『僕のせいだ…僕のせいで父さんは死んだんだ…ッ!!!!』
完全体となった人造人間セルを倒したその夜、悟飯は自分への怒りで眠れなかった。
もしもあの時、悟空の言う通りにセルを倒していたら今もこの家には悟空がいて、家族みんなでチチの手料理を食べていた事だろう。
『僕が、僕がいけないんだ…僕があの時セルを倒していれば…父さんは…!!!!』
悟飯は激しく後悔した。
その日から食事も碌に取らず、学者になる為の勉強もしていなかった。
そんな状態が一週間ほど続いたある日の朝の事だった。
突然悟飯の部屋に乗り込んできたチチ。
悟飯の首根っこをひっつかんで家の外に放り投げると襲い掛かってきたのだ。
元々亀仙人の弟子である父・牛魔王から武術を学んでいたチチは武術の達人である。
そのチチの拳と蹴りを何発も何発も喰らい、ついには飛び蹴りを受けた悟飯は木に叩きつけられてしまった。
『悟飯!!!おめぇいつまでそうしてるつもりだ!!!』
『お母さん…』
木を背もたれに座り込み、情けない声を上げる悟飯の髪の毛を掴み引っ張り上げるチチ。
その目に涙があふれていた。
『悟空さは…おめえの父ちゃんは死んだ!!この地球はこれからおめぇが守らなくちゃなんねぇだ!!父ちゃんが生きてたらきっとおめぇにこう言うだろうな!!甘ったれてんじゃねぇぞ悟飯!!!父ちゃんがいねえと何も出来ねぇんか!!そんな事でオラのいねぇ地球を守れるんか!!』
『ッ!!!!!』
チチの言葉で悟飯の表情が変わった。
何かに気付き、これまでの自分を恥じるように歯を食いしばり…涙を流した。
『お父さん…ッ!!!!』
『さぁ立て悟飯!!おめぇより弱ぇ母ちゃんを倒せねぇようじゃ地球なんて守れねぇぞ!!』
チチはひょいっと悟飯から離れ迎撃の構えを取ったが…。
『大丈夫だよ母さん、僕は…もう、泣かないから!!!』
決意に満ちた表情で悟飯は立ち上がり、フンっと力むと超サイヤ人を越えた超サイヤ人2へと姿を変えた。
金色のオーラが迸り、青白いスパークがパチパチと音を立てる…!!!
『僕が…俺が、父さんのいない地球を守るからッ!!!!!』
『悟飯…』
悟飯の決意を聞いたチチは力が抜けたようにフラフラと倒れ込もうとした。
『母さん!』
超サイヤ人2の変化を解き、すぐさまチチを抱きとめる悟飯。
『母さん!大丈夫!? …母さん?』
抱きとめた悟飯の身体をギュッと抱きしめ返すチチ。
『…大丈夫だ、母ちゃんは宇宙で一番強い男の妻だぞ。悟飯、おめえは父ちゃんの息子だ、もう偉ぇ学者になれなんて言わねぇ…母ちゃんじゃおめぇに武術の稽古は付けられねぇが、ピッコロやベジータさんならおめぇをもっと強くしてくれるはずだ、ベジータさんの方にはオラがブルマさんに連絡しとくから、ピッコロに修行付けてくれって行ってこい』
『うん、でも…その前に…』
『?』
悟飯の腹から怪物の鳴き声の様な空腹を知らせる音が鳴った。
『はははははははっ!!腹が減っては力も出ねぇな!よし!母ちゃんが腕によりをかけて美味い飯作ってやる!まずは腹ごしらえだ!』
『はい!!』
こうして悟飯は悟空の後を継ぎ、地球を守る決意を固めるのだった。
それから6年後。
エイジ774。
16歳になった悟飯は現在、カプセルコーポレーションのはるか地下に作られた超重力室の中でベジータと組手を行っていた。300倍を超える重力下の中で超スピードで戦闘を繰り広げる二人は既に6年前の悟空を超えていた。
悟飯にいたっては超サイヤ人2を超えたさらなる力の兆しが見えていた。
「よし、今日はここまでだ」
「ありがとうございました!!!」
悟空というライバルを失ったベジータは失意のどん底に落ちていたが。
現在、悟飯というライバルの忘れ形見を育てる事に生きがいを見出していた。
「今のお前には甘さも慢心もない、戦闘中の駆け引きも上手くなった…成長したな」
悟飯は強くなった。
悟空を超えベジータを超え…宇宙最強といっても過言ではない。
かつてのライバルを超える戦士が目の前にいる、初めは何とも言えない気持ちにさせられたが、今となってはこれ程嬉しい事はない。
己の手で最強の戦士を育て上げ、その最強を相手に組手を行い己自身も更なる強さを身に付ける事が出来た。
『カカロットも自分の息子がこれほど強くなるとは思わなかっただろうなぁ、悟飯を相手に修行を積んでどんどん強くなる俺をあの世で悔しがって見ているがいい、カカロットよ!!!フハハハハハ!!!』
と、先に死んだライバルにざまあみろと心の中で笑ってたりするベジータだったが…。
「…まだまだです、この頃力が伸び悩んでる気がするんでまた来週修行の相手をしてもらっていいですか?」
「……」
「ベジータさん?」
今の悟飯は危うかった。
強さに執着し、来るかも分からない強敵に備え続け目の前の平和な世界が見えていなかった。
今のベジータにはブルマという最愛の女とトランクスという最愛の息子がいる。
凶戦士サイヤ人であった頃にはなかったあたたかなものを、今のベジータは手に入れる事が出来たが、悟飯はどうだ?
16歳の育ち盛りで色恋も経験せずに修行に明け暮れる日々、この状況はサイヤ人としては最高の環境ではある。
だが地球人として、一個人としての孫悟飯は貴重な時間を修行に使い過ぎてはいないだろうか?
ベジータの強さは悟飯との組手だけで向上したわけじゃない。
根底にブルマとトランクスという大切な存在があったからこそかつての自分よりも強くなる事が出来た。
地球を守る為に強さを求める、それは素晴らしい事だ。
だがそんなモノよりも己の命を懸けて守りたいと思える人間の存在の方が人を強くするのだと最近のベジータは思い始めていた。
悟飯も家族以外の最愛の女と出会い、平和な時を満喫し心身共に休める事を覚えれば今以上に爆発的に強くなれるのではないか?
心の中でベジータはそう思っていたが、それを今の悟飯に教えてやれる程デレていなかった。
「組手の事は考えといてやる、たまにはうちで夕飯を食っていけ。ブルマもトランクスもお前と食事するのを楽しみにしているからな」
「はい、ご馳走になります!」
汗を拭きながら重力室を出ていく悟飯を見送り、はっと我に返ったベジータ。
『これは俺ではなく、ピッコロの役目ではないか…?』
自分も随分と甘くなったもんだと舌打ちをした。
「悟飯さん!今日はうちでご飯食べていくんですか?」
「やぁ、トランクス。ベジータさんに誘われてね、ご馳走になるよ」
「やったー!」
人造人間との戦いの時、まだ言葉も喋れなかったトランクスも今では8歳。
この現在のトランクスは別の未来のトランクスよりも早く悟飯に弟子入りし、悟飯の弟である悟天とは良いライバル関係を築いている。
「今度チチさんたちも連れていらっしゃいよ、久しぶりにパーッとやりましょう」
「はい、伝えておきます」
「そんな事はどうでもいい、さっさと食事の準備をしろブルマ」
「はいはい、今日は特別に私が腕を振るうわよ!」
「え、ママって料理が出来たの?いつもお手伝いさんが作ってたけど…」
「ママだって料理の一つや二つ作れるわよ!この天才美人人妻のブルマ様に任せなさい!」
「あはははは…」
袖を捲り上げ台所に向かうブルマを見送り、ベジータはテレビを見て、悟飯とトランクスは楽しそうに話をしていた。
「ねぇ悟飯さん!近所にゲームセンターが出来たんだ!今度一緒に遊びに行きませんか!」
「うーん、ゲームかぁ……俺、ゲームやった事がないんだ」
「え~!そうなんですか!?それなら俺が教えてあげるよ!一緒に行こうよ悟飯さん!」
「えっと…そうだなぁ…」
本音で言えばゲームをやる暇があるのなら修行をしたいと答えたいところだが、幼いトランクスのワクワクしている笑顔を見ると強く言えない悟飯であった。
そんな悟飯に駄目押しとばかりにベジータが目だけ向けて一言こう言った。
「行ってやれ悟飯」
「ベジータさん……分かりました。それじゃあトランクス、いつ行こうか?」
「やった! それじゃあね……」
「ブルマさん、ご馳走様でした」
食事を終えた悟飯は見送りに来たブルマに別れの挨拶を済ませていた。
「いーえ、ベジータもトランクスもよく食べるから悟飯くんもそうだと思ってたくさん作り過ぎちゃったけど、余計な心配だったわね」
「あはは、とっても美味しかったです」
ニコニコ笑う悟飯とブルマだったが、ふと、ブルマの表情がとてもやさしい顔へと変わった。
「…悟飯くん、ありがとうね」
「え?」
突然、ブルマは悟飯にお礼を言った。
「孫君が死んじゃってからアイツ、生きる屍みたいになってたからさ。チチさんから連絡がなかったら、きっとベジータのヤツ駄目になってたと思う…悟飯くんと修行を初めてから結構経つけど、今のベジータは凄く活き活きしてて…昔のベジータからは考えられないくらいに強く、優しい父親になったわ…」
「……」
「だからね、悟飯くん…キミ一人でこの地球の事を背負い込まなくていいのよ」
「!!!」
「チチさんは、孫くんが死んじゃって酷く落ち込んでいたキミを見てどうにか元気付けようと力いっぱい尻を叩いたんだと思う。その時からキミは強くならなくちゃって自分を追い込んで、追い詰めて…そんなキミを見てチチさんは後悔してると思う、もっと良いやり方はなかったかって…。私も今の悟飯くんを見ていると心配になるのよ、もちろんベジータだって」
「ブルマさん、ベジータさん…お母さん…」
「地球にはベジータやピッコロ、頼りないけどクリリンくんやヤムチャがいるわ、だからもしもの時は遠慮なくこの大人どもを扱き使ってやんなさい。孫くんだってたった一人で地球を守ってたわけじゃないのよ、そりゃ私たちが足手まといになる事もあったわ…だけど、だからこそ、皆がいたから孫くんは頑張れたんだと思う。戦いが大好きなのが玉に瑕だったけどね」
昔を思い出し、懐かしそうに笑うブルマの言葉に、悟飯は酷く迷っていた。
「でも俺は…父さんの代わりにこの地球を…」
「孫くんの代わりなんて誰もなれないわ、キミもベジータもね。だいたい孫くんは心臓病でもっと早く死んじゃうはずだったんだから、未来のトランクスのお陰で長生きが出来て、おまけに皆を守れて死ねたんだからよかったじゃないの、ね?」
「…そ、そうです、かね?」
「そうよ。孫くんには孫くんの、悟飯くんには悟飯くんの、人には人の人生があるの。悟飯くんは今16歳だっけ?人生まだまだこれからじゃないの! 可愛い彼女作って色んな事経験してたっくさん冒険しないと人生損よ! ドラゴンボールがあるけれど基本的には人間死んだらそこでおしまいなんだから! あ~そう言えば私が悟飯くんと同い年の時だっけ、ドラゴンボールを探しに一人で旅に出て孫くんと出会ったのは…」
「え!?そ、そうなんですか!!」
「ええ、ふふふふ…って長話しちゃったわね。ごめんなさい」
「え? あ…いえ……なんだか、ブルマさんの話を聞いて、すっとしました」
「そう? それならよかったわ。早く家に帰ってお母さんを安心させてあげなさい」
「はい!ブルマさん、ありがとうざいます!!」
「うん、それじゃあまたね。おやすみなさい」
「おやすみなさい!!!」
悟飯はブルマにぺこりとお辞儀をして、家へと帰っていった。
「行ったか」
気配を消してブルマと悟飯の会話を覗き見ていたベジータが姿を現した。
「あらベジータ、いたの?」
「ふん、たまたま通りがかっただけだ……」
「相変わらず素直じゃないわね、アンタも悟飯くんに言いたい事があったんじゃないの?」
「うるさい!さっさと寝るぞ!ブルマ!」
「はいはい、本当に素直じゃないんだから」
「ただいま、お母さん」
「悟飯……ちゃん?」
「あれ?おにいちゃん?何だか雰囲気変わった?」
「そうか?変わったかな? そうそう、母さん、ブルマさんがね……」