何が、目的なの?
「ブラックオーダーよ、二組に分かれ地球に向かい二つの石を手に入れて来い。」
「かしこまりました我が主よ。」
パワー・ストーンの力によってアスガルドの民が乗る避難船を破壊した彼は、指示を出すために一度自身の母艦であるサンクチュアリⅡへと帰還していた。自身の側近であるブラック・オーダーへと指示を出した彼はもう一度その手に嵌められた『空間』の力を使用する。
サンクチュアリⅡに内蔵されたQシップ、これは巨大戦艦から分離するリング状の戦艦であり、単身で長距離航行が可能。さらに、これだけで一つの星を殲滅できるほどの力を兼ね備えている。それを辺境の星である地球へ二つも送るということは彼がストーンをどれだけ欲しているかの表れだ。
事実、彼の手に握られる『力』と『空間』、そして地球に存在する『精神』と『時間』、そしてブローカーが保有する『現実』と6つの内5つのインフィニティ・ストーンの場所が判明している。自身への忠誠心をもつ部下に二つの石の回収を任せ、残り一つの『現実』は自身で手に入れる。あとは彼の計画を阻止しようとやってくる娘から最後の『魂』の居場所を聞き出せばよい。これですべてが完了する。
そのように思考をまとめた彼、サノスは部下に指示を出した後愚かにもこの船に向かって攻撃を仕掛けてきた船へと向かう。すでに乗組員は部下によって殺され、船内はすでに占拠されている。今後石を手に入れるための戦いがより大きくなっていくことを考えるに少しでも力の習熟をした方がよい。それに何を思い攻撃してきたのか、どの星の者なのか、少し興味がある。
「お待ちしておりました、サノス様。」
青き門の先に待っていたのはブラック・オーダー程ではないが、ある程度の力を持ち忠誠心も高い部下。頭を下げ、自身の到着を迎える。
「この船に乗っていた者たちはどうやら機械生命体だったようです。」
部下の案内に従いながらこの船を進む、軽く見渡さなくてもこの船の作りが自身の知識にないものだということがわかる。白を基調とし、機能性よりもデザインに重きを置いた円柱状の船内。もしこの船が真に機械生命体の船、機械生命体のみによって成立している文明の船であればこのようなデザイン重視の船は作らないだろう。何かしらの尖兵、偵察用の船と考えた方がよいかもしれない。
「こちらがメインルームのようです。現在技術者たちに残骸の調査を進めさせています。」
乗組員だった残骸を遠目で確認しながら歩を進めていると操舵室、この船の中枢へとたどり着いていた。この者たちがサンクチュアリⅡに攻撃を始めたのはアスガルドの民が乗る避難船を襲った時。あの船が必死に避難船であること、戦う意思がないことを広域通信で発していたためその救援のために攻撃を始めたのだろうが……。なにか、引っかかる。
自身の敵になるかもしれぬ者の情報を探すため、この船のメインコンソールに触れる。
浮かびあがる、青い画面。
「……これは。」
表示されるのは、すべての石の在処。
『空間』 アスガルド
『精神』 ✓
『現実』 ノーウェア
『力』 サノス
『時間』 ✓
『魂』 ✓
チェックを付けられたすべてが、地球に集められている。
そして、この船の標的。
『サンクチュアリⅡ』
「……石を集めているのは、私だけでない、か。」
◇◆◇◆◇
「ま、そ~んなこと考えているんだろうねぇ。」
スーツの顔の部分を収納させ、外気に晒しながらそんなことをつぶやく。ちょうどこのタイミングでヘイムダルが死に際に放った魔法、ビフレストみたいな虹の光が地球に向かって飛んでいくのが見える。
「多分この基地も見えたかな? ま、どっちにしろお帰り、ハルク。……さて、物語も動き始めたし私も頑張りますか!」
イヴが行おうとしていた計画によりアスガルドの避難船の近くまで私たちの船は移動していた。まぁそのまま色々吹き飛ばす計画を実行されると困るので石の『空間』の力で子供たちを月面基地まで避難、彼らが石の反応をどこまで察知できるかわからないので一応『現実』も使い、【スペース・ストーンが使用された】という現実を反転させておく。これで完全犯罪の出来上がりだ。うんうん、この程度の使用だとそこまで体に負担がなくてありがたいね。
にしてもちゃんと騙せたかねぇ? 別にブラフだってことがバレても問題はないんだけど、バレないことに越したことはない。あの紫イモ君は決して馬鹿じゃない。若干狂ってはいるが完全に狂気に飲まれたわけじゃない、彼なりの揺るぎない目的のために打てる手はすべて打つ奴だ。うちの子たちが使ってた練習用の体とか廃棄処分のパーツとか放置して、簡単に組んだ自動攻撃システムインストールさせといたんだけど……。
……う~ん、バレてる前提で考えた方がいい気がしてきた。
「おっと、ちゃんとみんな帰って来てる~?」
『『『みんないま~す!』』』
はい、いいお返事。ざっと見た感じ全員いるし、変なのもついてきてないから大丈夫そうだね。最悪あの船で戦闘する可能性も考えて完全武装してきたけど何事もなくてよかったよかった。彼たちにはちゃんとヴィランとしての役割と、ヒーローたちの糧になってもらう必要があるからね。ばったり顔合わせしちゃったらどうなっていた事やら。
……実際『力』と『空間』程度しか持ってないサノスだったらこの子たちと共闘して、サノス以外を抑えてもらってたら確殺できた。すでにこの手にはすべての石が集まっている、それを使わずとも一対一であればサノス程度殺せるだけの手は用意してあった。
でもそれは、その場しのぎにしかならない。イヴはそれでも大丈夫、って思って作戦を実行させようとしていたみたいだけど、死なないとは言え自分の妹を犠牲にする作戦は色々とダメだし、たぶんあのままやってたら大変なことになっていたと思う。
何事にも段階が必要だ、この世界には数え切れないほどの脅威が存在する。私の持つ石の力ではどうにもならないような敵もいるし、この世界の外から敵がやってくることもありうる。直近であるとすれば征服者カーンとかかな? そんなサノスよりも強大な敵と戦うには準備が、経験が必要になる。サノスと戦い、打ち勝つという経験。そして何かを失ったとき、どのようにそれを補い、乗り越える経験も。
「その時には私いないもんね~、ちゃんとそういうイベントも残してあげなきゃ。……は~い、ということでみなさんお仕事お疲れ様! 抱っこしてあげるからおいで~。」
私がその言葉を発した瞬間、歓声を上げながら突撃してくる子供たち。というか2、3人スラスター噴射したなおい! こっちスーツ着てるとは言え中身人間だから! ちょ、おま!
この前も言った気がするが、いくらこの子たちが子供サイズと言ってもその体は金属。そのままで十全に戦えるように調整されたその体は、圧し掛かった時人体に影響がないレベルの軽量化とかはもちろん全く考えられていない。
つまり14人分、全員の重みがそのままダイレクトに圧し掛かってくる。トンは軽く超えてます、ハイ。
「あ、あはは……。さすがに重い。」
『わたし重くないもん!』
『重いのペロナでしょ! 装甲いっつも増やしてるし!』
『パクスだって人のこと言えない! おもい!』
『む~!!!』
「……そこら辺はちゃんと乙女なのね。」
全員が一斉にしゃべり始めるせいでちょっとうるさい。すでに個性が結構確立されてるみたいで、一所懸命に言い訳する子や、重いのはしかたないと私を説得しようとする子。誰かに責任を押し付けようとして失敗する子、喧嘩し始めることほんと色々。とっても可愛らしいし、子供の成長を見られてお母さんうれしんだけど……、私の上に乗っかったまま喧嘩するのはやめてくれないですかね? さすがのママも潰れちゃうんですけど?
と、そんな感じでわーきゃー言ってる子たちを見てるとちょっと遠くから慌てたような足音が聞こえてくる。ま、自分が立てた計画が急に中止になった上、その作戦が失敗したことを表すハルク君の帰還。あとはサノスの部下がこっちに向かってFTLし始めたとかかな?
びっくりするだろうなぁ……、今子供たちの下敷きになってるし。
さて、“母親”としての最後の仕事も、しませんとね。
「つぐみッ! って、えェ!? 大丈夫!?」
「やほー、“イヴ”。元気してた?」
ニューヨークのサンクタム。ニンジャによる被害も復興が進み、この町も昔と同じ様相を取り戻してきている。アベンジャーズの分裂や超人法の施行、それによる新たなヒーローの擁立やヴィランの増加。様々なことが毎日起こる混沌とした街ではあるが……、今日は珍しく穏やかな日常が流れていた。
「嘘だろ? じゃあ全く金を持ってないのか?」
ズボンにシャツ、そして黒の上着と魔術師としては非常にラフな格好をした男。ドクター・ストレンジが奥の部屋から玄関へと続く階段を下りながら、もう一人の男にそう問いかける。
「物質への執着は精神を鈍らせるからな。」
そう返すのは彼のよき友人であり、カマー・タージににて書庫の番人を務めていた男、ウォン。こちらも魔術師ではあるが、ストレンジのようにラフな格好ではなく非常に魔術師らしい恰好をしている。ストレンジへの返答も非常に魔術師らしいものではあるが、iPodでビヨンセを聴く趣味がある彼。つまり執着しているということです。
「なら店員にもそう言え、物質はいらない。ハムもパンもいらない、とな。」
「わかったわかった、200ならある。」
「ドルか?」
「いや、ルピーだ。」
「つまり?」
「……一ドル半。」
さすがの魔術師でも無からおいしい昼食を生み出すことはできない、もちろん紙幣も同じ。一ドル半では簡単なお菓子程度しか買えない上両替のことも考えると何も手元に残らない可能性が高い。さすがのストレンジも友人の目の前に何もない中でサンドイッチを食べる趣味はない。
「……わかった、何が欲しい。」
「ま、ツナサンドで良しとしよう。」
その瞬間、サンクタムの窓を突き破り何かが落ちてくる。窓から先ほど彼らが降りていた階段へ突き刺さる様に現れる虹の柱。木製の階段を突き破りそのまま地下へ。
飛び散る木片と石材、それから身を守る為に一時身を屈める彼らであったがすぐに体制を整える。ストレンジは騒ぎを聞きつけた彼のマントを身に纏い、普段の魔術師としての姿に。ウォンは魔法陣を両手に展開させ、戦闘態勢へと移行。
すぐにサンクタムの中にできた穴の方へ向かい、中を覗き込む。
「……うゥ。」
そこには、体の色を緑から徐々に肌色に移していく男性が、ブルースがいた。
「……サノスが来る。……地球に!」
◇◆◇◆◇
「……しかし、地球にインフィニティ・ストーンを集めている者がいることは聞いていなかった。この世界特有の存在がいるのか、それとも……。」
サンクチュアリⅡに存在する彼にしか座ることが許されない玉座。そこに腰かける彼は自身の思考を整理するためか、もしくは誰かに言い聞かせるためか。あえて思考を口に出していた。
「もし、私や彼らのように同じ目的の元動いているのならば対話ができたであろうが……、あの船に残された残骸、そこから見える技術体系。まるで“見せる”ためによういされたモノたち。」
その大きな体を揺らし、顎に手を当てながらまるでパズルを解くかのように整理していく彼。彼が掲げる野望、それは多くのものに理解されず、拒否され、阻止するために全力をもって妨害されるものだ。しかしながら、いやだからこそというべきか。彼は他人から狂っているように見えたとしても、非常に澄んだ思考を持っていた。
「ブラフか。問題はどこまでが虚構で、どこまでが真実か。」
より信じてしまう嘘ほど、真実が丁寧に盛り込まれている。果たしてあの表示されていた情報のどこからどこまでが真実であり、この私を陥れようとする虚構か。
「私が石を集める理由、あえてあの船を残しインフィニティ・ストーンを求める者が私以外にいることを主張すること、そして自身が地球にいること。」
このすべてが、私が知っていて、また他人が知っていてもおかしくない情報だ。私が石を集めたということはパワー・ストーンを入手し、情報を集めていることから全宇宙に知られていてもおかしくはない。そしてこの私以外に石を求めている者がいること、それも理解している。この石はすべて集めることでどんな願いでもかなえることができる、実在するとすれば皆が欲しがる。実際自身以外にも欲するものはいた。
そして地球も。
アスガルドの力をそぐために保護下にある地球にチタウリを送ったこと、すでに死んだオーディンの息子に力を与えたこと。その過程であの星にマインド・ストーンとタイム・ストーンがあることは理解していた。
……なぜ、あの星を強調した?
「私を確実に葬ることができる、罠か。」
ソウル・ストーンはすべてのインフィニティ・ストーンの中で一番強い力を持つと聞く。そして今から6年前にチタウリを送り込み、そのすべてが破壊された。母艦がやられるという弱点を突かれるものだったが、母艦を破壊できる力を当時から持っていることは確かだ。
アスガルドの保護下にあり、その王族であるソーが長く地球に滞在していたことがわかっている。……技術提供、習熟、訓練、トラップの設置。6年という月日さえあれば……、可能か。
「……より、確実にするためにさらなる力が必要か。」
玉座から立ちあがり、ゆっくりと歩を進める彼。
どっちにしろ、彼のやることは変わらない。すべての石を集め、この世界に存在するすべての生命体を半分にする。そしてその先も。
今この手に宿るのは『力』と『空間』。そして次に狙うべきは『現実』だ。
もし、あの情報が正しいとすれば。地球に残りすべての石が集まっていることになる。
つまり、簡単な話だ、地球ですべて揃えてしまえばよい。
「我が友、兄弟たちに通信をつなげ。聞かねばならないことが増えた。」
それに、今の私には信頼できる友がいる。
自身と“まったく同じ”思考の人間が。