IS~箱の中の魔術師~   作:ZZZ777

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実は今までダンボール戦機のキャラがそこまで絡んでこなかったので、GWからはガッツリ出していきます!!

ISキャラとダン戦キャラの名前が被ってる事案に悩みましたが、漢字表記とカタカナ表記なのでもう気にしない事にしました。

いつもより長めです。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


GWⅠ 帰宅と過去

4月末にあったクラス対抗戦もとい、IS学園襲撃事件から数日が経った。

世間一般では、今日からゴールデンウィークである。

日本において祝日が連続する事により起こる連休、それがゴールデンウィーク。

 

 

長期休みであるが故、IS学園生も入学以来1ヶ月ぶりに羽を伸ばせるという訳だ。

男子生徒以外の生徒は全員寮で生活をしている為、遠くの地へ旅行等は難しいだろうが、それでも本土に行ってショッピングを楽しんだり、はたまた部屋で好きなアニメ等を一気見するか。

そんな感じの有意義な休日を送れるだろう。

 

 

そんな日の朝。

ブルーキャッツの居住スペース、イチカの部屋。

 

 

ピピピ!ピピピ!ピピピ!

 

 

「ん、あぁ…朝か……」

 

 

けたたましく鳴り響く目覚まし時計のアラームと、カーテンの隙間から部屋に侵入してくる太陽の光によってイチカは目を覚ました。

上体を起こし、目を擦りながらアラームを止める。

 

 

「…トイレにでも行くか」

 

 

イチカはベッドから降り、身体を軽く伸ばすとトイレへと向かう。

用を足し、手を洗い、一度部屋に戻り着替えを行う。

平日だったら制服に着替えるし、休日だったら着替えない事も多いので、イチカは暫くぶりに私服に袖を通す。

 

 

「ん…?これ大分キツイな…別の別の……」

 

 

高校1年生はまだまだ成長期。

服が入らなくなる事だって多いだろう。

暫くぶりに着る服なら尚更だ。

 

 

イチカがちゃんとした私服を着用する理由。

それは、今日は街に繰り出す予定があるからだ。

流石に他人の目が付く場所に、だらけた服装で行くほどイチカは馬鹿ではないのだ。

 

 

着替え終わったイチカは洗面所に向かい、身だしなみを整える。

整え終わった後はリビングへと向かう。

喫茶店の方にもキッチンがあり、住居スペースの部分にもキッチンが存在する為、ブルーキャッツにはキッチンが2つあるのだ。

住居スペースはリビングどダイニングが一緒のタイプなので、リビングに行くという事はキッチンも近いという事である。

 

 

「おはよう」

 

 

「ああ、イチカ。おはよう」

 

 

「イチカ、遅いぞ!」

 

 

「まだ6時だろうが…」

 

 

イチカがリビングに着いたときには、もう既に蓮と真実がいた。

蓮はキッチンに立ち朝食を作っており、真実は椅子に座り朝のニュース番組を見ていた。

 

 

「マスター、モーニングの仕込み大丈夫なのか?」

 

 

「ああ、もう殆ど終わらせている。朝食を食べ終えたら直ぐ行くさ」

 

 

軽やかにウインナーを焼きながらイチカの質問に答える蓮。

ゴールデンウィークだろうと、喫茶店は休まない。

寧ろ、長期休みは掻き入れ時なので何時もより頑張らないといけないのだ。

 

 

「なるほど。話題は変わるが、水くれ」

 

 

「冷えた麦茶が冷蔵庫にあるが?」

 

 

「あー、そっち貰う」

 

 

イチカは蓮の後ろを通り、洗浄済みの自分のコップを取ると、冷蔵庫を開け冷えた麦茶を注ぐ。

そのままリビングに向かい、真実の斜め前の椅子に座る。

 

 

「レックス、まだ朝っていうのにあんたは元気だな…現役の頃よりパワーあるんじゃないか?」

 

 

先程の遅いぞと言う発言を思い出しながら、麦茶を一口飲む。

寝起き最初の水分は身体に染みる。

そんな事を考えていると、真実が笑いながら言葉を発する。

 

 

「それは無いさ。現役の頃の方が、私も色々やってたさ。まぁ、気力が落ちる訳が無いけどな!」

 

 

「はいはい。それでレックス、最近タイニーオービットの試作品テスト以外になんの仕事してんだ?」

 

 

「あれ?言ってなかったけか?」

 

 

「聞いたこと無いから今聞いたんだろうが」

 

 

「ハハハ、それはそうか」

 

 

「…やっぱ1枚負けてるなぁ」

 

 

IS学園ではあの千冬すらも煽り倒せるほど舌戦が強く、度胸や頭のキレも群を抜いているイチカ。

そんなイチカを持ってさえも、真実にはどうしても調子が狂うらしい。

これも、レックスという異名を与えられた真実故か。

 

 

「私は今、全国の小中学校で講習をしてるんだよ」

 

 

「ほう。やっぱりブリュンヒルデ様は人気がありますねぇ」

 

 

「おお、久しぶりにそっちで呼ばれた」

 

 

「まぁ、あんたは大体名前で呼ばれるかレックスで呼ばれるかの2択だからな。IS学園の講師にならないかっていう依頼は無かったのか?」

 

 

「あったさ。だが、来たのはもうイチカと会った後だったからなぁ。織斑千冬と働けるビジョンが浮かばなかったから断った」

 

 

「賢明な判断だ」

 

 

「2人とも、出来たぞ」

 

 

両手にお盆を持ち、その上に全員分の朝食を持ってきた蓮が2人に声を掛ける。

そこで会話を終わらせ、朝食を食べる事にする。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

本日の朝食メニューは、フレンチトーストが2枚に、目玉焼きとウィンナー2本とレタスのサラダ。

イチカはそれがもう1セットである。

男子高校生なので、大人よりも多く食べるのである。

 

 

暫くの間、テレビから流れているニュース以外無音の時間が続く。

イチカが1セット分を食べ終わり、3枚目のフレンチトーストに手を伸ばそうとした時、不意にイチカは何時か聞こうと思い、ずっとそのままだった疑問がある事を思い出した。

そろそろ寮の1人部屋も確保できるだろうし、出来るだけ早めに聞いておこうと思い、口を開く。

 

 

「今と全く関係ないが、ずっと聞きたかった事があってな」

 

 

「なんだ?」

 

 

「レックスの異名。なんでレックスになったんだ?」

 

 

イチカが聞きたかった事。

それは真実の異名についてだ。

モンド・グロッソ優勝者につけられるブリュンヒルデは女性の為の称号に相応しい。

だが、『レックス』はいささか女性に付ける異名ではない。

それにどのくらいの時期から、どういう経緯でそうなったのかすらイチカは知らないのだ。

 

 

「ああ、それは元々俺のだからな」

 

 

「マスターの?」

 

 

イチカの疑問に答えたのは、真実ではなく蓮だった。

そして、その返答を聞いたイチカは珍しく驚いたような表情を浮かべる。

確かに、蓮の少々ワイルドな風貌に、『レックス』という異名はピッタリかもしれない。

だが、この説明だけだったら何故蓮にそんな異名が付いていて、それが何故今真実の異名になっているのかが分からない。

蓮も当然それを理解しているので、続きの説明を開始する。

 

 

「俺が喫茶店を始める前に、タイニーオービットに勤めてたのは知ってるだろ?」

 

 

「ああ。博士の部下で、拓也さんの元同僚で、脱サラして始めたんだろ?」

 

 

「そうだ。そしてタイニーオービットに勤めていた時、俺はモデラーとしても活動していたんだ」

 

 

「モデラー?初耳だな」

 

 

「ああ。真実、雑誌まだ残ってないか?」

 

 

「兄さんの雑誌なら此処に」

 

 

真実はブラコンである。

蓮関連のものだったら片っ端から保管している。

雑誌くらいなら山のように保管してある。

 

 

持ってきた雑誌をイチカに見せる。

ISが開発される前の、そこそこ古い雑誌。

そこには、綺麗に組み立てられ、躍動感のあるポーズをしているロボットのプラモデルの写真。

ページをめくると、今より若い蓮の写真とインタビュー記事が載っていた。

 

 

「ほぉ~、そうか、それでモデラ―をしていた時に使ってた名前が」

 

 

「ああ、レックスだ」

 

 

「なるほど、異名じゃなくて活動名だったか…」

 

 

蓮が元々レックスだった事の理由は分かった。

イチカは視線を真実へと向ける。

真実は若干気まずそうに頬をポリポリ掻きながら視線を逸らす。

 

 

「わ、私が今レックスって呼ばれるのは、その…兄さんから貰ったからで…データ収集目的で参加したISの大会で、インタビューの時なんとなく名前口にしたら、それが一気に定着しちゃった…」

 

 

「なるほど、ブラコンが興じただけか」

 

 

「その言い方は無いだろう!」

 

 

「事実だ。で、その大会で注目されたから国家代表とかでも無いのにモンド・グロッソに出場したと」

 

 

「そういう事」

 

 

「ほ~ん、そうだったのか。教えてくれてありがとさん」

 

 

全部を聞き終えたら興味を無くしたのか、中断していた食事を再開する。

蓮や真実も食事を再開し、全員がほぼ同時に食事を終えた。

後片付けを行う。

 

 

「俺は開店準備に行く」

 

 

「行ってこい」

 

 

「いってらっしゃい、兄さん」

 

 

「ああ」

 

 

蓮はその言葉を残すと、そのままモーニングの開店準備に向かう。

こうして残ったイチカと真実。

 

 

「イチカ、何時に行くんだ?」

 

 

「10時くらいだ」

 

 

「そこそこ遅いんだな」

 

 

「向こうについて、話すことは色々あるが、やる事は少ないからな」

 

 

「なるほどな…ならさ、イチカ」

 

 

「……なんだ?」

 

 

嫌な予感がする。

そう言わんばかりの表情を浮かべるイチカに、真実は笑顔で言葉を発する。

 

 

「まだ時間があるな!それまで私が稽古してやる」

 

 

「断る!」

 

 

「逃げるな!」

 

 

迅速に逃げようとしたイチカだが、すぐさま真実に捕まる。

そしてズルズルと引きずられていく。

 

 

「ハハハ!イチカ、お前を鍛えたのは私だぞ?逃げ切れると思うな!」

 

 

「クソがぁああああああ!!」

 

 

その叫び声を残し、イチカはこってり2時間ほど真実の稽古を受ける事になったのだった。

 

 


 

 

「レックス…いつか絶対に超えてやるからな……!!」

 

 

現在時刻、12時半。

イチカは疲れたような表情を浮かべながら道を歩いていた。

 

 

あの後真実にボコボコにされたイチカは、纏めてあった荷物を持ち駅へと向かい、女尊男卑の影響で形見の狭くなった男性たちと共に電車を乗り継ぎ、目的地の最寄り駅へとやって来た。

駅で簡単に昼食を済ませ、そこから更にバスに乗り住宅街へとやって来た。

此処からは歩かないといけないので、今こうして歩いているという訳だ。

 

 

「ん…?」

 

 

目的地へとイチカの視界に、1つの中学校が入って来た。

ミソラ一中。

つい数か月前までイチカが通っていた中学校であり、かつてはイチカの兄も通っていた中学校。

見慣れた光景のはずなのに、ISが動かせることが分かってからはとても濃密な時間を過ごしている為、随分と久しぶりに感じる。

 

 

「…とっとと行くか」

 

 

少しの間校舎を見つめていたイチカだが、これ以上は時間の無駄だと判断し再び歩き始める。

そこからほどなくして、イチカは目的の場所に到着した。

目の前にあるのは、何の変哲もないただの一軒家。

新築という訳でもなく、外観から生活感漂うこの家。

表札には『仙道』の苗字が書かれていた。

 

 

そう、此処は仙道家。

イチカの家である。

 

 

「帰って来たな…ブルーキャッツで暮らし始めてからまだ1ヶ月くらいだが、随分と懐かしく感じる」

 

 

先程ミソラ一中の前を通ったときにも感じた懐かしさ。

中学を卒業した後も、当然のように住んでいたこの家。

ミソラ一中以上に慣れ親しんだ自分の家。

それなのに、やっぱり1ヶ月でも離れると懐かしく感じる。

 

 

イチカは学園では見せないような優しい微笑を浮かべると、門を開け玄関前に立つ。

鍵を開け、玄関の扉を開ける。

 

 

「ただいま」

 

 

玄関の扉が完全に閉まった事を確認してから振り返る。

その瞬間、イチカの視界に入って来たのは、見慣れた仙道家の玄関……を背景にした、紫色の長髪が似合う美少女が自分に向かって突っ込んで来る光景だった。

 

 

「イチカお兄ちゃーん!!」

 

 

「ふごぉっ!?」

 

 

予想外の衝撃に、イチカは珍しく空気の漏れるような声を発した後、背後から玄関に倒れ込んだ。

 

 

「痛った…」

 

 

イチカは地面に打った頭を摩りながら、何が起こったのかの整理を行う。

すると、自分に抱き着き、胸に頬ずりをしている人物を視認した。

何が起こったのかを一瞬にして理解したイチカは、ため息をついてから声を発する。

 

 

「…キヨカ、突っ込んで来るのはやめろ」

 

 

「えへへへ。一ヶ月ぶりのイチカお兄ちゃんだぁ」

 

 

イチカの若干呆れたような声に、胸の美少女…仙道キヨカはニコニコの笑顔を浮かべる事で反応する。

 

 

キヨカは仙道家の長女で、イチカの妹である。

中高一貫校である神威大門統合学園中等部に通っている中学2年生で、イチカと兄もそこそこ頭がいい方だが、キヨカはそれ以上の天才肌で頭がいい。

その上しっかりと努力もしているのだから、今以上に成長したら自分では勝てないだろうとイチカは思っている。

流石に運動神経ではイチカの方が圧倒的に上なのだが。

 

 

神威大門統合学園はIS学園と同じく全寮制の学校だが、キヨカは出来るだけ早くイチカに会いたかったので、朝の9時には仙道家に帰って来ていたのである。

 

 

「全く、なんでこんな風になっちまったんだ…」

 

 

イチカがキヨカと初めて会ったとき、キヨカはここまでべったりでは無かった。

寧ろ、兄の後ろに隠れていて、バリバリに警戒されていた。

だが、気が付いたらこうやってべったりになっていた。

もう何度寝ている間にベッドに忍び込まれたのか分からない。

去年からキヨカは寮住まいなのに。

 

 

「フフフ、キヨカは本当にイチカの事が大好きねぇ」

 

 

「仲がいいのはいい事だ。お帰り、イチカ」

 

 

未だに玄関で倒れているイチカとキヨカに向かって、家の奥の方…リビングの方向から2人分の声が聞こえてきた。

顔を見なくても、誰の声なのか簡単に分かる。

キヨカが上に乗っている為顔を見る事が出来ないが、声を発する事で反応する。

 

 

「ただいま、母さん、父さん」

 

 

イチカの言葉に、その2人…母の仙道明美(あけみ)と父の仙道智也(ともや)は嬉しそうな表情を浮かべる。

明美と智也は共にタイニーオービットに勤めているが、明美が計算課、智也が営業課なのでイチカがジョーカーのメンテナンスでタイニーオービットに訪れても顔を合わせる機会など存在しないので、キヨカと同じく顔を合わせるのは1ヶ月ぶりである。

 

 

「キヨカ、あんまりイチカに迷惑かけちゃ駄目よ。IS学園なんて慣れない環境で頑張ってるんだから、家でくらいゆっくりさせてあげて」

 

 

「…はーい」

 

 

明美の言葉に、渋々といった様子でイチカから離れるキヨカ。

そんな様子を見て、智也は苦笑いを浮かべながら言葉を発する。

 

 

「ははは、キヨカはイチカといるときだけ、雰囲気が変わるなぁ…」

 

 

「そうなのか?確かに初対面の時とはかなり違うが…何時もこんなんだろ?」

 

 

イチカが知らないのも無理はない。

智也の言う通り、キヨカがこんな態度になるのはイチカの前だけだからだ。

 

 

イチカが仙道家に引き取られる前から、キヨカは元々お兄ちゃんっ子だった。

その関係は、思春期にしては仲のいい兄妹レベルだった。

だが、イチカと関わり始めた事で、キヨカは異常なほどイチカに懐いた。

結果として、キヨカはイチカに対するド級のブラコンに育ったのだ。

 

 

神威大門統合学園にいるときなど、イチカが居ない時はどちらかというと物静かでミステリアスな印象で、イチカと一緒に居る時でも他人の対応をする場合はクールに対応するのだが、イチカと話す時だけはデレデレになるのだ。

常にデレデレなので、イチカは物静かなキヨカを見れる機会がほぼゼロ。

その為、智也の発言に首を捻ったのだ。

 

 

「ふぅ、帰って来たばっかでえらい目にあった」

 

 

ずっと倒れていたイチカは立ち上がりながら頭を数度ふる。

えらい目といった表現にキヨカがムスッとした表情を浮かべるが、イチカはそれを特に気にせず漸く靴を脱ぎ、漸く仙道家に上がる。

 

 

「取り敢えず荷物置いてくる。いろいろ話したいし、聞きたいだろうが、それからだ。キヨカ、お前もリビングで待ってろ」

 

 

「分かったよ、イチカお兄ちゃん」

 

 

イチカに言われた事は、どうしても譲れない事以外素直に聞くキヨカ。

大人しく両親と共にリビングに向かう。

それを横目で見ながら自分の部屋に向かう。

仙道家3兄妹の部屋は全員分2階にある。

イチカの部屋は2階の中でも1番奥で、他2人と比べると部屋も狭い。

 

 

理由は単純で、イチカが仙道家の家族になったときには、もう既に空き部屋がなく、物置として使われていた部屋ぐらいしか使えなかったからだ。

だが、イチカはそこまで物欲がある訳でも無い為荷物は多くなく、部屋の広さも必要な物は入って横になれるスペースと机が確保されてればそれ以上いらないという考えの持ち主なので、狭い部屋でも特に問題無く受け入れているのだ。

 

 

「ああ…この部屋は落ち着くなぁ…」

 

 

部屋に着いたイチカは、荷物をそこらへんに放りベッドにゴロンと横になる。

家の中でも、リビングと同じかそれ以上に慣れ親しんだ自分の部屋。

イチカが一瞬でリラックスモードになるのも仕方が無い。

そのままゴロゴロしたいのだが、リビングに家族を待たせている為ずっとそうしている訳にもいかない。

立ち上がり、軽く伸びをしてから部屋をで、リビングに向かう。

 

 

その道中、行きの時は特に気にならなかった兄の部屋の扉が視界に入った。

 

 

「そう言えば、まだ兄さんはプラモ作ってるのか…?」

 

 

思い出されるのは、今朝の蓮との会話。

そして数年前、兄が友人達と共に模型店に向かう光景だった。

イチカも兄の影響を受け、数個ほどプラモデルを作った事がある。

兄の道具を借りて制作されたそのプラモデルは、世間一般からするとかなりの完成度を誇っているが、兄達制作のものはそれ以上の完成度を誇っている。

それこそ、かつての蓮のようにモデラ―としても活動できるくらいに。

 

 

その為、イチカは自分が造ったものは飾らずに部屋の数少ない収納スペースに仕舞われている。

ド級ブラコンであるキヨカが、イチカが感じれるものが欲しいと言ったので、一番の自信作をあげたりもした。

 

 

「今度、久々に作ってみるか…今は新しいスペースも出来たしな」

 

 

最後にそう呟くと、再びリビングに向かって歩き、無事にリビングの扉の前に着く。

いざリビングに入ろうとした時、手を洗っていなかった事に気が付いたので、洗面所で手洗いうがいをしてから、改めてリビングの扉の前に立つ。

 

ガチャ

 

扉を開け、リビングへと入る。

 

 

「来たぞ」

 

 

「イチカ、コーヒーと紅茶どっちがいい?」

 

 

「別に客じゃないからいらないが?」

 

 

「良いから良いから。みんなでティータイムよ」

 

 

「…コーヒー、ブラックで」

 

 

「はーい」

 

 

明美はニコニコした笑顔を浮かべながらティータイムの準備をする。

それを横目に見ながらイチカはダイニングテーブルに座る。

座り方としては、イチカの隣にキヨカ、キヨカの向かいに智也、イチカの向かいに明美である。

 

 

「そういえば、兄さんは?帰って来る予定じゃ無かったのか」

 

 

「ああ、到着は夕飯ごろらしい。どうにも電車が遅れているみたいだ」

 

 

「俺の時はそんな情報無かったが」

 

 

「使う線が違うんだろう。空港からとIS学園からじゃ」

 

 

「まぁ、そりゃそうか」

 

 

「は~い、お待ちどうさま~」

 

 

明美がイチカの分のコーヒーと、3人分の紅茶、お茶菓子を何個か持ってきた。

机の上に並べていく。

 

 

「なんだ、俺以外紅茶なのか。まとめてくれても良かったが」

 

 

「私が好きで用意したんだから、気にしないで良いの」

 

 

「へいへい」

 

 

明美の言葉に適当に返事をし、コーヒーを飲むイチカ。

そんな様子に苦笑をしながらも、キヨカ達も紅茶を飲む。

そのまま菓子類をつまみながらとめどない会話をする。

イチカがIS学園の生活を簡単に話したり、キヨカも同じ様に神威大門統合学園での生活を話した。

智也と明美は2人の話をニコニコしながら聞いていた。

まだ高校生と中学生、世間ではまだ家で生活していても全然おかしくない年齢だが、寮生活の為なかなか会うことは出来ない。

だから、こうやって家の中で話しを聞けるだけでとても嬉しいのである。

 

 

♪~~♪~~

 

 

「あ、私。友達から通話だ」

 

 

「あら、早く出ちゃいなさい。友達を待たせちゃ駄目よ」

 

 

「分かってる」

 

 

話す内容がボチボチ無くなって来たころ、キヨカのスマホが着信音を鳴らした。

キヨカはハンドメイドのジョーカーストラップが付いたスマホを取り出してから席を立ち、そのままリビングから廊下に向かう。

 

 

「もしもし?私だけど。ユノ、どうかした?」

 

 

その背中を見送っていると、不意に明美がイチカに質問をする。

 

 

「イチカは、IS学園で新しい友達は出来た?」

 

 

「そんなものいらん。元々いた奴らだけで十分だ」

 

 

「こらっ!そんな事言わないの!」

 

 

「はぁ……へいへい、善処しますよ」

 

 

イチカは心底どうでもよさげにそう返事すると、少し残っていたコーヒーを飲み干す。

そんな態度に明美と智也は苦笑を浮かべる。

 

 

「全く、誰に似たんだか」

 

 

「本当ねぇ」

 

 

「……」

 

 

2人はイチカに聞かせる形でそう会話をし、イチカは若干気まずそうに視線を逸らす。

やはりイチカも高校生、母と父には勝てないようである。

そうこうしていると、通話を終えたキヨカが戻ってきた。

 

 

「今度、買い物に行かないかって話だった」

 

 

「あら、良いじゃない。青春は短いんだから、楽しんでらっしゃい」

 

 

「…そうするわ」

 

 

キヨカはすました感じでそう答えるが、楽しみという雰囲気が漏れ出していた。

イチカは苦笑を浮かべる。

 

 

「あら、結構話しちゃったわね。そろそろ夕飯の準備しないと」

 

 

「もうそんな時間か」

 

 

全員が時計を確認すると、確かにもう夕方の時間だった。

明美は慌てて夕ご飯の準備を開始する為にキッチンに向かう。

残った3人は、何かする事がある訳では無いので、ダラダラタイムが始まった。

適当に付けたTVを見ながら、適当に話すという休日そのものの時間を過ごす。

キヨカがイチカの膝の上に座っているのはご愛敬である。

イチカはなんとか降ろそうとするも、キヨカが抵抗して危ない為諦めた。

 

 

夕ご飯の美味しそうな匂いがリビングに漂ってきた時、

 

 

ガチャ……バタン

 

 

と、玄関の方向から扉を開閉する音が聞こえてきた。

イチカとキヨカは視線を合わせた後、少し嬉しそうな表情を浮かべ、リビングの扉に視線を向ける。

玄関の方からしてくる足音がだんだん大きくなってきて、ガチャとリビングの扉が開き、1人の人物が入って来た。

 

 

「よぉ、帰ったぞ」

 

 

「お帰り、兄さん」

 

 

「お帰りなさい、ダイキお兄ちゃん」

 

 

「おお、ダイキ。帰って来たか」

 

 

キヨカと同じ紫色の髪を短く切りそろえた、長身のイケメン。

彼こそが、仙道家長男、イチカとキヨカの兄、仙道ダイキである。

 

 

「兄さん、取り敢えず手洗ったら?」

 

 

「ああ、そうだったな」

 

 

足音で洗面所に寄ってない事は分かっていたイチカの忠告に、ダイキは素直に従い洗面所に向かう。

2人して手洗いを忘れるあたり、似た者兄弟である。

 

 

ダイキはプロの占い師として生計を立てており、普段は1人暮らしである。

この腐っている過度な女尊男卑の世界で、数少ないテレビなどのメディアに出ても叩かれない男性の1人でもある。

 

 

元々は日本でのみの占い活動をしていたが、2年ほど前から海外へ活動を伸ばしている。

その為、今現在はアメリカ住まいである。

 

 

そんなダイキが今日帰国した理由は至って単純。

普段バラバラに暮らしている弟と妹が実家に帰って来るからである。

キヨカはイチカに対してド級のブラコンだが、ダイキはダイキで隠れシスコン兼隠れブラコンである。

 

 

「戻ったぞ」

 

 

「あら、ダイキお帰り。丁度夕ご飯出来たわよ」

 

 

ダイキがリビングに戻って来た時、丁度明美が夕ご飯を作り終えた。

イチカが机の上を拭き、キヨカと智也が机の上に夕ご飯を並べていく。

 

 

「随分豪華だな」

 

 

「今日は久々に家族が揃うから、張り切っちゃった♪」

 

 

心底楽しそうな表情を浮かべながら、明美がそういう。

 

 

「母さん、明日の朝は俺が作るぞ」

 

 

「あら、本当?ならお願いしちゃおっかな」

 

 

「イチカお兄ちゃんの料理……楽しみ」

 

 

そんな会話をしながら、改めて5人全員が席に座り、手を合わせる。

 

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

しっかりとこの言葉を発してから、何時もより豪華な夕ご飯を食べ始める。

1人で食べるときは面倒で言わない事も多いダイキとイチカだが、こんな明美の目があるところでそれをやったらなんて言われるのか分からないので、素直に言う事にしたのだ。

 

 

「……なんか、やっぱ俺だけ髪色黒なの浮いてるよな」

 

 

改めて全員が揃ったので、イチカが自分の髪を弄りながらそう言葉を発する。

血の繋がりが無いイチカを除き、仙道家の髪色は全員紫である。

家族1人だけ色が違うので、何度か髪を紫に染めようと考えていたが、結局似合わないと思い染めていないのである。

 

 

「まぁ、いいんじゃないか?イチカはそれが似合ってる」

 

 

「ああ、無理に髪色を変える必要は無いと思うぞ」

 

 

「……そっか」

 

 

ダイキと智也に言われ、イチカは素っ気なく答える。

だが、声色が少し嬉しそうなのを4人は聞き逃さなかった。

ニヤニヤしながらイチカを見つめ、イチカは若干気まずそうに視線を逸らす。

 

 

それから、暫くの間家族全員でどうでもいい会話をする。

この何気ない会話が、家族としては大事なのだ。

 

 

ご飯の残りが半分に差し掛かった時、キヨカが唐突にとあることを呟いた。

 

 

「……普段さ、私達ってバラバラに暮らしてるじゃん?」

 

 

「そうね、それがどうかした?」

 

 

「だから、こうして5人全員揃ってると、イチカお兄ちゃんが初めて来た時を思い出すなぁって」

 

 

「ああ、そういう事か……」

 

 

キヨカの言葉が切っ掛けで、家族は思い返す。

仙道家の、イチカの人生が大きく変わった、あの日の事を。

 

 


 

 

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……クッソ!何で、俺が、こんな事に……!!」

 

 

ドイツのとある暗い森の中を、1人の日本人の少年が走っていた。

足元の枯れ葉を踏みつけながら、必死の形相で走っている。

 

 

これだけの情報だったら、少年がトレーニングの為に走り込みをしているという解釈も出来る。

だが、その少年の服装はボロボロで、全身に打撲跡があり、頭などから血を流しながら走っていたとしたら、トレーニングなどと思う人間はいないだろう。

 

 

少年の名は織斑一夏。

彼は、誘拐され拘束されていたところを、なんとか自力で脱出したところである。

 

 

本日はIS世界大会である、第2回モンド・グロッソの決勝戦の日である。

日本代表として戦っているのは、一夏の姉、織斑千冬。

前回大会で優勝した世界最強である。

 

 

相対するは、レックスの異名を持つ檜山真実。

今大会から参加が決定した、企業代表IS操縦者のうちの1人。

 

 

そんな日に、一夏が誘拐された理由はただ1つ。

千冬の連覇妨害目的である。

 

 

誘拐した相手は不明。

だが、誘拐犯たちが話していた内容的に千冬に勝ってアピールしたいというより、千冬に個人的な恨みがある人間が上に居そうだと、一夏は感じていた。

 

 

「クッソ…はぁ、はぁ…あの、ゴミ姉がぁ……!俺の事、巻き込みやがってぇ!いっつも俺の事、見てないくせに……!面倒ごとばかり、持ってきやがる……!!」

 

 

千冬に対して文句を言いながら、ただただ走る。

誘拐犯から逃げる為に。

脱走したことは、もうとっくのとうにバレているだろう。

そして、確実に自分を追って来ているのも、分かっている。

だからこそ、一夏は走るのだ。

兎に角、自分の身の安全を確保する為に。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

誘拐犯に暴行され、全身の傷が痛む。

喉も渇き、全身からの出血による鉄分不足や疲労感からかなりフラフラしている。

それでも、走って、走って、走って、走って。

そして……

 

 

「っ……ま、街……!!」

 

 

森を抜け、とうとう街にたどり着いた。

一見すると田舎と呼ばれるような場所だというのは、此処に初めて来た一夏でも理解が出来る森との近さ。

だが、それでも街に人は多く、大きくて綺麗な建物も多い。

どういった場所なのかはさっぱり分からないが、観光地っぽいというのが一夏の感想だった。

 

 

「け、警察!取り敢えず警察だ!」

 

 

千冬に無理矢理応援に来させられただけなので、一夏は特にドイツ語を話せたりはしない。

だが、人類身振り手振りと、中学生レベルの英語があればなんとか伝わるという名言があったような気がしたので、取り敢えず警察署に駆け込むことにした。

1歩踏み出した、その時。

 

 

「あっ……」

 

 

一夏は足を滑らせ、そのまま地面へと思いっ切り倒れて行ってしまう。

 

 

ドシャア!!

 

 

蓄積された疲労が限界を迎えてしまったのだ。

 

 

「あ、くぅ、ぁ…………」

 

 

一夏はなんとか立ち上がろうとしたが、意識が朦朧とし始め、そのまま意識を失ってしまったのだった。

 

 


 

 

そこから約2時間後。

とある病院のベッドの上。

 

 

「う、うぅん…こ、此処は……?」

 

 

全身の傷に包帯などでの治療を施された一夏が目を覚ました。

急な光に目をシパシパさせながら、まだ痛む身体を起こす。

 

 

「え、マジでどこだ此処?」

 

 

部屋の中を見て、本当に知らない場所だったので一夏は困惑したような表情を浮かべる。

壁に掛かっているカレンダーに書かれている言語がドイツ語なのを見て、ドイツなのを思い出した。

だが、それ以外は此処が病室だという以上の情報が無い。

キョロキョロと視線を動かしていると、

 

コンコンコン

 

と、扉がノックされた。

 

 

「はい?」

 

 

反射的に返事をしながら視線を扉の方に向ける。

すると、扉が開き、白衣を身に纏った男性が部屋に入って来た。

 

 

「おお、起きたようだね」

 

 

「あ、はぁ。あなたは?」

 

 

「私はアーベル・ミュラー。君の担当医だ。よろしく」

 

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 

その男性、アーベルは右手を一夏に差し出し、一夏は素直に握手をする。

 

 

「日本語、お上手ですね」

 

 

「ははは、近年、ISの関係で日本人の患者さんも多いから、上から話せるようにしろ、と言われていてね」

 

 

一夏の言葉に、笑いながら答えるアーベル。

だが、その笑顔はとても疲れ切っているようなもので、相当苦労したのがこの短い会話だけでありありと感じられた。

一夏の表情から考えている事を大体察したのか、苦笑いを浮かべながらアーベルは取り敢えず一夏の身体をチェックする。

 

 

「さて、一夏君…で良かったのかな?君の身体には全身に傷があったので治療させてもらったよ。今、身体に痛むところはあるかな?」

 

 

「いえ、特には…今は全然大丈夫です」

 

 

一夏は自分の身体をぺたぺた触りながらそう返答する。

その返答を受け、取り敢えず安心したような息を吐くアーベル。

用紙に記入をし、次の質問に移る。

それを数度繰り返し、質問が終了した。

 

 

「うん、取り敢えずは大丈夫そうかな。それで一夏君」

 

 

「はい、なんですか?」

 

 

「道で倒れて来た君を此処に連れて来て、警察にも連絡してくれた一家がいるんだ」

 

 

「そうなんですね…ありがたいです」

 

 

その説明を受け、一夏は自分が何で此処にいるのかという疑問が漸く解消された。

それと同時、なんで見ず知らずの自分の為にそんな面倒な事をしてくれたのかという疑問が浮かんだ。

 

 

「その一家と、警察に会ってくれるかい?今から連絡を入れるので、何時になるかは分からないが」

 

 

「あ、はい、それは大丈夫です」

 

 

さっき自分で警察に駆け込もうとしたし、わざわざ自分を助けてくれた人たちにもお礼を言いたい。

断る理由は無かった。

 

 

「分かった。それでは、そう連絡させてもらうよ」

 

 

「あっ!そう言えば、お金って……」

 

 

一夏は中学生なので、入院費を払える程お金が無い。

姉に言え料金はなんとかなるだろうが、姉に頼るのは一夏としては気に食わないし、姉からなんて言われるかわかったもんじゃない。

払えと言われたら払うしかないが、そうなったら面倒なのだ。

 

 

「ああ、金銭に関してはその人達に払ってもらう事になっているよ。君は大事を取って3日間は入院する事になっているから」

 

 

最後にその言葉を残し、アーベルは部屋から出て行った。

一夏は安心したのも束の間、

 

 

(あれ?結局その人達にお金払わなきゃじゃん!)

 

 

結局その問題は解決していない事に気が付いた。

だが、自分がいくら考えてもどうしようも無いので思考を止めた。

土下座すれば大学卒業するまで待ってくれるかなぁ?とか考えながら、今は大人しく休むことにした。

 

 

その日から3日後。

一夏の傷も大方治り、無事退院の許可も出たその日。

一夏はアーベルに連れられ、とある部屋に向かっていた。

その部屋とは応接室であり、約束していた警察と自分を保護してくれた人たちとの面会である。

 

 

自分の病室でも良いじゃないか、と思ったのだが、如何やら重症の人が居るらしく、その人の為に直ぐベッドを確保しないといけないので、一夏は大人しくベッドから離れたのだ。

 

 

退院しても行くところが自分の家しかなく、もう既に帰国の為の飛行機は出発した後なので、この後どうすればいいのか分からない。

千冬が自分の事を訪れる事も無かったので、多分捨てられたんだろうという結論に至った以外、この数日で得られたものは無かった。

 

 

「着いたよ」

 

 

「此処、ですか」

 

 

「ああ、もう既に中にいらっしゃる。しっかりと話してね」

 

 

「はい。アーベルさん、この3日間、ありがとうございました」

 

 

「これから元気でね」

 

 

アーベルは最後に一夏の頭を撫でると、そのまま次の患者の所に向かった。

此処で話しを終えたら、この病院からも出て行かないといけないだろう。

その事で少し不安ではあるが、進まない限りは道はない。

一夏は扉をノックして、部屋の中に入る。

 

 

「失礼します」

 

 

部屋の中にいたのは、3人。

その内1人はドイツの警察の制服を着用している男性で、一夏はこの人が警察官だ、と思うと同時にまだ男性警察官って活動できるんだ、と不思議な思考を同時に持った。

 

 

「どうも初めまして。スレバーデです。此方を」

 

 

その警察官…スレバーデは一夏に自分の階級などの情報が乗っている身分証明書を掲示する。

 

 

「あ、はい、どうも…」

 

 

一夏はザッと目を通し、なんとなく理解したので返却する。

取り敢えず一夏は3人の向かいとなる席に座る。

 

 

「あ、あの、お名前を伺っても……?」

 

 

「仙道智也です」

 

 

「妻の仙道明美です」

 

 

「……織斑一夏です。この度は保護してもらいありがとうございました」

 

 

織斑。

その苗字は千冬の事を連想させるものだった。

姉弟ゆえ顔つきも似ているのが影響し、自己紹介をしたら絶対に千冬の弟だと言われる。

 

 

一夏はそれが嫌いだった。

自分は自分だ。

それなのに、周囲は自分の事を姉の付属品としてしか見てくれない。

自分を、姉の劣化品だとしか思ってくれない。

 

 

だから、この2人からも同じ様なことを言われるんだと思わず考えてしまった。

そんな暗い考えは、一瞬にして崩れる事になる。

 

 

「気にしないで良いのよ。貴方が無事で本当に良かった」

 

 

「ああ、君が無事ならそれでいいさ」

 

 

「えっ……」

 

 

初対面の人間に、ここまで温かい言葉を掛けられたのが初めてだった。

それどころか、千冬という名前も出てこない。

思わず呆気に取られた表情を浮かべてしまう。

 

 

「どうかしました?」

 

 

「い、いや、なんでも無いです……あの、日本人……ですよね」

 

 

「そうですよ」

 

 

「なんで、ドイツに?」

 

 

「家族旅行です。モンド・グロッソと期間か重なっていたので諦めようかと思ったんですが、私達の仕事が忙しくてこのタイミングじゃないといけなくて」

 

 

カラカラと笑いながら話す智也と明美。

だが、それと反比例するように一夏の顔からさぁっと血の気が引いていく。

一夏自身に経験は無いが、家族旅行というのはとても楽しく、家族水入らずの思い出を作れる貴重な機会だ。

仕事が忙しいから、無理にでもこの時期に来たという発言からも明らかだ。

そんな大事な用事に、自分が水を差したと分かると、急速に慌てるのも仕方が無い。

 

 

「そ、そんな大事な時にすいません!う、埋め合わせなんて出来ないですけど、何かお詫びを……!!」

 

 

あわあわしながら謝罪を開始する一夏。

智也と明美は苦笑をしながらも、一夏をなだめる。

 

 

「気にしないでと言ったでしょう?私達が好きでしたんだから」

 

 

「ああ、子供なんだから遠慮する事はないぞ」

 

 

(それにしても、ここまで異常に謝るとは…なにかあったのか?)

 

 

一夏の謝りように違和感を感じるが、特に何も言わない智也。

 

 

「んん、そろそろよろしいですか?」

 

 

「あ、はい、すみません」

 

 

一夏が落ち着きを取り戻したのを確認してから、スレバーデが声を掛ける。

慌てて一夏は視線をスレバーデに向ける。

 

 

「織斑一夏さん、貴方はこの街のはずれに全身に傷がある状態で保護されましたが、何故そうなったのかお伺いしてもよろしいですか?」

 

 

「…はい。実は……」

 

 

一夏は話し始める。

モンド・グロッソの決勝戦が始まる前に、誘拐された事。

誘拐先で暴行を受け怪我をした事。

なんとか自力で脱出し、街にまで逃げて来たが、途中で力尽きてしまい、倒れた事。

 

 

「誘拐…?おかしいですね、そんな通報全く無かったはずですが…」

 

 

「多分、織斑千冬が僕に興味無いからですね。僕なんて、居てもいなくてもどっちでも良いんですよ」

 

 

姉なのにフルネームで呼んだこと。

淡々と、感情を感じさせない声で話すにしては、全てを諦めたかのような内容を話す。

スレバーデと仙道夫妻が首を傾げる中、一夏は淡々と話し始める。

 

 

幼少期から、親がおらず、2人で暮らしていた事。

自分は千冬と比べられていた事。

それが原因で虐めにまで発展した事。

千冬に助けを求めても、碌に取り合ってくれなかった事。

 

 

「……と、まぁ、こんな感じですね。ははは、やっぱり僕っている意味無いですね」

 

 

目が笑っていない笑顔でそんな事を言う一夏。

だが、スレバーデは思わず視線を逸らしてしまい、智也と明美は思わず涙ぐんでしまう。

 

 

「だから、だから、僕なんて…」

 

 

「そんな事言わないで!」

 

 

一夏が言葉を発する前に、明美がそう言うと、席を立ち一夏の事を抱きしめた。

 

 

「っ!?」

 

 

急な事で驚きの表情を浮かべるが、明美は気にせず言葉を発する。

 

 

「今まで、よく耐えたわね。生まれなくて良かった人間なんて、居る意味が無い人間なんて、この世にいない」

 

 

「っ……」

 

 

明美から掛けられた言葉に、一夏は目元に涙を浮かべる。

 

 

「俺は、俺は……」

 

 

人前という事で取り繕っていた一人称も、素のものに戻る。

今までの人生、人から愛されたことなど、一夏は無かった。

ちょっとだけだが、友人もいる。

だが、その友人から向けられるのは、当然友情であり、親の愛情というものを、一夏は知らなかった。

 

 

「う、あ、あぁあああああああああ!!!!」

 

 

今までため込んで来たものが決壊したかのように、一夏は泣き出した。

明美は自分の子供の様に一夏の事を宥め、智也とスレバーデは温かい眼差しで2人の事を見ていたのだった。

 

 

その後、落ち着いた一夏から聞かなければならなかった事全てを聞いたスレバーデ。

一夏の今後について4人で話しあう。

普通だったら、保護者である千冬への引き渡しになるのだが、一夏本人がそれを拒否。

それと同時、智也と明美が一夏を引き取ると言い出した。

最初は申し訳なさから断った一夏だが、智也と明美に説得され、引き取られる事となった。

 

 

一夏の分の飛行機のチケットを購入し、2人の子供…そう、ダイキとキヨカと共に日本に帰国。

いろいろな手続きだの裁判だのを半年以上にわたり行い、一夏の親権は仙道が勝ち取った。

 

 

そうして、織斑一夏と呼ばれていた少年は名を仙道イチカと変え、仙道家の家族となったのだった。

 

 


 

 

「懐かしいな…」

 

 

「ああ、まさか旅行先で家族が増えるなんて言われるとは思いもしなかった」

 

 

「そもそも、旅行先で全身から血を流して倒れてる人を見つけるとも思わなかったけどね」

 

 

イチカ、ダイキ、キヨカの順でそう言葉を発する。

 

 

そんな3人を、智也と明美は温かい眼差しで見つめていた。

正直、急な事だったので一夏が馴染めるかどうか不安だった。

それに、ダイキとキヨカも急に家族が増えるとなると、上手くやって行けるのかという不安もあった。

だが、今こうして思春期なのにも関わらず、3人仲良くやっている事に安心したのだ。

 

 

「「「「「ご馳走様でした」」」」」

 

 

全員同時にご飯を食べ終えて、全員で後片付けを行う。

 

 

その後、全員でダラダラした時間を過ごし、そこそこ遅い時間になった。

 

 

「全く、世間は相変わらず荒れてるねぇ」

 

 

イチカは自分のベッドに座り、CCMでネットの情報を収集していた。

男性IS操縦者が発見されてからもう1ヶ月以上経つのに、ネットでは未だにいろいろ言われていた。

 

 

「ハハハ!無駄な議論ご苦労さん」

 

 

イチカは馬鹿にするような笑みを浮かべると、CCMを閉じ、机の上に置く。

その後、今日の荷物の中からIS座学の資料書を取り出すと、眠気が来るまでピラピラと眺める。

ダイキとキヨカと関わり始めた事によって頭の回転が速くなり、それに伴い記憶力や理解力、読解力、推察力などもかなり高まっている。

今では2人と並ぶくらいである。

その結果としてISが動かせることが分かってからISの勉強を始めたのに、もう既にIS学園の一般生徒以上にISに対する理解がある。

 

 

「……」

 

 

パラ…パラ…

 

 

部屋の中に紙を捲る音だけが響く。

 

 

「く、ふぁ……そろそろ寝るかぁ」

 

 

イチカはそう呟くと、資料を閉じ、机の上に乱雑に置く。

部屋の電気を消そうとした時、

 

 

コンコンコン

 

 

「イチカお兄ちゃーん…起きてる……?」

 

 

扉がノックされ、少し遠慮がちなキヨカの声が聞こえてきた。

イチカは首を捻りながら扉を開ける。

 

 

「こんな時間にどうした、キヨカ」

 

 

「久しぶりに、イチカお兄ちゃんと一緒に寝たいなぁって思って」

 

 

キヨカの言葉を聞いた瞬間に、イチカは顔に手を置き、天井を見上げる。

イチカはもう高校生で、キヨカは中学生。

いくら兄妹でも、もう一緒に寝る年齢ではない。

それに、長らく一緒に居る家族であり、それ相応の繋がりや絆はあるとはいえ、血が繋がっていないという事実はあり、一緒に寝るとなると多少意識してしまうのだ。

 

 

「駄目……?」

 

 

「……はぁ………良いぞ。入れ」

 

 

なんだかんだ、イチカもキヨカが大好きだ。

こんな風にお願いされると、中々断れない。

許可を得たキヨカはニッコニコの笑顔でイチカと共にベッドに入る。

 

 

「近え、もっと離れろ」

 

 

「これくらい、駄目?」

 

 

「苦しくて寝れねぇ」

 

 

「それは大変」

 

 

キヨカは大人しくイチカから離れる。

ふぅ、と息を吐こうとしたが、その直後キヨカがイチカに抱き着く。

 

 

「おい…」

 

 

「これくらいは許して」

 

 

「まぁ、はぁ…良いか」

 

 

これ以上は時間の無駄だと判断し、抱き着く事を許可した。

キヨカは嬉しそうに腕に力を籠める。

 

 

(折角眠気が来たのに、覚めちまった。まぁ、横になってればいつか寝るだろ)

 

 

「ねぇ、イチカお兄ちゃん」

 

 

「あ?なんだ?」

 

 

イチカが目を瞑りながら考えていると、キヨカが声を掛けて来た。

目を開きながら返事をすると、キヨカは話し始める。

 

 

「最近、無理してない?」

 

 

「無理?そんなもの全然…何でそんな事思ったんだ?」

 

 

「だってイチカお兄ちゃん、昔と性格変わり過ぎだから」

 

 

キヨカの言葉に、イチカは一瞬黙る。

 

 

「いや、まぁ、成長すれば性格も変わるだろ」

 

 

「それもそうだけど、変わり過ぎてるからさ」

 

 

「確かに、そうだな」

 

 

今自分で振り返っても、確かに名前を変える前から性格はかなり変わっている。

 

 

「私は、昔のイチカお兄ちゃんも、今のイチカお兄ちゃんも大好き。だけど、私が1番好きなのは、素で笑ってるイチカお兄ちゃんだから。無理しないで、ね?」

 

 

「……ああ、分かってるよ。ありがとな、キヨカ」

 

 

イチカは優しい笑顔を浮かべると、キヨカの頭を撫でる。

 

 

「おやすみ」

 

 

「うん、おやすみ」

 

 

2人は言い合い、それから10分もしないうちにキヨカは眠りに付く。

キヨカが寝た事を確認してから、息を吐く。

 

 

「素で笑ってる俺、か……」

 

 

イチカは、織斑一夏が、過去の自分が嫌いだ。

だから、ここまで前と性格が変わったのかもしれない。

苦笑を浮かべながら、イチカはキヨカの頭をもう1度撫でる。

 

 

「もう少し、ちゃんと自分の過去を受け入れないといけないのかもな……」

 

 

イチカはそう呟くと、あくびを一つしてから眠りに付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

今回は、仙道家4人についてまとめたデヨ。

みんなしっかり確認するデヨ!!

 

 

〇仙道ダイキ

 

仙道家長男で、イチカの兄。

原作ではジョーカー系のLBXを使用する箱の中の魔術師。

今作では趣味でプラモデルを制作しつつ、プロの占い師として世界中で活動している。

偶にテレビに出たり、本を出したりするのでIS学園内でも知名度はそこそこある。

 

昔は今のイチカ以上に尖った性格をしていたが、今ではかなり丸くなっている。

イチカが会話にタロットを使用するのは彼の影響。

 

隠れシスコン兼隠れブラコンなので、思考の3分の1は弟妹の事が占めている。

 

プロメテウス社の社長の息子に未だに振り回されることがあるらしい。

 

 

〇仙道キヨカ

 

今作唯一ダンボール戦機ウォーズからのキャラ。

仙道家長女で、イチカとダイキの妹。

神威大門統合学園に通っている中学2年生。

 

ダイキとは仲のいい兄妹レベルだが、イチカに対しては途轍もないほどのブラコンを発揮する。

家に住んでいたころは、よくイチカのベッドに忍び込んだりしていた。

また、イチカといる時とそうでないときの差が激しすぎる。

 

スマートフォンのケースには、ハンドメイドのジョーカーストラップを付けている。

学園のクラスメイトには、まだブラコンという事はバレていない。

 

 

〇仙道智也

 

仙道家大黒柱で、仙道兄妹の父親。

タイニーオービットの営業課に勤務している。

イチカ達の事を守る事を第一としており、常日頃汗を流して働いている。

 

教育としては、子供達の自由にさせ、本当に親の助けが必要になったときや、叱らないといけないとき、しっかりと子供と向き合うスタンスを取る。

 

 

〇仙道明美

 

智也の妻で、仙道兄妹の母親。

タイニーオービットの計算課に勤務している。

イチカがいるときは家事の役目を取られてしまっているが、本来は彼女が好きで率先してやっていた。

その為、智也からちゃんとやすんでいるかたびたび心配される。

 

子供達の事をそばから見守り、常に包み込むような教育スタンスを取る。

 

 

 

 




次回予告

一家団欒の時間を過ごす仙道家。
寮暮らしの2人はゴールデンウィーク中ずっと家に居れる訳無いので、日帰りでの旅行に出かける。
旅行先で、イチカは水色髪の少女に声を掛けられ……

「…誰だ?アンタ」

次回、IS~箱の中の魔術師~『GWⅡ 旅行、そして接触』、見てね!
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