IS~箱の中の魔術師~   作:ZZZ777

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ボトルマンも新しいシリーズが始まり、ベイブレードは第四世代の情報が解禁!
バトルホビー大好きお兄さんとしてはとても嬉しいんですが、財布へのダメージがやばすぎる…!
何を買うかしっかり見極めないと……

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


GWⅢ 激戦!バトロワ模擬戦!

仙道家が日帰りで温泉に行った2日後。

ブルーキャッツのイチカの部屋。

今此処では、部屋の主であるイチカがダンボールに自分の私物を片っ端から詰め込んでいた。

理由は単純明快で、イチカがIS学園の寮に引っ越す為、その準備である。

 

 

というのも、本来IS学園は全寮制。

寮でなく此処で生活しているイチカが異端すぎるのである。

 

 

イチカが寮に入るのを拒んだ理由は、女子との同室(しかも相手が箒)だったので、その部屋割りさえ如何にかなれば寮に入るのを拒む必要は無い。

それに、なんだかんだ毎日車で駅まで送ってもらって、モノレールで学園に行き、1日の授業が終わったらまたモノレールに乗り、車で送ってもらうという生活は面倒。

寮に入れば移動がとても楽なので、イチカは他の生徒より1ヶ月遅れで入寮するはこびになったのだ。

 

 

「ふぅ、もう少しだな」

 

 

ダンボールの蓋をガムテープで止めて、ふぅと息を吐いてからイチカはそう呟いた。

もとより物欲が全然無いイチカ。

いくら1人で学園の寮に入るだけとはいえ、引っ越しの荷造りとは思えないくらい短い時間で9割が終了した。

 

 

ずっと中腰で作業をしていたので、立ち上がってグググっと身体を伸ばし、息を吐きながら一気に身体から力を抜く。

 

 

「ふぅ……流石に腰がキツイな……だがまぁ、チャチャッとやっちまわねぇと後が面倒だからな……」

 

 

自分から首を突っ込むくらいには面白いと感じる事を除いて、面倒な事はしたくないイチカ。

それは引っ越しの荷造りも同様らしい。

軽くストレッチをしてから、作業を再開しようとしたその瞬間、

 

 

コンコンコン

 

 

と、部屋の扉がノックされた。

出鼻をくじかれたと言わんばかりの表情で扉を睨みながら、イチカはそのノックに答える。

 

 

「なんだ?」

 

 

「イチカ、俺だ。入って良いか?」

 

 

「マスターか。問題無いぞ」

 

 

イチカが答えるのとほぼ同時に扉が開き、部屋の中だというのにサングラスをかけた蓮が部屋の中に入って来た。

 

 

「何の用だ、マスター」

 

 

「いや、荷造りの手伝いにでもと思ったが…流石、早いな」

 

 

「面倒な事は後に残さない主義でね。ああ、そういえば返さないといけないもんがあるな」

 

 

イチカはふと思い出し、ダンボールに入れずに机の上に置いていたものを手に取り、蓮に差し出した。

それは、イチカの名前が記された名札。

ブルーキャッツの調理の手伝いをする際に着用していたものだ。

 

 

今回寮に引っ越しをするため、この1ヶ月よくあった帰って来て

 

「すまんイチカ、手伝ってくれ」

 

も無くなる訳で。

店のキッチンに立つ機会が無くなれば、店用の名札を何時までもイチカが持っている必要も当然なくなる。

その為、名札を返却しようと考えていたのだ。

 

 

だが、蓮は名札を受け取らず首を横に振る。

 

 

「それはお前が持っておけ」

 

 

「は?もう使わないのに?」

 

 

「使わないものを店に置いておいても邪魔だからな」

 

 

「……確かにな」

 

 

蓮の言う通り、もう店で働かない人の名札を保管しておく理由も無い。

仕方が無い、後で捨てるか。

そんな事を考えているイチカに対し、蓮は

 

 

「それに」

 

 

と言葉を続ける。

 

 

「今世の別れって訳じゃ無いんだ。また何時でも働きには来れるだろう」

 

 

それを聞いたイチカは、キョトンとした表情を浮かべた後、やれやれと言わんばかりに首を横に振る。

だが、その口元は動作に反して笑みが浮かんでいる。

 

 

「ったく、高校生を扱き使うつもりか」

 

 

「バイトで雇うと言って欲しい。イチカほどの調理の腕前があれば、最低賃金の2倍は出してもいい」

 

 

「それはなかなか興味ある事だが、学園島からバイトの為だけに通えるかっつーの」

 

 

「夏休みとかだけでもいいぞ」

 

 

「……検討しておく」

 

 

イチカはそのまま、最後の空きダンボールに名札を入れる。

それを見た蓮は、フッと微笑を浮かべる。

 

 

「手伝いはいるか?」

 

 

「いらん」

 

 

「そうか。飯でも作って待ってる」

 

 

蓮はそのまま部屋の扉を閉じ、そのまま店の方へと向かって行った。

イチカは扉が閉まった事を確認すると、そのまま荷造りを再開する。

 

 

そうして数十分後。

全ての荷造りを終え、イチカの部屋はかなり殺風景となった。

短い期間だったが、暮らしていた部屋がここまで殺風景になったら少し寂しいと思う感性は流石のイチカでも持っている。

 

 

まぁ、そんなに長い時間思う事は無いのだが。

飯でも作って待ってるという蓮の言葉に従い、イチカは部屋で軽く伸びをしてから店の方に向かう。

 

 

店舗に近付くにつれ、何かを調理している音、そしていい匂いが漂ってきた。

今の今まで荷造りをしていて、イチカも多少は疲労している。

そんな中で料理の匂いを嗅いだら、流石に空腹感を感じ始めて来た。

少し、本当に少しだけ早歩きになる。

 

 

そうしてガチャリ、と住居スペースと店のスペースを区切る扉を開く。

その瞬間に視界に入って来るのは、店のキッチンで調理をしている蓮。

1つのテーブル席の上に並べられた料理に、その席に座ってワイングラスを持って頬を赤くしている真実……

 

 

「おいレックス!アンタ昼間っから酒飲んだのか!?」

 

 

「今日は休みだからなぁ!偶にはいいだろぉ!?」

 

 

酒の影響か、普段から割とテンション高めの真実が更にテンション高く返してくる。

 

 

「確かにアンタは普段酒飲まないがよぉ!飲むとしたら夜だろうが!!」

 

 

「何時酒飲もうと自由だろうが!」

 

 

「それでも自重しろって言ってるんだ!!」

 

 

そう叫んだイチカは、はぁはぁと肩で息をする。

この酔っ払いにはいくら言っても無駄だと理解した。

ため息をつき、視線を蓮に向ける。

 

 

「マスター、なんでレックスに酒飲ませた!あれディナー営業で客にも出すワインだろうが!」

 

 

「良く分かったな」

 

 

「アンタ何回俺をパシッたと思ってんだ。ワイン見て匂い嗅げばどのワインの何年の奴かくらい大体わかる」

 

 

「ワインを給仕をしたり、ましてや飲んだ事も無いのにな。流石だな」

 

 

蓮はフライパンの中でソースと絡めていたパスタを皿に盛り付け、そのまま新しいワイングラスを2つ、そしてペットボトルのコーラを取り出すと真実がいるテーブルに向かって行く。

イチカは半眼を浮かべながらも後を追い、同じ席に付く。

 

 

改めてテーブルの上を見ると、並んでいる料理は中々に豪華だ。

それこそ、イチカはキヨカの誕生日パーティーくらいでしか見たことが無い。

 

 

「……なんだ?これは」

 

 

「料理とワインとコーラだ」

 

 

「んな事は分かる。何でこんな豪華なんだって意味で聞いたんだ」

 

 

「ああ、それは…」

 

 

「イチカの引っ越し祝いに決まってんだろぉお!!」

 

 

蓮の言葉を遮るようにハイテンション真実が言葉を発する。

引っ越し祝いと聞いた瞬間、イチカは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 

「引っ越し祝いは、引っ越しが終わった後だろうが……」

 

 

「別にいいだろぉ!?私はなぁ、悲しいんだぞ!」

 

 

真実はそう言いながら席を立ち、イチカと蓮が反応出来ない程の速度でイチカを抱きしめ、ワシャワシャと頭を撫でる。

 

 

「酔っ払いって面倒くせえなぁ!マスター!なんとかしてくれ!」

 

 

「……料理が冷める。早くなんとかしてくれ!」

 

 

「この裏切り者ぉ!!」

 

 

そこからたっぷり十数分掛け、真実を引きはがしたイチカ。

若干冷めてしまった料理と共に、3人で引っ越し祝いの名を借りたただのホームパーティーを繰り広げた。

なんだかんだで、イチカの口元には笑みが浮かんでいたのだった。

 

 


 

 

翌日。

IS学園の1年生寮。

今此処では、今日から住むイチカの引っ越し作業が行われていた。

 

 

イチカの部屋は907号室という、下の方でも無ければ上の方でもない、尚且つ端の方でもない何とも言えない位置だ。

これは、イチカという世界で1人の男性IS操縦者(貴重なサンプル)が普段暮らす部屋を外部に分かりやすい場所にする訳にはいかなかった学園の(勝手な)判断によるものだ。

この事は説明されていないものの、部屋番号を聞いた途端にイチカは大筋を理解した。

 

 

温泉旅行の際、自分の護衛だと名乗った胡散臭い生徒会長に出会っていたのが大きいかもしれない。

 

 

さて、イチカの引っ越し作業の方は問題無く行われている。

業者を雇っても良かったのだが、業者が学園島に入るための手続きに時間が掛かりそうなので止め、自分で運ぶ事にしたイチカ。

暇そうにしていたという理由で、偶々そこらへんにいた鈴を捕まえ、荷物を運ばせた。

 

 

「ふぅ…終わったな」

 

 

「な、なんで巻き込まれたの…?」

 

 

無事に全てのダンボールを運び終え、イチカは身体を伸ばしながら、鈴は床に突っ伏しながら各々が言葉を漏らす。

 

 

「暇そうにそこらへん歩いてたからな」

 

 

「確かに暇だったけど!巻き込まないでよ!」

 

 

「黙れ」

 

 

「シンプル!?」

 

 

イチカは1番近くに置いてあるダンボールを開け、中からコップを取りだすと、水道水を注ぎ鈴に差し出す。

 

 

「ありがと」

 

 

そのまま受け取り、ゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲み干す。

一瞬にして空になったコップをイチカに返却して、鈴は立ち上がる。

 

 

「じゃ、私そろそろ行くわね」

 

 

その言葉に、イチカが返答しようとしたその瞬間。

 

 

ピーンポーン

 

 

と、部屋のインターホンが来客を知らせる。

なんともタイミングが良いのか悪いのか分からない。

取り敢えず鈴が自分の部屋に帰るのがもう少し先になった事だけが確かだ。

なんとも言えない表情で扉を見つめる。

 

 

「あ?まだ誰にも部屋番号は伝えてない筈だが…」

 

 

イチカはそうボヤくと、固まっている鈴の隣を通り過ぎ、そのまま部屋の扉を開ける。

すると、そこにいたのはタイニーオービット所属の先輩2人。

 

 

「イチカ、引っ越しおめでとう」

 

 

「遊びに来たよぉ!」

 

 

「…なーんで此処にいるんですかねぇ……」

 

 

そう、アミとランである。

部屋の中から2人を見た鈴は

 

 

「誰!?」

 

 

と言わんばかりの表情を浮かべてる中、3人は会話を始める。

 

 

「あ、別に敬語じゃなくて良いよ?」

 

 

「じゃあ遠慮なくそうさせてもらおうか。それで?何故俺がこの部屋だと知っている?誰にも言ってないぞ」

 

 

「ふふふ、私、生徒会の副会長なの」

 

 

「何!?」

 

 

アミの告白に、珍しく本当に動揺したような表情を浮かべるイチカ。

だが、わりと直ぐに受け入れ、何時もの表情に切り替わる。

 

 

「なるほど、だから生徒の情報はある程度把握できると」

 

 

「そう言う事」

 

 

イチカの言葉に、アミがウインクしながら返答する。

普通だったらムカつくだけの動作だが、美人のアミがする事で中々絵になっている。

ここで、イチカは前に気になった事を思い出した。

 

 

「そういえば、あの胡散臭い生徒会長に俺の情報ぺらっぺら喋ったのはお前らか?」

 

 

「ん?楯無に会ったことがあるの?」

 

 

「あー、まぁ、成り行きでな。それで、どうなんだ?」

 

 

「うん!楯無に聞かれたからいろいろ喋ったよ!」

 

 

自信満々に胸を張り、ドヤ顔をしながら言うラン。

イチカは無言で右拳をランに向かって放つも、花咲流真拳空手の使い手で空手部所属のランに通用する筈も無く。

スッと避けられイチカはバランスを崩す。

こけそうになる寸前に堪え、キッとランの事を睨む。

 

 

「他人に俺の情報をベラベラ他人に喋るな!」

 

 

「楯無は他人じゃ無くて友達だよ!」

 

 

「そう言う問題じゃねぇ!!」

 

 

「まぁまぁ、2人とも落ち着いて…」

 

 

「お前もだ!副会長なら会長の言動把握しておけ!」

 

 

「いやぁ~、私は3年生で、楯無ちゃんは会長だけど2年生だから、生徒会の活動以外であまり会わないんだよね…だから、あんまり普段何してるのかとか知らなくて……」

 

 

「生徒会の面々でプライベートで旅行とか行っとけ!」

 

 

「なーんか他メンバーと予定が合わないんだよね…他メンバーが私が知らないなんかの組織の一員だったりして」

 

 

ニコニコのアミとラン。

疲れたような表情を浮かべているイチカ。

そして、ずっと置いてけぼりにされてなんとも言えない表情を浮かべたままの鈴。

 

 

「あ、あのぅ…」

 

 

「あ?」

 

 

ものすっごく話しづらそうにしながら、鈴が口を開き、イチカがぐるりと身体の向きを変える。

 

 

「えっと、その…どちら様で?」

 

 

「ん、ああ…同じタイニーオービット所属の、先輩方だ」

 

 

イチカがスッと身体を横に移動させて、視線でアミとランに合図を送る。

それを見た2人は意図を察し、笑顔で鈴に語り掛ける。

 

 

「初めまして。タイニーオービット所属、IS学園3年生で生徒会副会長の川村アミです。よろしくね」

 

 

「私は花咲ラン!同じくタイニーオービット所属で、空手部!よろしく!」

 

 

「あ、中国国家代表候補生で、イチカの幼馴染の凰鈴音です。よろしくお願いします」

 

 

取り敢えず3人は初対面という事で自己紹介を行い、鈴が軽くお辞儀をする。

2人は鈴の発した「幼馴染」という単語に、驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「えっ、イチカ幼馴染居たの!?」

 

 

「小五で初めて出会った奴の事を幼馴染だと言うのならいた事になる。まぁ、そこらへんは今は如何でも良いんだ。わざわざ引っ越し当日に押し掛けて来て、何の用だ?寮が違うのに来たんだ、ただ単純に引っ越しおめでとうを言いに来た訳じゃ無いんだろう?」

 

 

イチカが壁に寄り掛かり、半眼を作りながら2人に尋ねる。

2人は同時に頷くと、アミが口を開く。

 

 

「模擬戦、やらない?」

 

 

「模擬戦だぁ?」

 

 

無論、イチカは模擬戦という単語の意味が理解出来ない訳では無い。

だが、急に、それも2人同時に誘ってくるという事が理解出来ない。

 

競技でのIS戦闘は1対1、もしくは2対2が基本で、あまり奇数での模擬戦は行われない。

まぁ、総当たりで連戦をするという可能性もある…と言うより、普通だったらそっちの方を思い浮かべるだろう。

 

だけれどもイチカは察していた。

この2人の表情から、何がしたいのかを。

 

 

「…バトロワか?」

 

 

「正解!良く分かったね!」

 

 

イチカの言葉に、ランが笑顔で肯定する。

 

 

「ISでバトロワってあんまないじゃん!?」

 

 

「……まぁ、レックスに見させられた過去の公式試合には無かったな」

 

 

「えっ!?アンタあのレックスさんと知り合いなの!?」

 

 

「その事に言及すると面倒だからお前は黙っろ」

 

 

「酷い!?」

 

 

「で!だから!バトロワ1回やってみたいなって!イチカ、やろうよ!」

 

 

キラッキラの表情で熱く語るラン。

隣でアミは、笑顔を浮かべているがその目の奥には燃え盛る闘争心が渦巻いていた。

それを見たイチカは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「面白い、やってやるよ」

 

 

「決まり!じゃあ明日の13時から第一アリーナだからね!あ、鈴音ちゃんも参加する?」

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

唐突に話題を振られた鈴は驚いたような表情を浮かべるも、直ぐに闘争心を燃やしたような表情になる。

 

 

 

「やります!」

 

 

「ふふふ、分かったわ。じゃあ5人ね」

 

 

「5人?後1人誰かいるのか?」

 

 

「うん、あのトマトジュースっ子がね」

 

 

「ああ……なるほど。アイツ生きてたのか」

 

 

「酷くない?」

 

 

「ここ数年姿見てなかったからな」

 

 

「あー、なるほど」

 

 

またも置いてけぼりの鈴。

それに気付いてか気付かずか、イチカが咳払いと同時にパンパンと手を叩く。

 

 

「取り敢えず今日は解散。あまりにも注目され過ぎてる」

 

 

「「「え?」」」

 

 

イチカのその指摘で、3人は慌てて周囲を確認する。

指摘通り、確かに同じフロアの部屋だったり遠くの曲がり角だったりからそこそこな人数から見られていた。

 

 

「そ、そうだね、今日は解散!じゃあ、イチカ、鈴音ちゃん、明日忘れないでよ!」

 

 

「私もそろそろ帰るね。明日楽しみにしてるね」

 

 

学年の違う2人はイチカが何か反応を示す前に、物凄く素早い動きで帰って行った。

こうして残されたイチカと鈴。

なんとなく話しづらい空気になる中、鈴が口を開く。

 

 

「じゃあ、私も帰るわ」

 

 

「漸くだな」

 

 

「そうね…イチカ!」

 

 

「ん?」

 

 

「この間、付けれなかった決着を付けてやるわ!!」

 

 

鈴はそう宣言し、自分の部屋へと戻っていった。

その背中を見ていたイチカは一言、

 

 

「そう簡単にお前と戦えるとは思えないがな……」

 

 

そう呟くと、未だに向けられている視線にため息をつきながら部屋の中へと戻り、扉を閉めたのだった。

 

 


 

 

翌日。

時刻は13時、第一アリーナ。

 

 

ゴールデンウィーク中、そしてイベントなど開催しないにも関わらず、アリーナの客席は満員御礼だった。

その理由は単純明快で、昨日周囲からバッチリ見られている状態でバトロワ形式で模擬戦をすると言ってしまったからだ。

此処はIS学園。

たった1人の例外の事を考えないのなら、女子高なのである。

 

 

そして華の女子高生の噂の伝達速度は、光もビックリするほどの速度である。

ましてや、イチカがバトロワ形式で先輩と戦うという、何とも興味をそそられる内容なら尚更だ。

その結果として、なんのイベントでも無ければ告知をした訳でも無いのに、観客席が満員になっているのだ。

 

 

観客の視線の先には、ISスーツを身に纏い、手にCCMを握りしめながら立つ4人。

そう、イチカ、鈴、アミ、ランである。

4人の内、1年生2人は一目見ただけで機嫌が悪い事が分かる。

 

 

イチカがイライラしているのは、単純に最後の1人が来ない事と、この模擬戦が無駄に騒がれているからだ。

約束の時間が近付いて来ているのに相手が来ず、しかも無駄に注目されていたら誰だってイライラする。

 

 

だが、鈴は様子がおかしい。

イチカのようにイライラしている素振りを見せるでもなく、視線を動かすでもなく。

ただただ、とある2つの箇所を凝視していた。

 

 

そのとある2つの箇所とは、アミとランの胸元。

ISスーツに窮屈そうに収められた2つの果実が、2人分で4つ。

鈴は、『地獄の破壊神』と言われる所以である攻撃性を、全てそれらに向けていた。

 

 

因みにイチカは()()に何も反応を示さない。

ISを動かせると分かる前から、2人のISスーツ姿を何度も見て来たからだ。

まだ仙道家に馴染んですらいない時や、以前と比べ明らかに果実が成長していた時などでは流石に反応を示した居たものの、名前を変える前と比べて性格が大きく変わった今のイチカなら、もうなんとも思わない。

 

 

特にアミは想い人が居るのを知ってるから、反応を示す訳にはいかない。

 

 

そんな感じで、なにやら鈴のどす黒い感情をイチカ達も察し始めたころ。

 

 

「ごめんごめーん!遅くなったー!!」

 

 

アリーナのピットから、元気そうな声が聞こえてきた。

観客を含めた全員がその方向を向くと、そこに居たのはアミたちと同じくISスーツを着用した人物。

 

 

中性的な顔立ちに、腰辺りまでの長さの綺麗な金髪で、前髪で左眼が少し隠れている。

アミやランと同じようにかなりのスタイルの良さを誇っており、鈴から漏れ出る黒い感情がより一層濃いものになる。

ISスーツなのに、何故か少し勝気そうな黄色の顔文字の缶バッジが付いたキャップを被っている。

 

 

古城(こじょう)アスカ。

IS学園3年生で、アミたちと同じくダイキの昔からの友人である。

タイニーオービットやプロメテウスと同じIS企業である『サイバーランス』所属のIS操縦者。

 

 

まだ学生である身ながら、次回のモンド・グロッソへの出場がほぼほぼ内定状態と言っても過言ではない程の実績を残しているIS操縦者である。

 

 

「アスカ!遅いよ!」

 

 

「あはは、ごめんごめん。トマトジュース飲んでたからさ」

 

 

アミの注意する様な声に、アスカはあっけらかんとした表情を浮かべながら返答する。

ウインクをするその表情は、顔とスタイルの良さと相まって中々絵になっている。

 

 

「って、古城アスカさん!?」

 

 

アスカの胸元の揺れる果実を凝視し過ぎていたためか、ここに来て漸くその顔を認識した鈴。

 

 

「イチカ、アンタレックスさんだけじゃ無くて古城アスカさんとも知り合いなの!?」

 

 

「俺というより兄さんの知り合いだ。っていうか、知ってるんだな」

 

 

「代表候補生だったら誰でも知ってるくらいの有名人よ!」

 

 

「ほぉ~、知らなかった」

 

 

「おっ、イチカー!!」

 

 

鈴とイチカがそんな会話をしていると、アスカが右手を振りながら近付いてきた。

イチカは軽く頭を動かして反応を示し、鈴は有名人が目の前にいる事に対する緊張が半分、歩く度に揺れるものに対する憎悪半分の表情を浮かべていた。

 

 

「久しぶりだなぁイチカ!元気してたか?」

 

 

「まぁそこそこ。こんな状況になって、いろいろ疲れてるけどな。アンタは…無駄に元気そうだな」

 

 

「無駄って言うな!」

 

 

「まぁ、そこは如何だっていいんだ。本当に久しぶりだな。2、3年ぶりくらいか」

 

 

「それくらいそれくらい。いやぁ、あんなに小っちゃかったのに今やこんなに高くなって…」

 

 

「親戚のおっさんかお前は!」

 

 

イチカのツッコミに、アスカはカラカラと笑い声をあげる。

 

 

何故なのだろうか。

アスカが先輩だというのは分かり切っている事だし、観客の目もある。

普通だったら敬語を使うべき場面だ。

それなのにも関わらず、イチカは最初っからため口だ。

 

 

特にアスカも気にしたようなそぶりを見せない為問題は無い。

だが、イチカは普段から表面上だけでも取り繕うように心掛けているのにも関わらず、自然とため口になった事に驚いていた。

中学生時代のアスカを男子に間違えてしまった過去が、そうさせてしまったのだろうか。

 

 

そんなイチカの内心など露知らず、アスカは初対面の鈴の目の前にやって来る。

 

 

「俺は古城アスカ!よろしく!」

 

 

「あ、ふぁ、凰鈴音です。よ、よろしくお願いします…」

 

 

アスカは俺っ娘だ。

先程も触れたが、中学時代のアスカは初対面の相手には100%性別を間違えられる程中性的…というか、少年の様だった。

その時は一人称が俺でも特に違和感無かったのだが、スタイルも良くなり、所謂女性らしさというものが出て来た今、その口調で喋られると如何も違和感を感じてしまう。

 

 

別に喋り方は個人の自由なので、特に誰も何も言わないが。

此処で、ランがパンパンと手を叩き合わせる。

 

 

「じゃあ、時間だし模擬戦始めようよ!」

 

 

「ああ、これ以上ダラダラしてても無駄だからな」

 

 

ランの言葉に、イチカが頷いて答える。

5人は等間隔で円を作り、円の中央に視線を向ける。

 

 

合図があった訳では無い。

だが、全員が同時にその手に持つCCMを開き、各々の機体を展開する。

 

 

ピ、ピ、ピ

 

 

「ジョーカー!」

 

 

「ハカイオー!」

 

 

「パンドラ!」

 

 

「ミネルバ!」

 

 

「ヴァンパイアキャット!」

 

 

イチカが身に纏うは、名の通りトランプのジョーカーを思わせる笑みが張り付いた黒のIS、ジョーカー。

その手に握るは大鎌「ジョーカーズソウル」

 

 

鈴が身に纏うは、胸部に巨大な砲口を備えたライオンのヘッドパーツを持つIS、ハカイオー。

その手に握るはノコギリ状の刃を持つヘビーソード「破岩刃」

 

 

アミが身に纏うは、スタイリッシュな外観に、赤主体のカラーリング、後頭部の5つの紫のクリアカラーのパーツ、腰のスタビライザーが特徴的なIS、パンドラ。

その手に握るはビームダガー「ホープ・エッジ」

 

 

ランが身に纏うは、細身でピンクがメインカラー、大きな耳にも見えるヘッドパーツが特徴的なIS、ミネルバ。

その手に握るは、手甲も兼ねたクローナックル「ミネルバクロー」

 

 

アスカが身に纏うは、まるで被り物のような形の猫の頭部、鋭い目つきに吸血鬼のような胴体という、特徴的過ぎる外見のIS、ヴィアンパイアキャット。

その手に握るは三又の槍「トリプルヘッドスピアー」

 

 

5人各々が自らの武装を構え、戦闘体勢に入る。

全員が地面に足を付けているあたり、以前のイチカと鈴の模擬戦のように地上戦メインで、という事なのだろう。

 

 

「管制室、開始の合図を」

 

 

『はい。それでは、仙道イチカ対凰鈴音対川村アミ対花咲ラン対古城アスカ。模擬戦……開始!!』

 

 

「「「「「ッ!!」」」」」

 

 

開始の合図と同時、全員が行動を開始する。

 

 

先ず最初に飛び出したのは、この中で速度1位、2位を争う速度の持ち主であるジョーカーとパンドラだ。

双方理解している。

自分の実力を最大限活用するには、速度で確実に他より優位を取る必要がある。

だからこそ、最初に倒すべき存在は……

 

 

「アンタを潰す!」

 

 

「そうは行かないわ!」

 

 

ガキィィイイイイン!!

 

 

ジョーカーとパンドラが同時に跳躍し、空中でジョーカーズソウルとホープ・エッジがぶつかり合い、音が鳴ると共に火花が散る。

 

 

そんな2機の下をくぐって、ミネルバが走る。

 

 

「ハァアアアアアア!!」

 

 

ジョーカーとパンドラ程では無いが、細身であるミネルバも十分に素早く動く事が出来る。

一瞬にしてハカイオーに近付くと、足を振り上げ踵落としの体勢を取る。

 

 

「っ!!」

 

 

当然、ハカイオーもそれに反応する。

落とされる踵に向かって、破岩刃で攻撃する。

 

 

ガキィン!!

 

 

ミネルバの装甲の一部は、そのまま武装となるほどの強度を誇り、只振るっただけの破岩刃程度では傷1つつかない。

 

 

「ぐ、ぐぅううう!?」

 

 

そして、振り上げる攻撃よりも振り下げる攻撃の方が運動エネルギーが付くだけ威力が高くなる。

搭乗者のランの空手の実力、そしてミネルバの細身からは想像できない火力も相まって、蹴りとヘビーソードがぶつかり合ってるのにも関わらず、ハカイオーが少し押されている。

 

 

「せぇい!」

 

 

「ぬぁあ!?」

 

 

ミネルバは破岩刃を蹴り、空中で1回転しながら地面に着地すると、低い角度からミネルバクローによるアッパー攻撃を行う。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

顔面にモロにくらってしまったハカイオー。

だが、ただ攻撃を受けた訳ではない。

持ち味であるパワーを生かし、弾かれた破岩刃を無理矢理構えなおすとそのままの勢いでアッパー直後の一瞬の隙を付き、その胴体に破岩刃を振るう。

勿論ミネルバもそれに気が付き、出来る限り威力と衝撃を殺せるような体勢に移ろうとした、その瞬間。

 

 

「触れれば鬼をも殺す!トリプルヘッドスピアー!!」

 

 

離れた場所に立っていたヴァンパイアキャットが地面を蹴り、一瞬にして近付くと、ハカイオーとミネルバに向かってトリプルヘッドスピアーを刺突する。

 

 

「っ!?」

 

 

「危なっ!?」

 

 

わざわざご丁寧に口上を言ってくれたので、かなり早めに反応出来たが、それでもなおその攻撃を完全に避けるのは難しく。

ハカイオーは破岩刃を遠くの方に弾き飛ばされてしまい、ミネルバは足に掠ってしまう。

ヴァンパイアキャットはそのまま武器を無くし、重量級のハカイオーに的を絞り、連続で攻撃を行う。

 

 

一撃、二撃、三撃。

正面からの攻撃な為、先程の攻撃に比べると幾分か避けやすいものの、それでもギリギリの回避である事に変わりはない。

このままではいずれ、壁際に追いやられ回避が出来なくなってしまう。

破岩刃を弾き飛ばされてしまい、ハカイオーは素手。

抵抗手段は無い……訳では無い。

 

 

「必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!我王砲(ガオーキャノン)!!》

 

 

ハカイオーは我王砲を発動。

極太のビームが目の前にいるヴァンパイアキャットに向かって放たれる。

 

 

このタイミングで我王砲を撃たなければ、遅かれ早かれ敗北する。

だからこそ、前後に一瞬動けなくなるリスクを取ってでも、このタイミングで放った。

 

 

「っ!!」

 

 

途中で中断されてしまったとはいえ、鈴は以前のクラス対抗戦で全校生徒の前で戦闘を行っており、その際に我王砲を使用している。

威力の高さはアスカも承知済みだ。

このまま押し込めばトリプルヘッドスピアーの高威力の攻撃を強引に当て、ハカイオーに大ダメージを与えられるだろう。

だが、その場合我王砲をくらってしまうリスクも高まる。

ハカイオーへのダメージを優先するか、自分の安全を優先するか。

 

 

アスカが取った選択は……

 

 

「チィっ!?」

 

 

回避だった。

攻撃を中断し、トリプルヘッドスピアーを地面に突き刺しそれを軸にしながら横に大きく跳躍し、我王砲をギリギリで回避する。

その直後、我王砲の影響で動けないハカイオーに向かって攻撃をしようとしたが、

 

 

「オラァ!!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

ガァン!!

 

 

先程からずっと黙っていたミネルバが真横から奇襲した。

ヴァンパイアキャットはそれに対応するも、完全にハカイオーへの攻撃体勢を取っていた為、完璧には受けきれなかった。

そして、ミネルバは槍の間合いの内側に潜り込むことに成功した。

こうなったらミネルバのターンだ。

 

 

「ハァ!トァ!シェア!」

 

 

「ぐっ!?くぅ!?」

 

 

ガキィン!ガキィン!ゴキィン!

 

 

ミネルバクローによる連続攻撃は、ジリジリとヴァンパイアキャットにダメージを与えていく。

だが、ヴァンパイアキャットもただただ回避行動を取っている訳では無い。

確実に反撃が出来る機会を伺っていた。

 

 

(今……!!)

 

 

その機会が着た瞬間、多少の反撃など覚悟のうえでトリプルヘッドスピアーで攻撃の構えを一瞬で取り、そのままの勢いで前に突き出す。

ミネルバも当然それに気が付き、それに対応する姿勢を取ろうとした、その瞬間。

 

 

「どっせぇええええい!!」

 

 

「「っ!!」」

 

 

弾き飛ばされた破岩刃を回収したハカイオーがミネルバとヴァンパイアキャットに向かって、勢いのまま破岩刃を横なぎに振るう。

2人は直前に気が付き、各々が取っていた行動を中断。

ミネルバは跳躍する事で、ヴァンパイアキャットはその場に伏せる事によって破岩刃による攻撃を回避。

二撃目が来る前に、ハカイオーから距離を取る。

 

 

「「「……」」」

 

 

ハカイオー、ミネルバ、ヴァンパイアキャットは、正三角形の頂点の位置に立ち、各々の武装を構えながら互いに牽制し合っている。

だが、3人とも分かっている筈なのに、思考から抜け落ちていた。

このバトルロワイヤル、参加者は3人ではなく5人である。

 

 

「ハッハハハ!!」

 

 

ガキィィイイイイン!!ガキィィイイイイン!!ガキィィイイイイン!!

 

 

「「「うわぁあ!?」」」

 

 

突如、上空から3体に分身したジョーカーABCが3人の背後に着地。

それと同時、落下の加速度エネルギーを乗せたジョーカーズソウルの攻撃で装甲で切り裂いた。

この模擬戦初のクリティカルヒットの攻撃は、3人のSEを大きく削る。

 

 

「待ちなさい!」

 

 

先程までジョーカーと斬り合っていたパンドラもワンテンポ遅れる形でやって来、そのままの勢いでジョーカーAに攻撃をする。

 

 

「当たる訳が無いんだなぁ!」

 

 

イチカのその声と同時、ジョーカーABC全てが同時に跳躍。

空中で1体に戻ると、そのまま空中を蹴り、ハカイオーの方向へと突っ込んでいく。

 

 

「こっちくんな!」

 

 

「そういう訳にはいかないんでねぇ!」

 

 

破岩刃の攻撃を躱し、ハカイオーの背後にまわる。

すると、ハカイオーの事を蹴り上げ、ジョーカーを追ってきたパンドラにぶつける。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「ぬわぁ!?」

 

 

ハカイオーとパンドラは同時に転がっていく。

それを確認しつつ、ジョーカーがミネルバのいた方向を確認すると、

 

 

「必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!炎崩(ホムラクズ)し!!》

 

 

ミネルバは必殺ファンクションである炎崩しを発動し、ジョーカーに突っ込んで来ていた。

 

 

炎崩しは、両手のミネルバクローに熱を持たせ、右手で相手の装甲を貫き行動を封じると、そのまま右手毎相手を火球で飲み込み、右手を引き抜くと同時左手でのアッパーで一気に相手のSEを削り取る技である。

一度囚われてしまっては、抜け出すことはほぼ不可能。

我王砲に比べ、威力は低いものの、当てやすさは確実にこちらの方が上。

 

 

「チィッ!!」

 

 

真実にISを教わった際、教材としてイチカはアミとランの模擬戦を見ている。

炎崩しに関しては、完全初見という訳では無い。

知っている、この攻撃に飲み込まれてはいけない事を。

 

 

ジョーカーは再び3機に分身をしつつ、思いっきり背後に飛ぶ事で、ランの一瞬の驚きや躊躇を生み、炎崩しを回避する。

ジョーカーAが足先を掠ってしまったが、この程度何も問題ではない。

 

 

「さぁ、どれが本物かなぁ!?」

 

 

イチカの高笑いがどれかから聞こえて来る。

ジョーカーAはミネルバに、ジョーカーBはハカイオーに、ジョーカーCはパンドラに向かって行く。

だが、攻撃はせず周囲を猛スピードで移動しているだけだ。

 

 

「あああ!もう!これどーなってんのよ!?どれが本体!?」

 

 

鈴のイライラしたような声と同時に、ハカイオーが破岩刃を振り回すも、雑な攻撃がジョーカーに通用するわけが無い。

 

 

未だに鈴はジョーカーの分身の魔術のタネを理解しきれていない様だ。

混乱したまま、目の前にいるジョーカーBに攻撃を繰り出している。

 

 

そんなハカイオーと対照的に、ミネルバとパンドラは3機のジョーカー全ての動きを確認しながらも、攻撃をする事はせずただ一定の距離を保っていた。

同じタイニーオービット所属なので、ジョーカーがどういった仕組みで分身しているのかは理解している。

だからといって、馬鹿正直に正面から殴り掛かっても絶対に勝てないので、タイミングを伺っているのだ。

 

 

ジョーカーABCはそのまま空中を蹴りアリーナを駆けまわり、各々が対峙していた相手もシャッフルする。

それにより鈴は余計に頭がこんがらがり始め、アミとランも流石に状況の把握がだんだんと追いつかなくなってくる。

 

 

そんな中、場を混乱させている側のジョーカー。

その薄ら笑いを浮かべるフェイスパーツとは対照的に、イチカは怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

 

(なんだ?何か胸騒ぎがする……)

 

 

アリーナの空中を蹴り、駆け巡りながらイチカは思考を続ける。

 

 

(鈴達が特に何かを企んでいるという感じは無い…だが、なんだ?何かを思考から零してしまっているような…………!!)

 

 

そこまで考えて、イチカは思い出した。

この模擬戦は、自分を含めて5人。

ジョーカーは分身を含めて3体、そしてジョーカーと戦っているのも、3体。

ジョーカーをイチカ1人と考えた場合、今戦闘しているのは4人。

1人たりない。

 

 

「くっ……!?」

 

 

ジョーカーABCは慌ててアリーナを駆けるのを中断。

大きく飛び上がり空中で1体に戻ろうとするも……

 

 

「必殺ファンクション!!」

 

 

《アタックファンクション!デビルソウル!!》

 

 

気が付くのが遅かった。

このどさくさにまぎれ、ずっと気配を消していたヴァンパイアキャットが必殺ファンクションを発動した。

 

 

周囲が雷走る紫雲に包まれる中、トリプルヘッドスピアーを地面に突き立てる。

すると、トリプルヘッドスピアーは発光し、その光が地面に吸い込まれていくと同時に、紫の巨大な魔法陣が周囲に展開される。

 

 

「うえっ!?」

 

 

「しまった!?」

 

 

「くっ!?」

 

 

急にジョーカーが動きを変えた理由を、ハカイオー達は漸く気が付くも、もうここまで来て完全回避は不可能だ。

 

 

ヴァンパイアキャットが右腕を天に掲げると同時、魔法陣から紫電と共に紫色のエネルギーが溢れ出て来る。

そのエネルギーは収束すると、とある形を作り出す。

あまりにも巨大すぎるサイズ、同じく巨大な翼、紫の中でオレンジに光り注目を引き付ける、鋭い目にギザギザの口。

それは、あまりにも悪魔だった。

 

 

ヴァンパイアキャットが腕を身体の前でクロスし、一気に横に開くと、聳え立つ悪魔も同じ動作をする。

それと同時、3体の小さい悪魔が出現。

ジョーカーたちに向かって行く。

 

 

ジョーカーは1体に戻り、ヴァンパイアキャットを除く全員が防御態勢をとるも、小さい悪魔たちが地面に着地すると同時に大爆発。

4人全員を飲み込んだ。

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

紫色の炎と黒煙が発生。

アリーナを飲み込む。

 

 

その黒煙が晴れた時、

 

 

シィィィィィィン……パパパァン!!

 

 

ハカイオー、ミネルバ、パンドラの3機が地面に倒れ伏し、全身が一瞬青白く発光し弾け飛ぶような音と共に青い粒子を散らす。

SE切れの合図だ。

 

 

だが、足りない。

あと1人分。

 

 

それを認識した瞬間、ヴァンパイアキャットは周囲を確認。

そして気が付く。

自分の真上。

ボロボロに刃こぼれした鎌を自分に向かって振り下ろそうとする、薄ら笑いを浮かべる道化師の存在に。

 

 

「っ!!」

 

 

ヴァンパイアキャットはすぐさま地面に突き立てていたトリプルヘッドスピアーを回収。

そのまま頭上のジョーカーに向かって突き出す。

 

 

ガキィン!!

 

 

ジョーカーズソウルとトリプルヘッドスピアーがぶつかり合い、甲高い音が響く。

 

 

「不意打ちだったのに、あれで決まらないか!!」

 

 

「ハッ!舐めて貰っちゃ困るんでねぇ!!」

 

 

ビシィ!

 

 

ジョーカーズソウルに走っている罅が更に大きくなり、ジョーカーは地面を蹴り大きく後退する。

 

 

(チッ!これ以上は本体もジョーカーズソウルも持たねぇ……しょうがねぇ、ジョーカー(二面性)らしく、一か八かに賭けるしかねぇ!)

 

 

そう覚悟を決めた時、ジョーカーが描いた軌跡を追うようにヴァンパイアキャットが走り出し、大きく跳躍する。

ジョーカーとは違い、SEにもまだまだ余裕がありトリプルヘッドスピアーの限界も近くない。

そして、上から突き刺すこの攻撃は、掠る程度でも今のジョーカーには致命傷だ。

だからといって、ここで安易な回避をしてもこれ以上戦闘をする余力は無い。

 

 

つまり、空中にいるという攻撃しやすい今、反撃を行うしかない。

 

 

「必ファンクション!」

 

 

《アタックファンクション!デスサイズハリケーン!!》

 

 

ジョーカーは必殺ファンクションを発動。

ジョーカーズソウルにエネルギーが集約、軌跡を描きながら回転し、大きく跳躍。

地面に叩き付け、紫の巨大な竜巻を発生させると、そのままヴァンパイアキャットに向かわせていく。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

竜巻がヴァンパイアキャットを飲み込んだ。

流石に、真正面からデスサイズハリケーンを受ければ無事ではいられない。

イチカは集中を削がないようにしながらも、フェイスパーツの下で笑みを浮かべる。

その直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カァアアアアアン!!

 

 

シィィィィィィン……パァン!!

 

 

突如として飛んできたトリプルヘッドスピアーが右肩に直撃。

反応出来なかったジョーカーはそのまま後ろに吹っ飛んでしまい、丁度SEが切れた。

 

 

『そこまで!ハカイオー、ミネルバ、パンドラ、ジョーカーSEエンプティ!勝者、古城アスカ!!』

 

 

『わぁあああああああ!!』

 

 

「へへ、やったぜ!」

 

 

模擬戦終了のアナウンスと同時に、今までリアクションしなかった観客が一斉に歓声を上げ、アスカが嬉しそうな声を発する。

デスサイズハリケーンが直撃したものの、ヴァンパイアキャットのSEはギリギリ残っていたのだ。

 

 

「クッソ…決まったと思ったんだが…」

 

 

「へへ、まだ1年には負けらんねーからな!」

 

 

ISを解除し、寝ころんでいるイチカに、同じく解除したアスカが手を差し出す。

素直にその手を握り、立ち上がる。

 

 

「次は負けない」

 

 

「何時でも勝負してやる!強くなったら掛かってこい!」

 

 

「ああ、そうさせてもらおう」

 

 

アスカはニシシと笑い、イチカも悔しそうにしているものの、口元には笑みを浮かべている。

なんだかんだで、2人とも強い相手と戦うのが好きなようだ。

 

 

「強くなるなら、トマトジュース飲まないとな!」

 

 

「いらん。お前が飲んでろ」

 

 

「なんでだよ!飲もうぜ!」

 

 

「うるせぇ」

 

 

そんな漫才をしていると、鈴達も各々のISを解除しイチカ達に近付いて来る。

 

 

「負けたぁ!」

 

 

「くぅ、まさか必殺ファンクションがあんなに強いとは…!!」

 

 

ランと鈴は順に悔しそうな声を発する。

アミはニコニコの笑顔でアスカの前に立ち、

 

 

「アスカ、やっぱり強いね」

 

 

「とーぜんだぜ!」

 

 

「……次は勝つから」

 

 

「おう、何時でも来い!」

 

 

アスカは基本、模擬戦を断らない。

その後、鈴とランとも再戦の約束をし、5人全員で拳を打ち付けてから、各々のピットに帰って行った。

 

 

観客の拍手は、暫くの間続いたのであった。

 

 


 

 

数十分後。

イチカはISスーツから制服に着替え、学園の整備室に向かっていた。

先程の模擬戦でボコボコにされたジョーカー。

ジョーカーズソウルに関しては確実にタイニーオービットから予備を送ってもらう必要があるが、ジョーカー本体に何処までダメージが来ているのか調べる必要がある。

特に問題無いのか、パーツを送ってもらう必要があるのか、はたまたタイニーオービットに行く必要があるのか。

 

 

それの判断くらいはイチカでも出来るので、こうして向かっているのだ。

 

 

(…なんか居るなぁ)

 

 

その道中、不意にイチカは視線を感じた。

 

 

(あの馬鹿2人では無い…アイツ等だったら陰からこそこそ見るだなんて事は絶対にしない……どちらかというと、あの胡散臭い生徒会長に近いか?だが、あの時と違って足音が目立つ…)

 

 

歩きながら思考を続けるも、どうにも正体に辿り着けない。

もう少しで整備室に到着するが、中に入ってからいろいろやられると、ジョーカーがダメージを負っている今、流石のイチカでも対処が難しい。

となれば、今ここで対処するしかない。

 

 

「さっきから俺を後ろから付けている奴」

 

 

イチカは振り向きながら、そう言葉を発する。

その人物は咄嗟に曲がり角に隠れるも、肩が出てる。

 

 

「肩が出てるからバレバレだぞ。何の用だ?敵対するなら容赦はしないが」

 

 

「ま、待って!そ、そそそ、そんな気は無い……」

 

 

途中で声のボリュームが明らかに小さくなる。

その事にイチカが首を捻ると、曲がり角から1人の生徒が姿を現した。

 

 

「お前……」

 

 

イチカは自然と呟いていた。

楯無と似た髪色を確認したからだ。

だが楯無では無い。

あの一瞬しか会ったことが無いが、分かる。

胡散臭い生徒会長は、絶対にこんなビクビクした態度を他人に見せないと。

 

 

「誰だ?そして、俺に何の用だ?」

 

 

「わ、私は……」

 

 

その人物はパクパクと口を開いて閉じを繰り返す。

数舜後、少しだけ覚悟を決めたような表情を浮かべると、漸く言葉を発した。

 

 

「私の名前は、更識簪。お、おしえて、あなたの強さの秘密を」

 

 

と……

 

 

 




次回予告

突如としてイチカの目の前に現れた少女、更識簪。
イチカの強さの秘訣を教えて欲しいと懇願する。
何故そういった事を聞いたのか、そして、それに対するイチカの返答は……

「つまんないねぇ、なんでそうなっちゃうのかなぁ?」

次回、IS~箱の中の魔術師~『GWⅣ 強さが欲しい少女と魔術師』、見てね!
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