前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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帰りましょ?

 

 

「サノス様にお仕えして以来、ご期待を裏切ったことはない。」

 

 

Qシップの内部、大きな空間が用意されたそこに与えられた役割はおそらく艦橋。ブラック・オーダーの一員であるエボニーはそこで自身の主の求めるタイムストーン、その守り手であるドクター・ストレンジを拘束していた。

 

 

「タイム・ストーンを持ち帰れとのご命令だ。お前の頭がくっついたままなら……、聊か、見苦しい。ご機嫌を損ねてしまう。」

 

 

彼の能力は闇の魔術、拘束されたストレンジの知らぬ知識によって構成されたものである。しかしながら今自身の自由を奪う存在がどのようなものであり、また今にもこの身に突き刺さんと待機している無数の針が何をしようかということも理解していた。

 

彼の考えていたように、拷問が始まる。

 

ストレンジの周囲を取り囲むように浮かんでいた無数の針はゆっくりと痛みを教えるように進んでいく。彼の肌に触れたそれは、突き刺さる対象に痛みと不快感を与える。じわじわと痛覚を刺激し、肉を抉りながら体の中へ入ってくる針。本来あり得ぬ軌道をするソレは、ストレンジの精神を蝕むように奥へ奥へと進んでいく。

 

彼は魔術師ではあるが、兵士ではない。医師としての経験がこの身に降りかかる現象に警鐘を鳴らし、魔術師としての自身が現状から抜け出す方法がないことを教える。彼が痛みのあまり声を上げてしまうことは仕方のないこと。

 

 

「ストーンを、渡すのだ。」

 

 

彼の上げる悲鳴に目もくれず、ただ目的を告げる彼。ストーンを渡しさえすればその痛み、その不快感から救ってやろう。そう、問いかけているのだ。

 

その声を突き放すようにアガモットの眼が防御魔法を発動する。拷問用の針が彼の首に掛けられたネックレスにも及んだため、作動したのだ。その波動は持ち主であるストレンジにも伝わる、どうせ目の前の奴は救ってやると言いながらストーンを渡した瞬間に命を奪おうとするだろう。どちらにしろ、自身に残された選択肢は最初から決まっていた。

 

 

 

 

 

 

そんな拷問が行われている艦橋、天井にある骨組みのところに人影が二つ。

 

この船に忍び込んで、やっとの思いでここまでたどり着いた私とトニーだ。

 

 

「うわぁ……、痛そ。」

 

「……君のことだから耐性があると思っていたが、ダメなのか?」

 

「いや自分でするのと傍から見てるのって違うじゃん。」

 

 

明らかに聞かない方がいいことを聞いたという顔をするトニー。いやだって違うじゃん、実際にするのと、見るのと、被検体になるのって。それに私の場合人権とかそう言うの考えなくてもいい相手だったし……、というかトニーも一回戦ったんでしょ? あの意味わからん不死身さと執念深さと気持ち悪さが同居した生命体とか消し飛ばした方がいいじゃん。拷問なんてフツーフツー。

 

そんな軽口を小声で交わしていると急に後ろからトニーの肩が叩かれる。

 

弾かれたようにリパルサーを向ける彼。その視線の先には敵の姿ではなく、今絶賛拷問中のストレンジ先生の所有物、真っ赤なマント君がそこにいた。端っこの手のような部分でアピールして味方であることを伝えようとしている。

 

敵対する気がないことを理解してリパルサー降ろすトニー。私? さっきまでトニーと向き合うような位置にいたしマント君が後ろからやって来てたことも見てたよ? 敵じゃないのは解ってたし、マント君とは昔サンクタムで顔合わせしたことがあるから知り合い。あともう一人合流するべき子もいるからね。

 

 

「これはまた、ご主人様に忠実なマントだこと。」

 

「ハァイ? 元気してたマント君。」

 

「……あの、ここにも忠実なのが。」

 

 

糸を垂らして皆のいるところまで降りてくるのはスパイディ、原作なら付いてきちゃった子。ここでは私が連れてきちゃった子。まぁ多分私が介入しなくても来ただろうから問題なし。

 

 

「おい、なんでここに……。」

 

 

隣にいるトニーの肩をちょいちょい、もう片方の指で自分の顔を指さす。そうです、私がやらかしました!

 

 

「……ツグミ、彼はまだ子供だ。」

 

「子供でも力を持つ者は戦わないと、私が言うのもなんだけど彼には責任があって、それを担うだけの資格がある。それを私たちの都合で勝手に取り上げたら成長する機会失っちゃうよ? ……あ、あと私も成人前に戦い始めてるから子供とかそう言うのはナシね?」

 

 

彼は彼なりに言いたいことがあったのだろう。口を開いて発言しようとするが、すぐにその口を片手で封じる。今の君でもトニーと対等に話せはするだろうけど立場が違う。君は力があって戦えるが、守るべき存在として考えられてる。まぁ昔の私と同じだね。

 

言い方は悪いが無理やり説得するなら私の方が適任だ。

 

 

「それに、多分この子私が手引きしてあげなくても付いてきてたよ? ここまで安全に来れるように手配してあげたし感謝してほしいなぁトニーせんせ?」

 

「……わかった、降参だ。」

 

「よっしゃ。」

 

 

さっきまで向いていた方向、トニーに背を向けて小さくガッツポーズをする。ほらクモちゃん! せんせが認めてくれたよ、ほらハイタッチハイタッチ。場所が場所だから声小さめでイェーイ! ほらノリわるい男の子は嫌われちゃうよ!

 

ちょっと戸惑いながらもちゃんと返してくれる彼、イヴが残したログを見る感じまだこの子には経験が足りない。その名前に生まれた運命には抗えないかもしれないけど、私みたいに潰れることがないように。ちょっとぐらいは、ね?

 

 

「あはー! いいノリ! じゃあトニー先生による最高にロックな課外授業としましょうか! ……やる気はどうだい親愛なる友人、スパイダーマン?」

 

 

超人血清のおかげで伸びた身長、目線を合わせようとするとちょっと屈まないといけない。ファンとしての自分ではなく、この世界を生きる一人の人間として。彼よりも早く戦い始めた人間として。

 

目を合わせ、憧れの人の後継者の瞳。その奥を見る。

 

私は君の物語の終わりを知らない、そしてこれからその続きを見ることも叶わない。だけど、今がある限り何かを教える、見せてあげることはできる。君のお師匠様の運命は私が代わる、そこから何かを学んで、次に繋げてほしい。あ、あと私の娘たちと仲良くしてくれると嬉しいかな?

 

 

「……、頑張ります。」

 

 

何か、少しでも伝わったのだろう。真剣な顔でそう返してくれる。

 

彼の行く先に幸がある様に、それとイヴがちょっと迷惑かけた詫びも込めて少しだけ笑顔を見せ、肩を叩く。

 

さて、じゃあ静かにしてくれてたトニーせんせの授業でも聞きましょうかね?

 

 

「全く、前よりもひどくなってないかワガママガール?」

 

「アレいつの間にかワガママになってる、というかガールという年でもないよ~、もう。」

 

「まだ僕から卒業試験受けてないだろ? だったら一生ガールだ。」

 

「う~ん、いつの間にか留年してた! まぁでもトニーの授業永遠に受けられると考えれば、それはそれでいいかも!」

 

 

そんなことを言いながら二人で下をのぞき込む。そろそろ動かないとマント君が痺れを切らしちゃうからさっさと行動に移さないと。あと後輩くん? 私らいつもこんな感じだから今みたいに雰囲気にのまれると置いてかれちゃうよ? ほらマント君が背中叩きながら『オラ、お前も参加するんじゃよ!』みたいなこと言ってるじゃん。口ないけど。

 

それでようやく放心していることに気が付いたのだろう、急いでピーターがこっちに寄ってくる。

 

 

「では諸君、久しぶりのトニー・ゼミだ。目的は囚われのお姫様の救出と悪い魔法使いの打破だ。新入り君には悪いがこっちにはスプラッタの女王がいる、苦手ならママに目を塞いでもらっておけ。」

 

「……そんなに酷かったけ私?」

 

「ダメな制圧の例として教本に乗ってるらしいぞ。……さて新入りのピーター君、君ならどう助ける。」

 

「あ~、えっと……、エイリアンって古い映画見たことある?」

 

 

……ごめんね後輩、私見たことないや。

 

あ、うん。雰囲気で頑張るね……。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「どうだ? 苦しかろう? 元は医療用に開発されたものだが、こういった使い方も……」

 

 

未だ、拷問は続く。目の前の魔術師にさらなる負荷を与えるために言葉を重ねていたエボニーであったが、自身の背後に気配を感じ振り返る。

 

そこには赤い鎧を身に纏った男、地球にいた者の一人がそこにいた。

 

 

「お仲間の命を一瞬で奪える。」

 

「そいつは仲間じゃない、プロとして助けない訳にはいかないだけだ。」

 

「助けられるものか、お前のパワーは私の足元にも及ばない。」

 

 

そう言いながら周りになる物体を魔術によって持ち上げ、投擲する準備を整えていく男。確かに彼の言う通り敵の船という明らかにアウェイな場所でトニーの勝率は低い。どこにどんな仕掛けがあるのかわからず、また目の前にいる敵の能力も正確に解っているわけではない。

 

だが、策と仲間がいる。

 

 

「そうか? こっちは映画好きのガキもいるぞ。」

 

 

彼の注意を引きながら発射されたミサイルは敵の思いも寄らぬ方向へ。どこを狙っていると口を開こうとした瞬間彼の脳内に一つの可能性が浮かんでくる。しかしながらその思考がまとまるよりも船の壁が爆破される方が早い。

 

Qシップの壁を破壊し、大穴を開けたことにより発生する気流。空気に包まれた場所と何もない場所が繋がればどうなるか、もちろん空気が異常とも呼べる速度で外へと流れ出る。しかも現在この船はハイパースペースに突入中だ、その速度はただ単に宇宙船に穴が開いたレベルでは済まない。

 

その開かれた穴に向かってエボニーが、そしてストレンジが吸い込まれていく。原作ではただ単にエボニーが外へと放りだされ、宇宙空間を漂流することになるのだが……。彼にとって運が悪いことにここには彼女がいる。

 

敵がやってくる場所が解っているのに、血みどろの女王と名高い彼女がいない訳もなく……。

 

 

「ところてんはお好き?」

 

 

すでに残念ながらナノブレードを格子状にして設置済み、トニーのミサイルによって破壊された穴ができた瞬間設置されたそれは確実に命を刈り取る形をしている。プラスチックの容器を押し込むことで食べやすい形にカットするところてん。まぁつまり、エボニーはおいしいところてんになったのだ。

 

まぁさすがにストレンジもところてんにするわけにもいかないのでそこは急いでクモちゃんが糸で救出。その間に私はナノブレードを分解して再構成、空いた穴に被せてくっつけることでふさいだのだった。

 

……エボニーがところてんになった時のストレンジの顔、拷問受けてた時よりもすごいことなってたし声にならない悲鳴上げてたけどツグミちゃんは優しいので黙っといてあげるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この船の向きを変えろ。」

 

 

何とか心を落ち着かせ、姿勢と服装を整えたストレンジが発した言葉がそれだ。まぁ彼らしいといえば彼らしいし、他のチームとかに所属している人と協力した経験が少ないのも口調が厳しいものになっている理由として挙げられるだろう。

 

まぁそれよりもトニーとソリが合わないのと、ピーターが助けるのが遅れたら自分もところてんになるところだった、ということが大きいのだろう。おかげさまで私を見る目まで厳しい。よよよ、お嬢様泣いちゃう。

 

……あ、ジュノー冗談だからね。うん、冗談。だからノータイムでロックオン完了させるのやめてあげよ? ね?

 

 

「おっと、いきなり仕切りだしたぞ。まずはお礼ぐらい言ったらどうだ?」

 

「何の例だ? 私を宇宙に飛ばしかけたことにか?」

 

「もう宇宙だけどね。」

 

 

放っておくと永遠に喧嘩し続けそうなので会話に割り込む。ピーター君がオロオロしちゃうしこっから本格的に介入していくつもりだから止めさせてもらった。

 

まぁこの場にいる彼は私のことを知らないストレンジ、ところてんの件もあるしヘイトは高め。そのせいですぐに反論を返そうとする彼だけど、私の声でそれを遮る。

 

 

「そういえば今宇宙旅行の相場ってどれぐらいだっけ? まぁ数百万ドルじゃ無理だろうし、それだけ浮いたって考えたらお礼してもいいんじゃない?」

 

「……あぁ、それはどうもありがとう!」

 

 

皮肉たっぷりにそういうストレンジ、トニーであれば怒っても仕方ないがお嬢様には聞かないのだ。ファンだし。

 

 

「さて、じゃあ皆さん帰りますかね~。」

 

「いやまてツグミ、帰るよりも……。」

 

「この船の行先でサノスを待ち構えた方がいい、でしょ?」

 

 

彼の考えていたこと、今はまだはっきりと形を保っていなかった思いを少しだけ早く私が言葉にする。ゆっくりと足を動かしながらスーツの外装を剥がす。あぁ、そうだ。指輪を忘れるところだった。

 

 

「この船は自動操縦、目的地に向かってただ進み続けるだけ。あぁ、心配しないでドクター? 数秒もらえれば簡単に目的地の変更は可能。まぁすっごく時間が掛かっちゃうけどね?」

 

 

トニーの、ストレンジの、ピーターの。皆の視線が自身に集まっているのが解る。ちょうどいい。みんなに見せつけるように、この全身を包むナノスーツ、私が左手を上げるとその膜が流れるように落ちていく。

 

 

「本来この場で起きるはずだった問答、見たくないといえば嘘になる。……まぁみんなにも、私にも時間はあんまりないからね? 短縮できるところはやっていかないと。」

 

 

無から、有に。定まらぬ光が徐々に形を成し、その薬指に収まる。

 

紺の光によって包まれたその左手は震えながらも更に何かを生み出そうとしている。

 

 

「秘密にしておくのはもうおしまい。……ま、いつも通り。世界でも救っちゃいましょうよ。」

 

 

左手に纏われていた紺の光は形となり、そのすべてを覆う腕甲となる。そして虚空から彼女の元へ降りてくるのは、六つの石。

 

スペース、マインド、リアリティ、タイム、パワー。そしてソウル。

 

全てを覆す光が、順にその左手へと収まっていく。

 

 

「『空間(スペース)』」

 

 

青き門が、開かれる。

 

 

 

「さ、地球に帰ろうか。アベンジャーズ?」

 

 

 






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申し訳ございません、失念しておりました。

しらねぇよ様よりAIイラストの方をまた頂きました。この場をお借りしまして掲載させていただきます。

第三部よりツグミとユキの出会い、その回想シーンになります。


【挿絵表示】



空虚な世界に彼女のおかげで色が付き始めた、そんな感情が現れていて……、とてもいいです。しゅき。


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