いやはや、相も変わらず執筆が遅い……
どうやったらみなさんあんなに素早く書けるんだろう……
IS~箱の中の魔術師~始まるよ!!
GWを始めとする連休では、人の活動が通常の休日よりも多くなる。
気がする。
それに、活動が開始される時間も早くなるような気がする。
つまり、何が言いたいのかというと。
「朝っぱらからうるっせぇなぁ……」
ため息をつき、頭をポリポリと掻きながら我らが仙道イチカはため息をついた。
簪との初対面から一夜明けた本日。
イチカの予定はタイニーオービットでのジョーカーの整備。
それが終わった後で簪の気分転換に付き合う、といったものだ。
一夜経って思う。
昨日の自分はどうかしていた。
「……だりぃ」
なんで初対面の人間にあそこまで気を遣って、翌日に共に外出の約束までしたのか。
今になってみれば、甚だ疑問だ。
まぁ、別に失敗だったとかは思っていない。
外出を断られなかった時点で、まぁ悪い印象は抱かれていない。
多分、恐らく、十中八九くらい。
悪い印象を抱かれていないという事は、出会った時に思った姉に関する情報を引き出すという事も、今後のイチカ次第ではあるが可能という訳で。
なので、この外出を含め、決して無駄な時間では無いのだ。
ただ、それはそれとして労力は掛かっているよねという訳だ。
「まぁいい。どうせならしっかりとしないと損だ」
イチカは基本損得で物事を考え、割と素直にそれに従う。
今回の簪との外出は稀にしかない例外なのだ。
初対面で例外の行動を引き出せる謎の魅力?を持つ簪は凄いのだ。
改めて今日の心構えを呟いたイチカは、慣れた足取りでタイニーオービットへと向かう。
顔を世界中に報道されてしまった為、ある程度の変装という芸能人みたいな事をしなければならない。
せかせかと歩き、無事にタイニーオービットに到着した。
正面入り口から社内に入り、漸く変装を解くことが出来る。
まぁ、簡単な変装なので解くのも簡単なのだが。
タイニーオービットは日本の企業。
本来ならGWによって休みなのだが、世界ISシェア1位の企業にもなるとそうは行かない。
日本が休日でも、取引先の国では全然平日で、仕事をしている。
普通、取引先が祝日などで休みの場合、取引も休みの筈なのだが、そんな事お構いなしの困った企業というのが少なからずあり。
しかも、それでも(一応)大事な取引先なので無下にする訳にもいかず。
結果として、今日もタイニーオービットでは多くの人が働いている。
無論、休日出勤では特別手当が出るし後日振替休日が与えられる。
そのため働いている当人たちは全然気にしてないどころか、お得に働けてラッキーという心境なのだが、傍から見れば可哀想な人で。
「休日に働いて虚しくならないのか?」
それはイチカも同じだった。
「酷いなぁ。別に、そんな事ないけどねぇ」
無事にキリトのいる整備室に辿り着いたイチカ。
平日と同じように働いているキリトを見て、ついつい本音がポロリしてしまった。
だが、割と酷い事を言われてもキリトは特に気にしない。
普段からイチカが毒舌なので、耐性が付いているし、休日出勤に関しては本当に気にしていないのだ。
イチカからCCMを受け取り検査機器に接続する。
「イチカ、メンテナンスついでにカスタムチューンしていいかい?」
「いいわけあるかぁ!だから、あんなもん使えねぇって!!」
「努力が足りないんじゃないかな?」
「努力で如何にかなるかぁ?」
「ならないだろうね」
「このやろ……」
割と性格が似ているところがある2人。
積極的に高い頻度で煽って攻撃するイチカと、ここぞという時正論を突き付けるキリトという差はあるが。
「そもそも、あのチューンはジョーカーの第三世代兵器が使えなくなるんじゃないのか?」
「そうともいう」
「じゃあ何のためのカスタムだよ……」
「スペックを上げる為さ」
イチカは苦笑いをしながらキリトの事を見る。
ブルーティアーズのビットから分かるように、基本的に第三世代兵器があり、それを生かすために第三世代ISがある。
ジョーカーのそれを潰すのは、果たしてジョーカーの存在意義を奪うのと同義なのだが……
以前見せられた企画書では、キリトの言う通り確かにスペックはかなり上昇しているのは確かだった。
「何故そこまでカスタムチューンに拘る。お前ほどの腕があれば一から新しいISを作る企画くらい通るだろう」
「それじゃあ駄目なんだ。最強ってのは性能で語るもんじゃない。カスタマイズとテクニック、それと経験だ。スペックだけで最強ってのは、何の意味もない」
「……それが、ワンオフ機よりも一般機を極限までチューンする事を好む理由か?」
「そうだ」
「……ジョーカーは俺の専用機だが」
「今のところは、な……恐らく、うちの第三世代を量産化する事になったら、最初はジョーカーだぞ」
「まぁ、
イチカと喋りながら作業を進めるキリト。
これ以上この場所に居たら邪魔になると判断し、一言だけ声を掛け整備室を後にする。
キリトとの用事が終われば、タイニーオービットにいる理由は無いし、この後は簪との用事もある。
ロビーで再び簡単な変装をしようとした時、イチカは気が付いた。
とても重大な事に。
「……何をするべきだ?」
そう、イチカはこの後簪の気分転換に付き合うという事しか考えていなかった。
『気分転換として何をするか』を、微塵も考えていなかったのだ。
「不味い、不味いぞ……」
イチカがここまで焦りながら悩むのは珍しい。
直接対面している訳では無いのに、ここまでイチカのいろいろな表情を引き出せる簪はやはり凄い子の様だ。
アミやラン、真実などと(無理矢理連れて行かれたのも含め)遊びに行ったことはある。
女子と出掛けるのが気まずい訳では無い。
だがしかし、今まで遊びに行ったときはたいてい他にメンバーがいたし、2人だったとしても相手のやりたい事に付き合わされたり荷物持ちにさせられたりする事が多かった。
つまり、自分から相手を何処かに連れて行くという経験が、滅茶苦茶乏しいのだ。
「どうするどうする……」
簪に行きたいところを聞く?
いや、何も考えていなかった場合の事も考慮すると、こちら側でも何か考えておく必要が……
「絶対に当日、しかも待ち合わせの直前くらいに考える事じゃねぇ!」
過去の、昨日の自分を呪う。
だがしかし、ずっとこのまま悩んでいたら時間になってしまう。
イチカは慌てて変装をし、タイニーオービットから飛び出ると待ち合わせ場所に向かって走り出した。
~~~~~
「ちょっと、早く着き過ぎたかな……」
昨日決めた待ち合わせ場所で。
簪はスマホに表示される時刻を見ながらそう呟いた。
確かに、約束の時間と比べてかなり早い時間だった。
そもそも交友関係が広い訳では無い簪は、休日に誰かと遊びに行くという経験がそもそも少ない。
あるとすれば、幼馴染で従者の子に振り回されながら外出するくらいだろう。
それに加え、今まで碌に異性というものと関わって来ない生活を送って来た。
そんな中で、初対面の状態の男子にお出かけに誘われた。
緊張しないわけが無い。
別に恋愛感情を抱いている訳でも無いのに、緊張しすぎて眠れなかった。
眠れなかったため、かなり早いと分かっていながらも準備をして、家を出た。
外の空気に触れた方が冷静になれると考えたからだ。
だが、そんな期待は裏切られる。
まだ少し涼しさを残す朝の空気に吹かれながら歩いても、緊張は微塵も無くならなかった。
早く出ても特に行くところ等はない。
結果として、約束の時間よりもかなり早く待ち合わせ場所に到着してしまった。
簪は自分の身だしなみの再チェックをしながら思考を巡らせる。
(特に何処に行くとか言われてないけど……良いんだよね?行きたい場所とか考えていないけど……)
イチカの予想は当たっていた。
本当に経験が無い為、どんなことでも心配になってしまう。
眠れなかったのでネットで異性と出掛ける事に関して調べようとしたが、
『気になるあの人に振り向いてもらうための方法10選!』
だとか、女尊男卑時代になる前の恋愛関連の記事しかヒットしなかった。
初心な簪はそのタイトルを見ただけで顔を真っ赤にしてしまい、記事の中を読むことはなかった。
その時の事を思い出し、再び頬を染める簪。
ブンブンと頭を振って、イチカはそんな相手じゃないと否定する。
折角身だしなみをチェックしたのに、頭を振ったので髪が乱れてしまった。
全く緊張が解けていない事にため息をつくも、まだまだ約束の時間まで待ち時間がある。
その後、何度か同じ様な事を繰り返していくうちに約束の時間が近付いてきた。
朝早い時間からそこそこ騒がしかった周辺は、その五月蠅さを増していく。
簪はキョロキョロとイチカの姿を探す。
外に居ても一発で分かる外見特徴を持っている訳では無いが、中々に顔立ちが整っている方であるイチカはそこそこ目立つ。
(それに、顔出しで報道されてるし……言っちゃえば、悪目立ち、だけど……本人は、鬱陶しがりそうだな)
初対面時のやり取りだけで、イチカの性格の概要を把握した簪は思わず苦笑する。
さてさて、そろそろ約束の時間だ。
隣に立っている帽子を被ってサングラスをしている人が怖いので、早く来てほしい……
そんな事を考えていると、そのサングラスの人物が肩を叩いてきた。
「ひぃ!?」
簪は短い悲鳴を上げる。
頭が一瞬でパニックになり、身体が固まってしまう。
(どうしようどうしようどうしよう!?)
取り合ず周囲に助けを求めるべきかと、纏まらない思考で考えていると……
「俺だ」
「あ、仙道君……」
サングラスと帽子を取り、晒した素顔は待ち合わせ相手のイチカのものだった。
怖い人じゃ無かった事と、変に周囲に助けを求めてイチカに迷惑を掛けなくて良かったという2つの安堵で息を吐いた。
そんな簪の様子に苦笑いを浮かべながらイチカは再びサングラスと帽子を装着する。
「なんで、顔を隠して……あ、目立っちゃうから?」
「そうだ。これだけでもあると無いじゃ全然違う。実際、お前は直ぐに分からなかったからな」
「あはは……」
変装の効果を自分で証明していた事実に、簪は微笑を浮かべる。
出会って2日目とは思えないくらい馴染んでいる。
イチカ自身は簪相手に何処かやり辛さを感じているものの、相性はかなり良い方の様だ。
「んん、えっと……それで、今日は何処に行くの?」
軽く咳ばらいをして場の空気をリセットした簪。
ずっと気になっていた事をイチカに質問する。
その瞬間、目の前にいる簪にも分からないくらい一瞬気まずそうな表情を浮かべるイチカ。
ついさっきまで焦りながら考えていた事。
しかも、予想通り簪も特に行きたい場所等を考えていなかった。
だが、此処に到着するまでに焦りながら必死に考え、ついに1つ答えを発見した。
サングラス越しに簪の瞳を見ながら、イチカは口を開いた。
「特に考えてない」
「え?」
その答えとは、正直に何も考えていない事を話すこと。
何があるのかの情報すら足りていないのに、どこどこに行くとかを決められるわけが無い。
予想外の返答に、困惑を隠せない簪。
隠れていない口元をニヤリと歪ませながら、イチカは言葉を続ける。
「気分転換って言ってるだろが。びっちり予定なんて入れたら逆に息つまるだろ。今日は適当にぶらつくんだよ」
最初からあえて考えていなかったということにするため、10秒で考えたテキトーな言い訳を普段通り堂々と言う。
簪は割と素直だし、初対面の時の割と重たい話の時とトーンが一緒だったので完全に信じた。
イチカは無事に説得出来た(騙したとも言う)事に安堵し、周囲をぐるりと見回す。
モノレール駅から近いという事だけで選んだこの待ち合わせ場所。
幸いにも商業施設であり、周囲の街へのアクセスも良好。
適当にぶらつくのにはこれ以上ないくらいに適している。
「さて……行くか。先ずは案内板の確認からだな」
「そこから……本当にノープランなんだね……」
イチカは周囲を見回し、案内板を見つけるとスタスタと歩き始める。
簪の言葉は呆れたようなものだったが、声色はワクワクしてそうな嬉しそうなものだし、浮かべている表情は笑顔だった。
こうして、イチカと簪の気分転換(デート)の幕が上がった。
~~~~~
イチカと簪の2人は昨日が初対面、尚且つその時にそこそこ重たい話をしたとは思えないくらい楽しそうな、良い感じの雰囲気でぶらついていた。
具体例を挙げると、
「目がチカチカするな……」
「こういう感じの、ちょっと苦手……」
「女子ならテンション上がるんじゃないのか?(アミとかランならもう凄い事になりそうなんだが)」
「全員が全員そうじゃないから」
「肝に銘じておく」
服屋の店頭に並べられているレディースの服を見ながら会話をしたり
「ISの速度に慣れるとかなりゆっくりに感じるなぁ」
「そうなの?私は全然……」
「ジョーカーは機動力に振ってるから、他のISよりも感じやすいのかもしれん」
「なるほど……」
GAME CLEAR!!
「あの2人スゲェぞ!?ハイスコア!?」
「嘘だろ!?更新される事あったのかよ!?」
ゲーセンでなんとなく目についたシューティングゲームの、長らく更新されていなかった記録を塗り替え
「ファストフードなんて、久々……」
「そうなのか?」
「うん……休日は何時も寮の部屋に籠ってるか、ISの整備をしてるかだから……」
「外に出る機会が無かったから、こういう店のものを食う機会も必然的になかったと?」
「そう……学園に入る前も、部屋に籠ってたのは変わらないし」
「そんなに部屋に居て、何をしていたんだ?」
「ええっとぉ……そのぉ……(い、言いづらい……アニメや特撮を見まくってただけだなんて!!)」
「?」
ハンバーガーチェーンで昼食を食べたり。
本当に気の向くまま、ぶらついていた。
傍から見ればただのデートな事にイチカは全く気が付いていない。
それに反し、簪はハチャメチャにドキドキしていた。
イチカを待っていた時のように表情や行動には出していないものの、心持ちは変わっていなかった。
(ううう……まだ緊張が抜けない……でも、今日を楽しめてはいる、ね)
それでも、簪の表情は笑顔だった。
昨日のイチカと話す前からは考えられない程良い表情。
それを横目で見ながら、イチカは心の中で安堵したような息を吐いた。
(最適かどうかは分からないが……少なくとも最悪な選択をした訳では無さそうだ……貴重な情報源になるかもしれんからな……)
そんな事を考えておきながら、イチカも少しだけ笑みを浮かべている。
なんだかんだ、イチカ自身も楽しんでいるのだ。
そして今。
食休みを終え、2人は商業施設から外に出て街を歩いていた。
商業施設はとても広いので、全てを回り終えた訳では無い。
そのため午後も商業施設でぶらついていても、特に問題は無かった。
だがしかし、イチカの希望で街に繰り出した。
似たような景色過ぎて飽きて来たし、それに顔を出したい場所があったので、こうして街にやって来たのだ。
「さっき、顔を出したいって言ってたけど、行きつけ?」
「あー、まぁ……俺のじゃなくて、兄さんの友人のだ」
「ちょっと関係性遠くない?」
「兄さんが友人にちょっかい掛けに行くとき、ついででちょこちょこ連れてってもらってたんだ」
「ふんふん」
「まぁ、店員とも一応顔見知りにはなったし、騒動以降連絡取ってなかったからな」
「なるほど。優しいんだね」
簪の言葉に、イチカは何も反応しない。
優しい笑みを浮かべた簪も、これ以上何も言わず前を向いた。
内心は兎も角として、至って自然に会話をしている2人。
中々良い雰囲気だ。
そんなこんなで歩き、目的地に到着した。
「ここだ」
「ここって……模型屋さん?」
「そうだ」
イチカと簪がやって来たのは、個人経営の模型屋『キタジマ模型店』だ。
イチカの話にもあったようにダイキの友人達(本人は否定するが)の行きつけの店。
中学時代は放課後よくここで集まっていた。
「意外……飲食店だと思った」
「飲食店の行きつけもあるが、そっちはちょっと前まで下宿させてもらってたからな。わざわざ顔見せるほどでもない」
「下宿?」
「寮の部屋調整が間に合わなかったんだと」
「なるほど、大変だったんだね」
「全くだ」
2人は会話をしながら店の扉の前までやって来る。
自動ドアが開き、店の中へと入る。
「いらっしゃい」
店の奥から、優しい声色でそんな声が掛けられる。
この店の店主、北島
髭が濃く強面で、筋肉もそこそこある方なので外見は怖いが、内面は滅茶苦茶に良い人で、たとえ子供相手でも相手の目線に立ち、真剣に接してくれるので、常連客からの人気は高い。
「お久しぶり。顔見せに来たよ」
イチカが変装を解きながら声を発すると、
「イチカ?イチカじゃないか!久しぶりだなぁ!」
驚いたような、だが嬉しそうな返事が返って来た。
していた作業を中断して、こちらの方に駆け寄って来る。
「ああ、本当に久しい。1年ぶりくらいか?」
「それくらいだ。元気にしてたかぁ?」
(聞いてた期間よりも長いんだけど……いや、明確にいつぐらいから来てないとかは明言してなかったか)
小次郎がくしゃくしゃとイチカの頭を撫でる。
イチカが本当に鬱陶しそうな表情を浮かべているのを、簪は何とも言えない表情で見ていた。
「あ、あのー……?」
簪が遠慮がちに声をあげると、小次郎は手を止めた。
その瞬間にイチカが脱出に成功する。
「いらっしゃいませ。初めましてですね」
「あっはい、初めてです……」
「俺の友人の更識簪だ。下の名前で呼んで欲しいらしい。それで簪、この強面のおっさんが此処の店長だ」
「強面……んん!店長の北島小次郎だ。よろしく」
「更識簪です。よろしくお願いします」
イチカの仲介もあり、2人は各々の自己紹介をする。
簪はやはり少しだけ緊張しているようだが、イチカに強面と言われたのを若干気にしたようなそぶりを見たことで、悪い人ではないと理解しているようだ。
暫くしない間に打ち解けるだろう。
「さて、何か買っていくかい?」
「そうだな……久々に何か作りたいと思ってたんだ。ついでに道具も。キットは自分で選ぶとして、道具のおすすめはあるか?」
「道具……そうだな、ついこの間発売されたニッパーがかなり軽い力で切れておすすめなんだが、人気商品すぎて在庫の把握が出来てない……」
「おい」
「沙希ー!!イチカが来てるんだが、例のニッp「イチカが来てる!?!?」」
小次郎が店の奥の方に声を掛けると、言葉を遮る形で叫び声が帰って来た。
そしてバタバタとした物音と共に飛び出してきた人物が、その勢いのままイチカに飛びついた。
「おわっぷ!?」
「久しぶりじゃ~ん!元気してた!?」
「アンタのせいで元気じゃなくなりそうだ……!首、首が……!!」
イチカの首を絞めながら頭をこねくり回すように撫でている女性。
小次郎の妻で北島模型店の副店長、北島
男勝りな性格ではあるが、かなりのうっかりさんで店の予約を取り違えた事もある。
「……」
簪は物凄い無表情で沙希の事を見ていた。
理由としては、沙希の格好が過剰なまでに色っぽいからだ。
上半身は黒のチューブトップのみ。
へそも腋も大盤振る舞いなうえに、金髪をバンダナで纏め、釣り目に指ぬきグローブ。
これに加え、女性が理想とするような豊満な肉体。
自分のスタイルに関して少々思うところがある簪としては、羨望の眼差しを向けざるを得ない。
しかも、上記のドジっ娘人妻属性もあるので属性過多も過ぎる。
「ぜぇ……ぜぇ……」
なんとか脱出したイチカが膝に手をつき、肩で息をする。
今までで見た中で表情の中で1番真っ青だ。
「大丈夫……?」
「あ、ああ……なんとか……」
簪がその背中をさすりながら心配そうに顔を覗き込む。
イチカは青い表情のまま応対する。
「え、なになに?イチカの彼女?」
「かのっ!?」
「違うわ!」
デリカシーの無い沙希の質問に、簪は顔を真っ赤にしイチカは勢いよく否定する。
「あはは、ごめんごめん。気になっちゃって。いやー、良かったよ」
「良かった?」
「イチカに彼女が出来たら悲しいしねぇ」
「人妻が旦那の目の前で、特に親戚でもない男子高校生に言うセリフじゃねぇ。店長泣いてるぞ」
沙希、簪、イチカがわちゃわちゃしている側で、小次郎はいじけていた。
取り敢えず沙希と簪が自己紹介をして握手をしてから、沙希がひっぱたいて現実に引き戻す。
遮った要件を聞き直し、奥から在庫のニッパ―を2つ持ってきた。
「はいこれ、イチカと簪ちゃんのぶん」
「サンキュ」
「ありがとうございます」
差し出されたニッパーを2人は受け取る。
イチカは簪が素直に受け取った事に少し驚いた。
(そういえば、プライベートな話を聞いた記憶はないが……こういうのが趣味なのか)
「取り敢えず、何かキットを選ぶか」
「そうだね」
「ゆっくり選んでいいからね~~」
沙希は2人に手を振ると、店の奥へと戻っていった。
「……なんだか、嵐みたいな人だね」
「まだマシな方だぞ、あれでも」
「そうなんだ……」
「ははは、昔はおとなしかったんだけどなぁ」
遠い目をしている小次郎を見なかった事にしながら、イチカと簪は商品が並んでいる棚に向かう。
個人経営点なので、お世辞にも広いとは言えない。
だが、それでも品ぞろえは見事なもので、様々なメーカーの色んなシリーズのキットが並んでいる。
選びたい放題だ。
「しかしまぁ、ユーザーに男が多いヤツは廃れていくと思ったが、案外ちゃんと続くもんだな」
「そんなくだらない理由で無くなったら、全国で暴動が起きちゃうよ。女性ファンも多いし」
「そりゃそうか」
特にお目当てがあって来店した訳じゃ無い。
棚の端から順番に見ていく。
「お、これいいな」
イチカが手に取ったのは、プラモデルの定番、バイク。
別にバイクに詳しい訳では無いが、デザインに一目ぼれした。
近くに置いてあった買い物かごにニッパーと共に入れる。
「私はどうしようかな……」
「今までどんなの作ってたんだ?」
「え?その、えっと……」
「言いたくないんだったら無理して言わなくていい(やっぱり何回か造った事があるのは分かったしな)」
「あ、うん。分かった」
イチカの言葉に頷いた簪。
商品棚に視線を向ける。
そうして順番に見て行って
「っ!!これは!!」
あるものを見た瞬間、目を輝かした。
黒いアンダースーツに赤いアーマーにマント。
胸に大きく黄色でSと描かれているのが特徴の、特撮ヒーローのキットだった。
「センシマンのキット!まだ残ってたんだ!!」
イチカと出会ってから1番高いテンションで嬉々としてそれを手に取る簪。
「それなんだ?」
「知らないの!?6年前に放送された特撮ヒーロー『宇宙英雄センシマン』だよ!!」
「お、おお、そうか」
簪の勢いに少したじろぐイチカ。
(間違いねぇ、コイツはヲタクっていう人種だ!!いや、だからって何かがある訳じゃねぇが……)
そんな事を考えながら、もう1度センシマンのキットのパッケージを見るイチカ。
「あー、いや、初見じゃ無いな。知り合いに好きな奴がいたわ」
「そうなの!?」
「ああ、兄さんの友人なんだが」
「仙道君のお兄さん、顔広いね……」
そう呟きながらも、ウキウキでセンシマンのキットを買い物かごに入れる。
表情からもワクワクが簡単に察せられる。
すると、そんな簪の背後からそんな声が掛けられた。
「君もセンシマンが好きなんですか!?」
「ヒィ!?」
急に他人に声を掛けられ、思わず悲鳴を上げながらイチカの後ろに隠れる。
「あわわ、すみません!怖がらせるつもりはなかったんです!!」
簪の反応を見て、声を掛けて来た人物はアワアワと慌てだす。
そんな様子を見てイチカは首を傾げる。
目の前の人物に何処か見覚えがあるからだ。
キャスケットとサングラスを着用し、先程までの自分と同様顔を隠した人物。
だが何故だろうか。
絶対に会ったことがあると直感が言っている。
そこで、先程の言葉を思い出した。
『君もセンシマンが好きなんですか!?』
君も。
つまり、自分もセンシマンが好きだという事。
ここまで考え付いて、イチカは目の前の人物を理解した。
「ヒロか。久しぶりだな」
「へ?」
その人物……大空ヒロは気の抜けたような声を漏らすと同時、サングラスを外ししっかりと顔を確認する。
「イチカ君!お久しぶりです!」
「ああ。3年ぶりくらいだな」
「えっと……仙道君の、お友達?」
「俺のじゃなくて、兄さんのだ。さっき話してたセンシマン?が好きな奴だ。おい、自己紹介」
「初めまして!大空ヒロです!」
ヒロは簪に手を差し出しながら笑顔で自己紹介をする。
先程からイチカも話している通り、ヒロはダイキの友人(の友人くらいの距離感)である。
重度のヒーローヲタクであり、中でも宇宙英雄センシマンが大好きである。
イチカと出会った当初は牛乳瓶の底のような眼鏡をかけて、言ってしまえば野暮ったい服装だった。
だが、何かに影響を受けたのか(恐らくダイキとその友人達)、2回目会ったときにはもう眼鏡を外しかなりスタイリッシュになっていた。
そこから更に年月が経ち、もうすっかりオシャレさんなのだが、根本のヲタク部分は変わっていない。
「大空ヒロ……もしかして、格闘プロゲーマーのTHE HEROさんですか!?」
「ええっ!!知ってくれてるんですか!?嬉しいです!」
「はい!この間の世界大会、見てました!優勝おめでとうございます!それと、さっきはすみません!変な声出しちゃって……」
「いえ、僕の方こそ、ごめんなさい。急に話し掛けちゃって。話は戻りますけど、センシマン好きなんですか?」
「大好きです!!センシマンこそ、至高のヒーローです!!」
「ですよね!!どのエピソードが好きとかありますか!?僕は12話の戦う覚悟を再度決めるシーンが大好きで、もう何回も見ちゃうんです!!」
「分かります!超名シーンですよね!私は、36話のセンシガールとの掛け合いが……!!」
「そこもいい!やっぱり、ここまで2人で戦って来て!でも、センシマンはこれ以上センシガールに戦ってほしく無くて!」
「その反面、センシガールは最後まで共に戦いたくて!互いが互いを想っているからこその対立が……!!」
イチカはここまでしか理解が出来なかった。
もうそこからは呪文のように2人てなにやら語っていた。
ちらっと小次郎の方を見る。
こちらの事を見て見ぬふりをしているようだ。
「……」
幸いにも他の客はいない。
この状態で注意しても、今の興奮している2人には何の意味も無いだろう。
「……先に外出てるぞ」
簪にそう声を掛けるも、やはり反応はない。
イチカはため息をつきながら、小次郎がいるレジへと向かったのだった。
~~~~~
「ご、ごめん。テンション上がり過ぎちゃって……」
「別に。気にしてない」
空は茜色に染まり、吹き抜ける風は冷たくなってきた。
そんな中、モノレール駅に向かってイチカと簪は並んで歩いていた。
「気にはしてないが、次からは暴走すんな」
「ううぅ……はい、反省してます……」
しょんぼりした様子でトボトボと歩く簪。
2人とも、その手にはキタジマ模型店で購入したセンシマンのキットと工具一式が入った袋を抱えている。
「にしても、アメリカを拠点にしていると聞いていたが、なんで日本に居たんだ?」
「大会の優勝報告ついでに、友達に会いに来たって言ってました。この後、その人のおうちに行くらしいです」
「何故先に模型店に……」
イチカがそう呟いてから、暫くの間2人の間に沈黙が流れる。
どちらも喋らず、ただただ歩く。
今日の目的は、簪の気分転換。
そして、気分転換をする理由としては、簪がこれからどこに向かうかを見つけるため。
だが、途中からそんな事忘れてはしゃいでいたような気がする。
「気分転換には、なったか?」
もうそろそろで駅につく頃。
イチカがボソリと尋ねた。
「うん。良い気分転換になったよ」
でも、と。
簪の表情に少しだけ影が差す。
「やっぱり、これからどこに進みべきかは、分からなかったな」
また、しばし無言の時間が訪れる。
イチカがタロットカードを取り出そうとした時、簪が再び口を開いた。
「どこに進むべきかは分からなくても、何をすればいいのかは分かったかな」
「ほぉ」
「今日1日楽しかった。ここ最近、大好きなセンシマンを見たりしても、あまり心が弾まなかったのに」
イチカは相槌を打ちながら簪の話を聞く。
「多分……というか絶対に、今までの私は焦り過ぎてた。何かしなきゃ、何かしなきゃって」
「ああ」
「でも、昨日仙道君と話をして。今日、いろいろと遊んで。その焦りがスーッと無くなった気がするんだ。だから、しっかりと気分転換は出来た」
「そうか」
そこで簪はいったん立ち止まる。
それに伴いイチカも立ち止まり、簪の方を見る。
「だから、私はこれからいろいろな事をやってみるよ。焦り過ぎて、もうゴールデンウィークだってのにクラスに馴染めてないし……それで、その先に、自分の、自分だけの強さを見つけて、自分がやるべき事をやっていこうって。私の夢の原点は、今からなんだって。決心できた」
「決心できたか……」
イチカはそう呟くと、取り出そうとしていたのとは別のタロットカードを取り出し、簪に見せる。
「STRENGTHの正位置、強固、そして意思……大きな困難や試練でも、強い意志を持ってやり遂げられる……お前はお前だ。全力でぶつかっていけ。なんかあったら、まぁ手伝ってやるよ」
言い終えたイチカは、何時ものニヤッとした笑みではなく、爽やかな笑顔を浮かべる。
それを見た簪は顔を赤くするも、ブンブンと頭を振ってから、満面の笑みを浮かべる。
「仙道君。今日はありがとう!!」
「どーいたしまして」
2人は笑い合い、穏やかな表情のまま学園島へと移動し、各々の部屋へと帰って行った。
部屋に無事帰って来た簪は。
「~~~っ!!!!」
顔を真っ赤にしながへなへなと座り込んだ。
「あの笑顔は強いよぉ……」
簪が落ち着くまでに、実に40分の時間を要した。
ただしその時間の間に、センシマンのキットの箱は少し潰れてしまったのだった。
☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆
今日新しく出て来た4人についてまとめてみたデヨ!
みんな、しっかり確認するデヨ!
〇北島小次郎
キタジマ模型店の店長。
強面であるが故初見の人には怖がられるが、子供相手でも相手の目線に立ち真剣に対応してくれる為、人気が高い。
基本的に「店長」としか呼ばれないため、下の名前を知っている人間は少ない。
最近の悩みは腰痛と、ダイキとその友人達が中々店に顔を見せてくれない事。
〇北島沙希
キタジマ模型店の副店長で小次郎の妻。
男勝りな性格で、結構いい加減だがドジっ娘人妻という属性過多ウーマン。
かなり過激で色気のある格好をしているため、男子小学生に悪影響を及ぼしている。
彼女目的の常連客も多いが、本人は小次郎一筋である。
〇大空ヒロ
ダイキの友人の友人。
格闘ゲームのプロゲーマーで、現在はアメリカを拠点に活動している。
根っからの特撮ヲタクで、宇宙英雄センシマンが大好き。
同じ特撮好きには初対面でもぐいぐい行く。
特撮好きになった理由は、研究職の母親が家を開けがちだったから。
今現在、その母親とは連絡が付かないらしい。
〇宇宙英雄センシマン
今から6年前、ISが開発される前に放送された特撮ヒーロー。
王道の勧善懲悪ではあるが、深みのあるストーリーと感情移入しやすい魅力的なキャラクターが特徴的で、現在でもかなりの人気を誇っている。
次回予告
ゴールデンウィークも終わり、学業に励む日々が帰って来た。
嫌っている2人と再び顔を合わせないといけない事にイライラしているイチカに、転校生というニュースが飛び込んでくる。
「はぁ……全くもって面倒だ……」
次回、IS~箱の中の魔術師~『新しい悩みの種』、見てね!