かなりゆっくりめな更新になるとお伝えしていましたが、まさか半年も更新が止まってしまうとは…
最近、執筆スピードが以前と比べて格段に落ちたと感じています。
なんとか元に戻さなくては…
IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!
「私の名前は、更識簪。お、おしえて、あなたの強さの秘密を」
ゴールデンウィーク真っただ中。
バトルロワイヤル方式での模擬戦後、ジョーカーの調子を見ておこうと整備室に向かうイチカは、後ろをつけられている事に気が付いた。
立ち止まり、少しきつめの口調で問いかけると、つけていた人物はあっさりと姿を現したのだ。
(更識簪……更識だと?あの胡散臭い生徒会長と同じ苗字…髪色とかが似ている点を含めて考えると、やはり身内…リボンの色的に同学年…妹か?)
つけていた人物…簪の事をマジマジと観察しながら、イチカは思考を巡らせる。
(生徒会長は、俺の護衛だとかふざけたことを言っていた…という事は、護衛対象の顔を見に来た?いや、それは無い。生徒会長だって、俺が指摘しなかったら出てこなかったし、そもそもにしてこういう場面で護衛が護衛対象に接触しないだろう)
「あ、あのぉ…?」
(って事は、もしや知らない?という事は身内じゃない?それとも、身内だが情報共有をしていない?)
「えっと、そのぉ…」
(そもそもにして、生徒会長が何故俺の護衛をする事になってる?この間は途中で考えるのを止めてしまったが…親近者も含めての調査をFOOLあたりに頼むしかないか…)
「あのっ!!」
「っ…ああ、すまない。初対面なのに放置してしまったな」
いくらイチカでも、1人で考え込んで相手を放置するのが失礼に値するという事くらい理解している。
特に初対面の相手では尚更。
そして、初対面や目上の人には表面を取り繕うのだ。
まぁ、正直にいって入学から1ヶ月経ち、
思考の海から現実に帰還したイチカ。
改めて簪の事を見る。
「それで…俺に何か用か?記憶違いでなければ、俺とアンタは初対面の筈だが」
「あ、はい、その……初対面で、間違い、無いです…」
「あ?」
どんどんと小さくなっていく声。
最後の方はもはや聞き取れなかった。
イチカは反射的に聞き返してしまった。
「ひぅ!?」
イチカに他意は無かったのだが、普段からの癖で威圧的になってしまった。
簪はビクっと肩を震わせる。
「ああ、すまん。脅す気は無かった」
(クッソ、滅茶苦茶にやり辛い…調子狂うな…)
調子を狂わされる人物が最近多くなってくる事に危機感を覚えつつ、簪を放置しない程度に再び思考を巡らせる。
(なんだ、あまりにも生徒会長と性格が違い過ぎるぞ…だが、う~ん……駄目だ。分からん。話を聞く必要がある)
「改めて、俺に何か用?」
今のイチカに出来る限界ギリギリの優しい声色で簪に声を掛ける。
名前と顔以外の情報が無いこの状況、なるべく会話で情報を引き出す必要がある。
これまでのやり取りで簪がそこそこ内気な性格であると理解し、なるべく警戒心を薄めてもらおうという作戦だ。
(向こうからちょっかい掛けて来たとはいえ、この性格だと威圧的に対応してたら、逃げられる…兎にも角にも情報が欲しい今、この対応がベスト…はぁ、だる)
イチカは心底面倒くさそうにため息を心の中でつく。
イチカの言葉から数秒後。
簪は覚悟を決めたような表情を浮かべる。
「私に、あなたの強さの秘訣を、教えて」
(さっきと何ら変わらないじゃないか。何故こんなにも間があったんだ?面倒くせぇ)
「……まぁ、要件は分かった。だが、それより先にジョーカーの調整をしてしまいたい。問題無いか?」
内心で毒づきながらも、手に持っているCCMを簪に見せる。
「あ、え、う、うん。大丈夫…です」
簪はやけに整備室の中を気にしている素振りを見せながら頷く。
(中になんかあるのか?まぁ、如何でも良いか……)
「取り敢えず待っててくれ」
イチカは一先ず考える事を止め、ジョーカーの整備に全力を注ぐ。
整備室に入り、CCMを操作。
ジョーカー、並びにジョーカーズソウルを整備台の上に展開し、作業を開始する。
「う~ん、まぁ、ジョーカーズソウルは予備と交換するしか無いな……本体の方は……出来るだけ早いうちにタイニーオービットに持っていった方が良いな」
イチカは整備士ではない。
ジョーカーの状況の確認と、簡易メンテナンス程度だったら問題無く出来るのだが、修理となると流石に難しい。
ブツブツと呟きながら修理の必要な個所を挙げ、リストに纏めていくイチカ。
その作業の様子を、待っててくれと言われたが、あまりにも手持無沙汰になってしまうため整備室内に入って来た簪は見ていた。
(すごい…1人であんなに早く……それに比べて、私は……)
表情を曇らせ、若干俯く簪。
そのまま数分後。
「取り敢えず終わりか…」
簡易チェックとリストアップだけだったので、イチカが出来る事は無くなった。
ジョーカーとジョーカーズソウルをCCMに戻し、タイニーオービットのキリトに連絡を入れる。
数回のやり取りの後、出来るだけ早い方が良いとの事で明日タイニーオービットに行く事になった。
そのため今日の内に外出届を出さないといけなくなり、やる事が1つ増えてしまったが、これから行わなきゃいけない話は、恐らくそれ以上に面倒なので、まぁ良いかと片付ける。
ずっと同じ体勢だったので、バキバキと背骨を鳴らしながら立ち上がり、軽く伸びをするイチカ。
すると、ずっとイチカの事を見ていた簪と目が合った。
「…ずっと立ってたのか?座っても良かっただろう」
「え?いや、その…待ってろって言われたのに、勝手に入って来たのは私だし…」
「それくらい気にしなくて良いだろ……」
(なんだ?異常なくらいに自信がない…否、自己評価が低い?強さの秘密…何かしらのコンプレックス?外出届以外にもう予定はないし、ゆっくり話を聞いて判断するか)
他人に対して、余程の事が無ければどうでもいいと興味すら示さないイチカ。
初対面の相手、しかもまだほとんど会話していないに等しい簪に対して、ここまでいろいろと思考を巡らせるのは……一種の心配をするのは、本当に珍しい。
それ程までに、簪の纏う雰囲気に思うところがあるようだ。
「さて、こちらのやる事は終わった。取り敢えず何処か落ち着けるところ…に……?」
改めて簪を見ながら言ったイチカのその言葉は途中で途切れた。
さっきから簪の視線が整備室の奥の方にチラチラと向けられていたからだ。
そう言えばさっきも整備室内の様子を気にしていたような気がする。
(もしかしなくても、なんかあんだろ此処に)
刹那の時間も無く、大筋を把握したイチカ。
簪の『お願い!気が付かないで!!』という声が聞こえてきそうな表情を浮かべている。
出会って数時間も経ってないのに、何故想像できるのかを疑問に感じながら、イチカは行動を開始する。
「あ?さっきからあっち見て…なんかあんのか?」
あたかも今気が付きましたという演技をしながら振り返る。
あまりにもコッテコテな演技に自分で苦笑を浮かべているが、簪は気が付いていない。
「えっ!?いや、あの、その!待って!!」
簪がとても慌てた様子で静止を掛けて来るが、イチカが歩き出す方が早い。
視線から推測するに、そこそこ奥の方だ。
肩を掴まれるなどの物理的阻害を受ける前に、サクサクと進んで行く。
イチカと簪は、どう考えてもイチカの方が体格がいい。
その為、1歩にも小さくはない差が存在する。
簪に追いつかれること無く、無事奥の方に到達したイチカ。
さてさて、何があるのかと周囲を見回す……までも無く。
見つけた。
「IS……」
整備台の上。
そこに1台のISが鎮座していた。
いや、『1台』とカウントして良いのかは、正確には良く分からない。
目の前にあるのは間違いなくISなのだが……どう考えても4割程度しか組み上げられていない、いわば未完成品の状態なのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
簪がイチカに追いついた。
(何故この距離で息切れする……いや、それよりも、だ。このISが、俺に話し掛けて来る原因で、間違いなさそうだな……)
「あっ…あの、その……」
イチカがISを見た事を理解した簪は、視線を泳がせる。
流石のイチカもなんて声を掛けようか迷い、整備室を沈黙が支配する。
未完成のISが、何処か寂しそうに足元の2人を見下ろしていた。
~~~~~
「ほら、珈琲だ。自販機で買った缶の奴だがな」
「あ、ありがとう……」
イチカが差し出した缶珈琲を素直に受け取る簪。
遠慮がちにプルタブを開け、中身を飲む。
イチカも簪の向かいに座り、自分の分の珈琲を飲む。
先程の沈黙を打ち破ったのはイチカ。
一先ず空気をリセットしようと、苦し紛れに珈琲でも飲まないかと提案したところ、簪はそれを了承。
イチカが一番近い自販機に2人分の珈琲を買いに行ったという訳だ。
場所は変わらず整備室で、未完成のIS前。
2人が腰かけるのは、椅子ではなく整備室備え付けの足場。
座る事を推奨されている訳では無いが、まぁ座っても特に問題無いもの。
場所を移動しなかったのも、イチカの判断だ。
この未完成のIS以外、此処に整備途中のISは無い。
本日はGWだが、ラウンジなどには行けるし、食堂もやってる。
だが、人の多い場所で話すのは恐らく不適切だろうと判断し。
寮の部屋といったプライバシーが確保されている場所だったとしても、移動する際に他人に見られない自信がない。
別に見られるだけだったら特に問題無いのだが、イチカはこの1ヶ月で理解した。
自分以外の生徒全員が思春期女子で構成されているこのIS学園では。
噂の伝達速度は尋常ではなく、また尾びれ背びれが付きまくるのだ。
そんな状況では、噂になる事すら避けたい。
その為、移動しない事が最適解だと判断したのだ。
もう直ぐ2人とも珈琲を飲み終えてしまうが、どちらも話を切り出せなかった。
普段のイチカなら『まどろっこしいのは面倒くせぇ』とさっさと無理矢理にでも話を進めるのだが、簪相手ではどうもそれが出来ない。
少しでも間違った触れ方をしてしまったら、壊れてしまう。
そして、正しい触り方が分からない。
説明書無しで初見のプラモデルの製作は出来ない。
規模やら壊れてしまうものの重さとか、いろいろと違い過ぎるが、イチカが直感で感じ取ったものと、根本的な理屈は同じだった。
一度空気をリセットしたから。
せざるを得なかったが故の、やり辛さ。
「……俺の名前は仙道イチカ」
「っ!?」
それを解消する為、イチカが重たい口を漸く開いた。
「年齢は15、家族構成は父母自分妹の計4人、趣味は特になし、特技は一応家事とタロット」
「……?」
イチカが喋る内容は、ただの自己紹介だ。
裏も何もない、自己紹介。
「本来は一般の全日制高校に進学予定だったが、何の因果か両親の勤務先に行った際誤ってISに触れてしまい、それが何故か起動した事でISを動かせると分かり、IS学園に入学する事に」
「……」
名を尋ねるなら、まず自分の名を名乗れ。
このあまりにも有名なフレーズは、今のこの状況を打破する切り札だった。
この短時間で、簪の性格については完全とはいえなくても、大筋は理解した。
恐らく、そこそこのあがり症で緊張しやすい。
対人恐怖症とまではいかないが、少々パニックに陥りやすい。
その原因を、イチカは相手の事を何も知らないからだと推測した。
だからこそ、先ずは自己紹介をする事で警戒心を下げてもらい。
ついでに日本人特有思考の「相手がしたんだから自分もしないと」に訴えるのだ。
「いろんな国や企業がこぞって俺を解剖したがったり、データを欲しがったり、その関係で計測機器をどっさり搭載した専用機を与えようとしてきたが、タイニーオービットが保護してくれた。そして無事入学し、順調とは言えない日々を送り、今に至る」
イチカは自己紹介を終了。
そこそこな部分を端折ったつもりだったが、それでも長くなってしまった。
それ程までに、イチカが置かれている状況は複雑なのだ。
「……」
自己紹介を聞き終えた簪は暫くの間黙っていたが、
「私の名前は、更識簪」
イチカの作戦通り、簪はポツリポツリと話し始めた。
「1年4組のクラス代表で、日本の国家代表候補生」
(ほぅ。代表候補生になれるという事は、相当な実力者…オルコットがまぁ、そこそこだから忘れがちだが…)
取り敢えず肩書を聞いて、イチカは意外そうな表情を浮かべる。
日本は篠ノ之束の出身国という事であり、IS学園も存在するという事でただでさえ高い代表候補生への倍率は、他国よりも更に高いのだ。
そんな環境でなれるのだから、相当に優秀で実力があるという事だろう。
「そして、第三世代型IS、『打鉄弐式』のパイロット…まぁ、見ての通り、未完成、だけど……」
簪は言葉の途中であからさまに視線を下げる。
それと同時、声のトーンも下がり、元々弱々しかった態度が更に弱々しくなる。
(専用機が未完…代表候補生になって、専用機が与えられるってワクワクしていてそれだったら、確かに自信は無くす…が、それだけが原因じゃないな)
ここまでの説明を聞き、まぁ目の前の簪の立場を大まかに理解した。
だが、やはり足りない。
もう少し、踏み込んだ部分での説明を聞かないといけない。
イチカは無言で続きを促す。
どれをどういった順番で話すか簪は迷っていたが、徐々に徐々に話し始める。
専用機の開発が止まったのは、開発元の『倉持技研』がイチカ用の専用機を作ろうとしたから。
タイニーオービットが作ると決定しているのに、だ。
そんな判断をした倉持を見限り、自分1人で作る決意をし、未完成の打鉄弐式を引き取った。
何故1人でという判断に至ったのか。
それは姉の影響が大きい。
姉はIS学園の生徒会長で、自由国籍を使用しロシアの国家代表になった専用機持ち。
肩書から簡単に想像できるように、姉は昔からかなり優秀だった。
文武両道、何をしても好成績を残し、なんでも1人で出来る。
そんな姉と比べ、自分は平凡。
頭はそこそこ良いが、運動は少々苦手。
だからだろうか、周囲の人間からは小馬鹿にされる日々が続いた。
そんな状況が悔しくて。
姉に追いつきたくて。
努力をしていたのに。
「あなたはもう、何もしなくて良いから」
姉から言われたその一言で、今までの努力が無意味になった気がした。
だから、姉を見返す為に姉も行った自分でもやる事にした。
だけれど、それだけじゃ足りなかった。
色んな事に挑戦しようとした。
でも、いざこれからって時に、1歩が踏み出せないし、踏み出せたとしてもやっぱりいまいちパッとしない。
どうしたら良いかと焦りだけが日に日に大きくなっていく中、唯一の男子生徒の試合を見た。
クラス代表を掛けた試合で代表候補生に勝利し。
上級生を交えたバトロワ模擬戦では、2位に食い込んだ。
情報によると、どう考えてもISを動かしてから1年も経っていないのに、何故そこまでの強さを持っているのか。
話を聞きたくて、強さの秘密を知りたくて。
居ても立っても居られなくなり、声を掛けた。
これが、更識簪が今仙道イチカの前にいる理由である。
「……」
説明を聞き終えたイチカは無言で腕を組んでいた。
(やっぱ生徒会長の妹で間違いないと…ってか、そんな万能人の様には見えなかったがな…雰囲気は凄かったが)
以前…というか、数日前の初対面での出来事を思い出す。
確かに雰囲気だけは一級品だったが、コッテコテの演技にもなってないセリフで赤面していた光景からは、あまり想像できない姿だったが。
妹という長い時間を共にしている家族が言うのだから、間違いないのだろう。
(とはいえ、有益な情報は無かったな…まぁ、相談内容が相談内容だから、そこまで語る事でもないか。ここで変に質問して逃げられるのもあれだし…今はスルーか)
一先ず、話を聞く前にいろいろと考えていた事に対して、ある程度の関係を築ければ後々さりげなく聞ける機会があると判断。
関係構築の為に、今は簪の問いに答える事に集中する。
「これが、私があなたに声を掛けた理由」
しばし無言で今後の行動を考えていたのを、簪はもう少し喋れという無言の催促だと解釈したようだ。
また話し始める。
「私は、あの人を見返さないといけない。あの人に追いつかないといけないの。だから、貴方の強さの秘訣を、教えてください」
簪は頭を下げる。
そんな簪を見ながら、イチカは一言。
「つまんないねぇ、なんでそうなっちゃうのかなぁ?」
バッサリと切り捨てた。
「つまんない…!?」
簪は表情を怒りのものに変える。
声にも同じく怒気が籠っている。
覚悟を決め、長らく悩んでいた事。
相談を聞いてもらっているとはいえ、初対面の相手に真正面から切り捨てられたら誰だって憤る。
そんな簪を無視し、イチカは言葉を発する。
「姉に追いつかないといけない?なんでそうなる?お前は姉ではないんだろう?何故わざわざ姉の後を追いかける必要がある?」
「えっ……?」
「たとえ家族だったとしても、違う人間なんだ。趣味、得意不得意、価値観に考え方。違って当然なんだ。わざわざ姉を追いかけるな。わざわざ他人を模倣しようとするな。お前にはお前の強さがある」
「っ……」
イチカのまくしたてる勢いでの言葉に、簪は言葉を詰まらせる。
唇を噛み締めるような動作をし俯く。
プルプルと肩が震えているのを、イチカは何も言わずに見守っている。
「……ない」
「あ?」
「そんな簡単に、割り切れない!!」
俯いたまま叫ぶ簪。
表情は見えないが、足元に零れる水滴で簡単に想像が出来てしまう。
「自分なりの強さって、何!?それが分かったら、こんなに悩んでない!!あなたも、あの人も、もうそれがあるから!!そんな簡単に言えるんだ!!」
先程までのおどおどした様子とは打って変わり、胸の中に溜まりに溜まっていたドロドロした感情を思いっ切りさらけ出すかのような荒々しい叫び。
それを目の前で受けたイチカは口を開く。
「1つ聞いておこうか、お前はどれだけその姉の事を理解している?」
「だから、それは…!!」
「お前が見て来たその姉の姿!それは本当に姉の全部だったか!?」
イチカの言葉に、簪はハッと顔を上げる。
涙でぐちゃぐちゃになったその顔を澄ました表情で見ながら、イチカは言葉を続ける。
「お前が見て来たその姿、それは間違いなく姉の姿だ。だが、その1面だけなのか?お前が見ていない所で、お前に見せていない面があるかもしれないぞ」
「それは……」
イチカの言う事はもっともだ。
例え家族だったとしても、自分以外の人間の全てを理解する事は不可能だ。
それでも、簪からしてみればあの完全無欠ともいえる姉の違った面など、想像も出来なかった。
そんな簪の目の前に、イチカは1枚のタロットカードを突き出す。
「THE HIGH PRIESTESSの逆位置、神経質……お前はいろいろと考えてから、自らに最適な行動を取れる賢い奴だ。だが、神経質に考えすぎてマイナスに傾いている。逆に知性や判断力が低下する危険性もある……」
「神経質……」
「思い当たる節はありそうだな」
イチカの言葉をゆっくり繰り返す簪。
それを見て、大まかに簪の心の中を察したイチカは、どこか安心したように息を吐く。
「……でも、分からない…分からない……私は、どうすればいいの…?私は……」
「分からないなら、これから探すしかない。自分なりの強さも、姉との関わりも、全部」
「私に、見つけられるかな……?」
「出来るかどうかじゃなくて、やるかどうかだ。どのみち、納得して『これが答え』って決めるのはお前だろうが」
言いながらイチカはTHE HIGH PRIESTESSの下に重ねてあった別のカードを、マジック技術の応用で入れ替える。
唐突な披露に驚いた表情を浮かべる簪を見てニヤリを笑みを浮かべるイチカ。
気分を良くしたのか、先程までよりもテンションを(かなり比較しないと分からない程度)上げ、イチカは話し始める。
「WHEEL of FORTUNEの逆位置、大きな変化…今のお前は絶望の底にいる…だが、次の瞬間には運命の輪は上り始め希望が見えて来る……良くも悪くも、ここからだ。ここからお前がどうするか、どうなりたいのか。それを、自分で見つけるところから始めるんだ」
「ここから、始める……」
イチカの言葉を復唱する簪。
先程まで涙でぐちゃぐちゃだった表情は、かなり落ち着いた表情に変わっていた。
スッとイチカの言葉を受け入れ、自分の中でかみ砕く。
どれくらいの時間が経ったのか、簪には分からないくらい考え込んでいた。
「……今日は、話を聞いてくれてありがとう」
「気にするな」
簪はゆっくりと口を開き、お礼を言う。
イチカにしては優しい返答だったが、まぁ情報を引き出そうと裏でいろいろと探りを入れていて、そのついでとして、どうも調子を狂わせてくる簪に一言言っただけだったので、大したことはしてない認識なのだ。
だからこその、当たり障りのない返答。
だが、それはこの場に置いて最適解だった。
「でも、何からやればいいんだろう…」
「そこもか……」
THE HIGH PRIESTESSとWHEEL of FORTUNEのカードを仕舞おうと残りのカードの束を取り出した時に、ボソッと簪が呟いた。
思わず力が抜け、イチカはタロットを取り落としそうになった。
だが、これも仕方ないのかもしれない。
たった今、ようやく考え方を改める兆しが見えたばっかりなのだ。
どういった行動を取れば良いのか分からない。
普段のイチカだったら、「知るかそんなもん、自分で考えろ」という場面。
だが、簪と出会ってからずっと感じているやりにくさが、そう切り捨てるという選択肢をイチカから奪っていた。
ポリポリと後頭部を掻きながら思考する事数十秒。
「明日予定あるか?」
「明日…は特に…センシマンを見直そうと思ってただけだから……」
「あ?」
「いや、何でもない……」
最後の方が聞き取れなかったので聞き返したのだが、簪は慌てて誤魔化す。
半眼で簪の事を見つめるが、意味のないことだと判断し止める。
「それで、えっと…なに、するの……?」
「俺は明日外に出る予定がある、付き合え。気分転換も必要だろう」
おずおずといった様子で確認する簪に対し、何ともない感じで返答する。
「分かった、お出かけ…だ、ね……?」
反射的に頷き、内容を確認する為に繰り返していた途中。
なにか大事な事に気が付いた。
明日もまだ休日。
男と2人。
学園外の所で会い、共に行動する。
これは、もしや……
(で、ででででで、デートってやつ!?!?!?)
(……何顔赤くしているんだ?)
一気に顔を赤くした簪を見て、首を傾げるイチカ。
強さが欲しい少女と箱の中の魔術師。
出会って3時間も経っていない2人のデート(?)が決定した瞬間だった。
☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆
『イチカの恋愛観』
名前を変える前は姉や勘違い掃除道具から散々な扱いを受け続けたイチカは、愛というものを知らないんデヨ。
鈴ちゃんや、仙道家のお陰で親愛は理解できるようになったが、LOVEの感情はまだピンとこないんだデヨ。
全く、あの2人は許せないデヨ!!
そんな訳で、イチカは原作と同じかそれ以上に恋愛に関して鈍感で、理解が出来ていなんだデヨ。
みんなで、なんとかしてあげて欲しいデヨ!!
次回予告
イチカと簪は2人で街に繰り出す。
異性と遊びに行く経験が無さすぎる簪と、特に何も意識していないイチカ。
果たして、簪は気分転換出来るのか!?
そして、自分のやるべき事を見つけられるのか!?
「……先に外出てるぞ」
次回、IS~箱の中の魔術師『GWⅤ 夢の原点』、見てね!