カジミエーシュには騎士がいる
イベリアには海がある
ウルサスには広大な国土がある
そして極東には…武士がいる
そんな武士に生まれた勝ち組ならばさぞ日々を楽しく生きてると思うかもしれないが…実際はそこそこ楽しくってとこだった。
暮らしには不自由してないし家臣だっていた。美人の女中もいた。おおよそ餓死や鉱石病とは無縁の暮らしを送れていた。けど命の危険を感じた回数は他の同年代と比べても多かったと思う。
理由は…厳しい訓練だ。
武士の権力は武力によって維持されてるといっていい。最上位の武家ではないにしてもまがりなりにも武家の後継者ならば、武芸に秀でていなければお話にならない。ところで俺の種族は鬼である。鬼は幼いころから身体能力に優れそれなりの傷を負ってもすぐに治る。
したがって訓練は幼いころから過酷なものになる。
そんな俺くん6歳は現在屋敷に庭にて家臣の一人と剣術の稽古にいそしんでいた。
「いきます」
「いつでもかかってきなさい」
俺は勢いよく飛びかかり上段に一撃、続けて喉に突きを放ち最後に胴を袈裟斬りにする。
「死ねえ!!!!」
「甘い」
しかし家臣は涼しい顔で全ての斬撃を捌く。最近気付いたが奴は手加減というものを知らない。いや、奴だけではなくこの家の奴らは全員知らないのかもしれない
「ではこちらも」
そう言うやいなや家臣は目にも止まらぬ速さで上段へ一撃、喉に突きそして袈裟斬り…先刻俺がした攻撃を俺以上の速さで繰り出してくる。性格が悪すぎるだろ!
「おらあああああああああああああ!!!!」
「おや」
それを意地で捌き切る。稽古を始めた頃の一撃で伸されて枕を涙で濡らすしかない俺ではないのだ。家臣も驚き一瞬動きが硬直する。その機を逃さず全力の突きを奴の腹に叩き込む
「取った!!!!」
「甘い」
「はぁ!?」
しかしその攻撃を待っていたかのように身をかわされ腕を掴まれるとつぎの瞬間体が宙に浮いていた。そして俺は受け身も取れずに背中を大地に叩きつけられた。余りの衝撃に呼吸が出来ない。意識が朦朧とする。
「なん…で…」
確実に意表を突いたはずなのになぜ対応されたんだ?
奴は微笑みながらのたまった
「わざと隙を見せるフリをしました。」
...
「大人げ…ねぇ…」
俺は意識を手放した。
覚醒
ハッと目を覚ますと目の前には俺を大人げない方法でぶちのめした家臣。その手には刀ではなく空の桶が握られている。そして俺はなんか濡れている。
「まだ稽古は終わっていませんよ。次の試合を始めましょう」
「鬼ですか?」
「鬼は若様の方でしょう」
種族の話じゃねえよ
いつも思うがこの家臣は嫡男に遠慮が無さすぎではないだろうか俺が当主になればお前の上司になるんだぞ?もっとこう…媚を売るとかもてはやすとかないのだろうか。
ここは一度立場を分からせてやる必要があるかもしれない
「俺さ、一応この家の跡取りなんだよね。知ってた?」
「はあ、当然存じておりますが。」
突然語りかけてきた俺に怪訝な顔をする家臣
「跡取りに遠慮するとかないわけ?当主になったら殺っちゃうよ?」
俺(6歳)の渾身の脅しに家臣はキョトンとしていたがその後柔らかく微笑む
「この程度で音をあげる主君なら素っ首頂戴して私が家を乗っ取ります。」
怖すぎるだろ
この後めちゃくちゃ稽古した。
そんな稽古は剣だけでなく槍、弓、徒手、そして軍略や教養などの座学など多岐に渡り基本的には日の出から日没まで繰り返される。稽古はどれも厳しいものばかりだかその中で唯一楽しみにしているものがある。
それは弓だ。俺はどうやら弓の才能があるようで弓の射法を一通り教えてもらってからは誰に教わらずともメキメキ上達して3ヶ月経つ頃には家中に俺より上手な者はいなくなっていた。それ以来弓の稽古だけは一人で射場にこもり気の済むまで矢を撃つことが出来たし、逆にこの時間をこっそり休憩にあてることも出来た。俺が気の済むまで弓を射ち終わり射場で束の間の休息を味わっていると射場の外からとてとてと足音が聞こえてきた。
「あにうえー!!!!」
ドシーングサリ
「ぐああああああああああああああああああ!!!!!!」
「あ、あにうえー!!!!!」
背中に体当たりしてきた小柄の鬼の角が突き刺さり突然の痛みに絶叫する。
シュテン、享年6歳。死因、妹の角による刺殺。
永眠
「ハッ!?」
余りの痛みに一瞬意識を失っていたようだ。幸い出血はもう止まって傷も治りかけている。鬼じゃなければ死んでいた。
「あ、あにうえ…」
側では愛しの妹が半泣きでその手に抱えられた犬と共に心配そうにこちらを見ていた。
「なんともないぜマトイマル。もうほとんど治ったしな…俺以外にはあんな体当たりしたら駄目だぜ?」
死んじゃうからな
「もとからあにうえいがいにはやらないぞ!!」
嬉しいことを言ってくれる
マトイマルは1歳違いの妹で俺と同じ白髪赤目の可愛い子だ。小さな頃から一緒に育ってきたので俺によく懐いてくれている。この家での数少ない俺の癒しだ。そして俺と同じ鬼であり身体能力が高いため本人の希望もあって6歳から稽古を始めるらしい
頭を撫でると嬉しそうに笑う。なんだこいつ可愛いすぎか?
そうしてマトイマリウムを補給していると我も我もと影丸…俺が飼い始めた子犬が胸に飛びかかってくる。
影丸は俺が6つになった折に家督を父に譲って出家している祖父から貰った子犬だ。人懐っこくすぐ俺に慣れてくれた。
それに俺が影丸を可愛がってることは稽古中でも何故か咎められることがないため稽古で限界がきたときなどはよく影丸を可愛がっている。
「影丸があにうえをさがしてたからわがはいがつれてきてあげたんだ!!」
マトイマルが自慢気に胸を張る。ループスじゃないのに揺れる尻尾が見えるようだ。可愛い
影丸も尻尾を振って俺の顔を舐めてくる。可愛い
2つの癒しに囲まれて俺はしばらく昇天していた。
目の前には影丸をくれた爺さんがいる
爺さんは地面に影丸をおさえつけて言った
「武門の習いにてこれより斬り申す。」
えぇ…