前世から愛をこめて   作:サイリウム(夕宙リウム)

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ちょっとだけ地球での話。


長男と次男

 

 

 

「……どうしたの?」

 

「すみません、起こしてしまいましたね。」

 

 

不安げに、男は窓から空を見上げる。北欧のこの地において自然は人間に寒さという牙を向く。温度という外的要因によって影響を受けないこの身ではあるが、彼女は違う。今日はよく冷える、私のちょっとした不安だけで彼女を起こしてしまうのは忍びなかった。

 

 

「また、あの感覚?」

 

「……いえ。」

 

 

自身の額に埋まる一つの石、名をマインド・ストーン。自身の思い人やその兄が持つ力の発端であり、様々な戦いを呼んでしまった忌々しい石でもある。だがその分秘めたる力は強大であり、この身を生きながらえさせるために必要な石でもある。

 

二年前のあの日、自身の生みの親から別世界の話を聞いた数日後に起きたあの事件の日から自分がもう一人いるような感覚がずっと続いている。……正確にはこの身ではなく、額にある石が何かを訴えているような気がするのだ。同じような存在がもう一つあると。

 

だが、今日は違う。もっと何か、ひどいことが起きているような、これから起こるような感覚が私を蝕んでいる。

 

いつものように、そう振舞っていたつもりだったが彼女にはバレていたようで。心配そうな顔をしながら私の元へと来てくれる。いつものように彼女が力を行使し、私の額に眠る石の様子を確認してくれた。

 

 

「大丈夫、何もないわ。」

 

「……そうだと、いいのですが。」

 

 

二年前、母親ともいえる彼女と会ったときに約束したこと。このマインド・ストーンと自身の結合を簡易化し、石の取り外しを可能とするための手術は彼女が行方知らずのため結局流れてしまった。自身の思い人はそのことを知っていたが、他の友人。トニーやキャプテンに相談しようにも時期が時期だった、結局内戦によって何も聞くことができずにすべてが変わった。

 

彼女から絶対にしておいた方がいいと強く勧められたという事実、それを今になって思い出す。

 

この自身を蝕むような不安は、これが原因なのではないか。私が彼女の施術を受けられなかったがゆえに何かが起きようとしているのではないか、そう思えてしまう。彼女は秘密主義で、悪戯もする。だが友と呼び合えるような存在に対してその過激といえる攻撃性をあらわにすることはなかったし、むしろどうやったら私たちの得となりうるかをずっと考えていたように思える。

 

 

「今日、出なきゃならないのよね。」

 

「……はい、約束でしたから。」

 

 

今、力ある者の立場は非常に複雑なものになっている。ニンジャによる攻撃によってあらわになった世界中の超人たち、そしてその超人を管理するための超人法。それを施行するか阻止するかで起きてしまった私たちによる内戦。

 

戦いを望まず、ただ静かに生きるのにも様々な手続きを取らなければならなくなった。ホークアイやアントマンと名乗る彼らに比べれば他人の眼がない生活を送れているが、それでも『誰かから監視されているかもしれない』という不安は付きまとう。

 

技術が発展し、それまでの常識を覆すような力を持つ人間の存在が明らかにされたこの社会にとってありえない、ということは証明できない。大きくはないが確実に心を蝕む小さな不安、誰かの眼を気にしないといけないのは私にとっても、彼女にとってもよいことではない。

 

 

「気は進みません……、ですがワンダ。あなたとの生活を続けるためと思えば苦ではありません。」

 

 

この不安をなくすことはできない、だがより小さくすることはできる。

 

アメリカへと飛び、トニー・スタークの元でちょっとした仕事と、手続きを済ませる。あとは何か起きない限り私はこの地へと帰り、彼女との生活を続ける。トニーもこちらのことを気にかけてくれていた、私がこのまま北欧に籠りたいと告げても悪いようにはならないはずだ。

 

そんな私の思いを彼女は組んでくれたのだろう、私の頬に触れる彼女の手から暖かな熱を感じる。

 

 

「待ってるわ、ヴィジョン。」

 

「えぇ、帰ってきたら……」

 

 

彼女への思い、纏まらぬ思いを言葉にしようと口を開こうとしたとき。

 

 

目の前の窓が、はじける。

 

 

何かの爆発物によって体が吹き飛ばされてしまう。とっさのことで何の対応もできず、ただ床を転がる。

 

急な襲撃、敵が誰かは解らないが自身に察知されずにここまで来られている以上油断はできない。それまでの人としての姿をすぐに元のもの、赤い肌を持つヴィジョンとしての姿へと変え立ち上がろうとする。

 

背後、殺気。

 

 

「ッ!」

 

 

その行動をキャンセルし、直撃を避ける。さっきまで自身がいた場所には見たこともない武器。謎のエネルギーを保有し、青く光っている武具。明らかにこの星で製造されたものではない。

 

視線が、さらに上。この武器の持ち主、襲撃者の一人へと移る。

 

 

「ほう、避けるか。」

 

 

追撃、床を転がることで距離をとる。

 

視線は人類ではない侵入者ではなく、彼女に。倒れたまま動かない、気絶している。

 

今やるべきことは目の前にいる侵入者の対処ではなく彼女を連れての逃走、ワンダは非常に強力な力をもつ女性ではあるがその肉体は普通の人類と同じ。ここからは確認できないが先ほどの爆発で何かケガを負ったかもしれない。今すぐここから離れなければ。

 

頭部のマインド・ストーンにエネルギーを集中させ、この部屋一帯に閃光をまき散らす。

 

一瞬でも隙を作れればいい、エイリアンが怯んだ瞬間。ワンダを抱きかかえ外へと飛び立つ。

 

 

北欧の白と灰しかないはずの空には、巨大な宇宙船が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワンダ! ワンダ! しっかりしてください!」

 

 

赤い肌を持つ男、ヴィジョンが彼女の肩を揺すり意識を覚醒させる。

 

場所は、町中。関係のない市民への被害を考えれば避けるべきではあったが今は真夜中。それにこの時期に外に出歩く者は少ないと判断しここまで飛んできた、敵は未だ空に浮かぶ宇宙船、それに乗ってやって来たエイリアンとしか考えられない。そうだとすると何もない森林地帯や雪原へ逃げるよりも土地勘がある町中に逃げるべきだと判断した。

 

スキャンした結果、ただ気絶しただけだと判明した彼女がやっと覚醒する。

 

 

「……ッ、ヴィジョン!」

 

「落ち着いてください、家から町の方まで逃げてきました。……そしてアレを。」

 

 

彼が指さす先には、空に浮かぶ大きな船。円形で、内部に穴が開いている。この星の技術力であれが作れるとは思えない。できるような人間もいるが、その彼らが自分たちを急に攻撃するとも思えない。そして……。

 

 

『本日未明、ニューヨークにて謎の船から攻撃がありました。町の一部が破壊され、市民への被害も出ています。またアベンジャーズのトニー・スタークことアイアンマンが現在行方不明となっており……』

 

 

街頭に並ぶ宣伝用のTVからそんな声が聞こえてくる。明らかに異常事態だ。

 

 

「な、なにが起きてるの。」

 

「解りません、しかし危険な状態であることは確かです。今すぐ助けを」

 

 

助けを呼ぶ、そう言おうとした彼の口が止まる。足音が二つ、完全にこちらに動きがバレている前提で動いている生命体がいる。狙われている。

 

ヴィジョンが纏う雰囲気が変わったことを理解したのだろう。地面に座り込み、その背を壁に預けていたワンダもゆっくりと立ち上がり戦いへと精神を切り替えていく。この場にいるのは二人、そして相手も二人。救援を呼んだとしてもこの場に友が来てくれるまでかなりの時間がかかる。その上空に浮かぶ宇宙船を見るに相手が二人だけだと楽観することは出来ない。

 

 

「宇宙人が狙うとすればこのマインド・ストーンでしょう。……ワンダ、貴方だけでも」

 

「戦う。あなたを一人にはさせない、それに二人で戦った方が切り抜けられる。」

 

「……そうですね。」

 

 

覚悟は決まった、顔を合わせ頷き合う二人。

 

 

「相談は終わったか? 一度だけ言おう、ストーンをよこせ。そうすれば女は助けてやる。」

 

 

彼らの目の前に現れるのはおそらく男女二人組の侵略者。彼なりの慈悲なのであろうか、男の方がヴィジョンに向かってそう問いかける。が、否定されることを最初から理解していたのだろう。ヴィジョンたちが否定を投げつける前に敵が動く。

 

 

「ッ!」

 

 

相手が扱うのは両者ともに長物、ワンダ・ヴィジョンともに遠距離攻撃の術を持ち合わせてはいるが距離を詰められると非常に厳しいものになる。

 

距離を詰められないように迎撃に入るが基本的な身体能力はあちらの方が上、ヴィジョンの額からのビームは敵のハルバートによって弾かれ、ワンダのエネルギー弾は避けられてしまう。そして、0距離。

 

 

(……これは!)

 

 

彼の感覚が警鐘を鳴らし、体の構成要素を弄ることで攻撃を透過させるのではなく。敵のハルバートの柄をつかむことで防御する。触れただけでこの武具の性能をある程度理解するヴィジョン。これは自分のような存在に非常に特攻を持っている、一撃でも攻撃を受けるのはまずい。

 

かといって距離をとることは難しい。ワンダと共闘しようにも、もう片方のエイリアンと対峙している彼女に救援を求めるのは不可能。どちらかが目の前の敵を倒し、二対一の状況を作らなければならない。

 

 

「その石を、渡せ。」

 

「お断りします! ッ!」

 

 

だが、できそうにない。データとしては武術というものを理解している。だが実際にやって見せろと言われてできるようなものではない。その上敵は格上、これは本格的にまずいかもしれない。

 

何とか致命傷は避けれているが無傷というわけではない。先ほど自身が感じた通り、敵の武器には自身に対して特攻がある。普段であればすぐに修復ができるはずの傷が治らない。

 

横目で、ワンダの方を確認する。

 

槍を持つ敵に苦戦している、刺突以外は打撃という攻撃方法になるため目立った傷は見当たらないが直撃を食らってしまえばそこで終わりだ。自身に彼女を治す力はない。今は両手に纏われた赤いエネルギーによって攻撃を跳ね返せているが、時間が立てばどうなるかわからない。

 

焦りが、募る。

 

 

「ガラ空きだぞ。」

 

 

それがいけなかったのだろう。

 

眼前に、その矛先が向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

避け、られな、い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぃ→ッす☆ エイリアンの不審者君、お元気ですかァー?」

 

 

オレンジの巨体に、目の前の敵が、吹き飛ばされた。

 

 

「おっと失礼、我々と言語体系は異なっていても翻訳はできるのでしたね。大変失礼しました。……大丈夫ですか、ヴィジョン。」

 

「……げ、ゲデヒトニス、ですか?」

 

「おや、覚えていてくれたのですか。」

 

 

赤く光る大きな一つ目に、重機を思わせる太い四脚。人のように自由に動かせる二本の腕。自身の母とも呼べる存在によって生み出された兄とも呼べる存在。大宙つぐみのサポートAIの一人、ゲデヒトニスがそこにいた。

 

 

「再会を喜びたいところではありますが……、まずはお仕事の方終わらせてしまいましょう。」

 

 

四つの足が弾けるように動き、距離が狭まる。その延ばされた長い腕によってワンダが戦っていたはずのエイリアンの首根っこが掴まれ、先ほど彼が吹き飛ばしたもう一人と同じ方向へと放られる。

 

明らかに、馬力が違う。

 

 

「昔、ハルク氏に敗戦してから色々とアップデートを重ねましてね、最近は単に執事としての仕事ばかりでしたが……。鈍ってはいませんよ?」

 

 

敵もただ吹き飛ばされ、地面に転がっていたわけではない。すぐに立ち上がり彼の巨体に向かって攻撃を仕掛けていく。一度その武器によってその膂力と技術に基づいた攻撃が敵両者から放たれるが……、装甲によっていとも簡単に弾かれる。傷すらついていない。

 

その金属の体に単なる斬撃や打撃は効かないと判断したのか、彼のメインカメラや関節部を狙う戦い方へとシフトしていく彼ら。その苛烈という言葉が一番当てはまるであろう猛攻は決して一人よがりのものではない、男性と女性の技術の粋がそこにあり、二人の息が一つになっている。敵でありながらもその技術の高さに見惚れてしまいそうになるほどだった。

 

……だが、彼には通用しない。私やワンダが彼を助けようにも助けられない理由。もちろん敵の攻撃が苛烈であることも理由ではある。しかしそれ以上にその猛攻をすべて何もないように捌いている彼に手を出すことができないからだ。

 

 

「これでも長男ですから、情けない姿は見せられないですから、ねッ!」

 

 

私たちからは理解できないが、彼にとっては隙だったのだろう。そのオレンジの大きい両手が、敵の腹に打ち込まれる。普通に生活する分には聞こえないような音、何かが無理やり力によって砕かれるような音と共に吹き飛ばされる敵エイリアン二人。

 

 

「ここで引くのなら見逃して差し上げましょう、ですが続ける場合は……、お覚悟を。」

 

 

このまま戦っても勝てない、そう判断したのだろう。空に浮かぶ巨大な船から青い光が降り、先ほどまで戦っていた敵を回収する。その青い光が収まるころには空に浮かぶ宇宙船は徐々に高度を上げ、空へと消えていってしまった。

 

 

「ふぅ、とりあえず任せていただいた件はこれで大丈夫、ですかね。……おっと、お二人ともけがはありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃がしても良かったのですか?」

 

「えぇ、それがマスターのご指示でしたから。あちらの目的は石の入手に間違いはないでしょうが、誰が求めているのかなどの背後関係がまだ不明です。小型の発信機を彼らの装備に張り付けておきましたのでまずは情報集め、ということでしょう。」

 

 

マスターによって作られたいわば弟のような存在であるヴィジョン、そしてその思い人。いや配偶者と言った方がいいのか。現在、彼と彼女を肩に乗せて所定のポイントまで移動をしている。

 

先ほど自身が発した内容は、何も知らない彼らから見て不都合のないように調整してある。わざわざマスターからお役目と台本まで頂いたのだ。間違えるはずがない。

 

敵エイリアンたち、ブラック・オーダーの目的も彼らが乗ってきたQシップの居場所も、私が彼らに負わせたケガがどの程度の時間で全治し、次はどのタイミングで攻撃を仕掛けてくるか。マスターから伝えられた情報でイレギュラーの可能性も含めてすべて計算済み。

 

 

「そう、ですか……。」

 

「マスター、お嬢様のことですか?」

 

 

お二人の顔が変わる。まぁ仕方のないことだろう、マスターからお聞きして、過去のログもすべて確認したがお二人とマスターのご関係は少々難しいものになっている。初対面では殺し合い、そしてその過程でマスターの持つお力が暴発、ワンダ氏の精神が並行世界に飛ばされ、彼らに対して一部の情報を提示しなければならなくなった。

 

そしてその並行世界の情報を提示した次の日は、忌々しいあの日。マスターのすべてが失われてしまった日。騒動が終わった後に簡単な生存確認の報告をしたのみ、それから彼らとの交友は一切取れていない。

 

 

「そうですね……。今はお元気になされています。少し前までは少々精神状態が危うい時期もございましたが今はお二人が知るお嬢様と変わりないかと。……あぁ、そうそう! お伝えするのを忘れるところでした。」

 

 

詳細は、私の口から語るべきことではない。何よりマスターが、お嬢様が自身の口で打ち明けることを望んでいらっしゃる。不自然なことがないように、話題を切り替えながら自身の格納スペースより封筒を取り出す。

 

 

「こちら、招待状に成ります。」

 

「招待状?」

 

「えぇ、マスターからです。……まぁアベンジャーズの招集とお考え下さい。」

 

 

アベンジャーズの招集、その点は間違っていない。彼らの思う目的と、こちらの目的が違うだけ。

 

 

「さて、ではこの後は他の方と合流していただき、会場に向かっていただきます。まぁ会場と言いましてもニューヨークですし、私は重量オーバーのためご一緒できませんが……。久しぶりの再会となるのですかね?」

 

 

役目は、ここまで。キャプテンたち一行と彼らを合流させ、ニューヨーク基地まで送る。小型ボディの方を持ってきても良かったのですが……、それだと少々インパクトに欠けますからね。それにこれから私もワカンダの方に移動しなければなりません。急がなければ。

 

 

「では、空の旅をごゆるりと。」

 

 

 

 






ゲデヒトニス
「そういえばお嬢様が『お祝いとか全然遅れなくてごめん! 何か不便とかあったら何でも送るからゲデに言っといて! あと結婚式には絶対呼ぶこと! マミィとの約束だよ~!』とのこと。」




今回、踏文 二三 様に支援絵の方頂きましたのでこの場をお借りして紹介させていただきます。


https://syosetu.org/?mode=img_user_gallery&uid=180667



お嬢様のスーツ、Mark2・3のイラストをたくさん描いていただきました。正直書いてる側としてはあまり細かく考えて書いていませんでしたので、ここまで細かく書いていただいて大変ありがたいです。かっこよくてかわいい、しゅき!



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