくそれに気が付いたのだろう、タイフォイドの攻撃が止み隙を伺っていたもう一人の私も異常に気が付き攻撃を止める。

 

 

さぁ、終わりにしようか。

 

 

異世界の私がブラックホールに対抗する術を持っているかはわからない、だがタイフォイドに使用した武装の差から明らかに技術レベルは下。対抗はできないと考えられる、だが邪魔されアレの起動がこちら側で起きた場合すべてが終わる。

 

タイフォイドを無力化する。攻撃が止まった隙を狙いアントマンにも使用したナノバインドで一瞬だけその動きを奪う。それと同時にユキが残ったドローンすべてを彼女に密着させ、後は人力であちらの世界に投げ込むのみ。少々危険だがユキに任せ、私は私に向き直る。

 

 

ちょうど、黒球がはじける。

 

制限されていた重力が逆方向へ流れ始め、すべての法則を崩していく。両手で包み込めるほどの大きさだったソレは加速度的にその大きさを拡大させる。もうこうなってしまえばだれも止められない。際限なくすべてを吸収し、その質量の大きさだけ拡大する暴力が顕現した。

 

 

 

「……恨みっこなし、だったよね。」

 

 

あちらの世界が、徐々に削られていく。

 

もし私があちらの住人であれば、もし私が目の前の彼女であれば、インカージョンの対象がもっと高度な科学技術を有していれば。ただ何も言えず、すべてが壊れていくのを見ることしかできないのは私だった。

 

 

「……うん。私なら、そうしてた。」

 

「恨んでいい、貴方たちには権利がある。」

 

 

何も返さず、ただ黒に包まれていく世界を見上げる彼女。肉眼で最後の時を見ようと思ったのか、顔を覆うパーツを外しその肌をさらす。瓜二つの顔、私だ。

 

一瞬、なぜかこちらを向き。頬を緩める。

 

 

「言いたいことも、聞きたいことも。違う出会い方ならもっと色々話したいこともあった。でもまぁ全部消えてなくなる、それも一つの結末なのかもね。」

 

 

そういいながら、徐々に高度を上げていく私。

 

 

「帰るよ、あっちが私の故郷だからさ。……私には誰もいなかったから、パートナーを大事にね。」

 

「……肝に銘じとく。」

 

 

ユキが運ぼうとしていた拘束したタイフォイドを受け取り、そのまま自身の世界へ帰っていく彼女は境界線を越えた瞬間。黒く塗りつぶされた。

 

 





終わるまでは終わらないよ。




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