IS~箱の中の魔術師~   作:ZZZ777

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お久しぶりです。
受験でバタバタしていたので中々執筆の時間が取れませんでした。
漸く落ち着いてきたので、少しづつですが再開していきたいと思います。

……え?
元々お前は更新が遅い?

…………頑張りまぁす!!


新しい悩みの種

 GW最終日の午後。

 IS学園の寮には何ともまったりした空気が流れていた。

 

 

 明日から再開する学業に邁進する日々に向けて、ギリギリまでだらけようとする者。

 変わらずISの訓練をする者。

 少し先の範囲まで予習する者。

 今日が最終日だと気が付いていない不届き者。

 

 

 生徒全員が思い思いの行動をする中、唯一の男子生徒は……

 

 

 「完成」

 

 

 プラモデルを丁度組み上げたところだ。

 簪と出掛けた日に購入したもの。

 確かに初心者向けではないものの、上級者向けで細かいパーツが大量にあるという訳でもない。

 多少墨入れをしたり、パテで合わせ目を消したりしたが、塗装はしていないのでそんなに時間が掛かる訳じゃ無い。

 ダイキの影響で過去に何度か組み立てた経験があるので、イチカは難なく組み上げれた。

 

 

 完成したバイクを適当に棚の上に置き、ググっと伸びをする。

 背骨がバキバキと悲鳴を上げるのを聞きながら時間を確認する。

 

 

 「……暇だなぁ」

 

 

 2時少し過ぎという時間。

 寮という場所の都合上、今から外に出るのは少々面倒くさい。

 かといって、プラモ以外に暇を潰せるものなどこの部屋にはない。

 IS関係の何かをやるには事前の申請が必要なため、今から飛び入りでは何もできない。

 

 

 つまり、もうやる事が無くなってしまったのだ。

 はぁ、とため息をついてからベットに背中からダイブする。

 頭の下で手を組み、目を閉じる。

 

 

 (明日から学校……それ自体は別に関係ないんだが……)

 

 

 イチカは脳裏に浮かんできた心底嫌いな2人の顔にイライラし始める。

 この連休、少々振り回されがちだった気もするが、非常に有意義で心落ち着く時間だった。

 様々な理由がある中、やはりあの2人の顔を見なくても良いというのは結構な割合を占めていただろう。

 

 

 「はぁ……明日になったら2人とも学園から去っててくれねぇかな……」

 

 

 そう言いつつも、絶対にそんな事は無いと理解している。

 もし仮にこのGW中に問題行動をしていたとしても。

 ISの開発者の妹と、真実にブリュンヒルデの称号を奪われたとはいえ世界大会初代覇者。

 IS学園という他国からの干渉を避けられる場所に押し込んでおかないと都合が悪いだろう。

 

 

 その2人と同じかそれ以上に重要な男性IS操縦者の心理的負担が途轍もない事になってしまうが。

 

 

 「あ~、止めだ止め。明日から嫌でも考えざるを得ないんだから、今日くらいは平穏にいたい」

 

 

 イチカは上体を起こし、スマートフォンに手を伸ばす。

 こういった時に適当にネットサーフィンするだけで少しだけでも時間が潰せるのだから、良い時代になったものだ。

 そんな事をボーッと考えながらスマホを起動すると、1つメッセージが来ているのに気が付いた。

 

 

 「鈴?」

 

 

 メッセージの送信者は鈴だった。

 イチカは一瞬首を傾げてから、メッセージを確認する。

 如何やら5分前の様だ。

 

 

 『イチカ!今暇!?』

 

 

 「へぇ……」

 

 

 ネットサーフィンなどしなくても、暇を潰せそうだとニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 直ぐにスマホを操作し、メッセージに返信する。

 

 

 『暇』

 

 

 たった1文字の短い返信。

 だが、暇かどうかを聞かれたのだから問題ない。

 

 

 既読は直ぐについた。

 恐らくスマホにかじりつきながら返信を待っていたのだろう。

 

 

 5分前で良かったとイチカは安堵した。

 もしこれが30分前とかだったら、次に出会った瞬間に地獄の破壊神渾身のストレートパンチが飛んでくる事が確定していただろう。

 そんな事をボーッと考えていると、また鈴からメッセージが送られてきた。

 

 

 『だったらすぐに私の部屋に来なさい!ゲームしましょう!』

 

 

 「ゲーム……ゲームねぇ……」

 

 

 ここ最近やった記憶が無い娯楽だ。

 浮かべた笑みをそのままに返信する。

 

 

 『すぐ行く』

 

 

 『待ってるわよ!!』

 

 

 鈴からの返信を横目に見ながら、外出の準備をする。

 とはいえ、同じ寮内だし相手は鈴なのだからそこまで気を遣う必要は無い……

 

 

 そこまで考えて、ふと気が付く。

 自分が1人部屋なのですっかり忘れていたが、IS学園の寮は基本2人1部屋だ。

 となると、もしかしたら鈴と同部屋の相手や、それ以外の友人もいるかもしれない。

 いなくても、鈴以外の女子が暮らしている部屋に入る事になるのだ。

 

 

 「もう少しだけ、身だしなみを整えるか」

 

 

 急遽予定を変更し、もう少しだけちゃんと身だしなみを整え、今度こそイチカは部屋を出た。

 

 

 数分後。

 寮内のまったりとした雰囲気を感じながらイチカは鈴の部屋の前に辿り着いた。

 

 

 コンコンコン

 

 

 「仙道イチカだ、来たぞ」

 

 

 『はいはーい!』

 

 

 ノックをしながら部屋の中に声を掛けると、鈴が返事をした。

 ドタバタと物音がしたのち、勢いよく扉が開いた。

 

 

 「イチカ、待ってたわよ!」

 

 

 「おう、待たせた。邪魔するぜ」

 

 

 「会話が短い!えちょ、もう少し何か無いわけ!?」

 

 

 「ゲームするんだろ?会話で時間使うの勿体なくないか?」

 

 

 「正論!」

 

 

 この2人は出会うとコントでもしないといけないのか、何時も通りの会話をしながら鈴の部屋の中に入っていく。

 なんだかんだ他の部屋に入るのは初めてのイチカ。

 ついつい部屋の中をぐるりと見てしまう。

 

 

 とはいえ、部屋の間取りなどに大きな差異は無い。

 暮らしている人間の価値観や宗教、趣味などによって置かれるインテリアや小物に違いが出るだけだ。

 

 

 そんな風に部屋の中を見ていると当然気が付く。

 自分と鈴以外の人間が室内に居る事に。

 

 

 「ティナ!イチカ来たわよ!」

 

 

 「わわ!?仙道君、本当に来たの!?」

 

 

 万が一を考え、身だしなみを整えて本当に良かった。

 イチカがそんな事を考えていると、鈴とティナと呼ばれた少女が会話を始める。

 

 

 (察するに、鈴がこのルームメイト相手に俺が来るから!見たいに急に言い出して、一応ドタバタと準備したけど、真偽を疑っていたという感じか……)

 

 

 「えっと、仙道君。初めまして……だよね?鈴のルームメイトで友達の、ティナ・ハミルトンです。よろしくね」

 

 

 「……ああ、よろしく」

 

 

 ティナが差し出してきた右手を取る。

 すると、ティナが感極まったような表情を浮かべブンブンと腕を振って来る。

 

 

 「痛いから振るな」

 

 

 「え?あっ、ご、ごめんなさい!ついテンション上がっちゃって……」

 

 

 「テンション上がるのか……」

 

 

 心底意外そうな声色でそう零すイチカ。

 はぁ、とうんざりした様子で鈴がため息をついた。

 

 

 「イチカ、アンタやっぱ鈍感だわ」

 

 

 「あぁ?てめぇに言われたくねぇ」

 

 

 「ちょ、どういう意味よそれ!」

 

 

 「自分で考えろ馬鹿」

 

 

 「このぉ!!」

 

 

 ブン!!

 

 

 という効果音が聞こえてくるような勢いでストレートが放たれた。

 それをティナと握手したままひらりと躱す。

 2撃目が来る前に空いている左手を前に突き出し、鈴の頭を押さえる。

 これにより、体格差で鈴の手足による攻撃は絶対にイチカに届かなくなった。

 

 

 「離しなさい!」

 

 

 「破壊神様が怒りを鎮めたらな」

 

 

 「破壊神言うな!っていうか、怒らせたのはイチカでしょうが!」

 

 

 「あ、あははは……話には聞いてたけど、本当にそんな感じなんだね……」

 

 

 イチカと初対面のティナ。

 当然、2人のやり取りを見るのも初めてだ。

 こんな反応になるのも仕方が無い。

 

 

 だが、口は悪いが2人とも笑顔なので、本気で喧嘩している訳では無いのも理解している。

 ギャーギャーと騒ぐこと数分。

 ティナの一言によってイチカはゲームをしにこの部屋にやってきた事を思い出した馬鹿2人。

 

 

 さて、切り替えてゲームをしようと、イチカがやって来るまで鈴とティナが2人で遊んでいてそのままだったモニターの前に座ったとき。

 イチカは気が付いた。

 

 

 「……なぁ、このスマッシュな格ゲーやるのか?」

 

 

 「そうだけど?」

 

 

 「奇数人で?」

 

 

 「「あ」」

 

 

 イチカの指摘に、鈴とティナが揃って間抜けな声を発した。

 別に3人でも出来るが、こういうゲームは偶数人の方がバランスが良くて面白い。

 

 

 「しょうがねぇな……もう1人呼んで良いか?」

 

 

 「え!?仙道君のお友達ってこと!?」

 

 

 「お友達……友達?知り合い?そんな関係の奴」

 

 

 「え、学園の中でイチカにそんな関係の人いたっけ?」

 

 

 「お前は知らないだろうな、初対面バトロワ模擬戦の後だし」

 

 

 「めっちゃ最近!」

 

 

 「ああ……ハミルトン、初対面の人間がもう1人増える訳だが問題ないか?」

 

 

 「え、あ、うん!大丈夫!私も、いろんな人と関われて嬉しいから」

 

 

 「スゲェなその精神……」

 

 

 「ふふん、そうでしょう!ティナは凄いのよ!」

 

 

 「なんでてめぇが威張ってんだ」

 

 

 「あ痛ぁ!!」

 

 

 「ふふっ……」

 

 

 まだゲームを始めてすらいないのに、もうすっかりティナはこの2人のやり取りに慣れてしまったようだ。

 再びギャーギャーと騒ぎながらイチカは端末を操作し、件の人物に連絡を取る。

 イチカが5分放置したのに対し、10秒くらいで返信が来た。

 

 

 「なになに?『知らない人が居るのは少し不安だけど、行ってみる』……ふーん……」

 

 

 初対面でハチャメチャに重たい相談をして来た奴のセリフか?と思うと同時、クラスメイトとも馴染めていないという話を思い出す。

 恐らくあの時は切羽詰まっててなりふり構っていられなかった行動だろうと自分の中で結論付け、待っていると簡潔に返信して、鈴と騒ぎ始めた。

 途中でティナにも飛び火したが、やり取りに参戦していた。

 馴染む速度が尋常じゃない。

 

 

 もはやゲームをしなくても十分暇が潰せている事にイチカが気が付いた時。

 

 

 コンコンコン

 

 

 扉が遠慮がちにノックされた。

 

 

 「はーい?」

 

 

 部屋の主たる鈴が返事をする。

 すると、扉の向こうから

 

 

 『あ、あの、イチカに呼ばれてきたんですけど……』

 

 

 「あ、はーい!今行くから!ほら、イチカも!!」

 

 

 「俺も?別に良いだろ」

 

 

 「良くない!アンタが呼んだんだから、アンタが対応しないで如何するの!!」

 

 

 「呼ばないといけなくなったのはお前が人数管理も出来ないからだろうが!」

 

 

 「2人とも!早く行く!」

 

 

 ティナに尻を叩かれ、鈴は慌てて、イチカはため息をつきながら渋々部屋の入口へと向かう。

 イチカが来た事を確認した鈴が扉を開ける。

 

 

 「いらっしゃい!」

 

 

 「よぉ」

 

 

 「お、お邪魔します……」

 

 

 扉の向こうに居たのは、イチカが呼んだ簪だ。

 少し気恥ずかしそうにしており、手には紙袋を持っている。

 

 

 「初めましてね!私は凰鈴音、イチカの幼馴染よ!鈴って呼んで頂戴!」

 

 

 「あ、えっと……仙道君に呼ばれてきた、更識簪です。名前で呼んでください。あと、その、これ、急に呼ばれたので部屋にあったやつですけど……」

 

 

 簪は紙袋を鈴へと手渡す。

 中に入っているのは、部屋に蓄えてあった箱詰めのクッキーだ。

 自分で食べる用のストックだったが、思わぬ使い道が出来たようだ。

 

 

 「わっ、すっごい丁寧!イチカ、アンタもこれくらいやりなさいよ!」

 

 

 「今更てめぇに手土産なんざいらねぇだろ」

 

 

 「あっ!そう言う事言っちゃうんだ!?帰れ!!」

 

 

 「また明日」

 

 

 「待ちなさい!」

 

 

 スタスタと歩いていこうとしたイチカを鈴が慌てて掴む。

 

 

 「帰れって言ったのはお前だろうが」

 

 

 「言葉の綾よ!」

 

 

 「使い方間違ってないか?」

 

 

 「嘘!?」

 

 

 「あ、あはは……」

 

 

 先程の適応する前のティナと同じような反応をする簪。

 一先ずこのまま廊下に突っ立っているのは時間の無駄だと判断し、一先ず部屋の中に戻る。

 ティナがいる所までの僅かな時間、イチカは簪に話し掛ける。

 

 

 「明日からって時によく来たな」

 

 

 「呼んだのは仙道君でしょ?」

 

 

 「それはそうなんだがな。まさか本当に来るとは思わなかった」

 

 

 「あはは…………仙道君、ありがとうね」

 

 

 「あ?」

 

 

 唐突に言われたお礼にイチカは首を傾げる。

 表面通りに受け取るならゲームに誘った事に対するお礼だが、そうじゃないという事を、イチカはなんとなく感じ取っていた。

 

 

 「だって、明日から急にクラスメイトに話す前に、自分の友達に合わせてくれたんでしょ?」

 

 

 「……」

 

 

 「出掛けた時に、まだクラスに馴染めてない事、話してたもんね」

 

 

 「お前は、俺がわざわざそんな世話を焼くような人間に見えるのか?」

 

 

 「うん。だって仙道君が優しいって言うのは、理解したから」

 

 

 「……そうかい」

 

 

 イチカはわざとらしく視線を逸らしながらボソッとそう呟く。

 それ以上の何かを言った訳では無いが、それでも簪にはイチカの内心は筒抜けの様だ。

 

 

 「改めてありがとう。これからも、よろしくね?()()()

 

 

 「ああ、よろしくな、簪」

 

 

 (やっぱりやりづれぇ……)

 

 

 どうにも、イチカは簪と相性が悪いようだ。

 初対面の頃から何度も感じている事を再確認した。

 

 

 その後、簪とティナが自己紹介をしあい、漸く今日の目的であるゲームが開始された。

 明日からの学校生活に向けて、良いリフレッシュになったようだ。

 

 

 因みに、ゲームでは簪が1VS3の状態に陥っても圧倒的実力でボコボコにしたとここに記す。

 

 

 ~~~~~

 

 

 「ふぁ~~~」

 

 

 翌朝。

 イチカはあくびをしながら教室に向かっていた。

 

 

 昨日意識を切り替えるためにゲームをしたとはいえ、やはり当日になると面倒だと感じてしまう。

 学園内の雰囲気も似たようなものだ。

 休みからの切り替えが半分くらい終わっていない。

 

 

 出来ればこの緩い雰囲気のまま、面倒なあの2人に絡まれること無く平和に過ごしたい。

 そんなイチカの願いは、自分の目的地……つまり、自分の教室からとても賑やかな会話が聞こえてきた事で、ほぼほぼ叶わなくなったと理解した。

 

 

 「朝っぱらからうるせぇな……」

 

 

 自分との温度差が凄い。

 そんなに騒ぐ出来事でもあったのだろうか?

 イチカはテンションが下がっていくのをモロに実感しながら、教室へと歩んでいく。

 

 

 近付いていくにつれ、教室内の喧騒が詳しく伝わって来る。

 どうやらクラスの中で、所謂いつメンで集まっていろいろ話しているようだ。

 そんな事を考えていると、教室前に辿り着いた。

 イチカはため息をつきながら教室の中に入る。

 

 

 「あ、仙道君!おはよう!」

 

 

 「あぁ」

 

 

 元気よく投げかけられた挨拶に適当に返しながら自席に荷物を置く。

 

 

 「イチカさん、おはようございます!」

 

 

 「オルコットか……朝っぱらからうる、いや、元気だな」

 

 

 思わず本音が少し漏れた。

 なんとか取り繕いながら、イチカは話し掛けてきたセシリアの方に視線を向ける。

 

 

 セシリアはイメージ通りの優雅な謎ポーズを取っていた。

 様になっているのがなんとも反応に困る。

 

 

 「何の用だ?」

 

 

 「ええっとぉ、そのぉ……」

 

 

 急に頬を赤くしながらモジモジとし始めるセシリア。

 態度の変化の激しさに、イチカは面倒くさいと言わんばかりの表情を浮かべながら、続きを促す。

 促されてからも少しの間モジモジしていたのだが、イチカがセシリアを無視して席につこうとした瞬間に、慌てたように話し始める。

 

 

 「ご、GW中私も!イチカさんと……」

 

 

 勢い良かったのは最初だけだ。

 途中から視線は泳ぎ出し、口ももごもごとはっきりしない。

 周囲のクラスメイトは微笑ましいものを見るような瞳でセシリアの事を見つめている。

 

 

 何が言いたいのかを察せない程馬鹿ではないイチカ。

 はぁ、とため息をついてから一つ。

 

 

 「連絡先知らないのにどうやって誘えと?」

 

 

 「えっ……?」

 

 

 イチカの言葉を聞いた瞬間、セシリアは呆気に取られたような表情を浮かべる。

 そう、このセシリア・オルコットという女。

 イチカを前にしてしまうとどうも緊張してしまい、連絡先の交換すら出来ておらず、尚且つ緊張によってその事を忘れてしまっていたのだ。

 

 

 「そう言えば私も仙道君の連絡先知らないかも……」

 

 

 「あれ、私も知らない」

 

 

 「そもそも仙道君クラスグループに入ってたっけ?」

 

 

 「誰も招待してなかった気が……」 

 

 

 衝撃の事実が判明した。

 その後、入学から1ヶ月経ち漸くイチカが周囲と連絡先を交換し、セシリアがニッコニコでスマホの画面を見つめていると、チャイムが鳴り響いた。

 

 

 訓練された生徒達は素早い動きで自分の席に座る。

 このクラスの担任は恐怖の織斑千冬なのだ。

 少しでも遅れると一日中機嫌が悪くなり、まともに授業をしてくれなくなるのだ。

 そうなった場合、後々困るのはテスト前の自分達だし、ピリついた千冬はただでさえ遠慮がない暴力に出る頻度が3倍に跳ね上がるので身体的ダメージも計り知れない。

 

 

 まだ1ヶ月なのに篠ノ之箒が自分の頭を押さえて蹲った回数はもはや数えきれない。

 

 

 ガラガラガラ

 

 

 「みなさん、おはようございまーす」

 

 

 「……」

 

 

 教室の扉が開き、真耶が朗らかな笑顔で元気よく挨拶しながら教室に入って来る。

 それとは対照的に千冬はムスッとしている。

 

 

 「はぁ……」

 

 

 たった数秒。

 真耶の挨拶以外何もされていないにも関わらず、イチカは察した。

 今日、絶対に一波乱も二波乱もあると。

 

 

 その後、一先ずは普段通りの朝のHRが行われた。

 だが、どうしても千冬の機嫌が悪いのが気がかりでクラスの全員が中々集中できなかった。

 進行している真耶でさえ、チラチラと千冬に視線を向けている。

 

 

 「はい、何時もならここでHRは終わりますが……今日は最後に、みなさんに嬉しいお知らせがありまーす!!」

 

 

 真耶の明るい声。

 だが、今の1年1組にはそれに対して同じ様なテンションでリアクション出来るものなど1人もいなかった。

 

 

 リアクションが無かったショックか、千冬からの威圧感によるものかは不明だが真耶は涙目になりながら話を続る。

 

 

 「本日から、このクラスに新しいお友達が参加してくれます!」

 

 

 ざわざわ!!

 

 

 「えっ!?転校生!?」

 

 

 「GW明けのこのタイミングで!?」

 

 

 転校生という最高のイベント。

 いくら担任が威圧感を醸し出していても、華の女子高生としては騒がずにいられない。

 

 

 「しかも、2人もです!!」

 

 

 賑やかなリアクションが帰って来た事に安堵した真耶。

 心底嬉しそうな表情で情報を追加する。

 

 

 同時に2人も転校生がやって来るという滅多に聞かないその内容にクラス内の騒がしさは更に増していく。

 だが、それと比例していくようにイチカは眉間に皺を寄せる。

 

 

 (GW明けの妙な時期に、転校生が同一クラスに2人?明らかに何かしらの意図を感じる……しかも、男性IS操縦者()っていう爆弾が有るクラス……)

 

 

 「はぁ……」

 

 

 (ただでさえあの2人がいるってのに……なんで平和に暮らせないんだ……)

 

 

 ISが動かせると分かってから常に様々な思惑などの渦中にいるイチカ。

 こんな文句が出ても仕方が無いくらいには、心休める状況に無いのだ。

 

 

 「それではお2人、入って来てくださーい!!」

 

 

 真耶が扉に顔を向け、呼びかける。

 一拍置いてガラガラと音を立てて扉が開き、真耶の宣言通りに2人教室に入って来た。

 

 

 『えっ!?!?』

 

 

 その瞬間、クラス中から今日一番大きな声が上がり、それと同時にイチカの眉間の皺が濃くなる。

 だが、それも当然だろう。

 何故なら、入って来たのは銀髪で右眼に眼帯を着けた小柄な生徒と……金髪で、イチカと同じ男子用の制服を着用した生徒だったのだから。

 

 

 「男子!?男子!?」

 

 

 「2人目の男子!!うちのクラスに!!」

 

 

 「こんな事ってあるの!?」

 

 

 (そんな訳無いだろうが……)

 

 

 もはや千冬に対する恐怖感など忘れ去ったと言わんばかりに盛り上がる教室内。

 ただ1人イチカはジッとその生徒の事を観察していた。

 

 

 (立ち方……それに骨格的に、同じ男子だとは思えないが……くっそ、服が邪魔だな。握手でも出来れば確信できるんだが……)

 

 

 「ではお2人とも、自己紹介をお願いします!」

 

 

 すっかり真耶も何時も通り元気だ。

 

 

 「はい」

 

 

 件の生徒が1歩前に出る。

 ニコッと柔らかい笑みを浮かべ、自己紹介をし始める。

 

 

 「初めまして、フランスから来ましたシャルル・デュノアです。この度、こちらの学園に僕と同じ境遇の人が居ると伺って転校してきました」

 

 

 そう言うと、シャルルは教室の後ろの方から前の方へと視線を移動させる。

 すると当然、シャルルの事をジッと観察しているイチカと視線が合う。

 

 

 ジッと見られている事にシャルルは数度瞬きしたが、転入生なのだから注目されるのは当然かと自身を納得させた。

 

 

 「慣れない事も多いと思うので、みなさんに迷惑を掛けてしまう事もあるとは思いますが、是非よろしくお願いします」

 

 

 最後にキラッという擬音が聞こえてきそうな程の笑顔を浮かべ、綺麗な姿勢で軽く頭を下げるシャルル。

 黄色い声援が教室内から飛び交う。

 数舜後、教室内の注目はシャルルの隣……もう1人の転校生に移る。

 

 

 男子制服に気を取られていたが、着用している眼帯は医療用ではない。

 軍人がしているそれだった。

 

 

 「……あ?」

 

 

 周囲と同じようにシャルルから視線を移動させたイチカは、出すつもりが無かった声が出た。

 だが、それも仕方が無いだろう。

 眼帯で顔が半分隠れているのにも関わらず、一目でわかるほどにイチカの事を睨んでいるからだ。

 

 

 クラスメイト達も当然その視線に気が付く。

 先程までキャーキャーと騒いでいた教室内の空気がまた重たくなる。

 

 

 (今日はころころ雰囲気が変わるな……勘弁してくれ……)

 

 

 「あ、あのぉ、自己紹介をして頂いても……?」

 

 

 イチカが心の中でため息をつくと同時に、真耶が弱々しい声で自己紹介を促す。

 無表情のまま真耶の事を数舜見つめた後、先程のシャルルと同様に一歩前に出る。

 

 

 「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

 「……え?えぇっと、終わりですか?」

 

 

 「以上だ」

 

 

 僅かに開いている窓から教室内に入って来る風の音がやけに大きく感じる。

 真耶の

 

 

 (どうしようどうしようどうしよう……!?!?)

 

 

 という心の声が聞こえてきそうなくらいには、無言の時間が続く。

 

 

 (おいおい担任、如何にかしろよ……)

 

 

 と、イチカはHRが始まってから一言も喋っていない千冬に視線を向ける。

 すると、千冬は我関せずと言わんばかりに腕を組み、視線を教室の隅の方に向けていた。

 

 

 「チッ」

 

 

 思わず舌打ちをするイチカ。

 イチカの席の関係で、その様子は教卓からはよく見える。

 それがいけなかったらしい。

 

 

 「貴様っ……!!」

 

 

 「あ?」

 

 

 怒りに満ちた表情で叫んだラウラ。

 そのまま素早い動きでイチカの席の前までやって来ると、腕を大きく振りかぶる。

 イチカは座っているため、完全に顔面を殴る勢いだ。

 

 

 周囲の誰かが制止する間もなく、イチカの顔面にラウラの拳が激突する……その直前。

 

 

 「遅ぇ」

 

 

 「何ッ!?」

 

 

 面倒くさそうな表情で、同じく面倒くさそうな声色でボソッと呟いたイチカ。

 ラウラの腕をガシッと掴み、ため息をつく。

 

 

 「初対面だよな?お前の育ったところでは初対面の相手の顔面を殴るって教わったのか?だったらその教えた奴はモグリなんだな」

 

 

 小馬鹿にするような表情と声色のイチカ。

 それを見て、ラウラの怒りが更に膨れ上がる。

 

 

 「黙れぇ!!私は認めないぞ!!お前が、お前なんかが!!あの人の、織斑教官の弟などと!!」

 

 

 「織斑教官だぁ?」

 

 

 イチカは思わず顔ごと千冬の方を向く。

 転校生が初っ端暴力沙汰を起こしているのにもかかわらず、無関心を貫いていた。

 その様子にイチカはため息をついてからラウラに視線を戻す。

 

 

 「俺にそんな名前の兄か姉はいない。俺は仙道イチカだ」

 

 

 「……チッ」

 

 

 ラウラは盛大に舌打ちすると、イチカの腕を振り払う。

 ジッと睨み合いの時間が続く。

 周囲のクラスメイトもヒヤヒヤしながら2人の事を見守っている。

 

 

 「あー、えっと、その……デュノアさんの席がそこで、ボーデヴィッヒさんの席がそこになりますので、移動をお願いします……」

 

 

 戦々恐々と言った様子で、真耶が転校生2人の席を指さしで示す。

 ラウラは最後にイチカをギロリと睨むと、指示された席に向かって歩いていく。

 呆然とした表情を浮かべていたシャルルも、最後にイチカに視線を向けてから席に向かった。

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 「あっ!これで朝のSHRは終了します!1限目の授業の準備を忘れないで下さいね!それでは!!」

 

 

 天の恵みとばかりにチャイムが鳴り響いた直後、早口でクラスの面々に伝えた真耶はそそくさと教室から退散していった。

 イチカがチラッと確認すると、千冬はイチカに視線を向けていたが、やがて真耶と同じように教室からは出て行った。

 

 

 「……」

 

 

 誰も言葉を発しない異様な雰囲気。

 さっき転校生で盛り上がっていたとは到底思えない。

 

 

 (骨格的に男子疑惑がある転校生と、アイツを教官だとか言う暴力転校生……)

 

 

 イチカは左手で頭を押さえながら、懐からタロットカードを取り出す。

 

 

 (THE EMPERORの逆位置……EMPERORの教え子もまたEMPEROR、か……)

 

 

 以前千冬に対して突き付けた逆位置のTHE EMPEROR。

 無責任で傲慢というのを、イチカはラウラにも感じていた。

 

 

 「はぁ……全くもって面倒だ……」

 

 

 イチカがため息をつくと同時にカードをずらすと、別のタロットカードが姿を現した。

 THE TOWERの逆位置。

 崩壊寸前。

 

 

 心底うんざりした憂鬱な気分になりながら、イチカは1限目の授業の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

 『イチカと鈴のじゃれつき』

 

 

 イチカと鈴ちゃんは、ご存じのとおり昔からの知り合いデヨ。

 地獄の破壊神という二つ名がつく前から、イチカが鈴ちゃんをからかってそれに鈴ちゃんがムキーッ!となるのがお決まりだったデヨ。

 年々破壊力を増していく鈴ちゃんじゃが、イチカは全く臆さずに鈴ちゃんで遊び続けてるデヨ。

 2人とも、何時までも仲良くじゃれうデヨ!

 

 

 「じゃれあってねーわ!」

 

 

 「じゃれあって無いわよ!!」

 

 

 ひょわぁ!お助け~~~~!!

 

 

 




次回予告

千冬と箒に加え、転校生2人と悩みの種が一気に4つになったイチカ。
頭痛を感じながらも箒の突っかかりや千冬の妨害を躱し、転校生を如何にかしようと模索する。

「……ああ、そうだな」


次回、IS~箱の中の魔術師~『波乱万丈な生活』、見てね!!
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