『
何かが砕けるような音が聞こえ、目の前に誰かが転がってくる。そのことでようやく戦闘が行われていることに気が付いた、私が殺すべき奴がそこにいる。
「ツグミ! 何故ここに!」
「……ドクター・ストレンジ。私と貴方は初対面。」
声を聴いて目の前に転がってきた人間が誰か思い当たる、非常に驚いたというかここにいないはずの人間を見たような顔。私の知る彼と服装やこまごまとした装備が違う、異世界の彼だろう。そも私たちの世界の彼は未だ魔術の門を叩いていない。
私の道を遮るように一人何か納得する彼、魔術師ではない自身からすればその力量がどれほどなのかはわからない。わからないが少なくともネームド、戦力に数えてもいいだろう。敵対するのなら話は別だが。
「私は私の仕事をする、邪魔をしないで。」
「……邪魔をする気はない、だが鏡は見たのか?」
「鏡?」
何処から取り出したのか、明らかに女性用に思える手鏡を渡される。
……瞳の色が、違う。黒いものから黄色い光を放つものに。黄色、黄色い目。あぁ、道理でよく『見える』わけか。この手鏡の持ち主は私、そのせいで彼の世界も『見えて』しまう。目の前にいる人間の世界にいる私は魔術の道を選んだらしい。この場にいない時点で戦力として数えられていないが。
起点と終着点は同じでも進む道には差異が現れる、以前の私であれば楽しめたのであろうか。
「中身は君の世界のエンシェント・ワンに託されたものだ。君の思うタイミングで使うといい。……全く、弟子に頼る気持ちがこうも複雑とは思いもしなかった。」
「そう……、感謝を。」
もらった手鏡をスーツの隙間に入れ、前へと進む。確実に、確実にこの世から消し去る。もうそこに存在することが耐えられない。だから……、見ててよ、ユキ。
「……まだ戦えるのは私ぐらいだ。まだ生きてはいるが、最後まで戦っていた彼も師も倒れてしまった。早く向かうぞ。」
「うん。」
格納された手鏡の向こう側、そこには無数の光が漂っていた。
◇◆◇◆◇
「おぉ! おぉ! ドロッセル! ついにその目を開いたのですね! 世界を見! 世界を渡るための道を見つける目! 私の進むべき道を教えてくれる愛すべき目! えぇ、えぇ! もちろん理解していますとも! 神秘はあなたの体に宿っている、すべてをこの私にプレゼントしに来てくれたのでしょう!?」
ハエが、うるさい。イヴ。
『黙れ、お前にやるものなど一つとしてない。』
「あぁ、喋ってはくれないのですね我が愛しのキーよ。これほどまでに私は求め、すべてを投げうって貴方のためにささげようとしているのに。……私のおかげで手に入れた力でしょう?」
『ッ! 黙れ! お前が! お前がしたんだろうが!』
イヴが、叫んでいる。
異世界のストレンジと共に戦場へと足を進め、たどり着いた。かなり激しい戦闘が行われていたのだろう。素人目に見てもこの空間が崩壊し始めているのがわかる。足場はあれど死体が転がっていて踏み場がない、それに宙にも浮かんでいるせいであまり長居したい場所ではない。
視界の端で、異世界のアベンジャーズたちが流れていく。
何も、響かない。
「ふふふ、どうやら娘さんには嫌われてしまったようですね……。では、取引をしませんかドロッセル。」
真っ黒な、すべてを飲み込もうとする黒い目が私に向けられる。すでにその体には元々の持ち主であったタイフォイドの気配は見えない、全身にひびが入り内部から溢れ出る大きな力に耐えられないその体を見るにもう必要がなくなったのだろう。
その体を、見過ぎてしまったのだろうか。彼女がこちら側であった可能性を『見る』。私と、彼女。そしてユキが友人のように笑い合い新たな関係性を作っていく可能性。彼女の問題であった多重人格を改善し、一人の頼もしい仲間として世界を守っていく。
だけど、過程は違えど行きつく先は同じ。私が考えてしまったせいでまた一つ世界が生まれてしまった。奴の顔が、楽しそうに、歪む。世界の数はそのまま奴のエネルギー総量に繋がる。私のせいで増えたすべての世界が、私の生まれ育った世界に向かって進み続けていく。狭まる空間に生まれた新たな世界はほかの世界とすぐにぶつかり、二つの世界が粉々に消し飛ばされた。
助けを求める声が頬を掠る。奴が発する光、全身の罅から漏れる光がより大きくなり、体の崩壊がまた一歩近づいた。
「取引ですよ、ドロッセル。私が提示する条件を教えて差し上げましょう。」
「私が欲するのはただ一つ、あなたの体。そのすべてが欲しい、その眼も、顔も、髪も、手も、足も、皮膚も、骨も、血も、肉も! すべてがこのキャンパスから抜け出し、私を新たな階位に上げるのに必要なのです! あぁ愛しい私はあなたのすべてが欲しい!」
「もちろんあなたの望みもかなえて差し上げましょう! そこに転がる死にかけのマンダリン。崩壊する世界を少しでも食い止めようとし、何もできなかったエンシェント・ワン! ついでにあなたの隣にいるストレンジも助けてあげましょう! もちろんあなたが悲しまないように今もなお進み続けるインカージョン! 残ったすべての世界の安全も!」
「さぁ我が元へおいでなさい! あなたの体一つですべての命が救われます! 私と一つになりましょう、ドロッセル!」
両手を広げ、私を求める彼。私の体と引き換えに、今あるすべての安全を保障する。
よくある、取引だ。
イヴ。
着脱機構が動き、スーツが縦に開かれていく。外気に晒される私の肌、血の匂いが鼻をくすぐる。慣れ親しんだ戦場の香り。懐かしい記憶が脳裏を流れていく。あぁ、やっぱり私は……。
足を踏み出し、手を握りしめ、宙を歩く。
「待てツグミ! 奴の言葉を信じるのか!」
「……あなたは口を挟まないで、ストレンジ。」
私を制止する声を一蹴する。私が見つめるのはただ一つ、すべてが自分の思い通りに進んでいるせいか、眼も口も三日月のように歪ませ、まるで大好きなおもちゃをもらえる子供のような顔をしている者だけだ。
一歩、歩を進める。
これまでの人生を振り返る。愛し、愛され。殺し、殺され。すぐにでも崩壊しそうな仮初の平和の中で私は前に進み続けた。世界は、物語は残酷だ。一つの輝きをより素晴らしいものにするために、多くの悲劇を用意する。その道筋で力あるものはより輝きを増し、力なきものは人知れず死ぬ。
二歩、宙を蹴る。
私は元々後者だった、力なきものは与えられた役割を、誰かを輝かせるための存在だった。力あるものに憧れ、自分もそうなりたいと叶わぬ夢を描く。人の輝きに見せられた愚かな存在だった。
だが、力をもってしまった。夢を実現させてしまった。憧れは現実に、空想はいつしか目の前にある。そして自身は、物語の結末を知っていた。
目の前で人が死ぬ、すでに日常と化したそれは私にとっては受け入れがたいものだった。何も持たぬ人間とて守りたい人、大事な人はいる。たとえそうでなくても自身の進む道の中で倒れている人がいれば助ける、それが人として、輝きを持つ者として普通だったから。
三歩、天を進む。
全てを現実にしてしまったのが悪かったのだ、私が憧れなければ、ただの力なきものとして過ごしていれば。私は、私たちは何も知らぬまま世界を生き、死んでいった。私の望む世界がそこにあったはずだ。私が、私が始めなれば。私があの場にいなければ。世界は何の狂いもなく前に進んでいたはずだ。
私は、異物だ。
最後、奴はもう目の前にいる。
あぁ、どうしてだろう。脳にかかっていた靄が晴れていく、思考が研ぎ澄まされていく。
戦場の、血と硝煙と無残に散っていった人間たちの思いが私を呼び覚ましていく。私は生き残るために、守る為に、大事な人のために、戦ってきた。今日も、同じだ。私は、私のために、ユキのために、こいつを殺す。
荒れ狂うほどに叫ぶ感情と、凪のように静まった冷静な思考。
たった一つの目的を達成するために、すべてを注ぎ込む。
あなたのためだけに……。
ユキ、見ててね。
右手に隠した紫に光る『
油断しきったその顔に。
拳を叩きこんだ。
◇◆◇◆◇
「ッ!」
超人血清による身体能力の強化、そして『
幾ら多くの世界を自身の力と変えてきた奴であろうと油断は油断、振り抜いた拳は奴の鼻をしっかりと捉え、吹き飛ばす。縮まったはずの距離は元のように離された。
「クソみたいなお前のことだ、どうせその取引とやらも嘘なんだろう? タイフォイドの人格を消したように、私の体を奪い取って人格を消しすべてを破壊する。」
「そも! 私が! ユキを奪ったお前に! 手を貸すわけが! ないだろうが!」
握りしめていた石をコイントスのように上へと上げる。その瞬間さっきまで後ろで待機していたスーツが飛翔しもう一度装着。落ちてくる石を左手でつかみ取った。
『右腕部の冷却と圧縮固定を始めます。コーティングが正常に作動しているようでよかったです。……マスター、すべて用意は整っております。』
「……最初から全力で行くよ。」
左手の装甲を外し、私が過去から持ってきたすべての石をさらけ出す。背後にある二つのTailを開放し、ブラックホールエンジンを外へ。中央で別れた白い房は真っ黒な球体を保持するために動き始める。すべてを飲み込むそれはこの異空間でも正常に動く。ありとあらゆるものを吸収し、自身のものとするソレ。
昔は稼働率を上げ過ぎると暴発の危険性があったが、今はもう気にする必要はない。攻撃と防御、人類が到達できる一つの終着点がここに顕現した。
「全く、ひやひやさせるな……。なんだ? 君たちは私を困らせる性質でも持っているのか?」
「ごめんねストレンジ。」
「構わないとも、違う君を弟子に取ってからはもう慣れたものだ。」
彼が構えるとともに、私も前を向き直す。隣にいる彼が何ができるのかは知らないが、基本ストレンジの身体能力が人間を超えることはない。それは耐久値も同じだ、となると私が前衛を務めた方がいい。……渡された手鏡のこともある。私がメインで、彼がサポートだ。
それに、彼は私の知る世界の彼ではない。場所も世界と世界の狭間、私の世界からの二人はまだ息があるようだし気にしなくてもいい。あぁ、余計なことを考えずに済む。私は、私がやるべきことを成す。
「……ふふふ、はは、あははハハハハハ!!!」
「確かに、確かにそうですねぇ! あなたが私の言葉を信じるはずもなかった! いやはや危ないところでした、数ある使い捨てのヴィランと同じように私も死ぬところでしたよ! 自分の計画の実現が目前となり油断し! その隙を突かれて死ぬ! なんともまぁありきたりな物語か!」
「本当に、ほんとうに……。一撃で私を殺さなかったこと、後悔させてあげますよドロッセル。」
吹き飛ばした奴の体から、真っ黒なエネルギーが溢れ出る。多くの世界たちの苦悶の声が耳に届く、インカージョンによって滅ぼされた世界たち、私のせいで死んだ人たち。
だが、すでに心底どうでもいい。私は、ユキを殺した奴を殺す。それだけだ。
「何を言ってるのかわからないな害虫? 私は、思いつく限りの苦痛をすべて味合わせてから殺す。どんな手を使っても、この命がなくなろうとも殺す! 隙を突いて一撃で殺せばよかった? そんな簡単に終わらせるなんてつまらないじゃないか。」
「苦しめ! 泣き叫べ! 自分が何をしたのかを理解し、未来永劫この痛みを味わい続けろ!!!」
私の叫びが戦闘の狼煙だった。
一瞬で奴の体が掻き消え、眼前に。また距離を詰められた。
だが、前とは違う。『
「ふふふ、どれだけ声高々に叫んでも事実は変わりませんよ? あなたが自身の大事な人を殺したのです。」
「……黙れ!」
拮抗するエネルギー、ほぼ無制限といえる奴の呪力と存在するすべてを自身の糧とするブラックホール。奴が吐き出しただけ黒穴は大きくなる。しかしその大きなエネルギーを相殺するためその大きさが拡大することはない。
もう片方のTail、それを叩きつけるように振るう。追加してストレンジの支援魔術、当たらない。残像、気配、背後。
即座に背面のブースターを起動させ回避。
「ストレンジ!」
「解っている!」
エネルギーの噴射による目くらましと、アガモットの眼を起動させていたストレンジによる多方面からの鞭による捕縛。奴を囲むように自身の数を増やしたストレンジが同時に動き、その体を固定する。
エルドリッチ・ウィップによる拘束などたかが知れている。だが一瞬でも時間を稼げればそれでいい。『
普通なら、死ぬ。
「ッ! 引け!」
本体のストレンジの前を『
うるさい。『助けて』? 『苦しい』? 『なんで私が』? ふざけるな、私の邪魔をするな。私の精神を喰おうとするな。すでに終わった者たちが厚かましく生者にちょっかいをかけるな! 私が聞きたいのはお前たちの声じゃない!
『
『装甲にダメージ! ダメコン不可!』
イヴの声で現実を直視する。眼前に広がるディスプレイに被害状況が映し出されており、さっきまでの綺麗な青がたちまち黄色か赤だ。一撃でこれだ、それに石の使用だって無傷じゃない。多用は、できない。奴を殺す前に私が死ぬ、理性も感情もそれだけは嫌だと叫ぶ。
「ふぅ~、危ない危ない。いやはや使い放題の力とは便利ですねぇ……、世界一つ分すべて使ってもまだまだ余りがある。ま、体が持たないので回数制限付きですが。」
全方向への無差別エネルギー波、360°への攻撃だったからこそ防げた。一点へ集中されていたらブラックホールの許容範囲を明らかに超えていた。……遊ばれている。
「どうです? 降参する気になりましたか?」
「ふざけるな。」
醜悪な笑みを浮かべながらこちらに問いかけてくる。
「あら残念。ですがよろしいので? 時間がたてばたつほど私が有利になりますよ?」
「……。」
「有利……、ッ!」
ストレンジの声が響く、彼の眼には依然進み続けるインカージョンの姿が映されていた。世界の進行は未だ止まらない、本来なら、止まるはずだ。この数え切れないほど存在している並行世界をすべて一点に向けて進ませる、それに必要なエネルギーが莫大になること、たかが世界を数百壊した程度で手に入る力で動かせないことは深く理解している。
決められた感覚を破壊し、すべての妨害を無視して動かすなど現実的でない。それに奴はさっきまで戦闘中であった、戦いながら行動を起こせるとは考えられないし、そもそれだけのエネルギーを使用していればいかに力量差が離れようとも知覚できないとおかしい。
となると残る選択肢は一つ。
この、目の前の少女は。
まだ……
「おっと、また二つ逝きましたねぇ! これで帳消しどころかパワーアップですよ。いやはや入れ食い状態とはこのことでしょうか?」
◇◆◇◆◇
「……ツグミ。」
私の天秤はすでに壊れている。より大きい方を助けられるように、生き残れるように、前に進めるように考え、動いてきた。これまでの判断基準は単なる数だった。
だが、今は違う。私にとって一番大きなもの、ユキの存在はどんなものよりも大きい。たとえ私が『見る』ことのできるすべての世界が片方の皿に乗ったとしても。もう片方にユキの命が乗せられるのならば私の天秤はユキの方に傾く。
私の天秤は、こころは、すでに壊れている。私にとって一番大事なものを失ってしまった、亡くしてしまった。そして私がいる世界において彼女は必ず死ぬ、私がいる限り私が愛した人は必ず死ぬんだ。
終わってしまいたい、死んでしまいたい。すべての世界において私という異物はいらない、ユキが死ぬ世界なんかいらない。そんなことはありえないのに、私が死ねば彼女が戻ってくるのではないか。そんな幻想に飛びついてしまいたい。
……だけど、だけど。
私は、奴を殺さないといけない。私にしかできない、私にしかユキの仇は撃てない。殺さないと、殺さないと! 殺さないと!!! お前を殺さないと私は死ねない!
時間をかければかけるほど私は不利になる、不利になると私は奴を殺せなくなる。
殺さなきゃ、早く殺さなきゃ殺せない!
「ストレンジ。」
「……弟子の面倒を見るも師の役目だ。そう、教わった。なに、別世界の君だろうと私にとっては何も変わらないさ。だが、これ以上インカージョンの進行が進むと私の世界もまずいことになる。これ以上のサポートは難しくなる。」
「大丈夫。」
まだ戦える唯一の仲間が離れていく、私一人。彼は、自分の大事なものを守る為に離れた。責めるのは違う。
私は、私のやるべきことを。自分が使い物にならなくなる前に。
「……イヴ?」
『いくらお母様とは言えその願いは絶対に聞きません、私がお聞きするのは生き残った後のことだけです。嫌です、お母様が死ぬ前提のお話しなんか聞きたくありません。』
彼女は、私のわがままは聞いてくれないらしい。
「そっか……、やるよ。」
ブラックホールをTailから取り外し、前面に持ってくる。別れていた二つを、一つに。大きな黒穴を顕現させる。そして両方のTailの一部をパージ、手元に持ってきたそれを結合させブラックホールの前に。今の私ができる最大火力、最大口径のリパルサー。これで、消し飛ばす。
「ほう? 力比べですか。いいですねぇ……、その体をいただくにしても魂が残っていては厄介ですからね。完膚なきまでに叩き潰しぽっきりと折っておいた方が消しやすい。愛する人を自分のせいで、しかも目の前で失う。反抗しようとしても何もできずに死ぬ、全く素晴らしいストーリーだ。」
やはり、乗る。
左手を大きく振り、嵌めていたすべての石を空に浮かせる。行き先は浮遊するリパルサーの外縁部。元から、六つ目の穴は存在していない。五つすべてがしかるべき場所に嵌り、その力を高めていく。魂を除くすべての石のエネルギーと、永遠に稼働し続ける虚無の力。すべてを一つにまとめ、奴へ。
後は、仕掛けのタイミングだけ。手鏡を、左手に隠す。
「放て。」
号令と共に、放たれる極光。
「なるほど、確かに素晴らしい威力と言えるでしょう。科学の力の進歩とは凄まじいものですねぇ……。だが、魂が掛けた故に不完全。いかにブラックホールと言えどもその真価は瞬間でなく継続。いくら集めようとも『その程度』ですよ?」
奴の体に、力が集まり始める。
ここ。
『全ストーン同時起動! 行きます!』
瞬間、手鏡から吐き出されるすべてのストーン。空間、精神、現実、力、時間、そして魂。エンシェント・ワンとドクター・ストレンジ、さっきまで奴と戦っていた人たちがすべての並行世界から集めてきたインフィニティ・ストーンたち。すでに失われた世界のものも、未だ私の世界に向かって進む世界の石も。
集められるだけのすべてがここに。
「ALL『
石は、その世界の一要素を担っている。つまり、その世界から石を消し去ればその石が対応していた要素が消え去る。この私たちがいる場所は世界の狭間、世界と世界の区切りが不安定な状態。だからこそ、持ち出せる。だからこそ使える。……そして、世界の一要素を操れる。『現実』を操れるということは、こういうことだ。
奴の持つすべての呪力、世界を滅ぼすときに得たエネルギーをすべて。『現実』から『虚構』に叩き落す。
「……ッぷォ。」
「ほうッ! だがまだ世界は残っていますよドロッセル! そしてまだ指輪も使ってませんよ私はァ!」
ディスプレイが、目の前が、血で染まる。
石の反動が全身に圧し掛かる、全身の感覚はすでにない。痛みという危険信号も来ない、伝えるための神経がその大きすぎるエネルギーによって焼き切れたのか。体が塵のように崩れていくような未来を幻視する。……でも、それは、未来。まだ、来ない。まだ、終われない。まだ、死ねない。
奴の手から、すべてを飲み込む黒い光が放たれる。私の攻撃と奴の攻撃、一瞬拮抗するかと思われたそれはすぐに押し返される。まだ、力が足りない、まだ、殺せない。
奴が滅ぼした世界と、私が持つリアリティ・ストーンの数はあっちの方が多かったのだ。
次。
「ALL『
リアリティは世界を消すために使っているから使えない、だからそれ以外の石を、単純なエネルギー源として使う。これ以上の能力使用は体が持たない、だから少しでも負担が減るように、だけど奴を殺せるように。もう思考がまとまらない私の代わりにイヴが判断し、無理矢理リパルサーと石たちを連結していく。
「確かに! 私に対抗できる力! だが! まだ足りない! ナイトブリンガーよ! ダークフォームにあふれるすべての力を私に! この勝負! 私の勝ちダァ!!!」
まだ、足りない。石を使っても、足りない。押し返される。
視界が薄れていく、でも、でも。
私は奴を、殺さなきゃ。
『
ユキ……。
(……まだ、こっちに来たらダメだからね。全部、変わるよ。)
だめ、これは、わたしの。
(ううん、つぐみ。ちがうよ。)
……せめて、最後くらい。
すべてのソウル・ストーンのエネルギーを暴発させる。
インフィニティ・ストーンの中で一番強力なそれの集合体は、ツラヤバが放出していた光線を吹き飛ばしすべてを振り出しに戻す。黄色い、光。私の眼と、同じ。
私の体には、彼女の魂が。
しっかりと、わかる。
「いっしょに。」
「いくよ、つぐみ!」
◇◆◇◆◇
「さ! 時間もないしさっさとやるよ! イヴちゃん、力かしてよね!」
『もちろんですユキ様!』
今の私は亡霊みたいなもの! ソウル・ストーンの過剰利用によって無理やりつぐみの体に同化してるに過ぎない! 私のせいでこうなったのなら全部私が責任を取って終わらせる! イヴちゃん! すべての負荷をつぐみの体から私に! コード流すよ!
「どうせ私は死んでるんだ! 生きてるつぐみの負担は私が全部もらうよ! これは絶対覆さないからね!」
「……ありがとう、ユキ。」
ずっと隣で見てたからわかる、今いる場所は無限の可能性であふれた並行世界たちの狭間。ここではなんでも現実になる! 私にそんな力はないけどできたのならそれが事実ってわけだ!
石の総数は千を超える、それを全部使用して場合の負荷はどんな生物だって耐えられない。この世界の法則、可能性さえあれば現実にできる。無意識的にツグミがその可能性を引き寄せていたからこれまで耐えれた。でもこれ以上は無理、それに私は復讐のために彼女に死んでほしいとは全く思っていない! たとえ私がいない世界でも! 笑っていてほしい! 天寿を全うしてほしい! それが私の望み!
「さぁ最後だし元気出していくよ!」
「……うん! 奴を殺してハッピーエンド! やろう!」
「よし! じゃあイヴちゃん! エネルギー放射を一時中止! 増幅に設計変更!」
放射を止めることは敵の黒い光のような攻撃を抑えていたものがなくなることを意味する。でも、やられない。世界を虚構に落としていた『
『了! すぐに!』
「厄介な……! だが、リアリティ・ストーンの力が防御に振り分けられたのは確か! 拘束が剥がれた分こちらの使える力は上がりましたよ! さぁ無様に抗って死になさい彼女の思い人よ! その魂を私が消したと知れば完全にドロッセルの心は壊れる!」
「うるさい! そんなことさせるわけないでしょ! ヴィランはヴィランらしく私たちに倒されろ! 私だってすべてを許してあげるほどやさしくないんだよ!」
彼女は、私の大事な人はそんなに強くない。私たちがいないと悲しむのは死んでも解ってる! すべての石の負荷を私が肩代わりした場合、この魂が耐え切れずに消滅することも!
でも! ツグミの未来のため! 私がやらなきゃ誰がやるんだ!
「さぁツラヤバとやら! せっかくだし死んでもらうよ! 魂ごと消し飛ばして二度とつぐみが見えないようにしてやる!」
「ユキのために! お前を消し飛ばす!」
「やれるものならやってみたまえ! こちらもすべてをもって君たちを壊す!」
すべての石の力を覚醒させる、確か六つそろえれば何でも願いが叶う。その力をすべてエネルギーに。つぐみが用意していたリパルサーの機構が焼き溶けるほどの単純な力の放射。それを、複数。この視界いっぱいに広がる世界の人たちが集めてくれたすべてのインフィニティ・ストーンの力!
「……いくよ、つぐみ!」
「うん!」
同時に放たれる六色の光と黒い光。
ぶつかり合う力と力、強大過ぎるエネルギーがぶつかったことにより世界が軋む。
拮抗。だが、まだインフィニティ・ストーンの輝きは薄れない。
「「いっけぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!」」
六つの色がさらに増幅させ、敵の黒い光を上から塗りつぶしていく。
全てを包み込んだ光は、そのすべてを飲み込み。
確実に、消し飛ばした。
◇◆◇◆◇
「終わった、ね。」
「……うん。」
全てが終わった。そう、終わってしまった。奇跡の時間も、終わり。
ソウルストーンとこの空間の特異性のおかげで魂を実体化できたユキ。そんな素晴らしい奇跡、永遠に続いてほしいと思う時間。……現実はそこまで甘くはない、みたいだ。本当に嫌になるほどこの世界は残酷だ。
インフィニティ・ストーンの負荷のすべて、私が受けるはずだったソレはユキが肩代わりしてくれた。私がそっちに行くのはまだ早い、来てほしくない。そう、願われた。断れるはずもない。だけど……。
「いいの、人の命は一つしかないでしょ? ズルするのはダメだと思うな。」
「でも!」
「でもじゃないよ。……私だって、もっと一緒にいたかった。」
幾らこの空間がすべての可能性を許容してくれるからと言って、不可能までは許してくれない。すべての石の力を請け負った彼女の魂はもう、持たない。すでにその体が、風に飛ばされていく雪のように消え始めている。
せめて、少しで一緒にいれるように。連れていかれないように。彼女の体を抱きしめる。
「私も! ずっと、一緒に!」
「うん、わかってる。」
ちゃんと抱きしめられているのかわからない、わからないけど彼女の温かさだけは感じられる。永遠に、感じていたい。なのに、なのに……。徐々に薄れていくのがわかる。
「……あの時、私ね。帰ったらね、全部言うつもりだったの。それで、それでね。」
「うん、うん。」
たくさん、たくさん話したいのに口がうまく動いてくれない。時間がないのに、ちゃんとユキが聞いてくれてるのに。話さなきゃ、抱きしめなきゃ。置いて行ってほしくない。
「だから、ね。……ユキ、私はあなたのことを愛してる。ずっと、一緒にいてほしかった。」
「うん、私も。私もずっと一緒にいたかった、愛してた。」
言葉にしなくても解っていた、だけど。その言葉を自分の口で言えたこと、彼女の言葉を聞けたこと。それが言葉にできないほどうれしい。なぜ、なんでこの時間が永遠に続かないのか。終わってほしくない。
「……もう、時間みたいだね。」
彼女の体が、もう残っていない。足も、胴体も、残っていない。すべてが、光の粒になって消えていってしまう。いやだ、いかないで。
「私は先に行くけど……、できるだけ遅く来るんだよ。それでそっちの楽しい出来事をたくさん教えて、ね。」
「……うん。」
「私のぶん、まで。しあわせに、なること。……約束、してくれる?」
「約束、する。」
笑わなきゃ、最後くらい、笑わなきゃ。
「じゃあ、また、ね。」
「うん、また、会おうね。」
それを最後に、彼女を構成していたすべてが、光となって消えてしまう。
全てが、嘘であったかのように。消えて、消えてしまう。
「……なんで、なんで。」
なんで、こんなことに。嫌だ。
「あぁ、ぁ……。」
世界は止まった、私は、生きないといけない。守らないといけない。
「あああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
ただ叫び、自分が壊れていくのを眺めることしかできなかった。
◇◆◇◆◇
あれから、だいぶ長い時間が過ぎた。忙しかったからか、それとも私が可笑しくなってしまったのかはわからないけど……、まぁ時間が過ぎたことは確かだ。
あの後私たちは元の世界に戻り、崩壊した世界の復興と傷をいやすことに努めた。生き残ったワンさんは世界間の調整や、至高の魔術師やヒーローたちが失われた世界の平穏を守る為に動こうとしていたみたいだけど、ストレンジに止められ渋々帰って来てた。まぁ確かに全治三か月以上の重症だったみたいだし仕方ない。
彼女も今回の一件で色々思うことがあったみたいで、自分が死ぬ未来を変えるらしい。ま、正確には死んだように見せてほかの世界を守る為に動く、ってことらしけど。
ウェンウーさんは帰ってきた後も元気にテンリングスしてる、まぁ彼も前線であいつと戦い続けたみたいだしボロボロ。でもなんか腕輪の力ですぐに復活して元気に暗躍してらしゃる様子。まぁ全世界色々ニンジャのせいで崩壊しかけてるから私たち裏の人間は動きやすいし、無茶苦茶好機だもんね。
彼もワンさんと同じように考えを変えたみたいで、息子さんだけじゃなくて娘さんへの態度も改めようと思ってるだって。ちゃんと謝って三人みんなで暮らす、彼の奥さんの件も彼女の故郷に出向いて色々話を聞こうと思ってるって言ってた。原作であった魔界からの声は聞こえてないみたいだし悪いようにはならないだろう。
私? まぁ私も結構変わったというか色々あったよ?
本拠地としていた大阪がほぼ全損したようなもんだし、各地に散らばっていたファイアボールの職員たちも大体が死んだか、動けないレベルの負傷。まぁゾンビニンジャがピンポイントで襲撃かけてたし私も助けに行けなかったからね……。本当に悪いことをした。そのせいで勢力も格段に縮小して昔と同じ大阪という一つの都市で細々と活動するように指示している。
ま、つまりファイアボールとしての勢力を縮小させて。代わりにハイツレギスタという企業の力を前面に出そうとしたわけです。だって全世界にゾンビニンジャが襲撃したせいでサノスとは言わないけど結構な人が死んじゃったんだよ? 都市も結構壊されたし。それを復興するためにお金の力、表の一企業の力が必要だった。そういうわけです。
「最近は私全然経営してないけど、ね。」
そういうややこしいことは全部子供たち、AIたちに任せている。そうした方が簡単だし正確だ。三賢者やゲデヒトニスを作った時のノウハウがあったし、色々手伝ってもらったから結構簡単にできた、お嬢様大満足で、一般職員の人たちも大満足。う~ん、いい感じ!
あ、そうそう。
アベンジャーズのみんなもちゃんと無事だったみたい。さすがに無傷ってわけにはいかなかったらしいけど、ちゃんと力を合わせてゾンビニンジャを撃退! 大勝利! って感じだったらしい。新入り(まだ内定だけ)のアントマン君もたくさん頑張ったって聞いたし先輩大満足だよ。
にしても不思議だよね、み~んな私のこと心配するんだもの。確かに結構な打撃と死人が出ちゃったけど問題自体は解決したし、世界間の距離も安定してる。インカージョンのような危険はもうおこらないし……。
あ、わかった! 超人血清か!
まぁ確かに前までちび助だった私が急にビックになればみんな不思議に思うよね! う~ん、ツグミちゃんこりゃうっかり。私が打った血清単に身体能力を底上げして耐久値を上げる自家製の奴だから、キャップが打った精神に影響があるような血清とは別物。
「みんな心配屋さんだよねぇ?」
あと何か言ってないことは……、2つかな?
最初はおうちの話。
大阪に会った本社ビル兼ご自宅だけど、文字通り崩壊しちゃったから最初から作り直す羽目になった。でもなんか大阪に同じものを作るのは芸がないし、ここは時間旅行をして不正したわたくしの科学力を前面に押し出そう! と思い当たり……、なんと月面に基地を作っちゃいました!
まさにアポロ計画もびっくり、ってやつだよね。面白いからアメリカの旗の横に私たちの旗を立てて置いた。確か月の所有権って『どの国も所有してはならない』とかいう法律があった気がするけど……、まぁ私個人だし大丈夫でしょ。どうせ文句言ってくるのアメリカの時世が見えない上の方だけだろうし、そいつらは無視するから実質問題なし、ヨシ!
今も新しい月のおうちで快適タイム中、ちょっとねぼすけさんがいるせいで退屈だけどそろそろ起きるだろうしね。それまで我慢我慢、こんなきれいな青い星を見ながら時間つぶしでもしましょう。
ほい次、二つ目。
タイフォイドのこと! ツラヤバじゃなくて体の本来の持ち主の方ね? ソウル・ストーン使ってわかったんだけどなんかまだ彼女の魂あそこらへんフヨフヨしててね? 最初はぷちっといってしまおうかと思ったんだけどワンさんから『あの外道に騙されて最終的に消された』って聞いたの。
それでさすがにこのまま消しちゃうのはかわいそうだなぁって思って、ナノテクで体作って魂をぶち込んであげました! もちろん様々な記憶処理はしてるし、体もミュータントのころの綺麗な体。今頃アメリカのニューヨークあたりでふらついてるんじゃない? 復活させたことに対する説明するの面倒だったし、手ごろな公園のベンチにポイしてからはよくわかんない。まぁ彼女の体に埋め込んだセンサーは彼女が元気に過ごしていることを教えてくれるし大丈夫なんじゃないかな。
「うん、こんなもんだね。」
そんな感じにボチボチ歩きながらねぼすけさんの方に向かう。最近ずっと寝てばっかりだし心配だよね……、ま、私の作った医療設備は完璧だし、機器は全部正常って示してる。大丈夫でしょ。
部屋の前に立つと自動ドアが作動し、中へと運び込まれる。
「あ、ゲデヒトニスじゃん。」
「おはようございますお嬢様、お加減はいかがですか?」
「私? 元気だよ?」
なんか最近過保護になって来て原作通り執事みたいな雰囲気を醸し出してきた彼といくつか会話を交わす。体調のことから始まり、この基地の拡張計画のこと、これから来る外部からの脅威への対策や地球の情勢。ま、そんな話をしてれば時間は時間は過ぎる。気が付けばそろそろ目覚ましが鳴りそうだ。
ふふ、寝起きに隣にいたらびっくりするかな?
彼女の隣に腰かけ、時間までその顔を見つめ続ける。私の愛する人の顔がそこにある。
……時間だ。
「おはよ、ユキ。」
「マスター……、ううん。おはよう、ツグミ。」
DROSSEL[ ALL ]BREAKER END