前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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ゆっくりと進めましょうか。

 

 

地球、ほんの少し前まで空に浮かんでいた宇宙船は掻き消え、あたりには静けさが戻ってきている。しかしながら倒壊したビルや割れたアスファルト、壊された建物がさっきまでここで戦闘が起きていたことを証明している。そしてあの大きなエイリアンの死体。

 

ハルクというもう一人の自身がその身に宿るブルース・バナー博士は瓦礫の中からとあるものを探していた。

 

 

「……あった。」

 

 

それは、彼の友人が落としたもの。トニーが使用していた携帯電話だ。先ほど彼にチームの皆を呼んで欲しいと頼んだ時に取り出した電話。これを使えばウルトロンとの戦い以降会っていない昔の仲間たちと連絡が取れるはずだ、トニーの私物であるが今は緊急事態。彼も許してくれるだろう。

 

 

「手伝ってくれてありがとう、ウォン。」

 

「気にするな。」

 

 

失せ物探しに付き合ってくれた魔術師の彼に礼を言う。ストレンジがあの魔術師にさらわれ、追ったはいいものの追いつけなかった。自身はせめて地球にあるもう一つの石を守らなければと思い、彼はその行動を尊重してくれた。

 

礼を受け取った彼は自身の後ろに円を描き、空間をつなげる。その先は先ほどまで自身たちがいたサンクタムと呼ばれる場所。魔術師たちの本拠地なのだろう。

 

 

「私はこれからサンクタムの防備を固める。……そっちは?」

 

「電話をかけるところだ。」

 

 

私の回答を聞き、ゆっくりと頷きながら魔術の門を閉める彼。

 

それを見届けたのち、この手の中に納まる古いタイプの携帯電話を開く。瓦礫の中に埋まっていたがまだ動いている、仲違いしたと聞いたがニューヨークで何が起きたのかくらいスティーブも把握しているはずだ。きっと出てくれる。

 

それにあの宇宙人の死体だってある、決して彼らも僕が可笑しくなったとは思わないだろう。そう思いながらあのツグミによって両肩から四等分された少しばかりグロテスクな死体に目をやると……。

 

ちいさいツグミが死体に火を掛けていた。

 

 

「……ちょ、ま!!!」

 

 

思わず彼女の方に制止の声を掛けながら走り寄ろうとするがもう遅い、いつの間にか作られた腕部の発射口から灼熱の炎が吐き出され、エイリアンの巨体を焼却していく。特殊な炎だったのか、それともこのエイリアンが特段炎に弱い種族だったのかはわからないが一瞬にしてその炎が駆け巡り、すべてを焼き尽くす。

 

呆然としてしまう僕を置いて、気が付けば残ったのは真っ黒に焦げた炎だけだった。

 

 

「つ、ツグミ! 何をしているんだい!」

 

『? 私ママじゃないよ?』

 

「……え?」

 

 

確かに言われてみれば彼女、目の前にいる白いスーツの中から聞こえてくる声が似ているが違う。それにそも彼女はこんなに小さくなかったはず。戦闘中だったので自身は話せなかった、さっき遠目で見たトニーたちと話していた彼女は彼と同じくらいの背丈だった。目の前にいる子は自身の腰ぐらいまでの背丈しかない。

 

……つまり? この子がさっき“ママ”って言っていたことから考えると?

 

 

「……ツグミの、娘?」

 

『そうだよおじちゃん! えっとね、ちょっと待って今データベース見るから……。おぉ! ブルース・バナー博士! ママのお友達! 初めまして!』

 

「あぁ、うん。初めまして……、じゃなくてなんで燃やしちゃったの!」

 

 

自身の問いにきょとんとした雰囲気を出しながら顔をかしげる彼女、スーツを着ているからその表情までは解らないけど絶対『このおじさんなんでそんなこと言ってるの?』って顔してる!

 

 

『なんで、ってママが処理しといてって言ったから……。あ! そういえば自己紹介してなかった!』

 

 

『ママの娘の一人で! シスターズ・ポップシリーズのコーンだよ! ポップ・コーンかコーンって呼んでねおじちゃん!』

 

「よ、よろしく?」

 

『あとこの中身も機械だからよろしくね! あのクソウルトロンとは別物だからそこんとこヨロシク!』

 

 

非常に多彩な身振り手振りを操りながら挨拶してくれるコーンという子。あぁ、確かに。彼女みたいなAIがツグミの中にあったのならば、ウルトロンは受け入れがたいものだったのかもしれない。目の前にいる新たな生命からは親愛というものを何故か感じられる。

 

 

『んでおじちゃん! さっき電話しようとしてたけど誰に掛けるの?』

 

「あぁ、スティーブ……。アベンジャーズのキャプテン・アメリカにだよ。君が燃やしちゃったけどエイリアンが来たんだ、みんなと連絡を取り合わなないと。」

 

『お~! なら私知ってるよ! みんながいるところ! ほらほらおじちゃん! ついてきてついてきて!』

 

 

そう言いながら、自身のズボンを引っ張る彼女って力つよいねキミ!

 

 

『ほらほら! 早くしないと遅れちゃうよ! 早く早く!』

 

「わ、わかった! わかったから引っ張らないでコーンちゃん!」

 

 

 

 

まるで休日に遊園地へと連行されていくお父さんのように、バナー博士は連れていかれてしまうのでした。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

空に上がる二人、両足のスラスターをナノマシンによって分解、そして強化し一つのブースターへと変化させた二人はこの星から逃げようとする巨大な宇宙船、Qシップを追う。

 

トニーのディスプレイに映るのはその巨大な船と、その外壁に何とかくっついているスパイダーマン。どうやら二人が共闘している間にあの赤いマントの方の魔術師がやられてしまい、連れていかれた様子。それをいち早く察知したスパイダー坊やが追いかけてくれたみたいだが……。

 

 

「トニー! クモちゃん用の奴なんかある?」

 

「あるぞ! フライデー! 17-Aを解除だ!」

 

 

彼のスーツは所謂インターン用のスーツ。確かに彼が持っていた市販の服を改造したスーツと比べれば天と地の性能差があるが、こういったエイリアン相手に十全の力を発揮できるような性能はしていない。つまり徐々に高度を上げる宇宙船について行けば酸素がなくなって窒息してしまうということ。

 

彼女の問いかけに解を提示し、一つのロックを解除する。解き放たれるのは彼がアベンジャーズに正式加入した時用に作っておいたスパイダースーツ、保管されてあったアベンジャーズ基地から放たれるそれは、本来の所有者の元へと飛翔し始める。

 

 

「ピーター! よくやった! もう離していいぞ!」

 

「でもなんか魔法使いっぽい人が中に! ……い、息ができない。」

 

 

マスクを外し、少しでも酸素を肺にいれようとする彼であったがたかが布一枚で遮られていた酸素は微々たるもの。高度が際限なく上がり続ける環境に対応できなくなった彼は、酸欠状態に陥る。掴んでいた宇宙船の突起から手が離れていき、そのまま下へ。

 

 

「トニー! クモちゃん大丈夫なん!?」

 

「大丈夫だ!」

 

 

トニーの声にこたえるように、二人の間を通り抜けていく飛翔体。そのミサイルのような物体は所有者を発見するとその外殻をパージし、彼のスーツとなる物体を射出する。丸い、デフォルメされたクモのパーツ。吸い付かれるようにピーターの背に張り付いたそれはすぐに展開されていく。

 

ナノマシンによって構成されたスーツは彼の体を守る様に広がり、元々着ていたスーツを補強していく。赤と黒い意匠に金のライン、それまでの布のような材質からナノマシンによってメタリックになったそれはすぐさま救命措置を施し、使用者に酸素を供給した。。

 

 

「うわすごい! スタークさんこれピカピカの新車みたい!」

 

「ウチに帰れピーター、フライデー送ってやれ。」

 

『かしこまりました。』

 

 

彼の言葉と共にフライデーがスパイダースーツのパラシュートを起動する。背中から排出された白いソレは彼を一瞬にして吹き飛ばし安全に地上までのルートと確保する。

 

 

(「ジュノー?」)

 

(『はいは~い! クモちゃんもお友達! ……カレンちゃんだ! 初めまして!』)

 

「さて、囚われのお姫様でも助けに行きますか!」

 

「髭付きのおじさんだぞ?」

 

 

ジュノーにピーター君の補助をお願いしながら腕を変形させQシップの壁に張り付く、んで腕のレーザーを起動してじりじりと人が入れる大きさの穴を作っていく、内部の気圧のことを考えると後で埋めなきゃならないからちょっとほどほどで。

 

この後はまぁ原作通りだ、あの白い肌のエイリアンをぶち殺して船を奪取する。まぁただその間の待ち時間にちょっと色々やるってだけだけどね? 私にはエンドゲームまで待てるほどの時間はないし、みんなには悪いけどちょっと急ぎでやらせてもらうとしよう。……あ、そうだ。あのエボニーって言う魔術師のエイリアン宇宙漂流刑じゃちゃんと死んでるか確認できないし、魔術師だから精神体になって逃げられるとかも考えられるよね。せっかくだから丁寧に殺してあげよう。

 

 

『ボス、ミス・ポッツからの通信です。』

 

「トニー、ねぇ大丈夫なの!? どうなってるの!?」

 

「あぁ、大丈夫。だが八時半の予約は遅らせないとな……。」

 

 

ん? ……あぁ、そっか。ここ二人の電話シーンあったね。素で忘れてたや。……お食事の時間はちゃんと守らないと。ツグミちゃんにお任せ~、ジュノー? カレンちゃんと遊ぶのはいいけどちゃんと仕事もしてね?

 

 

(『はーい! 通信介入しまーす!』)

 

 

「よこからごめんね! ペッパーおひさ! ちゃんとディナーの時間にはトニー返すから!」

 

「え、ツグミ!? ねぇトニー、ツグミがいるの!?」

 

「あぁ、そうだが……、またハッキングか?」

 

 

船の廃部に入り、ナノマシンを噴射することで先ほど開けた穴をふさぐ。この船の内部はありがたいことに地球上の大気と同じ空気で充満されている。顔の外装を収納しながらトニーに向かって笑顔。いつも通りのお嬢様ですよ~?

 

 

「ごめんねペッパー、今あの宇宙船乗り込んでてさ! 帰りの船はあるからちゃんと帰れるんだけどちょっと囚われの魔術師ちゃんを助けに行かないといけないの! その間だけちょっとトニー貸して!」

 

「……ちゃんと返しに来るのよ。」

 

 

それにちゃんとお返事してあとは二人のお時間。トニーの眼は完全にこの船に向けられている、私もペッパーに約束しちゃったしすぐに終わらせて帰らないと。……これまで秘密にしていたことを吐き出すのはちょっと変な気分だけどね。この機会を逃しちゃったら次はない。

 

 

「……あぁ、必ず帰る。」

 

 

うん、私の子供の一人であるコーンにちょっとした連絡とイヴからの通信に答えてたらトニーの方も終わったみたいだ。この船多分もうハイパースペース入っちゃったけどちゃんとお話しできてよかったね! ジュノーに任せて無理やり通信継続させたかいがあった。

 

 

「ツグミ、君か?」

 

「うん、そう。ま、二年間月でフラフラ死んでたからね、その間に色々やっときました。おかげで地球からどんどん離れていってるのにフライデーとまだ通信できてるでしょ?」

 

「……また色々聞きたいことが増えたがそれは後だ。今は囚われのマジシャン君を救出するぞ。」

 

 

 





次回は少しだけ、視点が宇宙に移ります。

つまり、「 I Am Groot! 」。



それと、またまたしらねぇよ様から支援AIイラストをいただきました。大変ありがとうございます。この場を借りまして掲載させていただきます。

ドロッセル第三章のラスト、彼女との最期の時間。いやもうすごいですね……


【挿絵表示】



こちらはお嬢様が例の事件の後に見せた最後のお顔とのこと。こっちもすごくヤバい感じがしてすごいですわよ(語彙力)


【挿絵表示】





■かいせつ■

〇シスターズ
お嬢様が制作したイヴの妹たちを指す言葉、お嬢様が正式に名付けたわけではなく、イヴが彼女たちをまとめて呼ぶときに「妹たちよ」と呼ぶことから自主的にシスターズを名乗る様になった。家族の繋がりを感じるようで本人たちは気に入っている様子。基本、AIから進化した電子生命体であり、一人につき一つの体が与えられている。体が破壊されたとしても月の本拠地にその本体があるため、それが破壊されない限り死ぬことはない存在。彼女たちの体は彼女たちの趣味嗜好によってカスタマイズされており、ドロッセルのようなツインテールにしている子もいれば、サイドテールにしている子もいたりと十人十色。変わり者もいて、体を持たずに電子生命体のまま電子空間をふよふよしている子もいる。

全員がイヴには劣るものの高度な演算能力を保有しており、2015年時点でイヴといい勝負をしていた例のハッキング対策部の面々と遊べるくらいの能力がある。なお成長過程の最中であるため今後もどんどん強くなるみたい。

〇ポップ(POP)シリーズ
お嬢様が制作したイヴの妹たちの一つ、約20体ほど存在している。基本的に皆よいこなのだが、何故か爆発物に魅入られた子たちで構成されており、自由にさせておくと無限に爆発物を放射してそれが散る姿を眺め続けるというおかしなことをしだす子たち。なお細かな好みがあるようで、宇宙空間で無音の世界の中爆発物が散る姿が好きな子もいれば、家族の敵を爆破するのが好きな子、単に爆発物のフォルムが好きな子など多種多様。切れるとあたり一帯を爆撃しだすので注意が必要。

〇ポップ・コーン
ポップシリーズの末妹、製造が遅かったせいか爆発に対する興味は他の姉たちと比べると薄い。ボディはドロッセルと似たような基本ボディでまだ改造はあんまりしていない様子。宇宙空間での戦闘訓練時間が足りておらず、お留守番しているところをお嬢様に呼ばれて地球に派遣された。今回のお仕事は死体の処理とバナー博士を案内することだったが、死体処理の途中で彼女の電脳が異様に活性化したらしく、ちょっと変な癖に目覚めそうらしい。


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