第一階層。
アリの巣のような洞窟を歩く。
壁や天井には白い糸が大量に張り巡らされており、さらにその奥には、青白い転移魔法陣が光っている。
前衛がアレクで後衛が俺となっている。
俺は松明を持って進んでいるが、アレクはすぐに暗闇に目が慣れるからと言って松明は持っていない。さすがSS級冒険者は違う。
一階層で出現する魔物は蜘蛛だ。
蜘蛛一匹程度ではなにも感じないが、色んな種類の蜘蛛や、成長しきっていない小さな子蜘蛛が大量に這い回っていたため危うく迷宮を攻略するのを諦める所だった。
アレクも大量の蜘蛛を踏み続けるのは嫌だったのか、蜘蛛の群れの中、ぽっかりと空白のある箇所に着地する。すると、そこから青白い光が光る。
「あっ」
二人同時に声を出すとアレクはどこかへ消えてしまった。
────
どうやらわざと光らない転移魔法陣もあるらしい。そして、魔物たちはやはり転移魔法陣の場所を把握している。俺はその事に気づけたのでアレクの死を無駄にせず次に進もう。先に進んでこそアレクの無念を晴らせるのだ。
と、思っていたら前方から声が聞こえてきた。
「蜘蛛のない所踏んだら飛ばされました!たくさん魔物がいましたが、戻ってこれました!」
なんて脳天気なやつだ。
アレクがいるなら虱潰しに転移魔法陣踏んだ方が早いんじゃないか。
けど、ボス戦前までに体力がきれてしまっても意味が無いので最小限の力で行動してもらう。
アレクと合流したのち、俺は仮説の立証をしたかったので、そこら辺にいた1番デカい蜘蛛を使役しようと考えた。
アレクが教えてくれたのだが、この女王蜘蛛のように大きな蜘蛛は朱凶蜘蛛 というらしい。B級の魔物らしいが、ベヒーモスさえ使役出来た俺の敵ではない。俺はさっさと朱凶蜘蛛を捕まえた。
「次の階層に続く魔法陣に案内しろ」
命令をすると朱凶蜘蛛は案内を開始した。
道中、大部屋みたいな所に何度か出て、その大部屋には朱凶蜘蛛がひしめいていた。
迷宮内は密室で、崩落の危険性もあるため、火と水魔術は使えない。
(となると氷か風か?)
とりあえず今回は上級水魔術『氷槍吹雪』《ブリザードストーム》を使った。
氷の槍を大量に降らせる魔術だ。
槍を使役している朱凶蜘蛛に当たらないように調整しながら他の朱凶蜘蛛を殲滅した。
「僕も負けられません!!」
自分も活躍したいのか目立ちたいのか、アレクは案内している朱凶蜘蛛よりも先行して魔物を倒しに行った。
わんぱくアレクは置いといて、朱凶蜘蛛はどうなのかというと道中にある魔法陣には目もくれず、ただ真っ直ぐ進むのみだ。
いくつかの大部屋を越えて最後の部屋に着いた。これ以上先に通路が続いていないためここが第一階層の終点なのだろう。蜘蛛の巣だらけで二つの魔法陣が並んでいる。道中の魔法陣とは違い、少しだけ青色の強い、ややでかい魔法陣だ。
似たような魔法陣なのでどちらが正しいかは全く分からない。
だが、朱凶蜘蛛は片方の転移魔法陣の前から動かなくなった。
きっとこれが正解なのだろう。そう思って俺たちは示されている魔法陣の上に乗った。
─────
空気が変わった。
いきなり大勢の魔物が襲ってくる訳でもないので、きっと次の階層に来れたのだろう。
つまり、俺の仮説は正しかったということだ。
ただ、第一階層の魔物がそれ以下の階層の魔法陣を知っているかは分からないので、階層毎に魔物を捕まえるようにする。
第二階層。
床にいた小蜘蛛や蜘蛛の巣はほとんどなくなり、土の地面がさらされている。
魔物は朱凶蜘蛛に加えて芋虫のような魔物が追加された。
名前は『アイアンクロウラー』というらしい。これもアレクが教えてくれた。
とても硬くて太くて素早いので捕まえるのに一苦労した。第一階層と同じ朱凶蜘蛛を捕まえても良かったが、せっかくなら新種を捕まえたいのが調査隊の欲だ。いつかは魔物図鑑でも作るか。
俺は第一階層と同じく、捕まえたアイアンクロウラーに次の階層へと続く道を案内させた。
「ロイ君のそれ、まるでラプラスですね。」
アイアンクロウラーの道案内の後ろを二人でついて行った時のことである。
「ラプラスって魔神ラプラスですか?」
「えぇ、第二次人魔大戦の際に魔族側の総大将として活躍した人です。魔大陸では、彼は英雄扱いされてるんですよ。しかも彼は赤竜などを操って戦っていたと聞いています。その逸話がロイ君に合っていてね。」
ラプラスといえば、ヒトガミの所へ行く最後の鍵を握る人物だ。しかもオルステッド並の力がないと倒せない相手でもある。
それにしてもラプラスも使役魔法を使っていたのか…いや、断定は出来ないだろう。使役魔術の欠点は一度捕まえた魔物を出してしまうと戻すのにはもう一回初めから使役魔法を使わなければならなく、かかる魔力が多くなる、ということだ。
魔力総量が多いといっても、その量は有限なのだ。
だが、捕まえた魔物がずっと球の中にいるなら、それはもうコレクションでしかないのだ。使わないのに持っていても勿体ない。
ラプラスが使っていたかもしれない使役魔法があるなら知りたいものだ。なんだったら魔物と暮らす国なんてものを作っても面白いかもしれない。
アレクと雑談しつつ出てきた魔物をアレクがほとんど全部倒していき、アイアンクロウラーがある魔法陣の前で止まった所で第二階層の案内が終了した。
─────
第三階層はこれまでに比べ、魔物の数が増えた。
さらに、A級の魔物であるマッドスカルも出てきた。
外見は首のない泥の巨人である。
大きさは2メートル半といった所か。
横幅が大きく、ガッチリとして見える。
胸のあたりにドクロが埋め込まれており、そこが弱点となる。
ちなみにこの情報もアレクペディアによるものだ。
さらに、驚くべきことにマッドスカルは知能の低い魔物を従える事が出来るのだ。俺と同じ使役魔法だ。
よく観察したいものだが、数も数だったので今までの余裕はなく、俺はさっさと目の前にいた一匹の魔物を捕まえ、他はアレクと共に殲滅して行った。
迷宮をクリアしたら実験でもしよう。
「どっちが倒す数が多いか競いましょう!」
ただ敵を倒すのに飽きたのか、俺にそんな提案してきた。
俺も中弛みしてたのでここで気を引き締めるためにも二つ返事だった。
勝負はアレクの一振りで大体決まったのだが、アレク自身の力ではなく、剣の力なので実質ノーカンということで。
決して負けず嫌いではない。
これからの戦闘で魔術だけでなく剣術を使って魔物に勝つためにも俺はアレクに北神流を教えてくれと懇願した。
最初は嫌がっていた。
何故かと聞くと、北神となった時、師事したものが二十人以上いたが、ほんの数年で別の道を進んでいったらしい。
最終的には渋々教えてくれた。
─────
第四階層まで来た。
周辺が一気に様変わりしたので一目で次の階層に来たのに気づいた。
ここまでで大体3ヶ月ぐらいたったか。
この迷宮とラパンの距離が近いので、食糧調達も兼ねて何回か迷宮を出てラパンに戻った。後はどのくらい迷宮に潜っていたかの時間管理のためでもある。
アレクは1ヶ月以上迷宮内で北神流を教えてくれていまや俺は北神流中級にもなった。
「敵が来ます。気をつけて」
アレクの言葉で俺の意識を前に向けると、四本腕のそれぞれに剣を持ち、鎧を着た魔物がいる。
「アーマードウォリアーです。水神流の技を使うので魔術は跳ね返されます。ここは僕が。」
アレクが前に出ると向こうも敵だと認識したのか二体が同時に襲いかかってくる。
だが、アレクは剣を構えたまま一歩も動かない。
いくら不死身でもあの斬撃を食らえば深手になるだろう。俺は念の為いつでも魔術を放てる体制にした。
アーマードウォリアーの合計八本の剣がアレクを斬ろうとした時、アレクはこの世の法則を無視して天井に着地しアーマードウォリアーへ一閃。
アーマードウォリアーはアレクの攻撃を防ごうとしたがもう遅い。真っ二つになり、バラバラになって崩れ落ちた。
「あれが重力魔法か」
「どうです?すごいでしょう。」
正確に言えば、剣の力によるものだが、実際に見てみると出来る心地がしない。ルーデウスはあれを自力で完成させたと思うと前世でも賢い部類に入るのではないか?いじめがなければそこそこの大学にも行っていたのだろう。
アーマードウォリアーは使役魔法も跳ね返されるのでマッドスカルを捕まえて次の階層へ案内させた。
─────
第五階層からは、マッドスカル、アーマードウォリアーに加え、イートデビルが出現する。
イートデビルは、でかい口と鋭い牙を持った悪魔だ。
長い手足と、天井に張り付くような鋭い爪を持っている。
見るからに魔物っていう感じだ。
天井や壁を移動してくるためアレクとの連携が取れないが、その分動けるので各々で魔物を倒していった。
一度アーマードウォリアーに使役魔法を使ってみたが跳ね返された。やはり魔術全般と剣術は跳ね返されるのだろう。
イートデビルの一体を早々に捕まえて、案内をお願いし、いよいよ第六階層まで来た。