「……これは。」
「……実際に目で見ると、だな。」
日本・オオサカ。先日起きてしまった事件によって焼け野原となったこの町に二人の人間がやって来ていた。黒人の男性、白人の女性の二人組、元S.H.I.E.L.D.長官のニック・フューリーと副長官だったマリア・ヒルだ。
彼らの眼前に広がるのは未だ復興が全く進んでいない町、いや町だったもの。見渡す限りまともな建物が存在せず、あるのは避難民用のテントや災害支援のため急いで立てられた掘っ立て小屋のみ。少し前まではニューヨークにも劣らない摩天楼だった都市がまるで紛争地帯のようになってしまっている。
コンクリートやその骨組みであったものが破片となり未だ放置されている、血の跡や薬莢、破壊された武具防具。感染症予防のためかさすがに死体を見つけることはなかったが、足を進めるほどにこの場所で何が起きてしまったのかを理解させられてしまう。
「復興まで、どれほどの時間がかかるでしょうか。」
「彼女がいれば、一年もかからなかっただろうが……。どうなるのだろうな、この町は。」
彼女のおかげで最低限ではあるが魔術師とのコンタクトと情報共有は昔から、2013年ごろからできていた、そのおかげで今回何が起きたのかある程度は把握している。ドロッセルたちファイアボールが戦い続けていた敵首領であるマツオ・ツラヤバがインカージョンなるものを引き起こし、その現象の時間稼ぎのためこれまで死んだすべてのニンジャを蘇生し、全世界に解き放った。
彼女たちの本拠地であったオオサカ、この場所が一番被害が大きい。ほかの地域でも多くの人的・物的被害が出たがこの町のように町すべてが破壊され、生き残った者もほんの少数という惨状ほどではない。
「彼女のAIであるイヴからスタークが生存報告のみ受け取った、という報告がありましたが……。」
「自身の持つ組織のすべてが破壊され、その構成員のほとんどが市民を守る為に戦い死亡。人が挫折するのには十分な理由だ。……何か言葉を送ろうにも会うことすらままならない、か。」
彼女が雲隠れしてしまった影響は非常に大きい。
アベンジャーズという組織の中で積極的に広報活動をしていたのは彼女だ、もちろんスタークやキャプテンも様々な活動をしていたが彼女には劣る。いつの間に作ったのかグッズ販売や自身のサインを売り出したり、積極的に市民との交流、イベントの参加、動画サービスを使用しての配信。まぁ手当たり次第にやっていた。その活動のおかげか、知名度は高く彼女のホームである日本での人気は高かった。
その彼女の本拠地であるオオサカがこの現状であり、ニンジャの侵攻という事態が終了してから一度も顔を出さない彼女。……人々の中にはこの戦いで彼女が死んだのではないかという憶測が浮かび上がっている。すでに彼女の手ではなくAIによって管理されているハイツレギスタや、アベンジャーズとしてまだ生きているという声明を出したが逆効果だった。
彼女はこの戦いで死んでしまったが、彼女の希望によりその死が隠されている。それが今の世論だ。
「そのせい、だろうな。」
この町で見かける人々の顔に生気が見られないこと、生き残れたのであろうハイツレギスタの職員が何かを紛らわすように支援活動をしていること。仕方のない話なのかもしれない、この地は多くのヒーローがいるアメリカから遠く、そして彼女のように戦えるものはもういない。次あのような化け物が現れた場合どうなるかは想像に難くない。
「長官、あのテントです。」
ヒルの声で、思考を切り替える。ここから見える黄色いテント、あそこにこの一帯の避難所の代表をしている者がいる。
「確か、宗教関係者の女性。近くにある寺の住職だったか。」
◇◆◇◆◇
「うん、これで大丈夫。……起動。」
音声認識で手で持っていたTailを起動させ、体に纏わせる。ナノテクノロジーで作られたスーツの実験だ。私の手に収まっていたTailが水のように溶け、腕から順に纏わりついていく。青い光を纏うその粒子は徐々に形を成していき全身が白い鎧で固められた。
「完成、かな。」
原作でトニーが着ていたようなナノアーマーみたいに体に密着するスーツではない、私の趣味でスーツ独特の凹凸は残すような造形にしている。長時間稼働のデータも欲しいし、微調整を終わらせたら普段着にでもしようかな?
「一応、武装面ではこれでおしまいだね。用意するのは私の分だけでいいし、思ったより早く終わっちゃった。」
このナノアーマーは私のインナー代わりにする予定。つまりこれまで使ってきたようなタイプのスーツをこの上から更に着るようにする。ナノアーマーは搭乗者の保護と、外側のスーツが破損したときの修理を担当する予定だ。私の利点は手数の多さ、武器弾薬やブラックホールを十全に扱うためにはナノアーマーだけじゃ不可能。だからこその二重構造ってわけだ。
「それに、私の体もどうにかできるしね。……ま、肝心の研究があんまり進んでないからダメなんだけど。」
ナノアーマーを解き椅子に倒れるように腰かける、開くのは私しか見れない研究データ。自身記憶保持能力に不安しかないから毎秒私が記入したことや、発言をすべて記憶させている巨大なファイル群。ちょっと探すのに手間が掛かるけど仕方ないことだ。
指輪と石、使えるものが増えたおかげでとれる手も増えた。多分私がしたいことは実現できる、実現できるが形にするまでの時間がかかりすぎる方法、その過程で私が死ぬ方法、まぁ使えないものばかりだ。この『目』で色々見てみたけど私の領域まで技術を進めている者はいなかった。参考にできるのは自分の頭だけ。
「……ちょっとずつ、やっていくしかないね。」
何も進まず時間だけが過ぎていく。ただ自身の中に悪いものが蓄積していくだけ。そんな鬱憤を、吹き飛ばしてくれるような音が聞こえる。
『ママー! 開けてー!』
扉の向こうから、子供の声が聞こえる。大きなノックの音で少し聞き取りずらいが聞いたことのある声。今ちょうどいいところだが、さすがに自身の子供を無視するほどの私はまだ壊れていない。今手を付けていたデータを保存し、扉の方まで向かう。
『ママ!』
開けた瞬間、飛び込んでくる彼女。予測できていたことだが、この体でも金属の塊が突っ込んでくるのは少々堪えるものがある。いくら超人血清と言えども人間の限界は超えられない、今なら超えることもできるだろうがそれをするのは今ではないし、ただでさえ残り時間が少なくなってきている今ほかのことをする余裕はない。
「わ、びっくりした。どうしたの、えっと……。」
『ジュノーだよママ! 今日5回目!』
「あー、うん。ごめんねジュノー、それで何の用?」
『ゲデ兄がもう少しでご飯の時間って言ってたから呼びに来た! 私偉いでしょ!』
「ふふ、そうだね。えらいえらい。」
そういいながら彼女の脇の下に手を回し、持ち上げ抱っこしてあげる。子供たちの設計上顔に表情を作る機能はない、声と動きで感情を表す。目の形を動かせるように昔の私はしたかったらしいが、複雑化しすぎて量産化が困難になるためやめたらしい。
『ママは今何やってたの~?』
「ん~?」
彼女の眼が私がさっきまで向かっていたデバイスの方に向けられる。この子たちは私が研究している様子を見たことがなかったのだろうか? リビングでユキが見ている中何かをしていたような気がしているけど、そこにもう一人誰かいたような気もする。イヴか、それとも子供たちの誰かか。
「ママは今研究してたの、能力の固形化と継承の研究。」
『こけーか?』
ありゃ、伝わらないか。
「そうだね……、じゃあお花にしようか。」
『お花!』
「ジュノーは何のお花が好き?」
私がそう問いかけると、頭に手を当てて考え始める彼女。……久しぶりに意識せず『見えて』しまった。たぶんこれは並行世界じゃない、この世界の、その先だ。そして、昔の記憶も少し、思い出せた気がする。そっか、そこに繋がるのか。ふふ、私が何をするべきか、何を残せばいいか、やっと見えてきた気がする。
『私はね……、青いお花! 青いバラがいい!』
「バラかぁ……。じゃあ、そうしようか。」
私の『目』には、緑の培養液に青い綺麗なバラが浮かんでいた。
◇◆◇◆◇
『あ、悪い人たちの船だ!』
『どっかの船に攻撃してる! わるい!』
『やっつけなきゃ!』
白い機械の子供たちが自分たちの船の中でわちゃわちゃと騒ぎ始める。訓練を終えた彼女たちは一番上のお姉ちゃんから指定のポイントまで移動することを命じられていた、そして目の前にいる悪い船を消し飛ばせと。悪い船というのはもちろんサノスたちが乗る超巨大戦艦『サンクチュアリⅡ』であり、攻撃されてるかわいそうな船の名前は『ステイツマン』、ソーたちアスガルドの民が乗る宇宙船だ。
『えっと、たしか全員が戦闘モードに移行して! あの悪い船のところでエンジンを暴発させればよかったんだっけ?』
彼女たちの姉、イヴが立てた策は単純で一番破壊力の高いもの。彼女たちが乗る船のみならず、乗員すべての子供たちは皆体内でブラックホールエンジンを搭載されている。そのままエンジンとして使えば莫大なエネルギーを生み出し続け、暴発させればすべてを消し飛ばす黒穴と化す。彼女たちが課せられた指令にはサンクチュアリに向かってこの船を特攻させ、乗組員は退艦後敵戦艦に侵入。内部の敵勢力を殲滅し、行動不能になった場合エンジンを暴発させすべてを葬り去る。
この時点のサノスが保有している石はパワー・ストーンのみ、いくらこの宇宙のすべての力を操る石であろうと連鎖的に広がり続け、この宙域すべてをブラックホールに変えてしまえば対抗できるはずがない。代償としてアスガルドの民も消し飛ばしてしまうが、地球から離れた場所でサノスを殺すという方に天秤が傾いた。
ブラックホールによってこの世界からサノスの持つ『
それにこちら側の被害は数十体の子供たちと、中型の恒星間航行型戦闘艦のみ。子供たちの精神はすべて月に帰ってくる上、戦闘艦もすでに量産体制が進みつつある。失うものは建造に使用した資材とそれを作るのに使用した時間のみ。大した損失ではない。
これですべて消し飛ばす、それがイヴの決定だった。
『よーしじゃあみんな! やる……、あ! ママからだ! ママから通信だ! みんな集まれ!』
『ママ? ママー!』
この船のリーダーを務めていた子が自身の母の通信だと言った瞬間、乗組員全員がその場所に集まってくる。
「……つながったかな? みんな、元気?」
『『『げんき~!!!』』』
子供のように、そう答える子たち。実際生み出されてからまだ三年もたっていない、大人としてではなく子供として生み出された彼女たちであるため仕方のないことだろう。自分の顔が見えるようにカメラが映す範囲を取り合う子たち、その方法に各々の個性が溢れ出ており少し面白いことになっている。
「今なにしてたの?」
『悪い船みつけたの!』
『それでね! それでね!』
『いまからぜーんぶ吹き飛ばして帰るところだった!』
自分が母親に報告するのだ、取り合うように声を上げる子供たち。それを微笑ましいように眺める母親、その眼はきれいな黄色に輝いていた。いつものどこか浮ついたような雰囲気とは違う、彼女たちの姉や兄ならば気が付いたのかもしれないがこの場にいる子たちは自分が褒めてもらうのだと必死で気が付く様子はない。
「……それは私が言ったことだったけ?」
『違うよ!』
『お姉ちゃんが言ってた!』
「ふふ、そっか……。みんなありがと、ちゃんと言えて偉いね。」
褒められて思い思いに喜ぶ子供たち。通信先の母親は何かと自分たちを褒めてくれるが、よく名前を忘れてしまう。何かすごいことをすれば大好きなママにちゃんと名前を憶えてもらえるのではと考えている。まぁ単純に褒めてもらえるのが大好きというのもあるが。
「リベラ、ディアナ、パクス、カラネミ、エーゲ、マイア、オプス、ケレス、ペロナ、スアデラ、サラキア、ヴェスタ、アウロラ、フェロニア。みんなよく頑張ったね……、今から計画の変更を伝えるよ。」
『『『……ッ、うん!』』』
初めて、名前を呼んでもらえた。
「実行しようとしていた作戦をすべて破棄、そして戦闘艦含めた全員のメインエンジンを停止し廃棄。サブのリアクターに変更。その後今から送るデータに乗っ取って行動を開始、そしたらみんな帰っておいで。」
『『『了解!』』』
「さ、始めようか。」