IS~箱の中の魔術師~   作:ZZZ777

9 / 13
大変お待たせしました…!
これ以上前書きに書くことが無い。

IS~箱の中の魔術師~、始まるよ!


GWⅡ 旅行、そして接触

ゴールデンウィーク2日目の朝。

まだ日が昇っていない薄暗い時間帯に、イチカはランニングを行っていた。

変に早い時間に起きてしまい、2度寝する気もわかなかったし、昨日真実にボッコボコにされたのでトレーニングも兼ねて、だ。

 

 

因みに昨日一緒に寝たキヨカは、未だにイチカのベッドの上でスヤスヤと寝ている。

起きた時にガッチリ抱き着かれ身動きが取れない状態だったのだが、なんとか抜け出して来たのだ。

 

 

「ふぅ…朝から身体を動かすってのは、中々に気分が良いもんだな…さて、とっとと朝飯を作るか」

 

 

身体を動かし終わり、家の前に戻ってきたイチカはそう呟くと、家の中に入り準備してあったタオルで顔に湧き出て来た汗を軽くふいてから、一先ず風呂場に向かう。

汗だくの状態での調理は、流石のイチカでもしないという事だろう。

 

 

そんなこんなで汗を流し終えたイチカはキッチンにやって来た。

取り敢えず冷蔵庫を開け、何を作るのかを考える。

本当は昨日の内に冷蔵庫の中を確認しておきたかったのだが、ダラダラとした時間を過ごした為、確認する事をすっかり忘れていたのだ。

 

 

だが、イチカは下宿先のブルーキャッツで蓮から調理の手伝いをさせられる程の料理力(家事力)がある。

調理直前の食材チェックでも、食材が足りない場合を除き問題無く料理が出来るのである。

 

 

「ほーん、そこそこ残ってんな。どうすっか…目玉焼き程度で良いだろ」

 

 

鮭などのしっかりとしたものは残っていなかったものの、朝食には十分な量が残っていた。

早速調理に取り掛かる。

仙道家は、というより両親の智也と明美が朝食は白米と味噌汁派なので、そっちの方面で作る事にする(イチカとキヨカに朝食の拘りはない。栄養が取れればそれでいい)。

 

 

一先ずは白米を炊く。

仙道家では無洗米を使用しているので、ただ量を測ってスイッチを押すだけでOK。

 

 

炊きあがりを待つ間に、次に時間がかかる味噌汁を作り始める。

仙道家の味噌汁用の味噌はだし入り味噌を使っているので、だしからとる必要が無い。

そして、拘りの具材がある訳でも無いので、定番のわかめと豆腐、ネギの味噌汁だ。

鍋に水を入れ火をつけてからわかめとカットした豆腐を入れ煮立たせる。

水が沸騰し、具材に火が通ったら火を止め、沸騰が止んだのを確認してから出し入り味噌を溶き入れる。

その後は煮立たないように気を付けながら再度火にかけ、沸騰する直前にネギを入れ、火を止める。

これで味噌汁も完成。

 

 

最後に目玉焼きだ。

ベーコンやウインナーが余っている訳では無いので、本当にただの目玉焼きになるが、まぁ朝だしこれくらいでも十分だろう。

冷蔵庫から卵を取り出し、フライパンを事前に熱しておいてサラダ油を馴染ませてから直ぐに卵を入れる。

イチカに黄身の位置の拘りは無い為、特に調整をせずそのまま焼く。

 

 

ガチャ

 

 

「おはよう」

 

 

「ん?兄さんか、おはよう」

 

 

その途中、起きたダイキがリビングに入って来た。

もう既に着替えや身だしなみの整えなどかは終わっている。

 

 

「兄さん、水と麦茶どっちがいい?」

 

 

「自分でやるから大丈夫だ」

 

 

「りょーかい」

 

 

ダイキは言葉の通り自分で麦茶を用意する。

それを横目で見ながらイチカは目玉焼きの調理に戻る。

 

 

1つ目が出来上がり、皿によそってから2つ目を焼き始める。

 

 

「あ?黄身が2つ…調理めんどいんだよな…」

 

 

偶々黄身が2つの二黄卵だったようだ。

確率は約1%くらいのレア現象だが、イチカは言葉通り面倒臭そうな表情を浮かべる。

だが、しっかりと調理は行うし、しれっとキヨカの皿に盛り付ける。

 

 

そんなこんなで、残りの3人分の目玉焼きも完成した。

皿に盛り付ける。

その後、炊きあがった白米と味噌汁を各々よそう事で、イチカ特性の朝ご飯の完成だ。

 

 

さて、盛りつけの間に智也と明美はやって来たのだが、キヨカが起きてこない。

折角作り立ての朝ご飯、冷める前に食べてしまいたい。

イチカとしても、自分の作った料理が冷めて不味くなるのは許容出来ないので、キヨカを起こしに行く事にした。

 

 

2階のイチカの部屋に到着し、扉を開ける。

視界に入って来るのは、未だにベッドの上でスヤスヤと眠っているキヨカ。

しかも、枕に顔を埋め、イチカが羽織っていた薄めのタオルケットを抱き枕のようにギュッと抱きしめている。

 

 

「……(イラ)」

 

 

何故だろうか。

イチカは嫌悪感と苛立ちを覚えた。

 

 

「別に、寝相でなってもおかしくはない体勢のはずなんだがな…なんかわざとこうなったような気がしてならない…」

 

 

イチカは後頭部を掻きむしりながらそう言うと、右手でタロットカードを1枚取り出す。

 

 

「THE HIGH PRIESTESSの逆位置…神経質に考えると、マイナスに…これ以上は考えないでおくか……」

 

 

イチカは身震いをしながらタロットカードを仕舞う。

 

 

「おいキヨカ!起きろ!飯出来たぞ!!」

 

 

大声を出しながら、ゆさゆさとキヨカの身体をゆするイチカ。

 

 

「んぅ…?イチカお兄ちゃん……?」

 

 

「おう、とっとと着替えだの洗顔だの身だしなみを整えてダイニングに来い」

 

 

「はぁ~~い……」

 

 

キヨカはイチカの言葉に、半覚醒といったどころか4分の1覚醒状態で返事をすると、のそのそとした動作で部屋から出て行った。

そんな様子を見てため息をつきながら、ベッドの状態を確認する。

 

 

「涎とかは無いか…ならいいか。にしても、キヨカってあんな感じの喋り方だったか……?」

 

 

イチカはため息をつくと、くしゃくしゃになっているタオルケットを簡単に整えてから、ダイニングに戻る。

イチカが戻ってから暫くした後に、身だしなみを整えたキヨカがやって来た。

 

 

「おはよう」

 

 

「キヨカ、おはよう」

 

 

「折角イチカが朝ご飯作ってくれたから、早く食べましょう」

 

 

キヨカは明美の言葉に頷くと、そのまま席に着く。

 

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

5人は手を合わせると、そのまま朝食を食べ始める。

 

 

「うん、美味しい!イチカ、腕上げた?」

 

 

「さぁ?最近自分の料理を自分で食う事が無いから分からん」

 

 

「そうなのか?でも、十分誇れる腕前だと思うぞ」

 

 

「…称賛は素直に受け取っておこう」

 

 

イチカは如何でも良いように返答すると、そのまま白米を口に放り込む。

相も変わらずなイチカの態度に、智也と明美は苦笑いを浮かべる。

 

 

数分後。

全員が朝食を殆ど食べ終えた時。

 

 

「ねぇ、ダイキ、イチカ、キヨカ、ちょっといい?」

 

 

唐突に明美がそう切り出した。

3人の視線は当然のように明美に向けられる。

 

 

「どうかした?」

 

 

「ダイキはまぁ、帰ろうと思えば帰ってこれるけど、イチカとキヨカは連休じゃないと帰ってこれないでしょ」

 

 

「イチカとキヨカは全寮制なんだ。しょうがないだろう」

 

 

「俺は部屋が無いから寮じゃないけどな。まぁ、いい加減決まるだろ。じゃないと困る」

 

 

「あははは、まぁ、それはおいておいて。そして、2人ともゴールデンウィーク中ずっとこっちにいる訳でも無いでしょ?」

 

 

「2、3日したら帰るね」

 

 

「ISの訓練だの、勉強だのがあるからな。こっちよりも、寮か下宿先の方が何かと便利だからな」

 

 

明美と3兄妹の会話を聞きながらニコニコしていた智也が、ここで口を開く。

 

 

「そう、だからお前たちがそっちに行く前に、家族で出かけておきたいんだ」

 

 

「お出かけ…ねぇ」

 

 

イチカとキヨカは、思春期真っただ中の男子高校生と女子中学生。

家族と出かけてるのは、些か羞恥心が湧いてくる。

だがしかし、そう滅多に家族で集まれないというのも事実。

特にイチカは世界で1人しかいない男性IS操縦者にして、IS世界シェア1位のタイニーオービット所属の専用機持ちだ。

今後行動が制限される可能性が無いとは言えない。

となれば、ここは智也の言う通り出かけた方が良いのだろう。

 

 

「俺は別に問題無いぞ」

 

 

「私も大丈夫」

 

 

「俺もだ」

 

 

イチカ、キヨカ、ダイキの順番でそう返答する。

それを聞いた瞬間、明美の顔はパアッと明るくなる。

 

 

「それじゃあ、朝ご飯食べたら早速行きましょう!!」

 

 

「随分急だな」

 

 

「それにしても全員問題無くて良かったよ」

 

 

「それで?何処に行くんだ?」

 

 

ダイキのその質問に、2人はピクリと眉を動かす。

イチカ達3人が首を捻ると同時に2人は同時に言葉を発した。

 

 

「「温泉」よ」

 

 

「「「……は?」」」

 

 


 

 

数時間後。

とある温泉街。

 

 

「付いたぁ!」

 

 

「付いたなぁ…!」

 

 

明美と智也が、身体を伸ばしながらそう声を発する。

そんな2人の事を、仙道家の3人の子供がジト目で見ていた。

 

 

「確かに問題無いとは言った。だけどな」

 

 

「日帰りとはいえ、当日の朝に温泉に行くと伝えるか?普通」

 

 

ダイキ、イチカの順番で半眼を浮かべながらそう呟く。

その視線を受け、智也と明美は露骨に視線を逸らす。

 

 

「ま、まぁまぁ。取り敢えず……どうする?」

 

 

ズルッ!!

 

 

明美のその発言に、思わずイチカ達はズッコケそうになった。

 

 

「そこもノープランかよ…」

 

 

頭痛でもあるのかと言わんばかりの表情を浮かべ、頭を押さえながらそう呟くイチカ。

智也と明美が更に露骨に視線を逸らす。

 

 

「取り敢えず、温泉に入ってから街の散策はしたくないし、荷物を何処かに預けてから街を歩かない?」

 

 

「そうだな。それが良い」

 

 

キヨカの提案に、ダイキが賛同の声をあげる。

イチカ達も反論は無いので、キヨカの案で行く事が決定した。

温泉街という事で観光客の受け入れ態勢は万全。

荷物預け場所は簡単に見つかった。

 

 

「それで?何処の温泉なんだ?」

 

 

「ん~?ちょっと遠くの、あの1番大きいところ」

 

 

「ほぉ~ん…なかなかに豪華だ」

 

 

「ああ、しかも日帰り入浴でも予約が必要なんだ」

 

 

「へぇー。何時からなの?」

 

 

「いや、時間指定は無い。その日に予約を入れる必要はあるけど、時間は自由なんだ」

 

 

「なるほどなるほど。少し変わったシステムだな」

 

 

「そしてそんな変わったシステムで、もう予約も取ってるのに、当日に此処に来ることを言う、と」

 

 

如何やらイチカは根に持っているらしい。

いや、イチカだけじゃなくダイキとキヨカも同じ様だ。

半眼で視線を2人に向ける。

 

 

「い、いや、あはははは…」

 

 

「普段はしっかりしてんのに、なんで今回に限ってポンコツなんだ」

 

 

「久々の家族での旅行だから、テンション上がってたのよ」

 

 

「……まぁ、そういう事にしておこう」

 

 

ダイキのその言葉で、いったん会話を終わらせた仙道家。

見つけた荷物預り所に向かい、着替えなどの荷物を預けておく。

温泉に行く前に此処で受け取ればいいので、街の散策の間はフリー。

朝食後直ぐに出て来たので、そこそこ時間はあるが帰りの時間も考えると、あんまりもダラダラしていると時間が無くなる。

 

 

「それで、此処の名物とか、名所ってなに?そういうのが無いと何処に行ったらいいのか分からないんだけど」

 

 

キヨカのその質問と同時にイチカとダイキも視線を智也と明美に向ける。

 

 

「「……」」

 

 

だが、2人はそのまま黙ったままだ。

その反応だけで、イチカ達は理解した。

 

 

「それも調べてないのかよ…」

 

 

「「申し訳ございません……」」

 

 

ダイキのボヤキに、2人が頭を下げる。

 

 

「なら仕方が無い。幸いにも今日は色々と賑わっている。現地調べでもなんとかなるだろ」

 

 

「うん。っていうか、寧ろこういうのが『旅』としての本来の姿、なのかな?」

 

 

「そうかもしれないが、やはり困るものは困る」

 

 

文句を言いつつも、切り替えは早い仙道家の子供達。

取り敢えずここら辺に何かあるかが記されているマップを探す。

親2人は子供達のそんな様子に一瞬ポカンとした表情を浮かべるも、すぐさま後を追いかけていく。

荷物預り場所と同様、看板も簡単に見つかった。

ダイキとキヨカはスマホ、イチカはCCMを併用しながら周囲の施設を確認していく。

 

 

「結構色々あるな」

 

 

「どうせ金は父さんか母さん持ちだ。気にしなくて良い」

 

 

「最悪俺も出せるしな」

 

 

「流石兄さん」

 

 

ダイキは売れっ子の占い師だ。

そこそこ稼いでいる。

1回の旅行先での食事代などは気にしなくて良いほど貯蓄がある。

 

 

「あ、此処行ってみたい」

 

 

「ふーん、和菓子専門店か。良いんじゃないか?」

 

 

「なんかの体験とかは流石に当日飛び込みじゃ厳しいところが多いだろうから、除外して考えるとそういう露店周りになるな」

 

 

イチカ達があーだこーだと相談しているのを、その原因2人が微笑ましいものを見るような表情で見ていた。

 

 

「「アンタらも相談するんだよ!!」」

 

 

が、イチカとダイキがそれを許す筈も無く。

イチカが明美を、ダイキが智也を引っ張り、仙道家5人で改めて巡る場所を話し合う。

温泉は昼食後にゆっくり浸かる事にして、昼食前に見れるだけ見てしまおう、という事だ。

 

温泉街から離れると時間が無くなるので、基本ショッピングになってしまう。

とはいえ、正直男3人は小物やスイーツ類に興味がある訳では無いので、そこらへんのセレクトはキヨカと明美に委ねる。

2人も、自分達だけでなく出来るだけイチカ達も楽しめるようなルートで考える。

 

 

思案する事数分。

漸く行く場所が決まったので、早速行動に移すことにした。

 

 

先ず行くのは、キヨカが気になっていた和菓子専門店。

最初の場所に決めた理由は単純で、此処から1番近いからだ。

 

 

「んじゃ、時間は有限だし、早く行こうか」

 

 

((アンタが仕切るな))

 

 

智也のその言葉に、イチカとダイキが心の中でツッコミをしながらも、異論がある訳でなない為声には出さず、素直に移動を開始する。

 

 

ザワザワザワ

 

 

その道中、やけに周囲がざわついている事に気が付いた。

そして視線が自分達に…と言うよりか、イチカに向けられている事に。

 

 

「はぁ……落ち着いて旅行も出来ねぇ。ったく、本当に面倒な肩書だな、男性IS操縦者って」

 

 

イチカは心底面倒くさそうな表情でため息をついてから、そうボヤいた。

 

 

そう、世界で1人しかいない男性IS操縦者である仙道イチカが此処にいるのだ。

注目されない訳が無い。

 

 

「そもそも『貴重なサンプル()』の安全を考えると、今日来たのはあまりにも迂闊過ぎたか……?ちっ、失敗だったな」

 

 

CCMを握りしめながらそう呟くイチカ。

その言葉を聞き、キヨカはムスッとした表情を浮かべる。

 

 

「イチカお兄ちゃん?」

 

 

「あ?どうした、キヨk」

 

べチン!

 

「痛っ」

 

 

キヨカがイチカにデコピンをした。

たかが女子中学生のデコピン、されどデコピン。

腫れるとか、怪我をする事は無いが、それでもそこそこの衝撃は来る。

イチカが頭を押さえながらジト目でキヨカを睨むと、キヨカは呆れたような表情を浮かべながら言葉を発する。

 

 

「イチカお兄ちゃんってさ、何時もは他人に興味無いような言動してるのに、しっかりと周りの事を考えた行動してるよね」

 

 

「……いや、まわりまわって自分に帰って来るからであって」

 

 

「それでも。だからさ、今日くらいは楽しもう」

 

 

キヨカの言葉に同調する様に、背後で智也たちが頷く。

イチカは暫くの間4人の事を見ていたが、やがて降参したように両手をあげた。

 

 

「はいはい、気にしない事にしますよ」

 

 

そして、微笑を浮かべながらそう呟いた。

その返答を聞き、キヨカは笑顔を浮かべると、

 

 

「じゃあ、早速行こう!」

 

 

グイッ!

 

 

「ちょ、待て!!」

 

 

イチカの腕を引っ張り、そのまま目的地への歩みを再開する。

急に引っ張られたイチカは慌てて歩き出す。

ダイキたちは微笑を浮かべると、2人の後を追いかけて行った。

 

 

(周囲からの視線は感じる。だけど、その殆どは物珍しさだ。特に問題は無い。だが……)

 

 

イチカは周囲をチラッと確認する。

 

 

(やはり少数、悪意だの面倒な感情を向けて来てるな…特に、左斜め後ろの物陰。隠す気が無いし、悪意って感じでも無いな…はぁ…厄介な事にならなきゃいいんだけどなぁ……)

 

 

ため息をつくも、今しがたキヨカと約束したため、余程の事が無い限り気しないように努力するのであった。

 

 


 

 

数時間後。

温泉街を回り、昼食と食べ。

荷物を回収してから午後からはゆっくりと温泉を堪能した。

 

最近の旅館というものは、温泉以外にもいろいろと楽しめるものはある。

はやりのサウナだったり、岩盤浴だったり。

入浴施設以外にもアミューズメントコーナーだの、カラオケだのも完備されている。

一部施設は宿泊客で無いと利用できないものの、日帰りでも十分満足できる。

 

 

そんな中、イチカは用意していた着替えに身を包み、再び温泉街を歩いていた。

ダイキたちは未だに施設にいる。

無論、事前に外に出るというのはダイキたちには伝えてある。

 

 

イチカが着替えに選択したのは、黒で、右腕にタイニーオービットの社ロゴが刺繍されているジャージ。

だがしかし、これはただの動きやすいジャージでは無い。

ISスーツの繊維も編み込まれており、このままISを展開する事も可能なのだ。

手には自分のCCMを握りしめており、何時でも戦闘は出来る体勢だ。

 

 

(さて、1人になったとたんに向けられる視線がガラッと変わったな。多分、殆どが俺に恨みでもあるんだろうな。世界のバグ(男性IS操縦者)に対して)

 

 

イチカは口元をニヤリと歪ませた。

そして、露骨に視線を周囲に向ける。

此処は温泉街。

周囲を見回すことは何ら不自然な行動ではない。

しかし、イチカが周囲を見た瞬間に、露骨にイチカに向けていた視線をズラス人間が複数いた。

 

 

(女尊男卑も大変だなぁ。そんな面倒な思想変えちまおうぜ?……ん?)

 

 

そんな事を考えていたイチカは、1つの視線に気付いた。

 

 

(午前中の奴と恐らく一緒…そして、恐らく相当な手練れ。どうする……)

 

 

イチカは歩きながら思考を巡らせる。

この場では向こうは絶対に姿を現さない。

しかし、このまま過ごすのはイチカの気分が良くない。

 

 

(ワンチャンだな。まぁ、行くか)

 

 

イチカは覚悟を決めると、裏道に入り、助走無しで瞬発的に移動を開始する。

建物の間の細い路地を駆け抜け、時には壁を走り、天井を掛け建物を飛び越える。

街中でのこのような行動は罪に問われる可能性があるが今のイチカにそんな事を考える余裕は無かった。

 

 

街の合間を縫って、駆け抜けて駆け抜けて駆け抜けて。

温泉街から離れた、少々離れた場所にやって来た。

いろいろ複雑に動いてきたので、イチカを見ていた人間は殆ど付いてこれなかった。

 

 

暫くぶりに大多数からの注目から解放されたイチカはいったん安堵の息を吐くも、直ぐに真面目な表情に切り替える。

まだ終わってないからだ。

イチカには()()付いて行けなかった。

そう、殆ど。

 

 

物事には、なんでも例外というものが存在する。

そう、物凄く複雑に、俊敏に動いたイチカに付いてこれた者がいる。

イチカは背後をCCMで指しながら、言葉を発する。

 

 

「午前中からわざわざご苦労だな。今は俺とアンタ以外いない。出て来いよ」

 

 

口元をニヤリと歪ませながら、挑発するかのような声色でそう言葉を発する。

数舜の後。

一陣の風が吹き、イチカの髪が舞う。

その瞬間だった。

 

 

「もうバレているのなら、しょうがないわねぇ」

 

 

その声と共に、イチカが指している方向から1人の少女が姿を現し、イチカの目の前にやって来た。

水色の髪色で、外側に髪がはねているのが特徴である。

手には扇子を持っていて、何処か悪戯好きというのが雰囲気で察せられる。

 

 

「…誰だ?アンタ」

 

 

イチカは視線を鋭くし、声を低くしながらそう問う。

目の前のその人物は特に表情を変える事は無く、ニコニコとした表情で名を告げる。

 

 

「私の名前は更識楯無。IS学園の2年生で、生徒会長よ。よろしくね、仙道イチカ君?」

 

 

その人物…楯無は、扇子の先をイチカに向けながら、そう微笑んだ。

イチカは色々ツッコミたい気持ちはあるものの、『IS学園の2年生』という言葉に取り敢えず真っ先に反応した。

 

 

「ああ、先輩でしたか…すみません」

 

 

「別に、此処は学園じゃないからため口で良いわ。君もそっちの方が話しやすいんじゃない?」

 

 

「そんじゃあ、遠慮なくそうさせてもらおうか」

 

 

アミやランといった人物にも、学園では敬語だがプライベートではため口、それに蓮や真実にもため口なところから分かるように、イチカは基本年上や目上の人間が相手でもため口の方が喋りやすい。

まぁ、礼儀というものが必要な場面では敬語を使っているが。

 

 

だが、此処でイチカは眉をピクリと少しだけ動かした。

イチカがため口の方が喋りやすいという情報は、イチカの身近な人間しか知らない事。

それなのにも関わらず、初対面である筈の楯無が知っている。

 

 

「アンタ、俺の情報を何処で知った?」

 

 

「私は生徒会長よ?生徒個人個人の情報はある程度把握してるのよ」

 

 

楯無はそう言うと、手に持っている扇子を開いた。

 

 

【用意周到】

 

 

扇子にはそう書かれていた。

 

 

(まぁ、多分あの陽キャ(ラン)がペラペラ喋りそうではあるが)

 

 

イチカの脳裏に浮かんだ、活発で訓練機を何個も潰してきた人間。

それを振り払ってから、イチカは次の言葉を発する。

 

 

「それで?家族旅行をしていた俺を朝から尾行していた理由は?」

 

 

「世界で1人しかいない男性IS操縦者が街中をブラブラしてたから、気になっちゃってね。勝手に尾行しちゃってごめんね?」

 

 

言葉では謝罪しているが、表情は全く謝っていない。

まるでイチカの反応を楽しむかのように、底知れない笑顔が浮かんでいた。

 

 

イチカの頬を汗が伝う。

 

 

(風呂入った後なのに…まぁ、さっき激しく動いたから今更か)

 

 

「まぁ、実害は無かったからそこは別にいい」

 

 

「あら、随分素直なのね」

 

 

「グダグダ言ってもアンタには響かなさそうなんでな」

 

 

「うふふ、理解の早い子は好きよ」

 

 

扇子と片目を同時に閉じながら、楯無はそう言葉を発する。

 

 

(底が見えない…コイツ、いったい何者だ?本当にただの生徒会長か?)

 

 

「底知れない何かを感じるが…アンタ、何者だ?」

 

 

「ただの生徒会長よ。ただ、IS学園の生徒会長になるには、とある条件があるのよ?」

 

 

「条件だぁ?」

 

 

「最強である事」

 

 

先程閉じた扇子を再び開く。

 

 

【生徒最強の称号、生徒会長】

 

 

「……それ、どうなってんだ?」

 

 

「秘密よ」

 

 

思わずツッコミをしたイチカだが、楯無は華麗にスルーする。

そんなやり取りの最中、イチカは思考を巡らせる。

 

 

(最強、か。それに間違いは無さそうだ。対峙しているだけで、コイツの強さってもんが伝わって来る。だが、それだけじゃねぇな…なんだコイツの異様さは…まるで何度も修羅場をくぐってる裏社会の人間みたいな……)

 

 

「ふふふ、目の前にこんな美人がいるのに考え事?」

 

 

「っ!?」

 

 

イチカはずっと考えながらも、楯無から視線はそらさず、注意を欠くことも無かった。

それなのにも関わらず、楯無は何時の間にかイチカの目の前に立って、首元に扇子を当てていた。

もし手に持っているのが扇子ではなく凶器だったら。

楯無がイチカに対して敵意を持っていたら。

今頃イチカは死んでいた。

 

 

「うふふ、こんな美人が目の前にいるのに、考え事?」

 

 

「……そうだな。あまりにも美人過ぎて思わずクラッとしたよ」

 

 

イチカは楯無の頬に手を添えながらそう返事をした。

 

 

(我ながら気持ちが悪い…こんなコッテコテのセリフ…)

 

 

内心で自分のセリフに対して悪態をついていた為、イチカは気が付くのが遅れた。

目の前の楯無の頬が、赤く染まっている事に。

 

 

(マジか?チョロすぎ。男免疫無いのか?)

 

 

イチカが呆れたような表情で楯無の事を見ていると、楯無はバッと地面を蹴りイチカから離れる。

 

 

「……最後に質問だ」

 

 

「な、何かしら?」

 

 

「アンタ、本当は何で俺の事を監視していた?たまたまって訳じゃ無いんだろ?」

 

 

まだ頬を赤くしていた楯無は、その質問を聞き急速に表情を真面目なものにしていく。

 

 

「そうねぇ…あなたの護衛、かしらね?」

 

 

「俺の護衛だと?」

 

 

「本当はもう少ししっかり会話したいんだけど、そろそろあなたの家族もお風呂から上がるから、私はそろそろお暇するわね。バイバーイ♪」

 

 

【また学園で!!】

 

 

楯無は最後に扇子を開くと、颯爽と姿を消した。

こうして残ったイチカは、ため息をつくと

 

 

「さっき醜態を見たから、あんまり格好良くなかったな」

 

 

そう呟いてから、家族がいる施設へと向かって走り出すのだった。

 

 


 

 

ガタンゴトン ガタンゴトン

 

 

イチカと楯無が接触してから数時間後。

仙道家は電車に乗り、家へと向かっていた。

イチカ以外は全員が眠っており、特にキヨカはイチカの肩に頭を預けていた。

 

 

そんな中、イチカは腕を組み思考を巡らせていた。

 

 

(俺の護衛…その言葉が事実ならば、俺は常にどこかで監視されているという事か?)

 

 

その内容は当然というかなんというか、楯無に関してだ。

 

 

(プライバシー侵害…俺はそんなもん頼んでないし、タイニーオービットが依頼してたら、流石に俺に連絡が来るはず…国とかどっかの機関なのか?もしそうだったら、あの先輩は何者だ?いくら生徒会長とはいえ、1個人に依頼する内容じゃない筈だが……)

 

 

そこまで考えて、視線を窓の外に向ける。

 

 

(あの時感じた異様さ…やはり、あの先輩は何か裏があるな)

 

 

「後で社長たちか、FOOLに聞くか…」

 

 

イチカの束の呼び方がFOOLで固定されているのは、ご愛敬といったところか。

 

 

「ククククク…世界が俺の為にいろいろ動いているねぇ」

 

 

何せ、イチカは世界に1人しかいない男性IS操縦者。

研究サンプルなど、希少性をあげたらきりがない。

そんなイチカの為に世界がいろいろと行動するのは、もはや必然か。

 

 

「もっと俺を楽しませてくれよ?世界」

 

 

イチカはそう呟くと、ニヤリと口元を歪ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オタクロスの、オタ知識デヨ~~!!☆

 

 

『イチカのISスーツ』

 

イチカのISスーツはタイニーオービットが専用に作った特注品。

首から上以外の肌魔全く露出してない、ダイバースーツ見たいなデザインデヨ。

これは、ただただイチカが恥ずかしいからこうしたんデヨ。

案外初心なところもあるんデヨ。

 

ただ、身体のラインはピッチリ出てる。

それを改良する為の試作品が、今日イチカが着てたジャージなんデヨ!!

 

 

 




次回予告

漸くIS学園の寮に入寮出来る事になったイチカ。
引っ越し作業を終えると、アミたちからバトルロワイヤル方式での模擬戦に誘われる。

「面白い、やってやるよ」

次回、IS~箱の中の魔術師~『GWⅢ 激戦!バトロワ模擬戦!』、見てね!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。