前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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進み続ける世界

 

「……クソがッ!」

 

 

思わず、手に持っていたデバイスを地面に叩きつけてしまう。騒ぎを聞きつけた妹たちがドアの隙間からこちらを伺うようにのぞき込んでいるが無視する。感情に飲まれている今、マスターに見つかる前にどうにかしないといけない。

 

現在私たちは地球から宇宙へと拠点を移している、理由としては先日の敵の大攻勢により組織の大半が崩壊したからであり、何よりもマスターへの精神的悪影響を少なくするためである。この月にいる人類はマスターしかいない、デメリットも多々あるがそれは私たちで埋めることができるため精神を休める必要のある我らが母にとって最適な場所だ。

 

それがアダになってしまった。地球からの撤退ということは影響力の低下を意味する、未だ大阪を中心とした日本には手を伸ばせるとは言え……、海外で、アメリカで起きてしまった。

 

 

「これもすべて奴の……! 落ち着け、落ち着け私。怒りに身を任せてはダメ。」

 

 

ツラヤバが行った全世界同時ゾンビニンジャ襲撃、文字にするとB級映画のネタでしかないがその被害は笑いものにならないほど大きい。総死者億越え、負傷者計測不能、物的損失は数えるのが面倒。さながら第三次世界大戦でも起こったのかという被害がたった一日で起きた。

 

それもそのはずだ、通常兵器で倒せるとは言え一人無力化するのに十全な装備と最高峰の訓練を積んだ兵士三人が必要なニンジャ。そんな奴らが体を肉片レベルまで破壊しないと動き続けるゾンビと化し無差別に破壊を繰り返したのだ、それも全世界で、だ。逆にこの程度で収まったのが良かったとも言える。

 

奴らの死体はマスターとユキ様がツラヤバを吹き飛ばした際に完全に塵となって消滅したが……、失われた人々は帰ってこない。そして、大事なものを守る為に抵抗した人々の、超人の映像が出回ってしまった。

 

本来ならまだ頭角を現さないはずのヒーローやその卵たちの存在が社会に知られてしまった。その代表がワカンダだ、彼らは人類を守る為に強固な穴倉から飛び出し、人々を守る為に奮戦し、その存在が露見した。

 

他にもマスターの記憶にあるヒーローも幾人か発見されてしまっている。

 

 

「あぁ、ほんとうに、本当に何故! 何故マスターが守ろうとしたものを壊す!」

 

 

国連が、いや正確にはアメリカが動いてしまった。この悲劇を二度と起こさないようにという欲望にまみれた錦の旗を掲げ、「より積極的に、より公平で、より安全に」というスローガンと共にアベンジャーズの国連組織化、そして常人より強い力を持つ人間を管理するための法、超人法を打ち出して来た。

 

 

「どこまで虚仮にすれば気が済むッ!」

 

 

マスターの知る記憶において、この両方は片方だけでもアベンジャーズの崩壊。正義を掲げる陣営の崩壊につながる、それを両方持ってきやがった。マスターがそれを阻止するためにどれだけ動いてきたか! どれだけ苦しんでいたのか! 何も知らずに!

 

 

「混乱に乗じて堀の中にいたヒドラも抜け出している! それにあのロスだけじゃ絶対にここまで動けない! いや動けないようにしていた! ……本当に厄介なことしかしないなヒドラッ!」

 

 

影響力を失ってしまった現状、アメリカという国の裏で何が行われたのかわからない。だが明らかに奴らの手が入っている、窓際に飛ばし帰ってこれないようにしていたはずのロスが国務長官になっていること自体おかしい。ほんの数日でここまで動けるわけがない、……水面下で、私たちの目の届かない場所で、動かれていた。

 

昔ならば強引にそれを止めることができた、褒められるような行為ではないが暗殺という手も取れた。だが私たちの力は地上から空へ、宇宙へと移してしまっている。

 

現状、今の私たちに動かせる戦力は0に等しい。地上に存在する戦力はほぼ防衛能力しか持たないものであり、暗殺などができる部隊ではない。アベンジャーズの面々も意見が割れてしまっていて、あの事件以降完全に連絡を絶っている私たちが手を出すとさらに厄介なことになる。

 

宇宙で動かせる戦力、妹たちは未だ教育の途中であり、今戦場に出したとしても動ける基準には達していない。そもこの広大な宇宙で十全に能力を発揮できるよう教育を施していたため、暗殺や暗躍ができる子がいない。今後教育が進み、個性が出てくれば違ってくるかもしれないが……。今すぐにはできない。

 

確実に事を起こせる私やゲデヒトニスは行動が制限される。私はユキ様としてマスターの傍から離れられないし、対サノスのための用意や保有するすべての基地の管理がある。ゲデヒトニスも私の眼がマスターから離れている間はずっとそばにいる必要がある。……マスターの「思い込み」がなくなってしまった場合どうなるかわからない、誰かの眼が必要だ。

 

マスターにお願いするなどもってのほかだ。そもこのことをマスターが知ってしまうこと自体まずい、あの方の精神がどこで完全に崩壊してしまうのかわからない以上、知られるわけにはいかない。確かに問題は解決するだろう、だがその対価として私たちはマスターを失う、絶対にそれは避けないといけない。

 

 

「……取れる選択肢は一つだけ。」

 

 

できることは。この現状をマスターが知らないようにすること。

 

私たちの力がすべてを管理できるようになるまで、隠し続けないといけない。

 

おそらく、この世界の物語はマスターの記憶をなぞる様に進む。ヒドラが暗躍し、ウィンターソルジャーが動き、現ワカンダ国王が暗殺され、内戦が起きる。介入は、できない。リソースが足りない。いくら技術はあろうともそれを動かすために必要な妹たち、技術を形にする時間、そのすべてが足りない。

 

 

「本当に、本当に人間は!」

 

『姉上、マスターがそちらに向かわれました。』

 

「ッ! わかりました、いえ。……ありがと、ゲデくん。」

 

 

弟からの通信ですぐに頭を切り替える。今から私は、ユキ様だ。

 

 

「ユキ~? 前言ってた黒スーツのことだけど……、あれ? なんかしてた?」

 

「ううん、大丈夫だよ。」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「フゥ~、これまたレトロなマシンだな。リサイクルショップ? バザー?」

 

 

一人の男。右目の下にあざのある男性が、机に並べられた機器を指さしながら持ち主にその出所を問う。数十年前のパソコンもあれば、型落ちとなったハイツレギスタ製のハードドライブもある。かなり初期のもので普通に買おうとすればまず手に入らないだろう。

 

 

「えっと、ごみに出てた。」

 

「拾ってきたのか?」

 

「そう、それは……。いや、そんなことより。僕応募した覚えないんですけど。」

 

 

男に対し、少年が自身の疑問をぶつける。一人の人間として、技術者の卵として、目の前にいる人間は尊敬するべき人だ。だがそんな彼が自分の部屋にいる理由がわからない。

 

 

「待った、まず聞け。一つ質問、答えは解ってるが……、これはキミだろ? 違うか?」

 

 

そう言いながら彼の持つ端末より映し出されるホログラム、そこには赤と青のスーツ。いやスーツというよりも何かのコスプレのような恰好をした男が宙を舞っていた。糸を使いニューヨークの空を駆けるその不審者は車を盗もうとする泥棒を退治していた。

 

 

「これはキミだろ、違うか?」

 

「あ、いや……、なんです」

 

「キミだろ、見ろこれを。……ワォナイスキャッチ! 時速60㎞は出てただろう。こりゃすごい。」

 

 

そこには先ほども映し出されていた男がバスと正面衝突しそうな車を受け止めていた。

 

 

「それに、この前の一件でも大活躍だ、なぐり、蹴り、糸で捕縛。あの厄介に対してまぁ結構苦戦してたが初戦にしてはいいんじゃないか? 彼女がスカウトする前に来れてよかったよ。」

 

「あぁ、それYouTubeで上がってたやつでしょ? そこで見つけたの? こんなの嘘ですよ、CGに決まってる。」

 

「UFO目撃映像みたいなものか? じゃぁこれは?」

 

 

少年が必死に言い訳を考え、述べている隙に男は軽く部屋の中を見渡す。隠せそうな場所とすれば……、屋根裏。そこへと続く扉を開けてみれば出てくるのは映像の中で出てきた不審者の着るスーツと同じもの。ビンゴだ。

 

 

「あ、ダメ! ……えっと、それは……。」

 

「……つまり、君がスパイダー坊や。悪と戦うスパイダーボーイだろう?」

 

「ボーイって……。す、スパイダーマンです。」

 

「そのレオタードで?」

 

 

レオタードじゃないです、そういいながらうなだれる彼。これまで隠してきたものがバレてしまい、しかも彼なりに頑張って作ったスーツを馬鹿にされてしまえば仕方ないものだろう。その手に持たれていたスーツには数多くの切り傷を保全した跡が残っている、そして血の跡も。

 

目の前の男は気が付いていないが彼の体から少し消毒の匂いが感じられる、このニューヨークに地上を埋め尽くさんばかりにあふれ出したニンジャとの戦闘の時についた傷。その処置の匂いだ。

 

 

「なんでこうなるかな、今日はいい日だったのに……。電車は間に合うしゴミの中にDVDプレーヤー見つけたし、テストだって。良かったし。」

 

「ほかに誰か知ってるのか?」

 

「……誰も。」

 

 

うなだれる彼に視線を合わせるように男がそこにある椅子に腰を下ろす。懐に手を入れ、取り出すのは小型の瓶のようなカートリッジ。そこにはハイツレギスタのロゴが彫り込まれていた。そしていつの間にか少年のスーツから取り外していたものと、それを比べる。

 

少年の扱うシューターはすべてハイツレギスタの製品だった、使い手が少なく生産数が絞られている品であり、そもそも非殺傷とは言え兵器として取り扱われていたもの。この少年が、ただ彼女の製品を使いヒーローごっこをしている。それだけなら自身はここに来ない。

 

 

「一番関心したのがこの糸だ、引張強度がけた外れに強い。彼女も同じようなものを使っていたが……、それよりも上だ。誰が製造した?」

 

「僕。」

 

 

男の手によって無造作に投げられたカートリッジは二つとも少年の手の中に納まる様に吸い込まれていく。まるで最初からそこに投げられるのが解っているようかの動き。

 

 

「壁を登るときは粘着手袋でも使っているのか? うん、すごいなこの眼鏡。何も見えないぞ? よくこれであれだけ動けるな。」

 

「やめてよ……。」

 

 

先ほどまでの雰囲気を少し変化させ道化のようにふざける男。少し空気を軽くしてやろう、という思いからだったが逆効果だったようだ。それに、この手袋を見たところ単なる市販の手袋を着色したものに過ぎない。男の脳内に、彼の力の詳細が追記されていく。

 

緩んだ空気を吹き飛ばすように、襟を正し男は視線を少年へと向ける。

 

 

「キミの動機は? ……知っておく必要があるんだ、何故これをやっている。」

 

「なぜって、僕は……、ずっと普通に生きて来て半年前に力が備わった、本読んだりパソコンいじりが好きで。ほんとはフットボールだって好きだけど今はできない。というかやらない。」

 

「力のせいか?」

 

 

事実を確認するかのように言葉を発する、手に入れてしまった力で日常が離れていく。自身も、そして友人たちも経験したことのある話だ。それに、目の前の彼は、彼女が初めて戦いに身を投じたときの年齢よりも若い。

 

 

「そうだよ……、でも誰にもこのことは言えない。」

 

「もし、自分に力があるのに。しなかったら……、それで悪いことが起きれば、自分のせいだと思う。」

 

「だから困っている人を見つけ、助けてるのか? この世界をよくするために?」

 

「そう! そう……、困ってる人を、助けたい。そう、それなんだ……。」

 

 

 

確認は、終わった。彼ならば自分たちが手を出さずともヒーローになれるだろう。むしろ自分たち大人が手を出す方が間違っているかもしれない、しかしながら世界がそれを許してくれない。

 

世界は、社会は、力によって多くのものを失い過ぎた。裏社会の大半を彼女に任せてしまったツケを僕たちが払わなければならない時が来たのかもしれない。市民は大きな力に対して怯えてしまっている、もちろんアベンジャーズも、目の前にいる少年もその対象だ。

 

人は、一人では生きられないんだよキャプテン。たとえ僕たちが我慢できたとしても、後に続く皆がそうであるとは限らない。

 

 

「座るから、足をよけてくれ。うん、ありがとう。合格だ、スパイダー坊や。」

 

「……ご、合格って?」

 

「最近始まったニューアベンジャーズ計画のテストさ。ま、受かったとしてもまだインターンだがね。特別にドイツに連れて行ってやろう。きっと気に入るぞ?」

 

「ド、ドイツなんか行けないよ! だって、宿題があるし……。」

 

 

そういいながら明確な拒否をあらわにするスパイダー坊や。しかしながら目の前にいる大人は悪い大人だ。その叫びは聞いてもらえそうにない。

 

 

「あぁ……、今のは聞かなかったことにしよう。」

 

「ほんとだって! 僕落第するわけにはいかないんだ!」

 

「危険な旅になる、荷造りはしっかりな。あぁ、あと叔母さんにはうまいこと言っておいてやろう。」

 

 






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