「ヒル、急ぐぞ。」
「了解です。」
二人の男女が早足で車まで移動する。すでに崩壊し、過去のものになったS.H.I.E.L.D.の長官であった男。ニック・フューリーは今でも自身の指揮下に入るマリア・ヒルと先ほどまでとある組織との会談を行っていた。
もしこの星に何か起きたときのために協力体制をすぐに構築できるように、その橋渡しをしようとしていたのだ。
会談の内容自体は彼らの思惑通りに進み、相手側から非常に良い回答を得られた。もしこの国で何かあった場合彼らがそれを取り締まること、両者の救難信号に対して反応すること、そして当初の目的であった外の世界への備えも作ることができた。
「タイミングが良すぎる、全くいつになったら休みが来るんだろうな。」
「ふふ、もしそれが彼らに聞かれたら暴動じゃすまないですよ?」
「確かにな。」
会談が終了した直後に彼らの元に届いたのはニューヨークへの襲撃。正体不明のエイリアンがアメリカの空を訪問し、この星を守るヒーローを連れ去って帰っていったという報告。明らかに緊急事態だ。
アベンジャーズとして戦う彼らに比べれば単純な戦闘能力で劣る彼ら。しかしながら正面に立ち、敵と戦うだけが仕事ではない。戦略や指揮、そして調査。さっきまで彼らが行っていたような他組織との橋渡し。S.H.I.E.L.D.時代の人脈を未だ持つ彼らだからこそできることもある。
故に、今すぐニューヨークに向かわなければならない。
ただでさえあの国は不安定だ、上が上であるし、それに従う者も一筋縄ではいかない。昔のようなチームには成れないとしてもひとつに纏まるには緩衝材が必要だ。それに、外部からの侵略者という事実があったとしても、その情報を有効に使えるような人材がいない。もてあますどころかそれを隠し、なかったことにしてしまう可能性もある。
「ひと段落したらビーチにでもバカンスしに行くか?」
「いいアイデアですね。……まぁ休みが取れるとは思えませんけど。」
「違いない。」
軽口を叩きながら車へと乗りこむ。このまま空港まで向かい、そのままアメリカへ。輸送機の中で睡眠が取れればよい方か。そんなことを考えながらシートベルトに手を掛ける。
『あら、相変わらずお忙しいのですね。』
後部座席から声、それに加えて首筋に当たる金属の冷気。
『貴方方とは初めましてですが……、この顔を見ればお判りになるのでは?』
バックミラーから後部座席をのぞき込む。
そこには、白い体を持つ女。彼女が身に纏っていた白い鎧がそこにいた。
『お二人ともお元気そうで何よりです。』
「……何が目的だ。」
『いえいえ、単なるメッセンジャーですよ。……あぁそれと、過去に母がされた意趣返しと申しましょうか。』
そう言いながら彼女が手渡してくるのは手紙。わざわざ封蝋までした格式ばったものだ。その体に、母という単語。ウルトロンという存在がいたことを考えると、おそらく自分たちのたちの命を握っているこの者は彼女によって生み出されたAIだろう。そう思わせるように作られた可能性もあるので、そう言い切るにはまだ早いが。
『我らがマスター、大宙つぐみ様からお二人への招待状になります、参加は強制ですので遅れずに。』
言うべきことは言った、こちらからの問いかけを発する前に彼女が行動を起こす。エンジンを掛けていないはずの車が急に動き出し、握ってもいないハンドルが空港に向かって動き出す。
そして、背後に座っていたはずの彼女が。青い粒子のようなものになりながら溶けていく。知識では知っている、トニー・スタークが身に纏うスーツに使用されているナノテクノロジー。超小型のナノマシンによってありとあらゆる造形の制作が可能になった技術。それと同じ。
青い粒子は我々に見せつけるように溶けていき、後部座席には何も残らない。あのままただ消えたとは思えない、この車が勝手に動いている以上、成人女性ほどの体積のナノマシンすべてががこの車の中から我々を監視しているということ。
「……まったく、とんでもないものを作ったなイタズラガールめ。」
◇◆◇◆◇
『ヴィジョンの行方は?』
「衛星で追いましたがエジンバラで消えました。」
ニューヨーク基地にて会談が行われていた。片方はホログラム、もう片方は生身の人間。この星に置いて数少ない鉄の鎧を纏う人間、この時点では彼以外宇宙に出ているため実質的に一人しか残っていない鉄の守護者ウォーマシンことローディは面倒な上司との会話をしていた。
ニューヨーク都市部で起きたこの星の外からやって来た外敵は北欧の地にまで現れた。そしてその後ヴィジョンという石の守護者が消えたこと、ここまではホログラムの先にいる彼も知っていることだ。何せ衛星の観測した情報は共有されている。
この会談は自身が指名手配された彼らと繋がっていないか、その尋問に過ぎない。
『クインジェットを盗んで、お尋ね者四人とか?』
「お尋ね者なのは長官、貴方が指名手配したからです。」
『あぁ、ローディ。君という奴はあぁ言えばこう言うな。ま……』
ロス長官が何かを口にしようとしたとき、それは彼によって止められる。
「ソコヴィア協定さえなければヴィジョンは」
『協定には君の署名もあったはずだが?』
自身の思いを、口にするが帰ってきたのは事実。過去の過ちといえるもの。ソコヴィア協定、そして超人法さえなければ彼は私たちの前から消えなかった。だがあの時はそれが最善だと思った、だから署名してしまった。軍人であるからこそ自身の生活が制限されるのには慣れていた。……それがいけなかったのだろう。
彼の親友であるトニー・スタークの両親、その死の真相。キャプテン・アメリカの親友の処遇。様々な思惑が複雑に混じってしまった結果、アベンジャーズは二つに割れてしまった。
……チームの中で特異な立ち位置にいて、あの場にいた誰よりも自由に、正規の手段以外も使ってすべてを反転できるような存在であった彼女はいなかった。もし彼女がいれば何か変わっていたかもしれない。
「確かに……、その代償は大きかった。」
『後悔しているのか?』
後悔はしていない、それが当時の自身が選んだ最善だったからだ。……だが、もしも。IF、あの場に彼女がいればシビルウォーなど、いやソコヴィア協定や超人法すら存在しなかったのではないだろうか。
そう、思ってしまう。
「もうそれはない……」
軍人として、組織に所属する者として自身の上司に返答を返そうとしたとき、足音が響く。しかも複数。
音が発する方に目を向ける。そこには、
「ロス長官。」
キャプテンがいた。
しかも皆を、ロマノフにワンダ、ヴィジョンにサムを連れて。
『……大した度胸だな、わざわざ来たのか?』
「長官、貴方にも度胸が必要かもね。」
停滞を望む彼にロマノフの指摘が刺さる。言ってしまえばソコヴィア協定も超人法もそれまであった物を壊さずにそのまま使おうとしたもの。二年前に起きた事件、ニンジャによる被害は大きく、人々の心に大きな傷を与えた。ゆえにそれを塞ぐために、力に怯える市民に対してその封じ込めをして見せた彼は間違ってはいなかった。
だが、壊れているからこそ再構築できた。より良いものにすることができた。ホログラムで映し出される彼がその地位を捨てていたのならその可能性もあっただろう。……ま、ありえない話だろうが。
ロマノフの問いを無視し、遠く離れた地からスティーブの前に立つロス。
『世間をあれほど騒がせ、許されると思うか?』
「許しは求めていない、認めてほしいとも思っていない。……地球を守ってた男が消えた。だから来たんだ。」
「邪魔するというのなら、貴方とも戦う。」
彼の答えに対して笑みを浮かべる長官。目の前にいる過去の栄光が何を言おうと世界は変わらない、そこにいるのは変わらず指名手配犯だ。
その現状に満足しているのだろうか、微笑みを持ったまま振り返り自身の部下に命令を下す。
『逮捕しろ。』
その命令にローディが答えようとしたその時、今度は違うところから物音。
『ねぇ~! ローディのおっちゃん! ここ充電器ないんだけど! コーンのゲーム機充電切れちゃう!』
「こ、コーンちゃん! 今大事なお話ししてるから入っちゃダメだって……!」
ドタバタと奥の方から飛び出してくるのは最近発売されたゲーム機片手に突撃してくるコーンに、ズーム会議に勝手に突撃した子供を必死に連れ戻そうとするお父さんみたいなブルース。明らかに雰囲気がぶっ壊れた。
なお、現在ロス長官がアベンジャーズや超人法関連を取り仕切っているため、もちろんハルクであり超人法に登録していないブルース・バナーは指名手配されてるし、ヤクザ組織の親玉で色々政治の黒いところまで手を出していたお嬢様も指名手配されている。つまり指名手配のオンパレード、こいつも逮捕しろ、である。
『おい、ローディ!』
「ふッ! 了解しました長官。」
こみ上がる笑いに耐え切れず少々決壊したローディだったが、何とか立ち直し先ほどの命令を受け取る。まぁ彼に実行する意思はサラサラない、すぐにホログラムの電源を切り旧友たちへの方向へ向き直した。
「軍法会議ものだが……。ま、子供の乱入ってことで何とかなるだろ。」
「久しぶり、キャプテン。」
「……あぁ、元気かローディ。」
「あら、私はなし?」
「はは、そんなわけないだろ。」
「あー! 私もー!」
ローディとスティーブ、そしてナターシャの再開の場面に突撃する彼女。精神が幼く体も小さくて子供に見えるから許される行為。まぁ実際生まれてから一年も経ってないので実質子供。だから全然大丈夫だ、それにコーンちゃんの体はお嬢様のスーツとそっくりなのでカワイイ。絶対大丈夫。
コーンちゃんは一番体幹がしっかりしてそうなキャプテンへと突っ込んだ。
「うおぉっと! 元気だな。この子は?」
「コーン、彼女の娘みたいな子だ。……みんな、変わらないね。」
「……ブルース。」
「……やぁ、ナターシャ。」
◇◆◇◆◇
「え~と、それで。コーンちゃんだったか? 君は何か聞いているのか?」
『うん!』
サム、機械の羽で空を駆けるヒーロー。ファルコンからの問いに対して元気よく返事をする彼女。彼が聞きたいのは彼女が母から聞いた内容なのだが、コーンは聞いたか聞いていないかについての問いだと思った様子。彼女の顔は鉄で形作られているため表情はないが、絶対とてもいい笑顔をしている。
「いやそうじゃなくてな……?」
一向に進まない彼と彼女の問答をよそに、キャプテンは皆と招待状を開いていた。
『みんな久しぶり~! 元気してた? 元気してたよね! 元気してたって言え! ドロッセルちゃんだお! 急で悪いけどニューヨーク基地に集合~! 足は全部こっちで用意するし、顔なじみみんな呼ぶから楽しみにしておいてよね! あ、あと来なかったら無理やり連れてくるからそこんとこヨロシク!』
彼女らしい言葉選び、この内容が記されていた手紙を納める封筒や封蝋が非常に格式張っていたことも相まって自分たちの知る彼女が帰って来たのだなという気にさせられる。配達人が彼女の関係者を名乗る者、見知った顔の者だったことからこれが偽物だとは思えない。
だが、だからこそ不安になってしまう。
ここにいる皆、彼女と最後に顔を合わせたのが二年前に起きたニンジャでの騒動の後。誰がどう見てもその表情を異常と断ずるであろうものをそこに張り付けていた彼女。それから誰も、一度も彼女のことを見ていない。
「あの町はまだ……。」
「あぁ、ずっと廃墟のままさ。オオサカは。……人は住んでるみたいだがほぼスラムみたいだって聞いている。」
「そうか……。」
キャプテンの問いに、ローディが答える。彼女は文字通りすべてを失った。拠点としていた町も、家族も、仲間も。最後ツグミとあった時に傍にいなかったこと、そしてどこを探しても見つからなかったことから彼女のパートナーだったあの子も例外ではないのだろう。
もし、自分がその立場になったとしたらどうなるのだろうか。……あまりよくない結末を考えてしまう。
「ブルース。」
「あぁ、彼女も彼と一緒に。」
「ならこれは……、延期か。」
地球を守っていた彼がニューヨークに訪れた宇宙船を追って消えた。そして消息を絶っていた彼女が急に現れ、それについて行った。あの二人がいて何か悪いことが起きるようには思えない。知らぬうちに帰って来て『うん? キャプテンもしかして待ってくれてたのか?』『はろはろ! ところでお帰りパーティーは?』と僕の目の前で言ってもおかしくないだろう。
二人が笑って冗談を言えるように、僕たちは僕たちの仕事をしないといけない。エイリアンたちが狙うのは石。ヴィジョンの額に埋まったそれだ。誰の犠牲も出さずに、石を守り抜き、敵を追い返す。
今はそのことについて話し合おうと声を上げた時、彼女とサムが行っていた会話が耳に入る。
『え~? ……じゃあちょっとだけ! ママは石ころの話をするって言ってたよ! あと宇宙人のことも!』
「……! 本当か!?」
サムの驚いた声が響く。……途端に、この紹介状が持つ意味が変わってきた。
『うん、そうだよ。ママはそれ以外にも色々お話しするって……、あ! 来た!』
彼女の声が響き、その指差す方向へと目を向ける。部屋の隅、そこには青い穴が生成されていた。何の反応もなく、急に。
僕らが何かするよりも早く、その門の中から人影が。
「よ、っと。やほ! みんな久しぶり!」
「ツグミ、それは……。」
「なぜタイム・ストーンが二つある!」
ほぼ同時にトニーとストレンジの声が私の耳に届く。あはー! まぁそうなるよね、とってもいい反応。……あ、後輩クモちゃんはちょっと待っててね? これからドロッセルちゃんの見せ場だからさ。ちょっとだけ静かにしててね♡
「全部本物だよ? ……あぁ、もちろんドクターの胸に収まるそれもホンモノ。あはー! おかしいねぇ? 一つしかないものが二つもある。まるで別の世界から持ってきたみたい……。」
別の世界というか過去の世界なんですけど。……正確に言うとこの世界の過去によく似た並行世界なんだけどね。過去に私が飛んだ瞬間それはすでに私たちの世界じゃない。もう枝分かれしちゃった世界だ。ま、例のインカージョンの騒ぎでは破壊されてないし、今も元気に残ってるからそこら辺は許してね。私死んだらちゃんと返しに行ってもらうから。
「ふふ、不思議だよね。この先で全部話すよ、みんな集まってるしね。……うん、全部。私が隠してきたものも、すべて。」
今まで隠してきたことを全部曝け出すんだ、恐怖がないといえば嘘になる。だけどタイミングはここしかない。わざわざ娘たちに頼んで全員集めてもらったんだ。ちょいと厄ネタが追加されてるけどやるっきゃないでしょ。
さ、私。気合入れていきましょう! 見ててよね、ユキ。